見直される食養生の知恵

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見直される食養生の知恵
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鹿島労災病院副院長/和漢診療センター伊藤隆
東 日 本 大 暖 災 以 来 、 食 に 関 す る 関 心 が 鳥 ま っ て い ま す。
課にし、入院患者にも勧めていました。尖行できた患者
束 洋 医 学 に は 食 事 に 関 す る 独 自 の 考 え 方 が あ り ま す。
さ ん の 多 く の 雛 病 が 改 善 し て い く の を 見 聞 し ま し た。
昭和期の高度経済成長時にはカロリー全盛、肉食礼賛の
先 生 が 年 々 厳 し く し て い か れ た の は 玄 米 の 量 で す。 晩
風 潮 に 対 す る 反 論 と して 盛 んで し た 。 内 容 は 人 に よ って
年は1日1川の食事で3∼4口の廿まで減らされまし
異 な り ま す が 、 共 通 し て い る と こ ろ は 少 な く あ り ま せ ん。
た 。 い く ら な ん で も や り す ぎ で は な い か と 思 い ま し た。
当時の医師からは非常識と軽蔑されましたが、平成の今
に な っ て 、 彼 ら の 正 し さ か 一 部 証 明 さ れ て き ま し た。
ところが3()年後の今、穀物を全く摂取しない食事療法
が 登 場 し ま し た 。 江 部 康 二 先 生 は 、 糖 尿 病 忠 者 に 対 して
糖質制限食によりインスリンや経口薬を減らせると述べ
1し食事の量を少なくする
日本人の食習慣が1[13食になったのは、江戸時代の
元 禄 以 降 と 言 わ れ て い ま す。 フ ラ ン シ ス コ ザ ビ エ ル が 来
ています。食後高血糖とそれに続く高インシュリンlflL症
が、動脈硬化など体に多くの悪影響を与えることが近年
刊 明 し ま し た 。 特 に 殼 物 は 、 他 の 食 物 に 比 較 して カ ロ リ ー
l j  ̄ 1 い た め に 、 消 化 吸 収 さ せる た め に 体 が 無 理 を して い
口 し た 1 6 世 紀 頃 の 日 本 人 は 1 日 2 食 で 、 皆 や せ て い る が、
る、であれば糖尿病忠者には穀物を控えればよいという
よ く 働 き 、 元 気 で あ る と の 記 述 が あ る そ う で す。
論 理 な の で す。
1日3食の人が急に1食抜くと、空腹で低血糖になり
ま す。 た く さ ん 食 べ た 後 ほ ど 、 空 腹 感 が よ け い 強 く な る
み な さ ん は 穀 物 を と ら な い 食 生 活 に 耐 え ら れ るで し ょ
う か。
も の で す。 で も 少 な く 食 べ る こ と に 慣 れ る と 、 空 直 感 は
減 っ て き ま す。 1 日 2 食 に 慣 れ る と 、 胃 腸 の 休 む 時 川 が
増 え る の で 、 胃 腸 の 働 き が 良 く な り ま す。 回 腸 の 調 子 の
3スi主食を玄米にする
優 れ な い 人 は 、 薬 な ど に 頼 ら ず、 1 食 休 ん で み て く だ さ
何故、白米でなくて玄米なのか。「両者は分析表では
い 。 そ れ だ け で 結 構 良 く な り ま す。 実 は 、 杵 さ ん が 調 子
同 じ カ ロ リ ー で あ る が 、 白 米 は ビタ ミ ン と ミ ネ ラル を 捨
の 悪 い と き に 無 意 識 に 行 っ て い る こ と で も あ り ま す。 [ 胃
て 去 って い る の で、 完 全 燃 焼 で き ず、 玄 米 の 1 / 2 0 の カ ロ
腸 の 具 合 が 悪 く て 食 べ ら れ な い ん だ よ ] と ネ ガ ディ ブ に
