特別講演1 私の高血圧研究、回顧と展望

特別講演1
私の高血圧研究、回顧と展望 あらかわきくお
荒川規矩男 福岡大学名誉教授
私は内科を志向していたのに、ひょんな事で外科に入局し、 カ月後には扁桃腺炎か
ら急性腎炎を患って 年間療養しました。幸い高血圧は免れましたが、臨床勤務は当分
無理と考えて医化学教室へ移りました。そこで始めたペプチド合成の出発物質は既報((
)LVFKHUノーベル賞受賞者)に従うのにデータが原報と一致せず、周囲から散々愚ろう
されましたが、逆に原報の誤りを突き止めました。その後は勝手にレニン5阻害を目指
したペプチドの合成を始めましたが、当時の日本の環境では困難を極めたので、結局、
研究の場をアンジテンシン($)の発見者(3DJH)に求めて、そこで $,, の構造と活性
の関係(後の $5% の基礎資料)を解明しました。
帰国後は外部病院へ 年余り出向中、中村元臣教授から研究の場を与えられ、当時 5$
系で取り残されていた問題のヒト $, の構造を精製単離・解析・合成によって解明しま
した。次いで 5$ 系の測定法を臨床の道具として開発しましたが、それは本態性高血圧
よりも、むしろ腎梗塞や、原発性 5 症などの診断に有用でした。
福岡大学ではトリプシンやカリクレインによる $,, 生成系のバイパスを発見し、これ
は後にキマーゼ系浦田らへ発展しました。臨床面では 5$ 系の測定はやはり本態性高
血圧の診療には役立たず、むしろ偽性アルドステロン症・本態性低血圧・運動降圧など
の機序解明などに有用でした。
降圧薬に &D 拮抗薬や $&( 阻害薬が登場して面白くなりましたが、$5% に関しては私共
の合成した +H[DSHSWLGH$5% で行き止まっていた所へ、非ペプチド性 $5%が登場して降
圧は新時代に入りました。
一方、薬物は所詮、対症療法に過ぎない事を憂えていたので、減塩以外の原因療法を
志向して運動の降圧効果を検証し、その主な機序として交感神経系の鎮静化と、新しい
脱塩利尿作用機序(DGHQRVLQHGRSDPLQH 系)を発見しました。しかし運動も中止すると
血圧は元に戻るので、運動もまた降圧薬と同様に高血圧の焔に放水するだけの対症療法
の一種に過ぎず、火元を消すには減塩の徹底しかない無いと考えるに至りました。
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教育講演1
肺高血圧症と右心機能 あべこうたろう
すながわけんじ
ひろおかよしたか
阿部弘太郎 、砂川賢二 、廣 岡 良 隆 九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座 九州大学大学院医学研究院循環器内科学 【目的】肺動脈性肺高血圧症3$+は、肺動脈圧が上昇し、後負荷上昇のため右心不全が
進行し、死に至る極めて予後不良の疾患群である。これまで 3$+ の重症度と予後は、肺
動脈圧上昇の程度によるとされてきたが、右心不全の進行の程度も独立した予後予測因
子であることが明らかになった。3$+ に伴う右心機能低下の非侵襲的な評価として、心
エコーが広く用いられてきたが、拡大した右室の機能評価は左室と比較して難しい。今
回、これまでに行われてきた肺高血圧と右心機能の評価法に加え、我々が近年取り組ん
でいるノルエピネフリンのアナログ ,0,%* 心交感神経シンチフライフィーを用いた
右心機能評価法についての講演を目的とする。
【対象と方法】九州大学倫理委員会の承認のもと、3$+ の患者 例を対象に行った。0,%*
心筋シンチ、1<+$ 分類、安静時心拍数、血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド%13、右心
カテーテル、心肺運動負荷試験は入院後 日以内に施行した。右室自由壁を同定するた
めタリウムと 0,%* と同時に静注し、 回撮像早期像: 分、後期像: 時間を行った。
63(&7 像を用いて右室自由壁における 0,%* の早期像・後期像の集積を解析し、0,%* 洗い
出し率を計算した。
【結果】1<+$ 分類の重症度に従って、右室自由壁における 0,%* 洗い出し率は亢進して
いた。また、洗い出し率は、心係数・肺血管抵抗・安静時心拍数・最大酸素摂取量と有
意な相関を認めたSUHVSHFWLYHO\VSHDUPDQUDQNFRUUHODWLRQFRHIILFLHQWV。
一方、収縮期肺動脈圧と %13 とは相関を認めなかった。
【結論】0,%* シンチによる右室交感神経活動は、3$+ における右室機能を反映している
可能性がある。0,%* シンチはすでに左心不全の重症度評価法として確立しているが、肺
高血圧症の伴う右心不全の非侵襲的な重症度評価として有用性が高いことが予測された。
今後は、治療効果の判定、予後の有用な指標となりうるか検討する。最後に、β遮断薬、
$&( 阻害薬・$5%、心臓リハビリの右心不全の治療法としての可能性について講演する。
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会長講演
中枢性循環制御機構の解明と展望
ひろおかよしたか
廣 岡 良 隆
九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座
循環器疾患において調節系の異常が本質的に関わっている。「血行動態は?」と聞かれ
ると血圧・心拍数をまず答える。血圧は心拍出量と血管抵抗で規定される。ところが心拍
出量は前負荷後負荷、心機能、心拍数で規定されるためそう簡単ではない。血圧を制御
するのは自律神経系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を主体とする体液性
因子、そして局所因子である。局所レニン・アンジオテンシン系の発見と分子生物学の進
歩から多くの研究が単一分子の研究へと進んだ。それまでは心臓病学の大家として知られ
る %UDXQZDOG や $EERXG を中心に動脈圧受容器反射機能の異常が注目され多くの生理学的
な研究が行われた時代がありそこに循環器病学研究の基礎がある。私も最初の研究は心房
性ナトリウム利尿ペプチドと動脈圧受容器反射機能に関する研究であった。心不全・高血
圧で交感神経系活性化が生じていることは確かであったがその異常を末梢動脈圧受容器
レベルで説明することは困難であることを感じたため、中枢レベルでの交感神経活性化が
生じているに違いないと考え研究の方向を転換する必要性を感じた。 年頃は脳内心
血管中枢の詳細が解明されつつあり、59/0 が着目され始めていた。そこで同部位の高血
圧・心不全における過剰な活性化が全体としての交感神経活性化につながっているのでは
ないかと考え、中枢性循環調節に関する研究に本格的に取り組む決心をした。その結果、
脳内アンジオテンシン 型受容体の活性化に注目し、一酸化窒素活性低下・活性酸素産生
増加が大きな役割を果たしていることを突き止めた。これらの異常がどうしておきるのか
については現在進行している慢性炎症やそこに通じる免疫応答の概念と関連している。循
環器疾患のみならず各分野で健常時に作用する生理的応答が病的状態に入ってく ると役
割が変わってくること、その役者は多くの病態で同じように説明されている状況がある 。
今回「臓器間情報ネットワークの理解と介入による循環制御」を学会のテーマとして掲げ
たのは循環器疾患の多くが単に心臓の異常にとどまらず自律神経系・体液性因子・免疫担
当細胞などが絡み合い情報を伝えていること、ホメオスターシスの破綻により悪循環への
スイッチが入り、病態の進行へつながっていくことがみえるようになってきたからである。
そこに上手に介入する方法が治療法へつながる。現在使用されている有効な薬剤もそこに
関わっているし、腎神経デナベーションや圧受容器反射刺激治療などの新規治療法もまさ
にそうである。しかし、まだその理解は不十分である。引き続き地道な研究の継続こそが
ブレークスルーを生むことを信じている。
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S1-1
交感神経活性化が高血圧の根源である
きしたくや
岸拓弥
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学
高血圧が「血管」や「腎臓」さらには「レニン・アンジオテンシン系」が原因であり、レニン・ア
ンジオテンシン系阻害薬を含む種々の血管拡張薬と利尿剤は数値としての「降圧」において極めて有
効である。一方、高血圧治療の目的である臓器保護を介した予後改善は十分とは言えず、病態の本質
に対する理解と、その理解に基づく治療介入が求められる。高血圧は正常の循環制御から外れた状態、
すなわち循環動態に関わる心臓・血管・腎臓を自律神経、特に交感神経系が制御するシステム破綻で
あり、交感神経を制御しているのは「脳」である。我々は、交感神経活動を規定している頭側延髄腹
外側野(59/0)において、一酸化窒素が交感神経を抑制する、DQJLRWHQVLQ,, タイプ 受容体
により産生される活性酸素種が交感神経活動を活性化する、本態性高血圧・食塩感受性高血圧・メ
タボリックシンドロームにおいて 59/0 内での一酸化窒素低下・活性酸素種増加により交感神経が活性
化して高血圧の重要な原因になっている、ことを明らかにしてきた。さらに、生体においては活性化
した交感神経により血圧が変化し、その血圧に応じて交感神経が調節される、極めて「動的」なフィ
ードバックループシステムである圧受容器反射がある。圧受容器反射不全の高血圧における役割につ
いては議論がわかれていたが、近年になり高血圧における圧受容器刺激により強力な降圧が得られる
ことが示された。我々も、動物実験において圧受容器反射不全が血圧の変動性を著しく悪化させるこ
とや、圧利尿関係において体血圧と圧受容器反射—交感神経がほぼ同等に寄与していることが示された。
したがって、圧受容器反射不全は高血圧の極めて重要な原因であると考えることが出来る。これらの
結果は、圧受容器反射により動的に調節される交感神経こそが高血圧となる主たる要因であることを
示すものである。
31
S1-2
Renal denervation in 2014: “Has a beautiful idea been ruined by cold, hard facts?”
Murray Esler MBBS PhD FRACP
Baker IDI Heart and Diabetes Institute, Melbourne, Australia
Fellow of the Australian Academy of Science
Renal denervation for hypertension has a long pedigree. In the 1940s widespread
surgical sympathectomy was performed, in the era before the advent of antihypertensive
drugs, as the first effective treatment for severe hypertension. At this time no theory
identified the sympathetic nerves of the kidneys as pivotal in the pathogenesis of
hypertension, but the procedures performed no doubt often sectioned postganglionic
sympathetic fibres directed to the kidneys. Subsequent surgical sectioning of the renal
sympathetic nerves in animals with experimental hypertension demonstrated their prime
importance in pathogenesis, and the work of my group showed that there is preferential
activation of the renal sympathetic outflow in patients with essential hypertension, this
becoming the therapeutic target with selective renal denervation therapy. Importantly,
the renal sympathetic outflow is markedly activated in drug-resistant essential
hypertension.
The renal sympathetic nerves pass to the kidneys in the adventitia of the renal arteries,
or beyond in perirenal adipose tissue, within reach of radiofrequency or ultrasound
energy released in the renal artery lumen. This new therapy has been applied world-wide
in approximately 10,000 patients with severe drug-resistant essential hypertension.
Multiple studies indicate the efficacy and safety of catheter-based renal denervation,
although there are some discordant findings, and reports that the response rate is less
than the 70-85% reported in the Simplicity trials. In my own tertiary care hypertension
clinical practice, many of my previously most challenging severely hypertensive patients
now have normal blood pressure subsequent to renal denervation, although usually still
also requiring multi-drug antihypertensive therapy.
A challenge to the percutaneous renal denervation treatment of resistant hypertension
came on 9 January 2014 with a press release concerning the Simplicity HTN-3 trial in
drug-resistant hypertension, the pivotal study for US FDA licensure, and in the
subsequent New England Journal of Medicine publication on 29 March, indicating that
the primary efficacy endpoint had not been reached in the trial. This is a comprehensive,
rigorously designed study, but there is an Achilles heel with most clinical trials of renal
denervation for hypertension, including this one. Whether renal denervation was actually
achieved in individual patients was not evaluated in Symplicity HTN-3. For such an
otherwise meticuously designed trial this is a noteworthy deficiency, especially as unlike
in Australian and European renal denervation trials, the majority of participating
interventionists, although experienced in other procedures, had never before performed a
percutaneous renal denervation; their learning curve fell within the trial. When it has been
documented (as it was in the Symplicity HTN-1 study with renal noradrenaline spillover
measurements), the degree of renal denervation achieved with catheter-based renal
sympathetic ablation (mean 40%, range 0-85%) is substantially less than with
experimental surgical denervation (90-95%). It is inevitable that this usually less than
complete denervation in the hands of experienced proceduralists has been compounded
in Symplicity HTN-3 by operator inexperience.
