学生指導ポートフォリオ共有による学生サポートの高度化

学生指導ポートフォリオ共有による学生サポートの高度化
阿南工業高等専門学校 ○坪井泰士
このほか,各教員から関係教員への個別的情報伝
達はオンタイム指導に有効だが,情報共有範囲は限
定的で,必要な連携体制を整えられない懸念が残る.
少数の教員が連携しつつサポートした場合,その学
生に関わる情報を把握していない教員が,意図せず
当該学生の問題を悪化させる言動をとりかねない.
これらのような共有状態では,教員努力に関わら
ず学生サポートは十分に機能しない.
1.はじめに
高等専門学校(以下,高専)は,中学校を卒業し
た 16~20 才を受け入れる.学生の精神的発達は急速
であり,個人差も大きい.自覚なく問題行動に走る
学生,対人関係に悩みコミュニーケーションに支障
を有する学生が存在し,情緒が不安定となり心身の
不調を訴える学生も増えている.しかし,学生サポ
ートに直接的に関わる教員個々の意識と努力に比し
て,教育効果は十分に上がっているように思えない.
3.学生指導ポートフォリオ
3.1 学生指導ポートフォリオの概要
オンタイムの情報共有を担保し,迅速かつ連携し
た学生サポートを可能とするシステムとして,学生
指導ポートフォリオ(表 1)1)がある.
学生指導ポートフォリオでは,全学生を対象とし
て,次のような情報を時系列で記録する.
①クラス別にエクセル表を作成
②指導日,指導場所,指導者,指導概要を記録
③教員による一般的指導
④学生主事管轄教員による指導(ピンク地)
⑤保健室・学生相談室からの連絡(青地)
学生指導ポートフォリオを,本校では,学内 LAN
上で共有している.共有範囲は,運営委員会委員(校
長,副校長,3 主事,専攻科長,地域連携・テクノセ
ンター長,広報情報室長,各科主任,事務部長,2
課長)と学生委員会委員(学生主事管轄教員:各科
から選出,学年主任,学生課長)とである.データ
更新の権限は学生主事,副学生主事 2 名,学生係長
が有し,他のメンバーは閲覧権のみを有している.
2.学生サポートにおける教員協同に関する課題
学生サポートの基本は,情報共有である.これに
より教員の連携が進み,学生サポートは高い効果を
発揮する.
ところが,その情報共有は情報をもたらすことと
なったサポートから時間をおいていることが多く,
長期的な指導には有効であるが,オンタイムでの指
導には活用できない.情報共有時には,すでに学生
サポートが新たな局面を迎えていることもある.例
えば,友人からの疎外感を感じている学生の場合,
サポートしている教員からその情報が学科主任を介
して他部署に伝えられた時には,同学生の交友関係
が悪化していることもある.緊急度が高いサポート
の場合は,初期情報により関係者が集い集団的体制
でサポートを続けることから,情報伝達の遅滞の問
題は生じにくい.しかし,懸念される学生全員に集
団的サポート体制を整えることは困難であり,学生
に関わる情報伝達が滞り,問題が悪化してからサポ
ートの必要性が確認されることがある.
表 1 学生指導ポートフォリオ(一部,加工)
○○工学科○年
1
2
3
4
日付
日付
日付
日付
概要
1
2
3
学生A
男 羽ノ浦
学生B
男 小松島
学生C
男 阿南第二
12.4/13:保健室
概要
12.4/18:保健室
概要
概要
12.4/23:合宿研修
12.4/26:保健室
乾性咳嗽→井原医院受診
頭痛
体調不良でSOL不参加
体調不良→保護者迎え
7/1:大北,正門
7/26:坪井,図書館前
10/21:坪井,見能林駅
10/24:3日,母親同席
傘差し自転車
指定場所外自転車走行
喫煙
10/21喫煙
9/30:吉村,集会・体育館
10/13:吉村,正門
10/17:坪井,3C教室
茶髪,近日中に黒染め
ネクタイ未着用,茶髪(色落ち)
ネクタイ未着用
12/9:主事による指導
身だしなみ等の指導が重なってい
ることについて,指導。
~
35 学生D
女 甲 浦
36 学生E
男 牟 岐
40 学生F
男 羽ノ浦
4/26:勝藤,駐輪場
5/26:坪井,駐輪場
5/26:坪井,駐輪場
自転車未施錠
自転車未施錠
次回未施錠時,許可取消(通告)
2/3:坪井,正門
12.4/27:坪井,駐輪場
10/14:伊丹,正門
バイク乗車のまま,入構
未許可バイク駐輪
傘差し運転
1/4:14日(1/4-17),両親
12/21,1-1○○への寮室での暴力
両親とともに中川宅へ謝罪
【連絡先】〒774-017 徳島県阿南市見能林町青木 265〒899-5193
阿南工業高等専門学校 一般教科
坪井泰士 TEL:0884-23-7147 FAX:0884-22-5424 e-mail:[email protected]
【キーワード】学生指導ポートフォリオ,学生サポート,情報共有,教員協同
3.2 学生指導ポートフォリオの効果
この学生指導ポートフォリオを共有することに
より,以下のことが可能となる.
a 学生個別の指導記録の整理
b 学生に必要なオンタイムの指導
c 学生の成長をサポートする体系的指導
d 各部署が連携した包括的な指導
学生個別の指導を時系列で整理することにより,
学生状況の急変に気づきやすい.1 つ 1 つは懸念さ
れる事象でなくても,日をおかずに連続する場合,
何かの兆候であると思われる.時系列の指導記録に
より,各部署が事前に学生の懸念される状況を把握
できる.サポート会議に関連情報を持ち寄ることも
でき,会議は実質化し,早期サポートができる.
