自治体との連携による 協調学習の授業づくりプロジェクト 平成23年度報告書 協調が生む学びの多様性 第2集 新しいゴールに向けて 東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構 表紙写真(上から) 宮崎県五ヶ瀬町立三ヶ所小学校の授業風景 広島県安芸太田町立加計中学校の授業風景 埼玉県立南稜高等学校の授業風景 刊行に寄せて 東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構(以下CoREF)は、平成22年度から2年間、大小 合わせて18の市町教育委員会及び1県立学 立高 と「新しい学びプロジェクト」、埼玉県教育委員会と「県 学力向上基盤形成事業」という研究連携を行ってきた。どちらの研究連携においても、私たち は現場の先生方と連携して、「人はいかに学ぶものか」について今研究 基盤に、教室で行われている授業の質を上げ、子どもたちが自 野でわかってきていることを たちで え、理解し、次に学びたい ことを見つけ出していける新しい学びのゴールを追求してきた。また、私たち研究者、教師、そして 様々な 野の社会人専門家のコミュニティが緩やかに重なりながら、こうした新しい学びのゴールに 向けて、それぞれの専門性を活かし、教室の事実に学びながら継続的に授業の質を上げるためのネッ トワークを構築することも私たちの目標である。 本報告書の作成及びその基本となった研究連携においては、「新しい学びプロジェクト」参加の18市 町教育委員会・1県立学 、埼玉県教育委員会、日本産学フォーラム、日本機械学会、日立理科クラブ、 日本技術士会のみなさまに多大なご支援、ご協力をいただいた。この場を借りて感謝の意を表したい。 報告書は以下の7章から構成される。 第1章では、CoREFと自治体との研究連携のゴールについて、私たちが基盤としている学習科学の知 見に立ち戻りながら、今改めてどこまで来ているのか、これからどこを目指すのかを論じた。 現在、教えたことが教えた通りにできるための学びから、学 の外に持ち出して次の学びの礎とな るような学びへと、学びのゴールは変わりつつある。こういう、新しいゴールに合わせた学力向上に つながる話し合いのことを、 設的相互作用と呼んでいる。 設的相互作用は、子どもでも大人でも、 複数の人が同じ問題を解こうとしていて、みんなが自 の頭で でも起きる。知識構成型ジグソー法は、教室でこうした えながら話し合っている時にはいつ 設的相互作用を引き起こすための仕組みで もある。 子どもたちは教室で自 なりに納得できる知識を獲得しているのか。子どもが自 のことばを作り 出して納得することと、一方的に「うまい説明」を与えることはどう違うのか。子どもが教室で説明 できていることに、子ども自身はどのくらい納得できているのか。こうしたことを問いなおすために、 子どものことばの世界について、これまでの研究を参照しながらもう一度 え直してみることで、私 たちの向かうべきゴールも見えてくるだろう。 第2章では、CoREFと自治体及び産業界との実際の研究連携の枠組みを紹介し、2つの連携プロジェ クトに参加した全20自治体及び学会、産業界2団体からみた取組のまとめと振り返りを集録した。小学 中学 の先生方を研究推進員とした18の市町教育委員会・1県立学 では、国語、算数・数学、理科、社会の4教科で、高等学 「県立高 との「新しい学びプロジェクト」 の先生方を研究推進委員とした埼玉県との 学力向上基盤形成事業」では、国語、数学、外国語、理科、地歴、 民、美術、家 科の 8教科で、それぞれ「協調学習(collaborative learning)」を目指した授業づくりを行ってきた。また、 工学系の学会、産業界とも、この2つのプロジェクトと緩やかに重なりながら、教室の学習の質の向上 に社会人専門家の知を活用する方途を探ってきた。2年間のプロジェクトを終えて、協調的な学習を教 室に引き起こす授業づくりの試みは、それぞれの連携自治体レベルで引き受けられ、次の発展に向け て多様な可能性を示している。 第3章では、知識構成型ジグソー法の授業の形態とその作り方を解説し、その枠組みを用いて先生方 が開発された小中高137教材の簡単なリスト、それらを実践して小中学 の先生方が感じた成果と課題 の教科別のまとめを集録した。私たちの授業づくりは、人は誰でも身の回りに起きる様々なことがら について自 なりの体験から、自 なりの え方を作る賢さを持っていると想定するところから始ま る。教室という学びの場は、そうした一人ひとりの み合わせて適用範囲を広げ、将来必要になった時に え方を、自 このような とは違う え方と比較検討し、組 える知識に編み上げる場となることが望ましい。 えから私たちは、知識構成型ジグソー法という授業の枠組みを採用し、実践とその評価 に取り組んできた。その基本は、一人ひとりが自 ることなどと照らし合わせて再 し、自 だけでは なりの え方を、先生の話や教材、友だちの え付かなかった え えも取り入れて構成し直し、 新しい知識を生み出していく過程を支援することである。 第4章では、こうやってつくり上げ、実践した授業の成果を報告する。授業に参加した子どもたちに とって、他者とともに自 自身の新しい え方をまとめ上げる授業は、どのように捉えられただろう か、また私たちが目指した学習目標はどこまで達成されたと言えるのか、現時点で言えることをまと めている。新しい形態での授業は、小学 中学 でも、また高等学 でも、「楽しかった」「またやり たい」との反応が多く、概ね好意的に受け入れられた。そして多くの子どもたちが、授業を通して理 解を深化させ、答えられるようになってほしい問いについて一人ひとり自 なりの言葉で答えられる ようになっていた。この章では、前者についての結果を集積的に、後者についての結果を7種類のテー マに即した事例を取り上げて、それぞれ報告する。 第5章では、研究会と教材開発、実践、検証のサイクルによって組織されたプロジェクトの活動を通 して、協調学習理解の深化がどのように起こったかを報告する。学習者一人ひとりが賢さを育て合う 協調的な学びを教室において日常的に実現させていくためには、教師自身が自 の教室で子どもたち に協調的な学習が起こっているときのイメージと、協調学習をよりよく引き起こすための工夫につい て、自 なりの納得を伴う具体的で実践的な理論を獲得することが重要であろう。こうした理解深化 を引き起こすための研究連携の活動デザインについて紹介し、アンケートや実践の振り返りコメント シートのデータから、実際にどのような理解深化が起こったかを示す。 第6章では、2年間の取組を踏まえた今後の展開を展望する。 第7章は、2年間の研究連携の成果を集めたリソース集であり、付属のDVDに収録されている。この リソース集には、「新しい学びプロジェクト」で開発実践した62の教材、「県立高 学力向上基盤形成 事業」で開発実践した76の教材について、授業案や教材、実践者の振り返りコメント、児童生徒の記 述例(一部教材のみ)が収められている。また、実践動画として、これら教材のうち小中学 につきそれぞれ8本の授業の様子を簡単に紹介した。あわせて、協調学習の基本的な 、高 え方及びその背 景にある「人はいかに学ぶか」についての学習科学の知見に関するレクチャーも収録した。 東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構 副機構長 三宅なほみ 自治体との連携による協調学習の授業づくりプロジェクト 平成23年度活動報告書 東京大学 目 次 大学発教育支援コンソーシアム推進機構 巻頭言(三宅なほみ) 第1章 学習科学に基づく継続的な授業改革―子どものことばの世界を巡って―(三宅なほみ)… 1 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携……………………………………………………… 9 1. はじめに……………………………………………………………………………………………… 10 2. 新しい学びプロジェクト」 ……………………………………………………………………… 12 (1)連携事業の概要………………………………………………………………………………… 12 (2)2年間の事業の 括 「新しい学びプロジェクト」平成23年度代表 ( 広島県安芸太田町教育長 二見吉康) 15 日渡円) ………… 16 (4)各市町取組の紹介……………………………………………………………………………… 18 (3)プロジェクトへの提言 「新しい学びプロジェクト」平成22年度代表 ( 兵庫教育大学教授 愛知県高浜市╱兵庫県加西市╱和歌山県有田市╱湯浅町╱広川町╱有田川町╱島根 県浜田市╱津和野町╱広島県安芸太田町╱福岡県飯塚市╱香春町╱熊本県南小国町 ╱大 県竹田市╱豊後高田市╱九重町╱宮崎県宮崎市╱国富町╱五ヶ瀬町╱県立都 城泉ヶ丘高等学 附属中学 (5)市町研究推進のモデル………………………………………………………………………… 愛知県高浜市╱大 3. 県立高 37 県竹田市╱宮崎県宮崎市╱五ヶ瀬町 学力向上基盤形成事業」………………………………………………………………… 44 (1) 連携事業の概要………………………………………………………………………………… 44 (2)県立高 学力向上基盤形成事業 「県立高 ( 括 学力向上基盤形成事業」代表 埼玉県教育委員会 県立学 部参事兼 合教育センター所長 藤井春彦) ………… 47 利根川太郎)…………………………… 50 (4)各教科担当指導主事の振り返り……………………………………………………………… 54 (3)事業の成果と今後の展望(CoREF協力研究員 国語╱外国語╱数学╱理科╱地歴╱ 民╱美術╱家 科 4. 社会人・産業界との授業改善連携………………………………………………………………… 61 (1)連携事業の概要………………………………………………………………………………… 61 (2)連携の経緯と進展(CoREF協力研究員 神部美夫)……………………………………… 62 矢田恒二) ………………………………………………… 64 (3)日本機械学会(日本機械学会 (4)日立理科クラブ(CoREF協力研究員 神部美夫)………………………………………… 65 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン………………………………………………… 67 1. 知識構成型ジグソー法の授業デザイン…………………………………………………………… 68 第3章 ⅰ 2. 小中学 での実践―「新しい学びプロジェクト」― …………………………………………… 71 教科別授業づくりの成果と課題……………………………………………………………………… 73 教材リスト 【国語】……………………………………………………………………………………………… 83 【算数・数学】……………………………………………………………………………………… 88 【理科】……………………………………………………………………………………………… 95 【社会】……………………………………………………………………………………………… 99 3. 高 での実践―県立高 学力向上基盤形成事業―……………………………………………… 104 教材リスト 【国語】……………………………………………………………………………………………… 105 【外国語】…………………………………………………………………………………………… 111 【数学】……………………………………………………………………………………………… 116 【数学・理科】……………………………………………………………………………………… 119 【理科】……………………………………………………………………………………………… 120 【地歴】……………………………………………………………………………………………… 124 【 民】……………………………………………………………………………………………… 125 【美術】……………………………………………………………………………………………… 127 【家 第4章 科】…………………………………………………………………………………………… 129 教室で起こった学習の評価……………………………………………………………………… 131 1. 評価について………………………………………………………………………………………… 132 2. アンケートの 析…………………………………………………………………………………… 135 3. それぞれの教室でどのような学習成果があったか―事例 析―……………………………… 143 (1)「新しい学びプロジェクト」算数 …………………………………………………………… 143 (2)「新しい学びプロジェクト」社会 …………………………………………………………… 147 (3)「新しい学びプロジェクト」国語 …………………………………………………………… 150 (4)「新しい学びプロジェクト」低学年の実践 ………………………………………………… 153 (5)「県立高 学力向上基盤形成事業」理科 …………………………………………………… 157 (6)「県立高 学力向上基盤形成事業」地歴 …………………………………………………… 163 (7)「県立高 学力向上基盤形成事業」外国語 ………………………………………………… 166 第5章 実践者の えはどう変わったか―「協調学習」理解の深化― ……………………………… 171 1. 継続的な授業改善ネットワークのためのビジョンとデザイン………………………………… 172 2. 授業づくりを通じた「協調学習」理解の深化―実践者の声から―…………………………… 179 第6章 おわりに ―私たちがやってきたことをどう評価し、次につなげて行くか―(三宅なほみ)………… 187 第7章 リソース集………………………………………………………………………………………… 193 *第7章リソース集は、巻末のDVD-ROM に収録されています。 巻末資料……………………………………………………………………………………………………… 196 「新しい学びプロジェクト」研究推進員及び「県立高 ⅱ 学力向上基盤形成事業」研究推進委員一覧 第1章 学習科学に基づく継続的な授業改革 子どものことばの世界を巡って 写真 福岡県飯塚市立片島小学 での授業の様子 第1節 今、なぜ協調学習か 第2節 子どものことばの 第3節 これからどこを目指すか い方 平成23年度活動報告書 第1章 第2集 学習科学に基づく継続的な授業改革―子どものことばの世界を巡って― 三宅 なほみ 1. 今、なぜ協調学習か 2年間にわたって続けて来た私たちの試みは、今になって、改めてこう問われることが多い。この問 いにきちんと答えるには、何段階かの答えが必要になる。少しずつ段階を追って答えてみたい。 まず、最近、何をどこまで学んでおけばいいのかについて、これまでとは違った え方がなされる ようになってきた。今までのように「今ここ」で教えたことが教えた通りにできれば良いのではなく、 将来、学んだことを教室から「持ち出して」、必要になった時にきちんとその場の要請に合わせて「う まく えて」、さらにはその学びを土台に、次の学びを「積み上げて発展させる」ことができるような 学びが求められている。その中では、自 ン能力」、人と話し合って自 の で言うべきことを えだして人に伝える「コミュニケーショ えを進める「コラボレーション能力」、これまで知っていたことや 他の人のアイディアを様々に組み合わせて新しいものの見方を作り出す「イノベーション能力」など、 21世紀型と呼ばれるスキルの学習も含まれている。こういう、本人が一生の資産にできるような学び は、本人の納得づくで、本人自身が作り上げたものでなければならないことが少しずつわかってきて いる。学びの成果が、本人自身納得できる本人自身の「ことば」で表現されることの大切さも、これ まで以上にはっきりしてきた。 だとしたら、そのような学びを、すべての人について可能にしそうな基盤をまず探さなくてはなら ない。そういう認知科学的な基盤の一つが、協調的学習と呼ばれる学びの仕組みである。人は、他人 と話し合いながら自 の えを少しずつ確かなものにし、その える範囲を広げていける基本的な学 習能力を持っている。この仕組みをきちんと働かせるには、まだよくわかっていないことを ら」なんとかことばにしようとする話し方が求められる。なんとなく気 えなが ではわかっていることを こ とば」にしても思ったほど相手には伝わらない。「わからない」と言われたりする。そうすると、自 で自 の えていることを見直して、 しっかり」わかり直すよりない。それには、自 ていることを何度も説明し直すだけでなく、周りの人がそれぞれ に自 の で自 の え えながら話すのを聞いてそれを参 え方を膨らませる必要もある。この「話したり、聞いたり」の繰り返しが、やがて、自 にとって前より納得のいく わかり方」を導く。そういうわかり方ができるようになってきた時には、 わかったことの「 える範囲」も広くなり始めている。協調的な学び方をすると、上に挙げた新しい ゴールが、少し達成できる。 こういう新しいゴールに合わせた学力向上につながる話し合いのことを、 設的相互作用と呼ぶ。 設的相互作用は、子どもでも大人でも、複数の人が同じ問題を解こうとしていて、みんなが自 頭で の えながら話し合っている時にはいつでも起きる。ところが、これを誰でも自覚していてうまく えるかというと、そうでもないことがわかってきた。時には、この 設的な話し合いと、答えを知っ ている子が知らない子に「説明」をする「教え合い」、あるいはみんながそれぞれ自 合うだけの話し合い」との区別がうまくついていなかったりもする。そこで、 教室でうまく引き出す仕組みとして の「意見を言い 設的相互作用能力を え出されてきたのが、「知識構成型ジグソー法」と呼ばれる授業 のやり方である。私たちの推奨する協調学習は、この形をベースにアレンジされているもので、 「教え 合い」や「意見を言うだけの話し合い」ではない。 2 第1章 学習科学に基づく継続的な授業改革 教室で実施する時、知識構成型ジグソー法では、次の三つを柱として授業を組み立てる。 ・答えを出したい 問い」を準備する ・答え作りに必要な部品を 担する ・部品を統合して答えを出す 実際授業の中では、まず一人ひとり 問い」に答えてみた後、 部品 担グループ」に かれて部品を 確認する。この作業をエキスパート活動と呼ぶ。ある程度確認できたら、各エキスパートグループか ら一人ずつ組み合わせて新たなグループを作り、そこで実際部品を統合して答えを出す。これがジグ ソー活動である。統合した答えは、ジグソー活動グループの数だけ出てくるから、クラスの最後には グループごとに自 たちの えた答えを 換して、一人ひとり、いろいろな答えから自 で最も納得 のいく 言い方」表現」を拾って、納得づくの答えを得る。私たちの推奨する知識構成型ジグソー法は、 そういう 設的な他人との相互作用を自 でうまく引き起こす、学び方そのものの学びをも目指して もいる。 この仕組みの中には、教室で 設的相互作用を引き起こす、様々な工夫が埋め込まれている。授業 の最初に問いに答えることは、まず自 の えていることを「ことば」という、自 自身が検討の対 象にできる「具体物」に外化することを求めている。書いてみて、「あれ、もっとわかっていると思っ ていたのに」と感じても、それはそれでいい。自 がわかっていることがどの程度かまず最初にわかっ ていると、そこから授業での話し合いへの期待が生まれるかもしれない。エキスパート活動で部品を 担当することは、一人ひとりに、「私にはジグソー活動に移った時、人に伝えたいことがある」状態を 作り出す。これがコミュニケーション能力の基礎を作る。「あんまり良くわかんな」くても、それがか えって「なんとかことばにしよう」という努力につながる可能性はあるし、また、ジグソー活動に移っ てから、「なんだか話してみたら、それなりにことばになった」という経験につながるかもしれない。 ここで、「 えながら、 えていることをことばにする」体験をしながら、自 の えが少しずつはっ きりしてきて「面白い」と感じられる時間が作れるといい。そういう体験が、コラボレーション能力 といわれるものを育てる芽になるだろう。そこで、他人の部品もうまく取り込んで自 なりに納得で きる答えが見つかって、その後のクロストークで他の人の説明や先生のコメントをうまく取り込んで 「答えを自 なりに表現」できると、それは、「最初に書いた答え」とは随 違っているだろう。この 違いを実感することが「わかって来た感じ」を生み出してくれれば、それがイノベーションを引き起 こす力の基礎になると えられる。 このように、知識を構成していくためのジグソー法は、これまで実践されて来たアロンソン型と呼 ばれるジグソー法とは目的が異なり、その結果授業のデザインも異なってくる。 アロンソン型のジグソーが子どもたちの間の相互信頼関係を打ち立てることを目的に話し合いを喚 起していたのに対し、知識構成型のジグソー法は、一人ひとりの子どもが自 を獲得することを目的として、子どもに「 の えを抽象化する時に、自 えることば」を求め、その「 が納得できる言い方を工夫して、自 なりに納得できる知識 えることば」を って自 の体験から言っても「十 つ ながっている」ことの確認を求めている。 また、子どもが自 も、随 のことばを作り出して納得することと、一方的に「うまい説明」を与えること 違う。子どもは、「うまい説明」を与えたらそれを受け取ってくれるかもしれないが、それが もし、子ども自身の体感と結びついた納得できる表現になっていない時、子どもの頭の中では随 不 思議なことが起きている可能性がある。そういうことを示す知見を、学習科学の専門書から、少しだ 3 平成23年度活動報告書 第2集 け抜き出して検討してみよう。 2. 子どものことばの い方 (1)子どもは、「ふり」の世界で論理的な思 学 ができる でなされる教育場面では、しばしば「もし仮にこういうことが成り立つとしたら、そこからど んな帰結が得られるか」を問う。この問いは、ほとんど全ての場合、「ことば」を介して問われる。こ ういう問いに答えられることとことばの い方の間にどんな関係があるかを見た研究を紹介する。 今、たとえば4歳児を相手に、次のような話をしたとしよう。 「お魚はみんな木の上に住んでいます。 トットはお魚です。 トットはどこに住んでいるでしょう 」 さて、こう聞かれた4歳児は何と答えるだろうか 4歳児に「木の上に住んでいる」と答えさせるの は、ちょっと無理がありそうだ、と感じられるのではないか。やってみると、実際、無理なことがわ かっている。 なぜ、このようなことを心理学者が研究するかと言えば、大人でも、自 の経験に基づいてできる 推論は得意だが、経験に裏打ちされない推論は苦手だということが知られていて、それがなぜなのか 知りたいからである。かなり昔の研究だが、ルリアとヴィゴツキーという心理学者が、ウズベキスタ ンの綿花栽培地域の農民に「北の土地の熊はみんな白です。ノヴァヤゼムリアは北の町です。そこの 熊は何色でしょうか 」のような質問をしたところ、「行ったことがないのでわからない」と答えたと いう話が有名になっている。同じ人たちに、綿花の栽培について「イギリスは寒くて湿ったところで す。イギリスで綿花は育つでしょうか 」と聞くと、イギリスを知らなくても、「そりゃ無理」と正し く答えることができるのに、である。求められている推論の構造は同じだが、学 い農民は、自 経験のほとんどな の経験に結びつく綿花についての推論はできても、経験とは遠い熊についての推論は できなかったというのである。 ところが、人は、2、3年でも学 文化を経験していると、こういう「理論的」あるいは「 に行くと経験したことのない世界の出来 な推論ができるようになるという研究結果もある。なぜ学 事についても推論して判断を下せるようになるのだろう 析的」 この理由を解明するためにハリスが行った 一連の実験の一つが、4歳児に上のような質問をした実験である(Harris,2000)。おとぎ話を良く聞く 子どもは、段々おとぎ話に出て来るお姫様や小人や魔法 いがどういう振る舞いをするものか、実際 経験したことがなくても話を何度も聞くだけでお話の中で起きそうなことが予測できるようになる。 だとすると、理論的、 析的なやり方に数多く触れるチャンスがあれば、子どもであっても理論的、 析的なやり方が自然にできるようになるだろう。学 は、子どもにそういうチャンスを与えている のだろうか このことを調べるためにハリスたちは、4歳の未就学児と6歳の就学したての子どもたちを相手に、 この紹介の冒頭で挙げたような質問を、「当たり前のこと」として聞く場合と、「ふりの世界の出来事」 として聞く場合とで比較した。冒頭に挙げた例は、前者にあたる。ふりの世界の出来事として聞く聞 き方は、 「あのね、今私は遠い遠いところにあるお星様にいるの。そこではお魚がみーんな木の上に住 んでいるの。トットはそこのお魚なの。じゃあね、トットはどこに住んでるかなぁ」のような聞き方 4 第1章 学習科学に基づく継続的な授業改革 をする。 結果はどうだったか。「当たり前の聞き方」をすると、6歳児なら50%が正解できたのに対し、4歳児 で正解できたのは15%ほどだった。これに対して「ふりの世界」のこととして聞くと、4歳児でも50% が正解できた。6歳児だと80%以上の子どもが正確に答えることができることがわかった。子どもたち は、学 に行ったことがなくても、ふりの世界のことなら結構強いのである。本当にこの子たちが 「 析的」な見方をしているのか調べるためになぜそう えるのかも聞いてみた。そうすると、4歳児でも、 ふりの世界の話であれば、 「あのね、今ね、お魚が木の上に住んでるつもりになっているから」、 「だっ て、お魚は木の上に住んでいますって言ったじゃない」などの回答ができる子どもが15%程度はいた (「当たり前の聞き方」をされた場合、こういう回答は全く出てこなかった)。6歳児になると、60%の 子どもが 析的な推論に基づく説明をした。さらにいろいろ調べた結果、 最初に言うことがほんと だったらどうなるか、よく 学 という場で えてね」と前置きするだけで十 わされる言説について らしい、と報告されている。 えてみると、それは説明の中に「ふりの世界」を持ち込 むことに似ていなくもない。教師が「ここでは、私は非常に不思議なことを言うかもしれません。ふ だん日常的に体験していることとはまったく違うかもしれませんが、この世界の中では成立すること なのです」と説明すれば、子どもはそこで「論理的に」答えを導き出してみせることができるらしい。 だとすると、子どもがその場の問題が解けたからといって安心していられない。そういう子どもは、 教室で得た知識を、教室で提示された仮想世界の中だけで通用する知識としてカプセル化して処理し ているかもしれないから、である。子どもたちが うことばが実態として何を表現しているのか、注 意深く探ってゆく必要がありそうである。 (2)子どもは、ことばで「ふり」の世界を作り上げる ヴォスニアドゥという研究者は、子どもたちの科学的な概念が、日常的に経験を積み重ねてできる 素朴な経験則からどう変化するものかを研究している。例えば、天文学は、子どもになかなか専門知 識が入って来ない領域である。就学前の子どもたちは、その中で日常経験から天体についての素朴理 論を作る。例えば、就学前児童にとって地球は、「平らで安定」していて、「じっと動かず」、「下から 地面などによって支えられ」ていて、「地球の上には空や天体がある」ようなものである。これを、学 で習う天体の概念に変化させるためには、地球を、宙に浮かんでいて、自転や 転を行う球体とし てとらえられるようにならなければならない。 ヴォスニアドゥは、いろいろな年齢の子どもたちに、たくさんの質問をして、子どもたちが小学 1年生の時から5年生になるまでの間に少しずつ、地球について、それを石や家のような日常生活の中 にある物理的なカテゴリから、月や惑星、太陽などと一緒の天体カテゴリへとシフトさせることを明 らかにしている。 ではその間にどのような変化がおきるのだろうか ヴォスニアドゥたちは、アメリカの小学 1、3、 5年生に対して、地球についてもいろいろ聞いてみた。「地球はどんな形をしていますか」と尋ねると、 たいていの子どもが「丸い」と、正しく答えることができていた。しかし、「人は地球のどこに住んで いますか」、「ずっとずっと歩いて行くとそのうちどうなりますか」などの質問をすると、「人が住んで いるのは地球の中の平らなところ」とか「何日も何日もずっと歩き続けていたら、そのうち地球の端 について、おっこちちゃう」などの回答が得られたという。こういう答えをする子どもたちに地球の 絵を描いてもらうと、中が空洞で、空洞の球体の中に大地があり、その上に人間が立っている「空洞 5 平成23年度活動報告書 第2集 球体モデル」や、球体をクッションのように平らに押しつぶして人はその平らになった部 いる「平らな球体モデル」、さらには自 に住んで が良く知っている地球の他に、惑星という別の名を持ってい て、空に浮いている丸い地球がもう一つ、別にある「二つの地球モデル」など、いろいろな合成モデ ルが出て来たという。こういった合成モデルは、実際子どもたちが目にすることはないので、 「地球は 丸い」などのことばの世界でのモデルを自 なりにことばで作り上げたものだと えられる。 ヴォスニアドゥによると、協力してくれた60名の子どものうち科学的モデルを採用した回答は、1年 生で3名、3年生で8名、5年生で12名と徐々に増えて行くのに対して、合成モデルの中でももっとも初 期モデルに近い「二つの地球」モデルに基づく回答は、1年生で6名、3年生で2名いたものが5年生では 0と減っていた。合成モデルをさらにいくつか組み合わせた混合モデルで回答した人数も、1年生では 7名いたものが、3年生、5年生ではそれぞれ2名に減っており、素朴で一つの見方に定まらない理論が、 ゆっくり時間をかけて球形モデルという科学的概念に変化して行くゆるやかなプロセスが明らかに なった。この変化の途中では、さらに細かくいくつかの特徴的なモデルが生成されることがわかって いる。子どもは、うまく自 のことばでモデルを作り変えて、科学の世界に迫って行くとも言えるだ ろう(Vosniadou & Brewer, 1992)。 この二つの研究から見えて来ることをつなぐと、どんなことが言えるだろう 式として、子どもが学 一つの単純化した図 に入った途端から先生は子どもに「良―く聞いてね」と語りかけ、変わった 世界の話をする。それを子どもは聞いていて、自 に取っておいて、それと矛盾しないように学 る時は、どちらのモデルを が慣れ親しんだ世界でつくってきた経験則は大事 世界で通用する学 世界用のモデルを作る。学 にい う時か間違えないようにしておけば、それ程困ることはないが…。こう やってまとめてみると、私自身、こういう子どもだったのではないかという気すらして来る。大人だっ てこういう実体験の伴わない、説明だけのふりのモデルをたくさん持っているのではないか うことも十 あるらしい、という大人についての研究結果もある。ふりの世界で十 そうい 推論ができれば 当面それで構わないという「小世界」も、たくさんあるのかもしれない。 3. これからどこを目指すか もしもこういうことが多少なりとも真実なのだとすると、私たちはやはり「必要になったら、自 にとって、体験から言っても十 納得できる世界」での、私たち一人ひとりのわかり方と、科学と呼 ばれる世界でなされる体験し得ない壮大な世界でのわかり方との間のつじつまを合わせるスキルを身 につけておく必要があるのではないか 知識構成型のジグソー法は、この方向に向かって一歩踏み出 した授業法ではある。これまでの2年間に積み上げて来た実践結果からは、そこで子どもたちがどんな 「自 たちなりの語り方」をするものか、前より少しずつ見えて来ているようにも思う。けれど、1回 1回の授業の中で子どもたちがどこまで「ふりの世界」で語っていて、どこからは体験に根ざしたほん ものの理解に根ざして語っているのか、その両者をその場でうまく聞き 身が今、持っているだろうか けるだけの力を、私たち自 そういう「耳」を育てられるだけ、子どもの語りを聞かせてもらって いるだろうか 今のところ、まだ、私たちが子どもたちの語るすべてのことばを聞いて確かめてみるすべはない。 子どもたちの会話をもれなく記録することすらまだ難しい。けれど、世の中のIT環境が変化するにつ れ、こういうところはこれからどんどん変わって行くだろう。その時、できれば、私たち自身が子ど もの語りのどの部 の何を聞きたいかにできるだけ合わせた形で教室がIT化されるといい。未来の学 6 第1章 学習科学に基づく継続的な授業改革 びのゴールを求め、その学びを継続的に高めて行くために、またそれによって子どもたちが継続的、 発展的に賢くなって行けるように、私たちにできること、やらなければならないことはまだまだ多い。 これからも、「人はいかに学ぶものか」がみんなで、全体として、今よりもう少し良くわかるようにな るような、そんな連携を目指して行きたい。 文献: Harris, P. L., (2000)The work of the imagination, Malden, Ma.:Blackwell Publishers. Vosniadou,S.,& Brewer,W.F.,(1992)Mental models of the earth:A study of conceptual change in childhood., Cognitive Psychology, 24., 535-585. 7 第2章 写真 県立高 第1節 教育委員会や社会人と推進機構との連携 学力向上基盤形成事業 平成23年度報告会 はじめに 第2節 新しい学びプロジェクト」 第3節 県立高 第4節 学力向上基盤形成事業」 社会人・産業界との授業改善連携 教科ラウンドテーブルの様子 平成23年度活動報告書 第2章 第2集 教育委員会や社会人と推進機構との連携 1. はじめに 本章では、本報告書の基本となる東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)と自 治体及び産業界との「協調学習を引き起こす授業づくり」のための研究連携の基礎的な枠組みについ て紹介し、自治体及び産業界の側からの現時点での研究連携の成果と課題の 括を掲載する。 まず自治体との連携について、CoREFは平成22年度及び平成23年度の2年間、市町教育委員会のネッ トワークとの連携である「新しい学びプロジェクト」及び、埼玉県教育委員会との連携である「県立 高 学力向上基盤形成事業」のふたつの研究連携事業を行ってきた。いずれの研究連携事業も本年度 で2年間の事業をいったん終了するが、次年度以降も新規事業を設け継続的に研究連携を行う予定であ る。 各研究連携の詳細は当該の節に譲るが、ふたつの事業に共通してCoREFが主に目標としているの は、⑴協調学習を引き起こすことを目的に、自主的、継続的に授業づくり、実践、評価という授業改 善のサイクルを回すことができる「コーディネータ教員」の養成、⑵ウェブ上における開発教材の共 有と協調的な吟味のコミュニティづくり、の2点である。なお、このコミュニティには、教員だけでな く、様々な専門性を持った一般社会人の参画も期待されている。これらの目標の達成を通じて、各自 治体内及び、自治体間連携の取組として、「協調学習を引き起こす授業づくり」が発展的に拡張できる ような仕組みを形成することが、研究連携のひとつのゴールである。 コーディネータ教員」の養成については、いずれのプロジェクトにおいても2年間の取組を経て、 一定の成果が上がっていると言える。「新しい学びプロジェクト」参加市町のいくつかでは、自治体内 で研究推進員を中心に協調学習の授業づくりについての職員研修の機会を設けたり、「協調学習」 の研 究のための自主的なサークルを立ち上げる動きも起こっている。また、 「県立高 学力向上基盤形成事 業」を行った埼玉県教育委員会では、事業を中心的に動かした指導主事が教員研修においても「協調 学習」の え方を取り入れた研修を行っている。また、高等学 での取組に周辺的に参加した義務教 育の指導主事がコーディネータとなって、義務教育段階での協調学習研究に取り掛かった市町への支 援も行われている。次年度は、全県の高 初任者研修において授業力向上のために、研究推進委員と CoREFを講師として「協調学習」の授業づくりを課すことも決定している。 ウェブ上における開発教材の共有と協調的な吟味のコミュニティづくりについても、前年度の約3倍 の教員が教材の開発に関わり、約3倍の教材が開発された。開発された教材の概要については本報告書 第3章に、指導案、教材、実践者のコメント等は付属のDVDに収録している。また、今年度は2つの連 携の枠外から協調学習の授業実践に興味を持ち、実際に教材開発、実践を行ってくれた教員の数も大 きく増加した。例えば、秋田県立秋田中央高 では「県立高 学力向上基盤形成事業」の研修や報告 会に教員を派遣するとともに、 内で独自に協調学習の研究を進め、CoREFに報告をいただいている。 実践の拡大を喜ぶとともに、自治体レベルの連携の枠を超えて実践者をつなぐコミュニティづくりが 今後一層の課題となる。 連携の多様性は、CoREFの研究連携の大きな特色である。「新しい学びプロジェクト」には、9県18 市町と1県立学 が参加しており、自治体の規模も地方中核市から人口1万人に満たない町まで多様で ある。研究に携わった教員の学級規模も複式学級から30名以上の学級まで多岐にわたる。また、連携 に参加している宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 10 は中高一貫の進学 であり、全県から募集さ 第2章 れた1学年1学級の生徒からなる。研究は、小中学 教科の研究部会内では原則的に 教育委員会や社会人と推進機構との連携 の国語、算数・数学、理科、社会で行ったが、各 種学年による区別なく進められた。授業づくりにあたって、学習の ゴールをより巨視的に捉え直すこと、小中学 の教員の多様な専門性を活かした教材開発を行うこと をねらったためである。 また、「県立高 学力向上基盤形成事業」では、本年度、県内の高 究推進委員が参加したが、研究指定 基礎学力の形成に課題を抱える高 の約5 の1にあたる32 から研 に指定された13 の中だけ見ても、トップクラスの進学 、定時制の高 、芸術科の高 から まで多様である。日常それぞれ異 なる環境に属する教員が、協調学習の授業づくりというひとつの活動を媒介に協同することで、教科 のねらいや生徒の学習の過程についてより広い視野を得ることは、日々の授業改善にも貢献するもの であるだろう。 連携のスタイルにも多様性がある。CoREFの研究連携の枠組みは、基本的に連携相手となる自治体 と、その研究連携にかけるお互いの願いを 立高 換し、最適な連携の形を模索することで形成される。 「県 学力向上基盤形成事業」は、埼玉県教育委員会との連携を一番の基本としている。この事業で は広く全県の高等学 の授業改善のための取組を行ってきたが、現在埼玉県教育委員会はこの事業を 基盤に、様々な別種の取組として「協調学習」研究の対象、部門を柔軟に拡張し、埼玉県における協 調学習研究は前述のように義務教育段階や初任者研修など、他の部門へと波及しつつある。 他方、「新しい学びプロジェクト」は、地域的に広がりのある各地の市町教育委員会によって構成さ れるネットワークとの研究連携であり、こちらの研究連携事業の場合、協調学習の授業づくりという 活動を核に、それぞれの自治体が連携への参加や退出も含め、任意の関わりを行うことが可能になっ ているのが特徴である。CoREFはネットワークを中心とした教材開発、実践報告の場を提供し、その 場への参入を中心に各自治体が独自の研究を進めている。 多様性をひとつのキーワードにCoREFの研究連携の特徴を概観してみた。私たちがこれらの研究連 携にかける願いの大きなひとつは、多様な価値観、多様な専門性を持つ参加者の一人ひとりが自 な りの賢さを育てるような場をつくりたいということである。研究連携の目的である「協調学習を引き 起こす授業づくり」は、一義的には子どもたちの学習のためのものであるが、子どもたちの学習を支 える中で、私たち、より大きな言い方をすれば社会自体も協調的に賢くなっていくようなサイクルを 育て続けたい。 また、CoREFには、設立当時から、もう一つ大きな目標がある。この事業にさらに大学研究者、学 会メンバー、社会人シニアなどの参画を得て、教育全体の質を上げるためにみんなが相互に学び合う コミュニティを形成することであり、質の高い 設的相互作用が起きる少人数のグループが相互に緩 く連携して局所的にネットワークを支え合う Network of Networks の構築と運用である。この試み に関しては現在日本産学フォーラム、日本工学会、日立理科クラブ、日本技術士会などの支援を得て、 新しい試みが始まっている。本章の最後には、「協調学習の授業づくり」を軸とした産業界との連携に ついても報告したい。 産業界と「協調学習の授業づくり」との関わりは、昨年度の教材の開発において資料の提供をいた だくといった関わりから、本年度、局所的ではあるが、学会からコーディネータとして任命されたシ ニアの方が、実践や研修を参観する、ひとまず知識構成型ジグソー法の教材を作成する、その教材を 学 の先生方が「 えるか」判断して、自 なりにアレンジして うといった関わりまで発展してき た。また、この取組に参入しようと声を挙げて下さる団体も増えつつある。 11 平成23年度活動報告書 第2集 CoREFの研究連携は、「協調学習を引き起こす授業づくり」を中心に、「教材の開発・共有」、「コー ディネータ教員の養成」、「緩やかに重なりあう実践コミュニティ同士のネットワーキング」を行って いくことで、子どもたちだけでなく、すでに多様な専門性を持った大人たちも自 なりの賢さを育て 続けていくことを目指した連携である。本章では、この研究連携が、2年間でどのように機能し、また 課題を残したのかを、「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」、そして産業界 との連携において、私たちと共に仕事をして下さっている教育委員会、産業界の方々の声を中心に報 告させていただく。 2. 新しい学びプロジェクト」 (1)連携事業の概要 ① 連携の枠組み 新しい学びプロジェクト」は、平成22年度より開始したCoREFと市町教育委員会との小中学 にお ける「協調学習を引き起こす授業づくり」のための2年間の研究連携事業であり、日本産学フォーラム の支援を受けて推進されている。研究連携のねらいは、 「市町教育委員会が連携しながら協調学習の え方に基づいた研究・実践を行い、各教科等における実践モデルを作成する」ことである。研究連携 の中心的活動は、知識構成型ジグソー法による教材の開発、実践、実践の振り返りを中心としたサイ クルを、住む地域、教えている学 、そして教員歴も多様な教師たちとCoREFスタッフが、ウェブ上 のネットワークも活用しながら協同してまわしていくことである。 連携初年度の参加市町は、北から、和歌山県有田市、有田川町、広島県安芸太田町、福岡県香春町、 大 県竹田市、熊本県南小国町、宮崎県宮崎市、国富町、五ヶ瀬町の6県9市町である。今年度はさら に愛知県高浜市、和歌山県湯浅町、広川町、兵庫県加西市、島根県浜田市、津和野町、福岡県飯塚市、 大 県九重町、豊後高田市、宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 1県立学 附属中学 が新たに参加し、 勢9県18市町 との研究連携となった。 研究連携の具体的な方法として、各市町は国語、算数・数学、理科、社会の4教科の部会から任意の 1つ以上の部会に、研究推進員となる教員を参加させ、研究推進員は教材開発を中心とした活動を行う。 研究推進員の数は自治体の任意であり、本年度各自治体はそれぞれ1∼5名の研究推進員を参加させた。 本年度の研究推進員数は、国語11名(うち小学 中学 4名)、社会10名(うち小学 4名、中学 7名、中学 4名)、算数・数学12名(うち小学 6名)、理科5名(うち小学 1名、中学 8名、 4名)の計38 名であり、昨年度の13名から約3倍増となった。昨年度の研究推進員は、連携外の自治体に転出した1 名を除き、全て継続して研究推進員となった。 参加各市町は、指導主事ないしそれに準ずる職員を1名ずつ研究推進担当者として用意し、研究連携 の事務的なサポートを行った。また、自治体間及び自治体とCoREFとの連絡業務を円滑に行うために、 研究推進担当者の代表とCoREFスタッフからなる事務局を設けた。今年度の事務局は広島県安芸太田 町が担当した。 ② 本年度のスケジュール 本年度の事業の主なスケジュールは、次ページの表1の通りである。事業2年次の本年度は、昨年よ り1ヶ月早く本格的な研修を開始することができた。研修は前年度の財産を活かす形でデザインし、継 続の研究推進員による知識構成型ジグソー法を用いた実践の成果物を活用したプログラムを行った。 この間も継続の研究推進員を中心にメーリングリストを活用した教材開発は継続しており、1学期の 12 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 第1回教科研究推進会を持つことができた。早い時期に直接 表1: 新しい学びプロジェクト」 本年度スケジュール 実践を参観、協議し、お互いの授業案を検討することがで 日程 うちにそこで開発された実践を参観することを中心とした きたのは、特に新規の研究推進員が授業を構想する上で大 きな効果があったと えられる。実際、この研究推進会の 後、夏休み前の時期に新規の研究推進員を中心に多くの教 材が開発、実践された。 2学期の末には、ブロックごとに 4月23日 第1回連絡協議会 5月20日 第1回研究推進員研修会 6−7月 第1回各教科研究推進会 (全体会) 11−12月 第2回各教科研究推進会 (ブロック会) 2月1011日 本年度報告会及び 第2回連絡協議会、 研究推進員全体 流会 かれて第2回各教科研 究推進会を開催した。今年度は研究推進員の増加に伴い、 スケジュール調整等の都合から、第2回の研究推進会につい ては、地域や 種によるブロックでの 科会開催の形で 行った。第2回研究推進会では、検証授業の参観、協議、お 互いの実践報告や教材案の検討、そして今年度の教科の研 スケジュール 以上の基本的なスケジュールに加え、 各自の検証授業、ネット上での教材開 発及び実践報告を随時行った。 究の成果と課題についての議論を行った。この成果と課題のまとめについては、本報告書第3章に収録 されている。 研究推進員による検証授業は、研究授業として一般に 開された授業、通常の授業など様々あった が、CoREFスタッフが可能な限り実際に訪問観察し、フィードバック、並びに実践者へのインタビュー を行った。またそれが難しい場合は、市町研究推進担当者に授業の映像記録を依頼し、後日メーリン グリストのやり取りを通じてフィードバックを行った。加えて、可能な限り児童生徒への授業前後の アンケートを実施し、授業の成果を測定するための一助とした。 2月の10-11日には、本年度の研究を振り返る報告会を九州大学で行い、2日間でのべ250名の参加者 を集めた。10日は研究推進員報告会として、協調学習の授業づくりについての研究の現段階のまとめ を行った。各教科の今年度の研究の成果と課題について実際の授業の映像を えて報告し、続くラウ ンドテーブルで参加者と実践についての協議を深めた。11日は全体報告会として、「新しい学びプロ ジェクト」の2年間を検証し、今後の発展を模索する会を行った。プログラムの中心は、プロジェクト の前代表である兵庫教育大学の日渡円教授をコーディネータに、教育長、研究推進担当者、研究推進 員の代表がプロジェクトの2年間で自 たちが経験したことを振り返り、今後の発展の方向性を探るパ ネルディスカッションであり、会場からの質疑も ③ えながら白熱した会となった。 協調学習の授業づくりを中心とした研究連携ネットワーク 本項のまとめとして、2年間の研究連携にいったんの区切りがついた現在、プロジェクトの要となる 協調学習の授業づくりを中心とした研究連携ネットワークはどのように発展し、今後どのような可能 性を持っているのか、現状と今後の展望について述べる。 新しい学びプロジェクト」は、前述の通り9県18市町・1県立学 からなる研究連携である。連携自 治体間は物理的に離れているだけでなく、いくつかの市町は遠隔地で 通手段が限定されており、教 員の行き来も容易ではない。そのため、研究推進にあたっては、様々な地域からやってきた多様な見 方を持つ教員同士が自由に 流できるというメリットがある半面、研究推進員同士が直接議論する機 会を持つのが難しいというデメリットがあった。この点を踏まえ、本プロジェクトでは、メーリング リストを活用することによって、離れた地域にいる研究推進員同士が情報を共有しながら、気軽に議 論を行うことができる環境づくりを目指した。 13 平成23年度活動報告書 第2集 研究連携へのITの活用は、最終的に多様な参加 者が各人の望むレベルで参加できるような、緩や かな研究連携ネットワークを作っていくためのも のでもある。図1のように、ネット及び対面の環境 で構成される研究連携の授業づくりの場には、市 町からそれぞれ研究推進員が参加し、大学の教科 内容や学習方法の専門家と共に、教材について検 討を行う。各研究推進員の周辺には、学 内、あ るいは自治体内で、教材開発に協力する同僚教員 が多く存在する。研究推進員は、自治体内での検 図1:研究連携のネットワーク・モデル 討と連携の授業づくりの場での検討を往還しなが ら、教材を完成させる。この過程を通じて、興味 を持った同僚教員が授業を開発してみたくなったり、開発された教材を自 でも試してみたくなった りすれば、その教員は研究・実践ネットワークに自由に参画することが推奨される。 この研究連携で研究推進員に期待されたのは、各自治体の教育現場のニーズと研究連携の場で身に つけた「協調学習」についての様々な知見を統合しながら、ネットワークにおける自治体レベルのハ ブとなる「コーディネータ教員」として活躍することであった。多くの参加自治体で、研究推進員を 中心に 内及び町内での協調学習の研修が行われており、このコーディネータとしての役割には一定 の成果が挙がっているということができる。 また、研究連携2年次の本年度は、メーリングリストに参加する同僚教員を「サポートメンバー」と して登録するシステムを開始し、5市町から16名の教員の登録をいただいた。サポートメンバーの先生 から、教材の開発や実践の報告もいただいている。また、サポートメンバー登録はしないものの、研 究推進員に配信されるメーリングリストを る。また、学 内や市町の研究グループで共有している事例も伺ってい の研究課題に協調学習を取り入れて下さっている学 でも飯塚市立片島小学 は、研究推進員と学 もいくつか登場しつつある。中 長を中心に協調学習の研究を推進し、 内のすべての 学級で知識構成型ジグソー法を用いた検証授業を実践して下さったとの報告をいただいている。こう いったローカルなコミュニティレベルでの取組は、必ずしもCoREFが把握していないところで起こっ ている。より正確な実態については、本節第3項に掲載した各市町の研究推進担当者による報告を参照 いただきたい。しかし、実態としては、時に自治体の枠を超え、研究推進担当者も把握できていない レベルで、協調の授業づくりは広がっていると感じている。 次年度以降、「新しい学びプロジェクト」は、自治体間の連携を基盤として継続的に発展していくた めの新たな方向性を模索していくことになる。基本的には、それぞれの参加自治体がその時々のニー ズや体力に応じて参加形態を選択することを保障するより自由度の高い研究連携となる。CoREFは、 ウェブ上の協調学習の授業づくり研究の場を提供することを中心に、より弾力的な関わりを行ってい くことになる。新しい学びのゴールに向けて、協調学習の授業づくりを中心としたローカルなコミュ ニティ同士の緩やかな研究連携ネットワーク、その構想は新しい一歩を踏み出したのである。 14 第2章 (2)2年間の事業の 教育委員会や社会人と推進機構との連携 括 広島県安芸太田町教育長 ① 二見 吉康 新しい学びプロジェクト概要 平成21年春、東京大学から「大学の研究知を小中学 現場で実践に移したい。」との要請をいただき、 そこで出会ったのが新しい授業方法「協調学習」であった。そこから2年間の事業として、東京大学と 全国の市町が参加する「新しい学びプロジェクト」が始まった。前代表 日渡円氏(当時五ヶ瀬町教 育長)が中心となって、各地でこのプロジェクトの構想と研究への参加を呼びかけた。平成22年春、 和歌山県有田市、有田川町、広島県安芸太田町、福岡県香春町、熊本県南小国町、大 県竹田市、宮 崎県宮崎市、国富町、五ヶ瀬町の9つの教育委員会で構成することとなり、東京大学において参加する 6県9市町教育長、担当者が集い研究組織の在り方や方向性を決定した。 協調学習」は理論的に開発されたが学 と小中学 現場での実践は行われていなかった。大学における研究知 における教育実践という共同の作業こそが「新しい学びプロジェクト」である。「新しい学 びプロジェクト」は市町教育委員会が連携しながら、協調学習の えに基づいた研究・実践を行い、 各教科における実践モデルを作成することを研究のねらいとした。そこで、研究期間を平成22年度・ 平成23年度の2年間として、研究する教科は国語科、社会科、算数・数学科、理科の4教科とした。こ の4教科について、参加する市町教育委員会の学 から、教諭を「研究推進員」として指名し、各教科 ごとに東京大学に指導のもとに研究を進めてきた。 研究推進員は、常時メーリングリスト等を活用しながら研究を進め、定期的に東京大学等に集まる ことにより実践的な研究と体系化の作業を進めてきた。この研究推進員が1年間進めてきた「協調学習」 の32のリソース集としてまとめられた。 平成23年2月、「新しい学びプロジェクト平成22年度報告会」を開催した。 平成23年春、報告会に参加した市町から次年度の参加の申し入れがあり、今年度の参加自治体は19 市町・県立学 となった。 愛知県高浜市、和歌山県有田市、有田川町、湯浅町、広川町、兵庫県加西市、島根県浜田市、津和 野町、広島県安芸太田町、福岡県香春町、飯塚市、大 県竹田市、九重町、豊後高田市、熊本県南小 国町、宮崎県宮崎市、国富町、五ヶ瀬町、宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 である。 平成23年度の教科の担当割り振りは表2のとおりである。 表2:H23年度の教科の担当 教 ② 科 担 当 国語科 湯浅町 広川町 高浜市 香春町 五ヶ瀬町 都城泉ヶ丘附属中学 社会科 有田市 有田川町 算数・数学科 浜田市 安芸太田町 理 安芸太田町 科 竹田市 高浜市 市 九重町 九重町 飯塚市 町 豊後高田市 南小国町 竹田市 五ヶ瀬町 等 五ヶ瀬町 豊後高田市 国富町 南小国町 津和野町 宮崎市 五ヶ瀬町 都城泉ヶ丘附属中学 組織 平成23年度「新しい学びプロジェクト」連絡協議会の組織は次のとおりである ・全体代表 安芸太田町教育長 ・全体事務局 安芸太田町 ・副代表 ・九州地区事務局 香春町教育長 九重町 15 ・和歌山地区事務局 有田川町 平成23年度活動報告書 第2集 また、市町教育委員会担当者の中から4名の各教科担当者を配置し各教科の研究の運営に当たった。 ③ 運営体制 研究推進員は、今年度も常時メーリングリスト等を活用しながら研究を進め、定期的に集まって研 究を行うが、東京大学に限定せず、教科ブロックを中心に近距離での集合をめざし、時間と経費の節 減に努めた。研究・実践は、教科別、小中別など柔軟に行うこととした。 また、研究推進員の補助的な活動やリソースの教材を追試で授業するなどの協力を目的としてサ ポーター制度も取り入れた。 ④ 2年間の成果と課題 ・参加市町が9から19へと倍増し、協調学習を推進する地域を拡大することができた。 ・研究推進員の尽力により、年度当初から実践が行われ、小・中合わせて100を超える実践のリソース 集としてまとめることができ、平成24年2月報告会(2年次)において各教科の実践を共有すること ができた。 ・授業の指導案及びエキスパート資料、ワークシート等をセットにしてまとめたことによりCoREFサ イトに訪れた方々が追試できる条件が充実した。 ・協調学習が参加市町の教育実践にもたらしたものは次のことが ア えられる。 これまでの学力観を見直し、子どもたちの主体的な学びから、「活用できる知識」が獲得される という視点に立った授業改善につながる。 イ エキスパート活動・ジグソー活動・クロストークは、学習指導要領に示されている「言語活動 の充実」に果たす役割が大きい。 ウ 授業の指導案及びエキスパート資料、ワークシート等の作成の過程こそが、教材 析や題材の 理解につながり、教師の指導力向上に資する。 ⑤ 来年度への展望 ・「協調学習」という新しい学習のとらえ方を基礎にして「活用できる」学習の成果の評価方法を探っ ていく努力も必要である。 ・メーリングリスト等を活用するだけでなく、映像会議システム等も活用し遠隔地からの授業参観・ 研究協議等の場も進める工夫が必要である。 ・CoREFの研究連携事業としての2年間の事業終了後に、各自治体内及び自治体間連携の取組として、 「協調学習を引き起こす授業づくり」が発展的に拡張できるよう仕組み作りが必要である。自立し た自治体の連合組織を確立し、東京大学と連携した研究を推進することも視野に入れる必要がある。 (3)プロジェクトへの提言 兵庫教育大学 教授 日渡 円(前宮崎県五ヶ瀬町教育長) ポスト近代の教育・学習として言われていることがある。それは、これまでの物質主義的な19・20 世紀型教育と近代化装置としての学 。平たく言うと、これまでの学 は、近代化・工業化に必要な 知識の習得、階層的職場(工場)での指示遂行力と一斉行動力を育成することを目標とし、その教育 内容は、生産者の観点から、平 的な能力と知識を子どもに効率的に授与・伝達するために編成され、 指導方法は黒板への板書による一斉かつ一方向のレディ・メイド型授業が中心であった。近代化の拠 点として学 は知識伝達の専門職である教員を中心に構成され、国の法令と指示に基づいてガバナン スされ、社会は子どもの教育を学 に委託してきた。 16 第2章 これに対しこれからの学 は、知識文明を目指した学びの 教育委員会や社会人と推進機構との連携 造と学びの共同体としての学 になら なければならない。物質的な豊かさを追求する大量生産・大量消費の時代の終焉と、グローバル化・ 知識基盤社会の到来の中で、我が国が勝負できる価値はハードからソフトへの移行である。学 いては、一人ひとりの自発的 にお 造力を高めるともに、立場の異なる人々とのコミュニケーション力や 協働(コラボレート)する力を主体的に学びとる教育への転換(学びのイノベーション)が必要であ る。 新しい学びプロジェクト」は、協調学習を通じて、学びの転換を教師が起こす方法として、教師側 の教えの転換(教えのイノベーション)である。教師の教えのイノベーションは、教師一人ひとりの 気づきから始まるが、教師が長く続いた教授方法から脱皮できないように、教育行政も脱皮できない でいた。年を追うごとに「新しい学びプロジェクト」への参加自治体も増えてきたが、まだまだ自発 造的な集団とはなり得ていない。 的で 地方 権化が進んではいるが、地方 権とは権限と責任が一体のものとして移譲されることであり、 ナショナルスタンダードとローカルオプティマム(その地域にとって最適な環境・方法)であるが、 今こそ地方教育行政は、教育の世界における地方 権とは何であるかをしっかりと見据えて、ローカ ルオプティマムを探す必要がある。言い換えると、それぞれの地域で責任を持って最適な学びの環境・ 方法を見つけることである。 協調学習が最適なものであると断言することはできないが、少なくとも、 「新しい学びプロジェクト」 は、一律、画一、一斉に対して新たな提案を模索している研究であることには間違いない。これまで は、東京大学の支援を受けて、その支援の中で研究を進めてきたが、これからは、全国のいろいろな 地方自治体がそれどれ特色のある行政施策を実施しているように、教育委員会も学びの形を作り出す 必要がある。前述したように、グローバル化が進む現在、イノベーションを起こさなければ日本はた ち行かなくなる。中教審の報告の中でも再三再四一斉授業からの脱却が言われている。学びのイノベー ション(教えのイノベーション)を起こすグループとして、その組織運営を主体的に行うことはもち ろん、自信を持ってこれからも研究を深め、参加自治体を増やしていく必要がある。 17 平成23年度活動報告書 第2集 (4)各市町取組の紹介 愛知県高浜市 基本データ(平成23年度) 人 口 43,482 人 面 積 13 ㎢ 学 数 思いやり、支え合い、手と手をつなぐ大家族たか 児 童 ・ 生 徒 数 はま。愛知県のほぼ中央に位置し、 「三州瓦」 の産 地としても有名。日本最大の瓦の産地。 教 職 員 小学 児 童 5 3,024 ・中学 名・生 徒 2 1,456 名 数 小学 156 名・ 197 名 (常勤・全職員) 中学 86 名・ 103 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 岸 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 上 善 徳 参加年度 平岡香澄教諭 間瀬智広教諭 国語・中学 社会・小学 鈴木 剛 平成 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0566-52-1111(345) 23 年度より参加 開研究授業 2 回 実践数 その他(推進員) 2 回 (おおよその数) その他(全教員) 4 回 Email gakkou@city.takahama.lg.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 知識注入型の授業が多く、子どもたちが、「 ていくために必要な「 うなことを え、判断する」場面、すなわち人間が人間として生き え、判断する力」を育む場面が設定されていない授業が少なくない。このよ えていた時に知ったのが、本プロジェクトが推し進める協調学習という手法である。学 教育現場において、そうあってほしいと願う子どもたちの姿を、意図的に引き出すことのできるこ の学習法に取り組みたいと えるに至った。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 今年度は、研究推進員から在籍 の先生方にこの学習法を知ってもらう、この学習法による子ども たちの姿を見てもらうことに主眼をおいた。活性化した授業。主体的に課題に取り組み、仲間とかか わろうとしている子どもたちの姿、人ごとでなく自 のこととして聴こうとする姿、 設的な発言を する姿等が見られ、先生方に、教材研究と、このような子どもたちの姿を引き出すことができるよう な授業を構想しなければならないという思いをもってもらうことができたと える。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 本年度は小学 1 、中学 1 にそれぞれ研究推進員を1名ずつ配置した。研究推進員による協調学 習の授業を市内教職員への 開授業と位置づけ、市内の先生方に協調学習による授業を周知した。さ らに研究推進員の授業に学び、また、研究推進員が指導者になって、協調学習の授業が構想・実践さ れた。研究推進員以外の教師によって、今年度は社会、数学、理科、体育の授業が実践された。参加 2年目となる来年度はさらに市内の先生方への周知と、授業構想、実践をふくらませていきたいと ている。 18 え 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 小学 11 兵庫県加西市 基本データ(平成23年度) 人 口 47,491 人 面 積 150.95 ㎢ 学 加西市は播州平野の中央に位置し、古くから 数 16 通 児童・生徒数 の要衝である。教育では「新しい時代を切り拓く こころ豊かな人づくり」を目指している。 教 職 員 児 童 ・中学 2,543名 4 名・生 ・特支 1 徒 1,381 名 数 小学 191 名・ 200 名 (常勤・全職員) 中学 142 名・ 146 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 永 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 田 岳 巳 参加年度 多田俊朗教諭 高井邦彰教諭 国語・小学 算数・小学 塩見 善則 平成 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0790-42-3723 23 年度より参加 開研究授業 3 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 兵庫教育大学の日渡教授よりCoREFの取組の紹介があり、加西市の子どもたちのコミュニケーショ ン能力向上・学力向上に効果があると判断し参加した。 小中学 における授業の なる充実と不登 対策が課題である。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 本市は23年度からの参加であるが、推進員を中心に小学 の国語と算数で取り組んだ。 協調学習では児童の反応は大変良く、効果的と思われるが、授業の段取りにまだまだ時間を要する。 ただし、研究推進員は意欲的に取り組んでおり、授業力向上につながっていると思われる。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 現在は、2人の研究推進員が所属する学 を中心に研究活動を展開している。徐々に、その2 では 研究グループやサポート体制が整いつつある。 本年度、上記の2 では、 内研修として、「協調学習」を取り上げ、研究授業やジグソー活動の講 習を実施した。 来年度は、研究グループの拡大と活動の充実に取り組んでいきたい。 19 平成23年度活動報告書 第2集 和歌山県有田市 基本データ(平成23年度) 人 口 31,416 人 面 積 36.92 ㎢ 学 数 日本一古い稲荷神社、徒歩漁法による鵜飼、有田 児 童 ・ 生 徒 数 みかんや太刀魚の水揚げ量全国一を誇る箕島漁港 等、黒潮かおる文化の市である。 教 職 員 小学 児 童 7 ・中学 1,679 名・生 徒 1 908 名 数 小学 123 名・ 126 名 (常勤・全職員) 中学 80 名・ 87 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 田 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 中 政 彦 参加年度 髙垣和生教諭 南畑好伸教諭 社会・中学 社会・中学 指導主事 福田 孝 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0737-83-1111 平成 これまでの協調学習 22 年度より参加 開研究授業 2 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 平成22年2月に東京大学で実施された「CoREFとの研究連携第1回連絡協議会」に出席し、本プロジェ クトの趣旨に賛同した。協調学習は、平成18年度の教育基本法の改正に始まる教育改革への対応と、 本市の課題である児童生徒の自尊感情を高める上で非常に効果的であると えた。さらに、9市町が連 携をとりながらプロジェクトに参画することによる相乗効果が期待できたことから、参加するにい たった。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 平成22年度の研究推進員は、髙垣教諭1名であったが、隣接する有田川町に勤務する面矢教諭と共同 して研究に取り組み、 民的 野における実践を行った。平成23年度は、髙垣教諭に加え、中学 社 会科研究推進員として南畑教諭が参加し、2人体制で研究に取り組んだ。そして、11月に南畑教諭が、 12月に髙垣教諭が 開研究授業を実施した。南畑教諭の クを活発にするために発問を工夫した。髙垣教諭の 開研究授業では、停滞しがちなクロストー 開研究授業では、今まで取り組んだ授業の反省 から、生徒が学びに向かう意欲を高めるように、授業デザインや各活動に工夫を加えた実践を行った。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 本市は、中学社会科を重点的に研究した。その結果、社会科における協調学習のめざす方向性が明 らかになってきた。来年度は、小学 において協調学習の研究に取り組みたいと 20 えている。 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 和歌山県有田郡湯浅町 基本データ(平成23年度) 人 口 13,625 人 面 積 20.80 ㎢ 学 和歌山県の中北部に位置し、湯浅湾はアジ・サバ・ シラスの漁場であり、古くは熊野古道の宿場町と して栄え、醤油発祥の地でもあります。 数 児童・生徒数 教 職 員 小学 児 童 4 686 ・中学 名・生 徒 1 383 名 数 小学 62 名・ 75 名 (常勤・全職員) 中学 34 名・ 38 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 垣 23年度研究推進員 (教科・ 種) 南 内 貞 参加年度 平成 23 年度より参加 紳也教諭 国語・小学 研究推進担当者 川口 厚之 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0737-63-1111 これまでの協調学習 開研究授業 1 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 Email sidou2@yuasa.ed.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 隣接する有田市と有田川町の取組を知り、先進市町と連携した取組が可能で、指導方法の工夫改善 や教員の意識改革等に有効であると判断して本プロジェクトに参加した。 本町の教育課題の中心は、児童生徒の学力向上である。近年、少しずつではあるが、全国的な調査 と比較しても改善の傾向にあるものの、まだまだ十 なものにはなっていない。特に、児童生徒の表 現力やコミュニケーション力に課題が多く、新学習指導要領でも重視されている言語活動を普段の授 業においていかに充実させていくかが喫緊の課題である。