32
In this context it is pertinent to ask whether current catheter designs and, in particular
energy level administered are optimal. Should we be aiming for more complete renal
denervation, given the high level of safety. Are some sympathetic nerves in humans,
perhaps, more distant from the lumen of the renal arteries than is generally believed, so
that deeper penetration of ablating energy is needed? It should be noted that the field of
renal denervation for experimental hypertension is active, in fact energized by the clinical
studies. Experimental surgical denervation for hypertension still works !
I would wish to stress the methods of decision-making in medical science and clinical
medicine. In the past, medical knowledge derived from many sources. The historical
starting point was often astute observation and description by doctors of the illness of
their individual patients. This was elaborated on with autopsies (in the regrettable
instances of medical failure), observations community-wide to detect patterns of the
identified illness and its causes (epidemiology in its various forms), clinical investigation
to better understand the biological mechanisms of disease (the “pathophysiology”),
animal experimentation to confirm and extend these ideas, prevention and treatment
strategies based on a logic deriving from all of the above, and observations in patients of
the benefits, or lack of, when the logically-based treatments were applied. Some elements
of this evidence path are strongly evident in the renal denervation saga.
Some emphases in “evidence-based medicine”, those which are too rigid and codified,
have short-changed these ways of knowing, especially in relation to medical therapies.
The final, and usually only, arbiter is the randomized double-blinded clinical trial, the
other forms of medical knowledge not qualifying as real, or certainly not valuable
evidence. Although in therapeutics well designed clinical trials are of critical relevance,
there are many ways of “knowing” in medicine. A single well-designed clinical trial can
be fallible, remembering that the Symplicity HTN-3 trial is a deeply flawed study, and
should not stand alone as an absolute arbiter. The animal experimentation, the neural
hypertension pathophysiology, and earlier clinical trials should not be forgotten.
33
S1-3
“腎動脈内アブレーションは消え去るのか?~+71 の限界と今後の方向性に
ついての考察~” おくやまゆうじ
さかたやすし
奥山裕司 、坂田泰史 大阪大学大学院医学系研究科先進心血管治療学寄附講座
大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学講座
米国で実施された治療抵抗性高血圧を対象とした +71 の結果が発表された。焼灼群と
対照群(造影するが焼灼しない)の両群で降圧が得られ、その差が統計的に十分ではな
いとの結果であった。
+711と2に比べ多数の症例が登録され、患者も外来医師も、焼灼群か対照群かがわか
らないように工夫された。ただし、エントリー前の降圧薬の服薬強化指導の期間は 週
間と短く、無作為化後にも服薬状況の好転で、さらなる降圧に至った可能性がある。
腎動脈周囲に存在する神経(知覚と交感)が傷害できたかどうかは判定できない上、
単一電極のカテーテルを適切に操作するのもある程度熟練を要すると推測される。その
ため、例えば降圧に必要な量の神経を焼灼できていなかったといった技術的問題がある
症例が含まれていた可能性もある。
本手技を腎交感神経アブレーションと呼んでしまうと、あたかも腎交感神経系の焼灼
ができたにも関わらず、有意な降圧が得られなかったかの印象を与えるだろう。例えて
言えば、
心房細動症例でのアブレーション治療を行う際、肺静脈周囲を焼灼するだけで、
電気的隔離を確認しないでおいて、遠隔期に心房細動の抑制に肺静脈隔離は有効でなか
った、と結論しているようなものである。
また交感神経活動の亢進がある場合でも機序は単一ではない。本手技が有効なのは腎
神経系の活性亢進が高血圧の成因となっている症例と考えられる。現状は慢性心不全症
例に、456 の幅も測らないで全例に心臓再同期治療を行っているがごとき状況で、めく
ら打ちの状態である。効かない症例が多くても不思議ではない。
今後は、①腎神経の焼灼の成否をその場で確認できる方法を開発し、確実に腎神経を
遮断する方法論を確立すること、②事前にこの治療介入の有効性が高いと予測できる方
法を開発すること、が本手技の実用化に向けた目標であろう。
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第35回日本
S2-1
心不全における食塩感受性獲得機序~神経性心脳連関の役割
いとうこうじ
伊藤浩司
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
心不全患者における減塩の重要性は広く認識され、実際塩分摂取が心不全増悪の誘因となることもま
れではない。われわれは、心不全における食塩摂取に伴う心不全増悪機序として、視床下部 1D チャネ
ル(1D&増加による 1D 感受性亢進の関与を明らかにした。一連の研究では、視床下部 (1D& が増加し
た状態で食塩負荷が加わることで視床下部神経の興奮性が高まり、交感神経活動の活性化による心不
全増悪を来す機序を提唱した&LUF5HV-+\SHUWHQV+\SHUWHQV5HV。これらの成
績は、心不全における食塩感受性亢進に中枢神経系(視床下部)が強く関与することを示したもので
あるが、なぜ心不全において視床下部 (1D&V 増加を来すのか、つまりどのような心脳連関が関わるか
は不明である。われわれは、圧負荷モデルでの検討で血中のレニン活性やアルドステロン濃度に依存
せずに、視床下部 (1D& 増加を来すことを確認しており+\SHUWHQV5HV、現在神経性の心→脳連
関に注目して研究を進めている。具体的には、求心性心臓交感神経刺激が、視床下部における炎症性
サイトカインの増加を介して (1D& 増加を来し、食塩感受性を高める知見を得ている。本シンポジウム
では、食塩感受性獲得における心脳連関のメカニズムとして、求心性心臓交感神経の役割も含めた最
新の研究成果も含めて紹介したい。
37
S2-2
心臓交感神経から心臓病を診る
かなざわひであき
きむらけんすけ
あらいたかひで
ふくだけいいち
金 澤 英 明 、木村謙介 、荒井隆秀 、福田恵一 慶應義塾大学医学部循環器内科
心血管病の進展に交感神経が深く関与していることは以前より知られていたが、近年、
多臓器連関という概念のもと、自律神経に注目した心血管病に対する研究や治療法がク
ローズアップされている。心臓交感神経は、心臓の生理機能に大きく影響しているだけ
ではなく、心不全においては最も重要な病態修飾因子のひとつであることは周知の事実
であるが、その詳細なメカニズムや意義については明確な結論が出ていないのが現状で
ある。
近年、心筋細胞と心臓交感神経の間には、様々な神経体液性因子を介したクロストー
クが存在することが明らかとなってきた。さらに、心不全の病態生理にかかわる交感神
経線維の軸索伸張、除神経、機能変化といった現象も分子生物学的に解明されつつあり、
心臓交感神経自体にも解剖学的、機能的変化による適応機構が存在することがわかって
きた。心筋細胞より分泌される神経成長因子1*)は、交感神経線維密度の決定因子とさ
れ、心肥大時にその発現が亢進することにより心臓交感神経の過剰分布が認められる。
一方、
その機能は幼若化と称される現象により低下していることが報告された。さらに、
心不全時には心筋での白血病阻止因子/,)の発現が亢進し、心臓交感神経がコリン作動
性の機能を獲得していることも明らかとされてきた。本シンポジウムでは、心不全にか
かわる心臓交感神経異常の新しい概念と心不全の病態との関連について解説する。
さらには、たこつぼ型心筋症に代表されるようなストレス心筋症の発症メカニズムに
ついても、脳心連関の観点から分子生物学的な病態解明を試みており、こちらについて
も概説したい。
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S2-3
心臓リモデリングにおける低酸素シグナルの役割
たけだのりひこ
武田憲彦 東京大学大学院医学系研究科循環器内科 心臓リモデリング過程では、心筋組織の低酸素環境と共に、炎症シグナルの活性化が
引き起こされると考えられている。炎症細胞浸潤および炎症シグナルの活性化は、ある
場合には組織修復に、別の場合には臓器傷害性に働くと想定されているが、その詳細な
機構は不明であった。我々はこれまで、炎症惹起型マクロファージ(0)において+,)
αが、炎症抑制型マクロファージ(0)において+,)αが重要な役割を果たしているこ
とを明らかにしてきた。本研究では心臓リモデリング過程において浸潤する炎症細胞に
注目し、低酸素シグナルが臓器リモデリングにおいて果たしている役割につき解析を行
った。
まず始めに、圧負荷心肥大、心線維化モデルである横行大動脈縮窄手術を行い、心臓
に集積する炎症細胞につきフローサイトメトリーを用いて解析した。その結果、心臓リ
モデリング過程において、&'E)陽性マクロファージが相性に心筋組織に浸潤す
ることが分かった。興味深い事に急性期に浸潤するマクロファージは0が優位であるの
に対し、亜急性期に浸潤する細胞は0優位であった。また急性期に集積する0細胞は
3LPRQLGD]ROH陽性であり、低酸素環境に集積していると考えられた。そこで0活性化に
必要な+,)αをマクロファージ特異的に欠失したマウス(m+,)α&.2)を作成し、大
動脈縮窄術を施行したところ、m+,)α&.2では急性期に心臓に集積する0が著明に減
少するだけでなく、心重量の増大、心筋収縮能の低下、心臓線維化の増強など心機能の
有意な増悪が確認された。以上より急性期に心臓に集積する0が心筋保護的に作用して
いることが確認された。現在、0依存的心筋保護作用の分子機構解明を試みると共に、
0由来心筋保護因子の探索を継続している。
39
S2-4
骨格筋からみた循環器疾患治療戦略
いずみややすひろ
はなたにしんすけ
きむらゆういち
あらきさとし
おがわひさお
泉 家 康 宏、花 谷 信 介、木村優一、荒 木 智、小川久雄
熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科
近年の薬物療法非薬物療法の進歩に伴い慢性心不全患者の予後は著明に改善してきたしかしなが
ら一旦心不全を発症するとその予後は依然として悪くより有効な治療介入が求められている新たな
治療標的として注目されているのが骨格筋であるなぜなら慢性心不全患者では心臓カヘキシアと称
される進行性の骨格筋萎縮が高頻度に発生し死亡の独立した危険因子であることが明らかにされて
いるからである一方心不全患者の非薬物療法の一つとして心臓リハビリテーションの有用性はすで
に確立されその内容に関しても有酸素運動に加えて骨格筋量の増大を目的としたレジスタンストレ
ーニングが重要な要素の一つとなっているしかしながらなぜ骨格筋量の維持・増加が心不全患者に有
用なのか"という疑問はこれまで明らかにされていない近年骨格筋は運動器としての機能のみなら
ず様々な生理活性物質を分泌する内分泌臓器として働くことが明らかとなってきたわれわれはこ
れまでレジスタンストレーニングにより活性化される $NW シグナルを骨格筋特異的に活性化するマウ
