マイコース・プログラム活動報告書

マイコース・プログラム活動報告書
学生番号:0601216030
氏名:切通
祥子
所属分野名:放射線遺伝学教室
期間:2012 年 8 月 10 日∼10 月 6 日
活動内容(概略):スイスのジュネーブ大学に2ヶ月間留学し、Department of Molecular
Biology の Thanos Halazonetis Lab で研修しました。研究内容は分子レベルでのがんのメカニ
ズムの解明で、日本人のポスドクの方のもと、基本実験手技を多く学ばせていただきまし
た。
1.渡航前の準備
以前からマイコースの期間を利用しての海外研修に非常に興味があったので、3回生の
秋頃に友人と共に武田先生にご相談させていただきました。いくつか候補を挙げていただ
いたのですが、その中でも環境が良く、日本人のポスドクの方がいらっしゃるスイスのジ
ュネーブをおすすめしていただきました。治安も比較的良いとのことだったので、ジュネ
ーブに決め、年始にアプライしました。
受け入れが決まったあと、私はそれまで実験の経験がなかったため、武田先生に紹介し
ていただいた小松教授の研究室で、友人と一緒に基本手技を教わりました。ラボでは小林
先生がプランを考えて下さり、4月から7月にかけてお忙しい中ご指導してくださりまし
た。出発までに細胞培養、ウエスタンブロッティング、RT-PCR、免疫染色といった基本の
手技を習いました。
海外渡航の準備として上記の実験準備以外に、飛行機の予約、宿舎の手配、スイスフラ
ンへの両替、国際学生証作成、クレジットカードの手続きなどを行いました。宿舎に関し
ては、Halazonetis Lab の秘書の方が予約してくださり、また宿舎の代金も大学側が出してく
ださりました。ジュネーブはインターンなどが住む安い宿舎が不足しており、自力で探す
のにかなり苦労するようなので、これは本当にありがたかったです。国際学生証は必須で
はありませんが、大学のカフェテリアや旅行先の観光スポットでディスカウントしてもら
えることがあったので、持っていて損はないと思います。クレジットカードは Visa を持っ
ていきましたが、特に不自由なかったです。スイスは物価が高いとのことだったので、日
用品もある程度は日本で揃えて行きました。実際、同じ商品でもスイスの方が断然高いこ
とも多く、買っていってよかったなと思いました。
2.ラボでの活動
Halazonetis Lab での研究目的は、分子レベルでがんの仕組みを解明し、がんの新しい治療
法に発展させることです。私はポスドクとして研究されている香崎さんに、2か月間ご指
導していただきました。香崎さんのプロジェクトは、DNA 損傷に対するチェックポイント
機構の仕組みを解明することで、特にチェックポイントに関わっているとされる
Rev7,Rad9,Timeless などの機能や相互作用といった pathway の詳細を明らかにすることが主
な目的です。
私は研修期間の間にこのプロジェクトに参加させていただき、様々な実験を学びました。
期間中、一連の流れを一人で担当したというよりは、プロジェクトの中で扱う様々な実験
について、その都度手技を教えていただきました。
習った実験は以下の通りです。
①細胞培養
:浮遊細胞、接着細胞の 2 種類。さらに血球計算も行い、次に培養する分量を決める。
②Transfection
:2通り学んだ。1つは SiRNA 投入後、HyperFect を加えるもの。もう1つは DNA 投入
後、X-treme GENE HP DNA Transfection Reagent を加えるもの。それぞれ液を作成したのち、
細胞が入っている well にゆっくり回し入れ、インキュベーターで培養する。
③DAPI を用いた Immuno Fluorescence のサンプル作りとその解析方法
:スライドガラスに付着させた細胞に DAPI を加え 1 分待つ。次に PBS で洗浄したあと、
Fluoromount-G で固定し、しばらく暗所に置いておく。その後、パソコンの Axio Vision とい
うソフトで 300 個を目安に細胞の写真を撮影する。写真の metaphase と interphase の数をそ
れぞれ数え、metaphase/metaphase+interphase の値を計算し、どの薬剤を加えれば、metaphase
