中学第一分野 改良クリップモーターとモーター原理説明器 雲雀丘学園中学校・高等学校 中 田 勝 夫* 目 的 中学校の直流モーターの学習において、簡単な工作 模型として “ クリップモーター” が知られている。わ ずかな材料で軽快に回転するものが作れるが、うまく 回らなかったり、すぐに変形して回らなくなることも 多い。 そこで、この従来のクリップモーターの欠点を改善 し、簡単に作れてしかも安定してよく回る新しいタイ プのモーター工作模型(写真 1)を開発した。さらに モーターの回転原理を効果的に理解させるため、演示 用の 2 種類の実験装置も開発した。それらを用いた一 連の演示と説明によって、モーターの回転原理が無理 なく理解でき、奥行きのある生徒実験を可能にしたの が本作品の中心テーマである。 磁石から回転力を受ける。コイルの 2 つの短辺には、 電流の有無や向きが分かるように、2 色の LED を取 り付けた。こうして電流の向きと受ける力の向きとの 関係を確かめながら、どのように電流を制御すればコ イルを回転させ続けられるか、実演しながら調べるも のである。 写真 2 手動式モーター原理説明装置 Ⅱ.演示用自動回転モーター模型 写真 1 改良クリップモーター 構造はⅠの手動式モーター原理説明装置とほぼ同じ だが、回路にスイッチはなく、電池 4 個を直列に接続 しただけである(写真 3) 。しかしこれは、軽くはず みをつけると、あとはいつまでも回転が続く。つまり Ⅰの装置が手動でオンオフしていたのを、後述の仕掛 けによって、自動で持続的な回転を可能にしている。 概 要 授業の展開は、まず 2 種類のモーター原理説明装置 による演示実験から始め、生徒がモーターの回転原理 をつかんでから、その応用として改良クリップモーター 工作を行う。順にそれぞれの装置について説明する。 Ⅰ.手動式モーター原理説明装置 長方形コイルの回転軸を、モーター台の支柱の穴に 通し、その接触部分から電流を与える(写真 2)。 スイッチを押すとコイルに電流が流れ、台に置いた * 写真 3 自動回転モーター装置 コイルの下に平板磁石を置くと回転する なかた まさお 雲雀丘学園中学校・高等学校 非常勤講師 〒 665-0805 兵庫県宝塚市雲雀丘 4-2-1 ☎(072)759-1300 E-mail [email protected] 15 Ⅲ.改良クリップモーター 従来のクリップモーターがエナメル線を巻いただけ の回転子を使うため、形がくずれやすいなどの欠点が あったのを、次のような工夫をして改善した。 1.形状保持のため、エナメル線を発泡スチロール球 に巻く。 2.発泡スチロール球の中心穴に球径より 2〜3mm 長く切ったボールペン軸を通し、これに銅釘を刺 して回転軸とする。軸を強固にするとともに、回 転子の中心に軸を通しやすくする。 3.コイルの半回転を絶縁状態にするため、一方の回 転軸にほぼ半周分の幅の紙シールを貼る。 図 1 にその回転子の構造を示す。これを厚紙で作っ た専用のモーター台に乗せて回転させる。これはいわ ばⅡの自動回転モーター模型の小型版とも言うべきも のである。授業展開から生徒は構造をしっかり理解し て工作に取り組むことができる。 発泡スチロール球 教材・教具の製作方法 Ⅰ.演示用手動式モーター原理説明装置 木材や銅板などで、図 2 のような装置を組み立てる。 コイルは長辺 25cm・短辺 10cm・厚み 1.5cm のアク リル製長方形枠にエナメル線(ホルマル線)を 50 回 巻いて作る。金属板からのびる導線は、台の外で乾電 池 4 個と押しボタンスイッチに直列でつなぐ。コイル に流れる電流の有無や向きを示すための LED は、図 2 左のように 2 色の LED をコイルに並列に接続する。 Ⅱ.