スを作成し代謝調節因子心保護・血管新生因子骨格筋再生因子などが骨格筋肥大に伴い分泌され
ることを報告し骨格筋と他臓器のクロストークの分子機序を明らかにしてきたこれまでいくつかの
心血管保護作用を有する骨格筋由来因子が報告されてきておりそれらを標的とした新たな治療戦略
すなわち骨格筋心連関による心血管リモデリング制御に期待が寄せられている本講演では骨格筋を
標的とした治療介入と将来の展望について基礎・臨床の両面から述べたい
40
S2-5
腸内フローラへの介入と腸管免疫修飾による動脈硬化予防
やましたともや
ひらたけんいち
山下智也、平田健一
神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野
動脈硬化は慢性の炎症性疾患であるとされており、様々な免疫細胞・サイトカイン・ケモカインな
どの病態への関与が報告されている。しかし、臨床の現場において、炎症や免疫反応に直接介入する
動脈硬化性疾患の予防法はまだない。我々は、動脈硬化の抗炎症免疫療法を探索する中で、腸管から
の免疫修飾により動脈硬化が予防できる可能性を見出した。抗体医薬である抗 &' 抗体や免疫修飾物
質としての報告もある活性化ビタミン ' を経口で投与すると、マウスの腸管において未成熟型免疫
寛容性樹状細胞と制御性 7 細胞7UHJの存在比率が上昇することが分かり、同時に動脈硬化抑制効果
が証明された。ここで紹介した抗 &' 抗体は、血中移行がない少量で効果が発揮され、また活性化ビ
タミン ' の腹腔内投与では腸管での免疫反応は誘導されないことも分かっており、経口投与による腸
管免疫修飾に意義があると考えている。これらの研究によって“腸管免疫修飾による動脈硬化予防”
という新たな疾患予防の概念を提唱した。その後、腸管免疫に強く関連する細菌叢(腸内フローラ)
にも注目して研究を進めている。近年、腸内フローラと肥満や糖尿病などの代謝性疾患発症との関係
が報告され、新たな疾患の危険因子としての可能性や治療ターゲットとして積極的に研究がなされて
いる。動脈硬化と腸内細菌の関連を調査した研究としては、ホスファチジルコリンを投与したマウス
で、その腸内細菌が産生するコリン代謝産物が動脈硬化を悪化させ、抗生物質で除菌するとその悪化
が抑制できるという報告がある。しかし、どのような菌の属種が動脈硬化を悪化させるとか、免疫調
節との関連を同時に解析した研究はない。我々の研究室では、
「動脈硬化」
「腸管免疫」そして「腸内
フローラ」の三者の関連を調査する研究を行っており、その研究の一部をご紹介したい。
41
O1-1
脳卒中易発症性自然発症高血圧ラットの高血圧形成過程において制御性7 細胞の減少と
脾臓交感神経が関与する
かつきまさと
ひろおかよしたか
きしたくや
すなかわけんじ
甲木雅人、廣 岡 良 隆、岸拓弥、砂川賢二
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学講座
【目的】近年、高血圧の病態に 7 細胞の活性化が関わっていることが注目されている。その中で、制
御性 7 細胞は免疫応答を抑制することにより、アンジオテンシンⅡ負荷による血圧上昇反応を抑制す
ることが報告されている。しかし、高血圧進展において制御性 7 細胞がどのように関わるかは不明で
ある。我々は高血圧における制御性 7 細胞の発現様式を解析し血圧との関連について検討した。
【対象と方法】自然発症性高血圧モデル動物である脳卒中易発症性自然発症高血圧ラット(6+563)お
よび対照として正常血圧ラット(:.<)を使用した。 週令、 週令、 週令の両群において、血圧を
測定するとともに脾臓の制御性 7 細胞についてフローサイトメトリを用いて解析し、血圧と制御性 7
細胞の関連性を調べた。また、免疫系を修飾しうる脾臓交感神経に注目し、〜 週令の 6+563 で脾臓
交感神経除神経を行った後の血圧の推移を観察し、除神経から 週間後に脾臓の制御性 7 細胞につい
て調べた。
【結果】
両群間で 週令では血圧および制御性7 細胞に有意な差は見られなかったが、
週令では6+563
の血圧上昇は生じていないにもかかわらず、:.< と比べて 6+563 で脾臓の制御性 7 細胞が減少してい
た。 週令では 6+563 で血圧が有意に上昇し、制御性 7 細胞は減少したままであった。また、〜 週
令で脾除神経を行うと高血圧の発症・進展が遅れ、 週間後の脾臓の制御性 7 細胞は偽手術群と比べ
て有意に増加していた。
【結論】6+563 における高血圧発症・進展には制御性 7 細胞の減少が関わっており、それには脾臓交
感神経入力が影響していることが示唆される。
53
O1-2
視床下部結節乳頭核-延髄孤束核経路は運動時の昇圧反応に関与する
わ き ひでふみ
和気 秀 文 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科生理学
【目的】身体的・精神的ストレスに対する循環応答の中枢性制御は極めて複雑であり、そ
の機序の多くは不明である。我々は運動時の循環応答について着目し、その中枢性機序に
ついて延髄孤束核(176)の役割を中心に調べている。これまでの研究では()ラットの
自発性走運動( 週間以上)は、176 におけるヒスタミン + 受容体の遺伝子発現に影響す
ること、
()176 では他のサブタイプに比べ + 受容体遺伝子発現量が高く、+ 受容体タン
パクは神経細胞に発現していること、
()176 への + 受容体アゴニスト微量注入は、昇圧・
頻脈反応(運動時と似た循環反応)を惹起すること、さらに()176 内 + 受容体を介し
た昇圧反応は、長期の運動習慣により有意に増大すること(可塑性)を明らかにした。本
研究では 176 機能を調節するヒスタミン作動性神経系の局在について検討した。
【方法】ヒスチジン脱炭酸酵素(+'&)抗体を用いてヒスタミン神経細胞の局在について調
べた。また、176 へ逆行性蛍光トレーサーを注入して 176 投射性神経細胞群を標識し、+'&
抗体陽性部位と比較した。さらに、ウレタン麻酔下ラットを用いた生理機能実験により、
組織学的同定部位の循環調節に関わる役割について調べた。
【結果】これまでの報告のように、+'& 抗体陽性細胞の多くは、視床下部結節乳頭核(701)
に局在していた。176 への逆行性蛍光トレーサー注入により、701 細胞群が標識されたこと
から、ヒスタミン神経を介した 701-176 経路の存在が示唆された。麻酔下ラットの 701
を電気刺激したところ、昇圧・頻脈反応を誘発することがわかった。さらに、701 刺激に
よる昇圧反応は、176 への + 受容体アンタゴニスト注入により部分的に抑制されることが
分かった。
【結論】以上より、運動時の循環調節の一部には 701-176 経路が関与していること、また
当該経路の可塑性が運動時の循環調節能亢進(トレーニング効果)に寄与している可能性
が示された。尚、本研究の一部は科研費 および によって行われた。
54
O1-3
求心性迷走神経刺激は交感神経を介して頸動脈圧反射機能を変化させる
おおがやすひろ
きしたくや
さくけいた
いでともみ
すなかわけんじ
大賀泰寛1、岸拓弥2、朔啓太1、井手友美1、砂川賢二1
九州大学大学院医学研究院循環器内科
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学
【目的】動物モデルにおいて、迷走神経刺激治療の心不全に対する著明な病態および予後改善効果が
報告されている。また、求心性迷走神経刺激$IIHUHQW9DJDO1HUYH6WLPXODWLRQ$916は刺激強度
依存に交感神経活動6\PSDWKHWLF1HUYH$FWLYLW\61$を抑制する事が知られている。本研究では、
循環調節の強力な制御機構である頸動脈圧反射に対して、
$916 が 61$ を介して与える影響を検討した。
【対象と方法】6SUDJXH'DZOH\ ラットQ を使用した。麻酔・人工呼吸管理下に両側頸動脈を体循
環から分離し、両側減圧神経・迷走神経を切断した。頸動脈洞圧&DURWLG6LQXV3UHVVXUH&63はサ
ーボポンプで任意に制御し、動脈圧反射を開ループ状態にした。$916 は右迷走神経中枢側断端に電極
を取り付け、61$ が 以上低下する強度で刺激した。&63 を変化させながら 61$、動脈圧$UWHULDO
3UHVVXUH$3を同時記録し、&6361$ 関係中枢弓および 61$$3 関係(末梢弓)の静特性・+]
領域での動特性を求め、$916 による影響を評価した。
【結果】静特性評価において、$916 は中枢弓を下方移動させることで 61$ を低下させたが、末梢弓は
変化させなかった。平衡点における中枢弓の JDLQ は有意に減少した&RQWURO±YV$916
±DXPP+J。動特性評価では、中枢弓の JDLQ が全周波数帯で減少傾向を示したが、SKDVH
に変化はなかった。末梢弓に変化はみられなかった。
【結論】$916 は動脈圧受容器反射の中枢弓を下方移動させ 61$ を低下させることが明らかとなった。
一方で、高強度刺激は動脈圧反射機能を減弱させる可能性も示唆された。
55
O1-4
多機能プロテアーゼによる心拍数制御機構
お お の み き こ
ひらおかよしのり
まつうらひろし
にしきよと
さいじょう
さかも とじろう
ちんひろとし
大野美紀子 1、 平岡義範 2、 松 浦 博 3、西清人 1、 西 城 さやか 1、 坂本二郎 1、 陳博敏
AE
EA
まきやまたける
A E
A E
EA
きたとおる
A
E
E
きむらつよし
A
AE
A
E
E
A
AE
E A
A
E
E
A
AE
EA
AE
1
E A
にしえいいちろう
牧 山 武 1、 北 徹 4、 木村剛 1、 西英一郎
E A
EA
AE
1
EA
1
京都大学大学院医学研究科循環器内科学講座
神戸学院大学薬学部薬学科
3
滋賀医科大学生理学講座
4
神戸医療センター中央市民病院
2
【背景・目的】HB-EGF の結合タンパクとして同定したナルディライジン(NRDc)は、M16 フ
ァミリーに属するメタロプロテアーゼである。これまで、NRDc が HB-EGF をはじめとする
膜貫通型タンパク質の細胞外ドメインシェディングを増強することを報告してきた。NRDc
欠損マウス(NRDc-/-)の作製・解析を行ったところ、神経系における軸索・髄鞘形成不全や、
低体温等、多彩な表現型を呈した。髄鞘形成の分子機構は、NRDc が髄鞘形成制御因子ニュ
ーレギュリン 1 のシェディングを調節することによるものであったが、体温調節において
は、NRDc が核内で PGC1αと複合体を形成し、褐色脂肪組織における UCP1 の発現を制御す
ることが明らかとなり、NRDc が細胞外ドメインシェディング、核内転写調節、と細胞局在
によって異なる機能を持つことが示唆された。NRDc-/-が高度の徐脈を呈することから、
NRDc の心臓での機能を明らかにすることを目的とした。
【方法】①Tail cuff を用いた血圧・脈拍の測定、②長時間心電図テレメトリー解析、③
組織学的解析を行った。
④ラット初代心筋細胞を用いた内因性 NRDc のノックダウンによっ
て変化する各種遺伝子の発現をリアルタイム PCR にて評価し、⑤抗 NRDc 抗体によるクロマ
チン免疫沈降法を行った。
【結果】①NRDc-/-は高度の低血圧・徐脈を呈した。②長時間心電図の解析結果から、
NRDc-/-は昼夜問わず徐脈を呈した。
薬理学的自律神経遮断法を用いた内因性心拍数の解析
では、野生型と比較して有意に低下し、NRDc-/-の徐脈の原因は、洞房結節自動能の低下で
あることが示唆された。③NRDc-/-の心臓は低形成を呈した。NRDc-/-の心臓において、洞
房結節自動能の生成に重要な役割を持つイオンチャネル群の発現低下が認められた。④ラ
ット初代培養心筋細胞において内因性の NRDc 発現をノックダウンすると、同イオンチャネ
ル群の発現も低下した。⑤NRDc が当該イオンチャネル群の遺伝子制御領域に結合すること
を示した。
【結論】NRDc は洞房結節自動能に関わるイオンチャネルの発現を直接制御し、心拍数を制
御している可能性が示唆された。
56
O1-5
中枢性 $7 受容体の阻害は高血圧ラットの心房細動持続時間を降圧度非依存性
に抑制する
ながやまとも み
きしたく や
ひろおかよしたか
ちしゃ き あ き こ
む か い やすし
いのうえしゅうじろう
すながわけん じ
長 山 友 美、岸 拓 弥、廣 岡 良 隆 、 樗 木晶子、向井 靖 、井 上 修 二 朗 、砂 川 賢 二
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学講座
九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座
九州大学大学院医学研究院保健学部門
【目的】心房細動の進展には多くの因子、特に高血圧の関与が強く示唆されている。我々
はこれまで、中枢性アンジオテンシンⅡタイプ ($7)受容体が高血圧の発症進展におい
て重要であることを示してきた。そこで今回の研究では、中枢性 $7 受容体の阻害が高血
圧ラットにおいて心房細動持続時間を抑制できるかどうかを調べた。
【対象と方法】 週齢の脳卒中易発性高血圧自然発症ラットを人工脳脊髄液の脳室内投与
群(69(+)
、$7 受容体阻害薬であるロサルタンの脳室内投与群(6/26)
、降圧薬であるヒ
ドララジンの内服群(6+<')に分け、 週間の薬剤投与を行った。また、対照として同週
齢の正常血圧ラット(:.<)に人工脳脊髄液を脳室内投与した。各群において経食道電気刺
激により心房細動を誘発し、持続時間を評価した。
【結果】69(+ では、:.< と比較して心房細動が長く持続した(69(+YV:.<
VHFQ )
。薬剤投与 週間後の収縮期血圧は 6/26、6+<' の両群で 69(+ と比
べ有意に低下していた(69(+YV6/26YV6+<'PP+J
Q 各々3)
。心房細動の持続時間は、6/26 で 69(+ よりも有意に抑制されてい
たが、6+<' では十分な降圧にもかかわらず房細動持続時間は抑制されなかった(6/26
YV6+<'Q 36/26YV69(+)
。
【結論】中枢性 $7 受容体の阻害は高血圧ラットの心房細動持続時間を降圧度非依存性に
抑制した。高血圧における心房細動の発症進展抑制治療において、中枢性 $7 受容体の阻
害が新たな治療標的となりうる可能性を示唆する。
57
O1-6
交感神経活動と血中ノルアドレナリンの関係は直線的か?
