物理統計学 (佐藤担当分)(5 回目) 1 1.1 Fokker–Planck 方程式 背景 気体のモデルとして 19 世紀の終り頃から分子運動論が支持されるようになった. このモデルでは気体とは小さな球の玉から作られていると考え, それぞれの玉の 速度 (u1 , u2 , u3 ) はランダムであり位置 (x1 , x2 , x3 ) もランダムに配置されている とする. 時刻を t とするとひとつの玉の運動は dx1 dt = u1 dx2 = u (1) 2 dt dx3 = u 3 dt となる. 「この速度の定常分布はどのようになっているか?」という問題の答え が Maxwell-Boltzmann 分布 h i p(u1 , u2 , u3 ) = C exp −A(u21 + u22 + u23 ) , Z ∞ Z ∞ nZ ∞ h io−1 C = du1 du2 du3 exp −A(u21 + u22 + u23 ) −∞ −∞ −∞ (2) として知られている理想気体の速度分布である Maxwell(1860). この理想的な気体モデルをもとにして, ランダムな過程に対する研究がはじ まった. 例えば Pearson(1905) では以下のような問題が議論されている. \A man starts from a point 0 and walks l yards in a straight line; he then turns through any angle whatever and walks l another l yards in a second straight line. he repeats this process n times. I require the probability that after these n stretches he is at a distance between r and r + dr from his starting point 0." この問題は本質的にはランダムウォークの問題である. Rayleigh(1891) はランダ ムウォークモデルを理想気体の問題に用いることにより, 偏微分方程式を導出し ている. この偏微分方程式はいまで言う Fokker{Planck 方程式と呼ばれるもので ある. また, Bachelier(1900) はフランスの証券価格の数学的モデルを作るために 簡単な場合の Fokker{Planck 方程式を導出している. Einstein(1905) は Maxwell{Boltzmann 理論を扱いブラウン運動の論文でラン ダムウォークの方法を用いている. Einstein の結果は水溶液中のランダムな運動 における変位 xi = x(ti+1 ) − x(ti ) ( t = ti+1 − ti ) の分散は N 1 X (xi )2 ∝ N i=1 1 t (3) に従うというものである. この式は Wiener 過程により理解できる. Langevin(1908) はブラウン運動のモデルとして質量 m の粒子が流体の摩擦に よる抵抗力と流体分子からのインパルス的なランダム力 ξ(t) を受けて運動する問 題を考え d2 x1 dx1 m 2 = −k + ξ(t) (4) dt dt を提案している. その後, Fokker(1913, 1914, 1918) と Planck(1915, 1917) は Langevin 方程式から Fokker{Planck 方程式と現代的に呼ばれる確率密度関数に 対する偏微分方程式を導出した. Kolmogorov(1931) は Fokker{Planck 方程式を 一般化し非 Markov 的な場合の偏微分方程式 (Kolmogorov’s rst equation) の特 殊な場合 (Markov 的な場合) に Fokker{Planck 方程式が導出できることを示した (Kolmogorov’s second equation). 1.2 Wiener 過程の Fokker–Planck 方程式 Chapman-Kolmogorov 方程式を用いて Wiener 過程の Fokker{Planck 方程式を導 出してみよう. 遷移確率密度(transition probability density) についておさらいし ておく. 