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 国語科で1名を研究推進員とし、 内においては研究推進員が所属している高学年を中心に管理職の 指導のもと、協調学習の実践研究を進めてきた。当該 は2年前から国語科における伝え合いを中心と した学習指導の研究を進めていたことから、今回の研究推進が学 にとっても新しい切り口となり、 教職員の視野が広まったと言える。取組としては、まだこの1年だけのものであることから、研究推進 員を含めてまだまだ協調学習についての理解が十 き点が多いと でないことから、他の実践事例からさらに学ぶべ える。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 今後は、協調学習の手法を他 へも伝達し、授業改善の新しい切り口として、共通理解を図りなが ら推進していきたい。その場合、近隣市町と連携しながら研究推進員を中心に、学力向上に向けた取 組へとつなげていきたい。 21 平成23年度活動報告書 第2集 和歌山県有田郡広川町 基本データ(平成23年度) 人 口 7,760 人 面 積 広川流域に位置し、歴 65.31 ㎢ 学 と教育の町、広川町。 「稲 むらの火」により、津波から村人を逃がした濵口 梧陵 。防災で全国をリードしている町です。 数 児童・生徒数 教 職 員 小学 児 3 童 422 ・中学 名・生 2 徒 205 名 数 小学 59 名・ 60 名 (常勤・全職員) 中学 20 名・ 24 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 山 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 口 政 明 参加年度 平成 23 年度より参加 榎本さち教諭 国語・小学 畑屋 好之 プロジェクトに関する問い合わせ先 これまでの協調学習 TEL 0737-63-1122(内線262) 開研究授業 1 回 実践数 その他(推進員) 2 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 有田市、有田川町の実績を聞き、授業の工夫改善や教員の意識改革等に有効であると判断して本プ ロジェクトに参加した。 落ち着いた教育環境の中で学 教育が展開できている。学力テスト等ではまだまだ課題も大きいが、 教師と子供が一緒になって取り組んでいる。子どもの学習意欲を大切にした出力型の授業の必要性を 教職員で共有し、指導の工夫改善への意識を高める必要がある。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 研究推進員を中心に協調学習の実践研究を進め、当該教員の指導力向上がみられる。また、当該所 属 において、学 研究課題と協調学習の取組の接点が明確になりつつある。子どもの実態に応じた 授業展開の工夫がなされてきた。 今後は、積極的に実践研究に取り組み、多くの教員が協調学習の良さを知るようにする必要がある。 そのうえで実践する教員を多く育成するとともに、授業改善への気運を一層高めていく必要がある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 研究推進員を軸にして協調学習について学ぶ場を作っている。近隣市町教育委員会と連携し実践研 究や 流を進めている。 来年度も、他市町との連携や 流を図りながら研究推進員を軸に取組を推進し、人材育成とともに 授業改善への意識の向上を図っていきたい。 22 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 和歌山県有田郡有田川町 基本データ(平成23年度) 人 口 27,871 人 面 積 351.77 ㎢ 学 数 有田川流域に位置し、柑橘栽培が盛んな地域で、 児 童 ・ 生 徒 数 人や自然、産業、伝統文化など様々な 「きらめき」 を感じることができる魅力ある町です。 教 職 員 小学 児 15 童 1,533 ・中学 名・生 徒 5 871 名 数 小学 190 名・ 200 名 (常勤・全職員) 中学 101 名・ 112 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 楠 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 木 茂 参加年度 面矢和弥教諭 川口勝寛教諭 社会・中学 社会・小学 川岸 俊夫 平成 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0737-52-2111 22 年度より参加 開研究授業 4 回 実践数 その他(推進員) 6 回 (おおよその数) その他(全教員) 8 回 Email kawagishi.t@aridagawa-town.ed.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 和歌山県教育委員会主催の研修会にて宮崎県五ヶ瀬町の取組を拝聴し、授業の工夫改善や教員の意 識改革等に有効であると判断して本プロジェクトに参加した。 本町においては、落ち着いた環境の中で学 教育が展開でき、学力テスト等では成果も十 に見取 れるが、古典的な入力型の授業が依然多く見られる。子どもの学習意欲を大切にした出力型の授業に よる教育効果を重視し、指導の工夫改善を図っていく必要がある。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 研究推進員を中心に実践研究を進め、当該教員の指導力が向上するとともにリーダー的資質も高 まった。また、研究推進員の所属 ている。加えて、 長会や学 導入した授業研究を行う学 においては、協調学習の取組を起点に授業改善への意識が高まっ 訪問等で本取組を紹介する中で、 内研修において協調学習の手法を も見られるようになった。 今後は、積極的に実践研究に取り組むリーダー的教員を多く育成しながら授業改善への気運を一層 高めていく必要がある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 研究推進員を軸に協調学習について自主的に研修する研究会を立ち上げ、取組の推進を図るととも に、近隣市町教育委員会と連携し実践研究や 来年度も、近隣市町との連携や 流を進めている。 流を図りながら研究推進員を軸に取組を進め、人材育成とともに 授業改善に広く反映させていきたい。 23 平成23年度活動報告書 第2集 島根県浜田市 基本データ(平成23年度) 人 口 59,798 人 面 積 689.60 ㎢ 学 数 全国に誇れる海、山などの美しい自然と石見神楽 児 童 ・ 生 徒 数 や石州半紙などの伝統文化を有し、人と文化と自 然との調和のとれた県西部の都市です。 教 職 員 小学 児 童 25 (内1 2,906 )・中学 名・生 徒 9 1,507 名 数 小学 338 名・ 355 名 (常勤・全職員) 中学 176 名・ 193 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 山 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 田 洋 夫 参加年度 平成 23 年度より参加 佐々木挙匡教諭 算数・小学 大坂 吉二 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0855-25-9710 開研究授業 2 回 実践数 その他(推進員) 2 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 以前講演講師をお願いした日渡円五ヶ瀬町教育長(当時)の紹介、及び五ヶ瀬町視察を行った浜田市 議会 務文教委員会の紹介により、教育委員会事務局員が平成22年度の報告会に参加した。浜田市で は、基礎的な知識・技能を活用する思 であると 力・判断力・表現力等に課題があり、本プロジェクトが有効 えた。報告を受け、浜田市教育委員会として平成23年度より参加することを決定した。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 研究推進員1名が、東京大学で開催された研修会に参加し、小学 「合同な図形」、12月に「四角形と三角形の面積」の 児童の思 算数科での取組を進めた。7月に 開授業を行った。7月の実践の反省をもとに、 を大切にしたエキスパート活動の課題設定を行うこと、視点を明確にしたジグソー活動、 クロストークを行うことで、目的意識のはっきりした授業が展開されたと感じている。エキスパート 活動での課題設定の仕方、ジグソー活動の在り方やクロストークとの関係性等、今後の課題として取 組む必要のあることが多いが、 り上げていく喜びを大切にして取組を進めていこうと えている。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 浜田市では、研究推進員の所属する学 としての取組に発展させる必要があると 他 と研究推進員の自主研修サークルに頼ることが大きく、市 えている。12月の 開授業には、市議会議員の参加が6名、 からの参加が9名あり、発展性を感じている。研究推進員を2名にしてプロジェクトに参加するこ と、研究推進員をサポートする体制を作っていくことを課題として、取組を進めていこうと る。 24 えてい 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 島根県鹿足郡津和野町 基本データ(平成23年度) 人 口 8,486 人 面 積 307.09 ㎢ 学 数 文豪 森鷗外や哲学者 西周などの先人を輩出し、 児 童 ・ 生 徒 数 七百有余年の歴 を持つ、山陰の小京都と呼ばれ ている町です。 教 職 員 小学 児 6 童 299 ・中学 名・生 徒 3 181 名 数 小学 51 名・ 55 名 (常勤・全職員) 中学 41 名・ 43 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 本 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 田 子 参加年度 日野晶子教諭 大野常馬教諭 国語・中学 社会・中学 清水 浩志 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0856-72-1854 平成 これまでの協調学習 23 年度より参加 開研究授業 0 回 実践数 その他(推進員) 2 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 島根県が行う学力テスト結果からも町内の小中学生の学力向上が充 図られていない状況の中、今 年度、広島県安芸太田町を訪問し、協調学習の効果を実感し、その学習効果を取り入れるため参加し た。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 今年度より町内2中学 り、 に研究推進員を配置し、取組を行った。年度途中からの参加ということもあ 開授業のレベルまでは到達しないが、試行実施的な授業は行ったところである。 そのような中でも、生徒たちがお互いの資料をもとに 習の手ごたえは感じられた。また、他者との意見 え、学び合うという「ジグソー法」での学 流により えの深まり、読み取りを実感している 生徒、読み取りに対する興味・関心を強めた生徒が多く、主体的に学習に取り組む生徒が多くなる成 果があった。ただ、授業者自身が協調学習の方法を十 に身につけていないため、通常の話し合い活 動との区別化が図れていないことや、研修に参加して授業を参観した教員のみの理解にとどまってい る現実がある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 今年度途中からの参加ということもあり、取組について模索している状態である。 2中学 の国語科と社会科で研究推進員として取り組んでいるが、今後相互に情報 換を行いながら 内で広めていく。その結果、3人組の話し合い活動を他教科に広めていくことが出来ればより効果が 生まれると感じている。また、今後は中学 のみならず町内の小学 えている。 25 にも取組を広げて行いたいと 平成23年度活動報告書 第2集 広島県山県郡安芸太田町 基本データ(平成23年度) 人 口 7,480 人 面 積 全小中学 342.25 ㎢ 学 が小規模 (小4 は複式学 数 ) であり、 児 童 ・ 生 徒 数 学力も一定程度定着しており、 活用する力、 コミュ ニケーション能力の育成に取組んでいる。 教 職 員 小学 児 7 童 265 ・中学 名・生 3 徒 175 名 数 小学 61 名・ 65 名 (常勤・全職員) 中学 41 名・ 50 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 二 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 見 吉 康 参加年度 平成 粟津政夫教諭 亀岡圭太教諭 萩原英子教諭 数学・中学 理科・中学 算数・小学 川上 克己 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0826-22-1212 これまでの協調学習 22 年度より参加 開研究授業 6 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 4 回 Email k.kawakami@akiota.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 本町の児童生徒は基礎的・基本的な学力は、一定程度定着している。知識・技能を活用する力、主 体的、自律的な学習習慣や学習意欲、コミュニケーション能力・人間関係力の育成を参画した。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 学習活動の活性化、児童生徒実態に基づくグルーピングや授業構成等に効果的であった。とりわけ、 児童生徒のアンケート回答からも楽しんで授業を受けていることが窺え、その後の理解に効果がある ことが かった。加えて、「協調学習」を引き起こす学びの 造が生徒指導(積極的生徒指導)の側面 にも効果があると感じる。また、小規模複式学級の3人あるいは2人でも「協調学習」は取り入れられ、 課題解決や複式授業の間接指導の充実につながる可能性を感じている。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 平成22年度は、中学 数学科及び理科において各1名ずつ研究推進員を任命し、副代表教育長・事務 局次長を本町が担った。平成23年度は小学 算数科へも1名の研究推進員を任命するとともに代表教育 長・事務局長を担い、より多くの研究推進員との教材づくりや組織マネジメント、町内外も含め 授業や実践報告により「協調学習」の成果の波及と取組の発信を行なった。 26 開 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 福岡県飯塚市 基本データ(平成23年度) 人 口 132,418 人 面 積 214.13 ㎢ 学 数 飯塚市は福岡県中部に位置する市である。筑豊三 児 童 ・ 生 徒 数 都一つ。筑豊で最大の人口を擁し、筑豊の政治・ 経済の中心機能を持つ都市である。 教 職 員 小学 児 童 22 6,724 ・中学 名・生 徒 12 3,360 名 数 小学 451 名・ 470 名 (常勤・全職員) 中学 282 名・ 297 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 片 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 峯 誠 水谷隆之教諭 算数・小学 指導係長 石井 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0948-22-0380(内)334 参加年度 平成 23 年度より参加 橋爪英雄主幹教諭 数学・中学 幸子 これまでの協調学習 開研究授業 3 回 回 実践数 その他(推進員) 2 (おおよその数) その他(全教員) 13 回 Email s-isii38@city.iizuka.lg.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 同じ筑豊に位置する福岡県香春町は本プロジェクトに平成22年度より参加されている。政治・経済 はもとより、教育面においても筑豊の中心的機能を果たす役割を求められている本市に、この香春町 の荒木教育長を通じて協調学習の話があった。飯塚市がめざす教育『未来の飯塚市を担う「かしこく」 「やさしく」「たくましい」子どもの育成』のための中心的な手立てとして、この協調学習は必要不可 欠であるという本市片峯教育長の決断によりプロジェクトに参加する運びとなった。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 (成果○ 課題▲) ○平成23年11月25日(金)に、算数部会の 開授業研究会を片島小学 で開催した。研究推進員の 水谷教諭が代表授業を行い、県内外より約40名の参観があった。 ○東大からも2名、県外からも8名の研究推進員に参加していただき、協調学習についての協議を深 めることができた。 ▲中学 では教科の枠があるため、他教科への広がりが課題である。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 1. 研究組織 平成23年5月2日(月)飯塚市コンソーシアム推進会議開催(11名参加) 2. 市独自の取組 平成23年4月15日(金) 長研修会開催…指導係長による協調学習の概要説明。 平成24年2月14日(火)教頭研修会開催…片島小森山 長による協調学習の講話。 3. 来年度の方向性 研究推進員の在籍する片島小学 と飯塚第一中学 を、飯塚市教育委員会研究指定・委嘱 とし て指定し、市内外の教職員対象の研究発表会を平成24年11月に計画している。算数部会の代表授業 も立候補する予定である。 27 平成23年度活動報告書 第2集 福岡県田川郡香春町 基本データ(平成23年度) 人 口 12,337 人 面 積 44.56 ㎢ 学 数 旧産炭地域である。五木寛之氏著『青春の門』の 児 童 ・ 生 徒 数 書き出しに「香春岳は異様な山である」と紹介さ れている。セメント産業でも栄えた町。 教 職 員 小学 児 童 4 566 ・中学 名・生 徒 2 263 名 数 小学 57 名・ 71 名 (常勤・全職員) 中学 27 名・ 36 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 荒 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 木 宮成 博 参加年度 努教諭 高瀬美智也教頭 国語・小学 秋元 平成 22 年度より参加 国語・小学 定憲 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0947-32-8409 これまでの協調学習 開研究授業 3 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 0 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 平成20年度に「学 の統廃合問題」で宮崎県五ヶ瀬町に教育視察に行った。その後、日渡円教育長 (当時)の五ヶ瀬町の教育ビジョンに学び、連携をとりながら研修をさせていただいている。香春町 の教育課題は①学力向上を目指すこと②体力の向上に努めること③規範意識の確立を目指すなどの3 つの教育課題を定めて取組を進めている。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 国語科の授業の中で協調学習の取組を進めてきたが、言語活動の充実を目指している教科の学習で は有効であった。特に、読み、書き、自 の意見を述べるという授業を進めることで、判断力、思 力、表現力がつくと確信している。全国学力調査の教科の「活用」力をつけるためには、確かに効果 的な学習である。課題としては、教材研究を入念に行い、学習指導法にも工夫が求められる「協調学 習」は、児童生徒の実態、教師の熱意、教師の意欲からなかなか進まない。また、初めから無理だと 思っている教師が多い。事務局の推進活動にも問題があると反省している。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 香春町では、勾金小学 の宮成努教諭が中心で研修をしたり、 開授業などの実践をしたり、県外 の他市町村の研修に参加したりして研修を深めてきた。しかし、平成23年7月上旬に勾金小学 の教師 が水難事故で急死した。その教師の人権・同和教育の担当の職務も教務主任の職務も兼任して行って いる。それで、多忙な業務の中で授業を行うことが困難な状況が出てきている。したがって、現在は、 長、教頭が代表となって「新しい学びのプロジェクト」の研修会に参加している状況である。今後 は、新しいメンバーで研究推進を行うように計画を進めている現状である。 28 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 熊本県阿蘇郡南小国町 基本データ(平成23年度) 人 口 4,534 人 面 積 115.9 ㎢ 学 数 小学 「日本で最も美しい村」連合に加盟し、美しい農 児 童 ・ 生 徒 数 山村の景観や文化を守る活動をしている。温泉を 中心とした観光にも力を入れている。 教 職 員 児 3 童 ・中学 195 名・生 徒 1 108 名 数 小学 30 名・ 37 名 (常勤・全職員) 中学 14 名・ 17 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 武 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 田 邦 典 参加年度 原島秀樹教諭 廣津望都教諭 社会・中学 国語・小学 倉岡 巧 平成 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0967-42-0047 22 年度より参加 開研究授業 4 回 実践数 その他(推進員) 7 回 (おおよその数) その他(全教員) 1 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 ○ 平成21年度に五ヶ瀬町の日渡教育長(当時)に来町いただき、教育長、事務局長、倉岡が平成22 年度から協調学習に関する研究を東京大学と連携し推進していくという話を伺った。その後、3名で 検討し、プロジェクトに参加することを決定した。 ○ 確かな学力の定着が本町の最大の教育課題である。特に、コミュニケーション能力に課題がある。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 ○ 本町には、全教職員が加入している南小国町教育研究会が組織されている。研究部会の一つであ る「学力充実」に協調学習研究推進を位置づけている。平成22年の教育研究会 推進担当者が「協調学習の 会において、研究 え方を取り入れた授業展開」というテーマで講話をした。23年度の 会において、原島研究推進員が社会科における協調学習の え方を取り入れた授業実践について話 をした。 ○ 協調学習の た、 え方を取り入れた授業展開については、町内の先生方には理解していただいた。ま 開授業を参観した先生方から「中学1年生で、あれだけのまとめる力が育っていることに驚き ました。自 の えを相手に伝えて、 に伝える力や自 の えを深める活動は、後々、自 間の結びつきに役立つものと思います。」等の感想をいただいた。 ○ 協調学習の良さは理解されてきたと えるが、授業実践の広がりがまだまだである。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 ○ 来年度も参加する予定である。教科は、社会科と国語科を引き続き 29 えている。 と仲 平成23年度活動報告書 第2集 大 県竹田市 基本データ(平成23年度) 人 口 25,232 人 面 積 477.7 ㎢ 学 南に祖母連山、北に久住連山を仰ぎ、大自然に囲 まれた名水の里。 「荒城の月」 の岡城跡や久住高原 をはじめ幾多の温泉で有名な市。 数 小学 児童・生徒数 教 職 員 児 13 童 937 ・中学 名・生 6 徒 491 名 数 小学 127 名・ 137 名 (常勤・全職員) 中学 60 名・ 74 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 吉 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 野 英 勝 参加年度 渡邊久美教諭 堀 算数・小学 理科・中学 指導主事 和田 三成 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0974-63-4833 竹田市教育委員会 平成 22 年度より参加 彦教諭 これまでの協調学習 開研究授業 10 回 実践数 その他(推進員) 0 回 (おおよその数) その他(全教員) 5 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 竹田市の課題である①学習意欲の向上②活用力③コミュニケーション能力の向上を図るために、旧 態依然とした教師主導の授業から、子ども主体で言語活動の充実を図った授業、全員の子どもが参加 し、子どもの声でつくる学びあいのある授業へと転換を図るための有効な教育手法と を取り入れていくことが、竹田市の子どもの生きる力をはぐくむ上で必要だと え、 「協調学習」 えたから。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 ○2年間の取組で竹田市内の教師はもちろん、県内のたくさんの教師や指導主事等に「協調学習」につ いての理解を深めることができた。 ○「理科」「算数」だけでなく「国語」や「英語」「道徳」等他の教科や領域での実践も広がってきた。 ○「協調学習」を自主的に 内研修に取り入れる学 もでてきた。 ○「協調学習」の実践の共有化を図るためのデータベース化を図ることができた。 ●「協調学習」の各活動の充実を図り、 なる学びの質の向上をめざす。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 22年度…CoREFとの連携研究員1名(中「理科」)と竹田市協調学習推進委員3名(中1名、小2名いずれ も「理科」)で研究の推進、年3回の 開授業・研究会の実施 23年度…CoREFとの連携研究員2名(中「理科」と小「算数」)と竹田市学力向上支援教員2名(中1名 「数学」、小1名「国語」)で研究の推進、年8回の 開授業、うち年2回の研究会の実施 24年度…CoREFとの連携研究員と竹田市学力向上支援教員で研究の推進 ・研究推進 ・各学 への支援及び 開研究会の実施 1実践の取組→竹田市教育フォルダ(共有)への蓄積 30 第2章 大 教育委員会や社会人と推進機構との連携 県豊後高田市 基本データ(平成23年度) 人 口 24,240 人 面 積 206.64 ㎢ 学 「教育のまちづくり」 をスローガンに掲げ、 「学び の姿」の構築を図るため、学 と家 、地域が一 体となった教育を推進している。 数 児童・生徒数 教 職 員 小学 児 12 童 ・中学 1,086 名・生 6 徒 633 名 数 小学 127 名・ 154 名 (常勤・全職員) 中学 76 名・ 92 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 河 23年度研究推進員 (教科・ 野 潔 時枝博文教諭 種) 指導主事 小川 平成 23 年度より参加 財前由紀子教諭 算数・小学 研究推進担当者 参加年度 国語・中学 匡 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0978-53-5112 開研究授業 10 回 実践数 その他(推進員) 8 回 (おおよその数) その他(全教員) 2 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 学力に関する各種の調査から、思 論理的思 力、判断力、表現力等に課題がある。課題発見・課題解決力、 力、コミュニケーション能力や多様な観点から能力等の育成・習得が求められ、「主体的な 学びを促す場の工夫」「質を高める課題の工夫」「既習事項を他の場面で活用できる力の育成」等を協 調学習により、取り組みたいと えた。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 (成果)講義形式ではなく、学習者が興味・関心をもつことのできる作業や活動を仕組むことにより、 主体的な学びの促進につながり、探求心が芽生えた。また、自 較が容易になり、意見 多様な (課題)推進 流がスムーズに運び、自らの の えと他人の えとの比 えを広げ、深めることにつながり、 えができるようになった。 での研修は深まってきているが、市内全教職員には広がっていない。あらゆる研修の 場で、協調学習について研修を行い、児童生徒の確かな学力の育成のため、授業力の向上に 努めていきたい。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 教育委員会主催の「学 組織マネジメントリーダー養成講座(参加者:管理職・教務主任等)」で、 三宅なほみ先生をお呼びして、「協調学習」の手法を学んだ。また、各種研修会の場で、研究推進員の 時枝教諭、財前教諭が協調学習の授業づくりの説明や実際に授業 を中心に市内各 開を行った。今後は、研究推進員 で気軽に協調学習が取り組める体制づくりを推進していきたい。また、大 3市町が協調学習に取り組んでいるので、授業 開等で 31 流をしていきたい。 県では 平成23年度活動報告書 第2集 大 県玖珠郡九重町 基本データ(平成23年度) 人 口 10,421 人 面 積 農林業と観光の町です。国立 271.4 ㎢ 学 園や国定 数 園に一 児 童 ・ 生 徒 数 部指定され「緑と自然の宝庫」です。温泉や地熱 が数多く点在する魅力あふれる町でもあります。 教 職 員 小学 児 童 6 434 ・中学 名・生 徒 4 259 名 数 小学 63 名・ 84 名 (常勤・全職員) 中学 48 名・ 59 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 古 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 後 粒 勝 参加年度 恒任珠美教諭 吉住 国語・小学 社会・中学 小野 一信 TEL 0973-76-3828 23 年度より参加 教諭 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 平成 開研究授業 5 回 回 実践数 その他(推進員) 8 (おおよその数) その他(全教員) 15 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 平成22年度より五ヶ瀬町との 流が進み、それがきっかけとなりこの取組を知った。学力向上に向 けて、児童・生徒の興味・関心を高め、「活用の力」を伸ばすことが課題である。一人ひとりが 持ち、多様な えを えを 流し理解を深めていくことを目的に、このプロジェクトに参加をした。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 一人ひとりが えを持ち、多様な えを 流し理解を深めていく「協調学習」の学習方法が授業実 践や各種研修会を通して定着してきている。授業を通して、児童・生徒のいきいきとした姿が見られ、 学習意欲が高まっていると実感することが多い。また、授業に向けての資料作成をする中で、教職員 のつながりが深まったとの声も聞かれる。 研究推進員を2名選出し、国語科・社会科(教科担当者会)を中心に取り組んだが、算数科(2回) や理科(1回)の 開授業も実施でき、町の研修会を開催したことで他教科への広がりを見せている。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 協調学習の研修会を下記のように実施した。 ・ 7月25日:「協調学習」研修報告会(国語科・社会科担当、研究主任) ・ 8月23日:九重町「協調学習」研修会(国語科・社会科、研究主任、管理職) 次年度へ向けて、計画的・組織的な展開で、より効果的な取組につなげたいと にも、近隣の自治体との連携を図り先進的な取組に学び、授業を中心とした いる。 32 えている。そのため 流を進めたいと えて 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 宮崎県宮崎市 基本データ(平成23年度) 人 口 401,658 人 面 積 644.61 ㎢ 学 数 「太陽と緑」に象徴され、温暖な気候風土に恵ま 児 童 ・ 生 徒 数 れ、 の大樹海や亜熱帯植物の繁殖する海岸を有 する南国的色彩に富む九州の中核市 教 職 員 小学 児 童 数 小学 (常勤・全職員) 中学 48 ・中学 22,830 名・生 徒 25 10,989 名 1,392 名・ 1,434 名 847 名・ 876 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 二 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 甲 見 俊 一 一陽教諭 数学・中学 福永 参加年度 平成 22 年度より参加 吉野了太教諭 算数・小学 弘幸 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 Email 45gakyou@city.miyazaki.miyazaki.jp 開研究授業 1 回 実践数 その他(推進員) 1 回 (おおよその数) その他(全教員) 3 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 宮崎市の児童生徒の学力の実態は、諸検査において基礎的・基本的な知識及び技能の習得は概ね良 好な結果が得られているものの、課題を解決するために必要な思 力、判断力、表現力の育成や自ら 学習に取り組む意欲の醸成が課題としてあげられる。 そこで、宮崎市では、学び合いの中で課題解決に意欲的に取り組む児童生徒を育成するための一つ の手段として、宮崎市教育情報研修センター研究員「算数・数学教育研究班」を中心に協調学習につ いての研究に取り組むことにした。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 (成果)○ 授業モデルを作成したことで指導者にとって協調学習の進め方が明確になり児童生徒も 学習活動に積極的に取り組むなど学習意欲の向上が見られた。 ○ 開授業や宮崎県及び宮崎市の教育研究発表会において、協調学習の有効性を発表する 機会が得られ、多くの先生方に広く情報を提供することができた。 (課題)○ 協調学習を取り入れた学習活動の展開について、他教科での活用方法についての研究を 深めるとともに、児童生徒の発達段階に応じた小中一貫した協調学習の進め方についても 研究を進める必要がある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 ・研究組織:宮崎市教育情報研修センター研究員「算数・数学教育研究班」 ・研究授業:平成22年度 開研究授業1回 研究授業1回 平成23年度 開研究授業1回 研究授業4回 33 6名 平成23年度活動報告書 第2集 宮崎県東諸県郡国富町 基本データ(平成23年度) 人 口 20,594 人 面 積 130.71 ㎢ 学 宮崎市の西、清流本庄川が流れる自然豊かな町で ある。 千切りダイコンや施設園芸などの農畜産業、 世界有数の工場の立地や盛んな商業などバランス がとれた街である。国指定 跡の古墳や歴 的な 遺物も数多く残る。人情豊かな元気あふれる街づ くりを目指している。 数 児童・生徒数 教 職 員 小学 児 4 童 ・中学 1,069 名・生 徒 3 589 名 数 小学 71 名・ 80 名 (常勤・全職員) 中学 63 名・ 67 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 豊 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 田 畩 光 参加年度 林田恭二教諭 福園祐基教諭 理科・小学 理科・中学 柘植 幹雄 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0985-75-9401(教育 平成 務課) 22 年度より参加 開研究授業 1 回 実践数 その他(推進員) 1 回 (おおよその数) その他(全教員) 7 回 Email kyouiku@town.kunitomi.miyazaki.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 町の最重点教育的課題は児童生徒の学力向上であり、教員の指導力向上を図ることが求められてい る。新たな学習指導要領では、言語活動の充実を図る指導を重視しているが、理論的かつ体系的に組 み立てられた東京大学の提唱する「協調学習」は、学 現場に取り入れることができれば、それに応 え得る授業改善の具体的方向となる。本教育研究センターではこれらのことを踏まえて、2年間の実践 的な研究を行った。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】○成果 ●課題 ○ 協調学習の学習スタイルは、児童生徒に好意的に受け入れられた。 ○ 協調学習が授業に ○ 多くの教科、いろいろな学習段階で協調学習が有効に ○ 学習課題の設定の在り方やその意識化の重要性とともに、そこに向けた話合い活動の指導の在 える新しい学びのスタイルとして教師に受け止められた。 えることが かった。 り方が明確になった。 ● エキスパート資料(部品)づくりに難しさがある。 ● 評価(活動、ワークシート ● 子どもの認識レベルを十 析)は、その方法と解釈に研究と習熟が必要である。 把握した上で課題や資料を設定する必要がある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 プロジェクトの理科部会に所属(小中各1名の推進員)しているが、センター研究員全員が所属の学 で国語、社会、算数の検証授業を行った。検証授業では、国語・理科の町内研究組織と連携を図っ た。 開授業(11月理科)には郡内理科主任も参加し、専門的な協議を進めた。研究資料は、WEB上 にデーターベース化し、要望があれば自由に閲覧・活用できるようにしている。 34 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町 基本データ(平成23年度) 人 口 4,322 人 面 積 171.77 ㎢ 学 数 えられていた条件を、 児 童 ・ 生 徒 数 中山間地のデメリットと 教育に関する「強み」ととらえた「五ヶ瀬教育ビ ジョン」の具現化に町全体で取り組む。 教 職 員 小学 児 童 4 226 ・中学 名・生 2 徒 131 名 数 小学 52 名・ 62 名 (常勤・全職員) 中学 26 名・ 31 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 黒 23年度研究推進員 (教科・ 種) 研究推進担当者 津奈木 木 嗣教諭 国語・小学 貴 参加年度 平成 大久保朋広教諭 堀 社会・小学 真朋教諭 算数・小学 澤野幸司(町教委事務局) これまでの協調学習 大久保朋広(上組小学 ) 実践数 プロジェクトに関する問い合わせ先 (おおよその数) 22 年度より参加 村中田 学教諭 数学・中学 加藤裕邦教諭 社会・小学 開研究授業 3 回 その他(推進員) 9 回 その他(全教員) 1 回 TEL 0982-82-1710 Email kyoiku01@town.gokase.miyazaki.jp 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 平成20年度より五ヶ瀬教育ビジョンにおける「学習内容に最適な学習規模で学習を行う授業システ ム(G授業)」の実践を重ねてきた。その えが徐々に浸透し、実践化が図られる中、課題であった日 常の授業実践の充実に資するために、協調学習の え方を取り入れた授業づくりの研究にCoREFの支 援を受けながら取り組むことにした。その際、本町単独では多くの教科の研究を進めていくことは困 難さがあったため、協調学習の授業づくりに関心を示した他の自治体と連携し、研究推進員による研 究の成果を本町にも還元できるような体制づくりを行った。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 研究推進員及び五ヶ瀬教育ビジョンにおける協調学習研究推進部会を中心に、協調学習の 取り入れた授業づくりに向けた研修会の開催や授業 教職員を中心に教材 え方を 開を行うことができた。その中で、意識の高い 析や子どもの学びの理解について深まりが見られ、その影響が他の職員へも波 及しつつある。 ただ、授業の具体として子どもの学びの深まりが発言や対話等から強く感じられる授業づくりまで には至っておらず、そのことが研究推進員以外の職員の実践化につながっていない原因でもある。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 本内容については、「(5)市町研究推進のモデル」で詳しく述べる。 35 平成23年度活動報告書 第2集 宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 (宮崎県都城市) 基本データ(平成23年度) 人 口 本 168,965 人 面 積 は開 「質実剛 653.31 ㎢ 学 2年目の併設型の中高一貫 」の 種 児童・生徒数 である。 学の精神のもと6年間の一貫した 教 教育を実践している。 職 員 併設型県立中高一貫 中 学 80 数 中学 (常勤・全職員) 高 名・高 840 名 9 名・ 9 名 69 名・ 72 名 プロジェクト研究推進に関わるデータ(平成23年度) 教 育 長 前 23年度研究推進員 (教科・ 種) 田 黒木 哲 亨教諭 司 三重野 理科・中学 研究推進担当者 玉利 参加年度 平成 22 年度より参加 修教諭 国語・中学 勇二教頭 これまでの協調学習 プロジェクトに関する問い合わせ先 TEL 0986-23-0223 開研究授業 3 回 実践数 その他(推進員) 6 回 (おおよその数) その他(全教員) 2 回 【プロジェクト参加に至った経緯、市町としての教育課題】 平成22年度附属中学 開設に向けて特色ある学 が取り組んでいた「協調学習」がとても参 づくりを える上で、宮崎県五ヶ瀬町教育委員会 になるものであった。そこで本 でも取り組むために五ヶ 瀬町教育委員会への視察や新しい学びプロジェクト報告会にも参加させていただき、新しい学びプロ ジェクトに学 単独で参加できるようになった。本 の教育的課題は3つある。1つ目は全教育活動を 通した「心の教育」の充実、2つ目は確かな学力の向上、3つ目は家 ・地域社会との連携強化である が、特に学力の向上を目指す上で生徒がともに学び合い学習意欲を高める授業「協調学習」の工夫・ 改善に努める。 【市町レベルでの協調学習研究推進についての成果と課題】 成果としては、確かな学力の向上を図るための学習指導法の工夫・改善を図る上で、協調学習への 取組は大きな手立てとなった。協調学習の研究授業を国語科や理科で行ったが、全職員で授業研究会 を実施することで協調学習への理解が深まり、授業力の向上と生徒の確かな学力の向上となった。ま なる発展へとつながっている。課題としては、教科・領 た、生徒の話し合い活動への意欲が湧き、 域への拡大である。 【市町レベルでのプロジェクトへの取組】 新しい学びプロジェクトは今後 も間違いない。今後は本 先生方が本 なる発展を予期させる取組であることは本 の生徒の状況を見て での取組を市教育委員会や市教科主任会、市教育研究所等に広報し多くの の授業研究会に参加できるよう取り組んでいきたい。また、本 ある教育を推進しているが、今後は中高一貫 として高 に入れながら取り組んでいきたい。 36 は6年間を見通した特色 との連携を強化し、他の県との 流も視野 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 (5)市町研究推進のモデル 愛知県高浜市教育委員会> ① プロジェクト参加に至った経緯 子どもたちには、話をしっかりと聞き、自 願っている。なぜなら、学 いを通して自 間の の の えを堂々と発表できる人になってほしいといつも で学ぶことの意味、すなわち学 えを深めていけることにあると のよさは、周りの生徒たちとの学び合 えているからである。つまり、自 えを比べたり、仲間と話し合ったりすることを通して、 るところが学 えを深め、自 のよさだからである。したがって話をしっかりと聞き、自 ることは、学び合いを通して自 てだろうか、特に中学 の の えと仲 を高めることができ えを堂々と発表でき を高める上での大前提であるといえる。ところが入学試験を意識し では知識注入型の授業、子どもたちが、「 え、判断し、表現し、高め合う」 場面が見られない授業が少なくなかった。受け身型の授業から子どもたちが主体的に取り組む授業へ の転換が必要であった。 以上のようなことを えていた時に知ったのが、本プロジェクトが推し進める協調学習という手法 である。この学習法では子どもたちが自 果たすべく課題を自 をもった仲間と自 にしか果たすことのできない役割を与えられ、その役割を なりに解釈し、仲間に一生懸命伝えようとする姿が見られた。さらに別の課題 の課題をすりあわせながらさらに大きな課題を解決していくという学び合い高め 合う姿があった。このようなことから学 教育現場において、そうあってほしいと願う子どもたちの 姿を、意図的に引き出すことのできるこの学習法に取り組みたいと ② えるに至った。 市町としての協調学習研究の位置づけ 今年度は、参加初年度ということもあり、研究推進員の先生方に協調学習について学んでいただく ことに重点を置くことにした。そして、この授業を学 内にとどまらず、市内教職員への して位置づけることで、協調学習による授業を周知すること、この2点を 開授業と えた。子どもたち本来の学 び合う姿を見てもらうことで、そのような姿を引き出すための教材研究や授業構想に力を入れなけれ ばという切実感を持っていただきたいと ③ えた。 今年度の実践 7月 森教諭による社会科 南中学 9月 開授業【高浜市立南中学 】 職員が参観 理科サポートメンバー教諭による授業及び研究協議会【高浜市立南中学 高浜南中学 】 全職員、市内理科部会職員、事務局が参加 *齊藤特任助教によるご指導及び協調学習についての概要説明を同時に行う 国語科研究推進員平岡教諭による 高浜南中学 10月 11月 開授業【高浜市立南中学 】 職員が参観 社会科研究推進員間瀬教諭による 翼小学 開授業【高浜市立翼小学 職員、市内職員(希望者)、事務局が参加 *飯窪特任助教よりご指導をいただく 小林教諭による体育科 南中学 】 職員、市内職員(希望者)、事務局が参加 森教諭による社会科 南中学 開授業【高浜市立南中学 開授業【高浜市立南中学 職員が参観 37 】 】 平成23年度活動報告書 12月 第2集 新しい学びプロジェクト国語部会関西ブロック授業研究会【高浜市立南中学 】 国語科研究推進員平岡教諭による授業及び研究協議会 関西ブロック国語部員、高浜南中学 全職員、市内教職員(希望者)、 事務局が参加 *三宅教授、齊藤特任助教よりご指導をいただく 新しい学びプロジェクト社会科部会関西ブロック授業研究会【高浜市立翼小学 】 社会科研究推進員間瀬教諭による授業及び研究協議会 関西ブロック社会科部員、翼小学 職員・市内教職員(希望者)、事務局が参加 *飯窪特任助教、齊藤特任助教よりご指導をいただく 森教諭による社会科 南中学 1月 開授業【高浜市立南中学 】 職員が参観 神谷教諭による数学科 南中学 開授業【高浜市立南中学 】 職員が参観 ふだんの授業ではみられない子どもたちの姿を目にして、この学習法を取り入れた授業を構想し、 実践してみたいという教師が出てきた。上記のとおり森教諭や小林教諭、神谷教諭は実際に授業を構 想・実践し、職員に 研究推進員の在籍 開した。 では、研究推進による協調学習の授業を全体授業と位置づけ、全職員で参観、 協議会をもった。同時に東京大学より三宅教授、飯窪・齊藤特任助教にもご参加いただき、ご指導を いただくとともに、協調学習についての研修をしていただいた。 活性化した授業。主体的に課題に取り組み、仲間とかかわろうとしている子どもたちの姿、人ごと でなく自 のこととして聴こうとする姿、 設的な発言をする姿が見られ、先生方に、協調学習のよ さを伝えるとともに、教材研究に力点を置き、主体的に学ぶ子どもたちの姿を引き出すことができる ような授業を構想しなければならないという思いを持ってもらうことができたと ④ える。 来年度に向けての展望 参加2年目となる来年度は研究推進員を変 業構想、実践のサポートをしていきたいと し、さらに市内の先生方に協調学習の授業の周知と、授 えている。さらに研究推進員在籍 を拠点にして取り組 んできた今年度の枠組みを、例えば、市内一斉授業研究会等の市町レベルでの授業研究会で協調学習 の授業を実践し、協議していきたいと えている。 大 県竹田市> ① 竹田市の概要 大 県竹田市は熊本県や宮崎県と隣接する山間部にあり、平成17年1市3町が合併したが、平成22年 現在、人口約2万5千人、小学 である。小学 13 (児童数約950人)・中学 は13 中6 が複式を有する小規模の学 6 (生徒数約500人)と過疎に悩む市 ばかりである。田舎の子どもらしく素直で優 しい反面、人とのかかわりが少ないためかコミュニケーション能力の乏しさが叫ばれている。地域は 学 に協力的であるが、一昔前のような教育力が保たれているとは言い難い。教職員(約200人)は急 激な教育改革にとまどいながらも、目の前の子どもたちに生きる力をつけなければと真摯に実践に取 り組んでいる。 平成22年より竹田市教育委員会は地域の特性を活かし、教職員・保護者・地域・行政みんなですす 38 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 める教育をめざした「竹田市教育のまちTOP運動(Try Original Project)」を提唱し、その推進を図っ ている。「協調学習(ジグソー法)」はその一つの取組として、全小・中学 で進めるべき教育方法と して掲げ、取り組んでいる。 ② プロジェクト参加の経緯 全国学力・学習状況調査やPISA調査から見える日本の子どもたちの課題と同様、竹田市の子どもた ちにおいても学習意欲の低下、基礎的な知識および活用力の不足が見られる。 に学びの基盤である 生活面に目を向けると小規模 や価値観を共有する の多い竹田市では人間関係の固定化、多様な思 体験の不足、人間関係調整力に係るコミュニケーション能力の不足、中学 での不登 生徒の増大等 の課題があげられる。原因の一つとして旧態依然とした教師主導の授業や一部の子どもですすめられ る授業展開等がある。 上記のような課題を克服するためには、子ども主体の授業を増やし、子どもの学びの質を高めるこ とが重要である。言語活動および体験活動を取り入れた子どもが意欲的に取り組む授業、全員の子ど もが参加する授業、「わかった」「できた」と子どもが納得する授業、子どもの声でつくる学びあいの ある授業を展開し、グローバル化がすすむ今日、竹田市の子どもたちにも社会に出ても他者と お互いの価値観を受容しあい、それぞれの異なる意見や え・アイディアなどを わり、 換し、ともに思 し、協力・協働しながら課題を解決したり、新しいものを生み出したりしながら社会貢献できる力を はぐくむ必要がある。その一つの方法として「協調学習」が竹田市の教育施策の一つとして位置付いた。 ③ 協調学習研究の取組 協調学習が多様な教科・領域で幾度となく展開されることで、子どもたちに上記のような力がつい ていくと える。そのためには、協調学習の手法を全ての教師が知って、とにかく実践してみること をめざす必要がある。そこで、1年目・2年目は「強調学習について知る」3年目以降は「実践する」こ とを目標に取組をはじめた。 a) 1年目・2年目「協調学習について知る」の取組 ア 1年目(平成22年)の取組 「理科」の協調学習の研究を「新しい学びプロジェクト」に参加しすすめ、年3回(10月・12月・ 2月)の 開授業をとおして、竹田市内の各学 研究組織> へ 流した。 〔企画〕竹田市教育委員会 CoREF 〔研究〕理科推進員(1名) 成果>・竹田市の各学 イ 竹田市推進委員(3名) の代表に協調学習について理解させることができた。 2年目(平成23年)の取組 「理科」および「算数」の協調学習の研究を「新しい学びプロジェクト」に参加しすすめ、年 8回の 開授業(内2回は竹田市「協調学習研究会」として県内へ広く 市内(外)の各学 研究組織> へ 開)をとおして、竹田 流した。 CoREF 〔企画〕竹田市教育委員会 〔研究〕理科推進員(1名)算数推進員(1名) 学力向上支援教員(国語・数学2名) 第1回竹田市「協調学習研究会」について> 6月27日(月)竹田小学 参加者…市内小・中学 にて、小学 の 4年算数「がい数を 長・教頭・教諭 39 27名 った計算」 平成23年度活動報告書 第2集 市外小・中学 の 長・教頭・教諭 県教育センター指導主事 9名 6名 その他教育委員会関係者 10名 開授業、研究協議を行い東京大学教授三宅なほみ氏より指導・助言 成果>・竹田市の学 大 のほとんどの教員に理解させることができた。また、竹田市以外の市や ・小学 県教育センターの指導主事等たくさんの参加があった。 1 、中学 1 が 内研修として取組を開始した。 ・理科、算数だけでなく国語や道徳等でも実践が始められた。 ・市内の高等学 へも呼びかけ参加をいただいた。 ・実践した教師や参加者が「協調学習」の有効性を実感している。 ・竹田市の「協調学習」のデータのフォルダを作成し集めることができた。 課題>・「協調学習」のエキスパート活動、ジグソー活動、クロストーク活動における学習活 動の質の向上。展開、資料作り等含めて。 b) 3年目以降「実践する」の取組(平成24年度以降の計画 ア 各学 イ 協調学習に → ④ 予定>) で1実践以上の協調学習の実践→竹田市共有フォルダに蓄積していく。 内研修で取り組む学 開発表の実施により成果の への支援を行い質の高い協調学習の推進 流 協調学習」への期待 取り組み始めた「協調学習」には限りない可能性を感じている。まさに全員参加の人権に根ざした 授業であり、言語活動の充実が図られる授業であり、子ども主体の学習意欲をはぐくむ授業である。 に自尊感情が高揚し、他者理解が深まり良好な人間関係をもはぐくむ学習方法であると 今後もCoREF及び他市町と連携し えている。 に研究を深めたい。 宮崎県宮崎市> ① プロジェクト参加の経緯 宮崎市の児童生徒の学力の実態は、諸検査において基礎的・基本的な知識及び技能の習得は概ね良 好な結果が得られているものの、課題を解決するために必要な思 力、判断力、表現力の育成や自ら 学習に取り組む意欲の醸成が課題としてあげられる。 そこで、宮崎市では、学び合いの中で課題解決に意欲的に取り組む児童生徒を育成するための一つ の手段として、宮崎市教育情報研修センター研究員「算数・数学教育研究班」を中心に協調学習につ いての研究に取り組むことにした。 ② 宮崎市としての協調学習研究の位置付け・研究計画 宮崎市では、協調学習について平成22年度より、宮崎市教育情報研修センター研究員が2か年計画で 研究に取り組んでいる。平成22年度は協調学習に関する理論研究を中心に研究授業にも取り組み、平 成23年度は協調学習の授業モデルを構築し、様々な手立てについて検討し、数多くの授業実践を通し て検証してきた。 また、 開授業や県・市教育研究発表会及びホームページで、県・市内の先生方に情報提供を行い ながら、協調学習のよさを他の学 へも広めるように努めている。 40 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 表3:H22、23年度の宮崎市の研究計画 年度 ③ 研 究 計 画 22 協調学習について理論を確立し、協調学習が有効に機能する授業の在り方を探求する。 23 協調学習が有効に機能するための多様な活用方法について、授業実践を通して検証する。 宮崎市の研究組織について 宮崎市では、宮崎市教育情報研修センター研究員「算数・数学教育研究班」において、協調学習の 研究を推進した。研究班は、小学 教諭3名、中学 教諭3名で構成されており、指導主事が指導助言 しながら2週に1回2∼3時間の研究会を開催した。 宮崎市教育情報研修センター 全 研究主題 副 題 体 会 豊かな人間性と確かな学力を育む教育活動の在り方 ∼学びの共有化とコミュニケーション能力の育成を通して∼ 教育の情報化研究 英語活動・英語教育研究班 算数・数学教育研究班 研究主題 児童・生徒が学び合いの中で確かな学力を身に付ける算数・数学科の学習指導の在り方 副 題 ∼協調学習の え方を取り入れた学習指導を通して∼ 図2:宮崎市教育情報研修センターの研究組織 ④ 宮崎市での研究会・研究授業等のスケジュール及び概要 a) 研究会(平成23年度) ア 期日及び会場 平成23年6月17日(金) 宮崎市立久峰中学 平成23年6月18日(土) 宮崎市情報教育研修センター イ 内容 ⅰ) 1日目 平成23年6月17日(金) 宮崎市立久峰中学 の甲 研究授業・授業研究会 教諭が研究授業(第3学年 単元「二次方程式」)を行った。授 業では、単元導入の場面において未履修の学習内容をエキスパート資料として活用したジグ ソー法を取り入れ、その効果や展開の在り方について検証した。授業後の授業研究会では、 エキスパート資料の妥当性や班での話合いについて協議し、CoREFの齊藤、飯窪特任助教よ り研究授業や方向性について指導助言をいただいた。 ⅱ) 第2日目 平成23年6月18日(土) 研究会 研究推進員がこれまでの実践してきたエキスパート資料について協議し、協調学習が有効 に機能するための指導方法やエキスパート資料づくりの在り方について検討することができ た。また、今後、継続して授業づくりに関する意見 も確認することができた。 41 換を行うためのネットワークについて 平成23年度活動報告書 第2集 b) 研究授業(平成22年度∼平成23年度) 研究内容の有効性を検証するために、研究推進員が研究授業を行った。 表4:H22、23年度の宮崎市における協調学習の研究授業 日時 ⑤ 場所 授業者 学年・単元名 平成22年 9月24日(金) 宮崎市立恒久小学 内村教諭 小学 5学年 面積 平成22年10月 1日(金) 宮崎市立住吉中学 甲 教諭 中学 3学年 二次方程式 平成23年 6月17日(金) 宮崎市立住吉中学 甲 教諭 中学 3学年 二次方程式 平成23年 9月27日(火) 宮崎市立宮崎東中学 蓑毛教諭 中学 2学年 一次関数 平成23年10月25日(火) 宮崎市立生目台中学 島田教諭 中学 1学年 文字の式 平成23年11月 2日(水) 宮崎市立小戸小学 中村教諭 小学 1学年 たしざん 平成23年11月 7日(月) 宮崎市立赤江小学 吉野教諭 小学 6学年 立体の体積 来年度以降の宮崎市としての研究計画、今後の展望 これまで、宮崎市教育情報研修センター研究員「算数・数学教育研究班」において、協調学習につ いての研究を推進してきた。しかし、来年度の研究組織を改編する予定で、算数・数学教育研究班は 構想になく、また、研究推進のための予算を確保することが難しいため、来年度以降の参加は困難で ある。 そこで、今後は、今年度の研究推進員を中心にウェブ上のネットワークで協議しながら、協調学習 の授業づくりについて研究を進めていきたい。 宮崎県五ヶ瀬町> ① 基本的な え方 右のモデルに示すように、小規模 を多く抱える 本町独自の授業システムとして、学 ・学級の壁を 越えて、教える内容に最適な学習集団で行う「G授 業」がある。ただ、全ての授業をG授業で行うもの ではなく、「G授業」に効果のある内容で行うもので ある。G授業は新しい授業システムとして一定の方 向を示すことができつつある。 しかし、G授業は指導方法の工夫改善及び教員の 資質向上を目的としたものではない。そこで東京大 学が小・中・高等学 に大学から生まれる新しい え方を発信し、各学 の授業における教育の質を高 めることを目標に、CoREFを設立したことを受け、 五ヶ瀬町では、CoREFと共に授業改善及び教員の資 質向上を目的に、授業実践を行うこととした。この ことによって、五ヶ瀬町の学 現場では、授業シス テム、授業方法の両方が確立することが期待された。 42 図3:五ヶ瀬教育ビジョンのイメージ図 第2章 ② 教育委員会や社会人と推進機構との連携 本町における研究推進の実際 町内における研究実践の取組の充実に向けて、次の3つの取組を行った。 a) 協調学習の え方を取り入れた授業」づくりに向けた職員研修の充実 平成21年度導入当初は、CoREFに講師派遣を依頼し、理論についての講義及びワークショップ型 の研修会を開催した。そのための費用として学力向上に係る文部科学省委託事業等と関連させ、予 算化した。さらに、本町で行う研修会を広く近隣の自治体にも呼びかけ、協調学習の研究を他の自 治体とも連携して進めるようにした。こうした中で、協議も深まり研修の充実を図ることができた。 また、新しい学びプロジェクトによる研究推進員による実践化が進んできた本年度からは、町内 組織を生かし、研究推進員を中心とするワークショップ型の研修会を長期休業期間中に設けた。そ の研究会では、学年毎に実践化に向けての指導計画の立案等も行い、4教科以外の教科・領域におけ る実践化に向けてのイメージを共有することができた。 b) 授業実践に向けての取組と研修会の開催 平成21年度・平成22年度五ヶ瀬教育ビジョン全体研究会 を開催し、多くの参加者から意見をいただく機会を設けた。 授業づくりに向けては、授業者のみならず関係学年担任や 関係管理職及び町教委担当も含めて、数回に渡り事前協議 を行った。また、導入当初の平成21年度は、前述の事業費 を用いて授業者等を直接CoREFに出張させ、エキスパート 資料作成に向けての打合せに時間をかけた。こうした授業 づくりに向けた全町を挙げての事前協議の中でも、職員の 意識を高めることができた。 また、全体研究会における授業研究会での協議を踏まえ、 次年度の実践化に向けてのエキスパート資料やプランの修 正を行うことができ、より充実した授業実践の継続に寄与 することができた。 このような全体研究会のみならず、研究推進員による授 図4:H22年度五ヶ瀬教育ビジョン全 体研究会の案内 業実践についても、町内組織を生か し全 に周知し、関係職員が参観及 び授業研究を実施するなど、少しず つ実践を積み重ねている。その中で、 協調学習の え方を取り入れた授業 づくりに適した学習内容について も、徐々にではあるが共通理解でき つつある。 c) 研究推進のための町内研究体制 の構築 本町における協調学習の え方を 取り入れた授業づくりの研究推進を 図5:五ヶ瀬教育ビジョン研究組織 図ることと理論構築を目的に、本年 43 平成23年度活動報告書 第2集 度より前ページの図5のように五ヶ瀬教育ビジョン研究組織に「協調学習研究部会」を新たに設けた。 構成は、各小中学 から1名ずつのメンバーで、管理職の代表として教頭1名が各学 間及び管理職 とのパイプ役として関わることにした。研究推進が一部の職員に限定されないように、新しい学び プロジェクトにおける研究推進員以外の職員も含むことにした。 本部会は、他の部会同様、年間6回の作業部会Ⅱとして開催され、本町における実践化の中核的な 役割を担った。長期休業期間には、研修会を企画したり、授業づくりの支援を行ったりと精力的に 活動した。 ③ 成果と課題 本部会の年度末評価では、重点実践課題であった「実践の積み重ね」について「A」評価となって おり、所期の目的を達成しつつある。しかし、本町におけるG授業との関連や授業づくりに向けての 支援体制など克服しなければならない課題も確認され、次年度に引き継いで解決にあたる。 3. 県立高 学力向上基盤形成事業」 (1)連携事業の概要 ① 連携の枠組み 県立高 学力向上基盤形成事業」は、平成22年度より開始したCoREFと埼玉県との高 における 「協調学習を引き起こす授業づくり」のための2年間の研究連携事業である。研究連携の目的は、 「⑴ 多様な高 生に対応し、学力向上を目指した新たな授業形態と改善の方策を提言」、「⑵学習者の視点 に立った、自ら学ぶ意欲をはぐくむ教材の研究・開発」、「⑶授業改善を推進する中核教員の養成」で あり、高 教育における新しい授業の形を模索する試みであると同時に、その授業改善を推進するミ ドルリーダーの養成自体も目標に掲げられている。 研究連携の中心的活動は、知識構成型ジグソー法による教材の開発、実践、実践の振り返りである。 研究の具体的な進め方としては、各 から研究推進委員となる教員が各教科の部会に集まり、対面と ネット上のやり取りによって、協力して教材開発を行う。2年次となる本年度は、教員らの希望を受け、 昨年の6教科に加え新たに 民、家 科の部会が設定された。研究推進委員の数は、国語14名、外国語 12名、数学9名、理科11名、地歴7名、 民6名、美術5名、家 科3名の計67名であり 、昨年度の約2.5 倍となっている。 昨年度の研究推進委員は全員が継続して委員を務めている。新規の研究推進委員については、教員 歴1∼3年程の若手の教員が多く任命されており、この研究連携への参加が授業力向上の機会として期 待されていることがうかがえる。 本年度研究指定 熊谷西高 、越ヶ谷高 、吉川高 る学 は、五十音順に、上尾鷹の台高 、越谷北高 、庄和高 の13 である。研究指定 、定時制高 、芸術科の高 、浦和高 、草加西高 、大宮光陵高 、秩 は、県トップレベルの進学 高 、春日部女子高 、戸田翔陽高 、 、富士見高 から基礎学力形成に課題を抱え まで多様である。また本年度は研究協力 委員となる教員を送りだした。これらをあわせると実に埼玉県の県立高 として19 が研究推進 の約5 の1がこの研究連携 に関係したことになる。 研究推進の進行管理及び連絡調整は、埼玉県教育委員会高 川口市立川口高 から参加の1名を含む。 44 教育指導課及び県立 合教育センター 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 がリードし、CoREFは埼玉県教育委員会と協力しながら、「協調学習」の理解を深めるためのワーク ショップのデザインや教材開発の援助、授業実践評価など、研究推進上の様々なサポートを行った。 また、埼玉県教育委員会からCoREFに管理職級の職員が1名派遣され、協力研究員として東京大学に常 駐し、研究連携のコーディネートを行った。 ② 本年度のスケジュール 本年度の事業の主なスケジュールは表5の通りである。 CoREFがデザインする研修の機会として、1学期中に3度の全 表5: 県立高 学力向上基盤形成事 業」本年度スケジュール 体研究会を設けた。第1回の研究会では昨年度開発された教材 日程 を用いた授業体験、協調学習の評価についてのワークショッ 5月28日 第1回全体研究会 以降随時 教科オフ会、検証授業 7月12日 第2回全体研究会 7月30日 第3回全体研究会 2学期以降 検証授業 1月21日 報告会 プを、第2回の研究会では継続の研究推進委員による検証授業 の実施、協議を、第3回の研究会では教科ごとに教材案の検討 やシミュレーションを行う教科部会を、それぞれ中心とした プログラムを行った。CoREFと各研究推進委員の1対1関係で スケジュール はなく、教科における研究推進委員の共同研究の環境を作り だすために、研究会のデザインは前年度の取組の成果物や継続の研究推進委員の先生方の知見を最大 限に活用できる環境を設けることを意図して行った。 これらの全体研究会と並行して、前年度に引き続き、事業ホームページ内の会員制掲示板 での議論 及び、各教科の対面式の部会である「オフ会」を通じて、知識構成型ジグソー法を用いた教材開発が 進められた。本年度オフ会は6教科で計12回開催されたが、それ以外にも研究推進委員は互いの研究授 業を参観するなどの機会を通じ、授業づくりについての 今年度の検証授業は、研究授業として一般に 流を深めていた。 開された授業が51、それ以外も含めるとCoREFが把 握しているだけで68の授業実践があった。CoREFスタッフは、 開研究授業の全てに加え、可能な限 り多くの授業を実際に訪問観察し、フィードバック、実践者への事後インタビューを行った。加えて、 可能な限り生徒への授業前後のアンケートを実施し、授業の成果を測定するための一助とした。 1月21日には、本年度の研究を振り返る報告会を戸田市文化会館で行い、県内の教員に加え、他県教 育委員会、産業界などから428名の参加者を集めた。詳細は以降の項に譲るが、県教育委員会担当指導 主事と研究推進委員の運営による各教科のラウンドテーブルでの報告、議論の充実が、研究連携2年目 の成熟を感じさせた。また、この会は市の教育センターの研究の一環として小中学 における協調学 習を取り入れて下さった戸田市との共催で行われた。埼玉県における協調学習研究への関心は、義務 教育まで波及しつつあると言える。 ③ 協調学習を引き起こす授業づくりを中心とした研究の拡大 研究連携事業の中心となるのは、「協調学習を引き起こす授業」のための教材開発である。「協調学 習」を目指した研究連携を進める上で、小中学 に比べて高 が特徴的なのは、グループ学習の手法 を取り入れている、あるいは取り入れた経験のある教員が少ないことである。