に入る割合が増加もしくは減少するのかを調べる。
④FACS のサンプル作りとその解析方法
:Edu を用いる方法と抗体を用いる方法の2通り学んだ。蛍光抗体で特定の対象を認識させ、
染色した細胞を液流し、専用の機械で測定する。その後、Kaluza というソフトを用いて、
自分の実験目的に沿ったように解析を行う。
⑤Western Blotting、Whole Cell Extract
:目的に応じた濃度のゲルを作成し、サンプルをアプライする。電気泳動後、一晩トラン
スファーを行い、翌日ブロッキング後にそれぞれに対応する一次抗体、二次抗体の順につ
ける。その後、数回 TBST で洗浄したあと、AP Buffer に浸して目的のタンパク質を detect
する。
⑥CO-immunoprecipitation
:Lysis Buffer を作る。細胞を回収し、並行して Beads と抗体を各々準備する。抗体を回転
させている間に、whole cell extract を行い、細胞を完全につぶす。これに Mgcl2 と DNase を
加え、4℃の水に 1 時間つける。その後、ブロッキングしたあと、それぞれの抗体が入って
いるエッペンに分け入れ、cold room で 2 時間ほど回転させる。
⑦Miniprep
:Resuspention Solution, Lysis buffer, Neutralization Solution を手順通り加え、エタノールで洗
浄したあと乾燥させ、TE buffer を加える。その後今回は制限酵素の cut が出来ているかの確
認に用いた。
⑧Midiprep
:Midiprep の kit を用いた。Resuspention Solution, Lysis buffer, Neutralization Solution を手順
通り加えて操作したあと、Endotoxin Removal Water→Column Wash で洗い、最後に Nuclease
Free Water を加えて遠心する。終わったら DNA 量を計測し、シークエンスに用いた。
⑨Foci の解析方法
:DAPI,RED,GFP にそれぞれ染色された細胞を Axio Vision で撮影し、criteria を決めて foci
の数を数える。今回は1つのサンプルにつき、20
30cells ずつ確認した。
これらのなかでも、私が主にやらせていただいた仕事は、①様々なノックアウトやノッ
クダウンを組み合わせ、それに ATR inhibitor や ATM inhibitor など色々な試薬を投与し解析
することによって、metaphase に入る割合を見て、どのような相互作用があるのか調べるこ
と、②CO-IP で落としてきたタンパク質を Western Blotting で検出することでした。そのた
め特に IF、FACS、 Western Blotting に関しては、研修期間中に何度もやらせていただいた
ので、かなり慣れることが出来ました。2か月という短い研修期間にも関わらず、香崎さ
んは毎回研究につながる実験の解釈を説明してくださりました。
3.スイスでの生活
平日は毎朝 9:30 から夜 19:00 頃まで毎日実験していました。宿舎からラボまでは徒歩 25
分弱でしたが、気候も良く歩いて行くのにとても気持ちよかったです。ランチは大学のカ
フェテリアでラボの方たちと一緒に食べていました。ジュネーブは物価がかなり高いので、
夕飯は宿舎で自炊していましたが、スーパーは大抵 19 時には閉まってしまうので、その点
は少し不便でした。
宿舎はサンピエール大聖堂の真横という最高の立地でした。トイレ・シャワー・キッチ
ンが共用でしたが、部屋の掃除も週1回してくれますし、清潔でとても過ごしやすかった
です。女性専用のユースホステルだったのですが、国連関係の同世代のインターンの人が
40 人ほど滞在していて、様々な話をすることが出来ました。宿舎でバースデーパーティー
があったり、みんなで飲みに出掛けたりと本当に楽しかったです。
ジュネーブの公用語はフランス語です。ラボの official language は英語ですが、軽い会話
はフランス語のことも少なくありませんでした。街中でも英語が通じないこともしばしば