遷移確率密度 p(x, t|y, s) を条件付累積分布を用いて Z b Pr[a ≤ X(t) ≤ b|X(s) = y] = p(x, t|y, s)dx (5) a により定義する. ここで, 条件付き確率は Pr[x|y] = Pr[x, y] Pr[y] で定義される. x(t) を 1 変量確率過程とし, 以下の Wiener 過程を考える. dx = ξ(t), dt hξ(t)i = 0, hξ(t1 )ξ(t2 )i = bδ(t1 − t2 ) 形式解は Z (6) t x(t) = x(0) + ξ(θ)dθ 0 で与えられる. ξ(t) は白色ノイズ (white noise) であるので, Z t ξ(θ)dθ = XZ 0 i τi+1 ξ(θ)dθ = τi X i (7) i と書ける. ここで i は独立同一の正規分布に従うランダム変数である. ChapmanKolmogorov 方程式で x1 と t1 を初期条件とみなすことでこれらを書かないでお くと, Z ∞ p(x3 , t3 ) = −∞ p(x3 , t3 |x2 , t2 )p(x2 , t2 )dx2 2 (8) となる. t2 = t, t3 = t + δt とおくと, Z ∞ p(x3 , t + δt) = p(x3 , t + δt|x2 , t)p(x2 , t)dx2 (9) −∞ となる. 更に, z = x3 − x2 とおき, 確率密度関数の変数変換則を用いると, p(x3 , t + δt|x2 , t)dx3 = q(z, δt|x2 , t)dz, (10) に対して, dx3 = dz より, p(x3 , t + δt|x2 , t) = q(z, δt|x2 , t) であることがわかる. よって, p(x3 , t + δt) = Z ∞ q(z, δt|x2 , t)p(x3 − z, t)dz −∞ となる. 添字 3 をおとすと, Z ∞ p(x, t + δt) = −∞ q(z, δt)p(x − z, t)dz (11) (12) (13) となる. ここで q と p はひとつのものとして扱う必要があるので, r(x − z, δt, x2 , t) = q(z, δt|x2 , t)p(x − z, t) (14) を導入する. 微小な時間間隔 δt の間に起こる変化 z は微小なので, r(x−z, δt, x2 , t) を第一変数について x まわりに z に対して Taylor 展開する. ∂r(x, t) z 2 ∂ 2 r(x, t) + − ··· ∂x 2! ∂x2 同様に, p(x, t + δt) を t のまわりに δt に対して Tayloar 展開する. r(x − z, t) = r(x, t) − z (15) ∂p(x, t) (δt)2 ∂ 2 p(x, t) + + ··· (16) ∂t 2! ∂t2 r = pq の関係を用いてもとに戻す. Z ∞ Z ∞ i ∂ h p(x, t) q(z, δt)dz − p(x, t) zq(z, δt)dz ∂x −∞ −∞ Z ∞ Z ∞ i 1 ∂3 h i 1 ∂2 h 2 3 p(x, t) z q(z, δt)dz − p(x, t) z q(z, δt)dz + ··· 2! ∂x2 3! ∂x3 −∞ −∞ Z Z i 1 ∂2 h i ∂ h 1 ∞ 1 ∞ 2 − p(x, t) zq(z, δt)dz + p(x, t) z q(z, δt)dz ∂x δt −∞ 2! ∂x2 δt −∞ Z ∞ i 3 h 1 1 ∂ p(x, t) z 3 q(z, δt)dz + · · · (17) 3! ∂x3 δt −∞ p(x, t + δt) = p(x, t) + δt (13) 式に両辺を代入し, p(x, t) + δt ∂p(x, t) ∂t = + ∂p(x, t) ∂t = − ここで, δt → 0 の極限において (17) 式がどのようになるかを考える. Z 1 ∞ n an = lim z q(z, δt)dz δt→0 δt −∞ とおく. これをジャンプモーメント (jump moment) と呼ぶ. 3 (18) • n=1 a1 = = 1 δt→0 δt lim δt→0 • n=2 a2 = 1 δt→0 δt lim Z lim Z 1 δt ∞ ∞ zq(z, δt)dz −∞ Z t+δt hξ(θ)idθ = 0. t z 2 q(z, δt)dz −∞ Z t+δt Z t+δt 1 hξ(θ1 )ξ(θ2 )idθ1 dθ2 = lim δt→0 δt t t 1 = lim bδt = b. δt→0 δt • n≥3 an = 0 とみなす. よって, (17) 式は ∂p(x, t) b ∂ 2 p(x, t) = (19) ∂t 2 ∂x2 となる. (19) 式の偏微分方程式を Fokker–Planck 方程式と呼ぶ. Fokker{Planck 方程式はより一般には, n = 2 までのジャンプモーメントを用 いて, ∂p ∂ 1 ∂2 a1 p + =− a2 p (20) ∂t ∂x 2 ∂x2 と書くことができる. この偏微分方程式の初期条件は p(x, 0) = δ(x − x0 ) である. ここで x0 = x(0) とする. 