かわだとおる
しみずしゅうじ
りめいふぁ
ていさん
あきやまつよし
川田徹 1、清水秀二 1、李梅花 1、鄭燦 1、ターナーマイケルジェームズ 1、 秋 山 剛
AE
E A
AE
AE
AE
AE
AE
AE
A E
2
E
A
すぎまちまさる
A E
杉町勝
1
2
1
E A
国立循環器病研究センター循環動態制御部
国立循環器病研究センター心臓生理機能部
【目的】交感神経活動(SNA)の指標として血中ノルアドレナリン(NA)濃度があるが、NA
濃度がどの程度、電気的な SNA を反映するか、あるいは両者の関係が直線的かどうかはあ
まり知られていない。本研究の目的は、動脈圧反射による交感神経性の血圧調節における
SNA と血中 NA との関係を定量化することである。
【対象と方法】麻酔下の Wistar Kyoto ラットを用い、頚動脈洞を体循環系から分離し、内
臓交感神経に電極をかけて SNA を記録した。頚動脈洞内圧(CSP)
をサーボポンプで制御し、
2 分間ずつ 60、100、120、140、180 mmHg の圧を加え、1 分 30 秒から 1 分 40 秒までの平均
SNA と、1 分 40 秒目に動脈採血(0.2 mL)して測定した血中 NA 濃度および血中アドレナリ
ン(Ad)濃度との関係を調べた。SNA は CSP = 60 mmHg のときの値を 100%、実験終了時に
ヘキサメトニウムを投与して測定したノイズレベルを 0%として計算した。
【結果】SNA と血中 NA は各個体において直線的な関係を示した(r2 の最小値 0.925、最大
値 0.991)
。しかし、y 切片と傾きには個体ごとのばらつきがみられた(y 切片(pg/mL)の
最小値 25.9、最大値 63.6、平均値 47.8;傾き((pg/mL)/%)の最小値 0.69、最大値 1.38、
平均値 1.02)
。
これに対して、SNA と血中 Ad はあまり相関しない例があり(r2 の最小値 0.081、
最大値 0.886)
、y 切片と傾きのばらつきも大きかった。
【結論】動脈圧反射による交感神経性の血圧調節において、電気的な SNA と血中 NA は個体
内ではほぼ直線的な関係を示し、血中 NA は SNA をよく反映した。しかし、y 切片と傾きに
は個体差がみられるため、
血中 NA を指標に SNA を補正して個体間の比較が可能かどうかに
ついては、さらなる検討が必要である。
58
O2-1
アストロサイト特異的 AT1 受容体阻害は心筋梗塞後の左室リモデリングを抑制する
いせかわけんご
ひろおかよしたか
きしたくや
すなかわけんじ
伊勢川健吾 1、 廣岡良隆 2、岸拓弥 3、砂川賢二 1
AE
AE
AE
EA
AE
AE
AE
AE
1
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座
3
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学講座
2
【目的】心不全で、脳内 AT1 受容体活性化を介した交感神経活動の過剰な亢進は、心筋梗塞後
の左室リモデリングの進行に深く関わっている。交感神経活動を規定する心臓血管中枢の活性
化の機序として AT1 受容体を介する酸化ストレスの増大が示されているが、細胞についての検
討は少ない。我々は、神経血管ユニットにおいて重要な役割を持つアストロサイトの機能不全
が心不全の病態を進行させることを提唱する。正常なアストロサイトに AT1 受容体はほとんど
存在しない。本研究の目的は心不全において、ニューロンの AT1 受容体ではなく、アストロサ
イトの AT1 受容体の重要性を明らかにすることであった。
【対象と方法】Cre-LoxP システムを用いて、アストロサイト特異的 AT1 受容体ノックアウトマ
ウス(GFAP/AT1R(-/-))を作成した(GFAP: Glial fibrillary acidic protein)。8~10 週齢
の(GFAP/AT1R(-/-))及びコントロールマウス(GFAP/AT1R(+/+))において、心筋梗塞を作成
し、心臓超音波検査で経時的に評価を行った。心筋梗塞 1 か月後に、GFAP と AT1 受容体の二重
免疫染色による組織学的変化、尿中カテコラミン排泄量による交感神経活動の評価、心重量測
定を行った。
【結果】心筋梗塞作成 1 か月後の二重免疫染色で、GFAP/AT1R(+/+)では AT1 受容体増加を伴う
GFAP 陽性細胞の形態変化を認めた。GFAP/AT1R(-/-)では GFAP/AT1R(+/+)と比較し、心臓超音波
検査で左室拡大が有意に抑制され、心重量も有意な減少を認めた。心筋梗塞 1 か月後の尿中カ
テコラミン排泄量の増加は、GFAP/AT1R(-/-)で有意に抑制された。
【結論】アストロサイトの AT1 受容体を介した過剰な交感神経活動の亢進が、心筋梗塞後心不
全の病態において重要な役割を持つ可能性が示唆される。
59
O2-2
オートファジー機能異常による心不全発症機構の解明
まえしまやすひろ
いそべみつあき
前 嶋 康 浩、磯部光章
東京医科歯科大学医学部附属病院循環器内科
【目的】オートファジーは変性した蛋白質や障害をうけたオルガネラを除去して細胞における恒常性
を維持する役割を担っている。心機能の維持にはオートファジーが最適なレベルに保たれていること
が欠かせないが、その分子機序についてはいまだ解明されていない。0VWはアポトーシス誘導性キナ
ーゼであり、+LSSRシグナル経路の主要な制御因子でもある。我々はこれまでに、心筋において0VW
を過剰発現させると拡張型心筋症が発症することや、内在性の0VWを阻害するとストレスにより誘導
される心筋細胞のアポトーシスが抑制されることを報告してきた。今回、我々は0VWにはオートファ
ジーを阻害して蛋白質の品質管理システム機構を負に制御する機能があることを発見したので報告す
る。
【結果】まず我々は、0VWは心筋細胞においてオートファゴソームの形成を抑制し、オートファジー
の代表的な基質であるSの集積とアグリソームの蓄積を促進することを発見した。オートファジー制
御因子の一つである%HFOLQは、クラス,,,3,キナーゼである9SVと結合して複合体を形成すること
でオートファゴソームの形成に深く関与しているが、%FO%FO[/は%HFOLQと結合して
%HFOLQ9SV複合体の形成を阻害する。我々は、0VWが%HFOLQをリン酸化して%HFOLQと
%FO%FO[/との結合を強化して%HFOLQ二量体を安定化させ、その結果%HFOLQ9SV複合体のキナ
ーゼ活性を抑制してオートファゴソームの形成を阻害することを見いだした。さらに、0VWが%HFOLQ
と%FO%FO[/との結合を促進することにより、アポトーシス促進蛋白質である%D[の%FO%FO[/
からの解離が促進されアポトーシスが誘導されることも発見した。マウスの心筋梗塞モデルやヒトの
拡張型心筋症における不全心筋においては0VWの活性が上昇しており、オートファジーが抑制されア
グリソームの蓄積が顕著であることを認めた。
【結論】0VW は %HFOLQ をリン酸化して %HFOLQ、%FO%FO[/、%D[ との結合能を制御することに
より、オートファジーとアポトーシスとを協調的に制御して心筋障害に強く関与していることが示唆
された。
60
O2-3
ドネペジル中枢投与の心保護における末梢性α7-ニコチン性アセチルコリン
受容体の影響
りめいふぁ
ていさん
かわだとおる
いながきまさし
うえむらかずのり
すぎまちまさる
李梅花 、鄭燦 、川田徹 、稲垣正司 、 上村和紀 、 杉 町 勝
AE
AE
AE
AE
AE
E A
AE
AE
AE
EA
A E
E
国立循環器病研究センター循環動態制御部
【目的】これまでの研究で、私たちは電気刺激あるいは薬理的に迷走神経作用を増強させる
ことによって、
心筋梗塞後の重症心不全ラットに著明な予後改善効果がみられることを示し
たが、その機序は不明である。ドネペジルの中枢投与による心臓保護作用、またはコリン性
抗炎症作用や血管新生作用にはα7-ニコチン性アセチルコリン受容体(α7-nAChR)が関与
することから、本研究では心筋梗塞後の重症心不全ラットにおいて、ドネペジル中枢投与に
よる心臓保護作用における末梢性のα7-nAChR の役割を検討した。
【対象と方法】心筋梗塞作成後1週間生存した心不全ラットに対して、麻酔下に血圧/心電
図のテレメトリ装置を植え込み、さらに7日後、生存したラット(n=30)にミニポンプを植
え込んで脳室内にドネペジルを中枢投与(0.1mg/kg/day)した。これを無作為に末梢皮下生
食水投与群(SDT)とα7-nAChR 遮断薬投与群(5 μg/kg/day, α7DT)に分けて、投薬を6
週間持続した。最後に、血行動態、神経液性因子、心重量を測定して、心臓リモデリングの
状態と心機能を評価した。
【結果】α7DT 群は SDT 群に比べて、心拍数と心重量が有意に高く(346±6 vs. 313±5 bpm,
p<0.001; 3.19±0.08 vs. 2.91±0.06 g/kg, p<0.05)、心機能の悪化を認めた(心係数111
±20 vs. 168±16 ml/min/kg, p<0.05; 左心室圧微分最大値3429±122 vs. 4042±111
mmHg/sec, p<0.05)。また、α7DT 群において心不全の重症度を反映する血中ノルエピネフ
リン(8269±3578 vs. 1269±333 pg/ml, p<0.05)と BNP(505±28 vs. 433±13 pg/ml, p
<0.05)とも有意に高値を示した。
【結論】
心筋梗塞後重症心不全ラットにおけるドネペジルの中枢投与による心臓保護作用に
おいて、末梢性のα7-nAChR が重要な役割を果たす可能性が示唆された。
61
O2-4
心筋梗塞急性期における Neuro-Mechanical Unloading Therapy は劇的な梗塞
サイズ縮小効果を発揮する
さくけい た
かき の たかもり
あかしたくや
ありむら た か ひ ろ
い
で とも み
きしたく や
すながわ け ん じ
朔 啓 太 1、柿 野 貴 盛 1、赤司 卓也 1、有村 貴 博 1、井手 友 美 1、岸 拓 弥 2、砂川 賢 二 1
AE
1
2
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
AE
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学講座
【背景】心筋梗塞における梗塞巣残存は発症後中長期における心不全のリスクであり、心