今年度新たに研究推進 委員になった教員へのアンケートでは、協調学習に限らず何らかのグループ活動を取り入れた授業を 行うことがあると回答したのは、32名中12名であった。ベテランの教員を中心に、生徒の学習をグルー プ活動に委ねることへの懸念を率直に表明する研究推進委員も数名おり、グループによる学習自体の このホームページのシステムには、国立情報学研究所が開発、提供する 「Net Commons」 (http://www.netcommons.org/) 用されている。 が 45 平成23年度活動報告書 第2集 浸透度がまださほど高くないことがうかがえる。 グループの形での学習自体に親しみの薄い高 で「協調学習」を目指した授業改善を模索するため には、研究推進委員は自らが「協調学習を引き起こす授業づくり」の実践を行うと同時に、その過程 を通じて新しい学習方法への理解を深め、将来的に周囲の教員がこのネットワークに参画するための 「コーディネータ教員」としての役割を果たすことが求められる。 図6のように、ネット及び対面の環境で構成され る研究連携の各教科の授業づくりの場には、各 からそれぞれ研究推進委員が参加し、大学の教科 内容や学習方法の専門家と共に、教材について検 討を行う。各研究推進委員の周辺には、学 の同 僚として、他教科の研究推進委員も存在する。研 究推進委員は、教科ごとに教材開発を中心とした 研究を行うが、同時に、学 レベルでの教科の枠 を超えた協同を通じ、 「協調学習」理解を深化させ、 同僚教員へとこのネットワークを拡大していくこ 図6:研究連携のネットワーク・モデル とも期待される。 前述の新規研究推進委員を対象としたアンケートで、 「協調学習」の授業を参観したり、体験したり、 話を聞いたりしたことがあると答えた教員は、若手の教員を中心に32名中14名いた。これらの教員は、 内で実践する同僚がいたり、教科のつながりで興味を持って参観する機会があったり、県による教 員研修で体験する機会があったと回答している。前年度同時期のこの数字は25名中5名であり、うち4 名がCoREFによるワークショップの受講者であった。この実績と比較すると、本年度当初の時点で、 研究推進委員及び教科担当の指導主事が、徐々にではあるが協調学習のコーディネータとして機能し 始めていたということができるだろう。 今年度の取組の中では、学 レベルで協調学習の授業づくりのためのローカルなコミュニティ形成 の動きも見られた。例えば、草加西高 では、研究推進委員は教員歴2年の理科の前田雄太教諭1名の みであるが、ベテランから初任者まで理科の教員集団が一体となって知識構成型ジグソー法の授業づ くりに取り組んだ。この新しい学習方法が、ベテランの教員が若手の教員に実践知を共有する媒介と しても機能していたと言える。 また、庄和高 では 内に協調学習のワーキンググループを設け、研究推進委員以外の教員が知識 構成型ジグソー法を用いた研究授業を 学 開した。同 では、研修や 開研究授業の機会に近隣の小中 にも積極的に声をかけ、地域で一貫して協調学習の研究を進められるよう働きかけている。 「県立高 学力向上基盤形成事業」は終了するが、次年度以降も協調学習を引き起こす授業づくり を中心とした埼玉県教育委員会とCoREFの研究連携は発展的に拡張する予定である。日々の授業改善 のためのひとつの引き出しとして、また生徒の学習や教材の捉え方の新しい視点として、この研究が 全ての教員に緩やかに広まっていくことを期待したい。 46 第2章 (2)県立高 学力向上基盤形成事業 括 埼玉県教育委員会 ① 教育委員会や社会人と推進機構との連携 県立学 部参事兼 合教育センター所長 藤井 春彦 背景と経緯 県立高 学力向上基盤形成事業」の「背景と経緯」については、すでに平成22年度報告書「協調が 生む学びの多様性」において詳述したところであるが、事業の 括にあたり、事業の根底にあった 「学 習観」への思いも込めて、改めて概観する。 本県 立高等学 の在籍生徒数は1989年度(平成元年度)が206,327人、2011年度(平成23年度)が 123,114人と、この間に83,258人も急減した。その結果として、本務教員数は、9,887人から8,361人と なり、1,526人もの減少となった。一方、この間、教職員定数の改善による教育環境の整備・充実が図 られ、40人学級、習熟度別授業の充実、少人数授業、学級編制の弾力化などが実施され、教員一人あ たりの生徒数は約21人から約14人までへと改善されてきた。それにもかかわらず、学力低下への懸念、 中途退学者問題などの生徒指導上の課題は、改善は見られたものの、依然として課題であり続けてい た。 教職員定数の改善は、要約すれば「個に応じた教育」の充実のために実施されてきた。しかし、折 角の改善増による教員配置が教員側からの視点ばかりに集中し、個としての生徒がそれぞれに持つ多 様な思 の相互作用による学習への対応という視点については、あまり 慮されなかったとの反省が ある。 OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)の結果では、日本の生徒の平 得点は、2000年調査で は、「数学的リテラシー」が1位、「読解力」が8位、「科学的リテラシー」が2位であったが、2006年調 査では、それぞれ、10位、15位、6位までへと順位を落としている。単純な順位から課題を 察するこ とはできないが、統計的にも、「数学的リテラシー」、「読解力」の得点には、上位の国との間に明らか に有意差が存在する。「科学的リテラシー」では、「日本の生徒は、『対話を重視した理科の授業』や 『モ デルの 用や応用を重視した理科の授業』などの授業学習活動はあまり活発に行われていないと認識 している」と文部科学省の報告は述べている。 この間、本県では、スーパーサイエンスハイスクール、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ ハイスクール等、国の教育課程研究開発学 その取組のなかで、生徒の思 の指定を受け、先導的な授業モデルの構築に努めてきた。 力、表現力、コミュニケーション能力などの弱さが共通する課題とし て指摘されるとともに、教員からの一方的な知識伝達型の授業手法への改善が求められていた。また、 本県小中学 の全国学力・学習状況調査の質問紙調査の結果でも、「自らの えを他人に説明したり、 文章に書いたりすること」、「生徒の間で話し合う活動を行うこと」等が学力上位の県に比べ低い結果 となっていた。 本事業に先立って実施した2006年度(平成18年度)からの「県立高 『ことば力』向上 合推進事 業」の目的は、こうした課題を解決するための教育内容、授業手法の研究開発にあった。 こうしたなかで、 「人間の 造的活動において、両者は相互に作用し合い、互いに成り代わるのであ る。我々のダイナミックな知識 じて 造モデルは、人間の知識が暗黙知と形式知の社会的相互作用をつう 造され拡大される。」(野中郁次郎,竹内弘高, 「知識 造企業」,東洋経済新報社,1996)その知識 造モデル、共同化(socialization)、表出化(externalization)、連結化(combination)、内面化 (internalization)の繰り返しによる知識スパイラル等に触発された「学習観」が極めて抽象的なレベ ルで漠然と生まれ、「生徒の相互作用をつうじた学習」の実現が目標として共有された。 47 平成23年度活動報告書 第2集 また、児童・生徒数の急減が終了するとともに、大量採用時代の教員が定年を迎え、本県の養護教 諭を含む教員採用は、2012年度(平成24年度)は小中高、特別支援学 で合計1,541人となり、ボトム であった1998年度(平成10年度)の249人の約6.2倍までへと増加している。初任者をはじめ、児童・ 生徒の教育を直接に担う教員の研修をどうするかが、児童生徒への授業のあり方と併せて大きな課題 として現存している。 ② 事業の概要と成果等 県立高 学力向上基盤形成事業」が、CoREFの支援を受けて、三宅教授による協調学習を軸とした 授業づくりプロジェクトとして展開されたことは、上述の背景からも、当然の帰結であった。その目 的・目標や実際の研究授業などの詳細は、利根川氏による「(3)事業の成果と今後の展望」にあるの で、これを参照されたいが、今年度は研究指定 員が中心となり、学 13 、研究協力 19 、計32 の学 内でそれぞれに実践研究が推進され、日常的な授業実践の上で、 で、66名の委 究授業等が51回も実施された。研究 は、普通科、専門学科、定時制独立 決のため自立的に授業改善等に取り組む姿勢が各学 開による研 と様々であるが、課題解 に共通してあり、それが、ここまで本事業が広 がった要因と思う。 その結果、昨年度に引き続き多くの授業案、教材が作成されて授業が展開された。研究授業に参加 した指導主事は、実践された授業を、次のようなa) からc) の3つの観点から整理をした上で成果等 を 析している。 a) 授業過程による 類:『導入』・『展開』・『まとめ(終末)』」 ⅰ)『導入』 授業過程を構成する指導計画のうち最初の段階で「ジグソー法」を用いた授業、これまでの学 習からこれからの学習への橋渡し、あるいは、これからの学習の準備と位置づけられる。その目 的は、「これからの学習に対する興味・関心を深め、学習意欲を高める」「これからの学習の理解 を促すため、予備的な知識を確認する」こと等にあり、導入段階で実施されたジグソー法の授業 で習得された知識・理解をその後の学習に援用していこうとする授業。 ⅱ)『展開』 単元の指導計画のうち、導入時に示された課題を解決するための方策を調べたり、検討したり する段階で「ジグソー法」を用いた授業。 ⅲ)『まとめ(終末)』 単元の指導計画の最後の部 (まとめ╱終末)で、学習内容の確認やまとめる段階で「ジグソー 法」を用いた授業。 b) 『発展型(オープンエンド)』と『収束型(クローズドエンド)』」 ⅰ)『発展型(オープンエンド)』 授業の最後に多様な え方があることを示し、生徒の え方を広げることを目的とした発展型 授業。新たな「問い」を生徒に持たせるという側面も持つ。 ⅱ)『収束型(クローズドエンド)』 1つの結論にたどり着くが、一人ひとりの思 自らの思 の過程は多様であることに生徒が気付くことで、 を深化させることを目的とした収束型授業。 c) 扱う教材による 類」 ⅰ)『教科の専門的な領域』 48 第2章 ⅱ)『教科横断的な領域』(例:数学と理科、日本 と世界 教育委員会や社会人と推進機構との連携 ) ⅲ)『教科の基本領域』(例:答案の書き方) この実践授業の 類をとおした 析や授業観察の結果などから、協調学習の成果として、 ・講義で学んだ知識を単に記憶する学習方法でなく、事例をきっかけとして知識をそれと関連付けて 能動的に学習することにより、得られた知識はより記憶しやすく、取り出しやすくなる。 ・さらに討論により応用できる知識として新たに記憶されるなど「知識の定着」に有効である。 ・エキスパート活動やジグソー活動で出てくる様々な「疑問」を通じて、新たな「問い」を立て、自 ら学ぶ習慣を身につけるなどの「新たな学習習慣の獲得」ができる。 ・自 の意見を かりやすく他者に伝え、他者の意見を傾聴し、積極的で効果的な討議ができる。 ・グループ内の協調や連携を意識し、まとめることができる。 ・グループ内の論議を他者に対して適切に説明できる。 ・解決のための論議をするなかで、他者との 設的な相互作用が促進され「他者と協調する姿勢を身 に付ける」ことができる。 などの様々な成果が見られたと報告している。 一方、 合教育センターでは、一昨年度に、指導主事が、CoREFによるワークショップの受講、シ ンポジウムへの参加、模擬授業の実施など事前の準備をすすめ、昨年度は、高 国語、数学、美術等 の教員研修で協調学習を先行実施している。また、昨年度から全体研修会、各教科別の 科会、 開 授業、活動報告会の教科ラウンドテーブルの開催・運営、Webサイトの運営、協調学習による授業づ くりに向けた教材作成への協力など、本事業に協働的にかかわってきている。 さらに、今年度は、初任者研修等悉皆の研修においても、研修自体をジグソー法により実施し、体 験を通して協調学習の手法を学んでもらった。さらに、各研修においても受講者同士の相互活動の活 性化を期して、ジグソー法による協調学習による研修をポイントとなる局面で導入した。この結果、 指導主事には自身の力量が上がり、研修の効率も上がったとの率直な感想がある。研修受講者による 事後評価でも、受講者相互の協調的な研修により研修への積極的な参画が促進され思 ど、これまでの単純なグループ協議による研修を超えて評価が高く、今後、各学 が深化したな での授業の見直し や改善に繋がっていくものと期待される。加えて、中堅教員が極端に少ないという教員年齢の不 衡 から、授業技術が世代間で継承され難いなかで、直面する大量採用者への研修の在り方にも確かな方 向性を与えている。 平成23年度の報告会では、三宅なほみ教授、「人とロボットとの共生による協 社会の 成」で三宅 教授との共同研究者である大阪大学の石黒浩教授による鼎談に、人型ロボットのアンドロイドを登壇 させた。独立行政法人産業技術 合研究所知能システム研究部門の 本吉央サービスロボティクス研 究グループ長の協力によるものである。三宅教授は前述の研究のなかで「ロボットによる協調学習の 体験」を戸田市立芦原小学 学から ですでに実施している。ロボットの報告会鼎談への登壇は、その時の見 えたアイデアである。つまり、子供からみれば「先生は知識をもった大人」という認識があ るため、授業者の発言は、時として、子供の思 を停止し学習を阻害しかねない側面があるなかで、 教育と学習を繋ぐ媒体、「良い聞き手」としてのロボットに高い可能性があること、さらに、ロボット が教室に居ることで、授業者が自身の教育を客観的に見る、自身を客体視することができ、教育の質 の改善に繋がることなどが期待されると えたのである。 また、この報告会参加者のアンケートには、協調学習に対し、 「教材は参 49 になるが、ジグソーの活 平成23年度活動報告書 第2集 動を取り入れるために、課題設定が難しい」との意見がある一方で、「先生方も生徒もこういう試みに より変わることができる」、「協調学習の手法だと意外な生徒の能力を発見できる」など じて高い評 価が見られた。報告会に全国各地から428名もの方々の参加があったことは、その関心の高さを裏付け ている。 ③ 今後の取組等 取組からの課題は、協調学習による授業を展開したいと思いつつも、現行の学習指導要領に定める 指導内容を、どのように協調学習による授業展開で担保できるか、そのためのワークシートをどう作 成したら良いのかについて、素朴に感じる困難さが、依然として導入にあたっての障害として存在し 払拭されていないことに尽きる。このため、授業実践の中で浮き彫りとなった課題については、研究 推進委員が相互に共有しつつ改善したうえで、具体的な事例や成果をできるだけ多く示すようつとめ てきた。しかし、学習指導要領にある指導内容のボリュームから見れば、まだまだ事例の数は圧倒的 に少ない。一方で、学習指導要領の書きぶりについては、学習者からよりも授業者からの視点が強い ようにも思える。今後の学習指導要領の改訂にあたっては、こうした見直しの視点も必要ではないか。 合教育センターでは、次年度から、高等学 初任者研修で、CoREFとの連携による協調学習を用 いた授業実践研修を実施することを予定している。県立高 学力向上基盤形成事業による研究推進委 員の先生方にも協力を仰ぎながら、協調学習に関する講義、ワークショップ、指導案の作成・検討、 模擬授業の実施、さらに可能であれば、授業実践そして実践発表会へと展開する5回ほどの研修プログ ラムを検討している。 これに留まらず、これまでの課題を十 る実践を積み上げていきたいと に踏まえた上で事業を再構築し、継続的に協調学習にかか えている。そこでは、より多くの課題が出現し困難さが一層増加す ることが容易に想像されるが、それ以上に、実践による事例や成果を数多く示していけることと思う。 人が知識を獲得しようとするとき、社会や他者など自身を取り巻く環境との相互作用から孤立して 行うことはできない。それ故に、困難であっても受け身の教育から能動的な学びへの転換が必要であ る。その先に「確かな学力」の実現を見ることができる。 (3)事業の成果と今後の展望 CoREF協力研究員 この2年間の事業を振り返って見るとき、学 利根川 太郎 現場と教育委員会双方の授業改善への想いが、CoREF 三宅教授の「協調学習」というビジョンに出会って、「県立高 学力向上基盤形成事業」は生まれ、拡 がったと強く思う。 従来の一斉授業や教員個々の授業改善だけでは限界を感じ、学年や教科、学 ていく熱意を抱えながら方法を模索している先生方がいる一方で、県立 全体の授業を改善し 合教育センターは組織の中 で授業改善の中核となる教員の育成プログラムを模索していた。また、県教育委員会は、進学 礎学力充実に特化するプログラムの他に、全ての高 で学力向上に資する教育支援の方法を や基 えてい た。このようなニーズに対して、三宅教授の「協調学習」の理論と「知識構成型ジグソー法」の手法 が進むべき方向を示唆し、埼玉県とCoREFの研究連携が始まりそして深まった2年間であった。 この研究連携の目的は、⑴多様な高 生に対応し、学力向上を目指した新たな授業形態と改善の方 策を提言、⑵学習者の視点に立った、自ら学ぶ意欲をはぐくむ教材の研究・開発、⑶授業改善を推進 する中核教員の養成であり、連携期間は平成22年4月から平成24年3月の2年間である。 50 第2章 年度ごとの目標、研究対象教科や研究指定 ・協力 教育委員会や社会人と推進機構との連携 および研究推進委員は別表のとおりであるが、 特筆したいのは、開始年度の「協調学習」の授業実践の結果、次年度には学 委員も2.5倍の先生方が参加してくれたことである。この中には、 草加西高 指 定 ・協力 および研究推進委員数 平成22年度 平成23年度 ①協調学習の え方に基づいた検証授業を実 施し、授業改善のモデルを提言する。 ②協調学習の授業において効果的な教材を研 究し開発する。 ③協調学習の手法を用いた研修形態を研究す る。 ①協調学習の え方に基づいた授業を実施・ 評価し、授業改善の方策を提言する。 ②協調学習の授業において効果的な教材を開 発・改善し、拡大を図る。 ③協調学習の手法を用いた研修形態を研究す る。 指定 9 、浦和、大宮光陵、春日部女子、越ヶ 谷、越谷北、秩 、戸田翔陽、富士見、吉川 協力 1 、浦和第一女子 指定 13 、上尾鷹の台、浦和、大宮光陵、 春日部女子、熊谷西、越ヶ谷、越谷北、庄和、 草加西、秩 、戸田翔陽、富士見、吉川 協力 19 、伊奈学園 合、浦和第一女子、 桶川西、川口北、川口青陵、川越女子、熊谷 女子、越谷 合技術、越谷東、坂戸西、狭山 経済、狭山緑陽、白岡、南稜、鳩ヶ谷、吹上 秋桜、 山、 山女子、皆野 国語7、地歴3、数学5、理科4、外国語4、芸術 (美術)3、6教科、合計26名 国語14、地歴6、 民6、数学9、理科11、外国 語12、芸術(美術)5、家 3、8教科、合計66 名 ・ 協 力 委 員 や、 があり、その裾野も広がっている。 表6:各年度の目標と研究指定 標 内で推進委員を増やした学 の理科担当教員全員による取組など、「協調学習」を軸に推進委員以外の先生を巻き込んだ 授業改善を組織的に進める学 目 数にして3倍、研究推進 この研究連携事業の主な活動は、研究推進委員全員が集まって研修する年間3回の全体研究会、教科 ごとに集まって教材検討する各教科年間1∼3回の教科部会「オフ会」、会員制サイトで掲示板を用いた 随時の教材検討などである。さらに、この間の教材検討を経た授業案を基に、主に2学期に研究授業を 実施し、研究授業の成果と課題を第4回の全体会で報告会として多くの皆様に発信した。 開始年度の22年度は、例えば第1回全体研究会の浦和高 の生徒に協力していただいて実施した模擬 授業は、人間の認知過程を題材にしたものであるなど、それまでCoREFに蓄積されていた教材やノウ ハウを用いたものが主であったが、2年目は第2回の吉川高 業を実施したことに代表されるように、また、 での全体研究会で藤井嘉子教諭が研究授 われる教材が例えば「三大和歌集」のように22年度 の委員の先生が開発したものであったり、研修の中で22年度からの研究推進委員がリードする場面が 多かったりなど、1年目の成果が着実に現れた内容となった。 このうち活動の中核をなす研究授業は、CoREFが参加して実施したものが、次の表にあるとおり平 成22年度に23授業、平成23年度には51授業にのぼった。この中には、11月18日の川越女子高 で実施 された「協調学習」を用いた日本科学未来館ワークショップなど、今後の広がりを感じられる取組も ある。さらに、ここには収録されていないが戸田市では教育センターの調査研究と連携して小学 で の「協調学習」も実施されている。 また、この中には全て収録できなかったが毎週の授業で「協調学習」を実施していただいている先 生もいる。あるいは、通常の講義型の授業の中に、10 ∼15 程度の協調的な活動を 生もいて、この手法と共にその え方の裾野も拡がりつつある。 51 えてくれた先 平成23年度活動報告書 第2集 表7:各年度の研究授業 平成22年度(23授業) 実施日 教科 授業者 実施日 教科 授業者 越谷北高 学 名 10月9日 数学 癸生川大 越ヶ谷高 11月19日 国語 竹部伸一 吉川高 10月18日 数学 大久保貴章 吉川高 11月22日 国語 藤井嘉子 越ヶ谷高 10月29日 生物 下山尚久 戸田翔陽高 11月26日 国語 飯島 英語 平山 努 富士見高 11月29日 国語 畑 地理 福島 巌 大宮光陵高 11月30日 美術 岩崎浩之 12月20日 国語 小池 2月2日 国語 畑 国語 1学年全体 大宮光陵高 学 11月4日、11日 美術 高浜 秩 11月15日 英語 安田やよい 富士見高 国語 寺嶋 春日部女子高 浦和高 11月17日 名 高 毅 文子 章 文子 国語 板谷大介 春日部女子高 2月28日 英語 安田やよい 英語 小河園子 浦和高 2月28日 英語 小河園子 英語 池野智 数学 山野井俊介 数学 野崎亮太 実施日 教科 授業者 実施日 教科 授業者 吉川高 7月12日 国語 藤井嘉子 草加西高 11月22日 理科 前田雄太 浦和第一女子高 9月26日 国語 板谷大介 庄和高 11月28日 英語 横田純一 越谷北高 9月26日 数学 癸生川大 地歴 大熊俊之 越谷北高 10月7日 民 菅野祥憲 数学 小林正彦 数学 癸生川大 英語 齊藤友和 地歴 浅見晃弘 英語 中山厚志 数/理 荒田・若林 理科 茂木尚美 英語 小澤祐介 大宮光陵高 11月30日 美術 高浜 国語 赤沼佳幸 越谷 11月30日 家 白井里佳子 戸田翔陽高 平成23年度(51授業) 学 名 上尾鷹の台高 10月11日 学 名 山女子高 11月29日 合技術 理科 若林・漆原 理科 白石佐利 大宮光陵高 10月12日 美術 岩崎浩之 国語 飯島 草加西高 10月12日 理科 前田雄太 民 春日部女子高 11月4日 英語 安田やよい 国語 寺嶋 狭山経済高 11月8日 民 木下真介 11月10日 理科 下山尚久 越ヶ谷高 11月11日 地歴 福島 国語 11月15日 富士見高 12月2日 美術 毅 皆野高 熊谷西高 12月2日 民 南稜高 巖 12月2日 倉成恭代 矢嶋 渉 水村晃輔 国語 千代卓行 理科 奥間美穗 浦和高 12月3日 家 山盛敦子 竹部伸一 川越女子高 12月17日 国語 皆川裕紀 数学 結城真央 浦和高 12月17日 数学 山野井俊介 理科 澤本純一 英語 池野智 理科 吉田 二 数学 野崎亮太 近藤隆行 理科 野澤優太 英語 小河園子 12月19日 国語 小池 12月19日 国語 鳩ヶ谷高 11月16日 地歴 富士見高 11月17日 国語 畑 (古典) 文子 国語 畑 文子 川越女子高 11月18日 理科 中村洋子 市立川口高 11月18日 地歴 大野圭一 秩 高 伊奈学園 52 合 章 本靖子 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 このような豊富な授業実践をもとに、平成23年1月29日に中間報告会を実施し、平成24年1月21日に は2年間の成果を報告し今後の展望を示す機会とした。 中間報告会では、埼玉県を中心に297名の参加を得て実施し大変反響があった。このことは先に述べ たとおり研究推進委員と関係 の大幅な増加に表れた。 また、2年目の報告会では、埼玉県だけではなく全国の、教育関係者はもとより広く産業界など様々 な 野の方を含めて428名の参加を得て実施し、大きな反響をいただいた。 表8:各年度の報告会のプログラム 平成22年度報告会 ・開会挨拶 「ひとりひとりの学びが輝く」(H23.1.29) 前島富雄(埼玉県教育委員会教育長) ・報告「協調学習の概要について」三宅なほみ教授(CoREF副機構長) ・対談「高 生が学びのことばを取り戻すために∼認知科学と学習科学から∼」 橋田浩一(独立行政法人産業技術 合研究所 社会知能技術研究ラボ長)×三宅なほみ ・ビデオによる授業実践の解説① ∼国語「高瀬舟」「歌物語を作ろう」を題材に∼ ビデオによる授業実践の解説② ∼理科「染色体地図」を題材に∼ ビデオによる授業実践の解説③ ∼英語「カレンダーはなぜ必要か」を題材に∼ ・質疑応答と 開討論 ・担当教員等による教科別ラウンドテーブル 協調学習体験型 ミニワークショップ 平成23年度報告会「ひとりひとりの学びが輝く―協調学習2年間の取組からの展望―」(H24.1.21) ・開会挨拶(埼玉県教育委員会) ・鼎談「ひとりひとりを輝かせる協調学習」 石黒浩(大阪大学 大学院基礎工学研究科システム 成専攻 教授) 三宅なほみ(CoREF 副機構長) 藤井春彦(埼玉県教育局県立学 部 参事兼県立 合教育センター 所長) ・ビデオによる授業実践の解説 ∼数学B「ベクトルの導入」を題材に∼ ∼英語Ⅰ「The Mermaid Balloon」を題材に∼ ・質疑応答 ・担当教員等によるラウンドテーブル 小学 での実践(戸田市) 県立高 での実践【国語、地歴、 民、数学、理科、英語、芸術(美術)、家 53 】 平成23年度活動報告書 この研究連携の 第2集 析と成果については他のページに譲るが、埼玉県からCoREFに派遣され2年間そ の様子を渦中から眺めて、この研究連携は文字通り連携であったという感想を強く持っている。研究 結果を一方的に教授いただいたのではなく、多くの先生方が実践した授業がまた研究者にとっても新 たな知見につながり、それが次の研究会に活かされていった。このような第一線の研究者との連携が 今後も続くことを願ってやまない。 幸いにも今後もCoREFとは連携していただけるので、今後この研究連携で得たノウハウをさらに深 めて、埼玉県においては授業改善はもとより高 初任者研修や教科研修に取り入れるなど、一層の拡 大に努めたい。 (4)各教科担当指導主事の振り返り ① 国語科の取組及び成果と課題 埼玉県立 合教育センター 指導主事 小秋元 美弥子 a) 本年度の取組 国語科は本年度、新しいメンバーを加え、12 14名の研究推進委員で本事業に取り組んだ。学 、 メンバーの広がりとともに、取組む教材、内容も広がりを見せた。現代文では、「こころ」「山月記」 「舞姫」等の小説教材、詩歌の他、評論での取り組み、さらに、新聞を用いての実用の文章執筆、小 論文等、表現活動に向けた実践が見られた。古典では「源氏物語」「伊勢物語」といった古文教材の他、 「桃花源記」から「異境訪問譚」を理解し、文学研究の方法を探るといった教養講座的取組がなされ た。国語表現では、川柳 作や意見を述べるといった実践が見られた。委員の先生方一人ひとりが様々 な教材、領域で教材開発を進めるとともに、作成した教材を異なる学 で実践していった。本事業も 2年目を迎え、教材、授業実践の共有化も進んだ形となった。 b) 本年度の国語科の成果と課題 本年度、国語科の成果としては、様々な場面で生徒の学びの広がりをより実感できたことが挙げら れよう。昨年度からの取組の深まりが感じられた。本年度特筆すべき点として以下4点記したい。まず、 授業の深化である。エキスパート活動を準備するに当たっては、複数の視点から教材を見ることが必 要になる。作品を読み解く適切な部品を探すために授業者の徹底した教材研究と研ぎ澄まされた感覚 が求められる。生徒に語ってほしいストーリーを描きつつ、仕掛けを施していく。結果として深い教 材理解に基づく授業が展開されていった。次に協調学習の日常化への取組である。富士見高 の畑教 諭は「源氏物語」を毎回協調学習の手法を用いて読み解いた。生徒からは「源氏物語はおもしろい。 」 との声が上がったという。生徒自身が作品そのものに迫り、おもしろさを実感していた。また、新た な事例として、川越女子高 皆川教諭の、評論「であることとすること」の導入での実践を挙げたい。 評論そのものというより日本の近代を えるのに必要な背景となる え方を学ぶものだった。生徒達 はやや難しめの文章を共に読み解きながら日本の近代という時代を えていた。現代文を読み解く上 で課題となる思想 的 野を補完し、読書活動を促す、まさに学力の基盤作りとなるものであった。 そして、先生方の学び合いということである。教科部会ではCoREFの先生方も 言葉といった えて、近代、表現、 野ごとに話し合いをした。グループごとに作品の意義、教材観について熱心に語り合 い、教材化への方向性を確認していった。こうした深い教材理解、教材を共に作り上げる体験が充実 した教材作成につながっていったと えられる。こうした活動は教員側の協調的な学びとも言えるの ではないかと思う。授業研究のあり方について示唆に富むものであった。 54 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 本年度、国語科は質・量ともに充実した取組となった。それは生徒の表情からも窺い知ることがで きた。頬を紅潮させ懸命に何かを伝えようとする生徒、はにかみながらも訥々と話をする生徒、様々 な形の生徒の学びがあり、気付きがあった。これからも様々な形で生徒の学びを引き出す授業の可能 性を追究していきたい。 ② 外国語科(英語)の取組及び成果と課題 埼玉県立 合教育センター 指導主事 中里 尚樹 a) 2年間の取組の状況 外国語部会では、22年度からの4名に8名が加わり、計12名の研究推進委員が協調学習の教材開発を 軸に研究推進に取り組んだ。22年度は、英語に協調学習をどのように取り入れ授業を展開するかが課 題となった。年間2回の教科部会では、先行実施した委員の実践を参 にお互いが教材を持ち寄り、指 導案作成、教材開発に取り組んだ。23年度は、年間4回の教科部会が行われた。前半は、英語での協調 学習のスタイルを各委員が共有し、英語の協調学習の指導案を具体的にどう構築するかが協議された。 後半は、各委員が協調学習の指導案づくりのヒントを得て自作の指導案を作成し、各自が抱える疑問 点、課題についてもその改善策を検討した。指導案は、 「文法項目に関すること」、 「聞く話す読む書く の4技能のいずれかに焦点を当てたもの」、「テーマを与えて意見をまとめるもの」に大別され、勤務 の生徒の実態を踏まえた協調学習の教材も開発された。 b) 成果と課題 開発された教材については、検証授業が行われた。検証授業により明らかになった英語の協調学習 の成果と課題について、以下に述べる。 ⅰ) 成果 第一に、協調学習が生徒の授業理解に一定の効果があったことがわかった。生徒同士が話し合うこ とで英文への深い理解と定着が進み、静かな生徒集団が活発になり、よく えて学習していた。通常 授業では教師が説明してもなかなか学習の理解や定着が進まないが、協調学習は知識の確認や良い理 解を促す機会となっていた。第二に、授業展開における協調学習の長所が確認された。協調学習が生 徒同士の学びを起こすシステムとしてよく機能していた。エキスパート活動、ジグソー活動、クロス トークという三つの視点から授業を えることで授業者自身が鍛えられ、生徒の興味や理解の程度が 把握しやすかった。学習の疑問点や深く るい えさせる課題に協調学習がうまく機能していた。楽しく明 囲気で授業が行え、学力差への対応もできていた。 ⅱ) 課題 第一は、実際の授業展開における留意点が挙げられる。具体的には、協調学習では英語と日本語の 用をどう えるか、グループ活動の活性化、教材の い方の徹底などを えることが必要となる。 また、生徒は学習内容がわかった気になっているだけではないかという疑問もある。第二は、協調学 習の活用に関することである。通常授業に協調学習をどう取り入れるか、教材をいかに共有化するか、 協調学習の え方の周知などが挙げられる。 抽象度が高いという意味で、協調学習は単なる複雑ではない難しい課題の解決に向いていると思わ れる。協調学習を英語学習にどう取り入れていくかについては課題が残るものの、2年間の研究推進事 業の成果を活かし英語の授業と協調学習をさらに関連づけ、生徒の学習意欲を高める授業の可能性を えていきたい。 55 平成23年度活動報告書 ③ 第2集 数学科の取組及び成果と課題∼協調学習による数学科の学習指導の改善 埼玉県立 合教育センター 指導主事 山﨑 正義 a) 数学科の取組の状況 22年度は、単元の終末や単元間の知識の関連付けをジグソー法で実施したらよいのではないかとい うことが教科オフ会等での話題となった。その結果、導入部 の教材は1つ、吉川高 の大久保先生が、 極限の導入で挑戦することとなった。他は、既習事項のまとめなどに関する教材や答案作成や解法の ストラテジー獲得などとなり、平素の指導からは導入部 を扱うことへの発想を共有することはでき なかった。それは、カリキュラムがスパイラルで与える知識の順序性があるため、指導内容をジグソー 教材にしにくかったからである。23年度は、単元の導入部 同じプロジェクトを進めている中学 の実践例が大変参 での実践に多くの取組があった。これは、 になった。エキスパート活動でこれから学 ぶことを知らせ、ジグソーでそれを関連付けて生徒にはこれから学ぶことを見せてしまうという展開 である。これは慧眼ともいうべき取組だった。教師には、従来の指導の枠から抜けられず、既習事項 の定着がよくないからとか、個別に順序よく教えなければならない等、自らの指導に疑問を感じない 部 がある。協調学習の取組は、生徒に学ばせないのは教師の側の責任ではないかということに改め て気付かせてくれたものであった。 b) 成果と課題 ⅰ) ジグソー法による教材作成は、習得させたい知識(=本時の目標、ねらい)の明確化を図る。 この際、各エキスパート教材に習得させたい知識を関連付けておくことが大切である。また、教 材検討の過程での意見 換が教科内の情報共有を促進し、他の教員が作成した教材の再利用によ るフィードバックを得ることもできるため、教材や指導の改善を図ることができる。また課題と しては、発見学習か意味理解学習かを ため、エキスパート教材で えることが挙げられる。平素は発見学習型の授業が多い えさせようとして発見させる要素を多く含ませると、ジグソーで関 連付けがうまくいかなかったり、各活動に時間かかり過ぎるなどで展開どおり終わらなかったり する。教材作成は、獲得している知識の状況により調整を図る必要があると えられる。 ⅱ) 単元の導入におけるジグソー法の授業では、これから学ぶことを知ることができ、個々の学び を確かなものにすることで学力差を埋めることに効果的である。学習事項の関連付けを意識した 展開となるため、意味理解が促進されるので知識の定着にも効果的である。課題としては、ジグ ソー法は生徒主体の取組にとっては機能的だと思えるが、ファシリテータとしての教員の役割を 明確にすることが必要である。 ⅲ) 今回のジグソー法による生徒の学習活動は、数学の指導を見直す機会となった。また、生徒同 士の言語活動を意図的に発生させ、各自の理解の仕方に添った指導法となっている。課題として は、継続的な取組とするためには、教員が指導上課題と捉えていることが、ジグソー法での指導 により解決されているのかどうか今一度検討する必要があると ④ えられる。 理科の取組状況及び成果と課題 埼玉県立 合教育センター 指導主事 久保 丸・小川 剛 a) 理科の取組状況 本年度の理科は、多くの若手教員が新しく研究推進委員に加わり、研究 んだ。理科として扱う 10 、委員11名で取り組 野も広がり、物理、化学、生物の3科目の他、物理と化学では「エネルギー資 源」、理科と数学では「pHと対数の関係」など、科目あるいは教科を横断させる実践も新しく加わった。 56 第2章 また、化学の「有機化学」では、いくつかの 析法を用いて 教育委員会や社会人と推進機構との連携 子構造を推定させるといった大学レベ ルの知識・理解を必要とする教材の作成も見られた。これは、将来の研究者を育成するためのキャリ ア教育を兼ねた取組でもあった。一方では、エキスパート活動に研究 の理科教員が全員で指導にあ たるといった実践も見られ、本事業を組織的な学習支援の機会として活用する学 うに、研究 もあった。このよ の協力のもと、委員の一人ひとりが多彩な取組を行ったことが本年度の特徴といえよう。 11の研究授業により、幅広く実践が進んだ。 b) 本年度の理科の成果と課題 本年度の理科の成果として、第一に生徒一人ひとりの理解の違いは、生徒の気付きと学びの深まり につながることを委員が実感したことが挙げられる。理科教育では、身近な自然の事象をもとに科学 的な法則を学ぶ指導を行うことが多い。昨年度は、この法則を見出すための教材、特にエキスパート 活動の教材作成に苦心した。教材の完成度が高くなければジグソー活動で生徒が法則を導くことがで きない、そのためにはエキスパート活動は生徒一人ひとりが内容を確実に理解できる教材が必要であ ると えていた。 しかし、本年度の取組では、理解の違いが多少あっても生徒同士の話し合いから、自 の理解でき なかったところはここだと気付かせ、生徒が再び理解に向けて努力を始める教材が実践された。報告 会でも、研究授業を通して生徒の学びの深まる様子がビデオ発表で紹介され、他の委員からも同様の 実践報告があった。ジグソー活動が終わるころ、ほとんどの生徒は思 から法則を導くことができた という。 第二の成果として、この生徒の理解の違いを利用して授業を展開する教材の開発が挙げられる。教 材作成にひとつの方向性が見出されたことで、今後は、さらに多くの教材が作成され、それを共有化 する必要がある。 課題としては、エキスパート活動のボリュームはどのくらいが適正なのかをあげる委員が多かった。 今後は、生徒の状況に応じ、内容を精査する方向になると思われる。 生徒が主体的に授業に取り組まないことを感じている理科教員は多い。また、科学技術 目指す日本にとって、理科教育は知識や技能の他、思 造立国を 力・判断力・表現力の育成を図る指導も強く 求められている。委員はその期待に応えるため、教室で行う授業のみならず、観察・実験の中にも教 材を開発しようと熱意を持って取り組んできた。これからも、本事業の成果を活用して、生徒が主体 的に学ぶ姿勢を引き出す授業を行うことが大切となるだろう。 ⑤ 地理歴 科の取組及び成果と課題 埼玉県立 a) 地理歴 指導主事 掛川 達雄 科2年間の取組状況 1年目は、研究推進委員が3名と少数で、いずれも「世界 た。所属 合教育センター 」を専門とするメンバーで構成されてい も対照的な3 であった。オフ会を通じて、どの単元のどの教材をジグソー法で実施したら 効果的であるかと検討を進めてきた。 「世界 A」は、 「諸資料に基づく学習を重視した内容構成」 、 「主 題を設定させ、探究する活動の充実」が学習指導要領の改訂で打ち出されているため、比較的ジグソー 教材を作成しやすい科目である。それぞれの単元の終わりに学習事項をいくつかのエキスパート活動 に け、ジグソー活動で知識を関連付けるという方向で授業プランを作成し、実践した。 今年度は、研究推進委員が8名に増え、実施科目も「世界 」だけではなく「日本 」にも広がり、 野・内容の充実も図られた。オフ会だけではなく、Webサイト上での検討を重ね、4 で 57 開授業を 平成23年度活動報告書 第2集 実施し、授業後も振り返りの研修会をもつことができた。従来の教師から生徒への一方通行的な授業 から、教師と生徒、生徒相互のインタラクティブな授業のあり方を模索することができた。 b) 成果と課題 生徒の側の成果として、既習事項より少し高度な教材を用意することで、知的好奇心を喚起し、授 業へのモチベーションを高めることができたことが挙げられる。また、生徒一人ひとりに、 「私には伝 えなければならないものがある」という状況を作り出すことによって、生徒全員の授業参加を促すこ とができた。さらに、生徒の多面的、多角的な歴 的思 力を育成し、言語活動の充実を図ることが できたことが大きな成果として挙げられる。 一方、教員側の成果として、普段あまり機会のない複数の教員による教材作成を通じて、積極的に 意見 換をすることができたことが挙げられる。教材検討を通じて、教科内での教材理解・情報共有 を促進し、教員同士の学びを深めることができた。また、習得させたい知識を明確化することで、目 標をしっかり持って授業に臨む大切さを再認識することができたことも成果と言えよう。さらに、他 の教員が作成した教材を再利用することにより、教材や指導に再検討を加え、よりよい授業を積み上 げていく契機とすることもできた。 課題としては、生徒の協調をより効果的に生み出す単元、及びエキスパート教材の精選が必要であ るということが改めてわかった。生徒一人ひとりの学びを、より確かなものにするための「問い」の 設定及び現在とのつながりを生徒が実感できるような「問い」の設定が不可欠である。また、基礎的、 基本的な知識の定着を図ることが、効果的な協調を引き起こすためには大前提であることがわかった。 本事業は、8名の推進員の先生方の、授業に対する飽くなきこだわりと挑戦、真摯な姿勢が、大きな 推進力となった。2年間の取組の成果と課題を踏まえ、さらなる検討を続けることで、生徒の能動的な 学習姿勢を引き出し、生徒一人ひとりの瞳が輝く授業実践を目指してゆきたい。 ⑥ 民科の取組及び成果と課題 埼玉県教育局県立学 a) 部高 教育指導課 指導主事 遠藤 智久 民科の取組の状況 民科は6名の研究推進委員により、今年度新たに協調学習の授業を実践することとなった。協調学 習の手法を一から学びながら各研究推進委員が教材研究を進め、4 で 開授業を実践した。すべての 研究推進委員にとって初めての試みということもあり、当初は「授業を成立させられるか」といった 不安を感じる研究推進委員もいたが、CoREFのスタッフの的確な指導のもとで教材研究を重ね、 開 授業を実施していくことで、当初の不安はいつしか「協調学習の手法はどのような学 においても実 施可能かつ有効である」との確信へと変わっていった。 各研究推進委員の授業後の感想は「生徒は予想以上に活発に学習していた」というものであった。 講義形式の画一的な授業から抜け出せず、生徒の主体的な学習への取組を躊躇してしまう教員もいる。 「うちの学 の生徒では無理だ」というように、その要因は生徒側にあると えてしまう傾向もあろ う。しかし、実は教員自身の不安に基づく自己規制が生徒の主体的な学習を阻害していたとも言える。 協調学習による授業実践は、生徒たちの自ら主体的に学ぶ力を再認識する機会となった。 b) 作成教材について 教材の具体例 「発展途上国の経済・環境問題」「今日の雇用問題と対策」 「労働問題」「はじめての政治哲学」 教材化の方法 習得させたい知識の明確化と問いの設定 58 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 習得させたい知識に関連するエキスパート教材の選択 (研究推進委員からは、3つのエキスパート教材の選択に際し、2つ目までは選択で きても、3つ目の選択が難しかったとの感想があった。) c) 成果と課題 ⅰ) 成果 協調学習の手法による授業実践から様々な発見があった。特に、生徒たちが自ら学び合う力を持っ ていることを再確認できたことや、協調学習の手法はどのような学 でも実施可能かつ有効である という確信が得られたことは最大の収穫であった。他の研究推進委員が作成した教材を自 レンジして再利用することも可能であり、 用にア 民科において協調学習を普及させる土台をつくること ができた。 ⅱ) 課題 今後、研究推進委員が作成した教材を互いに活用する等、実践を積み重ねていくことで、この取 組は に発展していく。その際、他の教員と情報の共有をしながら協働による教材研究を行い、生 徒の学びの深化を促す授業改善に取り組む必要がある。 ⑦ 芸術科(美術)の取組及び成果と課題 埼玉県立 合教育センター 指導主事 山田 一文 a) 本年度の取組 協調学習の特性を活かし、芸術科(美術)(以下「美術」として示す)が目指す教育をさらに充実さ せる「 え方」や「手立て」を検討することが本年度の研究である。昨年度の研究で協調学習が美術 でも主体的な学習を導き、言語活動の充実を果たすことが明らかにされたが、それは協調学習が言語 を多用する鑑賞領域において有効な手立てであったからと理解できる。では、表現領域で協調学習を 取り入れたり、造形言語において協調学習と関係付けたりできるのか。このことが本年度の研究の方 向性を生み出した。そこで「美術」においては、『美術の表現及び鑑賞の活動において言語による協調 学習を行うのと同じように、造形言語による協調学習を行えば、多様な表現の可能性を知ること、自 なりの表現に気づくこと、表現の幅を広げることが起こり、美術の学習を充実させることができる であろう』という仮説を立て、その「手立て」として5 で実践に取り組んだ。 b) 本年度の成果と課題 成果としては、協調学習によって鑑賞領域と同様に表現領域においても主体的な学びが生み出せた こと、協調学習によって作品に具体的な変容が見られたことが挙げられる。表現領域における主体的 な学びは、エキスパート活動で注目した具体的な素材や表現のための技法をどこにどのように活用す るかの場面で見ることができた。富士見高 の矢嶋教諭は、修学旅行のビジュアルブックの制作で、 本の構成要素を「装丁」「紙面構成」「素材」の具体物を ってエキスパート活動を行い生徒の主体的 な学びを見事に生み出すのに成功した。これは造形言語も言語と同じように扱うことができる一例と えることができる。作品の具体的な変容は、ジグソー活動によって多様な表現や自 より明確にする活動の結果として見ることができた。大宮光陵高 の岩崎教諭は、 なりの表現を 筆デッサンによ る「空間」の表現方法を、「モチーフのきわ」「モチーフが台にうつす陰影」「表面の質感表現」で し、自 の表現にとって必要なことを話し合うジグソー活動を行い自 にすることに成功した。ややもすると表現の意図や て、視点を持って対象と対峙したり、対象に自 析 の納得のいくデッサンを明確 いたい技法が混沌としてしまう表現活動にとっ との関係の中で接したりすることは、極めて重要な 59 平成23年度活動報告書 第2集 ことを示していると 課題として えることができる。 えられるのは次の3つである。 ⅰ) 今までの研究を含む協調学習の具体的な取組と成果を積極的に 開・発信し、美術教育の充実と 発展を目指すこと ⅱ) しっかりと思 力・判断力・表現力等が働いているかを見極めた協調学習を行うこと ⅲ) 協調学習を活用して美術教育の本質を明確にする検討を広く行っていくこと 協調学習は、美術の指導の核である「発想や構想の能力」「 造的な技能」の育成に具体的な学習方 法を示す優れた学習方法であることがわかった。協調学習に取り組むことよって、美術の指導がよ り効果的になり充実するために、今後も取組を続ける必要がある。 ⑧ 家 科の取組及び成果と課題 埼玉県立 合教育センター 指導主事 永田 祐子 a) 本年度(1年目)の取組 家 科は、本年度から協調学習の手法を活用した授業づくりの試みをスタートした。男子 科からなる専門高 、普通科の共学 の3 から各1名の研究推進委員が、それぞれの学 、多学 の特色と生 徒の実態を踏まえながら研究を進めた。一人ひとりの理解の仕方の多様性を活かすことで、深い納得 を求めて自 の え方が明確になり、充実した活動が可能になるという協調学習の の学習にどう活かせるか。家 技術、ものの え方を、家 科 科は生活そのものを取り扱う教科であるだけに、生きるための知識や え方など学ぶ内容は多い。人間の生涯にわたる発達と生活の営みを 男女が協力して主体的に家 や地域の生活を 合的にとらえ、 造する能力と態度を育成するために「協調的な学び」 を効果的に取り入れることは大変意味深いところであり、研究推進委員も意欲的に取り組んだ。 ◆作成教材の具体例:食物 保育 b) 本年度の家 野…「中国料理の食文化」 野…「子育てを える」「子どもにとっての遊びの意義」 科の成果と課題 ⅰ) 成果 家 報 科においては、学 に1人しか教員がいないといういわゆる1人配置 が多く、研究会などの情 換の中から授業づくりのヒントを得ることが多い。この研究において、教材を検討する中で CoREFの先生方も えて、複数の教員による教材開発ができたことは大きな成果といえる。また、生 活に関することを、言葉と実感を伴って理解するという教科の特性から、協調的な学習の流れを明確 化することが、授業の深化につながることはいうまでもない。生徒は、ジグソー活動やエキスパート 活動を通じて実践的・体験的な学びと言語活動の充実が図られたことが窺える。グループのメンバー 構成により、知識や体験などの経験値が違う状況で、自 自 自身の知識や思 したことを発表するなど、 なりの理解力を育てられる学習環境に導く方向性を見出すことができた。 ⅱ) 課題 教科ラウンドテーブルにおいては様々な前向きな意見が出される中、2点課題が挙げられた。まず、 1点目として授業時間数が少ない科目(家 基礎2単位等)においては、教材の選定、効果的に取り入 れるための授業計画(年間計画を含む)、そしてテーマ設定が重要となるということである。2点目と して生徒が授業形態に慣れていないことで戸惑いも見られるため、エキスパート活動での「答えを出 すための部品」を えやすいものにする必要があるということである。協調学習として、自ら思 し 相互に理解を深めることで、グローバルな視点から課題解決に向けた活発な学びが生まれることを期 60 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 待したい。 本年度、家 科は仲間との関わり合いを中心とした授業をスタートした。これからも様々な形で 「学 びの過程」を明らかにしていくことを目指し、教材研究における「教師の協調学習」の実践を積み重 ねていきたい。 4. 社会人・産業界との授業改善連携 (1)連携事業の概要 本節では、この2年間でCoREFが進めてきた社会人・産業界と連携し工学 野を中心とした様々な 野の社会人プロの専門性を教育現場に活かすための試みについて報告する。CoREFでは、教育委員会、 学 現場との研究連携である「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」のネッ トワークを活かしながら、教育支援を目指す社会人・産業界のコミュニティと学 現場とを相互に緩 やかに結びつけるような形で連携のあり方を模索している。 こういった連携の経緯は、そもそも大学発教育支援コンソーシアムが設立された際、その一つの目 的として、「社会人シニアによる学 現場の活性化と支援」が挙げられていたことによる。昨年度、産 学フォーラム内に「社会人教員化研究会」を設けて頂き、企業トップの方々とも検討を重ねた結果、 当面は、直接社会人シニアを学 現場に送りこむためのプログラムを作るのではなく、新しい学びを 可能にする教材作りを支援するネットワークを構成することを目的に、より実効力のある活動を開始 した。今年度この 野での主な連携団体は、日本産学フォーラム、日本機械学会、日立理科クラブ、 日本技術士会である。 日本産学フォーラムには、昨年度から新しい学びプロジェクトに後援をいただいている他、教育評 価等様々な 野で新しい学習のあり方に興味を持つ専門社会人とのつながりをコーディネイトしてい ただいている。 日本機械学会とは、昨年度から教育支援コーディネータの養成を柱として、学会シニアの3名の方を 中心に協調学習を中心とした授業改善に学会シニアの専門性を活用する方途を共に探っている。今年 度は、学会シニアの方にも知識構成型ジグソー法の教材を作成いただき、その経験と開発教材を持っ て「新しい学びプロジェクト」、「県立高 た。学 現場で「 学力向上基盤形成事業」の研修や検証授業に参加いただい える」教材を開発するためのハードルは依然高いが、教員との協同の可能性は様々 な形で見え始めている。「新しい学びプロジェクト」では、中学 理科の研究推進員が、学会シニアの 作成した「摩擦」の教材から示唆を受け、仕事の単元で摩擦の実験を中心とした教材を開発している。 摩擦の測定法などの技術的な面での解説が参 になったという。今後は、研究推進(委)員が開発した 教材のフォローアップ(データ、関連実験実技の提供)を行ったり、教員向けのワークショップを開 催し、社会人開発教材を体験してもらうといった形で活動の展開を予定している。こうした関わりの 先には、教員の目線から現場に参画してもらえる社会人の資格認定といった構想も射程に入れている。 日立理科クラブには、従来同クラブが取り組んできた理科教育支援を発展させる一つの可能性とし て、中学生を対象にシニアが講師として発展的な理数教育を行う理数アカデミーで知識構成型ジグ ソー法の え方を活用した展開を取り入れていただきつつある。年度当初に同アカデミーの講師を対 象に「新しい学びプロジェクト」で開発された教材を体験いただくワークショップを行っていただき、 その後CoREFと講師の方が共同で開発した教材や「新しい学びプロジェクト」開発教材を中学生対象 に実践していただいている。実際取り組んでみた講師の方からは、これまで説明中心に行って来た授 61 平成23年度活動報告書 第2集 業とはことなる子どもたちの反応を得て、手応えを感じるなどのコメントを頂いている。 また、日本技術士会では、新たに理科教育支援のための「わくわく理科教育の会」を発足させ、協 調学習の教材開発をひとつの研究の柱としてご検討いただいている。スタートアップとして、協調学 習についてのレクチャー、知識構成型ジグソー法を用いた授業の体験や授業ビデオの紹介、教材検討 で構成されるワークショップを体験いただいた。これら一連の活動について、CoREFと産業界を連携 する様々な活動のコーディネイト役として、日立ソフトウェアエンジニアリング㈱、㈱日立ソリュー ションズでの教育センタ部勤務を経て現在㈱シーオーシー情報システム部担当部長である神部美夫氏 に協力研究員をお願いしている。 また、社会人教員化について実態を伴う試みとして、平成23年度4月より、日立理科クラブならびに 日本技術士会推薦の四宮文人氏に、埼玉県教育委員会を経て埼玉県立大宮高等学 て勤務頂き、「 に非常勤講師とし 合的な学習の時間」に普通科2年生23名(希望者)への1回90 の授業を14回開催して 頂いた。テーマは、「将来のスマートシティへの期待と夢:スマートシティを支えるICT」というもの で、内容としてはかなり高度だが、受講生は大変熱心に楽しんで受講しているとのご報告を受けてい る。このような試みについては、今後も連携を強め、教育委員会と学 現場、また社会人の方々それ ぞれの要望を慎重に見極めつつ積極的に進めて行きたい。 (2)連携の経緯と進展 CoREF協力研究員 ① 社会人の学 神部 美夫 教育参画の経緯 平成21年5月、日本産学フォーラムの「社会人教育養成研究会」で日本技術士会元副会長の永田一良 氏に随伴した際の議論が思い起こされる。冒頭小原 日本産学フォーラム事務局長を通じて「教育は 理念ばかりでなくアクションを話すべき」「現場の意見を聞いて、企業を巻き込む」という小宮山宏代 表からのメッセージが伝えられた。 教育現場の多様化に対応するための手段として、技術系社会人を理科教員、海外駐在経験者を語学 系・社会科系教員として、学 教育現場に参画してほしい。将来的には企業人事部門を巻き込み社会 人教員の安定的人材供給を図る。学 関係者、官庁、NPO、経済界、学会などと連携を図る。」 このメッセージを受けて永田氏から、社会人シニア、つまり企業で管理職にある社会人や、退職後 の技術者等の活用が提案された。 「彼らは時間と熱意はあるが、教育のプロではない。資格認定制度の 整備と、系統だった教育教材、人材マップが必要である。」このように始まった「社会人の学 教育参 画」に関するプロジェクトを、社会人技術者の立場から推進補助するため、平成21年11月より、CoREF 協力研究員として参加している。 小宮山氏が目指す「教育現場の多様化」の実現のためには、学 現場の教育スタイル自体を変える 必要がある。今までは「答えは一つ、皆が同じことを言えるようにするのがゴール」だった。これを、 多様性を生むための「新しい学びのプロセス」に変えるには、ゴールの先にある「イノベーション」 のための学びの力を身につける必要がある。現場の先生からは「どうしたらいいんだ」という声が聞 こえるようであるが、ここに協調学習の理論と方法及び社会人の力が必要となるのである。 ② 新たな学びの気付き 協調学習では、生徒の学習能力の発芽、急成長、開花ともいえる学習能力の飛躍的向上が感じられ る。相転移、臨界と言った表現がピッタリする事象が教室の目の前で起こり始める。教師はそれを 「輝 62 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 き」と見るのだろう。協調学習を通じ、生徒たちの経験と、別に習った原理原則が結びつき、その瞬 間に「 かった 」の喜びを感じる。協調学習は従来の学習とは異なり、自由裁量と学習への興味に よって、教師や 母の期待値を超す集中力、情報収集力、探究心を呼び起こすため、学習能力向上が 期待される。学 現場の授業を「 かった 」が系統的に発現する学習プロセスに変えてゆくことが、 前述のイノベーションのための学びの力につながるに違いない。 しかしながら、いささかハードルが高く感じられるのは、協調学習の教材作成にあたり、教師は学 習テーマについて本質的に理解する必要があるところである。特に理数科目においては、最新の理論、 具体例は常に 新されており、教師がそれにアクセスすることは難しい場合も多い。 この点に、社会人シニアの活躍の場を見る。社会人として得た様々な理工学の原理を活用し、経験 を通して身に着けた成果を協調学習の教材(コンテンツ)作成に活かすことができるのではないか。 このことで、協調学習に取り組む教師の負荷を軽減できる。このためには、社会人が教員として現場 での教育並びに教育支援に携わるための研修を、教材開発と実践評価の両面から具体的に推進するこ とが必要である。 もう1つの期待は、様々なシチュエーションで、様々なリスクをマネジメントしながら、あらゆる可 能性の中から有効な選択肢を決断して行く知恵、つまりプロジェクトマネジメント力の活用である。 プロジェクトマネジメントの経験は社会人の優れたスキルのひとつである。これにより、協調学習が 従来の講義型授業に比較して、学力や動機づけ,学習能力向上をもたらす仕組みとプロセスを明らか にすることができるのではないか。それには、協調学習の効果と測定(指標と測定方法)及び測定結 果の評価方法・評価手順を検討し、実績を把握して次の教材開発や実践に繋げるための方策を明らか にすることで実現できるだろう。社会人による教育支援プロジェクトのマネジメントで肝要な点を以 下に列記する。⑴顧客(生徒や 母)を学習に巻き込む、⑵学習テーマを明確にする、⑶現実的な期 待を持つ、⑷適切な授業計画を立てる、⑸トップのサポート、の5点である。今後この点の整理実現を 図っていきたい。 ③ 社会人による協調学習を目指した授業づくり支援 社会人による協調学習向け教材(コンテンツ)作成および授業実践の支援活動は、緒に就いたばか りに見える。シニア技術者による実験を主体にした出前授業は、提供者の熱意と や 母に根強い支持がある。日常のありふれたものの中に、 意工夫により生徒 えたことのない新鮮な現象を目の当た りにし、自然現象に対する興味と探究心を呼び覚ます。その中で定着し継続している授業の技術的な 完成度は高い。これらは1回完結型なのが特徴であった。こうした授業を一貫して提供し、又は学 現 場の状況に応じて選択可能にしたのが、日立理科クラブで提案された保有教材の学習指導要領への マッピングである。これにより、社会人の高度な技術と学 社会人の持つ先端技術と学 現場の学習体系を俯瞰することに成功し、 現場の学習体系に共通の認識を提供することになった。その結果、学習 テーマと実験教材の関係性を明確にできたが、社会人の(実験)教材をどのように適用し、継続的に 活用してゆくかが次のテーマに浮上した。 上記のマップは、なだらかな丘陵地に切り立った孤立峰が点在する風景を上空から撮影した衛星写 真に例えられる。そこで大雨が降れば山の予測不能な場所から、落差が大きな滝が麓に衝撃を与える ことになる。滝を高所から俯瞰すると、滝の構造が見える。滝の上に深くて広大な池や湖が見える。 この湖が上流からの濁流や激しい水流をコントロールして澄んだ水を一定量滝に供給している。滝の 注ぎ口は大雨の時も普通の時も変わることはない。そして滝の水が一気に落ち込むところに滝壺があ 63 平成23年度活動報告書 第2集 る。落差100mを超える滝でも、深く掘り下げられた滝壺で大きな運動エネルギーを吸収していること が かる。 社会人のコーディネータの役割がここにある。社会人の持つ高度な最先端製品の開発技術を一旦受 け止め整理し、決められた方向の受け口に一気に落とし込む。また、受け口に落とし込まれた水(科 学技術情報)を懐深く受け止め、エネルギーを吸収した後、下流にきれいな水を適切な量にコントロー ルして流すこともできる。社会人の持つ先端技術を学 とさずにまとめ、かつそれ直接受け止めて学 現場に展開するには、先端技術をレベルを落 現場に供給する受け皿が必要で、その双方を社会人コー ディネータが担うことになる。 協調学習を実施するにあたって、学習テーマにそった授業案、教材の設計・制作がある。これらは、 「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」で学 現場の先生が経験と実績を積 上げて来た。今後社会人コーディネータが、協調学習の教材作成に貢献する一つの方策として、企業 OBが経験と技術力を活かし、最先端技術を速やかにかつ技術的にギャップの少ない学習情報として整 理体系化して、教師・生徒の興味を引く点について調査・研究及び参 らに関連情報のデータベース化に尽力することを提案する。学 ディネータと情報 文献などをそろえること、さ 現場の先生が主体になり、社会人コー 流しながら協調学習の計画を練り、実施し、効果を測定し、フィードバックする ことにより、協調学習の研究連携の輪が広がるだろう。 ④ 今後の展望 平成23年12月18日に開催されたCoREFの第4回シンポジウムの第2部では、下記の団体が取組をポス ター展示した。各ブースでは活発な議論があった。社会人との協力の輪が広く、また深まった。下記 に紹介する。 ・ 科学技術人材育成コンソーシアム:理工系学会のコンソーシアムによる人材育成支援 ・ 益社団法人日本技術士会:小学生や市民への理科・科学技術の普及活動、メロディーの小箱、 電気の玉手箱 ・ 一般社団法人日本機械学会:小中高等学 ・ 社団法人電気学会:理科教育支援活動の紹介および実験機器の展示 小中学 への教育支援の取組の概要をポスター展示 等での理科教育支援活動の概要、実験機材の展示、実験方法説明 ・ 株式会社 キャリアリンク:企業が実践している教育支援活動について展示 ・ NPO法人日立理科クラブ:企業OBによる小・中学 への理科教育支援の取組 独自開発した実験教材の展示・説明 このように、多くの団体や企業が、教育支援の取組に前向きである。中には、すぐれた「社会人教 師」となる素質を持つ方もおられるだろう。学 教育の力になりたい、と願う社会人の方々が、一人 でも多く教育現場に参画できるよう尽力したい。 (3)日本機械学会 日本機械学会 当学会では小中高等学 矢田 恒二 の教育支援として、本部、支部・部門、学生会、イノベーションセンター (学会本部組織)などを活動主体とした多面的な取組を行っている。その中で、イノベーションセン ター事業の一つとして、主として企業退職者(シニア人材)の活躍の場として次の2形態を想定した活 動を行っている。 64 第2章 教育委員会や社会人と推進機構との連携 ① 企業からの技術相談に対するアドバイス或いはアドバイザの派遣、 ② 新入社員の教育或いは、企業の新規事業対応のための社員向け再教育を目的とした講師派遣や 出前講座 CoREFに対する機械学会の取組は上記、②の活動の一環として位置づけている。平成23年度の取組 は其の前年(平成22年)末に東大三宅教授からのご相談に対する対応から始まった。 当学会が最初にご相談を受けたのは平成22年の年末であったが、CoREF活動が当学会の活動目的と 整合すると判断し、CoREFの概要を紹介することと併せてシニア人材を対象とした希望者の募集を 行った結果、3人の応募者があった。そこでこのメンバーを中心にCoREF活動に参加することにして、 CoREF側と当学会の間での第1回の打ち合わせ会を平成22年12月に行った。その後そこでの打ち合わ せ内容と、応募者各自が対応できる それぞれが 野について学会内ですり合わせを行い、それをベースにして、 える理科教材の提案を作ることにした。ここでの え方として、できるだけ身近な現象 を取り上げ、具体的な課題によって力学現象の本質を理解できるような内容にすることとした。 このようにして提案された内容は次の通りであった。 ・ゴム、摩擦、力学エネルギー、エネルギー変換と効率、質量と重さ、ニュートン力学法則 この提案を土台にしてCoREFとの間で平成23年4月に打ち合わせ会を行い、提案の問題点を議論し た。CoREF側からは好意的な意見を頂いたが、提案内容をもう少し具体的なものにする必要があると の意見に従い再提案をすることにした。また提案側の意見としては対象学年をどこに 時点では るかは、提案 えていないので、教育現場を見学する必要が有ることを理解した。 以上の結果を元に提案課題をブラッシュアップしたものを改めて提案した。それと共に実践現場の 見学と体験をするために、CoREFの活動に手 けして参加した。その中での感想の一部を次に記す。 ・ジグソー教材には、教育というより、想像力をかきたてる題材が良いと感じた。 ・現業の先生の中には理科室で協調学習をするための手がかりがなく、悩んでおられた例が見受けら れたが、機械学会としてこの点にテーマがあるのではないかと感じた。 ・協調学習によりこれまでの教育上のどの様な問題点が改善されているのか、どの様なことを、どの 様なレベルまで改善しようとしているのかが かると、関係者による学 教育の質向上活動へのベ クトルを合わせ易いと思う。 ・協調学習の準備にはそれなりに時間がかかると思われたが、個別の作業ではなく関係者が知恵を出 し合うかたちでの支援がより効果的と思われた。 (4)NPO法人日立理科クラブ ―「理数アカデミー」訪問記― CoREF協力研究員 ① 神部 美夫 日立理科クラブの設立経緯と取組 日立理科クラブは、日立製作所が支援し日立市との全面連携協力により、平成21年5月に設立された NPO法人である。約100人の日立グループOBで構成され、博士、技術士、モノづくりのエンジニア、 優れた特殊技能をもつシニアエンジニアが活動をしている。彼らが培ってきた経験・技術を子どもた ちに伝え、「科学する喜び」「モノを る感動」を体験してもらうなど、全国的に類を見ない活動を展 開しており、関係者から注目されている。 日立理科クラブに脈々と流れる理科教育への熱意は、「モノづくりへの熱意」に通じている。小学生 当時の恩師、両親の思い、隣人との絆、そして並3球真空管ラジオからの音。それらが、その後の人生 65 平成23年度活動報告書 第2集 を導いたと佐藤一男代表理事は話す。すでに日立市では「ひまわり」という団体が子ども教育に取り 組んでおり、ひまわりのメンバーからも、次々にアイデアが生みだされ、実践された。シニアエンジ ニアは「これぞ我が人生の極み」とばかり、水を得た魚のごとく活動した。次第に生徒へと熱意が伝 わり、絆ができ、活躍の場がさらに広がって日立理科クラブの 生となるのである。その陰には、日 立市長・教育長を中心とした、教育行政サイドの協力があった。教育現場との調整や日立理科クラブ の展開について、細部にわたる連携がなされたことは、日立という風土ならではと言えるだろう。 以下に、日立理科クラブの主な活動内容を紹介する。 1)理科室のおじさん:全小学 (25 )で理科実験の準備補助や子どもたちの相談相手 2)授業支援:手作りで親しみやすい子どもの目線に立った教材で基礎体験学習 3)理数アカデミー:関心の高い中学生を対象とする理数アカデミー 4)モノづくり工房:モノづくり体験で「科学の面白さ」「モノを作る楽しさ」を知る 5)科学ふしぎ発見教室:理科の面白さをロボットや水ロケット競技を通して体験する 6)地域科学教室:地域のイベント、祭典などの行事に参加し、科学を身近に触れる ② 理数アカデミー」参観 平成23年10月16日、JR日立駅に降りた。日立理科クラブの授業を参観するため、駅前のよく整備さ れた大通りを10 ほど歩き日立市教育プラザの日立理科クラブに着いた。 今回、3)の中学生対象の選抜クラス「理数アカデミー」で中学 3年の理科の授業を参観した。休 日にも係らず教育委員会の方も授業参観されていた。 題材はエネルギーで、 「エネルギーには様々なものがあり、それらがどのように変換され、私たちが 利用可能で安定したエネルギーとして われるようになるのか」を学ぶことが授業のねらいであった。 シニア講師たちは、「新しい学びプロジェクト」で開発された理科の知識構成型ジグソー法の教材をア レンジし、身近な電磁調理器を一部 解したものなどのオリジナルの実験教材を併せて用いることで、 体験を通して子どもたちの興味を誘い、さらに深い科学への関心に導いていた。 理数アカデミー」では、CoREFとのディスカッションを通じたオリジナルの教材づくり、実践にも 着手し始めている。今後、協調学習を目指した授業の開発、実践における協同が進むことになれば、 子どもたちに、様々な場所で に質の高い科学的探究を提供することが可能になるのではないだろう か。 このユニークで実践的な活動を繰り広げている日立理科クラブの方々とは、今後緩やかな形ではあ るが、協調学習の模擬授業、有効性の評価について情報 流等の場を設けて行きたいと える。 日立理科クラブの発展と、企業OBと地方自治体の連携における実践的理科教育発展を祈念するとと もに、協調学習における連携を粘り強く呼びかけたい。 