境界条件としては自然境界条件が一般的である. 自然 境界条件とは無限遠方において確率密度が 0 になめらかに漸近することを表現し た境界条件であり ∂p(x, t) p(±∞, t) = 0, =0 (21) ∂x x=±∞ と表現される. 1.3 Itô の公式を用いた Fokker–Planck 方程式の導出 確率微分方程式 dx = f (x)dt + g(x)dW (22) を考え, h(x) なる変数変換をしたときの It^ o の公式を通じて Fokker{Planck 方程 式を導出してみよう. (22) 式に対する It^ o の公式は dh(x) = ∂h 1 ∂2h ∂h dt + dx + (dx)2 . ∂t ∂x 2 ∂x2 4 (23) ∂h =0 ∂t (dx)2 = dx · dx = f 2 (dt)2 + 2f gdt · dW + g 2 (dW )2 = g 2 dt であるので, 1 ∂2h 2 ∂h (f dt + gdW ) + g dt (24) ∂x 2 ∂x2 となる. 前述の遷移確率密度 p(x, t|x0 , 0) に対する平均を h·i と書き (24) 式に対し て用いると dh(x) = 1 ∂2 2 E g dt ∂x 2 ∂x2 D d ∂h 1 ∂2h 2E hh(x)i = f+ g dt ∂x 2 ∂x2 hdh(x)i = D ∂h f dt + を得る. これを遷移確率密度で書きなおすと Z ∞ Z ∞ ∂h 1 ∂2h 2 h(x)p(x, t|x0 , 0)dx = f+ g p(x, t|x0 , 0)dx 2 ∂x2 −∞ −∞ ∂x (25) (26) となる. この遷移確率密度 p(x, t|x0 , 0) が自然境界条件 (21) 式を満足するならば Z ∞ Z ∞ h i∞ ∂h ∂ f pdx = hf p − h (f p)dx ∂x ∂x −∞ −∞ −∞ Z ∞ ∂ = − h (f p)dx (27) −∞ ∂x Z ∞ Z ∞ 2 h ∂h i∞ ∂h ∂ 2 ∂ h 2 2 g pdx = g p − (g p)dx 2 ∂x ∂x −∞ −∞ ∂x ∂x −∞ Z ∞ h ∂ i∞ ∂2 = − h (g 2 p) + h 2 (g 2 p)dx ∂x −∞ −∞ ∂x Z ∞ 2 ∂ (28) = h 2 (g 2 p)dx −∞ ∂x が成り立つ. よって, Z ∞ ∂ h(x) p(x, t|x0 , 0)dx ∂t −∞ Z ∞ h ∂p ∂ 1 ∂ 2 2 ii + h(x) fp − g p ∂t ∂x 2 ∂x2 −∞ Z h ∂ 1 ∂ 2 2 i h(x) − fp + g p dx ∂x 2 ∂x2 −∞ = = ∞ 0 この等式が任意の h(x) に対して成り立つためには, ∂p ∂ 1 ∂2 2 =− fp + g p ∂t ∂x 2 ∂x2 が成立する必要がある. この式は Fokker{Planck 方程式である. 5 (29) 例. W (t) を増分の平均 h[W (t + dt) − W (t)]i = 0, 分散 h[W (t + dt) − W (t)]2 i = dt であるような Wiener 過程とする. 確率微分方程式 dx = −νxdt + σdW (30) の Fokker{Planck 方程式を求め, 時刻 t → ∞ において x が従う定常確率密度 pst (x) = p(x, ∞) を求めよ. (29) 式より, Fokker{Planck 方程式は i σ2 ∂ 2 p ∂ h −νxp + ∂x 2 ∂x2 ∂ σ2 ∂ 2 p = ν [xp] + ∂x 2 ∂x2 ∂p ∂t ∂p ∂t = − (31) (32) ∂p(x,t) となる. 今定常確率密度を考えているので ∂t = 0 (t → ∞) とおき, 自然境 界条件 dpst pst (±∞) = 0, =0 dx x=±∞ を仮定する. p(x) に t の依存性はなく 1 変数の方程式となっているので, 偏微分 ∂ を常微分 d に置き換えると, ν d [xp] = dx νxp = dp p = ln p = p(x) = σ 2 d2 p 2 dx2 σ 2 dp − 2 dx 2ν − 2 xdx σ ν − 2 x2 + C σ h x2 i N exp − 2 σ /(2ν) − を得る. この導出の途中で, 自然境界条件を用いた. これは平均 0, 分散 σ 2 /(2ν) の正規分布であるので, 規格化定数 N は求まり p(x) = = h i 1 x2 p exp − 2 2σ /(2ν) 2πσ 2 /(2ν) h 2 i x 1 p exp − 2 2 σ /ν πσ /ν (33) となる. ところで, (30) 式から確率的な項を無視した常微分方程式 dx = −νx dt 6 (34) を考えてみる. この常微分方程式のポテンシャル V (x) は Z x ν (−νx0 )dx0 = x2 V (x) = − 2 x0 (35) であり, νx = 0 より x = 0 は安定固定点であることがわかる. よって定常確率密 度 p(x) は安定固定点 x = 0 まわりでピークを持っている. これは常微分方程式に ゆらぎを加えた確率微分方程式では安定固定点周辺での滞在確率が大きくなるこ とを意味している. 