演示用自動回転モーター模型 手動式装置と違っているのは、スイッチを必要とせ ず電池にだけつなぐ点と、コイルの半回転を絶縁する ために片方の回転軸にほぼ半周を絶縁するための細い 紙シールを貼り付けている点である(写真 4) 。軸の 回転に伴い、コイルの片方の短辺が磁石の上に来たと きに電流を流すため、紙シールのすき間をコイルの一 方の短辺に向かう向きに貼る。 銅釘 銅釘 紙シール 軸パイプ エナメル線 図 1 改良クリップモーターの回転子の構造 写真 4 自動回転モーター模型の一方の回転軸 (白く見えるのが絶縁紙) 長方形枠 ↓ 2色LED コイル 支柱 ↓ コイル ↓ ←支柱 ←金属板 ↑ 回転軸 回転軸 金属板 ←導線 磁石 底板 電源・ スイッチ 電源・ スイッチ 図 2 手動式モーター原理説明装置の構造(左:正面図 右:側面図) 16 導線 磁石 ↓ 底板 ↓ Ⅲ.改良クリップモーター 作製に必要な材料を写真 5 に示す。生徒には、これ ら材料と作り方を書いた説明書を配り、指導者の指導 の下で次のように作製する。 ⑦ ② ① ③ ④ ⑤ 写真 6 軸パイプに銅釘とエナメル線を刺したところ ⑥ ⑨ ⑩ ⑧ 写真 5 改良クリップモーター材料 ①モーター台用紙 ②金属テープ ③発泡スチロール球(φ 30mm) ④軸パイプ ⑤銅釘(25mm) ⑥絶縁用紙シール ⑦エナメル線(ホルマル線) ⑧紙ヤスリ ⑨単三乾電池 ⑩磁石(φ 22mm) 1.モーター台の作り方 モーター台紙の両腕中央に幅 3mm ほどの金属テー プを貼る。金属テープは台紙上端の切れこみで裏側に 折り返す。次に金属テープが内側をむくように台紙を 直角に折り曲げ、箱の形に組む。 できあがったモーター台には、単三電池をはめ込 み、電池の上にフェライト磁石をのせる。 2.回転子の作り方 エナメル線は、普通、20 周分約 2m の長さを用意 する。まずその一方の端を紙ヤスリでエナメルをはぎ 取り、その部分をボールペン軸パイプに 5mm ほど差 し込み、一緒に銅釘をさしこむ(写真 6)。 次に発泡スチロール球の中心穴に軸パイプを刺し、 軸パイプの先が反対側から少し顔を出すまでさし込む (写真 7)。その後、エナメル線を発泡スチロール球の 溝に沿ってしっかり巻く。すべて巻いたら、エナメル 線を反対側の軸パイプ穴から 5mm ほどの長さだけ余 らせて切り取り、その部分のエナメルをはぐ。エナメ ルが十分はげたら、線がたるまないように軸パイプ穴 に差し、さらに銅釘を刺して固定する(写真 8)。 最後に、銅釘の片方に絶縁用の紙シールを貼る(写 真 9)。貼り終わった後、コイルに対して紙シールの すき間がどの向きになればよいかを考え、銅釘の頭を 持って釘ごとねじって向きを調節する。 写真 7 軸パイプを発泡スチロール球に刺したところ 写真 8 エナメル線を巻いてもう 1 本の銅釘を刺したところ (絶縁紙を貼っていない段階) 写真 9 片方の銅釘に絶縁紙を貼ったところ 学習指導方法 授業の展開としては、まずⅠ、Ⅱの演示装置を使っ た回転原理の説明を行い、その後、モーター模型づく りと各自実験を行う。 17 Ⅰ.手動式モーター原理説明装置を用いた実演と 説明 コイルを垂直に保ち、下に置いた磁石のそばにコイ ルの短辺を接近させた状態で電流を流して、コイルが 磁石から力を受けることを確認する。点灯する LED の色から電流の向きを確認し、受ける力の向きがフレ ミング左手の法則に従うことを確かめる。 コイルの反対側では電流の向きが逆になるため、逆 向きに力を受けることも確認する。その上で、「では この装置で、どうすればコイルを回転させ続けられる か」と生徒に問いかける。 生徒はよく「スイッチをオンにし続ける」と予想す るが、それを試すとコイルの両端が磁石の上に来るた びに反対向きの力を受けて行ったり来たりする。