66 第3章 写真 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 埼玉県立戸田翔陽高等学 での授業の様子 第1節 知識構成型ジグソー法の授業デザイン 第2節 小中学 第3節 高 での実践― 「新しい学びプロジェクト」― での実践― 「県立高 学力向上基盤形成事業」― 平成23年度活動報告書 第3章 第2集 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 本章では、「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」の2つの研究連携事業に おいて、研究推進(委)員 とCoREFが協同で研究してきた協調学習を引き起こす授業のデザインにつ いて報告する。第1節で2つの連携において授業づくりの基本的な枠組みとして採用している知識構成 型ジグソー法について概説した後、第2節では「新しい学びプロジェクト」研究推進員による小中学 における協調学習の授業づくりの成果と課題のまとめ及び協調学習を引き起こすためにデザインされ た知識構成型ジグソー法の教材のリストを紹介し、第3節では同じく「県立高 研究推進委員による高 学力向上基盤形成事業」 における知識構成型ジグソー法の教材のリストを紹介する。 私たちが知識構成型ジグソー法という枠組みに基づいてどのように協調的な学習を引き起こそうと しているのか。その原理を実際に多様な年齢の子ども、教科で具体化したときどのようなデザインが 可能になるのか。協調学習実践に興味を持って下さっている先生方の授業デザインのヒントになれば 幸いである。 1. 知識構成型ジグソー法の授業デザイン (1)知識構成型ジグソー法が協調学習を引き起こす原理 協調的な学習そのものは教室の内外で自然に発生し得る。学 課題について 生活や職場、趣味の場等で、当面の えの異なる誰かと相談することでひとまず納得いく答えを持つことができた、自 が 相手に何かを教えてあげる立場になったとき、相手のわからなさに真面目につき合っているうちに自 の理解の方が深まった、こんな経験は誰にでもあるのではないか。学習科学研究では、幼稚園から 大人まで自然発生的な協調学習がうまく起きた事例を題材に、そこでの学習活動を 析してきた。そ れらの研究成果 をもとに、協調学習がうまく起きる場にどんな特徴があるのかを抽出すると、次のよ うなことが見えてくる。 (特徴1)参加者が共通して「答えを出したい問い」を持っている (特徴2)問いへの答えを、一人ひとりが、少しずつ違う形で最初から持てる (特徴3) 一人ひとりのアイディアを 換し合う場がある、言い換えれば、みんな自 の言いたいこと があって、それが言える (特徴4) 参加者は、いろいろなメンバーから出てくる多様なアイディアをまとめあげると「答えを出 したい問い」への答えに近づくはずだ、という期待を持っている (特徴5) 話し合いなどで多様なアイディアを統合すると、一人ひとり、自 にとって最初 えていた のより確かだと感じられる答えに到達できる (特徴6)到達した答えを発表し合って検討すると、自 なりに納得できる答えが得られる (特徴7)納得してみると、次に何がわからないか、何を知りたいか、が見えてくる この7つの特徴を備えた場を教室の中に作りだしてあげるための一つの仕掛けが、私たちが枠組みと 「県立高 学力向上基盤形成事業」では研究推進 研究推進を担当する教員を、 新しい学びプロジェクト」では研究推進員、 委員と呼称している。本報告書では、この二者を同時に示す場合、 「研究推進(委)員」という表記を用いることとする。 学習科学における先行研究の知見をまとめたものとしては、佐伯胖監修、渡部信一編(2010) 『 「学び」の認知科学事典』大 修館書店、S.Vosniadou.ed.、 2008、 International Handbook of Research on Conceptual Change、 Routledgeなどが詳 しい。 68 第3章 して採用している 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 知識構成型ジグソー法> である。学習者は問いに答えるのに必要な部品をいくつ か、グループごとに担当して理解し、次に各部品担当者が一人ずつ集まって新しいグループを作りそ こで部品を 換統合して答えを出す。この基本形で上記の特徴をどう作り出そうとしているか、活動 の流れを追いながら概説しよう。 知識構成型ジグソー法は、学習者に課題として共有された「解くべき問い」を中心とした授業デザ インである(特徴1)。活動に入る前に、その課題に対する現在の えを引き出すため、授業の早い段 階で「解くべき問い」について「今、どんな答えを思いつくか」を書いてもらう(特徴2)。何も教わっ てない状態で何が書けるのか懸念されるかもしれないが、大抵はみな何か書く。また、もし「なにも 書かない」子どもがいたとしても、それは必ずしも何も えを持っていないとは限らない。同時にこ の活動には、課題の共有をより確かなものにする効果が見込めることも重要である。 次いで、子どもたちに、「資料」を を求める。この活動を 担して担当し、その内容を他人に説明できるよう理解すること エキスパート活動> と呼んでいる。エキスパート活動では、「解くべき問い」 の解決に際して、各自が異なるカギを持っている状態を作る。これによって、問いの解決について、 一人ひとりに言いたいことがあり、また一人ひとりが何かを言える状況を準備する(特徴3)。 準備ができたら、それぞれのエキスパート活動を行った学習者がひとりずつ集まって新しいグルー プを作り、今「資料」で準備した部品を出し合って組合せ、話し合って、はじめに共有した問いに答 えを出す。これを ジグソー活動> と呼ぶ。この活動は、ジグソーという名の通り 知識構成型ジグ ソー法>の核である。グループのメンバーが、 「資料の数だけ人が集まると、最初の問いに答えが出る」 という期待を共有しながら、エキスパート活動で学習した部品を出し合い、活用し合うことが活動の ポイントとなる(特徴4)。 ここまでのプロセスがうまくいけば、ジグソー活動の過程での個々の学習者は、各自が課題遂行者 やモニター役をこなしつつ多様なアイディアを統合し、エキスパート活動で学習したことや授業前に 持っていた知識を修正して、より納得できる答えを作りだしていくことができる(特徴5)。もちろん、 これは必ずしも正解とは限らないが、授業前の えよりも質が高くなっているし、この答えの質をさ らに上げていく機会はまだたくさんある。 ジグソー活動の後、それぞれのジグソー活動グループから当面出てきた答えと、なぜそう を発表してもらう。この活動を 的に吟味され、各自が自 えたか、 クロストーク> と呼ぶ。クロストークでは、クラス全体で解が協調 なりに納得のいく答えを獲得する機会を保障しようとしている(特徴6) 。 クロストークの活動そのものは一般的な教室での意見の発表と大差ないが、ここまでのプロセスを経 て一人ひとりが自 なりの えを深めている場合、学習者個人の中で起こる出来事は一般的な発表と ずいぶん異なるようである。実際に授業を行ってみると、クロストークの場では、周りの大人には 「ほ とんど同じ」に聞こえる各グループの発表内容に熱心に耳を傾け、「なるほど」などと話し合う生徒の 姿がしばしば見られる。同じ課題についての他者の多様な説明を聞くことで、自 として言葉にならなかった部 の言語化が助けられたりしながら、 の えのもやもや えが洗練されていく。 さらに、授業後に教師の周りに集まって新たな疑問をぶつけたり、グループで主題について発展的 な話し合いをしたりする様子も珍しくない。知識構成型ジグソー法による一連の活動は、次の学習へ のきっかけを生む点でも有効に機能しうる(特徴7)。 69 平成23年度活動報告書 第2集 (2)知識構成型ジグソー法の授業をデザインする 以上、知識構成型ジグソー法を枠組みとして協調学習を引き起こす基本的な仕組みについて概観し た。この枠組みに基づいて実際に授業をデザインする際にポイントとなるのはどのような点なのか。 これまでの教材開発の経験から ① かってきたことを紹介したい。 授業の柱となる「答えを出してほしい課題」を設定する 知識構成型ジグソー法の授業をデザインする際に出発点となるのは、その授業のゴールとして、 「こ の課題に、このように(例えば「○○というキーワードを中心に」、「○○と●●の観点をおさえて」 ) 説明したり、表現できたりしてほしい」という視点を定めることである。知識構成型ジグソー法の学 習活動の柱になるのは、 参加者が共通して答えを出したい「解くべき問い」> の課題解決である。こ の「解くべき問い」は、実際にはそれぞれの資料活動から学んだことを「組み合わせる」ジグソー活 動で取り組む課題ということになる。教材開発者の目線からすると、このジグソーの課題は、 授業の 最後に一人ひとりが自 の言葉で、ひとつのストーリーとして説明できるようになっていて欲しい 「答 えを出してほしい課題」> になり、そこが授業づくりの出発点になるわけである。 もしこの問いが十 練られていない漠然とした問いであったとすれば、子どもたちが受け取る「解 くべき問い」が不明瞭になったり、問いのイメージがばらばらになり、その後の協調的な学習の妨げ となってしまう。課題を伝える発問の精選も重要なポイントである。 「三大和歌集」を題材とした高 1年生の古典の授業を例にすると、教師は、三大和歌集の特徴を歌 集に収められた和歌の作風の違いから理解させることをねらい、「三大和歌集の特徴は何か」を「解く べき問い」(=「答えを出してほしい課題」)として設定した。もしこの課題が「和歌の特徴を理解し、 日本の文化に親しむ」といった漠然としたものであったならば、学習者は何が「解くべき問い」かを はっきりとイメージできないだろう。 またこの「答えを出してほしい課題」は、その授業における子どもたちの学びを測る軸にもなる。 課題に対する授業前後での子どもたちの答えの変化が、「子どもたちがその時間に学んだこと」を端的 に示すことになるからである。授業の前後で同じ課題に対する回答を書き留めておいてもらうことに は、協調学習を引き起こすための仕組みとして、 課題の共有を助け>、 学習者が課題についての を持つことを促し>、 一人ひとりの え えの変化を明らかにする>という3つの重要な側面での効果が見 込めると言える。 ② 部品(エキスパート資料の題材)となる知識を決め、資料をつくる。 柱となる課題が決まったら、次はその課題に答えを出すためにどのような知識が必要かを えるこ とになる。それらの知識を組み合わせたり解体したりして、 柱となる課題に答えを出すための部品と なる知識(エキスパート資料の題材)> を決める。「三大和歌集」の授業では、エキスパート活動とし て、『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』を担当する班に ていると かれ、各歌集の作風の特徴がよく表れ えられる恋の歌2首について、「現代語訳を作る」、「述べられている心情を想像する」、 「用 いられている表現技法とその効果を検討する」という活動を行った。違う歌集に収められた同じテー マの歌を同じ方法で鑑賞することによって、後から各歌集の作風の違いに焦点をあてやすくなること が資料設定のねらいである。 資料の難易度の設定について、すべての子どもがエキスパート活動中に自 のエキスパート資料を 100%理解する必要はない。ポイントは、どの子どもも資料からなんとなく自 の「言いたいこと」が 持てることである。ある程度「言いたいこと」を持っていれば、それが例え「ここが 70 からなかった」 第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン ということであっても、ジグソーグループで協調的な学習が引き起こされる契機となりうる。 「三大和 歌集」でも、最も難解だった『新古今和歌集』の歌の解釈についてジグソーグループで議論が起こっ たことが、課題に対するグループの説明を深化させるきっかけになった。また、ジグソーでストーリー の全体像が見えてくることによって、個別の資料の理解が後から深まることもしばしば起こることで ある。 このエキスパート資料を準備する時に最も重要なことは、 それぞれの部品を合わせれば、柱となる 課題に答えが出せるかどうか>、逆に それぞれの部品を集めて初めて、課題についてあるストーリー がはっきりと見えてくるかどうか> をしっかり確かめておくことである。場合によっては、資料に合 わせて課題やねらいを調整することもありうる。 ③ 子どもの学習をシミュレートする 課題と資料が決まったら、「導入」「エキスパート活動」「ジグソー活動」「クロストーク」など、そ れぞれの場面にどのくらいの時間を割り当てるか、どんな言葉かけをして、どんな作業をしてもらう かなどを えることになる。その際重要なのは、子どもにどのような認識を持ってその活動に取り組 んでほしいか、どのような発問、声かけをすればそれが子どもに伝わるかを意識することである。こ れは課題や資料についても同様である。 ジグソー法を用いた授業を初めて試してみる場合なら、授業の最初に、柱となる課題を共有し、 「そ れぞれがエキスパートで勉強してくることは、この課題を解決するためのパーツになる(あわせて初 めて答えが出る)」ことを確認することや、エキスパート活動では「次のグループでこの資料について 知っているのは自 だけ」であるとともに、「問いに答えを出すのにみんなの担当部品が不可欠」であ ることを意識させることはまずポイントになってくるだろう。 知識構成型のジグソー法は、協調学習を通じて一人ひとりが自 なりの道筋で え、自 なりに理 解を深化させることを支援することを目的とした枠組みである。個別具体の子どもに焦点化して、こ の発問にこの子ならどう えるか、このグループではどんな相互作用を見せそうか、具体的にシミュ レートしてみることはどのような授業形式においても有効な方法である。特に知識構成型ジグソー法 の枠組みを用いる場合、このようなシミュレーションを行うことによって、協調的な学習を引き起こ すための授業デザインの洗練が可能になると同時に、シミュレーションした予想との比較から授業中 の子どもの学習の事実をより深くとらえ、その事実から学ぶことで授業デザインを省察し、継続的な 授業改善を行っていくことが期待できる。 2. 小中学 での実践―「新しい学びプロジェクト」― 本節では、「新しい学びプロジェクト」で研究推進員が取り組んだ協調学習を引き起こす授業づくり の成果物を紹介する。次ページ以降の第1項では、今年度研究推進員が教科ごとにまとめた知識構成 型ジグソー法を用いて協調学習を引き起こす授業づくりの成果と課題を収録した。続く第2項では、2 年間の研究連携において「新しい学びプロジェクト」研究推進員が作成した知識構成型ジグソー法を 用いた教材のリストを掲載する。 掲載した教材は、平成22年度開発 が国語4、数学3、理科4、社会3の計14教材、平成23年度開発 が国語12、算数13、数学4、理科8、社会10の計47教材、 計61教材である。これ以外にも実践例はあ るが、原則としてCoREFが直接あるいは映像で参観したもの、教材開発に携わったものを中心に、必 要なデータがそろっている教材を収録した。 71 平成23年度活動報告書 第2集 なお、リストに収録されている教材の授業案、実施教材(エキスパート資料、ワークシート等) 、実 践者の授業後コメントについては、本報告書付属のDVDに収録した。また、いくつかの教材では、実 際に授業で子どもが書いたものもあわせて収録している。 以下、教材リストの見方について説明する。 「教科・No」は本報告書における当該教材の識別番号である。「A」は「新しい学びプロジェクト」 、 「S」は「県立高 学力向上基盤形成事業」の開発教材をそれぞれ表している。また、百の位の数字「1」 は「平成22年度」、「2」は「平成23年度」の開発教材を表しており、下2ケタは原則実践順を示す教科 ごとの年度内の通し番号である。 「教材作成者」は教材を作成した研究推進(委)員の作成当時の所属、氏名であり、学年、単元も実 践当時のものである。中には複数の学年、単元で実践された教材もあるが、ここではオリジナルの教 材作成者による最初の実践時のデータのみ記載している。 「テーマ」は、CoREFが設定したその教材のタイトルである。 「ジグソー課題」はその授業の中心となるジグソーグループで取り組む課題であり、「期待する回答 の要素」はその課題に対して授業の最後に出してほしい答えの要素である。 「エキスパートABC」とあるのは、「ジグソー課題」に答えを出すための部品であり、それぞれの エキスパートグループがこの内容について 担して学んでくることになる。エキスパートの数は多く の教材で3つだが、2つのものや4つのものも存在する。 「所感」の欄には、実際の授業の様子や子どもの記述、アンケート結果についてのCoREFの所感及 び実践者の授業後の振り返りコメントからの抜粋が含まれる。 72 第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン (1)教科別授業づくりの成果と課題 平成23年度 新しい学びプロジェクト 「協調学習」研究の成果と課題【 国語科 】 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果> ○子どもたちの学習における成果 ・普段の話とは違う知的なもの(教材)を媒介に 【聞き合う学びの習慣づくり】 した話し合いを、小学 1年生でも求めている。 ・他の教科や日頃の生活でも「友達の ⇒逆に一斉の授業は、普段の話し合いのように えを聞 いてみる」という習慣が生かされる。 教材を媒介に話すことを難しくしている(「正解 ・普段の授業でも「なぜ を読み取らないと」)かもしれない。 」という疑問を持つ ようになってきた。 ・全員の参加を保障できる。主体的に参加させ ○教員の教材研究等における成果 たいという願いに合っている。 「ああそっか」 「私 【教材の見方の変化】 もこう思う」と自 ・文学教材の見方が変わった。このテキストは の立場を持って参加できる。 認め合うことでさらに参加が促進される。 子どもたちの読みに耐えられるのか。一斉で授 【協調による理解深化】 業する時もその目線で ・伝える方も聞く方も伝える意識・聞く意識が で、普段授業で扱うテキストも精選するように できてきている。共感的に聞ける。学習訓練じゃ なった。 なくて、必要感から聞ける(←他の人の視点を ・説明文でも 「説明文を教える」 のではなく、 「こ 知らなくて、新鮮)。そういった場を保障するこ れで何を学ばせるか」を えるようになった。 とができている。 ⇒ジグソーで授業を作ってみると「これで何を ⇒子ども同士の言葉の方が聞きあえる。グルー 教えるか」をいつも意識できるようになる。 プなら同じ話を何回も繰り返す。それがいろん ・読み解く⇒言語活動ではなく、言語活動を通 な学習進度の子にも自 じた読み解き。 なりの納得のタイミン えるようになったの ・教員も楽しく学べる。 グを与えている。 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題> ●子どもたちの学習における課題 の子が言うのが正しい」をつくってしまうと特 【協調活動のベース】 にそうなる。 ・活動に入る前に自 なりの ⇒回数を重ねるごとにみんなの えを持つことが ようになってくる。 大事。それがないと始まらない。 ・相手の言葉を聴く力、自 えをみられる の意見と比較する 力などの基礎が課題。 ●教員の教材研究等における課題 【話し合える教室づくり】 【学習支援の課題】 ・自 ・子ども一人ひとりの学習(どのくらい変わっ の意見を通したいという子が議論をリー ドしてしまい、自 たか)をみとるのが難しい。 の意見が採用されない不満 を持つ子がいる。 ・授業中どこまで支援をしてよいか迷う。 ・多数決の ・子どもたちを信用することが課題。 えで安易に流れるところがある。 ・板書をうまく これまでの学びの経験、学習組織づくりで「あ 73 う方法を えたい。 平成23年度活動報告書 第2集 【授業デザインの課題】 ・エキスパート・ジグソーを通じて過度に抽象 ・クロストークをどうやっていくか。評価の形。 化され、すっきりしすぎて面白くなくなってし クロストークが課題到達に必要な共有化の場面 まうと盛り下がってしまう。 かと思うので充実させたい。 国語科における協調学習の授業づくり研究の展望> ◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント 課題設定> トークで終わりではなく、その知識を活用した 【テキストの設定】 次の問いにつなげていく。 ・多様な読みに耐えられるようなテキストを扱う。 ・次の授業で生徒に学習の成果がどう表れる ・発達段階に応じて、小さい子どもだったら自 か。次の時間、次の課題で個人の理解をみるよ の生活経験・既有知識に結び付けられるよう うな授業の流れをつくってあげる必要がある。 なテキストでのジグソーが適切。 ⇒結局個人の理解の変容を見ること。それが話 【課題設定の留意点】 し合いの中で深まった子どもの学習の評価。 ・テキストに戻れるような課題設定。 【グルーピングの工夫】 ・協調を起こすことと、文学の教材の読みを深 ・これまでの子どもたちの関係を踏まえて、そ めることという目的を両立させるような課題。 の子が自由に発言できて ・こちらが目を向けさせたいことに目を向けさ ループの組み方をする必要がある。 せる課題。 ⇒究極的にはランダムで組めるようにしたい。お ・(特にエキスパートで)課題は具体的で取っつ 世話役をつくってしまわない方が子どもが学ぶ。 きやすいものがよさそう(比較など)。誰でもひ ⇒恣意的にグループを組むにしろ、ランダムに とまず自 組むにしろ、 「この子とこの子ならこういう学び の えを持てることが大事。 えられるようなグ が起きそう」といった目で子どもを捉える、そ 授業デザイン> れに即した支援ができることが重要。 【学習の流れを作る】 【課題を伝える発問】 ・子どもの読みが過度に抽象化しないための工 ・シンプルにやってほしいことが伝わるような 夫として、1時間の授業というより流れで 発問の工夫。 える 必要がある。エキスパート⇒ジグソー⇒クロス ◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫 ・学 ぐるみ、複数の教科でやってみた場合、子どもたちの学び方の文化が形成され、いろんな場面 で学び合いが見られるだろう。 ・「おさえておかないといけない」ことが多いとされる難しい教材で子どもたちが協調でどこまででき るかやってみたい。 ・どれぐらいエキスパートの足場を外せるか。ワークシートを簡素にしてみる。自由に子どもが答え を出せるような環境をより工夫したい。 ・最終的には一斉授業で協調的な学びを起こしたい。ジグソーはそのためにきたえているのかも。 ・古典は教師主導型になりがちなので、実践をしてみたい。『平家物語』で「無常観とは 読みでやるとおもしろいかもしれない。 ・他教科でやってみたい。国語のデザインにも新たな発見になりそう。 74 」など比べ 第3章 平成23年度 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 新しい学びプロジェクト 「協調学習」研究の成果と課題【 算数・数学科 】 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果> ○子どもたちの学習における成果 授業後にはそれぞれ同じくらいの知識を得るの 【知識の定着と活用】 ではないか。 ・自 【集団づくりへの効果】 たちで知識を構成することで、一斉で教 えるより残っていく。 ・クラスが仲良くなるのは間違いない(変わっ ・導入で協調学習を行えば全体像を理解して単 た子、課題のある子が受け入れられたりする) 。 元の学習に取り組める。 「この前やったときにも 人に聞く習慣を育成できる。休み時間や 出てきたね」という参照できる効果。次の学習 時間、行事などでも話し合ったりして一緒にや への意識のつながりが生まれる。 る感じ。 【主体的な学習の習慣形成】 ・「持ちよれば解決できる」、 「持ちよらないと解 ・授業が終わったあとに子どもたちが議論を続 決できない」という意識の共有は、支持的文化 けている。協調学習のあとは特に活発に議論を の基礎になる。 合の 続けるが、協調学習を取り入れて以後、一斉授 業でもその姿がみられる。 ○教員の教材研究等における成果 ・「話し合って 【子どもの捉え直し】 えが深まる」という意識自体が 他教科の学習に転移 ・子どものよさを見られる。 「こういう学び方も ・ あったんだ」ということを子どもから教えても えを 流して深まるという経験ができるこ とがポイント。そこを大事にすると授業もつく らえる。 りやすくなる。 ・既習事項の理解の程度が見える。 ・子どもが責任感を持って授業に取り組める。 【教材の捉え直し】 いい意味のプレッシャーで参加を保障できる。 ・教材デザインを視野広くできるようになっ 【学力の高い子、低い子にそれぞれ効果がある】 た。 「やらなければいけないからジグソー法でや ・学力が低い子どもも参加の余地がある。 「メイ る」から「子どもがどんな風に活動するか ンの課題を直接出されたらわからなくても、ヒ 「こんなことができるようになるのではない ント(エキスパートの学習)があればなんとか か なる」。 なった。 ・学力の高い子の場合、伝えることの難しさの ・協調学習の課題設定をするにあたって、単元 実感を通して、 「どうやったら目の前のこの子に 全体の流れ、さらには次の学年の学習とのつな うまく伝えられるか」を がりを えることで理解が深 」 」という視点で授業をデザインするように えるチャンスになった。 まっていく。 【授業づくりのたのしさ】 【言語活動と理解深化の結びつき】 ・生徒全員が 「たのしかった」 、 「またやってみた ・言語活動の充実に効果がある。単純に話せる い」という授業にしてみたいという意欲がわく。 だけでなく、理解を言葉にして伝えさせてみる ・新しいやり方を軸に教師がたのしく教材研究 ことによって、もやもやしている理解をはっき できる。板書、発問、など手順的に教材研究す りさせられる。⇒言語活動と理解の力は結びつ るのではなくて、課題の内容自体を深められる。 いている。 ・授業を進める際、(その場で子どもの発言を ・担当してない資料の学習についての不安が言 拾ったりできないからこそ)子どもの われるが、結論を導く時には3つの知識がないと 値づけ意味づけをどのようにするかということ できないので、ジグソーで課題の探究をすれば を真剣に 75 える。 えの価 平成23年度活動報告書 第2集 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題> ●子どもたちの学習における課題 ●教員の教材研究等における課題 ・学級経営のベース(男女関係等)も重要になる。 ・準備は大変。いかに教材をつくるか。 ・資料の読み取りでどこが大事なのかわからな ・子どもが実際どう活動しそうかをシミュレー い、伝えられない トするのが難しい。 ⇒経験と慣れが必要。順序だった説明が難しい ・子どもたちの授業中の発言をよいタイミング 場合、 で拾いにくい。 う言葉を与えてみるのが効果的かもし れない。 ・この取組を普及させていく上で、成果を評価 ・式や図を言葉で説明するところのハードルが するスパンがドリルより長いので、納得しても 高い。式、図、具体物操作の3つを関連づける らいにくい。 のが難しい。 ⇒先生たちが自 ・教員からみると探究が深まっていても、わか うな、成果の検証、発表が必要(評価基準) 。特 らない時に満足感が低くなる。 に算数・数学では「1人で3種類やればいい」と ⇒学習を教員が意味づけていくのも重要。 いう主張にどうこたえるか。 なりに納得して実践できるよ ・受験勉強とのかねあい。 ・年間指導計画のなかでの位置づけ。 教科における協調学習の授業づくり研究の展望> ◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント 導入でやった事例で協調学習の意義が見えやす 課題設定> かった。ただし、導入で協調学習をやってみよ 【課題のレベル】 も学ばなければ」とい うというのは、学力の厳しい子にとって大変で う風に思えるとともに、学力が高い子は「話し はないかなど初めての先生には抵抗ある。導入 合ってよくなる」という実感が得られる、その の課題設定では既習事項とつなげてぎりぎりど 両方を うにかできるところの見極めが大事。一通り ・学力が低い子が「自 えつつの課題のレベル設定をする必要 あり。 ルールを習った後、導入2時間目に協調というア ・課題に魅力があれば(少し難しいのが意欲を イディアもありそう。 喚起)子どもの活動はうまく進む。最終的にど 【多思 こへ持っていきたいのか、そこへ向かうために パターン】 この授業でどこまでいってほしいのかというイ ・発展課題をメインとして、そのための メージを持って、単元全体のデザインの中で課 をあらかじめさらっておくイメージ…発展や応 題を設定する必要がある。 用での実践向け 【組み合わせ型:3つの部品を持ち寄ってはじ ⇒「発展の課題」と言われているところの探究 めて答えが出るパターン】 がメイン(「やってみる」がないとわくわくしな ・ジグソー課題をみんなで解決することになる い)であり、エキスパートはそれを のでエキスパートで責任感が出るし、ジグソー のヒントという発想。 で論議がおきやすく、一人ひとりが全体像を描 ・数学は「いろんな ける…導入での実践向け ターンがやりやすい。ただし、いろんな ・特に【組み合わせ型】のときは、エキスパー をエキスパートに設定するパターンは、 ジグ ト資料を関連付けることを促すような課題の設 ソーで取り組ませる課題> がカギで、そこがう 定、教員の支援が肝となる。 まくいかないと尻すぼみの授業になる。 ・研究授業はまとめの部 に設定しがちだが、 76 型:課題への多様な え方を持ち寄る え方 えるため え方があるよ」というパ え方 第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン であるが、ふだん活躍できない子に活躍の場を 授業デザイン> 【ジグソーでの課題探究を中心としたデザイン】 保障できる。要は「この3人だとどういうことが ・数学では、いろんな 起きそうか」を教員がイメージすることがカギ。 え方をシェアして比較 検討することができればいいのではと感じる。 【エキスパート課題の設定】 エキスパートして報告会して、というのが間 ・3つの資料のパーツのバランス(難易差)は、生 びする。エキスパートをヒントとして、ジグソー 徒は授業者が懸念するほどには気にしていない。 での課題探究中心のデザインができれば。むし ・エキスパートの難易度の差の埋め方はいろい ろ報告会の部 ろ。隣のグループに聞いてみる、先生が支援す はいらなくて、ジグソーの課題 を解くときにいろんな で解ける こっちか るなど。 え方を比較して「これ ・エキスパートを設定するとき、課題の性質と 」などとなればよい。 ・メインの課題は手応えがあるものにし、エキ 子どもが課題を解くときの実態的な困難(子ど スパートはあくまでヒント。エキスパートをよ もが問いをどのように捉えるかなど)を踏まえ くばらないことが大事。エキスパートでできな ることも必要。 かったことが、むしろ探究のきっかけになるこ 【クロストークの機能】 とも。 ・クロストークでの共有を発表会形式でやる ・ジグソーで「いま何の課題を探究しているの と、たくさんの えを 流するのが難しいので か」というコンセンサスを持たせることがポイ エキスパートに戻して 流するのがいいのでは ント。 ないかと 【単元全体を視野に入れた学習デザイン】 いう理解状態になっているかによる。あまりわ ・同じ教材でも、単元のどこにいれるか(何を かってない子が多ければ全体での共有の方がよ ねらうか)で効果が変わりそう。 さそう。 ・45 1コマだけで えると窮屈になる。前時で ・あるいは全体でのクロストークのあと、子ど 見通しを持たせておくなど、広い視野で授業を もたち同士で話す時間をとるとよいのではない 組み立てたい。勇気を持って2時間もあり。家 か。モニターをしている子が話し手になれそう 学習との連鎖も なタイミングでグループに戻してやると、自 えたい。 えている。⇔ジグソーのあとにどう →1つの単元全体のデザインの中で、見通しを持っ なりの納得をつくることに貢献しそう。 て協調学習の授業をデザインする必要がある。 ・全体共有で「クラスで同じ方向に向かって探 【子どもの学習をシミュレートしておく】 究を進めている」という意識を持ちながら、自 なりの探究を進めていくというということが ・グループ編成を意図的にするかどうか。ラン できればベスト。 ダムの場合、難しい子が集まったら支援は必要 ◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫 ・新傾向の入試問題などでも問われているのは知識量ではない。1つの題材に重点を置いて(他の単元 にも えるような)ものごとの構造を把握しておくという目的のために えれば。 ・ジグソー法以外で協調学習を引き起こせる方法の提案(普及と関連して、他の方法も紹介できたほ うがよい) ・普段の授業で取り組むことができる協調学習の方向性の模索 ⇒グループを組みかえて議論を 流という形は日々の授業でも取り入れられる。 ・6年間の学習のなかで、協調学習の効果を などを えたい。学習意欲の喚起、学習環境、知識理解の系統制 慮しつつ、各学年の実態に応じた授業のデザインを模索する必要。 77 平成23年度活動報告書 第2集 平成23年度 新しい学びプロジェクト 「協調学習」研究の成果と課題【 社会科 】 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果> ○子どもたちの学習における成果 の授業の後のテストでは、 「食糧生産を今後どう 【学習への満足感】 すればいいか ・話す場、参加したという充実感、達成感がある。 「働く人」などのいろんな視点が、ジグソーを 特に普段あまり話さない子どもについて顕著。 やってない例年の子どもと比べて多くでてき ・エキスパート→ジグソーの組み換えで視点を た。 変えて飽きがこない。子どもがやる気を出す。 ・次につながる学び。たとえば、「説明せよ」と 【知識の定着・活用】 いう問題に ・「仲間に聞いた」という形で知識を得ること、 【学び合う関係づくり】 語句を ・男女関係が微妙な中学生でも、 「だれだれ君の う機会がたくさん作れることによっ 」という問いに、「耕地面積」 、 えてこたえられる子が増えた。 て、知識の定着に効果的。 意見がよかった」などお互いに評価できて認め ・学習したことの核となる視点が定着し、次の あえるようになってきた。 学習に活かされている。例えば、3つの視点から 見るという え方は朝鮮侵略、日清戦争でも同 ○教員の教材研究等における成果 じ。自力解決の手段を学べる。同様に、米づく ・子ども中心の授業を組織するためのすごく大 りの授業では、続く漁業等の単元でも「高齢化」 事な技だと思う。 などのキーワードを子どもが覚えていた。 「米の ・こういう方法があると、「言語活動の充実」と ときもそうだった」という声が出た。 いった新しい目標にも安心して取り組める。 【記述型問題での効果】 ・教材研究を深められる。扱おうとする問題へ ・資料がいくつか提示されていて「あなたの の視野が広がる。教材内容の要素を えは 類しよう というくせがついた。 」というタイプの問題について、複数の ・学級経営にも有効に作用する。 資料を統合して答えを出せる。また、米づくり 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題> ●子どもたちの学習における課題 【話し合える教室づくり】 【資料読解】 ・「わからない」の表明をできるような習慣をつ ・資料からポイントになるようなことを自 くりたい。ある程度話し合いをパターン化して の 言葉で抽象化できるかが鍵となる。資料を読む、 やるという支援も必要か。 話を聞いて「こういうことね」を引き出すには ・授業規律(先生との約束が守れる、話がきけ どうすればよいか。線の引き方、メモの取り方、 る)がないと難しい。日々の学級指導が効いて 要約のしかたなど「文章の読み方」を教える必 くる。 要があるかも。 にすると大変。 ・グラフや年表から える、読みとって自 囲気のよくない子ども同士をグループ (⇔ただしジグソーの経験を重ねることで学級 の の 言葉で伝えるということをしてほしい。必要な 情報とそうでない情報の振りわけ。 78 囲気がよくなる側面も) 第3章 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン ●教員の教材研究等における課題 か。教師が落とし所に迷っていると、子どもに 【資料の妥当性の検証】 もそれが伝わる。「何をわかってほしいか」 を ・資料づくりの妥当性を検討する仕組みがほし る。 い(偏っていないか、その学年でどこまで教え 【年間指導計画での位置づけ】 るか。 ・年間計画のなかに位置づけられて、普段の授 【授業の見通しを持っておく】 業のかかわりで見通しを持って準備できるとよ ・子どもの学習への不安をどう取り去るか。 「話 い。 し合って答えが出れば(自 が完ぺきでなくて ・実践者としてというより、周りの教員へ協調 も)よい」という自覚(=授業の着地点が見え 学習を普及させる上での課題として、普段の授 る)をどう持たせられるか。1つの正解を出した 業の中でできるイメージをどう持ってもらえる い(出してほしい)という意識と活動の兼ね合 か。子どもの学びがうまくいった授業を見ても い。 らう。 ・落とし所(授業のゴール)をどう意識させる 教科における協調学習の授業づくり研究の展望> ◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント からないこと)⇒鎌倉幕府はなぜ鎌倉 課題設定> 伊能忠 【課題設定の方法】 敬はなぜ詳細な地図を作ったの など具体的で ・「3つの資料を組み合わせないと答えが出な 子どもたちが探究したい課題 い」ということを意識して資料をつくる必要が ・元寇、朝鮮侵略、日清戦争など歴 ある。そうでないと議論がかみ合わない。その とらえるビッグアイディアの様なものが ような資料を作るためには、教材内容の構造を ところ。学び方を学ぶ方法として役立つのでは 教員が把握して各資料間の対立など比較のポイ ないか。 ントを資料に組み込んでおくことが必要。要素 ・生活と結びつく(日常やっていることと、教 を箇条書きしてそれを膨らますというような手 科内容の比較検討ができるような)課題。 的構造を える 順で資料を作成するのも一案。 ・どの辺の子を対象にすればよいかという具体 授業デザイン> 的なイメージができると課題が設定できる。 【授業デザインのタイプ】 ・この課題は「ジグソーで学ぶのが効果的だ」 ・普段 ということを意識して課題を設定したい。 単な資料を用意する、先行実践、教科書の内容 【社会科のジグソー法で扱いやすい課題】 などを ・「多面的に 元の導入や発展として大きな効果を狙う)と2種 えて答えを導く」というタイプの いのジグソー(日々の疑問に即して簡 う)とより大規模なジグソー(主に単 課題は社会のねらいとよく合う。 類ありそう。 ・単元末発展でのオープンエンドな課題はやり ・50 でかっちりおさめるタイプのデザイン やすい。逆に「なぜ と、資料をゆっくり読み込んで2時間 」の問いは子どもが誤解 うタイプ して終わったり、偏った結論を出したりする懸 のデザインがありそう。 念がある。 【子どもの活動を活かすための支援】 ・子どもが一斉授業のときにも疑問を持つこと ・教師があまり口出すとよくないという認識が が課題になりうる(子どもが知りたいこと、わ あったが、エキスパート→ジグソーに入ってか 79 平成23年度活動報告書 第2集 らの発問など、停滞しているときのアドバイス 援になりそう。 の緻密なイメージを持っておかないといけない ・子どもたちのあらかじめの権力関係をどう壊 だろう。個々の子どもがどういう活動をしそう すか。 「できる子の かを想定しておく必要がある。 (その想定との差 もない」と気づくような支援。「核になる子」が 異で教材のとらえ直しにもなる) 相互作用を促進する動きができるか、ひとりで ・教師が教えるというより、グループ内で学習 進めてしまうかがグループの学習の をつなぐようなかたちの支援が重要。子どもの なりそう。 発言を拾って他のグループとつなぐなどの支援 ・子どもの事前の予想と学んだことの比較とい を重ねて、子どもたち自身が拾いあえるように うところまでいきたい。「あ、違うぞ」と気づい なるようなサポート。子どもの「わかったこと」 てくれれば。 えが絶対的に正しいわけで かれ目に や「感想」を次時に子どもに返すのも有効な支 ◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫 ・地域理解、たとえば「和歌山が果樹生産高1位な理由」、「棚田と普通の水田の違い」などやってみた い。 ・協調的な学びのあり方にとにかく慣れさせる。「教科書を3つに けて説明しあう」といった手軽に できるもので、「ジグソーっぽい」活動を経験させる、ゲーム的なジグソーを組んでみるなどで生徒の 抵抗感を減らす必要があるかもしれない。 ・教材の共有。ジグソーっぽい授業を重ねる。回数を重ねると支援のポイントも見えてくる。他の先 生が「やれそうだな」と思うような教材ができるといい。やってみた後でもいいので「このぐらいで こういうことしました」という共有があると「やってみよう」と思うかもしれない。 ・課題だけ、素材だけを出してみて教材を作りあうというような検討ができてもよい。 ・エキスパートを調べ学習でやって、持ち寄って答えが出るパターンにもチャレンジしたい、 「与えら れた資料を読むだけ」という批判にも応えられる。 ・資料の難易度の感覚、「このくらいの生徒にとってこのくらいの 量と内容の資料が適当」というイ メージを持ちたい。 ・他の先生の授業を見たりして、具体的な子どもを想定して資料をつくって何度か実践をして調整し ていくとよいか ・教材を 開、共有する際のチェックシステム(引用したデータの妥当性の確認など)があるとよい かもしれない。 80 第3章 平成23年度 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 新しい学びプロジェクト 「協調学習」研究の成果と課題【 理科 】 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの成果> ○子どもたちの学習における成果 ・課題とゴールが明確にあるため、全員が意欲 【知識理解・定着】 的に参加できる。苦手な子どもと不得意な子ど ・記憶の保持がよい。ジグソーの授業の4カ月後 もも参加せざるをえない。 に「理由を説明せよ」という形で同じ課題を出 ・お互いに自 してみたら、すごく細かいところまで残ってい ことができるため、授業に参加しやすい。 て驚いた。教科書にのってない内容だし、テス ・ランダムで対等なグループ編成のため、 「自 ト勉強として特別な指導はしてないのに。授業 がやらなければ」という意識が芽生え、より意 自体は若干低調だったので、驚きも倍。 欲的に授業に取り組もうとする姿勢が感じられ ・話しながら知識を組み替えていくので、断片 た。 的でなく、記憶に残っていく。 ・グループ編成をジグソー法の授業のたびに組 ・自 み替えたため、様々な人と の言葉で説明しながら理解を深めていく ので、記憶に残りやすい。 ・自 なりの言葉で説明し、理解する 流できることが意 欲を高めることにつながった。 で扱えるモデルを準備すると、試行錯誤 しながら えることができ、さらに理解したこ ○教員の教材研究等における成果 とが具体化されるため、より定着しやすい。 ・普段の授業でも話し合い活動を意識して授業 ・ジグソー法を用いた授業を数時間連続でした に取り入れるようになった。 際、知識を積み上げながら、新しい知識を獲得 【教材を捉える視点の変化】 することができ、そのことがより意欲的に自 ・3つの資料を準備するため、教材をいままでと の えを伝えていこうとする積極性に結びつい 違った視点から見てみようというふうに ていた。 ようになった。 ・単元の導入でジグソー法を ・メーリングリストを活用した意見 うと、その後の える 換をする 授業の子どもの興味や関心の度合いが高くな ことで、これまでとは違った視点や意見をいた り、理解を深めることができる。 だき、授業づくりにとても参 【伝えあい聞き合う関係づくり】 ・淡々と無難に流していった教科書の授業を反 ・伝え合う、学び合うしかけがあるので、子ど 省する機会になった。 もの表現力が高まった。 【子どもを意識した授業デザインの洗練】 ・自 で伝えるという活動をくりかえすと自尊 ・発問の仕方をすごく気にするようになった。 感情が高まる。その次に人の意見をきくように ジグソー法の授業では、子どもたちの自発的な なるので、お互いの関係性がよくなって学習の 活動に移るので、言いなおす機会が少ない。 基盤、学 ・資料を準備する前に、授業のねらいや発問を、 生活の基盤ができる。 になった。 ⇒生徒指導の面でも効果がありそう。 これまで以上に意識するようになった。 【学習参加の促進】 ・授業の中で、子どもたちが思 ・学力に関係なくまたやりたいという意見が多 を観察することができる。次の教材をつくる際 い。 に参 81 にすることができた。 している様子 平成23年度活動報告書 第2集 「知識構成型ジグソー法」による授業づくりの課題> ●子どもたちの学習における課題 ・自 ・慣れが必要(話す、聞く、まとめる) 説明とのギャップをどこまで許容できるか。 ・エキスパート活動に時間をとられがちにな ・連続したジグソー法での授業は、かなり頭を り、時間配 が思うように進みにくい。 なりの言葉で理解したことと、一般的な うことを強いられるので、かなり疲れた様子 ・グループを組みかえるために、子どもの移動 が見られた。 するための物理的空間がある程度必要になる。 ●教員の教材研究等における課題 ・学級の人間関係や個々の性格等をある程度把 ・教材研究には、まとまった時間が必要。 握しておく必要がある。学級づくりも大切。わ ・普段から様々なことに興味を持ち、幅広い知 からないことを気軽に聞ける、教えあえる子ど 識があると、資料をつくりやすい。 も同士の人間関係ができていると授業しやすい。 ・まず何かの教材で実践してみることが大切。 教科における協調学習の授業づくり研究の展望> ◎今年度までの研究から明らかになった「協調学習」の授業づくりのポイント 課題設定> の肝で、それをつくるためにはこの授業で何を ・課題は少し難しいほうがいいかもしれない。 子どもたちに身につけてほしいかを明確にして 教科書にはない、一歩踏み込んだ新たな課題と おく必要がある。 いうところに協調学習の可能性があるのではな ・ジグソー課題は発問の仕方も明確にするべき。 いか(具体的には、3 の2くらいわかるレベル 【子どもの学習をイメージした授業計画】 がちょうどいいのでは)。 ・ジグソーの際、発散してしまっても困るし、 ・いろんなとらえ方ができる単元で実践すれ 自発的に ば、エキスパートで選ぶ内容に差をつけられる。 方が難しい。 ・単発の授業で、ずっと前に習ったことを見て ⇒子どもの思 みるという課題も有意義。 必要。 ・単元の流れの中で教材がジグソーにできれば ・エキスパート活動に時間をとられがちになっ どこでやってもいい。資料の組み方次第で何で てしまう。どれくらいの理解でジグソー活動に もありという気がする。 移ることができるのか、事前に ・ジグソーをするからといって、特別なことを がある。 身につけさせるということではなく、普段の授 ・すとんと落ちるところまで授業でいけるよう 業をジグソーで行なうということ。 流れを工夫したい。 の流れを具体的にイメージする えておく必要 ・1時間に詰め込まず、2時間連続でじっくりと 授業デザイン> えさせながら進めることも必要。 【主発問の重要性】 ・主発問をいかに練って えられなくなっても困る、支援の仕 えるかが教材づくり ◎来年度以降試してみたい「協調学習」の授業づくりのための工夫 ・淡々とした授業になりがちな単元を協調学習にできるとよい。 ・他の先生が作った教材を共有して改訂してということによって時間の短縮ができる。 ・実践の結果「この資料をこう変えたくなった」などを共有し、資料をどんどん他の人に改善してほ しい。 82 第3章 (2)教材リスト 【国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A101 宮沢賢治 学 年 小学 5年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 廣津望都(南小国町立市原小学 読書の世界を広げよう ) 読書の世界を広げよう―宮沢賢治作品での実践― ジグソー課題 宮沢賢治作品に共通する書き方の特色や、作者のものの見方や 期 待 す る 回答の要素 擬音語、擬態語、方言などを多用した表現や、自然や動物の丁寧な描写を味わう とともに、生き物への思いやりや命の大切さといったメッセージを読みとる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 『よだかの星』 『虔十 園林』 『なめとこ山のくま』 個別支援を要する子どもも含め、多くの子どもが自 の えを積極的に話してい た。ジグソーでは話し合いが深まり、各自のノートを並べて比較しながら、 「死の 描かれ方」、「音や色が見える」といった、宮澤賢治作品の本質にせまるようなポ イントに気づいていった。また、授業の後もう一度作品を読んでみたくなったと いう感想もきかれた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 A102 意見文 小学 6年生 教材作成者 単元・題材 え方とは 宮成 努(香春町立勾金小学 自 の えを発信しよう ) 意見文を書こう ジグソー課題 マンガのよさを伝える意見文のパーツを作ろう 期 待 す る 回答の要素 体験談やデータ、インタビュー具体例などの材料を、自 活用する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 反対意見、体験談のはいった意見文 データ・具体例のはいった意見文 体験談・インタビューのはいった意見文 この授業では、資料から「説得力のある文章を作るための効果的な材料」を抽出 し、それを活用して意見文づくりを行った。児童は集中して活動を行い、アンケー トでは高い満足度が示されている。 「わからなかったこと、もっと知りたくなった こと」の記述をみると、本時で学んだ知識を活用して説得力のある意見文を書く ために何が必要かが、児童の自身の言葉で書かれており、次の学びへつながる学 習だったことがうかがえる。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB 所 感 国語 A103 表現 小学 5年生 教材作成者 単元・題材 の意見を伝える文章に 廣津望都(南小国町立市原小学 物語を作ろう ) 表現の工夫 「比喩」と「擬人法」の効果とはどのようなものか 身近で想像しやすい何かにたとえる「比喩」や、人でないものを人の様子や動作 にみたてたりする「擬人法」により、文章の印象や感じとられることが変わる面 白さに気づく。 比喩を った文とそうでない文を比較し、工夫と効果について える 擬人法を った文とそうでない文を比較し、工夫と効果について える 「わかったこと」の記述からは、児童が、擬人法や比喩の効果について自 なり の言葉で抽象化できたことが読み取れる。児童は、「読書の世界を広げよう(A 101)」に続き、ジグソー型授業の経験は二度目である。アンケートの結果、授業 への満足度(たのしかった)は前回より下がっていたにもかかわらず、学習方法 への満足度(またやりたい)は前回よりも高まっており、児童の中でこの学習方 法への期待感が高まっていることがうかがわれた。 83 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A104 ごんぎつね 学 年 小学 4年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 津奈木 嗣(五ヶ瀬町立三ヶ所小学 ) 『ごんぎつね』 『ごんぎつね』 ジグソー課題 ごんと兵十の気持ちはどこで近づいたのだろうか 期 待 す る 回答の要素 ごんと兵十の心情を、叙述をもとに読みとりながら2人の関係をとらえ、自 に物語の全体像を描く。 エキスパートA エキスパートB ごんの行動描写や会話文から兵十に近づこうとする心情を読みとる 兵十の行動描写や会話文からごんに対する気持ちの変化を読みとる この授業では、単元全体を協調学習で構想した。2時間で一斉授業での通読を行っ たうえで、ごん班と兵十班に別れ、場面ごとにそれぞれの登場人物の気持ちを読 みとるエキスパート活動を4時間かけて行い、次に読みとった内容を伝え合って課 題に取り組むジグソー活動を1時間行った。 に発展的な課題として、物語の続き を える活動を1時間行った。一連の活動を通して、生徒たちはゆとりを持って豊 かな読みを作っていくことができた。 所 感 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A201 たんぽぽ 学 年 小学 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 廣津望都(南小国町立市原小学 説明文『たんぽぽのちえ』 『たんぽぽのちえ』―4つの知恵は何のため なり ) ― ジグソー課題 たんぽぽは何のために4つの知恵をはたらかせているのだろうか 期 待 す る 回答の要素 4つのちえに共通する「あちこちに種をとばす」ことによって、「仲間をふやす」 という目的を読みとる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ2) たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ3) たんぽぽが「どんな時に」、「どんな知恵」をはたらかせているかを読みとる(ちえ4) ジグソー後の子どもの記述例としては、「(たんぽぽは、この4つのちえを)げん気 なたねをつくって、まだ花が1本もはえていない町にたくさんのたんぽぽをはやす (ためにはたらかせているのです)」といったものがあった。子どもたちはジグ ソー課題を視点として説明文の内容をとらえ直し、自 なりの表現を出し合いな がら、たんぽぽが知恵を働かせる目的を言葉にしていったと えられる。全ての 児童から、期待する2つの要素を含む回答が出た。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 A202 擬態 小学 3年生 教材作成者 単元・題材 津奈木 嗣(五ヶ瀬町立三ヶ所小学 ) 説明文『にせてだます』 『にせてだます』―擬態の目的を読みとる― ジグソー課題 こん虫は、何のために「ぎたい」(にせてだます)をするのだろうか 期 待 す る 回答の要素 擬態とは、「身を守ったり、えものをとったりするため」=「生きるため」に、他 の動物の目をだますことであることを本文中の記述に基づいて説明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 具体例が全て抜いてある文章 擬態の定義と具体例②が省略された文章 擬態の定義と具体例①が省略された文章 本文を3つに けたテキストを各エキスパートが要約し、ジグソーで3つのエキス パートが担当した文章を並べ替える活動を行うことで、内容理解と同時に文章構 成についての理解を深めることをねらった授業だった。ふたつの課題を設定した ことで子どもの思 にブレが生まれたが、次時で内容理解に特化する形でプラン を修正したことで子どもたちの思 を再び活性化させることができ、子どもたち が高い満足度と理解を示す学習となった。 所 感 84 第3章 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A203 五重塔 学 年 中学 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 財前由紀子(豊後高田市立高田中学 ) 『五重塔はなぜ倒れないか』 『五重塔はなぜ倒れないか』 五重塔が倒れないわけを3つの点で相手にわかるように話そう 五重塔を作る木のしなやかさが、地震のエネルギーを吸収すること/木の組み方の 工夫によって、塔はきしみ、地震のエネルギーが減っていくこと/塔全体の構造が 重箱構造になっており、重箱構造を支える心柱がかんぬきの役目をしていること。 本文より「木のしなやかさについて」の部 本文より「免震構造→差し込み接合」の部 本文より「重箱構造と心柱のかんぬき作用」の部 実践者の反省によれば、ジグソー活動で、自 の説明をしたところで終わってし まったようなところもあったため、他の人の話を聞き入れる、または聞かないと 答えが出せないという課題の設定が必要であろうとのことであった。生徒のわ かったことには、「五重の塔が揺れても倒れない理由」という記述が多く、文章の 内容をポイントをおさえて自 なりに読みとったことがうかがわれる。 国語 A204 ゼブラ 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 平岡香澄(高浜市立南中学 『ゼブラ』 ) 『ゼブラ』 ジグソー課題 ゼブラにとってウィルスンはどんな人物か 期 待 す る 回答の要素 ・新しいものの見方や前向きに生きる姿勢を教えてくれた人物。 ・人と人が出会うことによってもたらされる人間的な成長のすばらしさ。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ウィルスンとの出会いの場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる ウィルスンの授業の場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる ゼブラの旅立ちの場面を読み、ゼブラの心情や行動の変化をとらえる 所 生徒の記述例「ゼブラにとって、ウィルスンさんは違う見かたを教えてくれた人 だとわかった。1人で えていたときは、そんな意見は全く浮かんでこなかったけ ど、みんなと一緒に意見出し合ったら、自 なりの答えを見つけることができた」 。 子どもたちにとっては初めてのジグソー法の授業であったが、主体的に集中して 活動に取り組み、3 の2以上の生徒から、期待する要素を含む回答が出てきた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 A205 だれが 小学 1年生 教材作成者 単元・題材 恒任珠美(九重町立南山田小学 『だれがたべたのでしょう』 ) 『だれがたべたのでしょう』―「問い」と「答え」の関係を読みとる― ジグソー課題 このお話では、食べたあとを見ると、どんなことがわかると書いていますか 期 待 す る 回答の要素 のあいたクルミの や芯だけになった ぼっくり、ちぎれた木の葉など食べた あとをよく見ると、どんな動物が暮らしているのかがわかる。 エキスパートA エキスパートB 本文より、芯だけになった ぼっくりとリスの部 を読みとる 本文より、ちぎれた木の葉とむささびの部 を読みとる 小学 1年生での実践のため、エキスパートを2種類にし、ペアで教え合う形で授 業を進めた。実践者によれば、一人一人がやる気を持って学ぶ姿が見られたとの ことである。また、子どもたちは授業を通して、本文の内容のみならず「∼でしょ う 」「∼のです」といった「問い」と「答え」の関係を表現する文型を自 のも のとし、「虫クイズ」を作るなど、調べ学習などに活用していたという報告もあっ た。 所 感 85 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A206 お手紙 学 年 小学 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 廣津望都(南小国町立市原小学 『お手紙』 ) 『お手紙』―気持ちが伝わる音読をしよう― 音読を聞き合い、自 の役(がまくん・かえるくん)がセリフを聞いてどう思うか えよう がまくんの悲しそうな様子と、それにつられてだんだんと悲しい気 になっていくかえるくんの様子 →がまくんを早く喜ばせたいと思い、すぐにお手紙を書くかえるくんの様子→お手紙なんか来ないと すねた様子のがまくんと、対照的に、早く来ないかと待ちわびるかえるくんの様子→幸せな気 にな る二人の様子 がまくん役として場面ごとの気持ちや心の中の声を想像して、音読の仕方を える かえるくん役として場面ごとの気持ちや心の中の声を想像して、音読の仕方を える 音読劇という目標を設定し、役で けてエキスパート活動を行い、ジグソー法で やりとりをすることで、登場人物二人の気持ちの移り変わりを読み取ることがき、 相手意識をもった語りかけるような音読につながった。低学年での実践のため、 学習の進め方の手引きを って学習を進めた。実践者によれば、これにより手順 に関する支援が必要なくなり、課題に対する支援を行うことできたとのことであ る。 国語 A207 やまなし 小学 6年生 教材作成者 単元・題材 南 紳也(湯浅町立湯浅小学 『やまなし』 ) 『やまなし』―5月と12月の物語にこめられたもの― 宮沢賢治が「五月」と「十二月」で、それぞれどのような思いを描こうとしているかを えよう 五月は、自然の厳しさ、死の世界、命を奪う、悲しみの世界などを描こうとしている。十 二月は、自然の恵み 生の世界、命を与える、喜びの世界などを描いている。やまなしの ように次に命をつなぐ死がある。希望をもつことが大切である。など。 かにたちの会話文からイメージされる世界を える 上からやってきたもの(五月かわせみ、十二月やまなし)の話から える 川底の様子の描写から える 五月と十二月の風景の比較を通じ、子どもたちは課題に迫ろうと試行錯誤してい た。あるグループでは、年表から『やまなし』執筆時の賢治の関心を妹トシの病 と死に結びつけ、 「上から突然くるカワセミは突然妹の命を襲った病気のことなん じゃない 」など、自 たちの読みの世界を楽しんでいた。逆に、事後の感想で 賢治の気持ちが「わからなかった」「もっと知りたい」と表現した子どもが多かっ たのも、主体的な学びの成果だと言える。 国語 A208 椋鳩十 小学 5年生 教材作成者 単元・題材 多田俊朗(加西市立九会小学 『大造じいさんとガン』 ) 読書の世界を広げよう―椋鳩十作品での実践― ジグソー課題 椋鳩十の作品から伝わってくるメッセージをはっきりさせよう 期 待 す る 回答の要素 厳しい自然の中で必死に生きている姿、命の大切さ尊さ、動物のすばらしい姿に 素直に感動していく人間としての高まりに気付く。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 『月の輪グマ』 『金色のあしあと』 『片耳の大シカ』 子どもたちは、エキスパートでは既習の『大造じいさんとガン』と比較しながら、 ジグソーでは3つの作品を比較しながら、椋鳩十の作品から伝わってくるメッセー ジを自 なりの言葉でまとめた。 「みんなと助け合って生きるというのが大切だな と思った。なぜかというと助け合うほうが何事もはやく楽しくできるから」といっ た生徒の記述は、 えを出し合って学ぶジグソー法の特徴と椋鳩十作品のメッ セージを重ねて えを深めていることがうかがわれ、興味深い。 所 感 86 第3章 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A209 お手紙シリーズ 学 年 小学 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 廣津望都(南小国町立市原小学 『お手紙』 ) 『お手紙』シリーズ―がまくんとかえるくん― ジグソー課題 がまくんとかえるくんはどんな性格なんだろう。お手紙シリーズを読んでつきとめよう 期 待 す る 回答の要素 がまくんにもかえるくんにも長所と短所があるが、お互いに同じように思い合い、 お互いが大好きで、大切な友達同士であることをつかませたい。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 『おちば』 『クリスマス・イブ』 『はるがきた』 所 子どもたちは、登場人物に親しみを持って意欲的に活動に取り組み、教科書の『お 手紙』で学んだがまくんとかえるくんの性格についての知識をベースに、複数の お話を比較しながら登場人物の性格に多角的に迫ることができた。授業者の反省 としては、『お手紙』からわかったことと3つのお話からわかることを区別して比 較検討しながら えを深めることが難しい場面もあったとのことである。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC エキスパートD 所 感 国語 A210 メロス 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 三重野修(県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 ) 『走れメロス』 『走れメロス』―メロスを走らせたものは何か 詩『人質』との比較から― 作者は「人質」と「走れメロス」の違いによって何を表現したかったのだろうか 作者が「人質」から書き加えていった所に主題をつかむヒントが隠れていると仮 定し、その中 から、王の心を揺り動かしたもの、メロスを走らせたものをみつ ける。 メロスの視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする 王の視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする その他の登場人物の視点から「人質」と「走れメロス」を比較読みする 『走れメロス』のモチーフとなった『人質』の詩との比較を通じ、作者太宰治の 表現したかったことを追究した。それぞれの登場人物について丁寧に比較するこ とで「メロスの帰路に盗賊を差し向けた王は、本当はメロスが戻ってくると思っ ていた」といった気づきが生まれた。また、王の人物像に迫ることで、「王は太宰 そのものだ」、「『メロス』を書くことで、言葉では伝えられない自 の「変わりた い」思いを表現した」といった読みをするグループもあった。 国語 A211 組み立て 小学 3年生 組み立てを 教材作成者 単元・題材 榎本さち(広川町立南広小学 組み立てを えて書こう ) えて書こう 「時」「場所」「人物」「出来事」を表す言葉をたくさん集めて、文を作ろう。 ・時、場所、人物、出来事を表す言葉がたくさんあることに気づく。 ・それぞれの語句には役割があり、その組み合わせ方を変えることで、幾通りも の文が作れることに気づく。 時を表す言葉を集める 場所を表す言葉を集める 人物を表す言葉を集める 出来事を表す言葉を集める 実践者によれば、子どもたちは授業を楽しみ、時・場所・人物・出来事を表す言 葉を多く集めることが出来たとのことである。アンケートには、発言力のある児 童が活動を主導してしまったために自 の意見が反映されずに疎外感を感じたと いう子どもの声もあった。文づくりにテーマを設定するなど、課題を共有して えを出し合うための工夫が必要であろう。 87 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 A212 メロス 学 年 中学 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 平岡香澄(高浜市立南中学 『走れメロス』 ) 『走れメロス』―王とメロスの人物像に迫ろう― ジグソー課題 メロスと王において、作品を通して一貫している人物像と変化した人物像はどんなところか 期 待 す る 回答の要素 メロス:〔一貫〕人を疑うことが嫌いな人・正義感が強い人・友達想いな人 〔変化〕信じ合うという人間の本来あるべき姿に気づいた人 主:〔一貫〕繊細な人・人を信じたいと心のどこかで思い続けている人 〔変化〕人を信じていいかもしれないと思えるようになった人 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「初めの日」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる 「王城を出て1日目と2日目」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる 「3日目(約束の日)」の場面を読み、メロスと王の人物像を読みとる 所 ジグソーでは、各自の資料を間に置き、内容を比較しながら えを 流し、直観 的にイメージを描くことが得意な生徒や物語の構造的な把握が得意な生徒など、 多様な学び方をする生徒たちが互いの特性を生かし合いながら課題に取り組んで いた。クロストークでは、他班の発表をきいてグループでテキストを見直すなど、 最後まで意欲的に学習していた。 感 【数学 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 A101 変化の割合 学 年 中学 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 杉田和代(五ヶ瀬町立鞍岡中学 関数y=ax ) なぜ変化の割合はa(p+q)で求められる なぜ変化の割合はa(p+q)で求められるのか 「変化の割合の 式」、「共通因数を含む因数 の計算」の3つを組み合わせて、変化の割合の を説明する。 変化の割合の 式 共通因数を含む因数 解 数の約 を含んだ文字式の計算 解」、「 数の約 を含んだ文字式 式がどのようにして出てくるのか 生徒の反応は概ね好意的であり、二次関数の変化の割合がa(p+q)という 式で 簡単に求められるのだということを理解したようであった。ただし「最初から先 生に 式を教えてもらいたくさん練習問題を解いた方が良かった」という意見が 一名あった。「人と話合わないと解けない程度」に課題の難易度を調整することが 課題である。 数学 A102 二次方程式 中学 3年生 X人で握手をすると 教材作成者 単元・題材 甲 一陽(宮崎市立住吉中学 二次方程式の利用 ) ―二次方程式の応用― ジグソー課題 X人で握手をすると握手の回数は何回か 期 待 す る 回答の要素 「対戦表」、「多角形」、「樹形図」の3つの方法からのアプローチを比較検討して、 立式と解答、過程の説明を目指す。