1.4 ポテンシャルと定常確率密度関数との関係 一般に W (t) を Wiener 過程とするときの, 確率微分方程式 dx = f (x)dt + σdW (36) の定常確率密度 p(x) はそれに対応する常微分方程式 dx = f (x) dt のポテンシャル Z x V (x) = − f (x0 )dx0 (37) (38) x0 を用いて, h 2 i p(x) = Z −1 exp − 2 V (x) σ となる. ここで, 分配関数 Z は Z ∞ i h 2 Z= exp − 2 V (x) dx σ −∞ (39) (40) により計算できる. このことを示してみよう. (36) 式に対応する Fokker{Planck 方程式は (29) 式より ∂ σ2 ∂ 2 p ∂p = − (f p) + (41) ∂t ∂x 2 ∂x2 ∂p である. 定常確率密度 p(x) を考えているので ∂x = 0 と置き, 偏微分を常微分に 置き換えることにより d σ 2 d2 p (f p) = dx 2 dx2 d を得る. これを自然境界条件 p(±∞) = 0, p x=0 のもとで解くと, dx 2 dp = fp dx σ2 dp 2 = f dx p σ2 Z x 2 f (x0 )dx0 ln p = σ 2 x0 h2 Z x i p(x) = Z −1 exp 2 f (x0 )dx0 σ x0 7 を得る. ところでポテンシャル V (x) は (38) 式で定義されているので, これを用 いると, h 2 i p(x) = Z −1 exp − 2 V (x) (42) σ となり, (39) 式を得る. 1.5 多次元への拡張 一般の場合を取り扱うために N 次元の確率変数 (x1 , x2 , . . . , xN ) に対する確率微 分方程式 dxi = fi (x1 , x2 , . . . , xN , t) + ξi (t) (i = 1, 2, . . . , N ) (43) dt に対する Fokker{Planck 方程式を考える. ここで, ξi (t) は白色ノイズであると する. (43) 式の形式解は Z xi (t)−xi (0) = t Z t fi (x1 (θ), x2 (θ), . . . , xN (θ), θ)dθ+ ξi (θ)dθ 0 (i = 1, 2, . . . , N ) 0 (44) である. 白色ノイズの積分は Z t XZ ξi (θ)dθ = 0 j τj+1 ξi (θ)dθ = τj X ij (45) j という解釈を持つ. ここで増分 ij は j に対して ( i1 , i2 , . . . , iN ) 統計的に独 立であるが, i に対して ( 1j , 2j , . . . , N j ) は必ずしも統計的に独立を仮定しな くてもよい. (44) 式から将来の x(t) の値は, 現在の x(t) の値と増分 ij にのみ依存するの で, x(t) はマルコフ性を有することがわかる. それゆえ, Chapman{Kolmogorov 方程式を適用し, Z ∞ Z ∞ p(x, t + δt) = (46) dx01 · · · dx0N p(x, t + δt|x0 , t)p(x0 , t) −∞ −∞ を x(t) = (x1 (t), . . . , xN (t)) に対して得る. 時間区間 δt の間に起る変化を z = x − x0 (47) と置く. そのとき 1 次元の場合と同様に, p(x, t + δt|x0 , t) = q(z, δt|x0 , t) (48) と書かれる. ここで, q(z, δt|x0 , t) は遷移確率密度である. (46) 式, (47) 式, (48) 式 から Z ∞ Z ∞ p(x, t + δt) = dz1 · · · dzN q(z, δt|x − z, t)p(x − z, t) (49) −∞ −∞ が得られる. これは,(13) 式の N 変量への一般化である. 