学校における保健室の役割(PDF)

学校における保健室の役割
共通教育科
准教授
上原美子
一般的に、学校の保健室というと、
「学校でのけがの手当をするところ」または、
「具合が悪いときに休むところ」というイメージがあると思います。
さらに、テレビ番組のドラマでとりあげられる保健室は、養護教諭の登場と
とともに「学校で発生する事件を解決するところ」として設定をされていること
が多いかもしれません。
本来、「保健室」はどのような役割を果たしているのでしょうか。
ルーツをひもといてみましょう。明治 30 年には、いわゆる身体測定を行うため
の検査室として置かれ、それ以外は医務室として用いられていました。大正時代
になって学校診療や救急処置を行う医務室、診療室、治療室、あるいは、休養室
の名称で校内の特別室との位置づけがされるようになりました。その後、大正の
終わりになって、衛生室、医務室、治療室、静養室、休養室、体育室、体育衛生
室など様々な名称で呼ばれていたようです。昭和 2 年の校舎の設備基準では、衛
生室の基準が医務室と休養室とを別に置くこととして示されました。
それ以降、衛生室という名称が広く浸透し、昭和 28 年、法の一部改正にともな
って、「保健室」の名称がここで初めて登場し、今日にいたっています。
明治時代に検査室、医務室としてスタートし、
「保健室」となった現在では、学
校保健安全法第 7 条に「学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置そ
の他の保健に関する措置を行うため保健室をおくものとする」と示されるように、
いじめ、不登校、虐待、アレルギー対応など現代の様々な健康課題に対応する「学
校保健活動のセンター的役割」を果たしています。
また、保健室において主たる活動や対応を行う養護教諭は、組織の一員として、
他の関係教職員と連携し、組織的且つ計画的に保健室の運営を行っています。
具体的には、学校保健安全法で示されている役割の「健康診断」を行った後に、
その結果に基づき、疾病の予防措置や予防接種を促したり、必要な検査や医療が
受けられるように指導したりします。ほかにも、本人への負担軽減を考慮して、
学内外での学習や運動・作業などについて、制限や停止、変更などの調整を行う
ことがあります。例えば、修学旅行や対外運動競技などへの参加を調整したりし
ています。また、日常の学習において机や腰掛の調節、座席の変更、学級の編制
を適正に図ることなどや保健指導の対象などにも活用されています。
「健康相談」の内容としては、心臓疾患による運動制限、食物アレルギー、い
じめによる体調不良、ひどい乗り物酔い、過呼吸発作、虐待、自傷行為、摂食障
害、自殺願望、保健室登校などがあげられます。
また、「保健指導」には、足首の捻挫、擦り傷、切り傷の手当、感染性胃腸炎、
腹痛、歯周疾患要観察者(GO)、視力低下、インフルエンザ、朝食欠食、睡眠不
足など、子どもたちの健康課題解決のために、生活習慣から応急手当、疾病予防
など学校保健にかかわるすべての内容が含まれています。
保健室内を覗いてみましょう。学校によって若干違うかもしれませんが、保健
室の備品として、測定コーナーには、身長計、体重計、視力表など健康診断器具
が、救急処置にコーナーには、救急処置一式、休養のためのベッドや布団一式な
どが用意されています。相談コーナーには、話しやすい環境づくりとしてソファ
ーが置かれ、コミュニケーションを図るものとして、ぬいぐるみや絵本、折り紙
などが自由に使えるようになっています。また、保健情報の書籍や資料も整備さ
れ、健康に関する学習もできます。校内の設置場所も静かで、良好な日照、採光、
通風などが管理され、保健室の機能が十分に果たせる配慮と工夫がなされていま
す。
とりわけ、全校の子どもたちの健康にかかわる個人情報の管理もされ、個々の
対応を適切に行うことに努めています。
子どもたちが心身ともに安全で安心な学校生活を送れるように、学校、地域、
家庭が常に連携し、真摯に見つめていく場所が学校における保健室です。
【参考文献】
・学校保健活動と保健室
(財)日本学校保健会
1981.3
・学校保健の課題とその対応-養護教諭の職務等に関する調査結果から-
(財)日本学校保健会 2012.3
・教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引
・新訂版 学校保健実務必携≪第 2 次改訂版≫
文部科学省
第一法規 2011.2
2011.8