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 対戦表で握手の回数を求める 多角形を って握手の回数を求める 樹形図を って握手の回数を求める 所 生徒の反応は概ね好意的であり、ほとんどの生徒が「X人で握手をするときの握 手の回数」を(x(x−1))/2と表すことができた。立式の過程を説明する部 では、 式の3つのアプローチの比較検討から統合的な説明をつくるまでには至らず、どれ か1つのアプローチに基づいて説明するものが多かった。しかしアンケートには、 「何個もの出し方があることがわかりました」といった記述もみられた。 感 88 第3章 【数学 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 A103 変化の割合 学 年 中学 3年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 粟津政夫(安芸太田町立加計中学 関数y=ax ) なぜ変化の割合はa(b+c)で求められる ジグソー課題 なぜ変化の割合はa(b+c)で求められるのか 期 待 す る 回答の要素 「式の値」、「共通因数」、「除法」の3つのワークで学んだことを持ち寄って説明を 作る エキスパートA エキスパートB エキスパートC 代入 共通因数 文字式の除法 所 数学A101の「なぜ変化の割合はa(p+q)で求められる 」と課題は同じだが、先 に「a(b+c)」の式を与えてから「なぜそういった式が出たかを説明させる(途中 式を完成させる)」かたちでデザインされている。こちらでは生徒から「難しい」 という意見が多く出た。 感 【算数 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 算数 A201 足し算 学 年 小学 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 堀 真朋(五ヶ瀬町立鞍岡小学 足し算 ) 足し算 ジグソー課題 りんごが4つあります。お店で4つ「買う」と全部で何個になりますか。 期 待 す る 回答の要素 増加の場面に関して、言葉や式、図、ブロック、手などを を求めることができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 車が5台あります。3台「増える」と何台になりますか 鳥が6羽います。2羽「飛んでくる」と何羽になりますか 折り紙が7枚あります。1枚「もらう」と何枚になりますか 実践者の記録によれば、最初両手を って足し算をしていた子どもが、授業後に は全員片手を って足し算をしていたとのことで、「増加」のイメージを描けるよ うになったと えられる。ワークのノートでは、エキスパートで「車の絵」で図 示していた子どもが、ジグソーで「○」で図示できるようになるという思 の抽 象化の様子も見られた。小学 1年生でも、デザインの工夫により協調学習を通し て思 を深めることができたようである。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 算数 A202 概数 小学 4年生 どの方法で見積もる 教材作成者 単元・題材 って足し算をし、解 渡邊久美(竹田市立竹田小学 概数を った計算 ) ―切り捨て、切り上げ、四捨五入― 3つの見積もり法それぞれの特徴をまとめ、具体的な場面で適切な見積もり法を選ぶ 切り捨ては少なく見積もればいいときに う。ある数以上になるかどうかを見積 もる。切り上げは多めに見積もればいいときに う。ある数以下になるかどうか を見積もる。四捨五入はより近いがい数、およそで見積もるときに う。 切り捨てで300ぴき以上になるか見積もる。(学年ごとの集めたホタルの数の表) 切り上げで1000円以内になるか見積もる。(ノート、ペン、本の代金の絵) 四捨五入でおよそ何mか見積もる。(駅から学 までの道のりを表した地図) 実践者の振り返りによれば、子どもたちは意欲的に活動に取り組んだ。アンケー トでは「四捨五入、切り上げ、切り捨てはどういうふうに えばいいかわかった」 といった意見や、「切り上げの時、切り捨てをしていたので気をつけたい」といっ た自 の学習を見直す声もきかれた。子どもたちは じて「たのしかった、また やりたい」という肯定的な評価をしていた。 89 平成23年度活動報告書 第2集 【算数 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 算数 A203 線 図 学 年 小学 4年生 テ ー マ ちがう量にわける―線 教材作成者 単元・題材 図を 萩原英子(安芸太田町立修道小学 ちがいに目をつけて ) って― ジグソー課題 全部で1000羽の折り鶴を作るとき、高学年の方が低学年より400羽多く作ることにする と低学年と高学年はそれぞれ何羽作ればいいでしょうか。 期 待 す る 回答の要素 線 図を って違いを明示化し、違いを最初に引くか足すかして、同じ量にして から2で割り、片方の量を求める。その後条件に応じてもう一方の量を求める。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 線 図の書き方 ものを ける方法 違いを埋める方法 あるグループでは、誤答を主張する子どもが2人、正答を主張する子どもが1人の 状況が生じたが、2人の子どもは自 と えの違う1人に線 図を示しながら具体 例をひきつつ説明する過程で、むしろ自 の解が間違っていたことに気づいて いった。同一中学 区内の4小学 合同での授業だったので、次時は各 での授業 であった。実践者の振り返りにでは、次時には類題を線 図を ってスムーズに 解いていたという報告もきかれた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 算数 A204 三角形合同 小学 5年生 教材作成者 単元・題材 佐々木挙匡(浜田市立波佐小)/高井邦彰(加西市立泉小) 合同な図形 合同な三角形を描いてみよう ジグソー課題 課題の五角形(3つの三角形を組み合わせた図形)と合同な図形を描く 期 待 す る 回答の要素 三角形の構成要素に着目して、合同な三角形の描き方と必要な構成要素を理解し、 合同な三角形や三角形の複合図形をかくことができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 3辺の長さが示された三角形を見て、合同な図形を作図する 2辺の長さと間の角の大きさが示された三角形を見て、合同な図形を作図する 1辺の長さとその両端の角の大きさが示された三角形を見て、合同な図形を作図する 実践者らによれば、どちらの実践でもエキスパート活動に時間を要し、時間内に 合同条件を整理して五角形を描けるまでには至らなかった。しかし子どもたちは 主体的に授業に取り組んでおり、自 なりに合同な三角形の構成要素をイメージ していたとのことである。次時に五角形の課題を提示した際には、「2つの角の大 きさはわかってるけど、辺の長さがわからないからここからは書けない」など議 論をしながらどの班も作図を完了することができた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 算数 A205 比 小学 6年生 どちらが甘い 教材作成者 単元・題材 堀 真朋(五ヶ瀬町立鞍岡小学 比とその利用 ) ―比とその利用― レモン水とはちみつの比が6:2のジュースと18:6のジュースはどちらが甘い 2つの比が等しい関係かどうかを3つの方法を活用して判断し、3つの方法を関連づ けて判断の妥当性を説明するとともに、比の性質を利用して発展的な課題に答え を出すことができる。 6:2と18:6の関係を簡単な比にして える 6:2と18:6、それぞれの比の値を求めて える 掛け算を い、6と18、2と6をそれぞれ比べて える 実践者によれば、エキスパート活動では、子どもたちは図や式を書きながら課題 に取り組んでいた。 に、ジグソーでは、1つの課題に対して3つの解法を比較す ることで、自 が担当しなかった解法についても理解を深めたようである。「900 mlのレモン水がある場合、先ほどと同じ濃さのジュースを作るのにはちみつはど れだけ必要か 」という発展的な課題にも、全員がどの解法を うかを意識しな がら答えを出していたとのことである。 90 第3章 【算数 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 算数 A206 体積 学 年 小学 6年生 テ ー マ 体積を求める 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 吉野了太(宮崎市立赤江小学 立体の体積 ) 式を作ろう ジグソー課題 横に倒して置かれた三角柱の体積を求める 期 待 す る 回答の要素 立体の底面はどこかを判断し、図から必要な情報を読みとって、「底面積×高さ」 の 式を って体積を求める。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「底面を積み上げる」ことを え、図形の置き換えをする 「たて×よこ×高さ」を復習し、「底面積×高さ」によって体積が求められることを確認する 与えられた図形から求積するために必要な情報を取り出す 授業中の子どもたちは「底面積の積み上げ」としての体積のイメージを自 たち で言葉にすることに苦戦している様子であったが、ジグソー、クロストークを経 て、授業後のアンケートでは、「底面積がわかった」旨の記述も多く表れていた。 この授業は、子どもたちにとって4度目のジグソー法による授業であった。実践の 積み重ねにより、当初は意見の発表に消極的だった子どもも、時間切れで発表で きなかったことを悔しがるほどに変化したという。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 算数 A207 複合図形 小学 4年生 教材作成者 単元・題材 萩原英子(安芸太田町立修道小学 複合図形の面積 ) 複合図形の面積を求めてみよう ジグソー課題 長方形を組み合わせたL字型の面積の求め方に名前をつけ、求め方のコツをまとめよう 期 待 す る 回答の要素 複合図形の面積を求めるには、長方形(これまでに学習した図形)を見つけて、 足したり、引いたり、2で割ったりすれば、求められる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 大きい長方形から小さい長方形を引く方法 元の図形を2つ で大きい長方形の面積を求め、最後に÷2をする方法 等積変形して、長方形を作り求める方法 導入部 で、2つの長方形に ける方法を全体で確認したことで、子どもたちは見通しを 持ってグループ活動に取り組めた。式や計算の意味を言葉で説明するのは、子どもたちに とってレベルの高い活動であった。しかしジグソーで自 の えを説明し、「この÷2は 何 」といった仲間の質問に図を活用して答えようとしたり、「長方形にして引き算方式」 といった求積法の名称を える活動を行うことを通じて、ほとんどの児童がそれぞれの求 積法の え方を発展問題で活用できるようになっていった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 算数 A208 複合図形 小学 4年生 教材作成者 単元・題材 時枝博文(豊後高田市立高田小学 複合図形の面積 ) 複合図形の面積―広さを調べよう― ジグソー課題 フィンランドの国旗の白い部 期 待 す る 回答の要素 複合図形の求積法を比較し、十字の部 を動かして長方形を作る「動かす方法」 が、速くて簡単で正確(うまい方法)であることをつかむ。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 凹の面積を「うまい方法」で求める→「引く方法」 凸の面積を「うまい方法」で求める→「 ける方法」 フランスの国旗から白を引いた部 の面積を「うまい方法」で求める→「動かす方法」 所 実践者によれば、Cの資料では、3つの方法がどれも適用できたため、「うまい方 法」に戸惑う班もあった。しかしジグソー課題では、「動かす方法」が「うまい方 法」であることに多くの班がスムーズに気づいていたとのことである。 に、ジ グソー後の発展的な課題では、より複雑な図形の求積に「動かす方法」を って うまく解くことができ、感激する子どもたちの様子もみられた。 感 の面積を求める「うまい方法」を 91 えよう 平成23年度活動報告書 第2集 【算数 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 算数 A209 一筆書き 学 年 小学 6年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 水谷隆之(飯塚市立片島小学 一筆書き ) 一筆書きができるのはどんな時 ジグソー課題 輪が4つの図で一筆書きをする方法を説明しよう 期 待 す る 回答の要素 ねじり点を寄り道のスタートにする え方や、2つや3つの輪に ける って、輪を組み合わせた図で一筆書きをする方法を説明する。 エキスパートA エキスパートB 3つの輪を組み合わせた図で一筆書きができる理由を、ひもを って説明する。 3つの輪を組み合わせた図で一筆書きができる理由を、輪をつなげた教具を って説明する。 エキスパートでは教具を活用しながら、 「こっちの輪は寄り道の輪なんだよ」、 「じゃあここ がスタートか」など、重要な概念を具体物とつなげて話し合いながら思 を深めていく様 子が見られた。ジグソーでは1つのホワイトボードをグループで共有し、図示と言葉によ る説明を行き来することにより、エキスパートから持ち寄った具体的な説明を抽象化し、 期待する回答に迫っていった。子どもたちは授業を大変たのしみ、クロストークまで集中 力を切らすことなく取り組んでいた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 算数 A210 三角形面積 小学 5年生 三角形の面積を求める 教材作成者 単元・題材 高井邦彰(加西市立泉小学 三角形の面積 え方を ) 式を作ろう ジグソー課題 三角形の面積はどうすれば求められると言えるか 期 待 す る 回答の要素 ・三角形の面積は長方形の面積の半 になっている。 ・長方形の面積の 式のように、三角形の面積でも 式ができそうだ。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 三角形を2つの直角三角形に けて求めた計算式を見て、求め方の説明を作る 三角形を長方形の半 とみなして求めた計算式を見て、求め方の説明を作る 三角形の一部を切り取って長方形に置き換えて求めた計算式を見て、求め方の説明を作る 所 ジグソー活動では、言葉で 式を作るより「三角形の面積を求める」ことに重点 を置いて学習を進めることになったグループが多かった。しかしクロストークで は、ほとんどのグループが、「三角形の面積はどうすれば求められるか」の問いに ついて、「底辺×高さ÷2」、「三角形の面積は長方形の半 」といった期待する回 答の要素を含む答えを発表したとのことである。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 算数 A211 台形面積 小学 5年生 台形の面積を求める 教材作成者 単元・題材 佐々木挙匡(浜田市立波佐小学 四角形や三角形の面積 ) 式を作ろう 台形の面積を求める“ことばの式”をつくりましょう 台形の面積は、等積変形や倍積変形、 割をすることによって、既習の面積の 式を用いて求めるこ とができる。そして、それぞれの面積の求め方から “ことばの式”をつくって整理していくと、一般 化( 式化)することができ、様々な台形の面積を求めるときに える。 台形を平行四辺形に等積変形した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する 台形を平行四辺形に倍積変形した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する 台形を2つの三角形に 割した図を見て、台形の面積を求め、求め方を説明する エキスパート資料は、前時の子どもの えをふまえて作り、担当したいものを選 択した。ジグソー活動では、各班が、「底辺×高さ÷2×2」のように既習事項に 基づいた説明を作ると同時に、「何かおかしい」という疑問も共有していたようで ある。この疑問は、クロストークで教師が示した「上底・下底」の概念によって 解決されたようで、授業後の「わかったこと」として「上底・下底の意味」とい う記述が目立った。 92 第3章 【算数 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 算数 A212 概数 学 年 小学 4年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 目的を ー マ 萩原英子(安芸太田町立修道小学 がい数の表し方 ) えて見積もろう 場面に即して最適な見積もり方法を える およその数を知りたいときは、「四捨五入」、足りるかどうかを知りたいときは、多めに見 積もる「切り上げ」、ある数以上になるかどうかを知りたいときは、少な目に見積もる「切 り捨て」というように、目的に応じて見積もり方法を選ぶ必要がある。 「だいたい」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す 「足りるか」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す 「以上か」を知りたい時、3つ方法による見積もり結果を実数と比較し、最適な方法を探す 実践者によれば、ジグソー活動が特に活発であり、具体的な問題を えながら、 最適な見積もり法を選び、理由を説明できるようになっていった。1人では説明が 難しい子どもも方法は選べており、クロストークや次時の振り返りで説明できる ようになる例もみられたようである。改善点として、「見積もった値」と「正確な 値」の位置関係を図示することが、見積もり法の特徴を言葉で表現することの支 援になりそうだという指摘があった。 算数 A213 見積もり 小学 5年生 見積もりを 教材作成者 単元・題材 高井邦彰(竹田市立竹田小学 見積もりを って ) って―さしひき、切り捨て、切り上げ― 3つの見積もりの方法は、それぞれどんなときに うとよいかを えよう 「さしひき」は端数が少ない場合に正確な見積もりをしやすい、「切り捨て」は元の値より 少なく見積もるので基準数値を超えているかどうかを安全に判断でき、「切り上げ」は元の 値より多く見積もるので基準数値に収まっているかどうかを安全に判断できる。 見積もりの式(切り上げ)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する 見積もりの式(切り捨て)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する 見積もりの式(さしひき)を見て、どの見積もり法でどう見積もったかを説明する 4年生で習ったがい数の え方を って、どの場面でどの見積もりが最適かを え る活動を行った。グループでの学習を細かく見ると、がい数の え方自体が定着 していない子どもは、その部 を自 なりに納得いくまで追求することができて いたし、また「 ってみる」段階はスムーズにこなせる子どもたちは、最適な見 積もりの方法を抽象的に説明する課題に取り組むなど、仲間との相互作用を通じ て一人ひとりが自 の理解を深めていた。 【数学 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 A201 二次方程式 学 年 中学 3年生 テ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 「お さんの帰国日はいつ 教材作成者 単元・題材 甲 一陽(宮崎市立久峰中学 二次方程式 ―二次方程式を作って ) えよう―」 ジグソー課題 カレンダーで、ある日の真上の日の数と真下の日の数をかけ合わせると176になる日を見つける 期 待 す る 回答の要素 求めたい数をXと置いて、文章題中の数値の関係を二次方程式に表し、二次方程 式を解く。 に2つの解から問題条件に合う回を選択する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 平方根の え方で解ける二次方程式で、解が2つあり、条件によって1つに れる 方程式、平方根、展開と因数 解の え方を利用し、二次方程式を解く 文章問題において、求めたい数やその他の数との関係をxを用いて表すことを確認する 所 二次方程式の導入段階での授業であったが、子どもたちは既習事項に基づいて議 論しながら集中して活動に取り組み、ジグソー活動後には多くの班が正しい解を 導いていた。解にたどりつけなかったグループも、クロストークで「わかった 」 と式を修正する様子が見られた。実践者によれば次時以降、単元を通して学習へ の意欲が高かったとのことである。 感 93 平成23年度活動報告書 第2集 【数学 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 A202 平方根 学 年 中学 3年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 粟津政夫(安芸太田町立加計中学 平方根 ) 平方根の加減 ジグソー課題 平方根の加減の計算方法を導き出す 期 待 す る 回答の要素 平方根の足し算引き算は、どんな場合に可能であり、どのように計算すればよい かを え、実際に例題を解く。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 概数の利用 根号を外すことのできる数 正方形を 割した面積 所 生徒の かったことの例:「 4+ 9は 13にならないことを知りました」 「ルー トの加減は中の数字が同じものだけする。ルートの前の数字を計算する。文字式 とよく似ていること」 実践者によれば、思っていた以上に話し合いは活発で、3つの資料をつき合わせな がら意欲的に課題に取り組んでいたとのことである。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 数学 A203 相似 中学 3年生 教材作成者 単元・題材 橋爪英雄(飯塚市立飯塚第一中学 図形の相似 ) 図形の相似 円周角の定理、三角形の相似、相似比を用いて、円に内接する三角形の辺の長さを求める。 2つの三角形が円に内接することから、円周角の定理を用いて2組の角がそれぞれ 等しいことに気づき、2つの三角形が相似であることを証明する。2つの三角形が 相似であることから、相似比(対応する辺の比が等しい)により辺の長さを求める。 円周角の定理により、大きさの等しい角を見つける 2つの三角形が相似であることを証明する。相似条件(2組の角がそれぞれ等しい) 2つの三角形が相似であることから相似比を利用し、辺の長さを求める 子どもたちは真剣に学習に取り組んでおり、「わからない」生徒が「わかる」生徒 にその場で直接説明をきくことで、お互いの理解度が深まるとともに、意欲的に 学習していたとのことである。教材の工夫としては、確認問題や発展問題をあら かじめ用意しておき、グループごとの学習のスピードの違いに対応した点がある。 数学 A204 比例 中学 1年生 教材作成者 単元・題材 粟津政夫(安芸太田町立加計中学 比例と反比例 ) 比例と反比例 ジグソー課題 束全体の厚さが15㎝、40枚 期 待 す る 回答の要素 問題の事象が比例もしくは、反比例、どちらでもないのかを判断し、対応表、式、 グラフを活用して答えを出すことができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 対応表を って課題に取り組む 比例の式を作って課題に取り組む グラフを書いて課題に取り組む エキスパートでは、特にグラフの班で答えまでたどりつけない班が見られた。し かし、ジグソー活動を通して多くのグループでエキスパート活動での理解の不十 さは自然にカバーされていった。例えばある班では、エキスパートで答えまで たどりつけなかったグラフの方法に全員で取り組む中で、各解法を比較しながら 「比例定数ってグラフではここ 」などの議論が起き、各自が比例という関数を 自 なりの言葉で理解していった。 所 感 の厚さが2㎜のとき、コピー用紙の束の枚数を求める 94 第3章 【理科 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 A101 消化 学 年 中学 2年生 テ ー 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 教材作成者 単元・題材 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学 動物のくらしとなかま マ デンプンの消化と吸収のしくみを説明しよう ジグソー課題 デンプンの消化と吸収のしくみを説明しよう 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ) デンプンの消化と吸収のしくみを、消化の目的(栄養の吸収)、機能(十 小さい 物質に変える)、方法(消化液や酵素のはたらき)という観点を組み合わせて適切 に説明できる。 デンプンの変化 吸収 栄養素の大きさ デンプンの消化の仕組みについて生徒の事前の えは、 「口→食道→胃→腸を通っ て消化される」というようにルートに着目したものが多かった。授業を通してそ の えに、「デンプンが別の物質に変わるのが消化である」という化学的な理解が 統合され、ほぼ全ての生徒から、期待する3つの観点を統合した説明が出てきた。 「新規な知識の獲得」とともに、このような「既存の知識のとらえ直し」も重要 であろう。 理科 A102 電磁誘導 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学 電流とその利用 ) 電磁調理器の上の豆電球に流れた電流はどうやって発生した ジグソー課題 電磁調理器の上にコイルにつないだ豆電球を置くと点灯するのはどうしてか 期 待 す る 回答の要素 「 流電流」、「電流による磁界の発生」、「電磁誘導」の3つの内容を組み合わせ て現象を説明する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 流電流 電流による磁界の発生 電磁誘導 ジグソー前後で生徒の説明を比較すると、ジグソー前には「電磁調理器には、 流電流が流れる」という断片的な回答が、「電磁調理器のコイルは 流です。だか ら、電流の流れる向きは変わるので、磁界の向きも変わります。その変化に応じ て電流を流そうとする電圧が生じてコイルに電流が流れます。だから豆電球が点 灯します」と変化している例などがみられた。難しい課題にもかかわらず、生徒 の達成度と満足度は高かった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 理科 A103 地震 中学 1年生 教材作成者 単元・題材 マ 日本にはなぜ地震が多いのだろうか ジグソー課題 日本にはなぜ地震が多いのだろうか 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 福園祐基(国富町立木脇中学 大地がゆれる ) 「プレート」という概念を い、「地球内部のつくりとプレートの移動」、「世界の プレートの配置と地震の 布」、「プレートの動きと地震が起こるしくみ」の3つの 資料を合わせて、日本で地震が多く起こるメカニズムを説明する。 地球内部のつくりとプレートの移動 世界のプレートの配置と地震の 布 プレートの動きと地震が起こるしくみ 生徒たちの、授業前の課題に対する えは、「山がおおいから」や「プレートがぶ つかっているから」など多様であり、既有知識の差がうかがわれる。しかし既有 知識の多少にかかわらず、生徒の授業後の回答は「プレート」という概念を中心 にした豊かな説明に変化していた。また、授業への満足度、学習方法への満足度 もともに高かった。 95 平成23年度活動報告書 第2集 【理科 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 A104 地軸 学 年 中学 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ー 堀 彦(竹田市立久住中学 四季の星座と季節の変化 ) 太陽の動きはなぜ場所によって違う 場所による太陽の見かけの動きの違いはどうして起こるのか 地球上では場所によって太陽の動きが違い、それは地球の地軸が 転面に対して 傾いていることによって起きている現象であることを、モデルを って説明する ことができる。 日本と南アフリカでの太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を って説明する 日本と赤道上での太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を って説明する 日本と北極での太陽の動きの違いを、太陽と地球の模型を って説明する この授業は「天体」という中学 理科の中でも難しい単元を対象にしたにも関わ らず、生徒の授業に対する満足度は突出して高かった。ジグソー法の授業を何度 か体験した生徒たちであったこと、模型(具体物)という媒介の存在によって協 調が起きやすかったことなどが理由であろう。生徒の理解度も高く、授業後の「わ かったこと」では、「地軸の傾き」と太陽の動きを結びつけた記述が多くみられた。 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 A201 摩擦力 学 年 中学 3年生 テ 教材作成者 単元・題材 教材作成者 単元・題材 堀 彦(竹田市立久住中学 運動とエネルギー ) マ 摩擦力の大きさは、何に関係しているのだろうか ジグソー課題 摩擦力の大きさは、何に関係しているのだろうか 期 待 す る 回答の要素 摩擦力は物体の運動を妨げる力であること知り、物体と接触する面の材質と物体 にかかる重力(面を垂直に押す力)に関係し、ふれあう面積には無関係である。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 接触面が木の板の場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平 値を求める 接触面がアクリルの場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平 値を求める 接触面がゴムの場合で、おもり(1つ・2つ)の摩擦力を5回計測し、平 値を求める エキスパートでは、道具を媒介にして操作者、記録者、モニターの役割 担が自 然と発生し、それぞれ異なる視点から実験結果を吟味していた。ジグソーでは異 なる材質を った実験結果を比較検討することを通して、全ての班が、摩擦力が 「物体と接触する面の材質と物体にかかる重力」と関係することについて説明で きた。クロストークでは、自 たちと少しずつ異なる他班の説明にうなづきなが ら、回答を修正する姿も多かった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 理科 A202 大気圧 中学 1年生 教材作成者 単元・題材 亀岡圭太(安芸太田町立筒賀中学 身の回りの不思議 ) 少量の水を入れて加熱した空き缶にふたをして冷やすと ジグソー課題 水を少量入れた空き缶を熱し、その後、水をかけて冷やすとどうなるか 期 待 す る 回答の要素 「気体⇔液体」の状態変化、真空、大気圧の3つのキーワードを用いて、水を少量 いれた空き缶を熱し、その後水をかけて冷やすとどうなるかを説明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 状態変化と温度(エタノールの膨張実験と解説資料) 真空(ポンプで真空にしたビンの質量を測る実験と解説資料) 大気圧(水を満たしたコップにシートでふたをして逆さまにしてみる実験と解説資料) 空き缶を用いた実験の結果を、科学的な根拠を持って予想することが中心的な課 題であった。ジグソー後(実験直前)には、ほとんどの学習者が自 なりに納得 できる予想を作りあげていたため、実験結果に対して、「驚き」よりも「自信」の 表情が多く見られた。教師は実験後の解説をしなかったが、 「ペットボトルの中に 少量のお湯をいれて振った後、水道水で冷やすとどうなるか」という発展課題に は、6名中5名が科学的に正しいと言える説明を書けていた。 所 感 96 第3章 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 A203 霧 学 年 中学 2年生 テ ー マ 霧はどのようにしてできるか ジグソー課題 霧はどのようにしてできるか 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 教材作成者 単元・題材 理科 A204 雲 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 雲が出来る仕組みを説明しよう ジグソー課題 雲が出来る仕組みを説明しよう エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 ) 天気の変化 雲一つない晴れた日の夜には、昼間暖められた地表から赤外線が雲にさえぎられることなく宇宙に出 ていくので、気温が下がる。気温が下がると、飽和水蒸気量が小さくなることになり、気温が露点に なると空気中の水蒸気量が水滴となって空気中に浮かんだのが霧である。 地表の温まり方(雲のない日は、赤外線が宇宙へ逃げる) 霧ができるところ(雲のない晴れた日にできる) 空気に含まれる水蒸気と温度(飽和水蒸気量は温度によって変化する) 実践者によれば、初めての協調学習で、流れにとまどう生徒もいたが、活動は じて意欲的であったとのことである。エキスパート資料の難易度は、AがB・C に比べて高かった。しかし、内容が難しいことは読みとりへの動機づけとなり、 ジグソー活動ではAの資料を中心として答えをまとめて行く様子が見られたよう である。授業の流れとしては、時間があれば効果的な実験を行いたかったとの反 省があった。 マ 期 待 す る 回答の要素 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 ) 天気の変化 空気が暖められたり、山の斜面にそって上昇すると周りの気圧が低くなるため、 膨張する。空気が膨張すると空気温度が下がり、やがて露点よりも低くなると、 空気中の水蒸気の一部が小さな水滴になる。これが雲である。 空気の上昇(空気が上昇する理由) 空気の膨張(空気が膨張する理由) 膨張した空気の温度(へこませて栓をしたペットボトルを膨らませ、温度の変化を見る) 実践者によれば、2回目のジグソー法で、生徒たちはスムーズに活動に取り組んだ ようである。ジグソー活動では、前回の「霧のでき方」で 用したエキスパート 学習の内容「飽和水蒸気量・露点」を活用して課題を解決する班も多かったとの ことで、ジグソー法による学習が既習事項の有益な活用機会となる可能性もある。 実践の工夫としては、授業の最後に雲を作る実験を取り入れて、内容の定着を図っ た点とのことである。 理科 A205 天気図 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 黒木 亨(県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 ) 天気の変化 天気図から天気を予想しよう ジグソー課題 今日の天気図から、明日の都城の天気がどうなるか予報をしよう 期 待 す る 回答の要素 今日の天気図から、一日経過すると、低気圧・高気圧が西から東に約1000km移動 する。明日は、都城付近に低気圧が移動する。前線の影響で、雨が降る。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 前線の構造と雲 前線と天気 日本付近における低気圧や高気圧の動き 授業は2時間を って行われた。教材の工夫としては、エキスパート資料に内容把 握のための課題(天気図に雲の種類を書き込む、天気図から気圧団の移動方位を 読みとるなど)を設けた点である。実践者によれば、課題を解く中で生徒同士の 話し合いが活発になり、とてもよかったとのことである。授業後の反省としては、 ジグソー課題で晴雨のみに子どもたちの注目が集まってしまい、気温や雨の強さ に注目がいかなかった点が挙げられた。 所 感 97 平成23年度活動報告書 第2集 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 A206 呼吸 学 年 中学 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 堀 呼吸 彦(竹田市立久住中学 ) 呼吸の仕組み 身体に取り込む酸素は、どのようにして二酸化炭素に変わりはき出されるのか追跡しよう。 肺を膨らませて肺胞から酸素を血液中に取り込み、細胞でエネルギーを取り出す と二酸化炭素に変わる。その二酸化炭素が血液によって肺に送られ、空気中には き出される。 外呼吸:肺胞で酸素が血液中に取り込まれ、二酸化炭素が出される。 肺が膨らむしくみ:肋間筋や横隔膜のはたらきによって肺が膨らんだり縮んだりする 細胞の呼吸:細胞に送られた酸素は、エネルギーを取り出され、二酸化炭素に変わる。 エキスパート資料に読みとりのための課題を加えたことで、課題に即して議論が 深まっている様子であった。肺が膨らむしくみについてのグループでは、身ぶり 手ぶりを えながら互いに説明しあう姿もみられた。ジグソー活動では課題に対 する説明を文章にまとめるのに時間を要したが、子どもたちは集中力を切らさず に取り組んでいた。 理科 A207 秋の自然 小学 4年生 教材作成者 単元・題材 林田恭二(国富町立八代小学 生き物のくらし⑶秋の自然 ) 動植物の様子が秋に変化するのは何のため ジグソー課題 水温や気温が下がって、秋の生き物の様子が変わったのはなぜだろう。 期 待 す る 回答の要素 秋になって気温や水温が下がると、生き物の数が減ったり、活動がにぶくなった りしている。これは、生き物に合った冬への準備をしていると えられる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC サクラ:葉が落ちて、枝に芽がついているのはなぜかを える。 ヘチマ:成長が止まり、たねを作っているのはなぜかを える。 カマキリ:カマキリが、卵(たまご)をうんで死んでしまうのはなぜかを える。 生徒たちは多くの参観者に囲まれて緊張した様子で活動に取り組んだが、アン ケートの主観評価では、全員が「とてもたのしかった」、または「たのしかった」 と答えていた。多くのグループから、 「春に新しい命をうむための準備をしながら 冬を過ごす」、「種や卵で命をつなぐ」といった期待を超える見解が出てきた。し かしいくつかのグループでは、話し合いの形式にこだわって、議論がうまくつな がらない様子も見受けられた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 理科 A208 原発 中学 3年生 教材作成者 単元・題材 堀 彦(竹田市立久住中学 科学技術と人間 ) 原発は必要か 原子力発電の必要性について様々な角度から えよう。 原子力発電について様々な角度から調べたことを 流することにより、原子力発 電に関する確かな知識をふまえて、その必要性について自 なりに えを持つこ とができる。 原子力発電の仕組みについて原料、炉の仕組み、安全対策、立地条件の観点で調査 世界と日本のエネルギー資源や事情について調査 エネルギーに関する法律など、人々の暮らしと原子力発電の関係について調査 この実践は、原子力発電についての調べ学習にジグソー法の形式を取り入れたも ので、全7時間を って行われた。エキスパート活動は4時間をかけ、担当する課 題について自 自身でインターネットを って調べ、調査結果をまとめたあとで 同じ課題の担当者が集まって班の課題にせまった(各2時間)。その後、ジグソー 活動を行い、 「原発は必要か」という問いについて、ABCの調査結果を比較検討し ながら、各自が自 の答えを作った。 98 第3章 【社会 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 社会 A101 ハイブリッドカー 学 年 小学 5年生 テ ー 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 大久保朋広(五ヶ瀬町立上組小学 自動車をつくる工業 マ なぜ今、日本の自動車産業はハイブリッドカーで勝負しているのか ジグソー課題 なぜ今、日本の自動車産業はハイブリッドカーで勝負しているのか 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ) ガソリン車、ハイブリッドカー、電気自動車のメリット、デメリットを学ぶこと や、日本の自動車技術について学ぶ活動を通して、日本の自動車産業に対する取 組を知る。 自動車のしくみと環境 車の普及台数 日本の自動車技術 「環境」、 「普及台数」、 「技術」の3つの観点から、ガソリン車、ハイブリッドカー、 電気自動車を3段階で評価し、比較検討を行った。どのジグソーグループも評価結 果は「同じ」になったが、その理由は多様であった。また授業後のアンケートで は、 「どうして石油が未来になくなるのか」、 「外国でハイブリッドカーの値段はな ぜ高いのか」といった新しい課題も多様に出てきた。自 なりの納得は、自 な りの疑問を生み、次の学びへとつながる。 社会 A102 元寇 中学 1年生 教材作成者 単元・題材 原島秀樹(南小国町立南小国中学 モンゴルの襲来と日本 ) 元寇から学ぼう―人権教育の視点から― ジグソー課題 元寇で日本が勝ったのはなぜか 期 待 す る 回答の要素 元寇を多面的に 察し、 正に判断する活動を通して、 「争うことは人権侵害の一 つ」であることに気づき、「人間関係」について自 の えを持つ。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 元軍の構成 元と東アジアの国々との争乱 日本の人たちのはたらき 所 この授業は、人権教育研究指定 の研究発表として、元寇を通じて「人のまとま り」の大切さを学ぶことを目標にデザインされた。A103元寇の教材と比較してい ただくと、同じ「元寇」の単元でジグソー法を用い、多国間の関係に焦点をあて た授業でも、ねらいや「柱となる課題」の設定によって、多様な授業展開があり 得ることがわかる。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 社会 A103 元寇 中学 1年生 教材作成者 単元・題材 面矢和弥(有田川町立石垣中学 ) 元の襲来と鎌倉幕府のおとろえ マ 元寇はなぜ起こったのか ジグソー課題 元寇はなぜ起こったのか 期 待 す る 回答の要素 元・高麗・鎌倉幕府のそれぞれの立場から元寇を多面的・多角的に が起こった理由を説明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 元の事情 高麗の事情 鎌倉幕府の事情 所 資料の難度が高く生徒の理解が不安視されたが、生徒たちは、各国の政策や国内 事情などの諸要素を、囲みや矢印を って図式化しながら、元寇の起こった理由 について構造的な説明を作っていった。この教材は、大学生や大人を対象に実施 した事例でも、それぞれの既有知識に応じて充実した学習が展開されている。 感 99 察し、元寇 平成23年度活動報告書 第2集 【社会 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 社会 A201 馬 学 年 中学 1年生 テ ー 教材作成者 単元・題材 面矢和弥(有田川町立石垣中学 日本の古代国家の形成 マ 大谷古墳から馬につける が出土したのはなぜだろうか ジグソー課題 大谷古墳から馬につける が出土したのはなぜだろうか 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ) 「大和でもかなり位の高い和歌山の王が、朝鮮半島に出陣しその戦利品として手に入れ、権威を象徴するものとして 墓に飾られた」、「大和でもかなり位の高い和歌山の王と、朝鮮半島の国々(カヤ)とは、 易などで親しい関係であっ た。友好の印に馬 をプレゼントされ、権威を象徴するものとして墓に飾られた」など。 大和王権と和歌山についての資料 和歌山と東アジアの国々との関係についての資料 和歌山における渡来人についての資料 生徒のアンケート「わかったこと」の例:紀ノ川が「1つのげんかん」だというの がけっこう意外でした。馬ちゅうは身 の高い人しか持ってなかったから、身 の高い人の墓(古墳)から出てきたと思いました。 難しい資料だったが生徒たちは限られた時間で読みこみ、普段大人しいという生 徒もふくめ大変意欲的に発言していた。授業後は「頭を って疲れた」という感 想がきかれた。 社会 A202 米 小学 5年生 教材作成者 単元・題材 大久保朋広(五ヶ瀬町立上組小学 米づくりのさかんな庄内平野 ) 日本の米づくり なぜ、日本の米の生産量は減っているのだろうか 農業人口が減少するとともに、農家の高齢化も進んだことで、米の生産量が減っている。パンの消費量が増えるなど、 日本人の食生活も欧米化している。さらに、国が減反や転作などを農家に奨励したことにより、作付面積も減ってき た。生産量が減った原因は、色々な立場の事情が複雑にからみあっている。 農業人口の減少・高齢化についての資料(生産者の立場) 日本人の食生活の欧米化についての資料(消費者の立場) 生産調整による作付面積の減少についての資料(国の立場) 授業内容は子どもたちの印象に強く残ったようで、アンケートの記述量はどの生 徒も非常に多かった。特に「もっと知りたくなったこと」の欄に豊富な記述がみ られたのは特徴的である。例としては「なぜ生産調整を行ってお米が減ってきて もお米づくりを再開せずにいたのか」、「お米は、いつの時代から作られはじめた か」などがあり、ジグソー法による授業の経験が次なる学習への動機づけとして 機能している様子がうかがわれる。 社会 A203 島原 中学 2年生 教材作成者 単元・題材 吉住 (九重町立飯田中学 江戸幕府の成立と鎖国 ) 島原の乱 なぜ江戸幕府は、島原・天草一揆に12万余りの大軍を送り、徹底的に討伐したのだろう 幕府は支配体制確立のために、身 制度に反するキリスト教の教えを弾圧したかった。プロテスタン トで布教を望まないオランダと 易を行うことで、南蛮貿易からの利益を失うことに対する懸念もな くなったので、島原・天草一揆を徹底的に弾圧することが可能だった。 身 制度の幕府にとっての重要性についての資料 カトリック諸国の布教と植民地化の脅威についての資料 キリスト教諸国との貿易の莫大な利益についての資料 実践者によれば、エキスパートの資料が「少しだけ難しく、時間が足りなかった」 ために、 「文章を減らして、視角的な資料から読み取れる時間を確保すべきだった」 とのことであった。しかし生徒たちは真剣に授業に取り組み、コミュニケーショ ンの苦手な学力的に厳しい生徒にも発言の機会があり、懸命に読みとこうと努力 する姿が見られたという。 100 第3章 【社会 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 社会 A204 エネルギー 学 年 中学 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 南畑好伸(有田市立文成中学 ) 資源・エネルギーからみた日本 資源とエネルギー ジグソー課題 日本は今後どの発電に力を入れるべきか∼火力・原子力・自然エネルギー∼ 期 待 す る 回答の要素 持続可能な社会を構築するためには、火力・原子力・自然エネルギーの特性を理 解し、バランスよく組み合わせることが大切だ。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 火力発電についての資料(メリットとデメリット) 原子力発電についての資料(メリットとデメリット) 自然エネルギー発電(メリットとデメリット) 子どもたちのアンケートの「知りたくなったこと」の欄には、「各班が 自然エネ ルギー> を一位にした理由が少しわからなかった」というように他のグループの えに興味を持つものや、「世界の発電がもっと知りたくなった」といったコメン トがあった。実践者によれば、エキスパートの資料の構造をそろえ、ジグソー活 動で他者から情報を得ることへと動機づける工夫を行ったことで、相互作用を促 し、多面的な思 が可能になったとのことであった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 社会 A205 日米開戦 小学 6年生 教材作成者 単元・題材 加藤裕邦(五ヶ瀬町立坂本小学 ) 長く続いた戦争と人々の暮らし 太平洋戦争開戦の理由 中国と戦っていた日本が、真珠湾(アメリカ)を攻撃したのはなぜだろう。 領土拡大を狙いつつ資源をアメリカからの輸入に頼っていた日本の事情、西欧諸 国とともに日本の大陸進出を警戒するアメリカの利害対立をふまえ、日米開戦の 理由を説明する。 日本の状況 日本とアメリカの関係 日本と当時の世界状況 課題は子どもたちにとってレベルの高いものであり、課題解決への意欲を引き出 すことができた。エキスパート活動では、内容豊富な資料を出来る限り理解しよ うと集中して取り組む様子が見られたが、それだけにジグソー活動で課題解決に 必要な情報の取捨選択が難しくなる傾向もあった。エキスパート資料にジグソー と一貫した問いを設けるなど、読解の視点を与えて読みとりを支援するような工 夫が必要かもしれないという反省があった。 社会 A206 日清・日露 小学 6年生 日清・日露戦争はなぜ起きた 教材作成者 単元・題材 間瀬智広(高浜市立翼小学 世界に歩み出した日本 ―ビゴーの絵から ) えよう― 日本と中国、日本とロシアは、なぜ戦争をしたのか 朝鮮に対する主導権をめぐり、日清戦争が起こった。戦後、清は朝鮮への影響力を失う。様子をうかがっていたロシ アは、満州、さらには朝鮮へと影響力を拡大する。ロシアへの反発を強める日本は、日英同盟を結ぶ。ロシアは、イ ギリスとも日本とも対立していた。朝鮮と満州をめぐり、日露戦争が起こった。 日本の立場からの資料(日清戦争・日露戦争) 中国の立場からの資料(日清戦争) ロシアの立場からの資料(日露戦争) エキスパート資料は情報量が豊富で難易度は比較的高かったが、情勢をわかりや すく擬人化したビゴーの絵が、内容を自 なりに言葉にするための適切な足場か けになったようであった。実践者によれば、事前事後のワークノートにおける子 どもの記述や事後アンケートは「なぜ戦争が起こったのか」、「どこをめぐって戦 争をしたのか」をおさえられており、ねらいを達成できたとのことであった。 101 平成23年度活動報告書 第2集 【社会 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 社会 A207 工業地帯 学 年 小学 5年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 工業地帯はなぜ海 教材作成者 単元・題材 川口勝寛(有田川町立鳥屋城小学 ) 工業の発達とわたしのたちのくらし いか なぜ日本の工業は太平洋ベルトに集中しているのだろうか。 原料やエネルギー資源は、海外から によって輸入されている。工業地帯で製造 された工業製品の多くはコンテナ によって海外へと輸出されている。また、主 な工業地帯・工業地域の誘致・発達により、人口が集中している。 原料の輸入方法についての資料 工業製品輸出方法についての資料 日本の人口についての資料 実践者によれば、資料に社会見学での経験や工業地帯、工業地域名や太平洋ベル トといった既習事項をのせておいたことは、子ども自身が既有知識と新しい学習 内容を結びつけて理解を深めることに効果的だったようである。子どものアン ケートからは「全都道府県の人口を知りたくなった」、「輸出入に飛行機を わな いのはなぜか」など、次の学習につながる問いが生まれている様子がうかがえた。 社会 A208 兵農 中学 1年生 離 教材作成者 単元・題材 原島秀樹(南小国町立南小国中学 ) ヨーロッパ人との出会いと全国統一 豊臣秀吉はどんな社会を作ろうとしたのか 豊臣秀吉はどのような社会をつくったのだろうか 豊臣秀吉は太閤検地や刀狩、身 統制の政策を行って、全国の土地を調査記録さ せたり、武器を取り上げたりして旧勢力の権力を奪い、土地や人々を支配下に置 いた。結果的に、秀吉は兵農 離という、新しい社会の仕組みをつくった。 太閤検地についての資料 身 統制令についての資料 刀狩令についての資料 生徒の「わかったこと」より:秀吉は太閤検地、刀狩令、身 等整理を出したこ とで、年貢を確実におさめさせ、経済を安定させたことがわかりました。農民は 一揆もおこせずに苦しくなって、どんな思いなんだろうと思いました。 実践者によれば、50 を貫く学習課題を設定できたことで、終始、生徒は1つの課 題に対する自 の えを追い求めることができ、満足感を得ることができたとの ことである。 社会 A209 太平洋戦争 小学 6年生 太平洋戦争はなぜ起きた 教材作成者 単元・題材 間瀬智広(高浜市立翼小学 ) 長く続いた戦争と人々の暮らし ―日・米・英の立場から― 日露戦争で協力していたイギリスやアメリカと、日本はなぜ戦争することになったのだろうか 日本が、中国や東南アジアでの利益をめぐってイギリスやアメリカと対立を深め て戦争に至るプロセスについて、「三国同盟」、「武器や資源の輸出入」、「英・米と 他の西欧諸国の関係」といったポイントをふまえて説明する。 20世紀初期∼太平洋戦争開始までの日本の動き 20世紀初期∼太平洋戦争開始までのイギリスの動き 20世紀初期∼太平洋戦争開始までのアメリカの動き 教材作成者は、単元を通して、豊富な資料を読んで自 なりの説明を作るという 活動を重視した授業を計画しており、その一環として知識構成型ジグソー法の実 践が行われた。子どもたちは、自身の記述について「こういうこと 」と確認し たり、資料や記述を見せ合うなどの活動を通して、回答を深化させていく様子が みられた。 102 第3章 【社会 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 社会 A210 豊臣秀吉 学 年 中学 1年生 テ ー 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 髙垣和生(有田市立初島中学 ) ヨーロッパ人との出会いと全国統一 マ 豊臣秀吉が最も強い思いを持って行った政策は ジグソー課題 豊臣秀吉が最も強い思いを持って行った政策は 期 待 す る 回答の要素 「兵農 離」「朝鮮出兵」「大坂城築城」という3つの政策を通して秀吉が作ろうと した、豊臣氏が長期政権として君臨できる社会のイメージを、自 の言葉で語る エキスパートA エキスパートB エキスパートC 兵農 離についての資料 朝鮮出兵についての資料 大坂城築城についての資料 所 生徒の「わかったこと」より:大坂城のことがわかった/豊臣秀吉は刀狩りなどを していたので頭のいい人だと かった。 生徒の「わかったこと」には、授業で提示された3つの政策のうち1つに触れたも のが多かったのはジグソー活動で3つの政策を比較検討することを促す課題を出 したことが影響しているかもしれない。生徒の授業満足度は概して高かった。 感 103 平成23年度活動報告書 3. 高 第2集 での実践―「県立高 本節では、「県立高 学力向上基盤形成事業」― 学力向上基盤形成事業」で研究推進委員が取り組んだ協調学習を引き起こす授 業づくりの成果物として、2年間で作成された知識構成型ジグソー法を用いた教材のリストを掲載す る。「県立高 学力向上基盤形成事業」における各教科の協調学習の授業づくり研究の成果と課題とし ては、あわせて本報告書第2章第3節4項の各教科担当指導主事による振り返りを参照されたい。 掲載した教材は、平成22年度開発 平成23年度開発 民4、美術5、家 が国語7、外国語6、数学4、理科1、地歴1、美術2の計21教材、 が国語12、外国語8、数学7、理科と数学のコラボレーション1、理科11、地歴4、 科3の計55教材、 計76教材である。これ以外にも実践例はあるが、原則としてCoREF が直接あるいは映像で参観したもの、教材開発に携わったものを中心に、必要なデータがそろってい る教材を収録した。 なお、リストに収録されている教材の授業案、実施教材(エキスパート資料、ワークシート等) 、実 践者の授業後コメントについては、本報告書付属のDVDに収録した。また、いくつかの教材では、子 どもの記述もあわせて収録している。 以下、教材リストの見方について説明する。 教科・No」は本報告書における当該教材の識別番号である。「A」は「新しい学びプロジェクト」 、 「S」は「県立高 学力向上基盤形成事業」の開発教材をそれぞれ表している。また、百の位の数字 「1」は「平成22年度」、「2」は「平成23年度」の開発教材を表しており、下2ケタは原則実践順を示す 教科ごとの年度内の通し番号である。 教材作成者」は教材を作成した研究推進(委)員の作成当時の所属、氏名であり、学年、単元も実践 当時のものである。中には複数の学年、単元で実践された教材もあるが、ここではオリジナルの教材 作成者による最初の実践時のデータのみ記載している。 テーマ」は、CoREFが設定したその教材のタイトルである。 ジグソー課題」はその授業の中心となるジグソーグループで取り組む課題であり、「期待する回答 の要素」はその課題に対して授業の最後に出してほしい答えの要素である。 エキスパートA B C」とあるのは、「ジグソー課題」に答えを出すための部品であり、それぞれの エキスパートグループがこの内容について 担して学んでくることになる。エキスパートの数は多く の教材で3つだが、2つのものや4つのものも存在する。 所感」の欄には、実際の授業の様子や子どもの記述、アンケート結果についてのCoREFの所感及び 実践者の授業後の振り返りコメントからの抜粋が含まれる。 104 第3章 (1)教材リスト 【国語 平成22年度開発教材】 国語 S101 わたしが一番きれいだったとき 教 科 ・ № 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 寺嶋 毅(春日部女子高 ) 『わたしが一番きれいだったとき』 『わたしが一番きれいだったとき』 ジグソー課題 茨木のり子が『わたしが一番きれいだったとき』の詩を通して言いたかったことは何か 期 待 す る 回答の要素 作者の生き方や作品の時代背景、表現の特徴をふまえ、詩のテーマを多角的かつ 主体的に読みとり、この詩の魅力を効果的に伝えるキャッチコピーを える。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 詩の時代背景 表現の特徴 作者の生き方 所 作品に対する生徒の読みは、詩の語句自体をとらえた直観的なものから、詩に書 かれていない作者のメッセージを感じとるまでに深まった。また、学習課題を超 えて新たな疑問を見出している生徒も多く、主体的に学習に取り組んだ様子がう かがわれる。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 国語 S102 三大和歌集 高 1年生 教材作成者 単元・題材 板谷大介(浦和高 和歌 ) マ 三大和歌集の特徴を比べてみよう ジグソー課題 三大和歌集の特徴を比べてみよう 期 待 す る 回答の要素 それぞれの和歌集の特徴をふまえた具体的な歌の鑑賞をふまえ、三大和歌集の作 風や特徴を理解する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 『万葉集』の恋の歌の鑑賞 『古今和歌集』の恋の歌の鑑賞 『新古今和歌集』の恋の歌の鑑賞 生徒の活動は非常に活発であった。課題に対する生徒の理解は、授業前には収録 歌数や「日本最古」といった各歌集についての<情報>が中心だが、授業後には 収録されている和歌の特徴と結びついたものへと変化している。また、<文化とし ての和歌>のように、教材に含まれていない視点が出てくるなど、生徒たちは他 教科での学習とも結びつけながら、課題についてそれぞれイメージをふくらませ ていた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 国語 S103 漢詩鑑賞 高 1年生 教材作成者 単元・題材 竹部伸一(越ヶ谷高 漢詩 ) 漢詩の鑑賞法 漢詩鑑賞のための方略を言葉でまとめ、実際に漢詩を鑑賞してみる 漢詩の鑑賞を深めるためには、書かれた言葉から、作品内の視点を見つけ、そこ から見える情景を想像し、さらにその情景を見ている語り手や登場人物の心情を 想像すると良いということを理解する。 「自 なりの発見」をすることで短歌を読むことが楽しくなったと述べてある文章 情景を理解するには、登場人物や語り手の視点を設定してみるとよいと述べてある文章 心情を理解するには、登場人物や語り手が見ている「見え」を生成してみると良いと述べている文章 生徒たちは、鑑賞法についての文章を読み、 えを出し合ったうえで実際の漢詩 の観賞を行うことにより、観賞法が自 なりの言葉でまとめなおされて記憶する ことができたようである。「想像」というキーワードは多くの生徒のアンケート記 述に出てきていた。 105 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S104 歌物語 学 年 高 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 藤井嘉子(吉川高 短歌 ) 歌物語を作ってみよう ジグソー課題 歌物語を作る 期 待 す る 回答の要素 短歌の表現に即して和歌を解釈し、その解釈をふまえて歌物語を作る活動を通し て短歌を味わう。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 歌物語のテーマを える 歌物語の種を見つける 物語の成立条件=物語の骨組みを作る 所 アンケート結果より、生徒たちは概ね、互いに意見を出して聴き合うことで、歌 物語を作る楽しさや、他者との視点の違いを実感できたと えられる。一方で、 学習方法の満足度に2以下を選択している生徒が計2名いた。物語作りという、自 の感性を表現することに抵抗がある生徒への対応が、今後の課題として えら れる。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 国語 S105 ジェンダー 高 2年生 教材作成者 単元・題材 飯島 意見文 (戸田翔陽高 ) マ ジェンダーとは何か ジグソー課題 ジェンダーとは何か 期 待 す る 回答の要素 「刷り込み」「呪縛」「こだわり」の3つの概念を中心にジェンダーとは何かを理 解し、望ましい「あり方・生き方」について える。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「拒食・過食 男たちがヤバイ」(AERA 2000.5.1) 「週刊文春」「女性自身」新聞広告見出し 2010.6.10 東京新聞 「恋愛しない女たち」(AERA 1999.12.6) 所 参加した生徒たちは「ジェンダー」によって社会や個人の生き方が無自覚に規定 されていることの問題を自 なりの言葉でとらえ、それをふまえて自 の生き方 について えることができたようである。欠席者が多かった点からは、グループ 活動そのものに抵抗感を持つ生徒をどのように巻き込んでいくかという課題も見 えてきた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 S106 高瀬舟 高 2年生 教材作成者 単元・題材 畑 文子(富士見高 『高瀬舟』 ) 『高瀬舟』―喜助の行為をどう意味づけるか― ジグソー課題 「お奉行様」として主人 期 待 す る 回答の要素 小説『高瀬舟』の登場人物(喜助)の人となりや行動を読解した上で、彼のとっ た行為を意味づけ、評価することができるようになる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「 困と自殺」 「安楽死の是非」 「親族殺人/自殺幇助」 所 エキスパート活動の資料の内容が比較的難しく、 量も多かったため、はじめは あまり活発に話し合いが起こらなかった。しかしジグソー活動が始まると説明と 質問の 換を通して徐々に話し合いが活発化し、全グループが喜助の行いと内面 の葛藤を自 なりに理解したうえで判決を導き出すことができた。 感 喜助に対する判決文を 106 える 第3章 【国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S107 漢詩 学 年 高 2年生 テ ー マ 漢詩の 作 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 小池 漢詩 章(秩 高 ) 作 ジグソー課題 「晩秋即事」という題で漢詩を 期 待 す る 回答の要素 漢詩作成の手順とルールをふまえて漢詩を完成させる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「詩語表の見方」 「漢詩作成上の注意点」 「漢詩作成の手順」 所 この授業では、詩語表から漢字を選んで漢詩を 作するジグソー活動において、 特に活発に話し合いが起き、全グループが個性的な『晩秋即事』を完成させた。 「特定の音の漢字群から漢字を選んで、各グループなりの詩句をつくる」という ような「規則のある表現活動」は、活発な話し合いを引き起こすのに適した課題 と えられる。 感 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S201 茨木のり子 学 年 高 2年生 テ ー マ 作する 教材作成者 単元・題材 藤井嘉子(吉川高 詩の観賞 ) 茨木のり子の詩を鑑賞する ジグソー課題 茨木のり子の詩の特徴を理解し、作者への手紙の形式で自 期 待 す る 回答の要素 茨木のり子の前向きで時代に流されない生き方を詩から読み取り、それに対する 自 の思いを表現する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 『わたしが一番きれいだったとき』 『自 の感受性くらい』 『椅りかからず』 所 ジグソー活動で、作者の年譜を参照しながら、詩の特徴をまとめていく過程で、 生徒たちは茨木のり子の自立的な生き方と詩に込められたメッセージを読み取っ ていった。感想を「手紙形式」で書かせたことで、読み手を意識した具体的で豊 かな文章を書くことができた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 S202 こころ 高 2年生 教材作成者 単元・題材 たちの感想を書く。 板谷大介(浦和第一女子高 こころ ) 『こころ』−先生・K・お嬢さんの視点から− ジグソー課題 先生・K・お嬢さんはそれぞれのどのような人物か 期 待 す る 回答の要素 各々の登場人物について生徒が他の生徒と話し合いを行い、それを通じて、生徒 が作品解釈、 え、意見、感想等を提示し、その根拠・理由なども述べる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 先生はどのような人物として描かれているか Kの自殺の原因は お嬢さんはどのような人物として描かれているか 所 生徒は、エキスパート、ジグソー、クロストークと自 の えを発展させるのに えそうな他者の えをどんどん取り入れて読みを深めていった。例えばある生 徒は、授業前には『こころ』は「エゴイズム」の小説だとまとめていたが、授業 後には「私」の人間らしさが多様な面から見られ」ることや「人物像がはっきり している」ところに魅力を感じると回答していた。 感 107 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S203 メディア 学 年 高 1年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 赤沼佳幸(上尾鷹の台高 現代文「実用の文書」 ) 現代文「実用の文書」―メディアリテラシーを身につける― マスメディアの情報に隠れている「作り手側の 何か 」とは何か メディアを通して知る情報は「作り手の主観・視点によって構成された出来事の 一部」であることに気付かせるとともに、メディア情報に対し、少々の「疑いの 目」も必要なのではないかという意識を喚起する。 同一の火事について報じた新聞記事を読み比べる 同一の事件について報じた新聞記事の見出しを比べる 同一人物について異なる観点から説明した2つの文章を比べる 多くの生徒が、作り手の主観によって新聞などの文章から受ける印象が異なるこ とを知ることができ、期待する要素を含んだ回答を書いていた。実際の新聞記事 などを素材とした資料は、生徒の興味をひいていた様子である。会話はあまり活 発ではなかったが、プリントを見せ合うなどしてグループ内で回答を比較検討し ている姿が見受けられた。 国語 S204 死の哲学 高 3年生 教材作成者 単元・題材 寺嶋 毅(春日部女子高 ) 評論「癒しとしての死の哲学」(小浜逸郎) 『癒しとしての死の哲学』―末期患者への告知はどうあるべきか― 末期患者に対する「告知」はどうあるべきか。 ・病気の「告知」が末期患者の人生の最期を豊かなものとした「条件」(一人称的視点) ・夫の病状を「告知」されなかった妻の「死の受容」について(二人称的視点) ・望ましい「告知」のあり方とは(三人称的視点) 一人称の死(「告知」による「死の受容」と「豊かな生」の実現) 二人称の死(夫の病状を「告知」されなかった妻の「死の受容」) 三人称の死(他者としての医師と「告知」のあり方) 生徒達は、ガン告知という重いテーマに対し、真剣に向き合って、どうあるべき かを探っていた。ジグソー活動へ移行した際もすぐに話し合いに取りかかり、生 徒たちの関心が高まっていることが見受けられた。