不全発症患者は不良な転機をたどることが知られているが、発症早期のカテーテル再還流
療法や薬物療法が発展した現代においても梗塞巣を最小化する治療は十分ではない。以前、
我々は左室補助装置 (LVAD)による完全補助が梗塞サイズの抑制に寄与することを報告し
た (循環制御学会総会 2013)。一方、心筋梗塞に対しての迷走神経刺激 (VNS)もまた梗塞
縮小効果を示す。本研究では LVAD と VNS の併用治療が犬虚血再還流モデルにおける梗塞サ
イズに及ぼす影響を検討した。
【方法】21 匹の雑種犬を用い、大動脈圧、右房圧、左房圧、心拍出量、左心室圧を同時記
録した。左心室に挿入したカテーテルから遠心ポンプを用いて完全 LVAD 依存の循環を維持
した。右頚部迷走神経を電気刺激(10Hz)し、心拍数を 10-20%低下させる電圧に設定した。
左前下行枝をシルク糸で 90 分閉塞させた後に 300 分間の再還流を行った。Control 群 (治
療なし, N=6)、VNS 群 (N=4)、LVAD 群 (N=6)および VNS+LVAD 群 (N=5)の 4 群に割り付け、
再灌流後に梗塞サイズ (リスク領域で規格化)の評価を行った。
【結果】総血流量および体血圧は 4 群間で大きな違いはなく、左房圧は LVAD 使用群で著明
な低下を認めた。VNS 群、LVAD 群ともに Control 群と比較して有意に梗塞サイズは低下し
ており (Control: 41.8±7.1%, VNS: 31.6±7.0%, LVAD: 5.8±3.3%, p<0.05)、VNS+LVAD
群においては-97%という劇的な梗塞縮小を認めた (1.2±1.1%, p<0.01)。
【結論】VNS と LVAD の併用による Neuro-Mechanical Unloading Therapy は血行動態を維持
しつつ、劇的な梗塞縮小効果を発揮する。
62
O2-5
心筋障害時における 7UDQVORFDWRU3URWHLQ7632動態の非侵襲的描出の検討
おかだしょう
おだかけんいち
たどころひろゆき
こばやしよしお
岡 田 将、小高謙一、田 所 裕 之、小林欣夫
千葉大学大学院医学研究院循環器内科学
放射線総合医学研究所分子イメージング研究センター
東海大学開発工学部医用生体工学科
【 背 景 】心不全の進展には心臓局所のみならず脳や腎臓など他臓器との相互作用が重要である
が、その詳細な機序は未だ不明である。7UDQVORFDWRU3URWHLQ7632は多くの臓器に発現しステ
ロイド合成や炎症細胞の活性化等に関与するが、心臓における役割は不明である。一方、本分
子は脳への電気刺激後に心臓で発現が増加するとの報告もあり、7632 を介した臓器間相互作用の可
能性が示唆される。近年我々はこの 7632 を描出する新たな 3(7OLJDQG として>&@'$& を開発し、良
好な画質を得ている。
【目的】心筋障害時における心臓、脳、副腎における 7632 発現の経時変化を追い、臓器間の相互連関
を評価する。
【対象と方法】無処理あるいは偽手術を対照として心基部へフェノール塗布を行い心筋障害ラットモ
デルを作成した。術後早期 日後および遠隔期 日後に、心臓、副腎、脳における 7632 動態を
>&@'$&3(7 を用いて評価し、
各臓器間の関連を検討した。また遠隔期においてはエコーによる心
機能評価および ,0,%* を用いた交感神経機能評価を行い、7632 発現との関連を検討した。
【結果】術後早期において心 7632 発現は低下したが、その分布は心筋障害群でのみ不均一であった。
また同群では心臓後壁と延髄における 7632 発現に有意な相関を認めた。副腎における 7632 発現は障
害群でのみ低下していた。術後遠隔期においては、心筋障害群でのみ心後壁 7632 発現と 0,%*ZDVKRXW
UDWLR に相関傾向を認めた。また同群では、術後早期の副腎 7632 発現と 0,%*ZDVKRXWUDWLR に相関
傾向を認めた。
【結論】心障害時における 7632 発現は、局所変化のみならず臓器間の相互作用を反映し、後の心臓交
感神経機能障害を反映する指標となる可能性がある。
63
O2-6
迷走神経刺激による心不全ラットの渇き抑制作用
ていさん
りめいふぁ
かわだとおる
いながきまさし
うえむらかずのり
すぎまちまさる
鄭 燦 、李梅花、川 田 徹 、稲垣正司、上 村 和 紀 、 杉 町 勝
国立循環器病研究センター循環動態制御部
【目的】迷走神経電気刺激(916)が慢性心不全に対する新しい治療法として提案されてか
ら10年余り経過し、既にフェーズ2臨床試験まで展開しているが、その治療機序はまだ
それほど明確ではない。迷走神経は循環容量調節などに関与することから、本研究では、
916 が心不全ラットの飲水行動、飲水量、血中バソプレシンに及ぼす影響を調べた。
【対象と方法】8週齢のオス 6' ラットの左冠状動脈を結紮し心筋梗塞を作成した。生存し
た心不全ラットに対して、麻酔下に迷走神経刺激電極と刺激装置を埋め込み、術後7日か
ら、無作為に 916 群(Q )対照群(Q )分けて、916 を4週間行った。その間、落滴セ
ンサーを用いて飲水行動を記録し、最後に、血行動態、神経液性因子、心重量を測定して、
心臓リモデリングの状態と心機能を評価した。
【 結 果 】対 照 群 ラッ ト では 、 渇き ( 一回 飲 水量) が 有 意に 増 加 した (7.1±1.6 vs.
13.4±1.3mL/kg, p<0.01) が 、 916 群 で は 渇 き の 増 加 が 認 め ら れ な か っ た (7.1±1.5
vs.6.3±0.7mL/kg, ns)。また、916 群の血中バソプレシンは対照群より低く(552±364
vs.874±382pg/mL, p<0.05)、心機能も有意に改善した。
【結論】心筋梗塞後に飲水行動が変化し、一回飲水量が増えることは、循環の恒常性維持
に不利であり、心不全の増悪因子になる可能性がある。916 によるバソプレシン分泌の抑
制と渇きの増加の抑制は、心不全に対する重要な治療機序であると考えられる。
64
O3-1
臨床使用を想定した重炭酸リンゲル液中不溶性微粒子の検討
あんどうかずお
きのしたひろゆき
やすだよしたか
さかきばらけんすけ
あかほりたかひこ
はたけやまのぼる
ふじはらよしひろ
安藤一雄、木 下 浩 之、安田吉孝、榊 原 健 介 、赤 堀 貴 彦、 畠 山 登 、藤 原 祥 裕
愛知医科大学医学部麻酔科学講座
【目的】重炭酸リンゲル液では含有カルシウムイオンと重炭酸イオンの反応で輸液中に炭酸カルシウ
ムの結晶を発生する可能性があると考えられる。今回、臨床シミュレーション下で不溶性粒子発生を
重炭酸リンゲル液製剤と生理食塩液で比較検討した。
【対象と方法】大塚製薬社製ビカネイト®PO 製剤(&DP(T/ と +&2P(T/ を含有)と生理
食塩液 PO 製剤を、、 あるいは °&で 時間保存したのち室温 & で以下の検討を行っ
た。FP 成人用輸液セットに * 注射針を接続し各製剤を POKU で滴下させた。輸液製剤
の最後の PO を採取、リオン社製パーティクルカウンターで不溶性粒子数を測定した(図1)
。
【結果】両製剤とも検討 温度および輸液速度すべてで、不溶性粒子数は日本薬局方の基準(PO 中、
μP 以上 個、μP 以上 個を越えない不溶性粒子)を満した。
【結論】本研究条件下では、輸液回路を経由した重炭酸リンゲル液でも日本薬局方基準を超える不溶
性粒子は発生しないことが示唆された。
65
O3-2
/システインはラット腸間膜動脈で 1$'3+ オキシダーゼを介してスーパーオキ
シドを産生する
やすだよしたか
きのしたひろゆき
あんどうかずお
まつながえり
なかむらえみ
はたけやまのぼる
ふじわらよしひろ
安田吉孝、木 下 浩 之 、安藤一雄、松永絵里、中村絵美、 畠 山 登 、藤 原 祥 裕 愛知医科大学医学部麻酔科学講座
【目的】動脈硬化病変をもつ患者では、/システイン血漿濃度が高値に達するが、その病
的意義は不明である。一方、スーパーオキシドは、血管への酸化ストレスに関与する。本
研究では、/システインが内臓血管でスーパーオキシドを産生するかを明らかにすること
を目的とした。
【対象と方法】摘出ラット腸間膜動脈より内皮温存スライス標本(厚さ 20 µm)を作製し
た。/システイン×PRO/を適用した標本にジヒドロエチジウムによる赤色蛍光
染色を施し、血管内スーパーオキシドレベルを評価した。
【結果】/システインは血管内スーパーオキシドレベルを増大させ、この増大はスーパー
オキシド拮抗薬 7LURQ、
選択的 1$'3+ オキシダーゼ阻害薬 JSGVWDW により抑制されたが、
JSGVWDW の DVFUDPEOHGQRQLQKLELWRU\YHUVLRQVJSGVWDW では抑制されなかった
(図)
。
【結論】/システインは、1$'3+ オキシダーゼ活性化によりスーパーオキシドを産生する。
高濃度の /システインは血管への酸化ストレスの一因となり内臓血管拡張反応を障害す
る可能性がある。
66
O3-3
ドネペジルは心筋梗塞ラットの心筋糖代謝を亢進させることにより心筋
保護作用を示す
ありかわ みきひこ
A E
かきぬま よしひこ
の ぐ ち た つ や
さ と う たか ゆき
有川 幹彦 、 柿沼 由彦 、 野口 達哉 、 佐藤 隆 幸
E A A E
E A
A E
E A A E
E A
A E
E A A E
E A
A E
E A A E
E A A E
E
高知大学医学部循環制御学教室
【目的】ドネペジルは、慢性心不全モデル動物のポンプ機能低下を抑制し、生命予後
を改善することが報告されている。しかし、その機序は明らかにされていない。一方
で、心不全病態では、心筋エネルギー利用効率の低下が機能不全を引き起こす代謝的
悪循環が認められる。したがって、心筋における基質代謝は心不全薬物療法の治療標
的となり得る。本研究では、ドネペジルの心筋エネルギー代謝に対する効果を検討し
た。
【対象と方法】ラットの左冠動脈を結紮して心筋梗塞モデルを作成し、ドネペジル投
与群(5 mg/kg/day)と非投与群に分けた。術後 8 週で心拍数を非侵襲的に測定した
後、ランゲンドルフ灌流心を用いて左心室の収縮性を評価した。また、心筋組織およ
び培養心筋細胞において、各種の基質トランスポーターの発現量を調べた。
【結果】両実験群間に心拍数の有意な差は認められなかった。一方、ドネペジル投与
群は、非投与群に比べて、有意に高い左心室の収縮性を示した(left ventricular
developed pressure; 投与群:125 ± 11 mmHg, 非投与群:105 ± 11 mmHg, P<0.