クラス別の整理であることから,特定クラスに記
録が偏っているなども確認しやすく,各科や学校と
してのクラス担任支援の契機としやすい.各科主任
が中心となった協力体制も機能する.
懸念される行動がなくなった学生を確認し賞す
ることで,励ましとすることができる.学生は,成
長の承認を受けることで達成感を得,自信を持つ.
時宜を得た適切な賞賛は,学生の成長に寄与する.
学生指導ポートフォリオを活用した学生サポー
トの実例を挙げる.
[サポートの早期開始]
学生 A(表 1)は,1 年生女子である.4/13,4/18
と近接日に保健室を訪れている.入学当初は環境変
化等から心身が不調になりやすい.学校不適応に至
る前に,早期のサポートをすることが必要である.
学生指導ポートフォリオにより,両日の保健室来
室を確認し,担任・副担任教員,一般教科主任,学
生相談室長宛,メールにより連携を求めた.担任教
員から,メールフォローに以下の回答があった.
・○○は,寮生
・4/12,微熱と食欲不振,父親迎えで特別外泊.
・4/13,回復した(母親の連絡)ため登校,咳
が続き保健室で SHR 時より静養
・担任は母親に電話するが連絡は取れず,その
後,井原病院を受診,投薬,症状は落ち着く
・4/18,頭痛のため朝より保健室へ,昼頃回復
し,午後の授業は受講(食欲不振で今日は寮
食を食べていないとのこと) 以下,略
このように,必要な情報を迅速に共有できた.学
年主任は,メールフォローに以下の回答を行った.
・当該学生は寮生
・明日,○○カウンセラーと面談
・事前に,担任からカウンセラーに状況説明
・カウンセリングにもとづき学生相談室と連携
学生相談室からも,これらについて了解の旨,メ
ールフォローに回答があった.
この後,4/23・24 と 1 泊 2 日で実施した新入生宿
泊訓練時において,プログラム参加への配慮など,
担任教員と連携して同女子学生をサポートできた.
このような速やかなサポートを支えるものとし
て学生指導ポートフォリオが機能した.
[体系的指導]
サポート対象となった学生 B(表 1)は,2 年男
子である.自転車の傘差し運転や,所定区域外(本
校の場合,自転車走行が認められているのは正門か
ら駐輪場の間のみである)を走行するなど,規範意
識にかける嫌いがある.10/21 の JR 駅での喫煙行為
にも,その規範意識の弱さが表れている.喫煙行為
に対する懲戒指導(停学)申し渡し時での保護者を
交えた懇談時に,これら傘差し運転等の行為につい
てもふれることにより,喫煙という 1 事象にとどま
らない生活行動全般における自立意識についても
考える機会を提供できたと考えている.
また,サポート対象となった学生 C(表 1)は,3
年男子である.夏期休業中に,髪の毛を茶色に染髪
したまま登校し,黒く染め直したもののその色落ち
への対応は十分ではない.ネクタイ未着用(本校の
場合,3 年までは制服としている)も,繰り返して
いる.1 つ 1 つの行為は,取り立てて厳しい指導を
する必要がないとも思われる内容である.しかし,
それがこのように続いているということは,当該学
生のためには必ず指導すべきである.学生指導ポー
トフォリオがなければ,個別の注意を共有できず,
学生主事による指導に至らなかったと思われる.
学生指導ポートフォリオが機能しなかった場合,
指導は個別化し学生への体系的指導として連携し
ない.指導した教員も他の指導を知る機会を得られ
ず,学生の状況を把握できない.このように学生指
導ポートフォリオは,複数教員による指導を連携さ
せ,学生の成長に資する体系的指導を可能とする.
4.おわりに
学生指導ポートフォリオ更新には,情報を迅速に
集約することが必要である.また,集約情報にもと
づく迅速な更新が求められる.これらにより,学生
指導ポートフォリオは,常に,学生サポートのため
の教育システムとして機能する.サポートを求める
学生を見落とす可能性を減じ,継続的な成長のため
の体系的なサポートを担保する.
また,各部署の連携をより密で,より速いものと
し,教員協同による FD をも可能とする.このよう
な教育システムは,学生をサポートするだけでな
く,学生指導ポートフォリオを活用する全教員が,
常時,相互に刺激し合い助け合いつつ成長していく
という FD としても機能する.持続的かつ実践的 FD
として機能することにより,新任教員等の新たな教
員を迎えても揺らぐこともなく,学生サポートは高
度化し続けることができる.
参考文献
1) 学生指導ポートフォリオの寮生版については,
次の論考に示している。
坪井泰士,櫛田雅弘、尾崎眞行、武知英夫、小松
実、伊丹伸、加藤研二:寮生指導ネットワークか
ら始まる寮生支援の未来,高専教育,第 30 号,
pp.641-646(2007)