あるグループでは、それぞれ が発表した後で、「とりあえず告知はした方がいい」という立場を決め、では、ど うあるべきか、という、本時のポイントに取りかかることができていた。 国語 S205 原発 高 2年生 教材作成者 単元・題材 竹部伸一(越ヶ谷高 小論文の書き方 ) 小論文を書く「原発は必要か」 ジグソー課題 原子力発電を推進すべきかどうかについて、あなたの意見を述べなさい。 期 待 す る 回答の要素 「なるほど、そういう え方もあるかもしれないけれど、やっぱり私は、こう思 う」(反論に配慮して、自 の意見を書く) エキスパートA エキスパートB エキスパートC 原子力発電はコストがかからない。 原子力発電はCO を輩出しない。 原子力発電所が 設される地元を豊かにする。 最初、生徒のほとんどは原発に反対であったが、原発賛成の文章をエキスパート 活動で読むことによって、原発の利点を理解し、それに対する反論を えていた。 ある生徒は、賛成側の立場を取っていたが、話し合う中で、反対側の意見も知っ ておくことは大事、という発言をグループ内でしていた。授業の終わりには、多 くの生徒が、もっと原発について知る必要がある、という課題意識を持つように なった。 所 感 108 第3章 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S206 源氏物語 学 年 高 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 畑 文子(富士見高 源氏物語 ) 古典講読『源氏物語』 若紫への思いの を綴るラブレターを、光源氏に成り代わって作成する 須磨蟄居を決意したのは、自らの保身のためだけではなく、若紫、夕霧、東宮を 守りたいという自覚が芽生えつつあること。男性として成長していく光源氏、女 性として成長していく若紫の二人が、運命の赴くままにひかれあう様。 須磨行きを決意した契機・目的・心残り 須磨とのいう場所について・そこで体験した3月の不思議な出来事 若紫とのやり取り・彼女の悲しみと成長 このクラスでは、1年間を通じてジグソーによる源氏物語の講読を行っている。基 礎学力に課題のあると言われる生徒たちだが、注釈のついた古文をグループで相 談しながら読み解き、その都度彼らの実態に合わせた課題に答えを出す活動を繰 り返すことを通じて、自 たちなりの『源氏物語』理解を深め、『源氏物語』の世 界を楽しんで味わうことができるようになってきている。 国語 S207 こころ 高 3年生 教材作成者 単元・題材 畑 文子(富士見高 こころ ) 『こころ』―X年後の奥さんの手紙― 「すべてを知っていた」 奥さんを仮定し、その立場からX年後私への告白手記を書く その後の『こころ』の展開として、顔の見えない登場人物である「奥さん」が実 は全てを見抜いていたという設定でプロットを再構成し、この奥さんの立場から 他の登場人物との関係について語る。 年表から「先生」について振り返る 年表から「K」について振り返る 年表から「奥さん(お嬢さん)」について振り返る 『こころ』全編を通読した後、読後感の熟成をねらって行われた。特に学力的に 困難な生徒の多いクラスであったが、ジグソーグループでは、告白文を作成する 作業を通じて物語の全体像が見えてきたのか、登場人物についての自 たちのイ メージをつぶやきながら、こだわりを持って文章を作成する様子が見られた。 国語 S208 自動販売機 高 複式 教材作成者 単元・題材 飯島 (戸田翔陽高 意見を述べる ) 意見文「なぜ自動販売機はこんなにたくさんあるのか」 何故学 の近くに7台も自動販売機があるのか。それについてどう えるか。 自動販売機は、「売ること」だけでなく、購買意欲を喚起する広告的役割を果たし ていることを えさせたい。大量消費社会で生きる上ではそのような企業戦略も あり、静観することの必要性に気づかせたい。 2010年自動販売機稼働台数・販売比率の変遷 自販機設置・減価償却可能な売上本数計算╱企業による自動販売機設置案内 2011年上半期広告費 生徒たちは、AとBの資料を対照することで「自動販売機を設置しても設置者に はほとんど利益が見込めない」ことに気づいたり、それとCの資料を組み合わせ て「企業には広告というメリットがあり、近隣に多く設置することでのメンテナ ンス等のコスト面のデメリットは薄いが、設置者にはデメリットだらけ」といっ た結論を自 たちで導きだしたりすることで、 「大人でもこのことを知らない人の 方が多いよね」と知的な興奮を味わっている様子だった。 109 平成23年度活動報告書 第2集 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S209 筒井筒 学 年 高 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 千代卓行(南稜高 伊勢物語 ) 伊勢物語『筒井筒』 ジグソー課題 『筒井筒』のレビューを作成する 期 待 す る 回答の要素 本文の記述に基づいて男、筒井筒の女、高安の女それぞれの人物像を描き、それ をふまえて、「模範」の読みを超えた『筒井筒』のレビューを作成する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 主人 の男の人物像に迫る 筒井筒の女の人物像に迫る 高安の女の人物像に迫る 所 エキスパートやジグソーでは、自 自身のイメージに基づいて豊かに想像を膨ら ませたり、これまでの授業で学んできた「古文常識」に即してそれぞれの登場人 物の行動を論理的に解釈するなど、様々な観点から登場人物の人物像に迫る様子 がみられた。クロストークでは、発表されたレビューに対して、他のグループか ら自然と感嘆の声が出ていた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 国語 S210 であること 高 2年生 日本の近代化の特色は 教材作成者 単元・題材 皆川裕紀(川越女子高 ) 『「である」ことと「する」こと』(丸山真男) ―丸山真男『「である」ことと「する」こと』への導入― 明治の日本の「近代化」とはどのようなものであったか 日本では西洋に比べて近代化が急激に進み、西洋から取り入れた社会制度や科学 技術などの物的な進化に精神性が追いつかなかったという特徴を持っていること をとらえる。 夏目漱石『現代日本の開化』(抜粋) 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(抜粋) 鈴木孝夫『教養としての言語学』(抜粋) エキスパート活動では、個人でテキストを読み込んでから課題に対する答えを見 せ合ったり、最初から えを出し合いながらグループ内で協力して読み進めるな ど、グループごとに自 たちのペースで読みを深める姿が見られた。ジグソーで は、「夏目さんの えはこうで…」などと、生徒たちが各論者の主張を自 なりに 理解して議論しており、授業の終わりにはどのグループからも期待する要素を含 む回答が出された。 国語 S211 川柳 高 1年生 川柳の 教材作成者 単元・題材 小池 川柳 章(秩 高 ) 作 ジグソー課題 いくつかの前句を提示し、それに対応する川柳を作る 期 待 す る 回答の要素 川柳の形式と表現技法をふまえ、グループで内容と語句を吟味して川柳を作る。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 川柳の文学 的背景と、前句付け 比喩・擬人法・断定の い方 サラリーマン川柳の解釈 所 川柳に初めて触れた生徒がほとんどであったにもかかわらず、ジグソー活動では 全てのグループが、学 や日常生活に題材をとった自 たちなりの川柳を作るこ とができた。普段活発に発言することがあまり多くないクラスでの実践とのこと であったが、前句に合う場面や 用する言葉について話し合いながら、川柳の完 成度を上げていく様子が見られた。 感 110 第3章 【国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 国語 S212 異境訪問譚 学 年 高 1,2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ー マ 本靖子(伊奈学園 合高 国語 合・「桃花源記」 ) 異境訪問譚 異境を訪ねる物語に「通路に共通性がある」事から、「定型」があることを理解し、他の共通性も探索する 「入り口と通路」という共通因子でいろいろな物語がくくれて、比較・ 類できることのおもしろさ を感じる。中国の六朝小説が、日本の昔話や小説、アニメーション、イギリスの童話にも当てはまる のはなぜか。異境に夢や希望を求めるなど、人の えることは共通するものがあるのではないか。 「桃花源記」の異境への入り方。陶淵明はなぜこの物語を書いたか。 「おむすびころりん」「千と千尋の神隠し」の異境への入り方。宮崎駿はなぜこのアニメを作ったか。 「ハリーポッターと賢者の石」の異境への入り方。J.K.ローリングはなぜこの物語を書いたか。 エキスパート活動では、生徒たちは、それぞれのテキストを読み込んで、書かれ た内容に戻りながら課題に取り組んでいた。ジグソー活動の発展的な課題では、 一転して、大変多様な意見や感覚が語られていた。、クロストークでは「空間の移 動は狭い通路を通ることが多く、時間の移動は広い通路、例えば浦島の海のよう な、を通って語られることが多いのではないか」といった一段高い 察も出され ていた。 【外国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S101 関係代名詞 学 年 高 2年生 テ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 教材作成者 単元・題材 平山 努(越ヶ谷高 関係代名詞 ) 『who/whom/which/whose/that』ってどんな言葉 ジグソー課題 “who/whom/which/whose/that”は本来どのような 期 待 す る 回答の要素 “who/whom/which/whose/that”の い けについて、文法規則をふまえて説 明し、本来疑問詞と関係代名詞の い方の区別はなく、同じであることを知る。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC “who/whom”の い方を探る “which”の い方を探る “whose”の い方を探る アンケート結果から、生徒は話し合いを楽しみながら、各関係代名詞の い け について理解を深めることができたようである。関係代名詞の種類ごとに ける エキスパート教材の組み方が、関係代名詞の い けについての理解を促してい たと えられる。ただし、関係代名詞thatの い方について疑問を提示する生徒の 記述もいくつかあったことから、本教材におけるthatの扱いや位置づけに関し、今 後検討する必要があると えられる。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 英語 S102 一日3食 高 1年生 教材作成者 単元・題材 人間が1日3食食べるのはなぜ いかたをされるのか 安田やよい(春日部女子高 リーディング ―英文を読んで ) えよう― ジグソー課題 「人間が1日3食食べるのはなぜ 」という問いに対して、英語で回答を作文する 期 待 す る 回答の要素 資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作 成する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「グリコーゲンの役割」についての英文 「人間の体内時計」についての英文 「肥満」についての英文 所 授業では、エキスパートとジグソーの両方で、 「日本語で えて話し合い、英語で 表現する」というかたちで活動を行った。<文法に即して和文を英訳する>のでな く、< えたことを伝える英文をつくる>活動としての英語表現を目指した授業 と言える。生徒の感想からは、授業を通して自 の えを自 たちなりの英語で 表現するために えをめぐらせていた様子がうかがえる。 感 111 平成23年度活動報告書 第2集 【外国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S103 カレンダー 学 年 高 2年生 テ ー マ カレンダーはなぜ必要か 教材作成者 単元・題材 ―英文を読んで 小河園子(浦和高 リーディング ) えよう― ジグソー課題 「カレンダーはなぜ必要か」という問いに対して、英語で回答を作文する 期 待 す る 回答の要素 資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作 成する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「ロビンソンクルーソー」(抜粋)の英文 「逆回りの時計」についての英文 「宇宙の標準時」についての英文 所 3つの英文資料の読解、統合を通じて、生徒は文明社会における「共通の基準」の 必要性を見出し、各自の言葉で問いへの答えとしてそれを表現することができた。 また、話合いの中で「なぜ時計は右回りなのか」などの新たな問いも生まれた。 1年後に同じ問いについて回答を英語で書かせた追跡調査では、授業を通して得た 知識が保持されていることが明らかになった。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 英語 S104 康 高 1年生 康を保つためには 教材作成者 単元・題材 ―英文を読んで 池野智 (浦和高 リーディング ) えよう― ジグソー課題 「 康を保つためには何が効果的か 」という問いに対して、英語で回答を作文する 期 待 す る 回答の要素 資料からわかったことを組み合わせ、適切な英文で問いに対する正しい回答を作 成する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「各国の伝統的な栄養食」についての英文 「家族の 康法」についての英文 「睡眠と 康」についての英文 所 授業はALTを えたオーラル・コミュニケーションの授業として実施され、英語 を 用したコミュニケーションにより力点が置かれた。授業前後の記述の変化は 比較的小さかったが、活動は活発で生徒の満足度は高かった。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 英語 S105 宝探し 高 2年生 教材作成者 単元・題材 安田やよい(春日部女子高 英語表現 ) ジミーの宝探し ジグソー課題 地図の情報を組み合わせて宝の位置を特定し、宝までの道筋を教える英文を作る 期 待 す る 回答の要素 道順についての英語表現を って話し合い、宝の位置を特定し、宝にたどりつく 行き方を教える英文を作る。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 家と木の配置が記入されている地図 宝の場所とそれに一番近い木の位置関係が読み取れる図 宝の場所とそれに一番近い家の位置関係が読み取れる図 所 ジグソー活動の際、「ABCの資料のもとが1つの地図からできていること」を理解 することが活動をうまく進めるポイントのようであった。ジグソーでは全てのグ ループが宝の位置を正しく特定し、単語リストを活用しながら道順を説明する英 文を作ることができた。 感 112 第3章 【外国語 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S106 未来の車 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 小河園子(浦和高 英文読解 ) 未来の車はどんなものになるか ジグソー課題 「未来に必要な車はどんなものか」という問いの回答と回答の理由を英文で書く 期 待 す る 回答の要素 3つの自動車のデザインについてメリットとデメリットを比較検討したうえで、 適 切な英文で問いに対する正しい回答を作成する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 日産自動車の新モデルについての英文(生徒にはUrawa1として提示) 米国テスラー車の新モデル(生徒にはUrawa2として提示) ベンチャー企業BugE 社の新モデル(生徒にはUrawa3として提示) 所 単語や熟語に詳しい生徒、自動車デザインに興味のある生徒、英作文が得意な生 徒などが、各自の特性を発揮して授業に参加し、活発な活動が展開した。また、 班の意見発表では「反対意見を言う時の切り出し方」などの表現形式を活用し、 英語の得意でない生徒も含め、英語を って論点の明快な討論を行うことができ た。 感 【外国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S201 ing 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 中山厚志( 山女子高 ) 進行形、動名詞、現在 詞 3つの「ing」 ジグソー課題 3枚の絵の状況を、進行形、動名詞、現在 期 待 す る 回答の要素 状況に応じて、進行形、動名詞、現在 のっとった文を作ることができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 進行形の定義の確認、進行形を った英文の研究と作文 動名詞の定義の確認、動名詞を った英文の研究と作文 現在 詞の定義の確認、現在 詞を った英文の研究と作文 3つの文法事項は既習であるにもかかわらず、授業の最初には3つの「ing」を い けて適切な英文を書ける生徒は少なかった。しかし3つの文法事項を比較研究す る過程で、生徒たちはそれぞれの特徴と い方を理解し、授業の最後には作文の 数と質の両方が向上した。また、 「私たちって、これまで英語どうやってたんだろ う」という言葉がきかれるなど、英作文についてメタ的に える視点が生まれる といった発展的な成果もあった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 英語 S202 免許 高 3年生 詞を 詞を 教材作成者 単元・題材 い った文でそれぞれ表現する け、それぞれの文法的規則に 小河園子(浦和高 課題英作文 ) 「免許を持っていない友人に自動車を貸してくれと頼まれたら」 ジグソー課題 友人を助けたいからこそ、あえて依頼を断るための話の組み立てを 期 待 す る 回答の要素 親しい人に頼まれても絶対にだめだと断るべき場合はあり、そのほうが相手のた めになることがある。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 無免許運転を禁止する道路 通法 無免許運転幇助を禁止する道路 通法 危険運転過失致死傷の構成要件 所 生徒達は、グループの中で、書く人、話す人、聴く人、辞書で調べる人という自 然な役割 担や役割 代が生まれ、互いの かったこと、 からないことを共有 して、難しい課題に取り組んでいた。最終的にできあがった説明は、グループ間 でもグループ内でも多様であり、最後の5 間に取り組んた入試問題に対する真剣 さが、授業でどれだけ えていたかを物語っていた。 感 113 える 平成23年度活動報告書 第2集 【外国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S203 説明 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 池野智 英作文 (浦和高 ) 納得できる説明 ジグソー課題 他者を納得させる上で配慮すべきこと・必要なことは何か 期 待 す る 回答の要素 自 の選択した芸術科目の利点について、理由を示す文や比較を用いて、自 りに説得力のある説明を英語で表現する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 自 自 自 所 身近な題材を英語で話し合うことで、生徒たちの生の感覚が英語になっていた。 中には、最初、英語が苦手だということを率直に語っていた生徒もいたが、身近 な題材とグループの作りに支えられて、最後まできちんと話し合いに参加できて いた。中には、内向きの説得と外向きの説得の違いに気づいた生徒もいた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ な の選択した芸術科目の利点:音楽 の選択した芸術科目の利点:美術 の選択した芸術科目の利点:工芸 英語 S204 the last leaf 高 2年生 教材作成者 単元・題材 小澤祐介(上尾鷹の台高 『The last leaf』 ) The last leaf―“masterpiece”とは何か― ジグソー課題 物語に登場する“masterpiece”とは何かを 期 待 す る 回答の要素 ツタの葉に対するJohnsyの気持ちの変化を読み取り、Johnsyの心を動かした「最 後の一葉」の絵がこの物語における masterpiece であることを把握する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 1、2日目におけるJohnsyのツタの葉に対する 3、4日目におけるJohnsyのツタの葉に対する Behrmanがどのような人物かを読み取る 所 いくつかのグループが、masterpieceが「最後の一葉の絵」であること、「人の心 を動かすもの」であることに言及できた。授業後アンケートでは、グループで えを比較しあうことの良さがわかったという記述がみられた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 英語 S205 book review 高 2年生 教材作成者 単元・題材 える えを読み取る えを読み取る 安田やよい(春日部女子高 ) 英語Ⅱ(Reading1 The day I Met My Mother) How to Write a Book Review 英文を書く際、読み手に伝えるためにどの点に注意して書けばよいのか 一つの英文の中に主語と動詞が必要であり、適切な動詞を うと共に正しい形で 用いる。単文で読みづらい文章を、接続詞を って複文や重文に書きかえる。一 つ一つの英文の順番を整える。 主語と動詞を読み取り、正しくかつ適した動詞に修正する 単文のみの段落から接続詞の必要性を読み取る 英文を正しい順序に並べ替える 生徒たちにとっては慣れない課題で難しくはあったが、英文を丁寧に読み取り、 英文の意味を踏まえて間違いを直したり、より文章の意味が通るように修正した りする活動が協力して取り組まれていた。ジグソー活動では、各エキスパートで 学んだことを活かして間違いを直していくだけでなく、より良い英文を目指して 文章の順番を大きく修正する場面も見られた。生徒達が学んだことを積極的に活 用しており、今後の学習への応用が期待される。 114 第3章 【外国語 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 英語 S206 mermaid balloon 学 年 高 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 横田純一(庄和高 ) The Mermaid Balloon ジグソーリーディング―The Mermaid Balloon― ジグソー課題 ストーリーの流れに合うように絵を並べ替える 期 待 す る 回答の要素 情報が欠落してたり理解が不十 であっても、自 の中での推測や想像、あるい は他者の持っている理解や情報を活用することで、物語全体が理解できること。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ディジーの 親が亡くなっているという情報が欠落した英文 ディジーが風 に手紙をつけて送ったという情報が欠落した英文 誰が、どうして風 に手紙をつけて送ったという情報が欠落した英文 基礎的な英語の能力に不十 なところもある生徒が多い中、単語単語を拾って意 味を確認する生徒、それを聞きながら文章の意味を推測する生徒など、グループ で協力しながらテキストを読み進めていった。ジグソーでは、自 の担当した部 を丁寧に掘り下げる生徒や全体像を把握しようとする生徒など、それぞれの学 び方の個性がうまく活かされていた。生徒も「友達と一緒にやると、 からない ところも かる」など充実感を得ていた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 英語 S207 比較 高 2年生 教材作成者 単元・題材 どのレストランでランチする 中山厚志( 山女子高 比較 ―様々な比較表現を 3つのレストランの良さを、様々な比較表現を ) いこなそう― った文で説明する as∼as/比較級/最上級などの比較表現を って、値段・カロリー・人気・立地等 の情報をふまえ、それぞれのレストランの良さを、他と比較しながら適切な英文 で説明できる。 日本料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る イタリアン料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る 中華料理レストランについての情報を読み取り、良さを主張する英文を作る 授業の最初には、 「better than…」といった熟語を機械的にあてはめた文を作る例 が多く、生徒の英語表現は思い出せる単語や文法に制約されてしまっていたよう に感じられた。しかし、様々な情報や他のレストランの情報との比較を行う過程 で、「 the best of all って えそうじゃない 」といった言葉が聞かれるなど、 既習の文法事項と説明したい内容を結び付けて、英語表現を豊かにしていく様子 が見られた。 英語 S208 クローン 高 3年生 クローン技術について 教材作成者 単元・題材 小河園子(浦和高 リーディング ) えよう ジグソー課題 事故でペットを失った娘にクローンを与えたいという投書に回答する 期 待 す る 回答の要素 生命の一回性について エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 える。教科書で学んだ題材をより多角的に捉える。 biologistの立場からクローン技術について書かれた英文 priestの立場からクローン技術について書かれた英文 editorの立場からクローン技術について書かれた英文 ジグソー活動で生徒たちは、各エキスパートで得てきた知識やクローン技術についての既 有知識を出し合い、それらをうまく統合しながら結論を導き出そうとしていた。 【生徒回答例】Weproposeyou not to giveher cloned pet.A clonedpetisdifferentfrom thedonor in some ways. Its character is not only modified by the DNA, but also by the enviroment and surroundings in which she grow.And your daughter maybe happywhen she first get the cloned pet.But when she realize that it s not exactly the same one,she will be disappointed in the end. 115 平成23年度活動報告書 第2集 【数学 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 S101 解と係数の関係 学 年 高 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 癸生川大(越谷北高 解と係数の関係 ) 解と係数の関係―式とグラフの関連― ジグソー課題 二次方程式が異なる2つの負の解を持つ条件について解と係数の関係から見た解とグラフから見た解の関連を説明する 期 待 す る 回答の要素 二次方程式の解と係数の関係を式とグラフの関連に基づいて理解する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 判別式とグラフのy座標の関係 解の和α+βとグラフの軸との関係 解の積αβとグラフの切片との関係 生徒たちからは、「二次方程式」と「二次関数」の関連に驚いている感想が出てき た。ふだん数学を学ぶ際に単元と単元の関連をあまり意識していないことがうか がわれる。1つの主題を異なる角度から見て説明してみるという本実践のような授 業はそのような問題に対して有効かもしれない。 「話し合いを中心とした授業であ ること」また特に「ジグソー法」独特の形式に肯定的な評価をする感想がしばし ば見られたのも興味深い。 数学 S102 極限 高 3年生 教材作成者 単元・題材 大久保貴章(吉川高 極限 x=1とx→1はどう違う―「極限」とは何か― ジグソー課題 x→1のとき、x -5x+4/x -3x+2が近づく値は 期 待 す る 回答の要素 x=1とx→1の違いを具体的な計算を通して言葉で説明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ) 電卓を って極限値を概数で求める① 電卓を って極限値を概数で求める② 2次式の因数 解の復習 基礎学力に課題がある高 での実践であったが、電卓という道具の操作を媒介に、 えを出し合いながら意欲的に活動に取り組むことができた。ジグソー後、 「x= 1を代入すると0/0となるはずの式が、電卓で0.9、0.99、0.999…」と近づけてい くと「3」に近付くことの不思議さについて、「ぴったりじゃない。だけど、これ が数学なんだよ」という発言がきかれるなど、数学の面白さや不思議さを自 な りに言葉にしている生徒の様子が印象的であった。 数学 S103 理想の答案 高 3年生 教材作成者 単元・題材 野崎亮太(浦和高 答案作成 ) 理想の答案 ジグソー課題 理想の答案に求められる条件とは何か 期 待 す る 回答の要素 数学答案の「伝える」役割を自覚し、問題の背後にある数学的構造を過不足なく 表現するために必要な条件を理解する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 答案を採点・加筆修正する 答案を要約する 芸術点の採点基準を作る 所 理想の答案の書き方について、生徒たちはエキスパート資料から観点を得ると共 に、他者の答案に対する え方を媒介にして、自 の答案の書き方について振り 返ることができたようである。 「今回は理想の解答についてだったが、解法につい ても話してみてもいいかも。」という記述から、生徒の中に新しい興味が湧いてい ることも確認された。 感 116 第3章 【数学 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 S104 解法のコツ 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 山野井俊介(浦和高 数学 ) 逆向きにたどる―解法のコツをつかもう― ジグソー課題 問題を解くために役立つ 期 待 す る 回答の要素 3つの問題の解答の過程を比較検討することによって、3つに共通する「到達点を 意識して逆向きにたどる」という解法の有効性を認識する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 少なくとも1つが1であることの証明 放物線と2本の接線で囲まれた面積 数の大小 生徒の授業満足度は高く、また、数学の問題を解く上で、「逆向きにたどる」こと の有効性には概ね気づいたようである。この意味で、授業のねらいは達成されて いた。「他の問題でもためしてみたい。」という記述から、授業で理解したことを 次の学習につなげる萌芽が見られる。ただし、数名の生徒が、エキスパートの各 問題について、疑問が残ったようであり、エキスパート資料について、今後さら に検討の余地はあるだろう。 所 感 【数学 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 S201 積 学 年 高 2年生 テ ー マ 積 え方とは何か 教材作成者 単元・題材 癸生川大(越谷北高 積 ) と面積 ジグソー課題 y=x のグラフとx軸、直線x=1とで囲まれた部 期 待 す る 回答の要素 区 求積の え方をもとに、自然数の二乗の和や極限の計算などの手法を用いて 放物線と直線で囲まれた部 の面積を求める。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 区 求積の え方 自然数二乗の和 極限n→∞の扱い 積 の単元の導入として行われた授業であった。生徒たちは、 「区 し、近似して 面積を求める」という え方を軸に、数列の単元などでの既習事項を結び付け、 問題を解く過程で「積 」という概念を理解していった。ジグソー活動では資料 を見せ合いながら活発な議論が わされ、ほとんどのグループが正しい答えに到 達した。事前にジグソー課題を提示し、面積を予想しておいたのも、活動への効 果的な動機づけになっていた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 数学 S202 ベクトル 高 2年生 ベクトルで 教材作成者 単元・題材 の面積を求める 癸生川大(越谷北高 ベクトル ) える ジグソー課題 平行四辺形OABCにかかわる3点O、D、Eが一直線上にあることをベクトルを用いて示す 期 待 す る 回答の要素 どんなベクトルでも2つのベクトルで表せることをふまえて、3点が一直線上にあ ることを自 でも証明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ベクトルの実数倍、並行および3点が一直線上にある条件 ベクトルの和、 解、一次結合 ベクトルの差、内 点を表すベクトル 所 「積 」と同様に導入での実践であった。慣れないベクトルを った式を図、言 葉での説明と結び付けて解釈するのは生徒たちにとってハードルの高い作業で あったが、生徒たちは活発に話し合い、図や式を書き、示し合いながら協力して 課題を解決していた。授業後には「頭 った、頑張った」といった声がいくつも 聞かれ、生徒たちが主体的に学習に取り組んだ充実感を得たことがうかがわれた。 感 117 平成23年度活動報告書 第2集 【数学 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 S203 オイラー線 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 結城真央(越ヶ谷高 ) 平面図形「オイラー線」 オイラー線の証明 ジグソー課題 3つのパーツに別れていた証明を組み合わせてオイラー線の性質を証明する 期 待 す る 回答の要素 難しそうな課題であっても、図形の基礎的性質を用いて証明ができること。図形 の性質を一つ一つ理解していることが大切であること。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC オイラー線の証明のうち、円周角の定理、中点連結定理利用部 オイラー線の証明のうち、円周角の定理、垂線の性質利用部 オイラー線の証明のうち、平行線の性質、垂線の性質利用部 導入で、三角形の外心、重心、垂心を3グループで別々に作図し、3名が持ち寄っ た3心の図を重ねて光にかざしてみることで、3点が1直線上に並ぶという性質に生 徒自らに気付かせた。ほぼ全ての班がこのオイラー線の性質に気付いたことで、 証明に対する意欲が高まった。エキスパートの証明には、やや手こずっていたが、 ジグソー活動に入るとそれぞれの資料を組み合わせて、活発に証明に取り組み、 達成感を味わっていた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 数学 S204 ノート術 高 1年生 ノートの役割を 教材作成者 単元・題材 野崎亮太(浦和高 2次関数 ) えよう「ミスを防ぐノート術」 ジグソー課題 平方完成を、計算の技術の観点から練り上げ、理想の途中式を完成させる 期 待 す る 回答の要素 計算を誤りなく処理するためには、技術的な工夫が必要であり、その工夫を自 なりに把握する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「1行1動作」:計算に含まれる数学的な要素を 節化する 「くくりだし」:計算の基本技術の習得 「浦技の発見」:記述の空間的配置が概念の理解と不可 である エキスパート活動では、資料に盛り込まれた計算過程の工夫を、それぞれの観点 から発見していった。1年次での取組という点で、まだそれほど複雑な計算過程に なれていないこともあり、ジグソー活動の課題には、多くの班が手を焼いていた。 課題が複雑で難しいため、結果にたどり着けた班は、技術的な工夫の大切さにも 気付いたようであった。「計算ミスを防ぐ工夫」には授業後により多くの記述が あった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 数学 S205 二次方程式 高 1年生 教材作成者 単元・題材 大久保貴章(吉川高 2次方程式 ) 二次方程式のいろいろな解法 ジグソー課題 二次方程式を早く、正確に解くためにはどうしたらよいか 期 待 す る 回答の要素 問題に応じて、解き方を変えることによって、早く、正確に解くことができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 代入により解を見つける方法 因数 解による解法 平方完成による解法( 「解の 式」を導く手順) 所 授業者によると、多くの生徒たちが、理解しようとエキスパート活動に懸命に取 り組んでいた、その結果、エキスパート活動の活動時間が予想したとおり長引い てしまったということである。また、授業者は改善点について、エキスパートA班 の活動をもう少し生かす問題設定ができれば良かったとしている。 感 118 第3章 【数学 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数学 S206 二次不等式 学 年 高 1年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 小柴雄三(狭山緑陽高 ) 二次関数(二次不等式) 二次不等式の解法の仕組み ジグソー課題 二次不等式を解く 期 待 す る 回答の要素 二次不等式の解を求めるまでの流れ エキスパートA エキスパートB エキスパートC 二次方程式を解く(因数 解、解の 式) 平方完成をし、グラフを書く。二次方程式とグラフの関係を理解する。 f(x)>0、f(x)<0が表している部 を探す。(一次不等式、二次不等式で) 所 授業者によると、授業中の生徒の様子は、普段話をしてしまう生徒が協議に意識 が向き、授業の内容での協議が良くできていて、苦手な生徒は周りの友達にきく 姿勢が良く取れていたということである。また、それぞれエキスパートの活動で は、まず基礎知識練習(ウォーミングアップや復習レベルの問題)を取り入れたこ とで、取組やすくなったのではないかと えている。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 数学 S207 ベクトル 高 2年生 教材作成者 単元・題材 朝見浩和(白岡高 ) ベクトル(中線定理) ベクトル―「中線定理」を証明する― ジグソー課題 ベクトルを用いて「中線定理」を証明する 期 待 す る 回答の要素 今までに学んだ内容(基礎)の重要さに気付いて、発展問題が解ける。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ベクトルの加法・減法 内積の性質 内 点の位置ベクトル 所 授業者によると、授業中の生徒の様子は、予想した以上にグループの仲間で意見 を わしていて、会話の中で「そういうことだったんだ」など理解する言葉を聞 くことができた、その一方で単独で作業を行う生徒もいたということである。ま た、エキスパートの活動の前に証明の仕方について説明したことが良かったと えている。 感 【数学・理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 数理 S201 pH 学 年 高 3年生 テ ー マ pHの 対数を 期 待 す る 回答の要素 pHとpH=-log[H+]の 所 感 若林剛・荒田啓嗣(上尾鷹の台高 化学Ⅱ 酸と塩基 ) 式 ジグソー課題 エキスパートA エキスパートB 教材作成者 単元・題材 って、0.02mol/lの塩酸のpHを求める 式をみつけ、0.02mol/lの塩酸のpHを計算する。 [H+]=1.0╳10-n [mol/L]のときpH=nを っていくつかの物質のpHを求める 常用対数と桁数の関係をつかむ計算問題 授業は数学と化学の教員のT.T.で実践され、異なる観点からグループ活動の支援 が行われた。課題は生徒にとって難しかったようであるが、活動を通して数学と 理科の結び付きを意識できたという声がきかれた。 119 平成23年度活動報告書 第2集 【理科 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 S101 遺伝子 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 下山尚久(越ヶ谷高 遺伝 ) 遺伝子の組み換えと染色体地図 ジグソー課題 ①組み換え価をもとに、連鎖している遺伝子の染色体地図を作成する ②生まれてくる確率の低い表現型が存在する理由を説明する 期 待 す る 回答の要素 染色体地図の作成の仕方を理解し、実際にデータをもとに作成できる。染色体地 図を活用して、遺伝子の連鎖と組み換えに関する問題を解くことができる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 「染色体地図とは」 「遺伝子の組換えはどのように起こるか」 「連鎖と独立をどう見 けるか」 生徒のアンケート結果より、染色体地図とその書き方について、多くの生徒が理 解できたようである。生まれてくる確率の低い表現型という発展的な課題を え る過程で、染色体地図を活用してみることによって、染色体地図とは何かについ て生徒たちは理解を深めていた。ただし、課題②については、消化不良感が残っ たようである。課題設定やグループ支援の方法について、今後の検討が必要であ ろう。 所 感 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 S201 ろ過 学 年 高 1年生 テ ー マ 混合物の 教材作成者 単元・題材 前田雄太ら(草加西高 ) 理科 合 混合物の 離 離 ジグソー課題 塩・砂・インクが混ざった混合物から塩だけを取り出してみよう 期 待 す る 回答の要素 各エキスパートで学んだ3つの実験の知識を活かし、班で協力しながら作業手順を え、混合物を 離する実験を行う。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ろ過(実験の原理と手順について) 吸着(実験の原理と手順について) 蒸発乾固(実験の原理と手順について) ジグソー活動において、生徒たちは「塩・砂・インクが混じった混合物から塩だ けを取り出す」という課題に向けて、それぞれがエキスパートになってきた実験 手順を責任を持って行っていた。また、各手順をどのような順番で行えばよいか をグループで えながら実験に取り組み、直接そのとき手を動かしていない生徒 も目や頭を動かし、思ったことを口にしながら自 なりの 察を深める実験の授 業となっていた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 理科 S202 エネルギー問題 高 2年生 教材作成者 単元・題材 若林剛、漆原元博(上尾鷹の台高 化学Ⅰ・物理Ⅰ「エネルギー」 日本のエネルギー政策はどうあるべきか ジグソー課題 発電方法によるメリット・デメリットから自らの意見を述べる。 期 待 す る 回答の要素 各エキスパートの資料を基に、多様な エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ) えに理由をつけて意見が述べられる。 現在主力の火力発電と、水力発電のメリットとデメリット 再生可能エネルギーによる発電のメリットとデメリット 新エネルギーによる発電のメリットとデメリット エキスパート活動では、それぞれの資料を基にメリットとデメリットを検討して、 そのカテゴリーの中でもっとも普及が望まれる発電方法を、理由を含めて検討し た。ジグソー活動では、エキスパート活動に比べて、活発な議論が わされ、そ れぞれの主張が出された班が多かった。事前学習にあった原子力発電を今後進め るべき発電方法とする生徒もいて、多様な意見が述べられた。 120 第3章 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 S203 天 学 年 高 1年生 テ ー 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 前田雄太ら(草加西高 ) 理科 合 原子量・ 子量の導入 マ 天 ジグソー課題 天 期 待 す る 回答の要素 自 たちで作成した天 とティッシュ片の錘を用いて、電子天 い羽毛の羽根の重さを測定する。 エキスパートA エキスパートB 天 の腕をどうするか 軽い物質をはかるための重りの基準 自作の天 の調整がうまくいかないグループもあったが、どのグループも天 が ちょうど釣り合うと納得いくまで試行錯誤を繰り返していた。その中で、天 を 釣り合わせようと頑張る生徒、それを見ながら錘の重さを計算する生徒など、課 題に向けてそれぞれが役割を果たしていた。クロストークの際、グループで中心 的に作業していた男の子が先生に指名されてなかなか答えられないときに、向か いの大人しい感じの女の子が一生懸命助け を出していた姿が印象的だった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ―軽い物質を測る― を用いて錘となるティッシュ片を作り、羽毛の羽の重さを計測する 理科 S204 酸塩基 高 3年生 教材作成者 単元・題材 紫キャベツで焼きそばを作ったら では測定できな 下山尚久(皆野高 ) 化学Ⅰ 酸・塩基 ―酸・塩基と中和― ①紫キャベツでヤキソバを作ると何色の焼きそばができるか ②赤色のヤキソバを作るために必要な調味料は何か ①かん水の塩基性のため紫キャベツに含まれるアントシアンが青色に変色し、青 いヤキソバができる。 ②アントシアンは酸性で赤に変色するので、酸性の調味料が必要。 酸性・塩基性とは何か、及び身近な物質の酸性と塩基性 アントシアンの性質 中和とはどのような現象か ジグソー課題は生徒たちの興味を喚起し、活動は活発に行われた。ジグソー課題 に対する授業前の回答では、酸性・塩基性・中和といった概念に言及した生徒は ほとんどいなかったが、授業後の回答では多くの生徒がこれらの概念に言及し、 次時の実験後にはその割合はさらに増加した。「色の変わるお菓子も同じ仕組 み 」といった新しい問いが生まれた班もあり、身近なものと科学の世界を結び 付けて理解を深めることができていた。 理科 S205 状態変化 高 2年生 教材作成者 単元・題材 澤本純一(熊谷西高 ) 物理Ⅰ 熱とエネルギー 状態変化とエネルギー ジグソー課題 定圧変化と定積変化それぞれについて文章問題を解く 期 待 す る 回答の要素 定圧変化、定積変化、についてP-Vグラフを作成し、気体に加えた熱量Q、内部 エネルギーの変化ΔU、気体がする仕事Wを導く。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC ボイル・シャルルの法則 気体の内部エネルギー 熱力学の第一法則、気体が外部にする仕事 所 授業者によれば、今回の内容は一斉授業で1時間以上を要する 量とのことであ る。生徒たちはジグソー活動で活発な話し合いを行い、仲間と教え合いながら問 題を解く過程で、自 の担当していない内容についても、具体的な問題状況にひ きつけて理解を進めたようであった。 感 121 平成23年度活動報告書 第2集 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 S206 発芽 学 年 高 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 吉田 二(熊谷西高 ) 生物Ⅰ 種子の発芽調節 種子の発芽とジベレリンのはたらき 胚を含む部位と含まない部位で、イネ種子のデンプン 解作用がどう変わるかを予想する 種子が発芽する際、胚ではジベレリンが合成される。ジベレリンは糊 層に作用し、アミ ラーゼの合成を誘導する。アミラーゼは胚乳中のデンプンを 解し、糖を作る。胚は、こ の糖を利用し成長する。そこで胚を含まない部位では、ヨウ素デンプン反応が生じない。 デンプンと酵素アミラーゼ、ヨウ素デンプン反応について 種子の構造、胚・胚乳・糊 層とその役割 植物ホルモンについて、ジベレリンとその作用 ジグソーでの議論は活発で、男女の別なく頭を突き合わせて課題に取り組む様子 が印象的であった。ほとんどのグループが、種子の発芽のメカニズムをふまえた うえで実験結果を正しく予測することができた。結果はあまり鮮明に表れなかっ たが、生徒たちはむしろ意欲的に、授業を通して学んだ知識を活用して、 「実験結 果が鮮明でない理由」について探究を深めていた。 理科 S207 物質量 高 1年生 教材作成者 単元・題材 前田雄太ら(草加西高 理科 合 物質量 ) 物質量 ジグソー課題 オオカナダモの光合成によって発生した酸素の体積から、二酸化炭素の質量を求める 期 待 す る 回答の要素 体積や質量を物質量に変換することによって、未知の反応物や生成物の体積や質 量を比較したり計算によって導き出すこと エキスパートA エキスパートB エキスパートC モルと質量 モルと体積 化学反応式の係数 所 ジグソーグループでは、 からない部 がどのエキスパートにあたるのかを推測 し、それぞれが資料に戻りながら課題を進めていった。うまく自 の資料が理解 できていない生徒がいるグループでも、他の生徒が自 も からないながら声を かけ、協力して試行錯誤しながら答えを導くことができていた。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 理科 S208 遺伝 高 2年生 教材作成者 単元・題材 茂木尚美( 山女子高 生物Ⅰ 遺伝 マ 二遺伝子雑種の検定 雑 ジグソー課題 二遺伝子雑種の検定 雑についての入試問題を解く 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ) 一遺伝子雑種と同様の「優位の法則」を基本に、形質ごとの 離比に視点をあてる 二遺伝子雑種の 雑パターンを確認し、調べたい個体の配偶子の遺伝子型の 離比 が、生じた子の表現化型の 離比と一致するという検定 雑の意味を理解する。 一遺伝子雑種の 雑と優性の法則 検定 雑とは何か(一遺伝子雑種の場合) 二遺伝子雑種と配偶子 生徒は、前時までの学習内容を頻繁に参照しながら活動に取り組み、課題解決の 過程で新しい学習内容とそれまでの学習内容を結び付けて理解し直す様子がみら れた。授業後残って教師に質問をしながら学習を続けるグループもあった。授業 者からは、グループ支援の過程で既習事項の定着の様子を見ることができるのも、 ジグソー型授業の1つの効果ではないかというコメントが出された。 122 第3章 【理科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 理科 S209 酸化 学 年 高 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 白石佐利(戸田翔陽高 ) 化学Ⅰ 酸化還元の定義 酸化還元の定義 銅原子の立場に立って、新しい「酸化反応」の定義を える 銅原子を中心として えれば、酸素以外の化学種と結合することは、酸素原子と結 合することと違いはなく、 「電子を奪われる」 という点では全く同等である。つまり、 「酸化=電子を失うこと」という立場で えれば、すべて「酸化」として扱える。 銅線の燃焼実験 銅化合物水溶液に電気を流す実験 原子から単原子イオンが生成する仕組みを確認 ジグソー活動では、エキスパートの理解に不安のある生徒もいたが、他の生徒が 「どんな実験だったかだけでも教えて」など声をかけながら、少しずつ必要な情 報を引き出していった。反対に専門用語を並べて理解した気 になっている生徒 には、他の生徒が「それじゃ からない」「どういうこと 」などと自 たちの言 葉で探究を続けることで、改めて理解の見直しを迫っていた。説明し合いが楽し いという声があちこちで聞かれた。 理科 S210 光合成 高 3年生 教材作成者 単元・題材 奥間美穂(南稜高 生物Ⅱ 同化 ) 葉が緑色に見えるのはなぜか―光合成と光の波長― ジグソー課題 葉が緑色に見えるのはなぜか 期 待 す る 回答の要素 光合成に 見える。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 色はどうしてみえるのか 葉緑体と光吸収スペクトル エンゲルマンの好気性細菌を った光合成の実験 課題は生徒たちの興味をひくもので、あまり話さないタイプの生徒も積極的に活 動に取り組んでいた。ジグソー活動では理解のしかたの異なる生徒たちが、うま く話し手と聴き手を 代しながら1人ひとり理解を深めていく様子が印象的で あった。クロストークではどの班からも3つの資料の内容を組み合わせた適切な回 答が出され、他の班の回答を聴いて自 の回答を修正する姿もあちこちで見られ た。時間配 も適切であった。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 わない緑色の波長を跳ね返しているため、私たちの目には葉が緑色に 理科 S211 スペクトル 高 2年生 教材作成者 単元・題材 野澤優太(浦和高 ) 化学Ⅰ 有機化学 有機化合物の構造決定 H-NMR、IR、MSの3種類のスペクトルデータを元にして、未知の物質を同定する。 有機化合物の 子構造を確認できるようにしてほしい。 赤外 光法(IR)による構造決定 質量 析法(MS)による構造決定 核磁気共鳴 光法(H-NMR)による構造決定 大学レベルの内容であり難しい課題であったが、複数のグループが最後に正答を 説明できるレベルに到達していた。当初は「スペクトルって何 」という声もあ り、見慣れない言葉やグラフに戸惑っていたが、協力して資料を読み取りグラフ を見比べ、 かったこと、 からないところを互いに確認しあう中で理解を深め ていた。一見、言葉少なく取り組んでいるようでも、隣の人の作業を見ていて途 中で議論に参加している場面も見られた。 123 平成23年度活動報告書 第2集 【地歴 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 地歴 S101 中世 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 福島 世界 巖(越ヶ谷高 ・中世 ) 中世末期ヨーロッパで権力を握ったのは ジグソー課題 中世末期のヨーロッパで権力関係はどのように変化したか 期 待 す る 回答の要素 中世末期ヨーロッパにおいて「教皇」にかわって「国王」が権力を握ったことを 理解し、変化が生じた仕組みを政治・社会上の出来事をふまえて説明できる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 教皇権の失墜 百年戦争による諸侯・騎士の没落 ペストの流行による諸侯・騎士の没落 所 生徒は、中世の権力争いにより国王が権力を握ることについては、話し合いを楽 しみながら理解を深められたと えられる。一方、今後知りたいこととして、 「ジャ ンヌダルクは何をした 」や農民についての記述があった。生徒の えをより深 めるために、エキスパート資料の内容について、今後検討が必要であろう。 感 【地歴 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 地歴 S201 武の新政 学 年 高 3年生 テ ー 教材作成者 単元・題材 浅見晃弘(上尾鷹の台高 武の新政∼南北朝 マ なぜ 武の新政は短期間で崩れ、内乱が長びいたのか ジグソー課題 なぜ 武の新政は短期間で崩れ、内乱が長びいたのか 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 ) 後醍醐天皇によって 武の新政が実現したが、その政策が 家・武士の信頼を得 られず、短期間で崩壊したこと。足利尊氏によって室町幕府が開設されたが、長 期にわたる南北朝の内乱が日本全土に深刻な影響を与えたこと。 梅 論 ⇒ 新政について、天皇・ 家・武家の立場。恩賞の違い 二条河原の落書 ⇒ 武の新政による政治の混乱 南北朝の動乱 ⇒ 武家の対立と南朝と北朝が並びったった理由 エキスパート班での資料の読み取りに苦労する生徒が多かったが、ジグソー班に 移るとそれぞれが線を引いた個所を読み上げながら報告を行い、他の班の報告し た内容を必死で書き写していた。資料の読み取りより、他人の えを聞いてまと める活動の方が思 の抽象化を促したためか、最終的に課題に対して各自が答え を書くときには、多くの生徒において自 の担当資料以外のところの方がよく書 けているという逆転現象が生じていた。 地歴 S202 鎌倉仏教 高 2年生 教材作成者 単元・題材 福島 巖(越ヶ谷高 ) 鎌倉幕府(鎌倉仏教) 鎌倉仏教−日本のお坊さんはなぜ結婚しているのか− 鎌倉仏教とは何か 鎌倉仏教を生んだ僧たちは官僧と異なり、多くが 世し個人の救済を目指してい た。そのため、念仏・題目・座禅などかんたんな方法をおこなった。けがれを気 にしないで、病人の救済や葬式をおこなっている。 鎌倉仏教以前の僧は、国家に仕えた官僧である。 鎌倉仏教を生んだ僧たちは 世し、個人の救済を目指した。 世僧は死の穢れを気にしないで活動できるようになっていた。 鎌倉仏教という暗記中心になりがちなテーマであったが、生徒達は、エキスパー ト活動、ジグソー活動、クロストークを通して、鎌倉時代までの仏教と鎌倉仏教 の違いとその背景について理解を深めていた。クロストークでは各グループがそ れぞれのグループの出した答えに耳を傾け、より良い説明の構築が促されていた。 今後、生徒達が仏教について学習する中で本時の授業で学んだことが活きてくる と思われる。 124 第3章 【地歴 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 地歴 S203 岩倉 学 年 高 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 岩倉 節団 もし自 が ) 節団だったらどの国の精神に倣い国づくりをするか 「未発の可能性」として明治日本に「小国主義」選択の可能性があったこと、そ して「大国主義」選択がもたらす結果、すなわちアジア・太平洋戦争への道筋と その敗戦とは、「大国主義の破綻」であることにまで思 を巡らせること。 自治・自由の精神―アメリカ合衆国― 大国主義の精神―ドイツ― 小国主義の精神―ベルギー・オランダ・スイス― 「日本は領土も小さいし軍事力もあまりないので、「知」を育てて他の国に負けな いようにしないと」いけないので「小国主義」を選ぶなど、 料から読み取った 情報で自 たちの既有知識を組み合わせて課題に取り組んでいた。また、授業後 の感想では、多くの生徒が「実際日本はどの主義を選んだのか」、「ドイツの政策 をもっと詳しく知りたい」など、次の探究につながる自 なりの疑問をもつこと ができていた。 地歴 S204 パレスティナ 高 1年生 テ パレスティナは誰のもの マ 近藤隆行(鳩ヶ谷高 岩倉 節団 節団見聞録―何を観て、何を伝え、何を選んだか― 教 科 ・ № 学 年 ー 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 教材作成者 単元・題材 大野圭一(市立川口高 第一次世界大戦 ) ジグソー課題 イギリス人はパレスティナを誰のものにしようと 期 待 す る 回答の要素 (例1)イギリスは戦争に勝利するため、それぞれに都合のいいことを約束し、 戦後に起こりうる新たな問題には目をつぶった。 (例2)イギリスの帝国主義的圧力で、パレスティナはイギリスのものとなり、 戦後の問題は解決できると えていた。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 えていたか フサイン・マクマホン協定 サイクス・ピコ協定 バルフォア宣言 はっきりと答えが出ない課題であるため、生徒は自 たちなりのより確からしい 答えを導こうと、それぞれの条約の細かな文言を対照しながら課題を追求して いった。最終的に「イギリスのもの」「誰のものでもない」「ユダヤのもの」「英仏 露のもの」など、それぞれの根拠に基づいて多様な えが 流された。「本当は誰 のものなのか」という疑問が多くの生徒に残ったが、この疑問が次の学習への動 機づけになることが期待される。 【 民 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 民 S201 南北問題 学 年 高 1年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教材作成者 単元・題材 菅野祥憲(越谷北高 環境・国際関係 ) 南北問題」 環境」―マレーシア・マハティール首相の手紙― 環境保護を訴えるイギリスの少年に、マレーシアの首相の立場で返信してみよう マレーシアの森林伐採を一握りの金持ちのための醜いことだとして環境保護を訴 えるイギリス人の10歳の少年に対して、マレーシアのマハティール首相(1987年当 時)の立場から、発展途上国の実態を多角的に踏まえた回答を行う。 発展途上国の歴 と国内 争 発展途上国の経済 発展途上国の生活 授業の前後で生徒に手紙を書く活動をしてもらっている。授業前でも約3/4の生徒 が、国民の生活のために森林伐採が必要なことを主張しているが、授業後には全 ての生徒がこの立場から手紙を書いた。またその主張の根拠についても、授業前 には 生活がかかっている」などが主だったが、授業後には途上国と先進国の歴 的な関係や途上国の産業の弱さ、生活の実態など、各エキスパートの内容を組み 合わせた回答になっている。 125 平成23年度活動報告書 第2集 【 民 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 民 S202 フリーター 学 年 高 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教材作成者 単元・題材 木下真介(狭山経済高 ) 今日の雇用問題と対策(非正規雇用をめぐる問題) 今日の労働問題―なぜフリーターじゃいけないの― 非正規雇用の中にある大きな問題点とは何かということについて複眼的に捉える。 一義的には賃金やそこから派生する様々な生活上の格差、また雇用の不安定さという個人 的問題に気づき、さらには一個人の問題であると同時に非正規労働者が増加することによ る社会保障制度の圧迫という国家レベルでの問題点についても 察させたい。 フリーターの落とし (生涯年収の格差、 康保険の未加入など) 派遣労働者の生活と派遣切りの実態 正規雇用者と非正規雇用者の推移、社会保障の危機 生徒たちは、エキスパート活動の資料を読み解き、グループによっては、各自が 持っている知識を用いて、資料の情報を超えた深い話し合いを展開していた。ジ グソー活動では、普段おとなしい生徒も積極的に話し合いに参加し、互いに支え 合い、知識をつなぎ合わせ、非正規雇用の問題点について深めていた。最も難し かった国家レベルでの問題について気づいているグループも多く見られた。 民 S203 政治哲学 高 複式 教材作成者 単元・題材 倉成恭代(戸田翔陽高 はじめての政治哲学 ) はじめての政治哲学―「自由」か「平等」か― 「自由」と「平等」。誰もが安心して生活できる世の中に大事なのはどちらか 政治制度の概要を知り、事例から学ぶとともに、メリット・デメリットを 察し、 増税の有無、社会保障の行く末など、生活を左右する問題について、自 の納得 する意見を持ってほしい。 「みな平等だといけないのか 」社会主義の特徴、ソ連型社会主義経済が崩壊した原因 「国家はどこまで面倒を見るべきか 」福祉国家、国民皆保険制度のないアメリカの事例 「民主党政権・歴代首相の政治哲学」民主党歴代首相の政治哲学の共通点、中庸 生徒の既有知識の多様性が活かされるテーマだった。知識の多い生徒が資料から 議論を発展させたり、逆にあまり知識のない生徒が「 からない」ところにこだ わることで議論を深めたりすることができていた。実践者は普段あまり接点のな い生徒同士が活発に議論したり、普段授業に積極的に参加しない生徒が楽しそう にしていたのが印象的だったとのこと。 民 S204 ブラック企業 高 3年生 教材作成者 単元・題材 水村晃輔(富士見高 ) 労働問題(ブラック企業を例にとって) 労働基本法と労働3法―ブラック企業とはどんな会社か― ブラック企業とはどんな企業なのか、ということを えさせる。 ブラック企業とは、あらゆる部 で“常識的な”労働条件からかけ離れた企業のことであ る。しかし、どの職業にも“ブラックな”部 は多かれ少なかれ存在している。それを理 解した上で、我慢すべき辛さと、戦うべき問題を見 ける力を身につける。 賃金と勤務時間の問題 パワハラの問題 仕事のやりがい 「ブラック企業」という言葉について、生徒の知識レベルは多様であったが、最 初のウォームアップ時に話し合う中でそれぞれの知識を持ち寄って補い合ってい た。エキスパート活動では、ブラック企業の具体的事例に対して、1つ1つ具体的 に思い浮かべ実感を持って理解を深めるグループも見られた。ある企業事例につ いて「ブラックではないがグレー」といった発言も見られ、クロストークでは、 労働基準法に触れるグループもあった。 126 第3章 【美術 平成22年度開発教材】 教 科 ・ № 美術 S101 鑑賞の心得 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 高濱 (大宮光陵高 西洋美術 ) 『鑑賞の心得』をつくろう ジグソー課題 『鑑賞の心得』をつくる 期 待 す る 回答の要素 美術作品の鑑賞において、わからない作品を敬遠するのではなく、感受する糸口 を探り、主体的に鑑賞しようとする態度を育む。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC “わかる”ということ “リアリティー”について これって未完成 所 生徒のアンケート結果より、話し合いによって、鑑賞についても多様な え方が あることや、他者の意見を聴くことで視野が広がることを、生徒たちは概ね実感 したようである。一方、「やりたくない」と答えた生徒も複数いた。説明のために 資料をまとめることや、多様な意見をつなげることが難しかったことが要因かも しれない。エキスパート資料の組み方に検討が必要であろう。 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 美術 S102 日本の美術 高 1年生 ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 岩崎浩之(大宮光陵高 美術 ) 私たちは日本の美術を知っているか 日本の美術の特徴とは 日本の美術の特徴を西洋の美術における自然主義、写実主義と比較し、日本の風 土の中で培われた特有の美的感覚、日本特有の美術について自 なりに説明でき る。 日本と西洋の絵画の比較 日本と西洋の彫刻の比較 日本と西洋の陶器の比較 授業後には、「自然の素朴」、「想像力」などのキーワードを用い、多くの生徒が、 「日本の美術」の特徴を自 なりに説明できていた。ただしグループによっては、 ジグソー活動において3人の説明をメモしあうだけに終わってしまい、議論が深ま らない例もあった。「話し合いを通して理解を深める」ことへ動機づけるために、 課題の工夫が重要ではないかと えられる。 【美術 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 美術 S201 デッサン 学 年 高 2年生 テ 教材作成者 単元・題材 教材作成者 単元・題材 岩崎浩之(大宮光陵高 ) デッサン(「空間」の表現方法) 「空間」の表現方法 「空間」の表現方法について話し合い、その特徴、要素、重要点等を理解する 「自 の制作には○○の部 が不十 なので、次回の制作では△△をすることに よって「空間」を表現できるのではないか」というように、生徒各々が自身の課 題を整理、発見し、解決の方法を想定する。 デッサンにおけるモチーフのきわ(回り込み) 台(床)の平行間、奥行きを意識し、モチーフが台(床)にうつす陰影 モチーフの面の動きを意識した質感 生徒たちはエキスパート活動で、絵の空間性を出すための描き方について、実例 での描かれ方を詳細に見たり、自 でも実際に書いてみたりして、深めていた。 ジグソー活動では、各エキスパートで学んだことに加え、自身と他者の作品を相 互に見比べ、空間性を実際の製作に結びつけているグループもあった。 127 平成23年度活動報告書 第2集 【美術 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 美術 S202 抽象 学 年 高 2年生 テ ー マ 教材作成者 単元・題材 抽象なんか怖くない(西洋美術 高濱 (大宮光陵高 ) 西洋美術 (抽象画の鑑賞) ) ジグソー課題 抽象的表現の作品について積極的に鑑賞する技能を身につける 期 待 す る 回答の要素 抽象表現の意図や効果及び様々な観点に気付きながら、自らの感受性を通して作 品の表現意図を読み取り、その意味について恐れずに自身の えを述べる。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 抽象美術はいつ始まった 音楽は抽象 惹きつける力― 造性の根源 当初、抽象画について「全然 からない」という声も見られたが、最後のクロス トークでは、いくつかの抽象画を自 自身の視点から鑑賞を述べることができて いた。