財部誠一今週のひとりごと いまだに生き続けるカースト制度の過酷

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インドには製造業のDNAがある!?
2006・ 2・27 472号 いまだに生き続けるカースト制度の過酷
~インド経済は成長し続けられるのか~
財部誠一今週のひとりごと
送金指示の堀江メール事件で世間を騒がせた永田寿康議員は元財務官
僚です。かつては最優秀の官僚集団といわれた財務官僚にしてはあまり
にもお粗末でした。メール自体の細かい問題点をすべて棚上げして、本
文だけをみてもこのメールはとんちんかんきわまりないものでした。
「選挙コンサルタント料として処理しておいて」などという指示があり
えるでしょうか。しかも3000万円です。選挙に使ったカネを別の名
目で会計処理してくれというなら、脱税ですが、話の筋は通ります。し
かし、今回は逆です。社長個人が使った選挙資金を、選挙資金として経
費に計上しておいてくれなどというデタラメな指示がありえますか? 永田議員は税務署長経験者ではないのでしょうか。あまりにも無知で幼
稚で、批判をする気にもなれません。もっともその無知、幼稚に党をあ
げて乗ってしまった民主党はさらにお粗末です。これなら自民党のほう
がまだましかという気にさせられます。困ったものです。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載・転送はご遠慮いただいております。
「インド人はものづくりができますよ」
マルチ・スズキの幹部はインド人ワーカーの質の高さを
強調していました。たしかにマルチ・スズキの工場を実
際に見てみると、インド人の工員たちはわき目もふらず
に黙々と作業をこなしていました。また同じような言葉
をバンガロールのL&Tコマツ(デンマークのL&T社
と日本のコマツとの合弁会社)でも耳にしました。
「インド人のワーカーはポカミスがほとんどない。かり
に失敗があったとしても、指示を出し、それを一度理解
すれば、次回からはきちんと実行します」
コマツから同社に出向者している日本人幹部はそう語
った後で、次のような但し書きをつけました。
「ただし、インド人のワーカーは大量生産のシステムに
ついていけない。要するにスピードが遅いということで
す。それほど器用な民族ではありませんね。もっとも大
量生産の経験がないわけだから、それは仕方がない。こ
れからですね」
真面目で働き者だが、近代的な大量生産の経験がない
ために、ちょっとモタモタしているというわけです。も
っともL&Tコマツを実際に取材してみて驚いたのは、
世界に数あるコマツの工場のなかで、もっとも内製化率
が高いのがじつはインド工場だというのです。たとえば
私は中国山東省にあるコマツの工場を取材したこともあ
りますが、油圧関連部品やエンジンなど、重要な部品に
ついては日本からの輸出でまかない、現地では簡単な部
品の調達と組立てを行うというのが標準的な姿なのです
が、じつはインドでは大半の部品をインドの部品メーカ
ーから調達しているばかりか、工場内のクレーンや工作
機械も大半が自社製だというのです。その理由について
コマツの日本人幹部に尋ねてみると、次のような答えが
返ってきました。
「第一にあげられるのは関税率が高いことです。だから
部品を輸入するとコストが大幅にアップしてしまうとい
う事情があります。しかしそれだけではなく、インドは
もともと製造技術の高い国でもあるのです。インドの製
造業は綿工場の歴史に見られるとおり、機械工業はけっ
こうすすんでいました。工場内の設備は大半がインド製
ですし、部品メーカーの奥行きも深い。コマツが長年取
引をしている日本の部品メーカーが技術指導をしてもい
るが、そもそもインド部品メーカー固有の技術力が高い
ことも事実なのです」
◆インドFDI残高の水準2002年
国 FDI残高 FDIの対GDP比率
(百万ドル) (%)
インド 25,768
5.1
中国 447,892
36.2
タイ 30,226
23.9
インドネシア 55,836
32.2
マレーシア 56,505
59.4
シンガポール 124,083
137.5
日本 59,646
1.5
アメリカ合衆国 1,351,093
12.9
イギリス 638,561
40.8
ドイツ 451,589
22.7
資料:UNCTAD,
World
Reports 2003 Investment
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コマツの生産拠点は米国、カナダ、メキシコ、
ブラジル、英国、ドイツ、イタリア、スウェー
デン、ノルウェー、チェコ、ロシア、インドネ
シア、タイ、中国、そしてインドというぐあい
に建設機械・鉱山機械だけでもこれだけのネッ
トワークを広げているのですが、建機のアーム
を伸ばしたり縮めたりする役割を担っている
「油圧シリンダー」を地元工場内で生産してい
るのはインドだけだというのです。だからコマ
ツの幹部は口をそろえてこういいます。
「インドには製造業のDNAがある」
なるほど、しかし、インド人ワーカーの給料
は予想以上に高いものでした。L&Tコマツの
場合、平均的なワーカーの月給はなんと4万円
でした。中国はもちろんですが、月給4万円だ
とタイやベトナムよりも高いのではないでしょ
うか。かつて、世界中の企業が低廉な製造コス
トを求めて中国に殺到したのとはまったく事情
が違います。製造コストだけを考えたら、イン
ドに進出する理由はまったくない、ということ
になってしまうのです。つまりインド国内で製
品を販売することを目的としない限り、インド