05)。このとき、投与群の心筋組織中のエネルギー代謝は解糖系優位であった。また、
ドネペジルは、培養心筋細胞において、グルコーストランスポーター(GLUT)の発現
量を増加させ(GLUT1: 133%, GLUT4: 180%, P<0.05)、グルコースの取り込み量を
増加させた(185%, P<0.05)。さらには、自発性拍動数も有意に増加させた(93 ±
4 bpm vs 48 ± 4 bpm, P<0.01)。これらのドネペジルの作用は、GLUT 阻害剤で
ある fasentin 処理により抑制された。
【結論】ドネペジルは、心筋梗塞モデルラットにおいて、心筋 GLUT 発現量を増加さ
せて糖代謝を亢進させることにより心臓ポンプ機能の低下を抑制する。
67
O3-4
四塩化炭素誘発肝障害ラットにおける血中可溶化 71)5 および5 レベルの
経時的変化
やすだ ゆ き
いじりよしお
か と う りゅうじ
お か だ よしかつ
た な か かずひこ
はやし て つ や
安田侑紀、井尻好雄、加藤 隆 児 、岡田 仁 克 、田中 一 彦 、 林 哲也
1
大阪薬科大学循環病態治療学研究室
大阪医科大学病理学教室
特定医療法人仁真会白鷺病院
【目的】薬物性肝障害(',/,)における臨床検査値の指標として $67、$/7 が用いられてい
る。
しかし、$67 の上昇には原因物質投与後 日、$/7 ではそれ以上の日数が必要であり、
',/, の予測、予防のためには、より鋭敏なバイオマーカーが求められる。一方、非アルコ
ール性脂肪肝炎(1$6+)や & 型肝炎時の肝線維化のバイオマーカーとして、血液中への可
溶化 71)5(V71)5)および 71)5(V71)5)の有用性が報告されており、$67 と比
較して早期に上昇することが知られている。本研究では、',/, の原因物質として知られて
いる FDUERQWHWUDFKORULGH(&&O )を用いて、薬物性肝障害のバイオマーカーとしての
71)5 および 71)5 の有用性について検討を行った。
【対象と方法】:LVWDU67 系雄性ラット(~ 週齢)を用い、&&O(P/NJ)を腹腔内投
与した。&&O 投与 、、、、、 時間後に採血および肝臓の摘出を行い、血漿サンプ
ルから $67、$/7、71)α、V71)5•5 タンパク発現量の測定および肝臓組織の +( および
781(/ 染色を行った。
【結果】肝臓組織染色で 時間までは肝障害(小葉中心域 =RQH 肝細胞壊死および 781(/
陽性細胞)は確認されなかった。血漿中 71)αの上昇は認められなかったが、V71)5
タンパク発現量は &&O 投与 時間後に有意に増加±SJP/した。
血漿中 V71)5
タンパク発現量は &&O 投与 時間後から V71)5 よりも顕著な増加±SJP/が
認められた。血漿中 $67、$/7 は FRQWURO 群と比較し、&&O 投与 時間以降から経時的な増
加が認められた。
【結論】&&O 投与 時間後から V71)5、5 タンパク発現量の増加が見られたことから、
$67、$/7 よりも鋭敏であると考えられた。したがって、V71)5 および5 タンパクは ',/,
の早期に臨床検査値の指標として用いることができる可能性が示唆された。
68
O3-5
トロンビン受容体拮抗薬はモノクロタリンによる肺高血圧症の誘発を抑制する
くわばらゆきみつ
AE
桑原志実
あべこうたろう
ひらのまゆみ
ひろおかよしたか
ひらのかつや
すながわけんじ
1,2
EA
、阿部弘太郎 3、平野真弓 2、 廣岡良隆 3、平野勝也 4、砂川賢二 1
AE
AE
AE
AE
AE
EA
AE
AE
AE
AE
1
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
九州大学大学院医学研究院分子細胞情報学
3
九州大学大学院医学研究院先端循環制御学講座
4
香川大学医学部自律機能生理学
2
【背景】トロンビンは Proteinase activated receptor 1 (PAR1)を介して血管作用を引き
起こす。体循環系の動脈平滑筋に対して、肺動脈平滑筋はトロンビンに対する収縮反応性
を有することが特徴である。従って、PAR1 は肺高血圧症の病態に重要な役割を担う可能性が
ある。本研究では、モノクロタリン(MCT)誘発肺高血圧に対する PAR1 拮抗薬 atopaxar の予
防的効果を検証することにより、これを明らかにする。
【方法・結果】雄 SD ラット (BW 200g,) に MCT (60 mg/kg) を単回皮下投与した。MCT 投
与日から atopaxar (30 mg/kg/day; ATP 群)、あるいは溶媒 (MCT 群) の経口投与を開始し、
21 日間の投与後肺高血圧症の病態を評価した。右室収縮期圧は、正常群 (23±3 mmHg; n=6)
に比べ MCT 群 (74±4 mmHg; n=10) で著明に上昇したが、ATP 群 (47±3 mmHg; n=15) では
その上昇が有意に抑制された。体血圧および心拍出量には 3 群間に有意差はなかった。総
肺血管抵抗(右室収縮期圧/心拍出量比)は正常群(0.462 mmHg・min/mL; n=5)と比較して
MCT 群(1.973 mmHg・min/mL; n=5)で上昇がみられたが、ATP 群(1.023 mmHg・min/mL; n=6)
では有意に抑制された。右室肥大(右室重量/中隔と左室の重量比)も正常群(0.259; n=6)
と比較して MCT 群(0.43±0.03; n=11)で上昇したが、ATP 群(0.31±0.02, n=15, p<0.05)
で有意に抑制された。肺動脈中膜肥厚の程度(中膜面積/外弾性板内面積比)も正常群
(0.228; n=3)と比較して MCT 群(0.555; n=3)で上昇し、ATP 群(0.445; n=3)で有意に抑制さ
れた。MCT 群と比較して ATP 群で生存期間の有意な延長が認められた (各群 n=16)。
【結論】PAR1 受容体拮抗薬は体循環系に影響を与えることなく MCT による肺高血圧の誘発を
抑制した。PAR1 は肺高血圧の病態形成に重要な役割を果たす。PAR1 は肺高血圧症の新たな治
療標的となる可能性がある。
69
O3-6
急性浸透圧刺激に対する脳内浸透圧感受性部位の可視化〜遺伝子改変動物を用いた検討〜
うえたよういち
AE
ありとみたかふみ
しょうぐちかなこ
よしむらみつひろ
いしくらとおる
まるやまたかし
はしもとひろふみ
上田陽一 、 有冨貴史 、將口加奈子 、 吉村充弘 、 石 倉 透 、 丸 山 崇 、 橋本弘史
EA
A E
E A
AE
EA
A E
E A
A
E
E
A
A
E
E
A
A E
E
産業医科大学医学部第1生理学
【目的】
体液量・血漿浸透圧の恒常性維持調節に脳内浸透圧感受性部位が重要な役割を担っている。
今回我々
は、神経活動の指標として汎用されている c-fos 遺伝子発現を蛍光タンパクで標識することにより、脳内浸
透圧感受性部位の可視化を試みた。
【対象と方法】実験には、c-fos 遺伝子に eGFP 遺伝子を挿入した融合遺伝子を用いて作出した c-fos-eGFP
トランスジェニックラットを用いた。未処置(コントロール群, n=8 匹)
、0.9%食塩水(生食投与群, n=8
匹)および 9%食塩水(高張食塩水投与群, n=8 匹)をラットの腹腔内に投与後、90 分後にペントバルビタ
ール深麻酔下で開胸して採血後、灌流固定を行った。脳を取り出し、後固定およびシュクロース化後に薄切
切片を作成し、c-fos 遺伝子発現を eGFP 蛍光として蛍光顕微鏡下で観察した。また、eGFP 蛍光が c-fos 遺
伝子発現であることを確認するために Fos タンパクに対する抗体を用いて蛍光免疫組織化学的染色を行っ
た。
【結果】血漿浸透圧は、コントロール群および生食投与群で変化なく、高張食塩水投与群では有意に増加し
ていた。eGFP 蛍光は、脳内浸透圧感受性部位(OVLT, MnPO, SFO, PVN, SON)においてコントロール群に比
較して高張食塩水投与群では有意に増加していた。また、脳幹部(AP, NTS, RVLM)においてもコントロー
ル群に比較して高張食塩水投与群では eGFP 蛍光が有意に増加していた。なお、蛍光免疫組織化学的染色の
結果、eGFP 蛍光と抗 Fos タンパク抗体を用いた蛍光染色はほぼ一致していた。
【結論】c-fos-eGFP トランスジェニックラットを用いて、脳内浸透圧感受性部位を eGFP 蛍光により可視化
することができた。今後、様々な生理学的実験に応用できることが期待される。
70
O4-1
麻酔開胸下マウスにおける血管収縮物質に対する肺血管抵抗、総末梢血管抵抗、
気道内圧の反応
しばもととししげ
芝 本 利 重
金沢医科大学医学部第二生理学講座
【目的】マウスの肺動脈と気道の生理活性物質に対する反応は摘出灌流肺と摘出肺動脈で
の報告はあるが LQYLYR で左心房圧を測定し、肺血管抵抗3XOPRQDU\YDVFXODUUHVLVWDQFH
395を検討した報告はない。今回、麻酔下開胸下の %$/%F マウスにおいて気道内圧ととも
に右室圧収縮期圧を肺動脈収縮期圧とした、左心房圧、大動脈血流量の測定から 395 を
算出し、同時に測定した大動脈圧と中心静脈圧から総末梢血管抵抗7RWDOSHULSKHUDO
UHVLVWDQFH735を算出し、血管収縮物質に対する反応を検討した。
【方法】体重 J 前後の %$/%F マウスを麻酔下に体血圧6$3右室収縮期圧5963左心
房圧/$3中心静脈圧&93大動脈血流量4を測定し、3955963/$34と 7356$3-
&934を算出した。$QJLRWHQVLQ$1*,,(QGRWKHOLQ(7WKURPER[DQH アナログ
89DVRSUHVVLQ9DVRを低容量から順次増量して静脈内投与した。
【結果】すべての物質に対して 735 は あるいは QPRONJ より容量依存性に増加した。
なお、9DVR は QPRONJまでは増加させたが QPRONJ では低下した。一方、395 は
すべての高投与量で 5963 が増加するも左室後負荷上昇による左房圧上昇があり、
低下した。
しかし、8 は QPRONJ から 395 を増加させた。気道内圧は左房圧上昇に伴い増加
したが、9DVR はそれがないにもかかわらず増加させた。
【結論】麻酔下マウスの 395 は収縮物質に対して 735 の顕著な増加により左室後負荷が増
大し、肺うっ血により低下するが、WKURPER[DQH は増加させる。一方、YDVRSUHVVLQ は気道
を収縮させる。
71
O4-2
再灌流時の高二酸化炭素血症がブタ気絶心筋の回復に与える影響
はら て つ や
いちのみや た い が
まつもとしゅうへい
ちょうそんさみ
原 哲也1、一ノ宮大雅1、松 本 周 平 2、 趙 成 三 1
1
2
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生科学
長崎大学病院集中治療部
【目的】周術期管理では高二酸化炭素血症を許容して呼吸管理を行う状況がある。急性高
二酸化炭素血症による呼吸性アシドーシスは虚血耐性の増強により心筋梗塞を軽減するこ
とが報告されている(/XR+HWDO7KHHIIHFWRIK\SHUFDSQLFDFLGRVLVSUHFRQGLWLRQLQJ
RQUDEELWP\RFDUGLXP-+XD]KRQJ8QLY6FL7HFKQRO)が、気絶心筋に
対する保護効果は明らかではない。今回、ブタの気絶心筋モデルを用いて、急性高二酸化
炭素血症のポストコンディショニング効果を検討した。
【対象と方法】研究は長崎大学動物実験委員会の承認を得て行った。ブタをペントバルビ
タール、フェンタニルで麻酔して気管切開・調節呼吸とし開胸・心膜切開を行った。左前
下行枝に左内頚動脈よりのバイパス回路を挿入し、左前下行枝灌流領域の心筋に埋め込ん
だ超音波クリスタルで心筋短縮率を測定し心筋収縮能の指標とした。バイパス回路を 分
間遮断して気絶心筋を作製し、再灌流後 分間観察した。再灌流時高二酸化炭素血症(3
群)
、対照(& 群)の 群(それぞれ 頭)に分け、高二酸化炭素血症は 3D&2PP+Jを
目標とした低換気で作製し、
再灌流と同時に 分間維持した。統計学的検定は 0DQQ:KLWQH\
検定を用い、S を有意差ありとした。
【結果】低換気 分後の心拍数(3 群 ±ESP、& 群 ±ESP、S )、左前下
行枝血流量(3 群 21.7±2.8POPLQ、& 群 18.5±3.5POPLQ、S )は 3 群で有意に多
かった。再灌流 分後の心筋局所短縮率(3 群 ±、& 群 7.5±2.3%)に差はなかっ
た。
【結論】再灌流時の高二酸化炭素血症は気絶心筋における心筋保護効果を発揮しなかった。
この一因として、高二酸化炭素血症による冠灌流量の増加が、再灌流時のカルシウム過負
荷を増悪させた可能性が考えられる。
72
O4-3
下大静脈からの部分肺循環補助は、)RQWDQ 循環の血行動態を改善する
しみずしゅうじ
かわだとおる
ししどとしあき
すぎまちまさる
清水秀二、川 田 徹 、宍戸稔聡、 杉 町 勝 国立循環器病研究センター・循環動態制御部
【目的】単心室に対する )RQWDQ 手術後の肺血管抵抗の上昇は、下大静脈圧を上昇させると
ともに、単心室への静脈還流を低下させ、心拍出量を低下させる。)RQWDQ 手術後の肺血管
抵抗の上昇に伴う循環不全に対しては、肺循環補助が有効であると考えられるが、全肺循