エキスパート活動で、生徒達は馴染みのない抽象画について、資料を協力 して読み進めていくことで、知識を身につけ、抽象画の見方を学んでいった。ジ グソー活動では、互いに学んできたことをゆるやかに統合し うことで、多様な 視点で意見を 流していた。 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー マ 美術 S203 ビジュアルブック 高 2年生 教材作成者 単元・題材 矢嶋 渉(富士見高 ) 修学旅行のビジュアルブック 修学旅行のビジュアルブック 装丁、ビジュアル資料の活用法、素材等の表現方法の要素を統合・展開し、1つのまとまった作品へ昇華する エキスパート活動を通じて得られた様々なアイデアソースや表現、参 となるデ ザインなどをグループで統合・再構成させ、多角的な視点から美しい表現へと発 展させることが出来る。 装丁・テンプレートの例 ビジュアル資料の活用法の例 素材(材料) 多様で豊富な素材を前にして、生徒たちは制作への期待を高めていた。素材を見 て、「これ好き」「いいね」といった会話から、話し合い、各エキスパートの視点 に基づいてメモを作る作業ができていた。各エキスパート活動でメモしてきたこ とを元に、ジグソー活動では、各視点を統合して、より良いビジュアルブックの 作成に取り組んでいた。 美術 S204 家紋 高 1年生 教材作成者 単元・題材 城所佳葉子(浦和第一女子高 日本の伝統文化 ) 「家紋」のデザイン ジグソー課題 家紋の存在意義を踏まえ、家紋の今後を話し合い、学 期 待 す る 回答の要素 古いものを理解し、デザインの趣旨を理解した上で、時代に合わせ再提案する。 コンセプトをたて、企画し、形にするというプロセスを経験する。 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 家紋の発祥:家紋はなぜ生まれ、発展したのか 家紋のデザイン:家紋の特徴はどのように出来上がったか 家紋に込められた祈り:家紋はどのような意味を持つか 所 制作作業を中心としたジグソーの実践であったが、実践者からは、生徒の充実感 と学ばせたいことがはっきりしたことが成果として挙げられた。また、同じテー マについて話し合った上でクロストークでお互いの班の作品の 流をすることに より、同じ目的のものを作っても違った結果になることが見てわかり、かつ説明 を聞くと納得できるという状況を担保できたということである。 感 128 の家紋をデザインする 第3章 【美術 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 美術 S205 パッケージ 学 年 高 2年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 パッケージデザインについて ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC エキスパートD 所 感 教 科 ・ № 学 年 テ ー 白井里佳子(越谷 合技術高 中国料理の食文化 ) 中国は、領土が広いため、気候や風土により料理の特徴も異なる。料理名に 食材」 「調理法」 「風味」地名」 などが含まれており、特徴が現れている。これらを踏まえ て、各系統の特徴を意識してシチュエーションにあった選択をすることができる。 上海料理 北京料理 広東料理 四川料理 生徒たちはエキスパート、ジグソーと熱心に探求を続けていた。課題に対しては、 「女子会」というシチュエーションに即して、「男性の前では食べにくいが 康的 でコラーゲンたっぷりな上海料理のすっぽんの醤油煮」、「広東料理は見た目が美 しく、淡白で日本人好みなので広東料理のフカヒレスープ」など、多様な えが でてきた。 家 S202 子育て 高 3年生 子育ては誰がするのか 感 教材作成者 単元・題材 与えられたシチュエーションから、適する系統の料理店、お勧め料理を選択する ジグソー課題 所 えよう 中国料理の食文化 子育ては誰がするのか エキスパートA エキスパートB エキスパートC ) 現代の商品パッケージが他社との差別化を図るために備えているインパクト性に ついて理解する。内容を魅力的に伝えるためのパッケージの工夫の仕方を知り、 生産者の立場から客の心をつかむような作品の製作に役立たせる。 色について 形について レイアウトについて 「オリジナルパッケージをつくろう」というテーマでこのような商品があったら いいなと思える商品を えさせ、そのパッケージを作成させる制作活動への導入 として行われた。実践者によれば、幾つかのクラスで実践を行う中で、エキスパー ト活動で全てのグループに実物を与える、エキスパートを自 たちで選ばせる、 といった工夫を行ってみることで、生徒の意見 換を活性することができたとの ことである。 マ 期 待 す る 回答の要素 工藤久仁子(越谷東高 パッケージデザイン 客の目を引くパッケージデザインに必要な要素は何か 【家 科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 家 S201 中華 学 年 高 2年生 テ 教材作成者 単元・題材 教室で協調学習を引き起こす授業のデザイン 教材作成者 単元・題材 山盛敦子(浦和高 共に生きる ) 子育ては、その子の親が中心となり、身内(祖 母等)、地域の人々、周りのたく さんの人々が支えていくこと。それぞれの立場の人が、適材適所で関わることが 必要である。 電車の中で泣いている赤ちゃん⇒赤ちゃんの泣く理由 電車の中で泣いている赤ちゃんの親⇒親の対応方法と気持ち 電車の中で泣いている赤ちゃんとその親を見ている周りの人⇒対応方法と気持ち 授業後には、すべてのグループから、「社会全体」、「両親と周りの人」が育てると いう回答が出てきた。具体的な状況をシミュレーションすることを通じて、自 にできることを「子どもが泣いていてもにらまない」といった今すぐできるレベ ルから、「子育てしやすい環境を作る」といった将来の構想まで、一人ひとりが子 育てに関わる一人の社会人としての自 について、自 なりの えを深めること ができた。 129 平成23年度活動報告書 第2集 【家 科 平成23年度開発教材】 教 科 ・ № 家 S203 遊びの意義 学 年 高 3年生 テ ー マ ジグソー課題 期 待 す る 回答の要素 エキスパートA エキスパートB エキスパートC 所 感 教材作成者 単元・題材 佐藤美穂(川口青陵高 乳児の生活と保育 ) 遊びの意義 子どもにとって遊びはどのような意義があるものなのか 子供たちにとって、遊びとは心身の発達を促し、知的能力や社会性などを学んで行 く重要なものである。また、その活動を支えるために、周囲の大人の、子供たちの 自発的欲求を尊重し、生き生きと楽しむことのできる適切な援助が大切である。 運動遊び ごっこ遊び 自然と関わる遊び 3つのエキスパートで扱った具体的な事例から、生徒たちは子どもにとっての遊 びの意義や保育者の援助のポイントを捉え、最終的にそれを自 たちの言葉とし てまとめあげていた。実践者によれば、普段から自 の えを他人に伝えること に慣れていない生徒たちだが、「はじめから正しい答えを求めようとしなくて良 い。話し合う中で答えを出して行けば良いよ」と声をかけることで、伝えよう、 えようという姿勢は見られるようになったという。 130 第4章 写真 教室で起こった学習の評価 宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 第1節 評価についての基本的な 第2節 児童生徒アンケートの 第3節 事例の での授業の様子 析 え方 析 平成23年度活動報告書 第4章 第2集 教室で起こった学習の評価 本章では、第1節において教室で起こった学習を評価する上でのCoREFの基本的な 紹介し、第2節で え方について 種、教科による全体的な傾向を知るために「知識構成型ジグソー法」の授業を体験 した子どもたちの授業満足度についての量的なデータを で実際に起こった学習について、私たちなりの方法で 1. 評価についての基本的な 析した後、第3節で様々な 種、教科の教室 析、評価した具体例を紹介する。 え方 (1)学習の評価のビジョン 授業の評価は一筋縄でいくものではない。現在CoREFの研究連携では、基本的に「知識構成型ジグ ソー法」を試して下さった教室で起こった学習の評価のために、実力テストでの点数のような普通成 果の測定に われる指標を っていない。 第一の理由として、実力テストを指標として現れる子どもの学習の評価は、必ずしも学習方法の評 価に直結しないためである。テスト成績には一人ひとりが授業で学んだこと以外の様々な要因が介在 する。また、その授業の質が高かったのが学習方法によるものなのか、先生方の教材研究によるもの なのかを けて判断することは不可能だ。故に同じ単元でジグソー法を用いた授業を受けた子どもと 一斉授業を受けた子どもとの間でテストの点数に差が出たからと言って、一概にどちらの方法が優れ ていると決めることはできない。 CoREFがテストを第一の指標としないもうひとつの、そして主な理由は、この研究連携の先に私た ちが求めているのは、子どもたちが将来、学んだ知識を「活用できる」ことであって、単にテストで 良い点を取ることではないからである 。学習実践を研究する世界中の実践者や研究者も含めて、まだ 誰も、将来必要な時にきちんと修正を加えて「活用できる」学習成果の評価方法を知らない。知識構 成型ジグソー法という新しい学習の枠組みは、エキスパート活動で確認した知識の断片を、他人に説 明できる程度にまでは「習得」することを求め、しかもその直後に他人の担当資料の説明と統合して 問いに解を出す、つまり「活用」することを求めている。学習指導要領でいう「習得と活用」を短時 間でとにかくひと回りまわしてみる、とでも言うべきこの枠組みにおいて、子どもたちがごく短いス パンではあるが、学んだ知識をどのように「活用」するか、これを評価の中心に据えたい。 私たちは、私たちの実践研究によって、これまでまだきちんと測られたことのない児童生徒の力が 伸びるかどうかを測定したい。これまであまりきちんと測られたことのない力はそれこそ多様に存在 するだろうが、中でも、今まで学んだことを統合して適用範囲を広げる力、今の学びを次の学びにつ なげる力、自 のわかっていることを他人の視点を って深める力、他人の理解を自 と関わること によって育てる力、などが含まれる。それらの力の伸びを、1回あるいは数回の授業の成果としてでは なく、長期にわたって観察し、その知見を次の授業づくりの素地にしたい。ここでの報告はその第一 歩である。 また、このような評価と授業づくり、実践のサイクルの先に、私たちは、一人ひとりの学習者が、 個としての知識統合と理解深化を繰り返す中で、そのような学習者が互いに互いを高め合う学習者の もちろん、自治体レベルでも各実践者のレベルでも、この取組を続けるために、テスト成績による裏付けが力になるという 側面は否定しない。 「協調の授業でやった内容の部 でテストの成績がすごく良かった」 という声は多く寄せられている。こう したデータを一定程度集約することも、研究連携の発展のための次年度以降の課題としたい。 132 第4章 コミュニティを形成し、新しい文化を 教室で起こった学習の評価 り出すと同時に、そのコミュニティそのものを発展させてい くことのできる「学びの過程」そのものを少しでも明らかにして行くことを目指している。これは、 今後の大きな課題である。 (2)小さな評価の提案 以上のような目的意識の下、CoREFが研究連携で学習の評価の基本にしてきたのは、授業の前後で の子どもの記述の変化を比較する小さな評価である。この小さな評価を積み上げることによって、一 人ひとりの子どもの学習の筋道に迫り、その時間にその子どもが何をどう えるようになったのか、 それは授業者のねらいと比べてどうだったのか、という情報を蓄積することで、協調学習の授業づく りを中心に子どもの学習の仕組みやそれを引き起こすためのデザインについて 者のコミュニティにおける次の実践や え続ける教員や研究 析の枠組みの改善につなげていくことも可能になるだろう。 ここでの評価方法は、1回の授業に着目する。授業が行われる場合、教員は、その45 ないし1時間 が過ぎた時に、学習者にどうなっていてほしいのか、ある種のイメージがあるはずである。知識構成 型ジグソー法では、この教師自身のそのイメージをできるだけはっきりさせ、授業の「問い」として それを柱に教材を準備し、グループの組み替えをデザインする。 具体的には生徒たちに、授業前と授業後の2度、柱となる課題について「あなたが知っていることを 以下に記してください」という指示で回答を書いてもらっている。これにより、生徒たちが授業前後 の自身の回答を比較して授業で学んだことを振り返るとともに、教材を開発し実践する私たちが、回 答を比較 析して、実践のねらいがそれぞれの生徒においてどのように達成されたかを評価、検討す るための資料として活用することができる。ビデオと前後の記述があると、一人の子どもの学習プロ セスを追うことも可能である。 (3)小さな評価の方法―「消化と吸収」の授業を具体例に― 以下では、平成22年に安芸太田町立筒賀中学 の2年生を対象に亀岡圭太教諭が実践した「消化と吸 収」の授業の実践結果を素材に、この授業前後の記述の比較を軸とした小さな評価のやり方について 具体的に示していく。 この授業の柱となる問いは、「デンプンの消化と吸収の仕組みを説明しよう」であり、その問いに答 えるための部品となる3つのエキスパート資料として、噛むことや消化液の働きでデンプンが小さくて 水に解ける糖に変わることを扱う「デンプンの変化」、栄養を吸収しているのは小腸で、小さい栄養素 だけが小腸の粘膜を通過して毛細血管に入ることを扱う「吸収」、デンプンとブドウ糖の大きさがかな り違うことを扱う「栄養素の大きさ」が用意されている。 授業のねらいは、消化の「目的」「機能」「(機能の)実現方法」について、3種類の部品を統合した 説明ができるようになることである。部品はそれぞれのエキスパート資料に含まれているが、統合さ れた説明に出てくるような形では生徒の前に提示されていない。このねらいに即して、生徒の授業前、 授業後の記述について、以下の3点を軸に 析することにしよう。 ・消化の<目的>として「小腸で栄養素が吸収される」ことが言及されているか ・消化の<機能>として「(大き過ぎる)デンプンを、小腸で吸収可能な大きさ(のブドウ糖に)ま で小さくしなくてはならない」ことが言及されているか 133 平成23年度活動報告書 第2集 ・消化の機能を実現する<方法>として「歯による咀嚼」や「消化液、酵素による 解」について の言及があるか ここではまず1人の生徒の学習過程について見てみたい。この生徒Sの授業開始時での記述には消化 がどのようなプロセスかについてはほとんど何も書かれていなかった。その後Sは、エキスパート資 料として小腸の働きを解説した「消化」を担当し、エキスパート活動中、メモでは小腸で栄養素が取 り込まれることには言及しているが、栄養素が十 番大事な部 についての記載はない。 この後のジグソー活動部 で 小さくないと取り込めない、というこの部品の一 のビデオをみるとSは、むしろモニターとして聞き役に回りながら自 えている時間が長かった。しかし、クロストークの準備をする中で他の2人の意見を聞き、自 の エキスパート資料から言いたかったことも一言付け加えるなど、発言はほとんどしないものの、授業 の最後にSが記載した問いへの答えには3つの要素が含まれていた。 この授業を受けた生徒8名全員が上記のSに見られたような形で か、授業の前後に書かれた回答を え方を変化させていたと言える 析した。上記の3つの要素がすべて含まれていると判断できるもの を完全記述、それが断片的に記載されているものを断片的記述とした。なお、言及のレベルについて は、上記の内容を表現しようとしたと推測できるものを「記述されていた」と判定している。これら の記述の生起頻度を授業前後の記述について比較したものが図1である。 授業後の記述人数を見ると、期待された記述ができるようになった生徒が増えている。三要素すべ てを記述した生徒は、授業前には誰もいなかったのに対し、授業後はデータの得られた7名中5名に増 えた。またその記述はすべて、資料の引き写しではなく生徒が自発的に書いた文から構成されていた。 特に「機能」については(1名の記録が 失した生徒を除いて)全員が「大きすぎるデンプンを吸収可 能な小さいブドウ糖に変える」という、3つのエキスパート資料を統合して初めて可能になる表現がで きていた。「機能」は正解率が最も伸びた要素でもある。 図1:消化の目的、機能、方法についての授業前後での記述人数の比較 (記述人数の最大値は、事後の記述が一名 加えて授業後には、7名中3名から 134 欠損のため事前8、事後7である) 第4章 教室で起こった学習の評価 ・だ液はどうやって作られるのか ・胃袋はどうして胃液でとけないのか ・小腸で吸収されるものと、大腸で吸収されるものがもっと知りたいです という発展的発問が出ている。このような自発的な問いの効果は、その場での理解の深さよりも、 将来の学びにつながる理解の仕方を特徴づけるものだとも えられる。 (4)小括―学習コミュニティの持続と発展のための評価― CoREFの研究連携において、今のところ、1回の実践に焦点をあて、そこでやるべきことを明確に他 者とも共有した上でそのねらいがどこまでうまくいき、次に何が可能かをその単位で えることので きる小さな仕組みが、ある程度有効に働いているように思う。 この「小さくて継続的に実施して蓄積できる」評価を積み上げることには、ある一人の子どもがそ の時間何を学んでいたかを少しでも理解する、それを参 に次の授業の改善を図る、というレベルか ら、この学習の枠組みの中でどのような工夫が子どものどのような学習を引き起こしそうか、という レベル、さらには「人はどのようにして学ぶのか」についての新しい知見のレベルまで多岐にわたる 貢献が期待できる。この評価と授業づくり、実践のサイクルを軸に、子どもの学習の過程を明らかに し、その質を高めるための持続し、発展する学習コミュニティを形成していきたい。 2. 児童生徒アンケートの 析 (1)はじめに 研究連携で開発した教材を って授業を行う際、CoREFでは子どもたちを対象に授業についての以 下のようなアンケートを依頼している。アンケートのうち選択式の設問は、それぞれ「授業の満足度」 と「学習方法の満足度」を問うものであり、順に「今日の授業はたのしかったですか」に対して、 「5. とてもたのしかった 4.たのしかった 3.たのしくもつまらなくもなかった 2.つまらなかった 1. とてもつまらなかった」の5段階で答えてもらうものと、「今日のような進め方の授業をまたやりたい ですか」に対して、「5.とてもやりたい 4.やりたい 3.やってもやらなくてもよい 2.やりたくない 1.まったくやりたくない」の5段階で答えてもらうものである。本節では、この授業の満足度及び学習 の満足度の観点から、各 を概観、 種、教科、学級規模等における知識構成型ジグソー法の授業の効果の傾向 析する。 そもそも授業や学習方法の満足度を問うことにどのような意味があるのだろうか。私たちは、 「楽し かった」、「またやりたい」という今日の授業の満足度が、<今日の学習が次の学習につながるような学 習だったか>のひとつの指標になり得るのではないかと えている。日本の子どもたちの「学びから の逃走」が言われて久しいが、国際調査でも日本の子どもたちのこうした傾向は顕著に表れている。 一例として、小学 4年生と中学 2年生を対象にした国際教育到達度評価学会(IEA)による「国際数 学・理科教育調査(TIMSS)」(2007)の質問紙調査では、算数・数学や理科の勉強の「楽しさ」を問 う設問に、肯定的な回答をした日本の子どもの割合はいずれも参加他国と比較して低く、特に中学 2年生では、理科と数学の両方で調査参加59カ国中下から3番目である。また、東京、ソウル、北京、 ヘルシンキ、ロンドン、ワシントンDCの6都市の10-11歳にアンケート調査を行ったベネッセコーポ レーションによる「学習基本調査・国際6都市調査」(2007)によれば、東京の子どもたちの「授業で 135 平成23年度活動報告書 第2集 習ったことを、自 でもっと詳しく調べる」割合、「自 で興味を持ったことを、学 の勉強に関係な く調べる」割合は6都市で最も低かった。 こういった状況を根本から解決する手がかりは授業の中にあるだろう。今日の学習に満足し、次の 「学びたいこと」をつくっていく。そうした授業を私たちが提供することができているか、その一つ の指標として学習者の満足度を見ていくことにする。 (2) ① 論 全体像 はじめにアンケート調査から かってきた子どもの満足度の全体像を示す。今年度、知識構成型ジ グソー法の授業を受けてアンケートに回答してくれた子どもの数は、小学生527名、中学生461名、高 生1556名の合計2544名であり、同様にアンケートを行った実践数(クラス数)は小学 19、高 49の合計93である。この93の授業を受けたのべ2544名の子ども全体での回答の平 25、中学 点は、 「授 業の満足度(たのしかった)」が4.08、「学習方法の満足度(またやりたい)」が3.85である。平 的な 学習者の姿としては、この方法の授業はたのしく、またやってみてもよい、といったところであろう か。 回答の 布を見てみると、 「今日の授業はたのしかったですか」、 「今日のような進め方の授業をまた やりたいですか」に「たのしかった」、「またやりたい」(4ないし5)と回答した子どもの割合は、それ ぞれ78.6%、64.9%であり、反対に「つまらなかった」、「やりたくない」(1ないし2)と回答した子ど もの割合は、それぞれ1.7%、5.9%であった。 「またやりたい」の値が「たのしかった」よりも低いのは、この学習方法が学習者に高い認知的負 荷をかけるためだろう。授業後に「頭を って疲れた」、「今日の授業は寝られなかった」という感想 はよく耳にする。93実践のうち、「またやりたい」の平 点が「たのしかった」の平 点以上なのは、 14実践と全体の15%程度にとどまる。この結果をどうとらえるかに関連して面白いエピソードがある。 ある進路多様高 では授業後の協議会に生徒代表を呼んでくれており、たまたまアンケートに「やり たくない」と回答した生徒に話を聞く機会があった。彼は、「自 やりたいかと言われると困るが、でも自 は話すのが苦手で大変だった。正直 に必要な学習だと思うので、月に1回くらいはやりたい」 と 答えてくれている。こういった傾向は学年が進むほど強くなるだろうと 様々な要因からアンケートの傾向を 方法いずれの満足度についても、小学 析してみると、最も顕著なのが 低い。学 えられる。 経験も長く、思春期にある高 、中学 、高 で差があり、小学 種による差である。授業、 が最も高く、高 生と小学生では、回答の傾向に差があるのは当然であると 言える。以降、諸要因の影響についての傾向を判断する上では、回答者の 種を 慮にいれて ることにしたい。 図2:小学 が最も における知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 136 析す 第4章 図3:中学 における知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 図4:高 ② 教室で起こった学習の評価 における知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 教科による学習者の満足度の傾向 次に教科ごとの傾向を見てみたい。 表1:教科別の知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 満足度 国語 高 合計 業が行われた国語、算数・数学、理科、 4.22 4.13 4.11 4.14 社会・地歴・ 方法満足度 4.15 3.96 3.72 3.85 の回答を比較したのが左の表1である。 授業満足度と 方法満足度の差 0.07 0.16 0.39 0.29 合計の値で理科が低く見えるが、高 授業満足度 4.60 4.19 3.88 4.20 の実践の割合が高いためであり、 4.55 4.11 3.78 4.12 種ごとに比較するとどの教科が有意に 0.06 0.08 0.09 0.08 高い満足度を示していたり、低い満足 授業満足度 4.71 4.39 3.81 3.93 度を示していたりということはない。 方法満足度 4.48 4.22 3.60 3.73 基本的には、 「この教科はジグソー法に 授業満足度と 方法満足度の差 0.24 0.17 0.21 0.21 向いている・向いていない」という教 授業満足度 4.29 4.10 3.99 4.11 4.10 4.01 3.60 3.86 0.19 0.09 0.39 0.26 授業満足度 4.42 4.17 3.95 4.08 方法満足度 4.31 4.05 3.63 3.85 授業満足度と 方法満足度の差 0.11 0.12 0.31 0.23 社会・ 方法満足度 地歴・ 授業満足度と 民 方法満足度の差 全体 中学 授業満足度 算数・ 方法満足度 数学 授業満足度と 方法満足度の差 理科 小学 小中高で共通して一定数以上の検証授 民におけるアンケート 科はないと言える。 注目すべき点があるとすると、理数 系の科目、特に算数・数学において、 授業の満足度と学習方法の満足度の差 が小さいことが挙げられる。算数・数 学では、全ての 種においてこの差が 全教科中最も小さく、特に高 ては全体の平 におい における差が0.31ポイ ントであるのに対し、0.09ポイントと飛びぬけて低い。「たのしさ」については他の教科と大差がない が、それが「またやりたい」に結びつく傾向が高 生でも高い、というのが理数系、特に算数・数学 の知識構成型ジグソー法の授業の特徴だと言えそうである。一人ひとりの るこの学習方法において、自 なりの「 かり方を学習の基本にす かった」という経験をすることのインパクトが大きい教科 137 平成23年度活動報告書 第2集 であるとも言えるだろう。 ③ クラスサイズによる学習者の満足度の傾向(30名以上の教室における授業) 次に知識構成型ジグソー法の授業における学習者 表2:クラスサイズ別の知識構成型ジグソー 法を用いた授業の満足度 満足度 小学 中学 の満足度にクラスサイズによる影響があるのかを検 討する。左の表2は、全体を児童生徒数30名以上の教 高 室、29名以下の教室に 示している。回答数は、30名以上の教室が小学 けた場合の満足度の比較を 30名 授業満足度 4.35 4.14 3.96 以上 方法満足度 4.23 4.03 3.67 29名 授業満足度 4.45 4.23 3.90 以下 方法満足度 4.35 4.09 3.52 授業満足度 4.42 4.17 3.95 表から明らかなように、どの 方法満足度 4.31 4.05 3.63 スサイズによって子どもの学習への満足度に有意な 全体 名、中学 478名、高 室が小学 350名、中学 177 1150名であり、29名以下の教 510名、高 406名である。 種においても、クラ 差はなく、高い満足度が示されている。特に高 に おいては30名以上の教室の方が有意な差ではないものの満足度が高い結果が表れている。グループで の相互作用を基本とするこの形態においては、クラスサイズの大きさは学習者にとってはデメリット になりにくいと言える。 ④ 研究推進(委)員の種別による学習者の満足度の傾向 論の最後に、研究推進(委)員の種別(新規・ 表3:研究推進(委)員種別の知識構成型ジグ ソー法を用いた授業の満足度 満足度 継続 新規 全体 昨年度 小学 中学 継続)が学習者の知識構成型ジグソー法の授業の 満足度に影響したかを検討する。左の表3では、上 高 から今年度継続の研究推進(委)員、今年度新規の 研究推進(委)員、今年度研究推進(委)員全体、昨 授業満足度 4.38 4.15 3.96 方法満足度 4.24 4.07 3.65 授業満足度 4.37 4.19 3.94 方法満足度 4.28 4.03 3.62 授業満足度 4.42 4.17 3.95 データを並べたものである。回答数は、今年度継 方法満足度 4.31 4.05 3.63 続の研究推進(委)員の教室が小学 授業満足度 4.33 4.40 3.95 241名、高 方法満足度 4.45 4.16 3.57 (委)員の教室が小学 年度研究推進(委)員(すなわち継続の研究推進 (委)員の1年目)の授業における学習者の満足度の 76名、中学 605名であり、今年度新規の研究推進 451名、中学 220名、高 951名、昨年度の研究推進(委)員の教室が小学 名、中学 192名、高 80 420名である。 種別にみるとどの項目にも有意差はなく、高い満足度が示されている。これは何を意味している と えられるか。一般に人は新規の物事に接するときに期待感からそのことだけで高い評価を示す傾 向があると言われる(ホーソン効果)。継続の研究推進(委)員の場合でも、子どもの多くは知識構成型 ジグソー法を用いた授業を初めて体験する訳だが、実践者の側にホーソン効果が働かない 、それ以 外の条件が変わらなければ2回目以降の実践のアンケート結果は1回目のそれより低くなりうると え られる。すなわち、今年度、継続の研究推進(委)員の授業において子どもたちが、新規研究推進(委) 員、及び昨年度の授業と同程度の高い満足度を示しているということは、継続の研究推進(委)員の授 業における学習の質そのものが昨年度より上がっているのではないか、と推察されるということであ る。今後もこの高い満足度を維持し、向上させられるような授業研究に期待したい。 138 第4章 教室で起こった学習の評価 (3)新しい学びプロジェクト ① 研究の成果 ここからは研究連携ごとの各論に入る。まずは小中学 との研究連携である「新しい学びプロジェ クト」のデータを検討する。表4、次ページの表5はそれぞれ小学 、中学 における知識構成型ジグ ソー法を用いた授業の満足度である。表は上から教科ごとに実践数、「授業の満足度(たのしかった) 」 の回答 の平 布、教科全実践の満足度の平 点、最も低かった授業の平 点、授業別に満足度の平 を算出した際に最も高かった授業 点であり、以下「学習方法の満足度(またやりたい)」についても 同様である。 論でも示したように学習者の満足度に教科間で有意な差はないが、表4、5を見ても明らかなよう に教科間の差より教科内の差の方が大きい。学習者の学習への満足度という視点から言えば、どの教 科か、ということよりも個別の授業デザインや学習環境、学級文化等の影響の方が強いことが その上でもう一歩踏み込んだ 析を行うとすれば、偶然の一致かもしれないが、小学 として最も満足度が高かった算数(理科は1実践のみのため対象としない)、中学 かる。 で教科全体 で教科全体として 最も満足度が高かった理科は、それぞれメーリングリストにおける研究推進員間での教材開発につい ての議論が最も盛んだった 種・教科である。教材についての研究推進員相互の活発な検討が、授業 の質の向上につながり、学習者の高い満足度を保障したと この小学 算数、中学 えることもできるだろう。 理科を含め、今年度5名の研究推進員が同じ子どもを対象とした複数回の実 践のアンケート結果を提供してくれているが、いずれのケースでも後で開発された教材ほど子どもた ちの「またやりたい」という回答の平 された満足度は十 値は高くなっている。もちろん、すでにアンケート結果に示 高く、数値がこのまま天井知らずに上がるとは えにくいが、知識構成型ジグソー 法を用いた授業において教材研究の深化が学習者の満足度に与える影響は無視できないと言えるだろ う。 表4:小学 4教科の知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 教科 実践数(クラス) 小 ︵ た の し か っ た ︶ 授 業 の 満 足 度 学 ︵ ま た や り た い ︶ 学 習 方 法 の 満 足 度 5 4 3 2 1 合計 平 授業ごとの満足度 (平 値の範囲) 5 4 3 2 1 合計 平 授業ごとの満足度 (平 値の範囲) 139 国語 6 55 43 23 1 1 123 4.22 5.00 3.70 44 58 18 2 1 123 4.15 4.78 3.79 算数 12 139 68 9 0 0 216 4.60 5.00 4.24 138 63 11 3 1 216 4.55 5.00 3.70 理科 1 15 6 0 0 0 21 4.71 4.71 4.71 15 3 2 0 1 21 4.48 4.48 4.48 社会 合計 6 25 74 283 69 186 23 55 0 1 1 2 167 527 4.29 4.42 4.28 4.00 65 262 62 186 33 64 6 11 1 4 167 527 4.10 4.31 4.28 3.27 平成23年度活動報告書 第2集 表5:中学 4教科の知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 教科 実践数(クラス) 中 ︵ た の し か っ た ︶ 授 業 の 満 足 度 学 ︵ ま た や り た い ︶ ② 学 習 方 法 の 満 足 度 国語 4 46 65 20 3 1 135 4.13 4.39 3.75 36 64 31 2 2 135 3.96 4.22 3.56 5 4 3 2 1 合計 平 授業ごとの満足度 (平 値の範囲) 5 4 3 2 1 合計 平 授業ごとの満足度 (平 値の範囲) 数学 6 57 97 23 0 0 177 4.19 4.50 3.95 57 83 36 1 0 177 4.11 4.30 3.75 理科 4 19 26 1 0 0 46 4.39 4.67 4.22 12 32 2 0 0 46 4.22 4.50 4.00 社会 合計 5 19 33 155 47 235 23 67 0 3 0 1 103 461 4.10 4.17 4.61 4.00 28 133 50 229 23 92 2 5 0 2 103 461 4.01 4.05 4.20 2.82 少人数学級での実践 新しい学びプロジェクト」参加市町には、山間部 表6:クラスサイズ別の知識構成型ジグソー 法を用いた授業の満足度 満足度 小学 中学 ない。 での実践の事例も少なく 論では、クラスサイズが大きいことが学習 高 者の満足度に影響しないことを示したが、ここでは 10名以下の少人数の教室の場合を検討してみたい。 10名 授業満足度 4.48 4.55 4.49 以下 方法満足度 4.38 4.27 4.36 11名 授業満足度 4.41 4.39 4.29 以上 方法満足度 4.30 4.15 4.18 授業満足度 4.42 4.17 3.95 方法満足度 4.31 4.05 3.63 全体 の自治体も多く、小規模 小中学 でアンケート提出のあった44授業のうち、 10名以下の教室で行われた実践の数は小学 2の計8であり、学年は小学 6、 中学 1年生から中学 1年 生、クラスサイズは3名から9名であった。 左の表6は、全体を児童生徒数10名以下の教室、11 名以上の教室に けた場合の満足度の比較を示している。有意な差ではないが、10名以下の教室では 若干満足度が高い結果が示されている。知識構成型ジグソー法の授業では、みんなが答えを出したい 問いの探究に、一人ひとりが違った形で貢献できるという仕組みが用意されている。この仕組みを活 用することで、少人数学級での固定化した人間関係の中にある子どもたちが、学習を通じて普段見え なくなっているお互いの良さに気付けることも、この高い満足度を担保していると言えるかもしれな い。少人数学級に限らず、この枠組みを用いた授業が学級経営においてもよい影響をもたらすという 声は多くの研究推進員から寄せられた。 140 第4章 (4)県立高 ① 教室で起こった学習の評価 学力向上基盤形成事業 研究の成果 続いて高 での取組である「県立高 学力向上基盤形成事業」のデータを検討する。下の表7は高 における知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度である。表は上から教科ごとに実践数、 「授業の 満足度(たのしかった)」の回答 た際に最も高かった授業の平 布、教科全実践の満足度の平 点、最も低かった授業の平 点、授業別に満足度の平 を算出し 点であり、以下「学習方法の満足度(ま たやりたい)」についても同様である。 論で示したように学習者の満足度に教科間で有意な差はないが、表7から明らかなように、小中学 同様高 においても教科間の差より教科内の差の方が大きい。ほとんどの教科で、最も生徒の満足 度が高かった授業と低かった授業では、回答の平 に1点前後の開きがある。学習者の学習への満足度 という視点から言えば、どの教科か、ということよりも個別の授業デザインや学習環境の影響の方が 強いことが かる。 表7:高 8教科の知識構成型ジグソー法を用いた授業の満足度 教科 国語 9(11) 実践数(クラス) 高 ︵ た の し か っ た ︶ ︵ ま た や り た い ︶ 授 業 の 満 足 度 学 習 方 法 の 満 足 度 英語 1 数学 理科 地歴 民 美術 家 科 7 7 9 4 4 3 3 合計 47(49) 2 5 120 31 60 57 28 32 30 19 378 4 241 80 109 142 43 64 35 44 763 3 65 38 85 88 29 21 27 18 379 2 3 2 2 7 1 1 2 6 26 1 0 0 1 4 2 1 1 1 10 429 151 257 298 103 119 95 88 1556 平 4.11 3.93 3.88 3.81 3.91 4.05 3.96 3.84 3.95 授業ごとの満足度 4.70 4.22 4.25 4.49 4.49 4.45 4.68 4.12 (平 3.68 3.00 3.37 3.27 3.50 3.84 3.67 3.38 合計 値の範囲) 5 83 23 73 45 21 21 19 12 298 4 168 43 76 117 25 52 31 28 543 3 157 72 90 113 45 35 36 34 588 2 17 12 15 17 10 8 7 11 101 1 4 1 3 6 2 3 2 3 26 429 151 257 298 103 119 95 88 1556 平 3.72 3.50 3.78 3.60 3.51 3.67 3.61 3.40 3.63 授業ごとの満足度 4.48 3.70 4.31 4.23 4.06 4.08 4.36 3.67 (平 3.23 2.90 3.23 3.13 2.90 2.94 3.38 3.03 合計 値の範囲) 1:同一教材を同一 の3クラスで実践したデータを含む 2:数学と理科のコラボレーション授業1実践を含む 141 平成23年度活動報告書 ② 進学 第2集 と進路多様 の比較 では、生徒の知識構成型ジグソー法の授業における学習満足度に影響をあたえる学習環境の要因と しては何が えられるだろうか。高 の場合、多くの方が第一に えられるのは生徒の学力ではない だろうか。特に基礎学力の形成に課題を抱える生徒が入学してくる高 業は難しいと えられる方も少なくない。そこで以下では、進学 では、この枠組みを用いた授 と進路多様 における生徒の学習 満足度を比較検討することにしたい。 今回の 析では、進学 と進路多様 の区 として、現在の日本の平 的な大学進学率を 宜上昨年度4年制大学及び短大へ進学した生徒の割合が卒業生の60%を超える学 たない学 を進路多様 での実践、25が進学 とした。この区 での実践ということになった。 表8:進学 ・進路多様 にお ける知識構成型ジグソー 法を用いた授業の満足度 進路多様 全体 、60%に満 によると、今回対象とする49授業のうち、24が進路多様 左の表8が示すように、進学 進学 を進学 慮し 授業満足度 方法満足度 授業満足度 方法満足度 授業満足度 方法満足度 3.99 3.67 3.90 3.59 3.95 3.63 と進路多様 における知識構成型 ジグソー法を用いた授業への生徒の満足度に有意な差はない。進 路多様 の生徒たちも、進学 の生徒同様にこの枠組みを用いた 学習に高い満足度を示していることが タには、定時制高 の高 や職業高 かる。進路多様 のデー 、大学・短大への進学率が2割程度 も含まれている。サンプル数が少ないため、個別の学 が 特定できてしまうようなデータの提示は避けるが、これらの学 においても生徒の学習への満足度は全体の平 と有意な差はない。 この枠組みを用いた学習への生徒の満足度を左右するのが生徒 の学力ではないのだとしたら、授業ごとの回答に表れた差を規定するものは何だろうか。ここでデー タとして示すことは難しいが、我々が教室を見て、アンケートの結果を様々な角度から 析した上で 感じていることを示唆させていただくならば、教員の授業デザインや生徒に期待する学習の姿、それ を反映したその教室、学 のもつ学びの文化とでも言うべきものが、生徒のこの枠組みを用いた学習 への満足度の結果に反映されているように思う。一人ひとりの教員が協調学習による社会的な知識構 成の意義を自 なりに納得し、それを実現する授業デザインを追求したとき、生徒のこの枠組みを用 いた学習への満足度は、かなり確からしく上昇するだろうと えている。 (5)結論 以上、「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」での今年度の知識構成型ジグ ソー法を用いた授業における学習者の満足度を検討してきた。検討の結果明らかになったことは、一 般的に えられそうな教科、クラスサイズ、学力といったどの要因もこの枠組みを用いた授業におけ る学習者の満足度に有意な影響を与えないということである。この結果からは、日本中のどのような 学 、どのような教室でも、ひとまずこの枠組みを試してみていただいてよい、と言えそうである。 代わって示唆されたのは、教材を開発し、実践を行う一人ひとりの教員がこの枠組みを用いた学習 の目指す協調学習を通じた社会的な知識構成についての自 なりのゴールイメージを持ち、自 や他 の教員の教材の検討や実践結果の蓄積を通じてこの枠組みを用いた授業づくりについての研究を深め ることが、次の1回の授業における学習者の満足度を向上させる可能性を高めるのではないかというこ とである。今後もこうした不断の授業改善の試みが、子どもたちの学習意欲を高め、主体的な学習者 を育てていくことを期待したい。 142 第4章 3. 事例の 教室で起こった学習の評価 析 本節では、学習者が高い満足度を示す知識構成型ジグソー法の授業で、実際にどのような学習が起 こり、何が学ばれたと言えるのか、具体的な授業の事例をベースに評価、 析する。なお、ここで検 討する事例の授業案、教材はすべて付属のDVDに収録されている。あわせてご参照いただきたい。 (1)「新しい学びプロジェクト」算数―答えの先へ向かう探究― 算数における知識構成型ジグソー法の授業は、他教科に比べても「またやりたい」という感想を持 つ子どもの割合が高いようである。この枠組みを用いた算数・数学の授業では、1人では解けない問題 に友達と えを出し合うことで、一人ひとりの子どもが自 なりの納得を伴いながら、しかし自 1人 で出せるよりも質の高い答えを出すことができる。例えば、1人なら課題に対して手も足も出ない子ど もが、 「こうやったら解けるんじゃないか」いう見通しを持って課題に取り組めるところへ、 正解は出 せる」という子どもが自 でも かったつもりで ができるところへ、といったように、自 かっていなかった原理」に気づいてよりよい説明 なりに理解を深化させていく学習が、多様な子どもの次へ つながる学習意欲を保障しているようにみえる。 本項では、安芸太田町立修道小学 萩原英子教諭によって4年生で実践された「複合図形の面積を求 めてみよう」の授業(算数A207)から、算数の授業における学びの深まりを検討する。 ① 授業を通しての理解の変化 この授業では、図5のようなL字型の面積を中心的な素材とし、複合図 形の面積の求め方のコツをキーワードでまとめることを授業の柱となる 課題とした。今回は、事前にこのL字型の図形を配付し、 「自 1つ えてくる」ことを家 の えを 学習での事前課題としている。子どもたちが この複合図形の課題に取り組むのは、この時が初めてである。 グラフ中の方法Aは「2つの長方形に けて面積を求め、足し算する」 図5:「複合図形」の素材 方法、方法Bは「大きい長方形から小さい長方 形をひく」方法、方法Cは「元の図形2つ で大 きい長方形の面積を求め、最後に÷2をする」方 法、方法Dは「等積変型して、長方形を作る」 方法、マス区切りは 図中のマス目を数える」方 法である。 子どもたちの事前課題に対する回答の様子を 図6に示す。事前課題を提出したのは17人であ り、そのうち11人がなんらかの方法で正解にた 図6:「複合図形」の事前課題に対する回答 どりついており、3人が方法を活用して途中まで ※「途中」は方法を適用したけれども計算ミス等で正答にたどり つけなかったもの 取り組んでいた。7人が方法A、2人が方法Bを 用いており、図形にマス目を書きこんだ子どもも 3人存在していた。方法CやDを った学習者はいなかった。 143 平成23年度活動報告書 第2集 当日の授業では、導入で見通しを持たせるため、最もオーソドックスなAの方法を例に、 式から え方を説明する」、 解き方に名前をつける」という本時の活動を全体で確認した。 続くエキスパート活動では、子どもたちがほとんど ぞれ式を見て わなかったB、C、Dの方法について、それ え方を説明するという活動を行った。次にジグソー活動では、それぞれの求め方の特 徴を把握して見合う名前をつけた。そしてクロストークを行って各グループでつけた名前を 流した。 次時では、図7、8のような2つの図形の面積をそれぞれ求めるという発展課題に取り組んだ。授業の 最後には、それぞれが「複合図形の求め方のコツ」を自 のワークノートに記入した。図9、10に、2 つの発展課題に対する回答の様子を示す。 図7:「複合図形」の発展課題① 図9:発展課題①に対する回答の様子 図8:「複合図形」の発展課題② 図10:発展課題②に対する回答の様子 ※「途中」 は方法を適用したけれども計算ミス等で正答にたどりつけ なかったもの 144 第4章 教室で起こった学習の評価 発展課題①は、方法AやBを活用することで効率的に解答できるタイプの課題である。子どもたち の達成度は高く、18人中15人が方法AあるいはBで正答しており、1人が方法Bを活用して外側の正方 形を求めていた。また、子どもたちの学習は答えを出すだけにとどまっていなかった。18人中5人は、 1つの方法で正解を導いた上で、2つ目の方法に取り組み、4人が2つ目の方法でも正答を導いていた。 発展課題②は、彼らにとって新奇な方法であるCやDを うことを要請される点でレベルの高い課 題である。しかしこの問題においても子どもたちの達成度は高い。18人中15人がCあるいはDに取り組 んでおり、そのうち10人はどちらかの方法で正答にたどりついていた。CとDの両方に取り組んだ学 習者も11人おり、そのうち8人が両方で正答にたどりついていた。 以上より、授業を通して子どもたちは、4つの方法を、問題状況に応じて柔軟に活用できるようになっ たことが推察される。 ② 社会的な相互作用による一人ひとりの納得 事前の宿題の時点では、18人中6人と3 の1の学習者が正答にたどりつけなかったことから、授業を 受けた子どもたちに算数が得意な子どもが特に多かったわけではないだろう。それでは、このような 達成度の高さはどのような学習によってもたらされたのだろうか。ビデオやワークノートからジグ ソー活動における学習の特徴を 析した結果として、2つの特徴を指摘したい。1つは、話し合いを通 して多様な学習者がそれぞれ自 なりに理解を深化させていること。もう1つは、子どもたちが自 な りの納得を求めて自由に探究を進めていることである。 話し合いの具体例を見てみよう。以下は、ジグソー活動前半のあるグループの様子である(子ども の名前は仮名。カッコは引用者による補足)。Cの「元の図形2つ で大きい長方形の面積を求め、最 後に÷2をする」という方法を担当したたくや君が説明を始めている。この方法は3つの方法の中で比 較的難しく、エキスパート活動では「同じ図形を2つ っている」というポイントをつかむのにかなり 時間を要した。そのためか、たくや君も完璧な説明ができるようになってジグソーに移ったわけでは なかった。 たくや:僕はまず(相手のほうに資料の向きを変える)ここの、あいているところに、これだと えづらいから、 「複合図 」だと えづらいから、線をひいて長方形にしました。で、次に、 ここを全部合わせると14㎝になるから、4+10。そしたら、ここは1、2、3、4、5、6、7、 8(1㎠のマスの数をかぞえている)だから、8×14=112になって、最後に112÷2をして、 答えは56㎠になりました。 りゅう:はい質問 え なんで2が出たの⁉どうやって2が出るの⁉ み:ああ、確かに。 りゅう:(机間巡視していた先生に後ろからたしなめられ)質問攻めじゃけぇ。 たくや:(資料の向きを自 のほうに戻してしばらくじっと える。ポンと手を打って)あ この 形(L字型)を2つ合わせたから2個になって、で、それを1つにしようとしたから、112÷ 2=56になったの。 え み:あー、わかりましたぁ。 りゅう:わかりました。 たくや君の最初の言葉は、 正解」とされていても十 145 おかしくない説明と言えるだろう。もし彼が 平成23年度活動報告書 1人で 第2集 えていたのであれば、これ以上学習が深まることはなかったかもしれない。しかし、グループ の緊密な関係の中で出たりゅう君の素朴な疑問を受けて改めて え直した結果、L字型を「2つ合わせ た」ものを、あとから「1つにしようとした」という形で式に示された え方をより精緻に言語化する ことができた。 ジグソー活動における説明の 流の場で起こっているのは、正しい説明から聴き手が知識を得るこ とだけではない。むしろ各自がその時点での自 の えを不十 ながらも言葉にしてみる機会を得る ことにより、場に出された言葉をきっかけとして、参加者みんなが理解を深化させる契機が作られる こともあるということを、この事例は教えてくれる。 続いて、同じグループが3つの求め方に名前を付ける場面に移ろう。話題は、「大きい長方形から小 さい長方形をひく」方法にどのような名前をつけるかということである。エキスパート活動でこの方 法を担当したのはえみさんであり、引いてしまう小さい長方形を「空白」という言葉で説明していた。 そこで3人は「空白」の語を手掛かりとして、全員が納得のいく名前を探すことになった。 りゅう:「たかしさんの え え 」はどういう え 空白を み:空白を1回埋めて、最後に計算する。 りゅう:空白を埋めて最後に計算するんだから…ちょっと見せて(えみさんの資料を見る)。 たくや:最初のは、「正方形にして足し算方式」でしょ りゅう:これは空白を埋めて長方形にして、長方形にして、かけ算をして…。 え み:空白を埋めて戻すの。これがあるとして、あ りゅう:あ、わかった 空白を埋めて、そのたてと横をかけて、それを引く。 たくや:貸して、オレ書くわ(班の え 空白が「あるとして」、最後に…。 えをまとめる短冊型ホワイトボードを引き寄せる)。 み:じゃあ、Bは… りゅう:空白を埋めて横×たて方式 (最終的にこのグループでは、Bの方法に「空白うめ方式」という名前をつけた) この事例でも、えみさんの「空白を1回埋めて、最後に計算する」という提案は、十 正解と言える ものである。しかしりゅう君もたくや君も、えみさんの発言をそのまま引き受けることなしにそれぞ れ自 なりの納得を求めて議論を進めている。りゅう君はえみさんの資料に戻ることで、「計算」 の過 程についてより精緻な表現を見出した。たくや君は、導入の説明と比較してよりよい表現の型を見出 そうとしているようだ。えみさん自身も、自 て説明し直すことで、「自 がエキスパートでやってきたことをもう一度振り返っ がどんな操作をしたか」から「行った操作のポイントがどこにあったか」 へ視点を移し、説明の質を精緻化させた。3人が、それぞれ異なる道筋で学習を進めながら、学習の過 程で えを出し合うことで、各自の理解をより深化させているのである。 教室にいる子どもたち一人ひとりが、お互いの多様性をリソースにして自 なりの納得へ向かう学 習。高い満足度と達成度は、このような学習によって保障されていると言えるのではないだろうか。 この授業では前述の「方法B」を「たかしさんの え」として子どもたちに提示していた。 146 第4章 (2)「新しい学びプロジェクト」社会―多角的な思 社会的な事象に対して多面的、多角的に 節では、実際の授業での学習者の記述を 教室で起こった学習の評価 で社会的事象への関心を高める― 察できる力を養うことは、社会科の目的の1つである。本 析することにより、<知識構成型ジグソー法の授業が、学習 者の主題に対する多面的な理解の獲得にどのような効果をもたらすか>という観点から、知識構成型 ジグソー法を用いた社会科の授業における学習を評価してみたい。 ① ジグソー活動がもたらす理解の変化 はじめに、有田川町立石垣中学 古墳から馬につける 面矢和弥教諭によって中学 1年生18人を対象に行われた、「大谷 が出土したのはなぜだろうか」(以下、「馬 について検討する。「馬 」と略述する)の事例(社会A201) 」の授業は、和歌山県大谷古墳から希少な馬 が出土した アジアの国々との関係」、「渡来人」、「大和王権」の3つの資料を学習してきた生徒が 解明してみることを通して、東アジアとの人、物、文化の を、「日本と東 えを出し合って 流を通して形作られた日本古代国家の様 相をとらえることをねらいとして実践された。 馬 る 」の授業では、ジグソー前と授業後の2度、「『なぜ、和歌山大谷古墳からこのような馬につけ が出土したのか』馬 生から、古墳に納められるまでのストーリーを書いてみよう」という課 題を課した。学習者が、ジグソー活動を通して日本の古代国家についての多面的な理解を獲得してい れば、ジグソー後には、ジグソー前に比べて3つの資料の情報を組み合わせた記述が増えるであろう。 そこで、学習者のジグソー前後の記述に 変化を検討する。資料が われた資料の数を比較することによって、学習者の理解の われているかどうかは、各資料のカギとなる説明(表9)が記述に含まれて いるかどうかによって判断した。 表9:「馬 」の授業における各資料のカギとなる説明 資料名 カギとなる説明 大和政権 古墳は豪族の墓であり、様々な副葬品が納められるが、馬具は特に位の高い人物しか所有で きない。 古墳時代に中国や朝鮮から移り住んできた渡来人は金属加工の高い技術を持っていた。 4、5世紀の日本は朝鮮半島の国々と 渉を持っており、 易を通じて日本にはない大量の鉄 がもたらされた。 渡来人 東アジア 図11は、ジグソー前後の記述に る。棒グラフの黒い部 われた資料の数の比較であ は、3つの資料を 濃いグレーは2つの資料を った学習者の人数、 って記述をした学習者の人数、 薄い グレーは1つの資料のみをもとに記述をした学習者の人数、 白は 記入なしの学習者の人数である。 図11より、ジグソー活動を経て、3 の2の生徒が3つの資料の 内容を組み合わせて馬 出土の について記述できるように なったことがわかる。ジグソー前に3つの視点から多面的なス トーリーを書けていた学習者は1人もいなかったことから、 ジグ ソー後の記述は既有知識の表現ではなく、ジグソー活動におけ 図11:「馬 」の授業におけるジグ る学習の成果であると言える。 ソー前後の記述に われた資 ジグソー後に3つの資料を組み合わせた説明を書けなかった 料の数 学習者も6人存在しているが、ワークノートからは、彼らも学習 147 平成23年度活動報告書 第2集 を深めていたことが推察される。クロストークで出された「何班のストーリーが一番本当の歴 に近 いと思いますか。その理由も教えて下さい」という課題には、6人の学習者全員が、グループを選び、 その理由を記述できていた。例えば、ある学習者は「4班。大和王権や、東アジアの国々との関係や、 渡来人をうまくまとめられていて、馬 についてよくまとめられていたから」と書いており、日本の 古代国家の情勢を多角的にとらえる視点を持って他グループの発表を聞いていたことがうかがわれ る。 ② ジグソー活動における学習 授業前後の具体的な記述の変化から、ジグソー活動における学びの様子を描く。 表10はジグソー前後の生徒の記述例の比較である。記述は原文ママ、誤字や助詞等の修正は行って いない。2つの解答例はどちらも、ジグソー後に3つの資料の内容を組み合わせて馬 をめぐるストー リーを記述できている。 前後の記述の変化からジグソー活動における学習の様相を想定すると、以下の2つの特徴がみえてく る。1つには学習者はジグソー活動において新しい情報を既有の知識に付け加えただけでなく、情報の 整理と関係づけ及び既有知識の見直しといった知識構成の活動を行っていたということである。そし てもう1つは、その知識構成の活動の仕方は学習者ごとに多様だということである。Mさんは自 がエ キスパート資料から得た情報と仲間から聴いた情報を時系列順に整理し、情報間の因果関係を矢印で 図示しながら、ストーリーの軸を作っている。Sさんは、渡来人が「伝授」した技術と朝鮮から「受 けとっ」た鉄で、大王が「位の高い人」に馬具を製作し、その人が「馬具と共にほうむられ」るまで の物語を丁寧に書いている。Hさんは、3つの資料のキーワードを簡潔にまとめている。ジグソー活動 においては、このように一人ひとりの学習者が、他者とのやりとりを通して自 に合った仕方で知識 を作っていくという協調的な学習が起こることによって、各自の理解が深化したと 表10: 馬 」の授業におけるジグソー前後の生徒の記述例 氏名 担当資料 ジグソー前 M 大和王権 近畿地方に力を持った権力者が多 かったから。 S H 東アジア 渡来人 えられる。 ジグソー後 ・日本は加耶地方と仲がよかったた め、加耶地方の人がくれた。 ・日本と加耶地方が一緒のチームに なりどこかと戦った時、 った。 古墳時代渡来人は日本各地にいて土木や馬具などをつ くる技術を伝授。日本は馬具などをつくるのに鉄がな かった。和歌山の大王が鉄を朝鮮から受けとり、その鉄 を溶かし、馬具を位の高い人に製作しました。日本に馬 がいなく、4 ・5世紀朝鮮半島に行って大和王権は馬を用 いたコグリョとの戦いに苦しんだから馬を飼うように なった。 位の高い人は戦いに負け、馬具と共にほうむられまし た。 渡来人がきて馬 4.5世紀から馬を用いた高句麗との戦いに苦しんだの をきっかけに馬を飼うようになり、倭と加耶との関係 が深かったため鉄をもらい、渡来人の技術者が有力の 豪族が構成された。 を作っていった。 148 第4章 教室で起こった学習の評価 18人の学習者の記述に全く同じものは1つもなかった。したがって、ジグソー後に各学習者が書いた のは、主題についての自 なりのストーリーであると えられる。3つのキーワードを組み合わせた自 なりのストーリーを作ることは、自由な空想とは異なり、歴 的事実を探究し事実に基づいた仮説 を組み立てる活動であると言えよう。そしてこの仮説は、今後の学習に対する興味関心を高め、歴 事象を多面的、多角的にとらえるための基礎的な思 の枠組みを提供するだろう。 授業を終えた生徒からは、アンケートにおいて新たに「知りたくなったこと」が多くあげられた。 「なぜ(馬 は)1つしかみつからなかったのか」、「和歌山の古墳から馬のかぶと以外の出土しためず らしいものは何か」といったより詳細な学習につながる問いや、「ほんとうはどうなのかタイムスリッ プして調べてきたいです」といった、歴 学習そのものへの興味や関心を高めている様子がうかがえ るコメントもあった。 ③ 多面的な理解の獲得と、次の学習につながる問いの発見 社会科では、この他にも8つの実践が行われた。クラスサイズや学年の異なる他の実践においても、 「多面的な理解の獲得」は起こっていたのだろうか。南小国町立南小国中学 原島秀樹教諭によって 1年生36人を対象に行われた「豊臣秀吉はどんな社会を作ろうとしたのか」の授業(社会A208、以下 「兵農 離」と略述)、五ヶ瀬町立上組小学 の大久保朋広教諭によって小学 5年生9人を対象に行わ れた「日本の米づくり」(社会A202、以下、「米づくり」と略述)の授業の場合をみていこう。2つの 授業では、時間配 等の都合上柱となる課題についての授業前後の理解の変化を 採取できなかった。そこで授業後の記述のみを 兵農 って 離」の授業では、「刀狩」、「太閤検地」、「身 析できるデータを 析を行う。 統制令」についての資料を組み合わせて「豊 臣秀吉はどのような社会をつくったのだろうか」という課題に対して自 なりの答えを出すことが求 められた。一方、「米づくり」の授業では、「農業人口の減少・高齢化」、「日本人の食生活の欧米化」 、 「生産調整による作付面積の減少」についての資料を比較検討し、3つの立場から「なぜ日本の米の生 産量は減っているのだろうか」という課題に取り組んだ。 2つの授業において、授業の最後に課題に対する回答に 得の様子を検討してみた結果、「兵農 われた資料の数を数え、多面的な理解の獲 離」の授業では36人中29人が、「米づくり」の授業では9人中6 人が、それぞれ3つの資料の内容を組み合わせた記述を行っていた。どちらの授業でも、多くの子ども において「馬 また、「兵農 」の授業と同様に、「多面的な理解の獲得」が起こっていることが推察される。 離」と「米づくり」の授業において特筆すべきは、学習者の中から、「次の学習へつ ながる問い」がとても多く出された点である。「兵農 離」の授業では、授業後に、「知りたくなった こと」を問うアンケートは実施しなかったにもかかわらず、課題への答えの中に、学習を通してわい てきた疑問や えを書いた生徒が15人も存在した。 米づくり」の授業では、授業後の感想文として、「ぼくは、前からパンは、いっぱい食べていると 思ったけどほんとは、アメリカから小麦がおくられてパンを食べる量がふえたとはじめて知った」と いったような新しい知識への驚きや、 「これ以上生産量が減らさないために何か工夫はしているのかが 知りたかった」、「なぜ、1967年、米の生産量が消費量を大幅に上回るほど米を作ったんだろう」とい う鋭い疑問が数多く書きこまれた。大久保教諭が後に教科部会の場で語ったところによれば、子ども たちはこの授業で学んだことをよく覚えており、続く漁業等の単元で、「高齢化」といった単語が再び キーワードとして出てくると、「米のときもそうだった」という声が出たとのことであった。 以上のように、知識構成型ジグソー法を用いた社会科の実践では、1つの具体的な課題に多面的、多 149 平成23年度活動報告書 第2集 角的にアプローチする過程で、様々な情報を組み合わせて歴 や社会の動きをとらえる枠組みを自 なりに構成していくような学習が起こっていることがうかがわれる。そしてこのような知識構成の活 動の結果、一人ひとりの学習者が主題とされた社会的事象を多面的に理解するとともに、次の学習へ つながる問いを生み出し、社会的事象への興味関心を高めていた。このような学習は決して認知的負 荷の低いものではないと えられるが、子どもたちは じて学習に満足を感じ、多くの学習者が「ま たやりたい」と述べている。 (3)「新しい学びプロジェクト」国語―多様な読みを評価する― 本節では、中学 国語の事例から、文学作品の読みの軌跡をたどることを通して子どもの多様な読 みに対する評価を試みたい。知識構成型ジグソー法の枠組みは、授業において子どもたちの活動的で、 構成的、そして対話的な学習を助けるデザインである。文学作品の授業の場合、この枠組みは子ども たちが活動と対話を通してテキストから一人ひとりの読みを構成する支援として機能する。 また、知識構成型ジグソー法の枠組みを用いることは、多様な学習の道筋を丁寧にたどるという意 味での学習の評価を可能にする。ジグソー法の様々な活動の中で子どもたちは、そのとき えたこと、 えていることを記述することを求められる。その記述は、子どもによる読みの世界の構成過程を読 み取るための手段の一つとなりえる。本節では、宮崎県立都城泉ヶ丘高等学 附属中学 2年39人を対 象に行われた三重野修教諭による『走れメロス』の授業(国語A210)の中での子どもの学習の道筋の 析を通して、こうした評価の一例を示したい。 『走れメロス』の実践では、作者太宰治が本作品を通して伝えたかったことに迫ることを授業のねら いとした。子どもたちは『走れメロス』の表現とその原典とされるシラーの詩「人質」の表現とを比 較しながら読む活動を通して、柱となる2つの課題「作者が作品を書き変えたのはなぜか」、「書き変え ることを通して何を伝えたかったのか」に答える活動を行った。『走れメロス』と「人質」の表現を比 較する視点として「メロス」、「王」、「その他の登場人物」の3つの視点を設定し(エキスパート) 、そ れぞれの視点で比較して明らかになった違いや気付いたことを出し合いながら柱となる課題に対する 答えを導き出した(ジグソー)。授業の最後に各人が「『走れメロス』を読んだ感想を一言で表す」課 題に取り組んだ。 子どもたちが記述したワークノートを対象に学習の道筋を 析することを通して、一人ひとりの読 みの道筋をたどり直すことの重要性とその際に知識構成型ジグソー法の枠組みが有効に機能していた ことを指摘したい。 ① 記述の背景を通して多様な読みを評価する 授業の最後に子どもたちが回答した「『走れメロス』を読んだ感想を一言で表す」課題の結果は、「信」 を含む言葉(信、信じる、信じる心、信実、信頼、信頼関係、信念、信実と変化)を選んだ子どもが 18人、「変化」を含む言葉(変化、王の変化、戻、埋、自 に打ち克つ)を選んだ子どもが8人、その 他(正義、正と負、協力希望、一期一会、理想と現実、矛盾、心、意地、疑、自 のルール、友、面 白)が13人であった。 信」の字を含む言葉の中でも「信実」を選んだ子どもが5人で、最も多かった。「信実」という1つ の言葉を選んだ理由に着目すると、一人ひとりの多様な読みを読み取ることができる。 香さん、 人くん、晴孝くんは「信実」を選んだ理由を次ページの表11のように記述した。 香さんは信実のために走るメロスと、信実のために走ったメロスの姿により人間不信から脱した 150 第4章 王の物語として『走れメロス』を読んだ。 教室で起こった学習の評価 香さんは、勇者になることに対する作者による憧れを読 んでいる。作者のメロスに対する強い憧れを通して、 香さんは「信実」の大切さというメッセージ を作品から受け取った。 表11:『走れメロス』を一言で表す語として「信実」を選んだ理由(原文ママ 子どもの名前は仮名) 香 私たちの班での話し合いの結果、メロスは信実のために走り、己に克ち、勇者となり、そのメロスの信実の ために走った姿を見て人間不信の王を変えたという結論にたどり着きました。 私は走れメロスを読んで一番心に残ったことは「信実」の強さ、大切さです。そのことを伝えたかったから 太宰はメロスという人間を走らせたのかなと思いました。 国語のワークの「走れメロスの裏話」を読んで、私は太宰はメロスになりたかったのではないかなと思いま した。友との信実のために走った勇者になりたかったからこそ、あるいは悪いメロスになってしまったからこ そ、走れメロスを書いたのではないかと思いました。 人 走れメロスを読み込んでいく中で、王に対する えが変わっていった。最初王は冷酷な男だと思っていた。 しかし、 王は冷酷な男だったが昔はメロスのように熱い人を信頼することのできる男であったことが かった。 おそらく、王はメロスを昔の自 と重ね合わせていたのではないかと思う。そしてメロスとセリヌンティウス の深く熱い友情と信実を見せつけられ、王は変わったというよりは昔の自 の姿を取り戻すことができたのだ と思う。そして二人ともう一度人を信じ熱く生きていきたかったのだと思う。 太宰治も絶望の中でそのような熱い友情をもった友人を求めていたのだと思う。 走れメロス」 でメロスを走らせたものはわけのわからぬ大きな力であると思います。また、王の気持ちを変 容させたものは、メロスとその親友セリヌンティウスとの間の友情を見て、自 の今まで えていた人の心を 疑うということが最も恥ずべき悪徳であるということを悟ったからだと思います。 走れメロス」 は人間不信である王と友と信実を大切にするメロスとその親友であるセリヌンティウスの間で 広がる話です。私は太宰治は王を自 と重ね合わせていたのではないかと思います。 晴 孝 人くんにとって「信実」は王を「昔の姿に取り戻す」ために機能したものだった。「信実」によっ てつながった「熱い友情」による王の物語は、絶望の中にある作者が友情に対する羨望の思いを込め た物語だった。 人くんは絶望の淵にある人物から見た「信実」や「友情」のイメージに迫ったので ある。 晴孝くんにとっての「信実」は王の改心に直接作用したものではない。「信実」を背後で支える「わ けのわからぬ大きな力」に晴孝くんの えは至っている。晴孝くんは「信実」を物語を展開する重要 なキーワードの一つとして位置付けると同時に、それだけでは王もメロスも変わらないことも読み込 んでいる。 信実」という一つの記述の背景をたどるだけでも、子どもたちは、授業のねらいに対して多様な読 みを経て迫っていることがわかる。子どもの読みの世界に迫るには、いかに読みを構成していたかを たどることが重要になる。 ② 学習の過程を評価する 亮吾くんは最後の課題で「信念」という言葉を選び、以下のように理由を記述した。 読んで えたことはいろいろあるけれど、メロスが強い「信念」を持っていたと えたのでこの 単語にしました。以前にも読んだことがあったが、この学習を通して内容を改めて理解し、改めて えることは難しかったです。しかし、要点を って追究する協調学習は何かを明らかにするのが 好きなので、このような物語でやってみたいです。 信実」を選んだ 香さん、 人くん、晴孝くんと比較すると亮吾くんの理由づけは弱い。しかし、 151 平成23年度活動報告書 第2集 ジグソー活動での亮吾くんの活動をたどり、同じグループの子どもの記述の中に位置づけるとき、亮 吾くんの読みの世界に迫ることができる。 ジグソー活動では、「メロス」、「王」、「その他」の3つの視点から『走れメロス』と「人質」の表現 を比較してきた結果(エキスパート)を持ち寄り、「作者が作品を書き変えたのはなぜか」、「書き変え ることを通して何を伝えたかったのか」に対する答えを導き出した。 亮吾くんはジグソー活動の際に作品中に赤の色が多く登場することに気づき、赤の色に寄り添いな がら独自の読みを展開していた。 