新入生ガイダンス

新入生ガ イダンス
酒井文雄
2000 年 4 月
1
数学用語
最初にギリシャ文字の読み方を表にしておく.円周率に用いられる π や角を表すのに用
いられる θ などは周知であると思われる.
A
α
アルファ
N
ν
ニュー
B
β
ベーター
Ξ
ξ
グザイ( クシー)
Γ
γ
ガンマ
O
o
オミクロン
∆
δ
デルタ
Π
π
パイ
E
ε
イプシロン
R
ρ
ロー
Z
ζ
ツェータ(ゼータ) Σ
σ
シグマ
H
η
エーター
T
τ
タウ
ϒ
υ
ウプシロン
Θ
θ; ϑ テータ(シータ)
I
ι
イオタ
Φ
φ; ϕ ファイ
K
κ
カッパ
X
χ
カイ
Λ
λ
ラムダ
Ψ
ψ
プサイ(プシー)
M
µ
ミュー
Ω
ω
オメガ
数学の発展や普及にはすぐれた数学記号が不可欠である .現在使われている基礎的な
数学記号は 17 世紀頃に定着し た .当初はいろいろな記号が併存して ,優劣を競ったの
であるが ,16 世頃から 17 世紀頃にかけて数学が国を越えて発展するにしたがって ,よ
り便利な記号に統一されてきた .たとえば ,乗法については ,multplication の略号 M
やコンマあるいは星印など も用いられた .カルダーノ (Caldano, 1545) は 3x2
1
+ 5x = 20
の意味で 3:quad : p̃:5: pos:aeq:20 と記し ,ヴ ィエト (Viet, 1591) は 3x3
+ 5x2 + 6 の意味で
3C + 5Q + 6N と記しているという.以下に各記号の創始者と年代を略記しておく注 1 .
+, ;
p
=
加法,減法
ウィド マン(独)
15 世紀
根号
ルドルフ(独)
16 世紀
等号
レコード(英)
16 世紀
乗法
オートレット(英) 17 世紀
乗法
ライプニッツ(独) 17 世紀
除法
ラーン( スイス)
:
除法
ライプニッツ(独) 17 世紀
x; y; z
未知数
デカルト(仏)
17 世紀
∞
無限大
ウォリス(英)
17 世紀
ẋ
速度
ニュートン(英)
17 世紀
積分記号
ライプニッツ(独) 17 世紀
R
17 世紀
和算における関孝和の功績の1つに筆算による方程式の解法( 点ざん術)の考案がある.
その方法によれば ,13 甲 2
; 3 甲 乙 は次のように書かれる.
j 甲巾
6 甲乙
英語等のヨーロッパ語で用いられている数学用語はギ リシャ語に起源を持つものが多
い.mathematics注 2 (数学), geometry 注 3(幾何学),arithmetic(算術)等が代表例で
ある.topology (トポロジー)も場所を意味するギリシャ語の topos に由来する.微分積
分学を意味する calculus は元々小石を意味するラテン語である.古代ローマ人の計算法は
小石を並べるものであった注 4 .微分積分学は小石の高度に発達したものという意味の命名
である.古代ギリシャの数学がアラビアを経てルネッサンス期のヨーロッパに伝わった経
緯により,アラビア語起源の用語もある.algebra ( 代数学)は 9 世紀のバクダットの数
注1
注2
Cajori,F.:A History of Mathematical Notations. Dover Publications, 1993
語源であるギリシャ語の µαθηµατα (マテマータ)は教育課程を経なければ習得できないものという
意味であったという.
注3
注4
geo は地球,土地の意味をもち,metry は測定の意味をもつ.
英語の計算するという動詞 calculate も同じ語源である.
2
学者アル・フアリズミー (Al-Khwarizmi) の著書の題名にある al-jabr (移項を意味するア
ラビア語)に由来する.面白いことに ,問題を解くための手順という意味で使われるアル
ゴリズム (algorithm) はこの人名アル・フアリズミーの変じたものであるという注 5 .
現在日本で使われている数学用語には大きく分けて3通りのルーツがある.
(i)
古代中国および和算で使用されたことば
例 算数の算は古代中国で用いられた計算用の小さい棒のこと .
例 商,法,和,差,積,比等
(ii)
中国で考案された翻訳語( 17 世紀–19 世紀)
例 幾何は geometry の音訳語.中国語の発音ではジオ.
例 代数は algebra の意訳語.
例 積分,微分等
(iii) 日本製の翻訳語
例 公理,単位等.
例 数学は mathematics の訳語として考案された.
数学の講義や著作で慣用的に用いられることばがある.任意の (any) はすべての (all) や
どれも( every) とほぼ同義であり,どれをとってもというニュアンスがある.各 (each) も
同様に用いられるが ,それぞれについて(おのおのについて)というニュアンスがある.
定義の中でよく用いられる表現 well defined は「矛盾なく定義されている」という意味
である.また,such that (略して,s.t. )は「以下のことが成り立つような」という付帯条
件を表している.with respect to (略して ,w.r.t. )は「 to 以下のことに関して」という意
味で用いられる.
証明の終わりに用いられる Q.E.D. という略語は Quod erat demonstrandum というラテ
ン語からきている.その意味は「以上が証明すべきことであった」である.e.g. という略
語は「例えば 」を意味するラテン語の exempli gratia に由来する.また ,etc. はラテン語
の et cetera の略語で「など 」意味.列挙を省略する場合に用いる.
「すなわち」という意
味の i.e. はラテン語の id est (英語の that is に相当する)の略語である.
注5
インド ・アラビ ア式記数法について述べたアル・フアリズミーの著書のラテン語訳の題名が Liber
Algorismi(アル・フアリズミーの本)であったことによる.当初は algorism と書かれ ,アラビア式
記数法を意味した .
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