はじめに 「人獣共通感染症」という言葉をご存じですか? 人間も病気になる動物の 感染症のことです。 我々人間もやはり動物である以上、体のしくみは動物と共通の部分がほとん どです。動物の病原体の中には人間にも危険なものが少なくありません。 ネズミ類やウサギ類の病気でも、サルモネラ症、白癬、トキソプラズマ症な どのように人間に感染するものがあります。サル類についてはほとんどの病原 体が人間に対して非常に危険です。 例えば、マールブルグ病による不幸な事件。これは1967年夏にドイツやユー ゴスラビアでほとんど同時に、アフリカミドリザルから人間への感染が起こり、 患者に接した医師・看護婦を含む31名の発病者中7名が死亡したというもので す。 人間に致死的な脳炎をおこすマカカ属サル(アカゲザルなど)保有のヘルペ スウイルスをBウイルスといいますが、その「B」も不幸にして感染死亡した 人の頭文字です。 動物に接する場合には、常にこのような危険に直面する可能性を考えて自ら をまもるために細心の注意を払うことが大切です。特に野生由来の動物の場合 はいろいろな原因不明の病気を持っている可能性があるという認識を持ってく ださい。 動物からの病気の感染を防ぐために 1 やめましょう 動物とキスすることはやめましょう。 動物への口移しによる給餌はやめましょう。 動物の食べた残りを食べるのはやめましょう。 2 行いましょう 動物と接した後は手洗いとうがいをしましょう。 動物の排泄物(糞、尿)には直接ふれないようにしましょう。 動物の排泄物等(糞、ごみ)を吸い込まないようにしましょう。 3 伝えましょう 家族やご近所の人に、動物から感染する病気のあることを伝えましょう。 動物から感染する病気 (1)エボラ出血熱: 発症は突発的で発熱、頭痛、腹・胸部痛、咽頭痛、出血を起こします。感染した場合、死 亡率が高く、治療法は対症療法のみです。 (2)マールブルグ病: 発症は突発的で発熱、頭痛、筋肉痛、皮膚粘膜発疹、咽頭結膜炎を起こします。重症化す ると、下痢、鼻口腔・消化管出血を起こします。感染した場合、死亡率が高く、治療法は 対症療法のみです。 (3)クリプトコッカス症: 病原体は、ハトおよび鳥類販売店のトリの糞から高率に分離されます。菌が中枢神経系に 移行すると、髄膜炎を起こし、激しい頭痛、軽度の発熱、めまい、嘔吐、複視などの症状 を起こします。 (4)結 核: 発病の初期には咳、たん、発熱など一般の気道感染と変わりません。全身倦怠、胸痛、食 欲低下などを伴い、肺の組織破壊が進行すれば体重減少、呼吸困難などを起こします。 (5)サルモネラ症: 急性胃腸炎の症状が多く、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛および発熱を起こします。 (6)赤 痢: 大腸に起こる急性細菌感染症です。発熱、腹痛、下痢、ときに嘔吐などによって急激に発 病し、重症例では頻回の便意を催し、便は便性の部分がなく膿粘血のみを少量ずつ排泄す る症状を起こします。 (7)トキソプラズマ症: 先天性トキソプラズマ症は妊婦が経口感染した後、トキソプラズマ原虫が胎児に経胎盤感 染し発症します。妊娠初期の感染では胎内死亡、流産を起こし、妊娠後期では早産、水頭 症、髄膜脳炎、網脈絡膜炎、肺炎、精神・運動障害などを起こします。 (8)オウム病: 突然の高熱、悪寒、頭痛、全身倦怠感などのインフルエンザ様の症状を起こします。 (9)白癬: 表在性真菌症の一種で、皮膚糸状菌と呼ばれる一群の真菌によって皮膚病を起こします。 (10)Bウイルス病: マカカ属サルを宿主とするヘルペスウイルスの感染による熱性・神経性疾患です。ヒトに 感染すると致命的となります。サルとの接触部位(外傷分)周囲の水疱性あるいは潰瘍性 皮膚・粘膜病変、接触部位の激痛、所属リンパ節の腫大、頭痛、悪心、嘔吐、複視、失語 症、交差性麻痺、交差性知覚障害、意識障害、脳炎などを起こします。 (11)レプトスピラ症: 悪寒、発熱、頭痛、高度の全身倦怠感、眼球結膜充血、筋肉痛、腰痛などを起こします。 [参 考] 詳細をお知りになりたい場合は、下記の専門書等をご覧ください。 (1)新版 獣医公衆衛生学(1991). 今泉清監修 学窓社. (2)エマージングウイルスの世紀 人獣共通感染症の恐怖を超えて(1997).山内一也著 河出書房新社. (3)感染症予防必携(1999). 山崎修道編集 財団法人 日本公衆衛生協会. (社)予防衛生協会の事業内容 (1)国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センター 及び厚生労働省霊長類共同利用施設の委託管理 (2)輸入サル類の受託検疫 (3)サル類の各種受託検査 (4)サル類を用いた受託試験 *サル類の受託検査については米国バイオリライアンス社と提携し、エボラウイルス等の 日本では取り扱いできないウイルス検査に係る試薬の提供を受けています。 発行:社団法人 予防衛生協会 〒305-0843 茨城県つくば市八幡台1 TEL.029-837-2121 FAX.029-837-2299 http://www.primate.or.jp/ E-mail:[email protected] 発行責任者 廣瀬 省 平成15年 6 月 6 日 監修 国立感染症研究所
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