に進出する意味は見出せないということです。
それは客観的なデータにもはっきりと現れてい
ます。『World Investment Report2003』によ
れば、インドに対するFDI(Foreign Direct
Investment=「直接投資」)はアジアのなかで
も極端に低いことからもわかります。1Pコラ
ム『インドのFDI残高の水準2002』の表
をご覧ください。中国には4478億ドルとい
う巨額の直接投資が行われているのに対して、
インドへの直接投資残高は257億ドルにすぎ
ません。投資額ではシンガポールの5分の1、
インドネシア、マレーシアの半分以下というレ
ベルです。絶対額だけを比較すると、タイとイ
ンドはそれほど違わないようにみえなくもあり
ませんが、GDPとの比較でみると桁違いです。
タイに対する海外からの直接投資はタイの
GDPの23.9%であるのに対して、インド
への直接投資はGDP比でみると5.1%にす
ぎません。もちろんインド経済が本格的に注目
を集める様になったのはこの2、3年であり、
2002年の数字よりもインドへの直接投資は
間違いなく増えていると思います。しかし、は
っきりしていることは、マスメディアが大騒ぎ
をしているほど、インドへの直接投資は行われ
ていないということです。
なぜインドへの直接投資は少ないのか
なぜでしょうか。それなりに製造業の技術の
蓄積もあり、ワーカーの質も悪くはないが、賃
金水準は意外に高く、輸出基地としての魅力が
ないということもひとつの理由でしょう。しか
し実際に私が現地で見た実感を語れば、インド
という国の複雑さが大きな障壁になっていると
思います。その複雑さを生み出している社会的
背景はカースト制度です。ヒンドゥー教をバッ
クに3000年もの歴史のなかで息づいてきた
カースト制度は、日本人には想像もつかないほ
どの複雑と重さをもってインド社会に沈殿して
います。
一般的にはバラモン・クシャトリア・ヴァイ
シャ・シュードラという4つのカーストが知ら
れていますが、現実にはその下にアウトカース
トの存在があります。日本語では「不可触民」
と訳されたりもしますが、インド人通訳によれ
ば、この階層がまた2つに分けられているとの
ことでした。市場経済のなかで、生まれながら
にして厳格な身分差別、職業差別が行われてい
るインドがどこまで発展できるのか。カースト
制度が現在のインド社会のなかでどのような存
在として機能しているのか。それは今回の大き
な取材目的のひとつでした。しかし、残念なが
ら、カースト制度に関する現地取材はまったく
といっていいほど成果をあげることができませ
んでした。なぜなら、インドではカースト制度
がとんでもなくセンシティブな問題であり、タ
ブーであり、この問題について取材を受けるな
どとんでもないというのがインドの現実だった
からです。ようするに、カーストによる徹底し
た身分差別はいまなお厳然と生きているという
ことです。ある日系企業がオフレコ取材の中で
明かしてくれたことですが、その会社では部長
以上の役職についているインド人は例外なしに
上位2つのカーストのインド人であり、工場労
働者は例外なく下位2つのカーストだというの
です。たまたま最高位のバラモンでありながら
勉強もせず、学歴もなかった者が工場のワーカ
ーとして働き出したが、彼はいま組合の委員長
であり、「次の人事異動でマネジメントに加わ
る予定だ」とも話してくれました。
じつは今回、インド第2位のIT企業インフ
ォシスを訪ねました。インフォシスは、創業当
初から「一切の身分差別、性差別をしない」と
いった理念を掲げており、だからこそ、閉鎖的
なインド社会でIT企業がのびたのだなと私は
信じきっていたのですが、実際に取材をしてみ
ると、どうもそれは私の一方的な思い込みであ
ったことがわかりました。ITのような新しい
職業は、カースト制度による伝統的な職業差別
の対象になりませんから、ITの技術さえ身に
つければ、カーストの身分差別をブレイクでき
る。それは能力をもった人たちへの大いなる希
望になるだろうと考えたわけですが、現実には、
下位カーストの人々はまともな教育を受ける機
会もなく、事実上、カーストの壁が教育の壁と
なってしまい、IT企業で活躍するインド人の
ほとんどが上位カーストの人間たちに占められ
ているというのが現実のようです。
だからインドには活気がないのです。改革開
放が始まったばかりの90年代初頭、中国の社
会は今とは比較にならないほど貧しい国でした。
しかしその当時でも、自分で稼いで、自由にモ
ノを買うことができる喜びが街中に溢れていた
のです。自転車に乗る女性たちは思い思いの服
装をして、いきいきとした表情をしていました。
しかしインドにはそれがまったくありません。
誰もが分相応の生き方をしなければならない、
無言の国です。たしかにインド経済はこの2、
3年好調を維持しています。しかし第2の中国
として劇的な経済成長を連続的に続けていくと
は、私にはどうしても思えないのです。聞けば
インド人の70%は見合い結婚で、親が相手を
決めるケースがほとんど。もちろん結婚相手は
同じカーストの出身者でなければなりません。
インド人の経営者が言っていました。「違うカ
ーストどうしが結婚する時代が来ればインドも
変わるだろう。しかし、そんな時代がいつくる
のか。それはわからない」これがインドなので
す。
(財部誠一)
◆カースト制度
ヴァルナ
バラモン 職業
僧侶、司祭階層
クシャトリア 王侯・武士階層
ヴァイシャ 平民(商人)階層
シュードラ (上位3カーストに
対する)被征服民
ダリッド 不可触民
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