リーしか発揮できない。だから自米は沢山食べないとカ
な ら ず、 「 胃 腸 の 具 合 が 悪 い の で 1 食 抜 い て い る ん だ よ 」
ロリーを維持できないのだ」と小介先生はかつて説明さ
と ポ ジ テ ィ ブ な 心 持 ち で I 食 抜 い て み て く だ さ い。
れ ま し た。
雌 礎 研 究 で 2 0 ∼ 3 0 % 食 事 を 減 ら し た 老 化 マ ウ ス が、
筆 者 の 体 験 か ら し て も 、 玄 米 は 腹 も ち が い い で す。 少
食 事 を 減 ら さ な い 群 に 比 較 して よ り 1 . 4 倍 長 生 き を し た
なく食べても結構腹が満ちてくるので自然と摂取量は少
と報告されました。この研究綸米は、衝撃的であり、現
な く な り ま す。 白 米 と 同 じ 感 覚 で 食 べ る と 食 べ 過 ぎ に な
代 医 学 に 対 し て 発 想 の 転 換 を 促 し ま し た。
る こ と は や っ て み れ は わ か り ま す。 玄 米 の 利 点 の 一 つ は
食 事 を 減 ら す こ と の 効 用 は 身 体 だ け で は あ り ま せ ん。
摂 収 址 が 少 な く て す む こ と で す。
心 療 内 科 で は 桁 神 に 対 す る 治 療 と して 断 食 を 入 院 して 行
圧力釜で焚いた玄米は、白米よりも遥かに美味しいも
う こ と が あ り ま す。 断 食 を 行 い ま す と 、 頭 が 冴 え 、 自 律
の で す。 玄 米 は 一 口 百 回 噛 み ま す が 、 噛 み 始 め の 最 初 に
神 経 が 落 ち 着 き ま す。 ど ん な 病 気 に も よ い わ け で は あ り
は な か っ た | 味 が 二 三 十 回 噛 む と 出 て き ま す。 よ く 噛 み 味
ませんが、心に及ぼす食小の効米には絶大なものがあり
わ う こ と ( 川 | 冊 玩 味 ) は 脳 や 全 身 へ の 好 影 響 が あ り ま す。
ま す。
認知症の予防にもなl)、精神的にも落ち着くことができ
ま す 。 欠 点 は 炊 く の が 面 倒 で 外 食 が 困 難 な 点 で す。
2万穀物を少なくする
私の漢方の師匠である小倉重成先生(1915­1989)は
玄 米 巣 食 1 H 1 食 で、 さ ら に 、 マ ラ ソ ン 1 日 1 0 k m を 日
2
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[建設の安全]2011.12
4食事の陰陽
栄養学には冷やす、温めるという東洋医学的な発想は
あ り ま せ ん。
蛋白食が標準になりました。ところが30年前の西洋医学
漢方薬は天然物ですが、生姜などの食材からトリカブ
は 、 尿 か ら 蛋 白 が 失 わ れ る た め 高 蛋 白 食 を 推 奨 して い ま
トなどの毒物まで様々なものがあります。古人は、その
した。つまり、真逆に、いわばより東洋医学的に変わっ
作用を陰(冷やす)か、陽(温める)かで整理しました。
た わ け で す。 た だ し 、 全 体 の カ ロ リ ー を 減 ら す と 痩 せ て
当然ですが、冷たい物(陰)は冷やし、温かい物(陽)
し ま う の で、 カ ロ リ ー あ る ゼ リ ー ・ 飲 料 な ど で 補 う 点 で
は 温 め ま す。
は 異 な っ て い ま す。
肉魚などの動物は陽で、植物は陰です。野菜は陰です
が、温めて食べることで調和がとれます。生で食べてよ
いのは夏などの暑い時期に限られます。冬に生野菜、果
物は体を冷やすので良くありません。
冷え症に動物食(陽)はよいかというと、動物は瘍血
(おけつ、血液がスムースに流れない漢方医学的病態)
を作って循環を悪くします。肉は少ない方がよいのです。
乳製品は動物性なので温めるかと思えば、赤ん坊(本