8 1 次元の場合同様に δt はとても小さいのでその間に起る変化 z も小さいと仮 定し, p(x − z, t) の 1 番目の変数と q(z, δt|x0 , t) の 3 番目の変数について z = 0 周 りでの Taylor 展開を行い 2 項までの近似をおこなう. これを行うために qp = r(x1 − z1 , x2 − z2 , . . . , xN − zN ) (50) を導入する. この r の z に対する x まわりの Taylor 展開は r(x1 − z1 , x2 − z2 , . . . , xN − zN ) ∂ ∂ = r(x1 , . . . , xN ) − z1 + · · · + zN r(x1 , . . . , xN ) ∂x1 ∂xN 2 1 ∂ ∂ + z1 + · · · + zN r(x1 , . . . , xN ) r(x1 , . . . , xN ) − · · · 2! ∂x1 ∂xN N N N X 1 XX ∂ ∂2 = r(x1 , . . . , xN ) − zi r(x1 , . . . , xN ) + zi zj r(x1 , . . . , xN ) ∂xi 2! i=1 j=1 ∂xi ∂xj i=1 1 XXX ∂3 r(x1 , . . . , xN ) + · · · . zi zj zk 3! i=1 j=1 ∂xi ∂xj ∂xk N − N N (51) k=1 である. (51) 式を (46) 式に代入することにより Z ∞ Z ∞ p(x, t + δt) = dx1 · · · dxN r(x1 , · · · , xN ) −∞ − N Z X i=1 + − 1 2! −∞ ∞ −∞ Z dx1 · · · N X N Z ∞ X i=1 j=1 −∞ ∞ −∞ dxN zi Z dx1 · · · ∂r(x1 , . . . , xN ) ∂xi ∞ −∞ dxN zi zj ∂ 2 r(x1 , . . . , xN ) ∂xi ∂xj ···. (52) となる. もとに戻すために r = qp を用いると r(x1 , . . . , xN ) = r(x, t, z, δt) = q(z, δt|x, t)p(x, t) (53) であるので, δt を微少量として t = 0 周りに Taylor 展開し, (53) 式を (52) 式に代 入することにより ∂ p(x1 , . . . , xN , t) + δt p(x1 , . . . , xN , t) + · · · ∂t Z ∞ Z ∞ = dz1 · · · dzN q(z1 , . . . , zN , δt|x1 , . . . , xN , t)p(x1 , . . . , xN , t) −∞ −∞ Z Z ∞ N i X ∂ h ∞ − dz1 · · · dzN zi q(z1 , . . . , zN , δt|x1 , . . . , xN , t)p(x1 , . . . , xN , t) ∂xi −∞ −∞ i=1 Z Z ∞ N N i 1 X X ∂2 h ∞ dz1 · · · dzN zi zj q(z1 , . . . , zN , δt|x1 , . . . , xN , t)p(x1 , . . . , xN , t) + 2! i=1 j=1 ∂xi ∂xj −∞ −∞ − ··· (54) 9 を得る. (54) 式の右辺第 1 項の積分は確率密度の積分であるので 1 となる. 第 2 項は q の 1 次のモーメントであり, 第 3 項は q の 2 次のモーメントを意味する. z は微小であると仮定しているので, 3 次以降の q のモーメントを無視する. 両辺を δt で割り δt → 0 とすることにより Z Z ∞ 1 ∞ ai = lim dz1 · · · dzN zi q(z1 , . . . , zN , δt|x1 , . . . , xN , t) (55) δt→0 δt −∞ −∞ Z ∞ Z ∞ 1 bij = lim dz1 · · · dzN zi zj q(z1 , . . . , zN , δt|x1 , . . . , xN , t) (56) δt→0 δt −∞ −∞ と置くことができ (これらは N 変量におけるジャンプモーメントである), N N X N i 1X i X ∂ ∂ h ∂2 h p(x1 , . . . , xN , t) = − ai p(x1 , . . . , xN , t) + bij p(x1 , . . . , xN , t) ∂t ∂xi 2 i=1 j=1 ∂xi ∂xj i=1 (57) となる. これは N 変量の Fokker{Planck 方程式である. 1.6 3 次元空間中のブラウン運動 3 次元空間中におけるブラウン運動を考える. 小さな粒子には空間一様な抵抗力 −γui と白色ノイズで表わすことができるランダムな力 ξi (t) (i = 1, 2, 3) が作用 しているとしてモデル化する. 