ありましたが、特に深刻な事態になったことはなく、ジェスチャーと簡単な英語でなんと
かなりました。
先ほども書きましたが、スイスは物価がかなり高かったです。マクドナルドのセットで
約 1000 円、チェーン店の中華でもワンプレートで約 1500 円くらいでした。スーパーは比
較的安いので、食材をスーパーで買って友人と一緒に出来るだけ自炊していました。Euro
圏の方が圧倒的に安いので、宿舎では週末にバスでフランスまで行って買い出ししている
人もいました。食べ物が合わないということはなく、またスイスはチーズとチョコレート
が有名なので、よく買って食べていました。
←宿舎での Birthday Party
今回の留学でかかった費用ですが、航空券は Air France で約 20 万円、食費や雑費で約 35
万円でした。やはり宿舎代を出していただけたのが、かなりありがたかったです。週末の
旅行ではほとんど飛行機を利用したため、その費用が高かったように思います。週末旅行
を考えているならば、出来るだけ早く安いうちに予約することをおすすめします。鉄道を
多く利用するならば、鉄道パスを購入しておいた方がよいでしょう。
4.週末の旅行
土日は完全にフリーだったので、ヨーロッパで研修している友人達と合流して様々な国
を旅行したり、海外に住む友人に久しぶりに再会することが出来ました。ジュネーブは小
さい街なので、駅も空港もバスですぐ行くことができ、旅行するにはとても便利です。た
だスイス以外は Euro 圏なので、ユーロとスイスフランの両方を両替して準備しておかなけ
ればならず、その点は少し不便でした。
フランス、イタリア、ベルギー、オーストリア、スペイン、ドイツと計6ヶ国ほど旅行
しました。イタリアでは、2年前に知り合った現地の友人の家に泊めてもらい、街も案内
してもらえて、とても良い経験となりました。ベルギー、スペインは食べ物が本当に美味
しくて、スイスに比べたらだいぶ安いのでおすすめです。他国への旅行がない週末はスイ
ス国内を旅行していました。山に行ってみたり、ローザンヌやモントルーといった街に出
掛けてみたりしましたが、どこも穏やかで治安も比較的良く、とても素敵な国でした。
←ミラノで食べたピザ
←スペインのサグラダファミリア
←ドイツで集合した、マイコース海外組
5.最後に
ジュネーブでの生活は、最初こそ慣れるまで大変でしたが、本当に充実していて楽しか
ったです。海外での生活やラボでの研修など、日本では出来ない貴重な経験をたくさんす
ることが出来ました。ちょうど慣れてきた頃に帰らなければならず、2か月という期間の
短さを痛感しました。帰る時にはまだ帰りたくないという思いが強かったです。ジュネー
ブではラボのみなさんをはじめ、宿舎の同世代の女の子達、インターンをしている人達な
ど、様々な人と出会うことでき、かなり刺激を受けました。特に宿舎では医療関係以外の
人達とも多く知り合うことができ、自分の知らないそして経験できない世界の話をたくさ
ん聞くことができて、とても興味深かったです。
このような素晴らしい機会を与えてくださった武田先生には本当に感謝しています。武
田先生がジュネーブを紹介してくださっていなかったら、こんな貴重な2か月を送ること
は出来なかったでしょう。また、実験未経験者にも関わらず、留学までの間受け入れてく
ださった小松先生、私達の実験プランを一から考えご指導してくださった小林先生にも大
変お世話になりました。本当にありがとうございました。そして、初心者にも関わらず、
私を受け入れてくださった Halazonetis 教授と香崎さんには感謝してもしきれません。香崎
さんは、お忙しい中、何も出来ない私を一からご指導してくださりました。慣れない実験
で失敗してしまうこともあり、本当に申し訳なかったですが、そんな時も失敗した原因を
一緒に考えてくださり、次は成功出来るようにと親身に教えてくださいました。最後に、
両親、祖父母も私の海外研修を心から喜んで、様々な面で支援してくれました。家族の支
援がなければ、海外で2か月も生活することは出来なかったと思うので、本当に感謝して
います。この2か月は私の将来に対する考え方を変えてくれました。携わってくれた全て
の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。