この ことを確認して、 「直流モーターは常に同じ向きに電 流を流してはいけない」ことを理解させる。 ではどうすればよいか?回転を始めたコイルは電流 を切ると、しばらくは惰性でその向きの回転が続く。 そこで、コイルの反対側の短辺が磁石の上にさしか かってもスイッチオフを続け、1 回転して最初と同じ 側の短辺が再び磁石の上にくる瞬間にだけスイッチを オンにすれば、また同じ向きに力を受けて回転にはず みがつく。このことを示すと多くの生徒は気づくが、 あとは常にこのタイミングでコイルの一方の側の短辺 が磁石の上にさしかかったときにだけスイッチをオン にし、残りの半周を空転させれば、持続的な回転が得 られる。まさにこれが単純なモーター模型であるク リップモーターの整流の仕組みであり、こうして回転 が維持されることを実演して理解させる。 ただしこの操作は、原理を理解しても、スイッチの タイミングがずれると回らない。生徒にさせてみる と、一種のゲーム感覚で喜んで挑戦し、成功や失敗を 繰り返しながら実感を伴って回転原理を理解する。 Ⅱ.自動回転モーター模型を用いた演示実験と説明 まず装置の構造を説明する前に、電池につなぐだけ でいつまでも回転を続けることを見せ、どこにその秘 密が隠されているか、考えさせる。 回路を 1 周たどってみると、電流を制御できるの は、支柱と回転軸の接触部分しかない。そこで回転軸 部分を拡大して投影し、片方の銅釘に半周を絶縁する ための紙シールが貼られているのを見せる。 こうして半周を空転させるクリップモーターの原理 を理解させ、次にその小型模型である “ 改良クリップ モーター” の各自工作と実験に移る。 Ⅲ.改良クリップモーターの工作と各自実験 改良モーター模型の作り方は先述の通りであるが、 この模型は正しく作ればほぼすべて安定して回る。 従って、回って喜んで終わりではなく、さらにそれを用 いて各自実験を行ってこそ効果の高い学習ができる。 18 実験のテーマとしては、 1.界磁や電池の向きと回転の向きとの関係 2.通電時のコイルの姿勢に対する回転速度の関係 3.紙シールの幅(絶縁範囲)と回転速度の関係 4.界磁の強さや面積と回転速度の関係 5.コイルの巻き数と回転速度の関係 6.別の磁石を近づけたときの回転速度の変化 などがある。実験班のメンバーで、互いに条件を変え た模型を作り、回転速度を比べるとわかりやすい(写 真 10) 。 写真 10 異なる条件のモーター模型の性能を比べ ている様子 生徒の中には、この模型にプロペラをつけて風を起 こしたり、おもりを引き上げることができるかどうか を調べるものも出てくる。それぞれの思いついた課題 で調べさせるとおもしろい。 実践効果 実験のレポートを見ると、この一連の実験と授業展 開は、生徒に直流モーターの回転原理の理解を促すこ とがよく分かる。生徒の多くが、以前授業で説明を聞 いただけではよく分からなかったが、こうして実際に 道具を使って実験することで、実感としてよく分かっ たと答えていた。 実験レポートや授業時の生徒の反応から、この一連 の授業展開が生徒にどのような学習効果を与えるかを 整理すると次のようになる。 1.電流が磁石からどのように力を受けてコイルが回 るかがよく分かる。 2.半周空転モーター(クリップモーター)の回転原 理がよく分かる。 3.整流子を使った一般の直流モーターの回転原理も 理解しやすくなる。 4.自作のモーター模型を使った様々な条件での実験 ができ、モーターの回転に対する磁場の状態やコ イルの巻き数などがどのような効果を与えている か、各自で調べて確かめることができる。 5.簡単な工作からよく回るモーター模型が作れるこ とで、電気モーターに対する親しみと関心を高め ることができる。
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