環補助を行うためには、上大静脈―肺動脈吻合をテイクダウンする必要があるため、肺循
環補助の導入を躊躇する場面も多い。そこでもし下大静脈からの部分肺循環補助でも同様
に血行動態を改善できるのであれば、手術手技を簡略化でき、容易に肺循環補助を導入で
きる可能性がある。そこで、コンピュータ・シミュレーションを用いて下大静脈からの部
分肺循環補助の有用性を検討した。
【対象と方法】7RWDO&DYRSXOPRQDU\&RQQHFWLRQ を用いた )RQWDQ 循環の血行動態をコン
ピュータ上に再現した。心房・心室は時変弾性モデル、血管系は 要素 :LQGNHVVHO モデル
を用いた。
肺循環補助に用いたポンプの流量は、回転数と圧較差の非線形関数で記述した。
肺血管抵抗を正常の1から 倍まで変化させ、血圧を一定に保つよう VWUHVVHGEORRG
YROXPH やポンプ回転数を調節した。
【結果】肺循環補助を行なわない場合、心係数は肺血管抵抗の上昇とともに最大で
POPLQP 低下するのに対して、部分肺循環補助では ~POPLQP と維持され、これ
は全肺循環補助と同等であった。さらに、下大静脈圧は肺循環補助を行わない場合、最大
で PP+J まで上昇するのに対し、部分肺循環補助では常に PP+J 以下に抑えられ
ていた。
【結論】)RQWDQ 循環に対する下大静脈からの部分肺循環補助は、心係数を維持し、下大静
脈圧を低く抑えることができ、全肺循環補助の代替手段となり得ることが示唆された。
73
O4-4
気管挿管時の循環制御:レミフェンタニル持続静注法とボーラス投与併用法の比較
ますだ
やまだしょうこ
まるたとよあき
しろさかてつろう
つねよしいさお
増田 いしえ 1、山田尚子 1、丸田豊明 1、 白阪哲朗 1、恒吉勇男 1
AE
AE
AE
EA
AE
EA
A E
E A
AE
EA
1 宮崎大学医学部附属病院麻酔科
【目的】レミフェンタニルを用いた全身麻酔では、気管挿管刺激による循環変動を緩和するために挿
管前からレミフェンタニルを開始することが多い。通常、レミフェンタニルは持続静注あるいはボー
ラス投与を併用した持続静注で使用開始されるが、両者を比較した報告はない。本研究では両投与法
での挿管時の循環動態を比較検討した。
【対象と方法】20〜60 歳の ASA-PS class1 または 2 の予定手術患者を対象とした。高血圧や心疾患、
透析中の患者は除外した。持続静注群(C 群)はレミフェンタニル 0.3 µg/kg/min (γ)で開始、3 分後に
プロポフォール 1.0 mg/kg とロクロニウム 0.6 mg/kg を投与、5 分後にレミフェンタニルの投与速度
を 0.1γに下げ、7 分後に挿管した。ボーラス投与併用群(B 群)はレミフェンタニル 0.4 µg/kg を投与後
に 0.1γで開始し、
同時にプロポフォールとロクロニウムを投与、
3 分後にレミフェンタニル 0.6 µg/kg
を投与、4 分後に気管挿管した。両群とも挿管時に予測血中濃度が 4 ng/ml になるように設定してい
る。レミフェンタニル開始後は 1 分間隔で心拍数(HR)と血圧を記録した。結果は平均値±標準偏差で
示した。統計は t 検定を用い、P < 0.05 で有意差ありとした。
【結果】対象は C 群 16 名,B 群 15 名であった。両群間の患者背景と心拍数・血圧の基準値に有意差
はなかった。挿管前後の心拍数・血圧の平均値は両群間で差はなかった(C 群 vs B 群; 挿管前: HR 69
±15 vs 69±12 bpm、収縮期血圧 89±11 vs 95±11 mmHg、挿管後: HR 80±19 vs 78±19 bpm、
収縮期血圧 109±22 vs 103±20 mmHg)
。挿管前後の変動値については収縮期血圧の増加値が B 群
で有意に小さかった (20±18 vs 8±16 mmHg, P = 0.048)。
【結論】ボーラス投与併用群ではレミフェンタニルの血中濃度の急速な上昇による循環抑制が懸念さ
れたが差は認めなかった。両投与法とも挿管時の循環変動をよく制御していた。
74
O4-5
冠動脈バイパス術時の人工心肺使用および非使用が経皮ヘモグロビン6S+E
測定に与える影響
なかがわたく
やまうらけん
ひがしみどりこ
と くだけ んたろう
ほかすみお
中 川 拓 、山 浦 健 、東みどり子、徳田賢太郎、外須美夫
九州大学医学部麻酔蘇生科
【背景】経皮ヘモグロビン6S+Eは連続的にしかも非侵襲的にヘモグロビン濃度を推定す
るもので周術期を含め有用性が報告されている。しかし、心臓手術では影響を受けること
が報告されているがその原因については不明である。今回、人工心肺使用および非使用が
6S+E に与える影響について冠動脈バイパス術において検討した。
【方法】倫理員会の承認を得て人工心肺使用RQSXPSおよび非使用RII3XPSに冠動脈バ
イパス術&$%*を受けた患者において、6S+E と動脈血総 +E 値とを前向きに比較した。6S+E
の測定には 1HZ5DGLFDO補正機能付 0DVKLPR、センサーは 9HUVLRQ. を用いた。動脈
血総ヘモグロビン値は 5DGLRPHWHU$%/ を用いた。6S+E の補正は手術開始前、人工心
肺後、人工心肺非使用ではグラフト吻合開始前、,&8 入室後、,&8 時に行った。統計解析
は相関係数、%ODQG$OWPDQQ 解析を用いた。
【結果】RII3XPS 名、RQSXPS 名で解析を行った。相関係数は人工心肺(吻合開始)
前Q 、吻合開始後Q 、人工心肺後Q 、,&8RIISXPSQ 、,&8RQSXPS
Q でそれぞれ でありグラフト吻合開始後と人工心肺後
で低かった。RIISXPS&$%* のグラフト吻合開始後では測定できないポイントがあった
Q 。%ODQG$OWPDQ 分析では %LDV と 3UHFLVLRQ は ,&8(人工心肺使用群)で大きくなっ
た。
【結論】6S+E は人工心肺使用により影響を受けた。人工心肺非使用でもグラフト吻合中は
測定できないことが多かった。
75
O4-6
左房圧が右心のポンプ機能に与える影響を考慮することで /9$' 症例の血行動
態を正確に予測することが可能
かき の たかもり
さくけい た
あかしたくや
さかもとたかふみ
ありむらたかひろ
むらやまよしのり
にしざき あ き こ
柿 野 貴 盛 、朔 啓 太、赤司卓也、坂 本 隆 史 、有 村 貴 博 、村 山 佳 範 、西 崎 晶子
お お が やすひろ
ふじい か な
い け だ まさたか
きしたく や
い で とも み
すながわけん じ
大賀 泰 寛 、藤井香菜、池田 昌 隆 、岸 拓 弥、井手 友 美、砂 川 賢 二
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学
九州大学大学院医学研究院 先端心血管治療学
【目的】心拍出量曲線は前負荷と心拍出量の関係であり心室のポンプ機能を表す。心拍出
量は後負荷血圧にも依存するため、厳密には左心の心拍出量は右房圧の、右心の心拍出量
は左房圧の影響を受ける。しかしながら、右房圧は動脈圧に比して極端に低くその影響は
無視できた。一方、左房圧は肺動脈圧に比して無視できるほど小さくないため、右心の心
拍出量は右房圧と左房圧の両者の影響を受ける。特に左房圧が大きく変動する左室循環補
助装置/9$'患者ではその影響が顕著になると予想される。本研究の目的は左房圧の影響
を考慮することで、/9$' 挿入後の血行動態の予測ができるかどうか検討した。
【理論的考察】心室と血管のエラスタンスを用いた右心室肺動脈カップリングの枠組に左
房圧を組み込むと、左房圧は右心に対し GRZQVWUHDPSUHVVXUH となり右心の心拍出量曲線
を下方に移動させる。
【対象と方法】 匹の麻酔犬を用い、圧反射除去のため両側頸動脈洞を分離し内圧を固定
し、迷走神経を遮断した。正中開胸し、左冠動脈を完全結紮後、PONJ ずつ少量の YROXPH
LQIXVLRQ を 回行い、各段階で心拍出量IORZSUREH、左房圧、右房圧を測定し、右室の
心拍出量平面を決定した。この平面を用いて、/9$' 挿入後の血行動態を予測した。
【結果】左房圧を考慮した心拍出量平面を用いると、考慮しない場合と比較して、より正
確に /9$' 挿入後の心拍出量を予測することができた。\ [6(( PONJPLQ
5A \ [6(( PONJPLQ5A UHVSHFWLYHO\
【結論】左房圧は右心の心拍出量曲線を下方移動させる。その影響を考慮することで /9$'
患者の血行動態を正確に予想することが可能である。このことは患者の選択や管理におい
て極めて重要である。
76
O5-1
Clinical Impact of ROCK in Sustained Vasoconstriction in Patients with
Essential Hypertension
Kensuke Noma 1, Chikara Goto 2, Yasuki Kihara 3, Yukihito Higashi 1
1
Department of Cardiovascular Regeneration and Medicine, Research Center for Radiation
Genome Medicine, Research Institute for Radiation Biology and Medicine, Hiroshima
University, Japan
2
Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Hiroshima International
University, Japan
3
Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Biomedical & Health Sciences,
Hiroshima University, Japan
【Background】Sustained vasoconstriction of pulmonary artery has been shown to be related
to the progression of pathological condition in patients with pulmonary hypertension (PH).
Meanwhile, there is no evidence concerning the relationship of sustained arterial
vasoconstriction with essential hypertension (EHT). Recently, Rho-associated kinase (ROCK)
is shown to be involved in the pathogenesis in PH. The purpose of this study is to determine
whether arterial vasoconstriction is sustained in patients with EHT and ROCK is involved in
the mechanism in humans.
【Methods and results】We evaluated the sustained vasoconstriction by measuring forearm
blood flow (FBF) to phenylephrine with or without co-infusion of fasudil, a specific ROCK
inhibitor, in normotensive (NT:n=16) and hypertensive subjects (HT:n=10) using a
strain-gauge plethysmograph. Infusion of phenylephrine decreased FBF at 5 min after
infusion compared to each baseline in both subjects (5.7 to 3.5 ; 5.3 to 2.4 in mL/min per 100
mL tissue; respectively). In NT, phenylephrine-evoked arterial vasoconstriction was sustained
during 15 min of continuous infusion, but the vasoconstriction was disappeared at 20 min. In
HT, however, the phenylephrine-evoked vasoconstriction was sustained during the continuous
infusion. Co-infusion of fasudil diminished the difference of FBF responses to phenylephrine
between the two groups.
【Conclusions】These findings suggest that vasoconstriction in resistance artery is sustained
in patients with EHT and ROCK is substantially involved in the mechanism.
