H27.4.14 第185回 葛飾高砂会:加藤内科クリニック(葛飾)患者会 編集担当 斎藤杏子 加藤光敏院長・加藤則子管理栄養士 校正 平成 27 年 4 月 14 日(火)午後 12 時 30 分から同 14 時 30 分まで、クリニック地下 1 階集会室に て、4 月の定例患者会が多数参加のもとに開かれました。 ~糖尿病とがん~ 1.はじめに 加藤光敏院長 日本人は男女とも世界一の長寿国です。長生きすればがんの出てくる可能性もそれだけ高くなり ます。一生に男性は半分強、女性は半分弱の方にがんが出てきます。 保険診療は基本の考えは、「症状や検査でがんが疑わしい」という場合は、保険診療ができま すが、念のためあれもこれも検査というのは保険診療では禁止されています。高齢社会で医療費が 切迫している今の時代は「医療費抑制のため最低限の検査で診療を!」と医師が指導されている時 代。念のためのがん検査は自費で行わなければなりません。日本中で通院患者さんにがんがあるか も念のためと、過剰な検査を行っていたら「国民皆保険は早期に破綻」してしまいます。がんは高 齢社会において良くある普通の病気です。しかし進行するまで症状が出ないことも良くあることで す。区の広報等でも、胃バリウム検査・胸部レントゲン・便鮮血による大腸癌検診・乳癌子宮癌検診 等無料や補助のもと、検査を受けようと思えば受けられる物がいくつもあります。きちんと自己責 任で癌の早期発見に努めるましょう。 いろいろな病院・診療所で「進行したがんが見つかった、通院していたのに」ということがよく あるようですが、病気で通院していれば全てが安心という錯覚は危険です。どこかの医療機関に通 院していればがんが出ないわけでも、出れば症状が無くても見つかるわけでもありません。さあ自 分で早期発見に努めましょう!無料や補助の出る公費検査を利用したり、無駄な出費を省いて人間 ドックなどがん検診にこそお金をかけましょう。早期に見つかれば怖い病気ではありません! さて本日は糖尿病だとがんが増えるのか、何か予防する手立てはあるのかないのかについて、今 日は勉強していきましょう。 最初に、当院のがんの実態を結構苦労して加藤管理栄養士が調べたので、発表します。 2.当院のがんの実態調査の報告 加藤則子管理栄養士 1.こちらは先月の当院患者さん全員の HbA1c の平均値です。平均が 7.10%で実はいつもより高 いのは、お一人 17.3%と非常に高い方が治療を開始されたので、高かくなっています。まずこの 表に、がんも併せて持っている人を記しつけると、こんなにたくさんいました。 多い順に並べると、大腸がん特に結腸がん。一般的に、食物繊維の摂取が少ない人に多いといわ れています。 2 番目の胃がんは、糖尿病の治療を難しくするのでなかなかやっかいです。なぜなら、手術後回 復した後は食べ物の胃内滞納時間が短くなるので、食後血糖の上がり下がりが大きく、コントロー ルが難しくなります。 3 番目の乳がんは、女性で の割合が高かった。糖尿病があって、乳がんが多くなる のは閉経後の方が多いようです。閉経前の発症については、糖尿病との関連は少ないそうです。国 際的にみると、 ですが、日本人では糖尿病と乳がんの因果関係はわからないようです。 4 番目の前立腺がんが増えているのは、近年エコー検査の技術向上と普及が進んだため、以前よ り見つかりやすくなったことが影響しています。 5 番目の膵がんは、1型糖尿病と同じ様に治療が必要で、インスリン注射の絶対適応になります。 2.こちらは年齢の分布図です。当院の患者さんの分布は、高齢の方が多いようです。平均 65.2 歳。糖尿病があっても元気に歳を重ねる方はたくさんいらっしゃるのですよ!自分は糖尿病だから 長生きできない、なんて悲観しないで。80 歳以上、90 代でも一人で階段を昇って通院している方 がたくさんいらっしゃいます。 この年齢の分布図にがんをお持ちの方を配置してみると、はやり、乳がんが若い方で多いことが わかりました。また、予想通りですが年齢が上がるにつれ、がんの方が多くなっています。つまり 糖尿病でがんをお持ちの方は、平均年齢が高いことがわかります。長生きすれば、がんはいくらで も出てくるのでしょうね。 3.次は体格でみてみます。体格指数BMIをグラフにしてみると、当院の患者さん全体の平均は、 24.5 でした。BMIが高い人が、まあなんと、多いこと!(笑)減量が必要そうな方が多いです が、さて、ご自身はどのあたりでしょう?せっかく減量をがんばって成功させると、皆さん、「が んじゃ無いのって、心配された」とおっしゃいます。でも、患者さんとお話していると、さすが糖 尿病の方って、がんがあっても、食欲旺盛でよく食べてる人が多いといつも思います。がんを専門 にしている先生から伺っても、体重がある程度ある方が予後がいいそうです。でも、その分脂質代 謝異常や高血圧もあったり、血糖コントロールもしにくいため、薬代などお金もかかるから、あん まりBMIは多くない方がいいですよね。 