来熱が主)のためにあるので、陰に属します。骨訴訟症
( 盲 ` う サ プ リ メ ン ト 、 代 替 医 療 と の 違 い
こ/‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ごま油を多用する食養派があります。ごま油をご飯に
もみそ汁にもおかずにも全てに入れるのです。まるでサ
ブリメントのようです。
東洋医学では患者の個人差(陰陽)に応じた対応を重
・視しています。誰にでも一律によいものなんてありえま
せ ん。
の高齢者には通常乳製品の摂取が勧められますが、東洋
医学的には冷えが悪化する可能性があります。しかし実
際 に は 個 人 差 は か な り あ り ま す。
① 「一物全体食」の真意
食事の陰陽について、細かなところで食養家の意見が
生き物を食べるときは、一つの物を全部摂取しなけれ
分かれていますが、筆者は臨床医としての経験で正否を
ば い け な い と い う 考 え を 「 一 物 全 体 食 」 と 言 い ま す。 皮
判 断 す る こ と に して い ま す。
だ け 、 肉 だ け 食 べ る の は い け な い こ と な の で す。 大 根 は
不思識なことに、人間は自分の体を悪くする食事を好
根だけでなく葉も食べる。小魚は骨ごと食べる。この考
む 傾 向 が あ る よ う で す。 冷 え 症 の 人 は 体 を 冷 や す 食 事、
え は 、 食 材 を 大 事 に して、 無 用 な 殺 生 を し な い 、 世 界 平
すなわち果物・生野菜を好みますし、肥満症、高脂血症
和 に つ な が る と い う 意 味 で 意 義 が あ る と 思 わ れ ま す。
の人は肉や高カロリーの食事が好きです。そして陰陽の
バランスが崩れたときに病気になるのです。
80歳代の男性が頻尿を主訴に来られました。7年前に
「 葉 は 陰 で、 根 は 陽 な の で、 冷 えや す い 陰 の タ イ プ は
根を食べ、暑がりの陽のタイプは葉をたべなさい」とは
食 養 家 桜 沢 如 一 氏 の 説 で す が 、 い か が な も の で し ょ う。
前立腺手術してから徐々に尿漏れが多くなり1日中パッ
トをあてていました。漢方薬を種々試みましたが効きま
せん。冷やす食事について説明しますと果物が大好きと
のこと。1日にみかん10個を1個に、いちご12∼13個
④ 郎謝|
食養生でもっとも大切なのはこの心でしょう。人間が
を止めたところ、おむつのパットの使用が減じてきて、
この世に生かされている存在であることを、大地、自然
夜間は尿意がわかるようになり、漏らすこともなくなり
とそれを造られた神様に感謝してお食事を頂きましょう。
ました。でもご本人は果物だけが楽しみなのにと未練
た っ ぷ り で し た。
●プロフィール
④
も∼J●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
肉
魚
は
最
小
限
に
肉魚の摂取が少ないといろいろ心配になりますが、問
題は意外とないものです。菜食主義者に多い病は鉄欠乏
性貧血です。これは鉄剤にて簡単に治ります。低蛋白血
症は不思議に出会いません。大豆蛋白で補っているから
でしょうか。ただし、動物性の油脂は血管の脆弱性を補
う意味で必要とされていますので、高齢者には少量は勧
め た い と 筆 者 は 考 えて い ま す。
最近、慢性腎機能障害患者に対する食事治療として低
伊藤隆(いとう・たかし)
1955年8月東京生まれ
1981年3月千葉大学医学部卒業
1999年4月富山医科薬科大学和漢薬研究所
漢方診断学部門客員教授
2001年4月鹿島労災病院メンタルヘルス・
和漢診療センター長
2009年6月同副院長
現在に至る
和漢医薬学会評議員ご
日本東洋医学会厨集担当理事・指導医
専門は呼吸器内科
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