77
O5-2
塵肺患者において慢性低酸素血症は血行動態の変動性亢進と関連する
いまいずみゆき
えぐちかずお
ほしでさとし
かりおかずおみ
今泉悠希、江口和男、星 出 聡 、苅尾七臣
自治医科大学内科学講座循環器内科学部門
【背景】近年慢性低酸素血症は心血管疾患の危険因子として報告されているが、慢性低酸
素血症と血圧変動性の関連は明らかでない。
【方法】-DSDQ0RUQLQJ6XUJH+RPH%ORRG3UHVVXUH-+23研究登録者のうち塵肺患者 名と、年齢、性別、診察室血圧平均値をマッチさせたコントロール群 名を対象とし、呼
吸機能検査、動脈血ガス分析、 時間 6S2 モニター以下 6S2 モニターと 時間自由行
動下血圧測定以下 $%30を実施した。6S2 モニターの指標としては、中央値、最低値、
2',2[LJHQGHVDWXUDWLRQLQGH[と 7LPHVSHQW6S2を用いた。$%30 の指標とし
ては、血圧および心拍数の平均値、標準偏差6'、変動指数&9を用いた。
【結果】塵肺患者ではコントロール群と比較して昼間の6%3平均値が低く、時間の
6%3&93と時間の'%3&93は高値で、夜間の心拍数も有意に高値であった
S。また塵肺患者において、昼間の6S2中央値は昼間の6%3平均値U= −0.30; 3
、昼間の6%36'U −Sと、また夜間の6S2中央値は夜間の6%3&9とU −0.55; 3有意な逆相関を認め、夜間の心拍数平均値は夜間の6%3−&9と有意な相関
を認めたU 3。3D2(3DUWLDOSUHVVXUHRIR[\JHQ)は昼間の6%3&9
と有意な逆相関を認めたU= −0.24; 3。
【結論】塵肺患者では血圧変動性が亢進しており、慢性低酸素血症と血圧および心拍数変
動性の指標間に関連を認めた。
78
O5-3
ヒト大動脈瘤組織における 3*((3 誘導性分泌タンパク質の網羅的解析
いしわたりょう
よこやま う た こ
あらかわのりあき
や す だ しょうた
ご う だ もとひこ
す ず き しんいち
ま す だ むねたか
石 渡 遼 、横 山 詩子、荒 川 憲 昭 、安田 章 沢 、郷田 素 彦 、鈴木 伸 一 、益田 宗 孝 いしかわよしひろ
石 川 義 弘 横浜市立大学大学院医学研究科循環制御医学
横浜市立大学先端医科学研究センター
横浜市立大学付属市民総合医療センター
横浜市立大学外科治療学教室
【目的】現在、大動脈瘤に対する有効な治療薬はない。我々は先行研究でプロスタグラ
ンディン ((3*(の受容体 (3 の発現がヒト大動脈瘤における血管弾性線維の分解と相
関すること(3 阻害薬がマウス大動脈瘤の進展を抑制することを示した。本研究では
(3 阻害薬の大動脈瘤治療薬としての可能性をさらに探索するためヒト大動脈瘤組織か
らの分泌タンパクを網羅的に探索し3*((3 により発現が制御され、大動脈瘤の進行に
関わる分子を同定することを目的とした。
【対象と方法】本学付属病院において採取されたヒト腹部大動脈瘤組織 検体(患者の承
諾本学・倫理委員会の承認のもと提供)。中膜組織の PP 角小片を器官培養した。
時間の前培養の後無刺激(3 刺激薬212$(μ03*(μ03*(+(3
阻害薬212$(μ0の4群に分けて 時間培養を行った。培養上清中のタンパク
質をトリプシン消化後に L75$4 で標識し/&0606 によりタンパク質の網羅的同定と発
現量の比較定量を行った。
【結果】延べ 種類のタンパク質が同定され、このうち分泌性タンパク質は 種類で
あった。さらに、(3 刺激薬3*(により 倍以上に発現が増加し(対無刺激)(3
阻害薬により 倍以下に減少する(対 3*()傾向のあるものが 種同定された。この
中には003を含むタンパク質分解酵素細胞外基質好中球関連分子等が含まれてい
た。
【結論】ヒト大動脈瘤組織において3*((3 によって誘導される分泌タンパク質が同定
された。すでに大動脈瘤の進行と関連の報告されている 003 に加え、これらの分子は大
動脈瘤の進行に働く未知のメカニズムに関与している可能性がある。
79
O5-4
Big angiotensin-25:ヒト尿中の主要なアンジオテンシン関連ペプチドの発見
ながた
きたむら か ず お
永田 さやか、 北村 和雄
AE
EA
AE
EAE
E
宮崎大学医学部内科学講座循環体液制御学分野
【目的】レニン・アンジオテンシン系(RA 系)は、循環器・腎臓疾患の発症や進展におい
て重要な役割を有している。近年、新しい RA 系因子が発見されてきたにもかかわらず、未
だにその機序や役割について不明な点が多い。そこで、これらを明確にするためにアンジ
オテンシン(Ang)関連ペプチドの系統的探索を行った。
【方法と結果】Ang 関連ペプチドをすべて認識可能な Ang II の N 末認識抗体を作製してラ
ジオイムノアッセイ(RIA)を確立し、この RIA を用いてアンジオテンシン関連ペプチドの
系統的検索を行った。ヒト尿のペプチド分画をゲル濾過で展開したところ、分子量約 5000
の未知のペプチドが Ang I や Ang II よりはるかに大量に存在することが明らかになり、新
たな RA 系因子として重要であると考えられた。そこでこのペプチドをヒト尿 5.5L より精
製し構造解析したところ、アンジオテンシノーゲン(Aogen)の N 末端側の 25 個のアミノ
酸から成り、糖鎖が付加した特徴的な構造であることが判明し、Big angiotensin-25
(Bang-25)と命名した。ヒト Aogen はレニンの基質として速やかに Ang I を生成したが、
合成 Bang-25 からのレニンによる Ang I 産生は遅いことが判明した。一方、キマーゼは Aogen
に作用しないのに対し、合成 Bang-25 からはキマーゼにより速やかに Ang II が生産される
事が明らかとなった。また Bang-25 の C 末を認識する抗体を作成し、組織分布を検討した
ところ、免疫染色では多くのヒト組織に局在している事が確認され、腎臓においてはポド
サイトに特異的な染色性が認められた。
【結論】ヒト尿より新たな RA 系の主要な構成因子と考えられるペプチドを単離同定し、
Bang-25 と命名した。Bang-25 は、Aogen に比較して、レニンでの Ang I 産生は遅く、逆に
キマーゼにより速やかに Ang II が生産される事から、新たな Ang II 生成経路が示唆され
た。Bang-25 の発見は RA 系研究の新たな展開につながる可能性があると考えられた。
80
O5-5
左室−大動脈カップリングの予後予測因子としての有用性の検討
ながたやすふみ
たけうちまさあき
はやしあつし
おおたにきょうこ
ふくだしょうた
よしたにひであき
おつじゆたか
永田泰史、竹 内 正 明 、林 篤 史 、大 谷 恭 子 、福田祥大、芳 谷 英 俊 、尾 辻 豊
産業医科大学循環器内科・腎臓内科
【背景】左室−大動脈カップリング(VAC)は、循環調節や心臓の仕事効率の重要な決
定因子である。VAC 算出には正確な一回心拍出量(SV)の測定が不可欠である。本研
究の目的は、3 次元スペックルトラッキング法(3DSTE)を用いて一回心拍出量を算出
し、①日本人における VAC の正常値を求めること、②心疾患症例における心血管イベ
ント予測の有用性を検討することである。
【方法】対象は、健常者 113 名(23〜76 歳、男性 57 例)と心疾患症例 534 名(23〜97
歳、男性 306 名)である。フィリップス社製 iE-33 を用いて左室を含む 3 次元画像を取
得した。3DSTE を用いて SV を測定した。左室収縮末期エラスタンス(Ees)は、血圧
や pre-ejection time、total systolic time、SV から、また、実効大動脈エラスタンス(Ea)
は Ea = 0.9×収縮期血圧/SV から算出した。VAC を Ea と Ees の比(Ea/Ees)と定義し
た。心疾患症例を対象に心臓死 (CD)及び主要心血管イベント (MACE)の発生を追跡調
査した。
【結果】健常者から算出した VAC は、男性 0.93±0.14、女性 0.91±0.14 であった。健
常者の平均値+2 標準偏差を基準として、心疾患症例を正常値群と異常群(VAC>1.20)
に分類した。中央値 979 日の観察期間中、39 名に CD、87 名に MACE を認めた。異常
群で有意に CD、MACE 発生の割合が高かった(p<0.0001)
。多変量 Cox 比例ハザード
モデルによる解析でも、VAC 異常は CD、MACE の独立した予測因子であった (p=0.02)。
【結論】3DSTE を用いて算出した VAC は、心疾患症例の CD 及び MACE に対する有
用な予後予測因子になりうる。
81
O5-6
呼吸変動と指尖酸素飽和度の変化における遅れ時間は心拍出量によく相関する
ほそかわかずや
あんどうしんいち
とおやまたけし
た な か ゆ み
おおつぼひでき
なかむらりょう
かどかみとしあき
細川和也 1、 安藤真一 2、遠山岳詩 1、田中由美 1、大坪秀樹 1、 中 村 亮 1、 門上俊明
AE
AE
AE
EA
AE
AE
AE
AE
AE
AE
A E
E
A
AE
1
EA
ふくやまなおや
福山尚哉 1
AE
AE
1
2
済生会二日市病院循環器内科
九州大学病院睡眠時無呼吸センター
【背景】多くの心不全に睡眠呼吸障害が合併し、睡眠呼吸障害が心不全悪化の要因となる。
そのため心疾患患者にはポリソムノグラフィによる睡眠呼吸障害のスクリーニングが推奨さ
れている。
ポリソムノグラフィでは呼吸と SpO2 が記録されており、無呼吸後の呼吸再開と SpO2
の回復には時間の遅れがみられる。これは肺で酸素化された血液が SpO2 センサの装着された
指尖まで到達する循環時間に相当する。論理的にはこの循環時間は心拍出量の逆数に相関す
ると思われる。心拍出量は心不全におけるもっとも重要なパラメータでありながら精度、安
定性の問題から確立した非侵襲的測定法は普及していない。今回、我々はポリソムノグラフ
ィで得られた換気と SpO2 のデータから自動的に遅れ時間を検出するアルゴリズムを開発し、
それが右心カテーテル検査で測定した心拍出量と相関するかを検討した。
【方法と結果】
循環器疾患で右心カテーテル検査が予定された 31 例を対象に簡易ポリソムノ
グラフィを施行した。遅れ時間検出アルゴリズムはまず、気流データを全波整流し、低周波
通過フィルタを適用したのちに、SpO2 との相互相関解析を行うものとした。遅れ時間の平均
値と実測された心係数は 心係数(L/min/m2)=0.895×60÷遅れ時間(秒)によく相関した
(R2=0.51、F<0.001)
。
【結論】ポリソムノグラフィで記録した気流と SpO2 の遅れ時間は心係数とよく相関しており、
睡眠中の心係数の推移を可視化することができた。循環器疾患における心拍出量は重要なパ
ラメータであり、本解析法を追加することにより、ポリソムノグラフィが睡眠呼吸障害のみ
ならず、心拍出量も非侵襲的に評価できるよいツールとなると期待できる。
82
第35回日本
ランチョンセミナー1
血圧変動と 6+$76
かりおかずおみ
苅尾七臣
自治医科大学内科学講座循環器内科部門
高血圧は循環器疾患最大のリスク因子である。血圧は遺伝・環境因子の影響を受けて上
昇し、早期段階から臓器障害を促進し、最終的には心血管イベントのトリガーとなる。国
内外のガイドラインでも早期から厳格な降圧目標を目指した治療が推奨されている。
心血管イベント抑制にはつのコンポーネントが重要である。1つ目は「時間収縮期血
圧平均値をPP+J未満に抑制すること」
、次に「良好なサーカディアンリズム(昼間より
夜間睡眠中に~%低下する良好な血圧サーカディアンリズムを保つこと)」
、そしてつ
目は「適度な血圧変動(早朝収縮期血圧と夜間最低収縮期血圧の差であるモーニングサー
ジをPP+J未満に抑制するなど、過度な血圧変動を抑制すること)」である。
近年では、日内の血圧サーカディアンリズム、外来診療日毎の血圧変動性は血圧高値と
は独立した心血管イベントリスクであることが注目されている。この血圧変動を考慮した
循環器疾患を考える上で 6+$76(6\VWHPLFKHPRG\QDPLFDWKHURWKURPERWLFV\QGURPH)と
いう病態概念がある。6+$76 とは、血行動態の変動性ストレスと全身の大・小血管病、臓
器障害が悪循環を形成し、血栓、メタボリック因子、&.' により増悪する病態である。
我々の研究では、ハイリスク高齢者において血圧変動性と、頸動脈肥厚(,07)や固さ
(6WLIIQHVVSDUDPHWHUβ)の指標との相互作用により、認知機能の頻度が相乗的に上昇
する事を明らかにしており、6+$76 による臓器障害の裏付けの一つと考えている。
本講演では、血圧変動に関する最新の知見を紹介するとともに、6+$76 という新しい病
態概念に関し、我々が報告した高血圧研究の一端を交えて考察する。
129
ランチョンセミナー2
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の薬物治療
ふくもとよしひろ
福 本 義 弘
久留米大学医学部 心臓・血管内科
【概念】慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、一般的には急性肺塞栓後に血栓が残存し、その血
栓が器質化し肺血管床が減少することで肺高血圧症を呈するとされている。さらに残存し
た正常肺血管床の肺動脈圧が高くなることで末梢肺動脈の内膜肥厚や平滑筋の増殖が生じ、
肺動脈性肺高血圧症様の病変も合併すると考えられている。
【病態】わが国では、欧米に比べ女性の割合が多く、高齢の患者が多いと報告されている。
また、深部静脈血栓の既往の割合も約3割と欧米に比べ低いことから、わが国の慢性血栓
塞栓性肺高血圧症患者の背景は、欧米のそれとは異なっている。慢性血栓塞栓性肺高血圧
症における肺動脈病変は、末梢血管の血栓閉塞と再疎通に伴うフラップ様構造に特徴づけ
られ、その血流障害が肺高血圧症を惹起している。組織学的に、肺動脈末梢には、線維性
内膜肥厚を伴う肺動脈閉塞病変や肺静脈内膜肥厚病変を認める一方で、末梢肺動脈壁の菲
薄化を来たしている病変も有していることが明らかとなった。菲薄化病変は、中枢側の高
度肺動脈病変により、長期に渡って末梢肺動脈に圧がかからず、肺血流が低下したためと
考えられたが、そのような病変では、手術などによる再灌流で圧がかかると容易に肺出血
を来すと考えられた。
【薬物治療】
肺塞栓の再発予防を目的としてワーファリンによる抗凝固療法が行われるが、
既に生じている器質化血栓や末梢肺動脈の内膜の変化や平滑筋の肥厚を改善する効果はな
い。次に肺血管拡張薬物療法として、今回、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬と呼ばれ
る新しいクラスの薬剤であるリオシグアトが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に承認された。
リオシグアトは、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者において 週間の内服治療で、運動耐容
能および肺血管抵抗を改善したことから、新しい薬物治療として期待されている。
今回、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の病態および治療に関し概説する。
130