4.次は、糖尿病歴とがんの発症の面から見てみます。注目するポイントは、がんが先か糖尿病が 先か、という点です。当院の患者さんでは、どうも、糖尿病が先に発症していて、その後からがん が見つかる方が多そうです。やはりがんも、生活習慣病なのかな、という印象です。特に、たばこ の影響は確実そうです。 細かく見ていきます。これまでも、肥満と女性のがん、大腸がんと食物繊維摂取状況、肝臓がん と糖尿病の関係は言われています。しかし、当院では肝臓がんの方自体は少ないことがわかりまし た。理由は、肝臓がんをお持ちの方は、当院ではない他の病院に通院されているのかもしれません。 5.家族歴で見てみると、親兄弟といった2親等以内で若くしてがんの方が出ていると、ご自身も 早めに検査し、常に疑ってかかるのがいいでしょうね。早期に見つかると、治療しなくてはいけな くなるから嫌だなと思う人が多い様ですが、これは家族の問題でもあるから、やはり早くに見つけ て治療していきたいですよね。治療によって起こるご苦労も、確かにあります。例えば、味覚異常 を訴える人もいますが、是非相談して下さい。また、抗がん治療での血糖値の悪化も、一緒に対処 していきましょう。お手伝い出来ることがあると思いますので、相談して下さい。 3.糖尿病とがんの深い関係 加藤光敏院長 ~葛飾糖尿病医会にて、国立がん研究センター 津金昌一郎先生より学んだこと~ 1.はじめに 去る 4 月 10 日に当院主催で行われた葛飾糖尿病医会でのテーマは、糖尿病とがん、でした。そ こで、がんを専門に研究している津金先生から学んだことを、皆さんにお伝えします。 がんってあまり考えたくないけども、決してまれな病気ではないですよね。今、隣の席に座って いる人と挨拶してください。とても残念だけども、割合で言うとお互いのどちらかががんになるこ とになるでしょうね。男性で50%強、女性は50%弱と言われます。今まで当院では女性は1/ 3強だから気をつけましょうと言っていましたが、もっと女性は多くなっていることが分かりまし た。 でも早く見つかれば、治る場合が多いのです。先日、「便鮮血が出たから病院に行くことになっ た」と暗い顔をして、まるで宣告を受けたみたいにがっかりしていた方がいますが、歳を重ねたら ごく普通の病気です。なったらがんの治療を考えたり、がん治療しながら糖尿病を良くすることを 前向きに考えましょう! 2.血糖値とがんの発症 まず、皆さんに知っておいて頂きたいことは、HbA1c が高い方が肝臓がん、大腸がん、膵臓がん、 子宮体がんを発症する人が多いようです。胃がんは塩分を多くとる方に多く、またヘリコバクタピ ロリ菌のある方に多い事が分かっています。膵臓がんについては、先に糖尿病治療をしていて、理 由無く急に血糖が悪くなった人の中には、膵臓がんが出てきた可能性があり、腹部 CT を勧めるこ とがあり、膵癌がみつかった方もいます。 乳がんは、女性ホルモンとの関係が大きいので、一概に糖尿病と関係あるとは言えません。しか し、前立腺がんは、なぜか逆で、糖尿病がある方の方が前立腺がんの発生は低い様です。 つまりまとめると、糖尿病があるとがんは、健常人より20~30%さらになりやすいと言える とのことです。海外の調査を含めると一般的に言えるのが、がんになりやすいのが、肝がん、膵臓 がん、結腸がん(特に男性)、子宮体がん、膀胱がん、乳がん。反対に、なりにくいのが前立腺が ん。前立腺がんは進行が遅い場合が多いので、そのままがんの存在を知らずに一生を終える可能性 もあるのです。米国では後期高齢者では下手に前立腺がんをみつけないという考えとのことです。 3.インスリン抵抗性による腫瘍増殖のメカニズム 増殖因子への影響 実は、私たちの体の中では、常にがん細胞が生まれては処理されています。それを消去する力が 負けると、がんの発症となります。インスリンが効きにくい状態が続くと、アポトーシス(管理・ 調整された細胞の死のしくみ)が減り、細胞増殖が増えます。単純に言えばこれが、腫瘍の増殖に つながります。 さらに糖尿病の初期の方には、すでにインスリン効きにくい状況(インスリン抵抗性)がありま す。これは高インスリン血症が起きやすくがんの増殖因子に影響していると言えます。 4.がんの発症と関係が深いその他の因子について 胃がんの原因菌とも言えるピロリ菌は、高塩分の環境が大好きです。津金先生によりますと高塩 分食を食べた際、胃壁に入り込み、炎症を起こしやすいそうです。ピロリ菌自体を退治したら胃が んは発生しないようですが、高塩分の食事を摂るときは、水を飲み塩分濃度を低くしながら食事を する方が良いと言うことになりますね。お茶でも良いですか?良いです。ですが、減塩を意識する ことも大切ですね。ピロリ菌も放置せず除菌治療するようにしましょう。 また、肥満度BMIとがんについても関係は言われています。やせているとがんが多い。やせす ぎは良くない様です。