速度に対する運動方程式は du1 dt = −γu1 + ξ1 (t) du2 = −γu + ξ (t) (58) 2 2 dt du3 = −γu + ξ (t) 3 3 dt と書くことができる. ここで, ξi (t) は hξi (t)i = 0, hξi (t1 )ξj (t2 )i = Dδ(t1 − t2 )δij (59) (D > 0) である. この確率微分方程式に対応する Fokker{Planck 方程式を (55) 式, (56) 式, (57) 式の方法により求めてみよう. (58) 式の形式解は Z xi (t + δt) − xi (t) = − Z t+δt t+δt γui (θ) + t ξi (θ)dθ (i = 1, 2, 3) となる. よって, ξi (t) に対応する Wiener 過程の δt にわたる増分を zi (t) = −γui (t)δt + となる. h ij i (60) t (i = 1, 2, 3) ij ij とすると (61) = 0 なので, (55) 式より, ai = lim δt→0 1 −γui (t)δt + h δt 10 ij i = −γui (t) (62) を得る. (61) 式より, zi zj = γ 2 ui uj (δt)2 − γui なので, h bij = ik i = 0, h ik jl i ik δt − γuj jl δt + ik jl 1 h δt ik (63) = δt を考慮すると, (56) 式より, 1 2 γ ui uj (δt)2 − γui h δt→0 δt lim ik iδt − γuj h jl iδt + jl i = Dδij を得る. よって, (58) 式に対応する Fokker{Planck 方程式は 3 3 X ∂ D X ∂2 ∂p(u1 , u2 , u3 , t) =γ [ui p(u1 , u2 , u3 , t)] + p(u1 , u2 , u3 , t) (64) ∂t ∂ui 2 i=1 ∂u2i i=1 となる. 今定常確率密度を考えているので −γ ∂p ∂t = 0 と置くと, 3 3 X ∂ D X ∂2 pst (u1 , u2 , u3 ) [ui pst (u1 , u2 , u3 )] = ∂ui 2 i=1 ∂u2i i=1 (65) が定常分布 pst が満す方程式である. これを自然境界条件のもとで解くことを考 える. F = (−γu1 , −γu2 , −γu3 ) はポテンシャルの存在条件 ∂Fi ∂Fj = ∂uj ∂ui を満足しているので, ポテンシャル (66) (u1 , u2 , u3 ) が存在しており定常密度は p(u1 , u2 , u3 ) = N exp[− (u1 , u2 , u3 )] (67) で与えられる. (67) 式より, ∂p ∂ = − p ∂ui ∂ui h ∂2 ∂ 2 i ∂2p = − − p ∂u2i ∂u2i ∂ui h ∂ ∂ i ui p = 1 − ui p ∂ui ∂ui (68) (69) (70) であるので, これらの式を (65) 式に代入することにより, γ 3 h 3 ∂ 2 i X ∂ i D Xh ∂ 2 1 − ui = − 2 ∂ui 2 i=1 ∂ui ∂ui i=1 を得る. (u1 , u2 , u3 ) = γ 2 (u + u22 + u23 ) D 1 11 (71) (72) はこれを満足する. よって, 定常密度関数 pst (u1 , u2 , u3 ) は h i γ exp − D (u21 + u22 + u23 ) h i p(u1 , u2 , u3 ) = R ∞ R∞ R∞ γ du1 −∞ du2 −∞ du3 exp − D (u21 + u22 + u23 ) −∞ h γ i 1 2 2 2 = exp − (u + u + u ) (73) 1 2 3 D (πD/γ)3/2 となる. 練習問題 W (t) を増分の平均 h[W (t + dt) − W (t)]i = 0, 分散 h[W (t + dt) − W (t)]2 i = dt であるような Wiener 過程とする. 確率微分方程式 dx = −(kx + k1 x3 )dt + σdW (74) の Fokker{Planck 方程式を求め, 時刻 t → ∞ において x が従う定常確率密度 pst (x) = p(x, ∞) を求めよ. ここで, k1 > 0 とし, k の値を変化させたときにどの ようなことが起るかを論じよ. 12
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