ただ、体脂肪率を落とすという目標を掲げることは、糖尿病治療中の多くの 方にとって有益ですね。年齢でいうと、80代を過ぎたらやせましょうとは言わないようにしてい ます。 がんのリスクとして、最も有名なのは喫煙と飲酒ですね。喫煙者は 1.6 倍、大量飲酒者(アルコ ール 450g 以上/日)は 1.6 倍のがん発症だそうです。受動喫煙にも配慮しましょう。自分が吸って いるせいで、家族ががんになるのは申し訳ないことです。煙草をやめると一時的に太るからいやと いう患者さんがいますが、太っても良いから禁煙することががんの危険を下げるのは確かです。 また、運動不足と高塩分もがんの原因上位5分の1に入っています、野菜不足との関係も注目で すね。(あとは質疑応答でした) 5.まとめ がんの予防については、血糖コントロールをきちんと行うことによってがんの罹患リスクが低下 する可能性があることは、おわかりいただけましたか?そして、早く見つかれば、それだけ治る可 能性がある、ということを併せて知っていきましょう。がんの検査を当院が行える病院ではないこ とは、最初に述べました。しかし、もちろん皆さんの健康のために、出来てしまったがんを小さい うちに早く見つけ、適切な治療を受けることを医師として願っています。その為には、行政が行っ ている公的ながん検査は必ず受けましょう。高額なPET検査を全員が受けることは難しいと思い ますが、公的なものを皆受けることで、がんが早く見つかることは明かです。 3.がん予防の食生活 中村野香管理栄養士 1.はじめに がん予防につながる食生活の注意点を、管理栄養士の立場からご紹介します。何も特殊な食生活、 食材の話ではありません。いつもの適切な糖尿病のための食生活が、がん予防につながるようです。 以前アメリカで調査したところ、がん の原因は、実は、食べ物からが 35%と最 多で、喫煙よりも原因の多くを占めてい ました。日本人の研究においても、男性 の 53%、女性の 27.8%が生活習慣との関 係があることがわかりました。しかし、 左図の健康習慣を5つとも実践すること で、男性で 43%、女性で 37%、がんにな るリスクが低下したという報告もありま す。 2.発がんの危険のある食生活、予防効 果のある食生活 国立がん研究センターからの情報を見てみます。科学的根拠に基づいた予防効果については、可 能性が有る、とかほぼ確実という様な言い回しで、項目を紹介しています。例えば、たばこと飲酒 は発がんと確実に関連がありそう、といえます。また、食塩の摂取と胃がんの関連は明かです。い つも栄養相談で、私たちがお伝えしている減塩は、血圧の改善や、腎臓を守るだけでなく、胃がん のリスクを減らす大切なことです。穀類の摂取は、胃がん予防に効果がある可能性が有るとのこと です。食パターンという項目は、健康型、伝統型、欧米型の3パターンのことです。特別がん予防 効果の評価ができるには至りませんでしたが、伝統型の食事は、漬物や塩蔵品などで塩分が多いこ とがわかります。栄養素で見てみると、脂質が結腸がんへの予防効果の可能性が有るようです。魚 由来の不飽和脂肪酸のことですね。 また、亜硝酸ナトリウムなどの食品添加物、かびや焦げ、塩分、アルコール、動物性脂肪の摂り 過ぎは、発がん危険因子となり要注意です。偏った食事などは、がんと戦うための免疫力の低下を 招きやすくなります。 逆に、予防効果のある食品は、ニ ンニクなどいろんな食品があげられ ています。コーヒーの情報もありま した。たとえば、キャベツの中の「ビ タミンU」がガン予防に効果がある 成分で、胃炎や潰瘍の回復にも効果 があり、身体の中の悪い部分と闘っ てくれるそうです。それぞれの食品 にがん予防の効果がありますが、ま とめると、活性酸素に対抗してくれ る抗酸化作用、腸内環境を整える食 物繊維、さらに発がん物質を無毒化 するもの(ビタミンCなど)が、が ん予防に効果のある食品といえるよ うです。 3.ポリ袋調理法の紹介 以上の食事を、日々の生活に取り入れるためにおすすめする調理法があります。ポリ袋に材料と 調味料を入れて、お湯に入れるだけでできる簡単な調理法です。この方法は、素材の味が生きるの で、過剰な調味料が不要なので減塩でき、水を加えないで調理するので水溶性ビタミンの損失が かなり少ないという利点があります。さらに、真空であることから焦げる心配がないので、余計 な発がん物質を摂らずに済みます。きんぴら、青梗菜の煮浸し、回鍋肉などが特におすすめです。 何より、汚さず調理が出来るので後片付けも楽ちんなのがメリットです。 4.まとめ 以上のように、がん予防の食生活はいつもの糖尿病のコントロール、合併症の予防の食生活、認 知症を防ぐ食生活。それががん予防でしたね。偏り無くバランス良い食生活をおいしく楽しく、が 実践できるといいですね。 (不許転載、患者指導転用可 加藤内科クリニック;葛飾 加藤光敏・加藤則子)
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