「真紅の心臓をお目に掛けたい」、 「愛と信実の血液」、 「斜陽の赤い光」 など赤は作品中に多用されている。色に着目することは作品の世界を広げるひとつのきっかけとなり える。宮沢賢治の作品の青に着目して多くの文学研究が重ねられてきたことはその典型例と言えよう。 亮吾くんは小学生時代に色に着目して読む授業を経験していた。『走れメロス』に赤が多く登場したと き、亮吾くんは小学 での経験を生かして作品を読もうと試みたのだろう。今回の授業は、色に着目 して読むという手法を自らの手法として獲得していく場であったともいえる。 赤に着目することはグループ内の子どもたちにとってそれなりの説得力をもっていた。同じグルー プにいた祐介くんは亮吾くんの読みを引き受けて最後の課題に応答している。祐介くんは最後の課題 に「信」という言葉を選び、選んだ理由を次のように記述している。 グループの中で「赤」というキーワードが出ました。このキーワードは読み解いていくうえで重 要だと思いましたが、最後までわかりませんでした。ただ、メロスを走らせたものと「赤」はつな がってるんだと思います。 祐介くんの記述からは、亮吾くんの「赤」に対するこだわりがグループの中で共有されていたこと を読みとれる。祐介くんはメロスを走らせたものをはっきりとは理解できなかった一方で「赤」につ ながった何かだと えた。祐介くんの解釈は、「赤」に着目した亮吾くんの読みを引き受け、自らの主 張として読みを深めたと解釈できる。 亮吾くんの記述にもう一度もどってみよう。「読んで えたことはいろいろあるけれど」という表現 は、グループ活動の中で友達とともに様々な読みを経験することができたという表明である。赤を軸 にして読むことは色々 えた読みのうちの一つだったと読み取れる。グループ内での多様な読みを経 験した後に、一つにまとめることは難しい作業だった。「難しかった」という表現は「このような物語 でやってみたい」という次の学習への期待感につながっている。亮吾くんの感想は、多様に読むこと ができる『走れメロス』の魅力に気づき、多様な読みを経験できた亮吾くんの充実感の表明として評 価できるだろう。 ③ こだわりを評価する 最後に選ぶ一言の中には、「信」、「変化」などとは異なり、1人ずつしか選ばなかった13通りの言葉 がある。「信」を含まない記述には、一目見ただけでは『走れメロス』の表現としては適さないと判断 できる記述もある。大輝くんは最後に「矛盾」と記述した。「矛盾」という言葉は一見すると『走れメ ロス』のどこから思いついたのかはわからない。しかし、「矛盾」という言葉を選んだ理由やジグソー 活動における記述をたどると、大輝くんが『走れメロス』の表現を踏まえた上で大輝くんなりのこだ わりとして「矛盾」という表現を選んだことがわかる。大輝くんは「矛盾」を選んだ理由を以下のよ うに表現している。 152 第4章 メロスは自 教室で起こった学習の評価 が愛と信実の血液だけで動いているといっています。しかし、走っている最中は道 行く人を押しのけ、跳ね飛ばすなどしている。僕はこんな行動をとる人が本当に愛と信実の血液だ けで動いているのかと疑問に思いました。 大輝くんは「矛盾」という言葉に、メロスの「押しのけ」、「跳ね飛ばす」行為と「信実」や「愛」 という言葉との乖離の意味をこめていた。ジグソー活動時の記述をたどると、大輝くんの主張は友達 との読みを踏まえた上でのこだわりの解釈であることがわかる。 大輝くんはジグソー活動の際に「登場人物の人物像がわかりやすくなっている」、「人は変わること ができることや、自 の理想としている友情を読者に伝えようとした」と記述している。「作者が作品 を書き変えたのはなぜか」、「書き変えることを通して何を伝えたかったのか」に迫ったジグソー活動 で彼は、「王」や「メロス」の描写の表現に着目し、両者の描写が細かくなっていることや、そのこと により登場人物の変化が強調されていることを読み取り、「友情」の間にある「信実」や、王の変化に ついて えた。 矛盾」という表現による「信頼」や「愛」に対する疑義の表明は、ジグソー活動において「信実」 や「友情」などの表現について十 に えをめぐらせたからこそ出てきたものだと言えよう。メロス が「愛」や「信実」以外によって走っていたという解釈はほかにもある。先に紹介した晴孝くんはメ ロスを走らせたものを「わけのわからぬ大きな力」ととらえている。王を作者太宰治に重ねて読み、 メロスに理想を託したという解釈も多い。一見テキストから外れたように思える表現も、理由や他の 子どもの読みとの関係をふまえてたどるとき、一人ひとりの読みのこだわりとして評価できる。 ワークノートの記述をたどると、文学の授業における子どもの一つの表現を支える多様な読みの道 筋を紐解くことができる。キーワードと作品とのつながりがすぐには読み取れない記述や、授業への 感想に終始しただけのように読める記述も、その根拠と論理をたどることにより一人ひとりのこだわ りとして表現されていることに気付く。 本事例は文学の授業での子どもの理解深化の道筋の多様性を改めて示すと同時に、こうした多様な 読みの道筋を適切に評価する上で授業の前後、途中段階での記述を丁寧にたどることの重要性を示唆 している。こうした評価を行うことは、子どもの学習過程を正しくとらえるだけでなく、彼らの読み に出会うことで教師自身の学びの機会にもなるはずである。 (4)「新しい学びプロジェクト」低学年の実践―つながり、深まり、広がる学習― 知識構成型ジグソー法の学習に参加することは、子どもたちにとって決して負荷の低い活動ではな い。認知的にも活動的にも、子どもたちに要求されることのレベルは高い。そこで、知識構成型ジグ ソー法は比較的年齢の高い生徒に向くのではないかとの意見もある。ところが、私たちの2年間の取組 からは、小学 の1、2年生でも、授業デザインの工夫次第で質の高い協調的な学習が引き起こされる ことがみえてきた。以下、低学年の子どもたちの学習の様子を見ていこう。 ① 自 と友だちの 南小国町立市原小学 えをつないで言葉を作る―『たんぽぽのちえ』の授業― 廣津望都教諭によって2年生18人を対象に実践された、説明文『たんぽぽのち え』の授業(国語A201、以下「たんぽぽ」と略述する)。柱となる課題は、文章に出てくる4つの知恵 をたんぽぽが「何のためにはたらかせているのか」を説明することであった。子どもたちは、この説 明を って、自 たちの学んだことをみんなに発表する「たんぽぽかみしばい」を作る予定なのであ 153 平成23年度活動報告書 第2集 る。ジグソー活動後、あるグループからは表12のような回答が出てきた。 表12:「たんぽぽ」の授業におけるジグソー後の回答の例 たんぽぽはこの4つのちえを げん気なたねをつくって、まだ花が1本もはえていない町にたくさんのたんぽぽをはやす ためにはたらかせているのです 実践者のねらいは、「仲間をふやす」、「あちこちに種をとばす」という2つの要素を含んだ回答が出 てくることであった。上の回答は2つの要素を含むとともに、文章としてもよく整理されたレベルの高 い回答と言えよう。 他のグループの回答も同様に 析してみると、図12に示すように、半数以上の学習者が2つの要素を 含む回答を書けていた。 図12:「たんぽぽ」の授業におけるジグソー後の回答の 析 一体どのようにしてこの回答が作られたのであろうか。以下、表12の回答を作ったグループの会話 を追い、学習の過程を見ていこう(子どもたちの名前は仮名)。 ま み:たんぽぽはこの4つの知恵をはたらかせて、新しい仲間を作っていくんじゃない のぶよし:もう1回言って。 ま み:たんぽぽはこの4つの知恵をはたらかせて新しい仲間を作っていくの。 のぶよし:…「ためにはたらかせている」、なのに ま み:じゃ、何がいいの … この4つの知恵を 違うんじゃない って、他の仲間を作って… のぶよし:…「ためにはたらかせている」。 このグループでは、まみさんが「新しい仲間を作る」という、4つの知恵に共通する目的を既にみつ けている。しかしのぶよし君は、ワークシートの欄にある「ためにはたらかせているのです」という 語句にきちんとつながる文章を作りたいために、まみさんの答えになかなか納得できないようである。 もう1人のメンバーすすむ君は、口数少なく、2人の議論をきいている。 154 第4章 教室で起こった学習の評価 議論が平行線をたどっているのをみつけた教師が、「もう1回、<ちえ1>に戻る 」と、それぞれが エキスパート活動で学習してきた具体的な知恵に関する記述を参照することを促すと、3人は自 キスパート資料から重要な部 を探し、自 のエ の言葉にしながら確認し始めた。 「たねにえいようを送っ てふとらせる」、「せいを高くして風をあたらせて」など、柱となる課題の回答に えそうな言葉が少 しずつ議論の場に出される。 しかし、言葉が豊かになったことで、逆に文章にまとめるのが難しくなってしまったのか、授業の 終わりが近くなっても3人は回答を書けずにいた。以下に示すのはジグソー活動の最後の部 の会話で ある。 のぶよし:げんきなたねを作って、まだ花を… ま み:げんきなたねを作って、まだ、 す す む:花を、 のぶよし:見ていない国の… ま み:えー、町のほうがいいんじゃないの のぶよし:すすむ君、国と町どっちがいい す す む:町。 のぶよし:花を見ていない町や。…花がない町。花が1本もない町。 ま み:花が1本もはえてない町に、たくさんの花を… のぶよし:違う、たくさんのたんぽぽを… ま み:はえてない町にたくさんのたんぽぽのたねを、 のぶよし:たんぽぽをはやす。 す す む:ふやす。 廣津教諭:もうつながるじゃん。 のぶよし:…ためにはたらかせているのです 口数の少ないすすむ君も加わり、3人はかわるがわる言葉をつなぎながら、ようやく納得できる回答 にたどりついた。重要なポイントをおさえ、なおかつ求められる形式にあてはまる回答を作りだした のである。 3人の学習の過程は、ともすれば遠回りにも見える。まみさんは最初の段階ですでにほぼ正答にたど りついていたのだから、教師がこの言葉を拾って他のメンバーに教えてしまえば、ほんの数 で全員 が正しい回答を記入できたかもしれない。だが、そうやって書いた回答は一人ひとりが納得のいくも のになるだろうか。私たちは、多様性を生かし合いながら自 一人ひとりの納得を作るのだと の言葉を作り出す過程を経ることが、 える。そして知識構成型ジグソー法によってこの知識構成の過程を 引き起こすことをねらっている。ここで作られた回答は、読解力のあるまみさん、細かい語句や表現 にこだわるのぶよし君、2人の話を聴いてぽつぽつと言葉を発しながら学んでいるすすむ君、3人の自 なりの えがつながって生み出された言葉である。「たんぽぽ」の実践は、低学年の場合でもねらい が達成されうることを、はっきりと示しているのではないだろうか。 ② 授業の外へも広がる学習―『だれがたべたのでしょう』の授業から― 次に取り上げるのは、九重町立南山田小学 1年生11人を対象に実践された恒任珠美教諭による説明 155 平成23年度活動報告書 第2集 文『だれがたべたのでしょう』の授業(国語A205)である。この授業では、低学年の児童たちが授業 の中で活発な知識構成活動を行って自 なりの納得を作り出しただけでなく、授業の中で獲得した知 識を授業の外へも活用し、様々な場で学習を深めていく様子がみられた。 入学以来2つめの説明文教材となる『だれがたべたのでしょう』の文章を素材に、1年生たちは、リ スとむささびについての記述をそれぞれエキスパート活動で読み取り、ジグソー活動では「食べたあ とを見ると何がわかると書いてあるか」という課題に取り組んだ。子どもたちは、ジグソー活動を通 して期待する要素を満たした回答を作ることができた。 「よくみるとどんなどうぶつがくらしているか がわかります」、「かじるあとをみるとどうぶつがわかる」などが回答の例である。ジグソー活動中の 子どもたちは、「わかんない」を連呼するなど、決してスムーズに答えにたどりついたわけではなかっ た。しかし他のグループの話を聞いたり、教師に質問したり、「教科書をみてみよう」と自 を取り出したり、なんとか回答にたどりつこうと思 錯誤を繰り返して、自 で教科書 たちの力で回答を作り 出していった。「たんぽぽ」の授業と同様に、一人ひとりの納得を作る知識構成の活動が起こっていた と えられる。 1年生でも、自 たちの力で納得を作りだしていけるということは、実践者にとっても新鮮な発見 だったようである。恒任教諭は、 「私が大人の言葉で かりやすく説明するよりも、子どもたち同士の 幼い言葉で伝えあった方が子どもが納得していた。子どもに負けた」と、この時の学習の印象を語っ ていた。 に興味深いことに、この思 錯誤の過程で、子どもたちは「∼でしょう 説明文の文型や、「迷ったら教科書に戻る」という学び方そのものまでも自 」「∼のです」といった のものにし、日常の学習 の中で活用するようになったという。1年生のうちからこうした学習を行ったことで、子どもたちはこ れから長く付き合うことになる教科書に、自 が いたいときに「参照し、活用できるツール」とし て出会うことが出来たと言えるだろう。 たとえば、生活科で図書館の本を った調べ学習をした際、子どもたちは動物や虫について調べた ことを、「問い」と「答え」の文型を活用したクイズの形にまとめた。「教科書が教えてくれるよ という言葉を合言葉のように いながら、自 」 の伝えたいことを表現しうる文型を教科書の中から探 し、 「うさぎはどうしてとぶのでしょう」、 「うさぎは足が大きくてうしろ足がふかくおれまがっている からです」といった「動物クイズ」を11人全員が作った。この動物クイズづくりは1年間の学習の中で も、子どもたちの印象に最も残った活動であったらしく、地域の学習発表会では、子どもたちの希望 で自作のクイズを発表した。全員が舞台に並び、 「こうもりが飛びながら腕や足を動かすのはどうして でしょう」、「答えを言います」と、いって自 たちの作ったクイズを発表したのだ。 恒任教諭は、実践に際し、子ども主体で学習を進める知識構成型ジグソー法では、子どもたちが重 要な文型に目をむけずに「するーっと読んでしまうのではないか」という不安を抱いていたという。 しかし実践を終えて「100%自信はないんだけど」、「課題の設定のしかたによっては」、子どもたちが 主体的な知識構成の中で1年生なりに「言葉に目を向けていくのだ」という手ごたえを感じたと語って いた。 ③ 低学年における協調学習の可能性 以上の2つの実践では、小学 自 の1年生や2年生においても、多様性を生かし合いながら一人ひとりが なりの納得をつくりあげていくような学習を引き起こすことに成功していた。これには、2つの授 業に組み込まれた授業デザインの工夫も一定の役割を担っているだろう。どちらの実践でも、実践者 156 第4章 は、児童の発達段階を 教室で起こった学習の評価 慮し、 「活動の見通しを持たせるために、エキスパート活動と同じ進め方によっ て、文章の一部をあらかじめ全体で読んでおく」、「知識の比較検討をしやすくするためにジグソー活 動をペアで行う」、「活動を進める手順を紙で事前に配っておく」といった工夫を行っていた。活動が 停滞したときの教師の支援もより重要になってくると えられる。 とはいえ、低学年における協調学習の実践には大きな可能性がある。 「自 は過小評価し過ぎていま したけど、子どもたちは喋りたいと思っているし、しゃべることを持っている。子どもの世界観のな かで胸の中にあるもの、幼いなりにそれを共有する力というのを持っている」。そして、「知的なもの (教材)を媒介にした話し合いを、小学 1年生でも求めている」。恒任教諭はいう。 低学年での実践には他に、五ヶ瀬町立鞍岡小学 堀真朋教諭によって1年生で実践された、 「足し算」 (算数)もある。この授業では、「増える、飛んでくる、もらう」という異なる場面を扱った文章題に 取り組んだ子どもたちが集まって、「買う」場面を扱った問題に式と答えを作るという活動を行い、4 つの場面を比較検討することを通して「増加の足し算」の概念を獲得させることをねらった。手や、 ブロック、絵や図を って友だちと話し合いながら、子どもたちは少しずつ理解を深化させ、例えば、 「エキスパートで絵を用いて図示していた子どもが、友だちの図を見て、ジグソーでは丸を用いたよ り抽象的な図を えるようになる」、「両手を のをきっかけに、片手を って足し算をしていた子どもが、仲間から指摘された って計算できるようになる」といった理解の抽象化がみられた。 様々な教科で、子どもが潜在的に持っている学ぶ力を生かし、一人ひとりが対話を通して賢さを育 て合えるような学習環境のあり方を、今後も探究していく必要があろう。 (5)「県立高 人は、自 学力向上基盤形成事業」理科―説明モデルの社会的構成― の経験と結びつかない「正解」を直接教えられてもなかなか納得できない。学習者が自 の経験と教科書などが教えてくれる知識を結びつけ、自 きるのは、正解を裏付ける説明モデルを自 なりの納得を伴った理解を得ることがで なりに構成することができたときである。特に、目に見 えない自然の仕組みに関する内容を扱う理科のような教科では、抽象的な概念や法則を理解するため に、説明モデルの構成が重要であろう。この説明モデルの形成には、学習者の理解形成過程で 相互作用を引き起こすような協調活動が有効なことが 本稿では、高 設的 かっている。 の生物と化学における2つの実践を題材に、知識構成型ジグソー法による理科の授業 が子どもたちの説明モデルの構成を効果的に支援しうるかどうかを検証する。どちらの実践も、いく つかの情報を組み合わせて説明モデルを構成し、それを活用して身近な疑問に対する納得のいく説明 をしてみるという活動を通して、日常経験と科学的な世界を結びつけることをねらったもので、多く の子どもたちが積極的に活動に取り組んだ。 ① 紫キャベツでヤキソバを作ったら 1つ目の実践は、埼玉県立皆野高 でヤキソバを作ったら ―酸・塩基と中和―」―化学の実践― 下山尚久教諭によって高 3年生化学で実践された「紫キャベツ ―酸・塩基と中和―」の授業である(理科S204、以下「酸塩基」と略述する) 。 生徒数は24人である。皆野高 は商業高 であり、中学 での学習に積み残しを持つ生徒も多い学 である。 この授業のねらいは、①紫キャベツでヤキソバを作ると何色のヤキソバができるか、②赤色のヤキ ソバを作るために必要な調味料は何か、という2つの柱となる課題に対して、酸・塩基と中和について の説明モデルを活用して正しい予想をたてることである。エキスパート活動では、「酸性・塩基性とは 157 平成23年度活動報告書 第2集 何か及び身近な物質の酸性と塩基性」、「アントシアンの性質」、「中和とはどのような現象か」という 3つの資料を読み込み、ジグソー活動で問いへの予想と説明を作ったあと、次時で実際にヤキソバを 作って自 たちの予想の正否を確かめた。 この授業では、授業前後の2度、柱となる課題に回答を書かせた。 に、次時の実験後に「 察」と して実験結果の解釈文も書いている。これらの記述を比較することによって、知識構成型ジグソー法 によるこの実践が、生徒たちの説明モデルの構成を効果的に支援しえたかを評価することが可能であ る。「酸塩基」の授業の場合、酸・塩基と中和についての説明モデルを活用できれば、学習者は課題① において、「青、緑」という正しい予想をたてるとともに、「かん水の塩基性と紫キャベツに含まれる アントシアンの反応」に言及してその理由を説明できるであろう。また課題②では、「アントシアンは 酸性で赤に変色する」ことを理由に、「レモン汁」等の酸性の調味料を選ぶことになるだろう。 このような観点から授業前後の生徒の記述を 析した結果を図13に示す。 図13:「中和」の授業前後における、課題①・②に対する予想とその理由の回答 課題①、課題②の両方で授業後には実験結果を正しく予想した生徒は増えた。また、酸・塩基と中 和についての説明モデルを活用して予想の理由を説明できた生徒も授業後には半数を超えていた。課 題①は、特に授業前の段階において、アントシアンが水に溶け出すことは予想できてもかん水の塩基 性に反応することが予想できなかった生徒が多かった。しかし、授業後ではかん水の塩基性に関する 言及が12人の生徒から出てきた。 に、次時で行った実験後の検証では、授業に参加した生徒の中で 新たに4人の生徒がかん水の塩基性に関する言及を行っていた。課題②は授業後全ての生徒が正答し、 そのうちの多くが酸性による色の変化を説明できた。実験後の検証では、新たに3人の生徒が酸性によ る色の変化に言及しており、結果的に全員が説明モデルを活用して予想の理由を説明したことになる。 今回の課題に要求される知識はどれも既習事項であるため、これまでの授業内容をよく理解してい れば初めから解答が可能である。しかし、授業前の生徒の解答に正答および十 な説明は少なかった。 授業後に正答や、酸性・塩基性に言及する生徒が増えたのは、授業の効果と言えるだろう。 ② 葉が緑色に見えるのはなぜか―光合成と光の波長―」―生物Ⅱの実践― もう1つの実践は、埼玉県立南稜高 奥間美穂教諭によって高 3年生生物で実践された「葉が緑色 に見えるのはなぜか―光合成と光の波長―」の授業である(理科S210、以下「光合成」と略述する) 。 生徒数は26人である。南稜高 では、約半数の生徒が四年制大学に進学する。 授業のねらいは、「葉が緑色に見えるのはなぜか」という柱となる課題に、光の波長と光合成につい ての説明モデルを活用して回答することである。色覚には人間の視覚と脳の問題も関係しているが、 158 第4章 教室で起こった学習の評価 今回は同化の単元の導入として、波長による光合成の効率の違いという観点から現象を解釈すること に焦点を当てた。エキスパート活動では「色はどうしてみえるのか(可視光線について)」、「葉緑体と 光吸収スペクトル」、「エンゲルマンの好気性細菌を った光合成の実験」の資料と図表を読みとき、 ジグソー活動で3つの情報を組み合わせて問いに答えを出した。 この授業でも、授業前とジグソー活動後の2度、柱となる課題に回答を書かせている。授業を通して 子どもたちが光の波長と光合成についての説明モデルを活用できるようになっていれば、 「緑色の光は 光合成に わない」という光合成に われる光の波長に関する情報と、「葉は緑色の光を反射するので 緑色に見える」という光の反射と視覚に関する情報を組み合わせて、葉が緑色に見える理由を説明で きるであろう。 析の結果は図14の通りである。 図14:「光合成」の授業前とジグソー活動後の「葉が緑色に見えるのはなぜか」の回答 ジグソー活動後には「光合成に われる光の波長」に関する情報、「光の反射と視覚」に関する情報 に言及できた生徒は大きく増えており、両方の情報を組み合わせた説明ができた生徒も11人存在した。 授業前に2つの情報に言及した回答を書いた生徒はそれぞれ1人だけであり、2つの情報を組み合わせた 回答を書けた生徒は0だったことから、回答の精緻化は授業の成果と言えるだろう。 ジグソー活動後に説明モデルを活用して回答を書くことができなかった生徒たちの中には、ジグ ソー後のクロストークで自らの理解を補完していた生徒も見られた。その様子を図15に示す。 図15:「光合成」の授業におけるクロストーク中のメモの内容 17人が「光合成に われる光の波長」に関する情報を、16人が「光の反射と視覚」に関する情報を それぞれメモしていた。ビデオに記録された報告者の発言と各自のメモを比較した結果、これらのメ 159 平成23年度活動報告書 第2集 モは、単に報告者の発言を書き写したものではなく、それぞれの生徒が発言を聞いて自 なりに理解 したことを表現したものであることが明らかになった。こうしたメモには、例えば、 「光合成に やすい色を吸収して われない緑をはじく」という自 われ なりのまとめを囲みで強調したものや、葉が 赤色光と青紫色光を吸収し、緑色光を吸収しないことを示す絵図などがあった。 結果、最終的に何らかの形で2つの情報を組み合わせて現象を説明する記述を行うことができたの は、26人中21人であった。授業を通してほとんどの子どもたちが、光の波長と光合成についての説明 モデルを活用できるようになったと言えるだろう。 ③ 光合成」のジグソー活動における 2つの授業における回答には、完全に十 設的相互作用 な説明とは言えないものもあったが、どちらの実践におい ても子どもたちは現象を説明モデルに即して科学的に語るということができるようになった。では、 子どもたちはどのような学習を通して理解を深化させていったのだろうか。「光合成」の授業における あるグループのジグソー活動の様子を見て行こう(子どもの名前は仮名である)。 グループを構成するのは、池田さん、井口君、吉川君である。柱となる課題に対する、3人の授業前 の記述は表13の通りである。 授業前には、3人のうち池田さんと井口君は「葉緑体」に原因があるという予想を書いている。吉川 君も同様の予想を立てているが、加えて、獲得が期待される説明モデルの一要素である「光合成に われる光の波長」にも言及している。 ジグソー活動が始まると、3人は順に各資料の説明を行った。最初に井口君が自 の担当した「色は どうして見えるのか」について説明を始めている。 表13:「光合成」の授業前 の「葉が緑色に見え るのはなぜか」に対 する3人の記述 授業前 井口:赤以外は吸収しちゃうの。で、赤は反射すんの。だから赤色に なるから。…まとめ方が難しい。 吉川:「反射する色が目に見える」ということ 井口:ありがとう。 池田:ああ、(メモしながら)…よかったね。 池田 葉緑体のせい 次、私 何か植物が吸収する光の波長別に見たエネルギー 布 図なの。難しい。 井口 葉緑体があるから 井口:もう1回言って。 吉川:見せて、酸素のあるところに 吉川 ・葉緑体が緑色なので ・光合成に緑色光が必 要でないので 各自が担当した資料についての理解を不十 ながらも言葉にしてみ るところから、グループの学び合いが始まっている。井口君は自 の エキスパート資料の内容を完璧に説明できなかったけれども、吉川君が井口君の説明を彼なりに要約 してくれたことにより、改めて腑に落ちる機会を得た。池田さんの説明の場面では、池田さんのわか らなさが井口君と吉川君の学習活動を喚起している。グループ活動の場では、正しい説明から聴き手 が利益を受けるだけでなく、理解を言葉にする機会を与えられることによって生まれるやり取りを通 して、それぞれの学習が進んでいるのである。 説明が終わると、3人は柱となる課題に取り組み始めた。 160 第4章 (池田さんによる「エンゲルマンの好気性細菌を 教室で起こった学習の評価 った光合成の実験」の資料の説明を受けて) 井口:え、じゃあなんで葉は緑なの 池田:ねえ。できなかったらね、緑なのおかしいじゃん。 吉川:緑はいらないってことでしょ。光合成には関係ない。 井口:いらないもの逆にくっつけちゃったの 葉っぱは。 吉川:え、違うんだよ、違うんだよ。 池田:えー 吉川:見えてるってのは、光が見えるでしょ。 井口:反射するんでしょ 吉川:いらない光が反射するから…(手ぶりで) 井口:ああ わかった 今出かかった あれでしょ だから、吸収しないんだよね。だからいらな いからでしょ。あー、とりあえず緑は、緑色は…(書き始める)反射すんだよね 池田:うーん。 吉川君は、説明を聴き終わった後、比較的早い段階で自 なりの理解にたどりついたようである。 しかし井口君の誤解を受けたことで、改めて「ものが見えるとはどういうことか」に戻り、身ぶりも えた別の説明の仕方を試みている。別の説明をしてみることで、自 すということは、理解深化につながる活動と の理解を異なる視点から見直 えられる。それが井口君の納得を引き出すきっかけに なった。 一方池田さんは、まだ納得にいたらない。この後、「最初からやろう 」と資料に立ち戻り、必要な 情報を言語化しながら整理しようとしたが、「あ…なんか出てきそう、出てきそう」と言いつつも苦戦 し続けていた。そして教師から、そろそろ話し合いを終わる旨が知らされた。以下は、クロストーク に移る直前の学習の様子である。 池田:やばいかもしれない。私病気かもしれない。とりあえず、この資料の内容はわかった。緑に 酸素はないってわけで。光合成は赤青紫ってことで、どうする 井口:まじで …だめだ。 お前、出かかってたじゃん。 池田:なんか…しまっちゃった。 井口:だから、赤と青と紫で光合成してるから、普通に えたって俺らだっていらないもの捨てる じゃん。だから葉っぱも緑と黄色の光いらないから、ポイってやったら、人間の目にはポイっ てやった緑と黄色が入るから、緑とか黄緑に見えるわけ。…オレの説明下手なのかな 吉川:いや、説明よかったよ。光が入ったらもう見えるんだよ。 池田:いらないから、赤と紫とかは、 井口:葉っぱがいるんだよ。人じゃないよ。(池田さんの緑の筆箱を持ち出して)これが葉っぱとす るよ。吸っちゃったら俺らの目には見えないんだよ。赤と青と紫の光は。光合成できない緑 と黄色とかの光は、こいつ(葉っぱ)はいらないから、ばーって出すの。で、俺らはこれを 見てるから… 池田:そうしたらその色しか見えてないってこと 井口:そういうこと だから… 161 平成23年度活動報告書 第2集 池田:あーーー、おっけー そういうことね。緑と黄色は、いらないのを、出してるやつしか見え てないってことね。出してるやつが見えてる。 この最後の話し合いを経て、池田さんは一気に納得にたどりついた。最初の行に引用した池田さん の言葉は、自 のエキスパート資料の内容をまとめたものであり、池田さんは資料の内容を自 なり に説明できるようになることにこのジグソー活動のほとんどの時間を費やしていたとも言える。しか し「手持ちの情報がうまく関係づけられないけど、もう少しで納得できそうだ」という自 自身の感 覚を大切にして探究を続けたことは、ポイントとなる情報が提示された瞬間に「おっけー 」と思え るレベルに、彼女の理解を深化させていたと えられる。緑色光の反射に関する井口君の緑の筆箱を 葉に例えた説明は、その説明は池田さんの欠如部 説明が、前段に引用した数 を見事に埋めたように見える。同時に、井口君の 前の発言と比べて著しく精緻化しているのも印象的である。 以上の話し合いの様子から、知識構成型ジグソー法における学習の特徴として2つのポイントを指摘 したい。まず1つは、ここで起こっているのは教え合いではなく、個々に知識を構成していく 相互作用だということである。学習者は自 設的な のわかったところまでを口に出してみて、それと他者の 言葉を結び付けて、「わかった」に至っている。1人の理解深化が他の理解深化を連鎖的に引き出すこ とはあっても、理解の進んでいる他者の言葉をそのまま受け入れて自 の理解にしているわけではな い。このように主体的に知識を構成する活動は、教室の外に持ち出せて、柔軟に作り変えながら保持 できる、活用できる知識の獲得につながっていくと えられる。 また、もう1つ重要なのは、グループでの学習においてさえ、理解を作る道筋は一人ひとり違うとい うことである。ここで見てきたグループの3人も、納得のポイント、ペースはそれぞれ多様であった。 例えば井口君は「緑色光はいらない」、池田さんは「反射している光が見える」が納得のポイントであ り、そのポイントを探し当てるプロセスも異なっていた。グループのメンバーが多様な理解を表現し 合い、納得のポイントを探し合う過程で、3人は相手から納得を引き出すために色々な角度から現象を 言葉にする試みを繰り返し、自 自身の理解を深化させていると た話し合いでの井口君の説明の深化には、そのような えることができる。最後に引用し 設的相互作用の効果は典型的に表れていると 言える。 実際、表14のように「葉が緑色に見えるのはなぜか」についての3人の授業前の回答と、ジグソー後 の回答やクロストーク中のメモを比較してみると、各自が授業を通して記述を精緻化させていること が明らかになる。 表14: 葉が緑色に見えるのはなぜか」に対する3人の記述の変化 授業前 ジグソー後 クロストークメモ は酸素があり、 B,クロロフィル 吸収しにくい C光合成(赤、青、紫) 、 緑は われにくい 池田 葉緑体のせい 赤、青、紫の光が当たる部 光合成をする 井口 葉緑体があるから エンゲルマンの実験によって、赤、青、紫 の部 に酸素があることがわかった。よっ て緑色、黄色は光合成には必要ない。だか ら必要ない緑、黄の光は反射する。よって 人の目には葉は緑色に見える。 クロロフィル(光合成色素)500∼600nm吸収さ れにくい 吉川 ・葉緑体が緑色なので ・光合成に緑色光が必 要でないので 光合成には緑色光は必要ないので反射し てしまう。したがって反射された緑色光が 目に見える。 クロロフィルが緑色光を反射するから 目は反射した色を物体の色と認識する クロロフィルは500∼600nmの光を吸収してい る 162 第4章 教室で起こった学習の評価 井口君の記述の変化は一番顕著である。3つの資料の内容をしっかり組み合わせ、授業者のねらい通 りの十 な説明ができるようになっている。吉川君もまたこの相互作用から利益を得て理解を深化さ せている。池田さんはジグソー後にはまだ説明モデルに則して科学的に現象を説明できるようになる までには至っていなかったようである。しかし彼女は、クロストークの間も説明をつくる作業を継続 しており、ワークシートに、それぞれのエキスパート資料から「葉が緑色に見えるのはなぜか」とい う柱となる課題に答えるために必要な情報を完結にまとめたメモを作っている 。授業後には、池田さ んも、出すべき答えの全体的なイメージを把握し、あとは文章にするだけのところまできていたと言っ てよいだろう。これは、授業前に比べて大きな理解深化とみなせるだろう。 もしこの3人が講義式の授業で同じ課題に取り組んでいたとしたらどうなるだろうか。1人だけの教 師が多数の生徒に説明をする通常の講義式の授業においては、学習者は1つの課題について、このよう に手を変え品を変えて何度も説明を聞くことは難しく、一人ひとりが自 つけるのは簡単ではないだろう。またそれ以上に、各自が自 なりの納得のポイントをみ の理解を何度も説明して反省、確認す る機会は限定される。知識構成型ジグソー法に含まれる課題を共有し、一人ひとりの えの多様性と 平等性が明示されたうえでそれを出し合えるという仕組みが、既有知識も、学習の道筋も多様な3人の 生徒に、「他者とかかわりあいながら、一人ひとり自 なりの納得を作っていく」ような学びを保障し ていたのではないだろうか。このグループの学習は、私たちのいう「多様性をリソースとして一人ひ とりが賢くなる」という協調学習の具体像を示す、1つの典型的な例だということができる。 (6)「県立高 学力向上基盤形成事業」地歴―身近な疑問と知識をつなぐ― ジグソー法を用いた歴 かを、埼玉県立越ヶ谷高 の授業において、子どもたちの対象についての知識がどのように変化する の福島巖教諭によって高 2年生の地歴科で実践された「鎌倉仏教とは何か」 の授業(社会S202)を題材に報告する。知識構成型ジグソー法を用いた歴 の授業において、生徒は 問いに対してより適切な答えを出す活動を通じて、既有知識と新しい知識を自 なりに統合しながら 対象についての知識理解を深めている。 授業の最初の課題は、タイ人留学生から「なぜ日本のお坊さんは結婚しているんですか 質問を受けた場面を想定し、自 」という の言葉で答えるところから始まる。生徒たちは、A「鎌倉以前の官 僧」の資料、B「鎌倉仏教を生んだ僧たち」の資料、C「 世僧と穢れの関係」の資料から かった ことを持ち寄って吟味統合し、「鎌倉仏教とは何か」についてまとめ、最後に再び「なぜ日本のお坊さ んは結婚しているんですか 」という質問への回答を作り上げた。 「なぜ日 本授業で生徒がいかに鎌倉仏教に対する認識を深めたかについて検討するにあたり、まず、 本のお坊さんは結婚しているんですか 」という質問に対する授業最初のプレ回答と最後のポスト回 答を比較する。この授業の生徒数は36人である。また、越ヶ谷高 進学する高 ① はほとんどの生徒が四年制大学へ である。 授業前後における理解の変化 まず、回答の記述量について、合計の文字数を比較した結果、次ページの表15の通りであった。 井口君や吉川君の記述を写したのでないことは確認できている。 163 平成23年度活動報告書 第2集 表15: なぜ日本のお坊さんは結婚しているんですか 」への授業前後の回答に 授業前 授業後 1024字 1260字 われた文字数(合計) 表15を見ると、プレ回答(授業前)に比べ、ポスト回答(授業後)で文字数が2割弱ほど増加してい る。プレ回答で記述のない生徒は1人だったが、ポスト回答では4人であり、記述途中の生徒が2人だっ た。授業時間の最後に記述させたため、十 な時間が確保できなかった生徒もいたと えられる。 ポスト回答の前に生徒たちは、前段階の問いとして「鎌倉仏教とは何か」という問いについても記 述している。この問いへの記述量は、ポスト回答の4倍以上に及ぶ5,378字に上り、また記述のない生 徒はいなかった。この鎌倉仏教の説明記述の方に生徒の時間や労力が費やされたことが推察されるが、 それでもポスト回答の記述量がプレ回答よりも増加していたことは、生徒が本時で学んだ知識を積極 的に活用していたことを示唆する。 では、プレ回答とポスト回答で、記述内容はどのように異なるだろうか。回答の鍵となる「庶民の 救済」や「穢れ」に何らかの形で言及している記述は、プレ回答の中には見られなかった。ただし、 「タイとは信仰する仏教の宗派が違うから」という「宗派」という言葉を用いて説明する記述が計3人 の回答中に見られた。また、「日本の仏教が独自に変化して、結婚してもいいことになったから」と、 「変化」という言葉を用いて説明する記述が計3人の回答中に見られた。しかし、「宗派」がどう異な るのか、どう「変化」したのかについては、具体的な記述はなく、しかも、それらを記述した生徒数 の合計は全体の6 の1であることから、ほとんどの生徒が、本時で扱う内容について十 を持っていなかったと な事前知識 えられる。 一方、ポスト回答では、「庶民の救済」に関する記述が、6人の回答中に見られた。また、「穢れ」や 「女性との関係」に関する記述が、5人の回答中に見られた。3割弱の生徒が、本時で学んだ鎌倉時代 の仏教の特徴に関する知識を的確に用いて回答している。その他にも「 世僧」に関する記述が、10 人の回答中に見られ、本時のキーワードが散見された。 具体的な回答例の変化として、例えば、プレ回答で「タイとは信仰する仏教の宗派が違うから。 」と 「宗派」に言及していた生徒が、ポスト回答で「 世僧になったことにより、鎌倉時代以前の官僧と 違って、死や女性などの戯れを気にしなくなり、人々のために御葬式を行ったり、結婚もできるよう になったんですよ。」(引用ママ)と記述していた。「宗派」の違いとその歴 知識を用いて具体的に述べることができるようになっていたことが ② 的要因を、本時で学んだ かる。 課題に即した知識の統合と活用 次に、授業の最後に生徒たちが書いた鎌倉仏教の説明記述について検討する。前述の通り、記述量 は合計5000字以上あり、生徒一人当たり149.4字である。記述のない生徒はいなかった。 まず、本時を通して生徒にわかって欲しい要素を、何人の生徒が記述に含めているかについて検討 した。具体的には、以下の各要素に言及している記述の数を検討した。その結果は図16に示した。項 目名は、下記要素の( )内に対応している。 ・担い手が官僧ではなく 世僧であったこと( 世僧) ・穢れを気にしなくなったこと(穢れ) 164 第4章 教室で起こった学習の評価 ・庶民の救済が目的であったこと(庶民の救済) ・念仏等の方法を簡単にしたこと(簡単な方法) 図16:各キーワードを記述に含めた人数 図16を見ると、庶民の救済に言及している生徒は35人と、ほぼ全員であった。よって、ほとんどの 生徒が、旧仏教と鎌倉仏教の目的の違いについて理解したことが かる。また、担い手が 世僧であっ たことに言及している生徒も31人と多かった。これらの結果から、生徒たちが本時を通して旧仏教と 鎌倉仏教を比較し、官僧から 世僧に担い手が移行したこと、国家の安寧から庶民の救済への目的が 変化したことを捉えたことが かる。 一方で、鎌倉仏教になって穢れを気にしなくなったことについて言及した生徒は17人と半数程度で あった。本時の授業では、仏教における「穢れ」の概念については直接に焦点を当てていないため、 生徒の中でイメージが湧きにくかった可能性が えられる。 また、庶民に広めるため念仏等を簡単にしたことについて言及した生徒は25人と、3 の2程度であっ た。これについても、具体的にどのように簡単になったのかについては、焦点が当てられていないた め、生徒の中でイメージが掴みにくかった可能性が えられる。ただし、念仏に関しては、授業の最 後に鎌倉仏教由来の宗派における実際の音声を、生徒たちが聴き入っていた様子から、授業後に生徒 の実感として残った可能性も えられる。 より深く回答の内容を検討するために、いくつか例を挙げて検討する。次ページの表16は、生徒達 が書いた鎌倉仏教についての具体的な記述回答例である。生徒の記述をそのまま引用しており、誤字・ 脱字等の修正は行っていない。 表16の1と2は、上に挙げた全ての要素が含まれる回答例である。1は、旧仏教と鎌倉仏教の相違を明 確にした記述となっている。一方、2の記述は、より簡潔に、ポイントを押さえた記述になっている。 このように、同一のポイントを押さえていても、生徒によっては、統合の仕方が異なることが示され ている。 165 平成23年度活動報告書 第2集 表16:記述回答例 記述回答(直接引用) No. 1 鎌倉以前の仏教では、信者を必要としていた。また、国家に仕えていた、いわば国家 務員僧侶だっ た。死の戯れである葬式は行わなかった。 一方、 世した僧侶は、国家や制約から解放され、死の戯れも気にすることなく、葬式を行うことが できた。そのような流れから、庶民の人々が救済されるようになった。 鎌倉仏教では、念仏を唱えることや、座禅など、修業よりも人々が簡単にできることを行っていた。 また、それぞれたくさんの宗派をもっていた。国家に仕えていた官僧の他に、 世僧が仏教を行った ことによって、葬式などの死者、人々の救済に関わる重要な儀礼が行なわれるようになるなど、民の ためにつくされるように、仏教は変化していった。 2 国家に尽くしてきた官僧と違い、制約から自由になった 世僧による、念仏を唱えたり座禅を組むこ とで救われるという一般の人々に親しみやすい方法で、救済の力になった。また死後尚人々を救済し ようとする え方から、それまで死に戯れのイメージを持ち官僧が避け続けてきた葬式も行うよう になった。 世僧のおかげで今の仏教があるようなものである。 3 鎌倉仏教は、民のために尽くす現代の仏教に近いものである。 4 鎌倉仏教以前は信者を必要とせず、国家の為に祈祷していたが、鎌倉仏教は、国家 務員的でなく、 厳しい戒律をなくした。国からの給付がなくなり、信者からの寄付で、旧仏教ではできないことがで きるようになった。 3と4は、いずれも含まれる要素が1だった回答例である。3は、目的が庶民の救済であることに触れ ているが、その他の要素については言及がない。その代わり、現代の仏教と比較した記述になってい る。本時のプレ課題とポスト課題が、「日本のお坊さんはなぜ結婚しているんですか 」という留学生 の質問であることを踏まえると、現代の仏教と鎌倉仏教のつながりに着目することは合理的だと言え る。 また、4は、担い手が官僧でなくなったことについて触れているが、他の要素については、明示的に 言及されておらず、代わりに鎌倉仏教の資金源に着目した記述がある。国からの給付がなくなった 世僧たちの資金源については、この生徒が担当したエキスパート資料Bの冒頭に書かれていた。 「 や「簡単な方法」に着目させる資料Bの意図とは異なるが、 世」 世僧側から見て信者を多く抱える必然 性について捉える上で、鎌倉仏教の資金源も重要である。この生徒は、資料の意図を超えて独自の視 点で資料AとBの内容を統合していた可能性が えられる。なお、資金源に着目した生徒はこの生徒 だけではなく複数いた。 以上より、本授業では、多くの生徒がポイントを押さえ、かつ、知識を多様に統合していると言え、 さらに、少数の生徒は独自の着眼点で知識を統合していた可能性があると言える。 (7)「県立高 学力向上基盤形成事業」外国語―協調学習と活用できる知識の獲得― 私たちは、知識構成型ジグソー法を通して、授業の外に持ち出して必要な時に 結び付けて作り変えながら保持されるような知識を生徒たちに身につけさせたいと え、新しい情報と えている。実際 にそのねらいはある程度達成されているようであり、授業を実践してくださった先生たちからは、 「数 か月後のテストで類似問題を出題したら、細部までよく覚えていた」などのご報告をいただく機会も 少なくない。本節では知識構成型ジグソー法による英語の授業を受けてから1年後に、実践者の協力を 得て行った調査の結果を中心的な題材とし、知識構成型ジグソー法の授業で学んだ知識がどのように 保持されているのか、一例を示す。 166 第4章 ① 教室で起こった学習の評価 カレンダーはなぜ必要か」の授業 平成22年11月、埼玉県立浦和高 2年7組31人の生徒を対象に、小河園子教諭による「カレンダーは なぜ必要か」(英語S103、以下「カレンダー」と略述)の授業が行われた。小河教諭は、実践経験豊 富なベテランで、英語教育の実践研究を精力的に進めてきた教師である。県立浦和高 ラスの進学 は、トップク である。 この授業で生徒たちは、主題に関連する3種類の英文から得た情報を活用し、「カレンダーはなぜ必 要か」という問いの回答を英語で作文するという課題に取り組んだ。生徒たちはリーディングの教科 書で現代人の時間感覚を批判するサモアの酋長の主張を中心とした英文の読解を行っており、この授 業は単元のまとめとして行われた。3種類の英文は、「無人島でロビンソン・クルーソーがカレンダー を作ろうとした話」、「逆周りの時計があったらどうなるだろうかという話」、「国際宇宙ステーション での標準時の話」である。 生徒たちが3つの英文から得た情報を活用して柱となる課題に取り 組むとすると、人間が社会的な生活を送るにあたってのカレンダー (共 有された時間的標準)が必要であるという観点から答えを作ることに なる。具体的には、 “common”、 “standard”などの概念語を組み込ん だ英文が回答として記述されることが期待されるということになるだ ろう。実践者は、このような抽象的概念を示す単語は「日本語との一 対一対応の暗記ではなかなか定着しない」という問題意識を持ってこ 図17:カレンダーの授業前 後に重要な概念を組 み込んだ回答をした 生徒の数 の授業をデザインしている。 この授業でも、授業前と後の2度、生徒たちに柱となる課題について の回答を書いてもらっており、回答を比較 析することによって授業 を通しての理解の変化の様子を知ることができる。図17に示したのは、 授業前後それぞれの回答において上述のような、この授業における重要な概念語 を組み込んだ記述を した生徒の数である。併せて表17に回答の実例を示す。 表17:カレンダーの授業前後の柱となる課題に対する回答の例(原文ママ) 授業前 授業後 It teach me when the holiday Calendars are used all over the world. But clocks are not.So,calendars give us the same informations. (記述なし) 生徒K I think we live everyday, consuning time like oxygen, food, and so on. We had better know how much time we had consuned and how much time is left for us. 生徒T A calendar have a function that let my life is A calendar creates our standard of living. Without being the standard, we can t keep going smoothly. regular hours and feel relieved. 生徒S 前述の通り、生徒たちは事前にリーディングの授業で関連の英文を読んでいたが、授業前に重要な 概念語を含む記述をした生徒は0人であった。しかし授業後には31人中26人の生徒が重要な概念を含む 重要な概念語としては、standard, common, communicate, shareなどを設定した 167 平成23年度活動報告書 第2集 記述ができるようになっていた。同じグループでも全く同じ回答を書いた例はほとんどなかった。ま た、授業後には回答に われた語数の平 をとると、2.8語から15.4語へと5倍以上に増えており、17 人いた未記入者も0人になっている。具体例を合わせて見ても、授業を通して内容と英語表現の両面で 回答が精緻化されたことがわかる。 生徒たちは話し合いの中で、与えられた英文を、自 りにするとともに、 自身の主題に関する えを的確に表すための英語表現の参 えを膨らませる手掛か としても活用していた。あるグループの ジグソー活動では、問いに対して英文の資料を統合して、「共通の時間感覚」という日本語のキーワー ドを練り上げ、また英文の資料に戻りながら「“time feeling”かな る言葉を えば 」というやり取りを行いながら、英文による回答を作り上げていった。資料を媒介 に、英語と日本語を行き来しながら ② 」、「“common date”って、出て えを出し合い、質の高い回答にたどりついていたと言える。 授業から1年後の調査 このように協調的に構成された知識は、授業の外に持ち出して必要な時に え、作り変えながら深 めていけるような知識として学習者の中に残っているのではないか。このような問題意識から、1年後 の知識の実態を調査した。こちらに提供いただいたデータは、次年度に実践者が担当した19人の生徒 の調査結果である。そのうち、6人は「カレンダー」の授業を受けた生徒、13人は受けていない生徒で あった。調査は、通常の授業と同じ状況で回答できるよう、ライティングの課題の一部に組み込んだ 形で行った。具体的には、“What functions does a calendar have in your daily life?”を含む3つの 課題から、任意の2題について40語以上で回答を英作文させた。 まず、「カレンダー」の授業を受けた6人の生徒は、全員が“What functions does a calendar have in your daily life? ”を選んで回答を書いていた。授業を受けていない生徒13人のうちこの問題に回 答した生徒は9人であったところから、6人の生徒が他の生徒よりも、この問題に対して回答できると いう見通しを強く持つ傾向にあったと言える。また、授業前後の回答の 析と同様に、人間が社会生 活を送るにあたってのカレンダーの必要性という観点から書かれた重要な概念語を含む回答の数を数 えたところ、授業を受けていた生徒では6人中4人の回答が該当した。一方授業を受けずに回答した9人 の生徒の中には、そのような回答は見受けられなかった。表18に授業を受けた生徒と受けなかった生 徒それぞれの回答の具体例を示す。表17と同じアルファベットは、同一生徒の回答であることを示す。 表18:「カレンダー」の授業を受けた生徒と受けなかった生徒の“What functions does a calendar have in your daily life?”に対する授業から1年後の回答(原文ママ) 授業を受けた生徒 受けなかった生徒 生徒K I think a calendar enables us to keep connection with others in our daily lives. If it were not for a calendar,we would live independently. 生徒Ka I don t usually check a calendar. Every day I usually do same things,get up at 6 in the morning, have a breakfast, go to school, study, get home, have a dinner, take a bath, and go in bed. So I don t think about date. 生徒T It keeps our standard living. 生徒Ko I see a calendar in the every morning to know what date is it today. 生徒I A calendar makes me remember myschedule, anniversary, or birthday of someone. It is important for communication with 生徒O other people, especialy between a couple. And also we can live in routin, thanks to a calendar. A calendar makes it easier for me to make my plan.If it were not for a calendar, I couldn t make many plans. A calendar makes a circle of my life. 168 第4章 教室で起こった学習の評価 生徒K、生徒T、生徒Iはいずれも他者と関わり合う人間社会の共通の基準としてカレンダーの意 義に触れた回答を書いている。KやIの回答は、英語表現としても質の高いものであろう。それに対 して生徒Kaや生徒Ko、Oは、自 自身のみの経験に基づいた回答を書いている。Kaは長い文を書い ているものの、短い句を羅列したものであり、内容的にもあまり充実していない印象はぬぐえない。 に指摘したいことは、特に生徒KやIの回答において顕著であるように、授業を受けた生徒がそ の後のライティングの授業を通して学んできたと目される英語の文法事項、たとえば仮定法や 役な どの型を活用して「カレンダー」の授業で学んだ内容をまとめていることである。彼らは、1年前の授 業で自身が作った回答をそのまま覚えていたのではなかった。 「カレンダー」の授業で得た知識を、 「授 業の外に持ち出し」、新たに学んだことと結び付け「作り変えながら深め」、「必要な時に」活用してみ せてくれたのだと言えるだろう。 ③ 自 たちでみつけた問いと知識の保持 自 たちで構成した知識が「活用できる知識」として定着していることを示す事実としては、この 1年後の調査でもう1つ興味深いことが明らかになっている。 「カレンダー」の授業を受けた生徒たちは、 柱となる課題への答えだけでなく、授業中に自 たちが話し合った内容についてもよく覚えており、 質の高い英語で表現することができたのである。 ジグソー活動では、話し合いの中で時に新たな問いが生まれる。この授業においてあるグループで は、エキスパート資料の1つであった「逆回りの時計」について解釈する過程で、「時計が時計回りな のはなぜか 」という問いが生まれた。そして「時計が発明された北半球では日時計が“時計回り” だったから。すなわち、基準は人が作るものではなく、基準と人が認めたものが基準になる」といっ た自 たちなりの答えをみつけた。このグループは、3名とも当時「英語で2しかとったことがない」 という生徒のグループだった。 以下に示すのは、1年後の調査において、“Why does a clock run clockwise?”という問いに対し てそのグループの生徒3人が記述した回答である。どの生徒も、「カレンダー」の授業でみつけた答え を、ほぼ適切な英語で自 なりに表現している。 表19:話し合いの中で生まれた問いに対する授業から1年後の回答(原文ママ) Clockwise is the sunclock in north hemisphere. If you put a bar on the ground in north hemisphere. If you put a bar on the ground in north hemisphere, its shadow will run around the bar in twenty four hours. In south hemisphere, it doesn t run clockwise. I think that s why ancient people used a sun-clock which run clockwise. And the reason why sun-clock which run so is that the sun is rise in East, you can observe it in sunny day with standing a stick on the ground. I think that is because ancient people like clockwise or, the sun rises to east and sets to west and then the shadow run clockwise. カレンダー」の授業から1年後の今回の調査は、与えられた情報を解釈し、結びつけ、自 なりに 納得できる文章にまとめて表現するという知識構成の成果物が、「活用できる知識」として長期的に保 持されていることを示していると言える。もし様々な授業の中でこのような活動が繰り返されるとす れば、生徒が授業の場から次の学びの場へ持ち出せる成果物はますます豊かになっていくのではない だろうか。 169 第5章 実践者の えはどう変わったか 協調学習」理解の深化 写真 県立高 学力向上基盤形成事業 第3回全体研究会の様子 第1節 継続的な授業改善ネットワークのためのビジョンとデザイン 第2節 授業づくりを通じた「協調学習」理解の深化―実践者の声から― 平成23年度活動報告書 第5章 第2集 実践者の えはどう変わったか― 協調学習」理解の深化― 本章では、 「新しい学びプロジェクト」、 「県立高 学力向上基盤形成事業」で研究推進(委)員として、 協調学習を引き起こす授業づくりの研究に携わって下さった先生方の授業や学習についての え方に どのような変化があったかを検証する。 教室に協調的な学習を引き起こすための授業改善を継続的に実現するために本質的に重要なのは、 教材の蓄積や協調学習の一般的な説明の普及以上に、それぞれの実践者において、自 の教室で子ど もたちに協調的な学習が起こっているときどんなことが起こるのか、それをよりよく引き起こすため にどんな工夫が必要なのかについて、自 なりの納得を伴う実践的な理論が獲得されることであるだ ろう。そうした実践的な理論の形成なしに学習方法の枠組みだけが一方的に普及することは、大学と 教育現場の研究連携のあり方を歪め、ともすれば教師の仕事を研究者の理論を教室に技術的に適用す るものに矮小化しかねない。 学習者が他者との 設的な相互作用を通じて自 の知識を社会的に構築していく教室を実現する。 この協調学習を引き起こす授業づくりのビジョンを、一人ひとりの研究推進(委)員がどのように自 の実践的な理論として獲得していくか。この観点は、その教師一人の教室の改善だけでなく、最終的 に研究推進(委)員をコーディネータとして、各学 、自治体が協調学習の え方を中心とした継続的 な授業改善を実現するために重要な課題である。 本章第1節では、まずこうした実践者における協調学習を核とした学習者中心の学習の概念の形成、 深化を促すために、CoREFが研究連携における諸活動をどのように構想し、デザインしたのかを概説 する。第2節では、研究推進(委)員へのアンケートや実践の振り返りコメントシート等における量的、 質的なデータから、これらの活動の結果、研究推進(委)員の協調学習の授業づくりについての どのように変化したか全体の傾向を えが 析する。 1. 継続的な授業改善ネットワークのためのビジョンとデザイン 本節では、協調学習を中心に継続的な授業改善ネットワークを実現するために、CoREFが研究連携 における研究推進(委)員の取組や研究会等の活動をどのようなビジョンの下に構想し、どうデザイン してきたかについて述べる。 新しい理論に基づいた授業を日々の教室に実現するためには、教師が理論や教材を教室に単に技術 的に適用するだけでは不十 である。このゴールのために、研究連携の諸活動は、理論の学習や教材 の開発を通じて実践を行う教師たちが自身の持つ教授と学習についての えを、学習者中心型のもの へと変化させていくような一連の経験の組織でなくてはならない。こうした えから、CoREFでは研 究連携の活動のあり方を模索してきた。 (1)学習科学の視点に基づく教師の協調と理解深化のビジョン ① 学習共同体の形成 人はいかに学ぶのか」について様々な知見を蓄積してきた近年の認知科学は、学習者は自ら知識を 構成していく能動的な存在であるとする観点から、教授と学習をめぐる枠組みを捉え直すことを要請 している。これを踏まえ、欧米の学習研究者たちは、学習者が社会的な相互作用を通じて知識を構成 していくための学習コミュニティの形成を目指した学習環境デザインを試みている。CoREFと自治体 172 第5章 実践者の えはどう変わったか との研究連携もまた、協調学習の授業づくりを柱として、これらの取組と同じく一人ひとりの子ども が社会的な相互作用を通じて知識を構成していけるような学習コミュニティを教室に実現することを 目指している。 しかし、こうした学習環境の必要性は、何も子どもに限ったことではない。我々大人が授業や学習 についての理解を深化させるためにも、社会的な相互作用を通じた知識構成を可能にする学習コミュ ニティの形成は効果的である。教師や研究者その他専門社会人も含め、自 たちを高め学び続けなが らつながっていけるようなコミュニティの形成を支援する。これが研究連携における諸活動をデザイ ンする上での基本的なビジョンである。 ② 協調学習」理解の深化と実践的課題解決のサイクル この研究連携に参加する研究推進(委)員の多くは、十 な教職経験を積んだ教師たちである。これ までの教職経験を通じて各人が形成してきた授業についての豊かな見識を、「協調学習」を核にこの研 究連携が目指す「学習者中心」の新しい授業観へとつないでいくことが、研究連携の諸活動のデザイ ンにおいて常に課題として意識される必要がある。 「協調学習」という新しい概念を核とした教師同士、教師と研究 CoREFと自治体との研究連携では、 者の協調活動を通じて、「授業とはこういうものである」、「子どもの学習とはこういうものである」 と いうことについて、参加した先生方が持っている えをより「学習者中心」のものへと変化させてい くことができるような学習環境が用意されるよう、研究推進(委)員の先生方に携わっていただく諸活 動をデザインした。 デザインの基本となる え方は、教室において協調的な学習を引き起こすためのものと変わらない。 先生方が知識構成型ジグソー法という限定的な枠組みを用いた授業の質の向上という課題を共有し、 この課題の解決に向けて自 の えを言語化する機会を多く持つこと、仲間の教師や研究者の えを 聞く機会を多く持つことである。こうした経験を通じて、先生方にこれまでの実践を通じて形成して きた見識が新たな理論・知見に出会った際に生じる「これは今まで えてきたことと違うかもしれな い」という気づきを持ってもらうことができれば、これまでの経験や知識と新しい学習についての え方を統合して、その先生なりのより質の高い授業や学習についての見識を形成することが可能にな るだろう。 このような学習を組織するために、今回の研究連携において目指す新しい授業観の核となる「協調 学習」という え方についての枠組み的な理解を形成し、深化させることを主に目指す活動と、この 「協調学習」を引き起こすことを目指して実際に課題解決を行う活動とを相互に繰り返すようなサイ クルをつくることを、諸活動のデザインの基本的な え方とした。すなわち、レクチャー、授業体験 と授業参観等を通じて「協調学習」について様々な言語化を行い、それを協調的に吟味することによっ て実践のゴールイメージを形成する活動を行い、それを受けてこのゴールイメージを実現するような 授業デザインを知識構成型ジグソー法という枠の中で様々なアイデアを比較検討しながら行い、試し てみる。実践から見えてきたことは、目指す「協調学習」についての一人ひとりのイメージをさらに 深化させ、次なる実践的な課題を提出する。こうしたサイクルを研究連携のネットワークの中で回し 続けることが、CoREFの実現したいビジョンということになる。 173 平成23年度活動報告書 第2集 (2)活動のデザイン 新しい学びプロジェクト」研究推進員の初年度、2年次の年間活動スケジュールは、それぞれ表1、 次ページの表2の通りである。 表1:「新しい学びプロジェクト」研究推進員 日程 6/19-20 社会8/21-22 数学8/26-27 理科8/27-28 国語7/27-28 会 講義 第 1 回 研 究 推 進 員 研 修 会 体験 体験 ╱協議 協議 協議 協議 教 科 別第 研1 究 推回 進 会 以降 随時 数学10/1-2 社会11/26-27 理科12/7-8 国語1/20-21 種類 講義 ╱協議 体験 教材開発 ╱協議 教材開発 ╱協議 教 科 別第 研2 究 推回 進 会 検証授業 協議 教材開発 ╱協議 講義 平 発表 成 2/10-11 22 年 講義 ╱発表 度 報 協議 告 会 協議 振り返り 平成22年度(初年度)の活動スケジュール 内容 講義「小規模市町村連携の目指すもの」 ・協調学習の基本的な え方 ・研究連携のゴール ジグソー授業体験「雲はどのようにしてできるか」 ワークショップ「ジグソー型授業の授業運営」 ・ジグソー形式の授業運営について、 「時間配 」 「ワーク ノートの役割」 「グループ活動支援」の3つの視点からジ グソー形式で議論 教科部会 ・授業づくりについて 教科部会 ・今後の日程調整 ・授業づくりについて 全体会 ・教科部会の検討の 流 ・CoREFによるまとめ 「ジグソー法の教材づくりの過程」 ・講義 ・1学期の実践の 流、反省 ワークショップ「協調学習ってこうですよね 」 ・協調学習についてのよくある質問について、自 なりに 回答を出し、意見 流 教科部会 ・実践の報告・検討 ・授業案の検討 「知識構成型ジグソー法の教材開発・実践・検証」 ・教科メーリングリストでの授業づくりの協議、実践報告 ・検証授業の実践 ・自治体内での協調学習についての研修、協議、実践 検証授業 実践・参観 検証授業についての協議 教科部会 ・実践の報告・検討 ・授業案の検討 ・教科における協調学習の授業づくりの成果と課題の検討 報告「協調学習の概要について」 研究推進員報告 ・教科別成果と課題の報告 ・授業実践の報告 ・質疑応答 CoREFによる研究推進の振り返り ・教科別レビュー ・メーリングリストを活用した教材開発についての実践者 とCoREFスタッフのパネルディスカッション 教科別ラウンドテーブル ・協調学習の授業づくりについて報告会参加者と議論 研究推進員 流会 ・実践の報告検討 ・次年度に向けての研究計画 ・教科間 流 まとめアンケート 174 時間 30 75 90 30 120 60 90 60 210 1コマ 60 程度 180 15 240 75 60 100 15 第5章 表2:「新しい学びプロジェクト」研究推進員 日程 会 随時 5/20-21 算数数学 6/17-18 社会6/26-27 理科7/1-2 国語7/8-9 国語 (中部・関西) 10/28、12/8 社会(九州) 11/4-5 数学11/11-12 国語(九州) 11/18-19 理科11/18-19 算数11/25-26 社会 (中部・関西) 12/11-12 第 1 回 研 究 推 進 員 研 修 会 研教第 究 推科1 進別回 会 研教第 究 推科2 進別回 会 内容 2/10-11 時間 「知識構成型ジグソー法の教材開発・実践・検証」 ・教科メーリングリストでの授業づくりの協議、実践報告 ・検証授業の実践 ・自治体内での協調学習についての研修、協議、実践 体験 ジグソー授業体験「元寇はなぜ起こったか」 60 実践報告 ╱講義 実践報告「協調学習の授業づくり」 ・実践のビデオ報告 ・実践者とCoREFスタッフによるパネルディスカッション 65 講義 ╱体験 ワークショップ「協調学習の評価について」 ・講義 ・「元寇はなぜ起こったか」 の授業前後の記述をグループで 評価 110 講義 講義「メーリングリストを活用した教材開発」 30 教材開発 ╱協議 教科部会 ・今後の研究の方針 ・授業づくりについて 120 協議 教科ミックスの協議 ・教科部会の検討の 流 ・協調学習についてグループでの質疑応答 ・CoREFによるまとめ 60 検証授業 検証授業 1コマ 協議 検証授業についての協議 60 程度 教材開発 ╱協議 教科部会 ・実践の報告・検討 ・授業案の検討 180 検証授業 検証授業 1コマ 協議 検証授業についての協議 60 程度 教材開発 ╱協議 教科部会 ・実践の報告・検討 ・授業案の検討 ・教科における協調学習の授業づくりの成果と課題の検討 180 実践・参観 実践・参観 講義 平 成 23 年 度 報 告 会 えはどう変わったか 平成23年度(2年次)の活動スケジュール 種類 教材開発 ╱協議 実践者の 報告「協調学習の基本的な え方」 研究推進員報告会 ・教科別成果と課題の報告 発表 ・授業実践の報告:実践の様子について、CoREFスタッフ と実践者がビデオを用いて解説 ・授業実践へのコメント 教科別ラウンドテーブル 協議 ・協調学習の授業づくりについて報告会参加者と議論 教材開発 教科部会 ╱協議 ・実践の報告検討 教科ミックス 種別の協議 協議 ・教科部会の検討の 流 ・学 ・地域での研究推進方策 振り返り まとめアンケート 175 20 180 60 90 45 30 平成23年度活動報告書 県立高 第2集 学力向上基盤形成事業」研究推進委員の初年度、2年次の年間活動スケジュールは、それ ぞれ表3、次ページの表4の通りである。 表3:「県立高 日程 6/2 以降 随時 7/10 7/31 1/29 会 学力向上基盤形成事業」研究推進委員 種類 講義 平成22年度(初年度)の活動スケジュール 内容 講義「協調学習と研究連携の え方」 第 ワークショップ「学びの仕組み」 1 ・学習科学についての高 生向け教材の体験 回 体験 ・同じ教材を用いた模擬授業で起こる学習を予想し、協議する 全 ・質疑応答 体 研 模擬授業 模擬授業「学びの仕組み」 究 ・模擬授業:観察メモを取りながら参観 会 ・協議 協議 ・質疑応答 「知識構成型ジグソー法の教材開発・実践・検証」 教材開発 ・会員制掲示板での授業づくりの協議 ╱協議 ・対面での授業づくりの協議(教科オフ会) ・検証授業の実践・参観・協議 ジグソー授業体験「雲はどのようにしてできるか」 体験 ・授業体験 第 ╱協議 ・この教材を改善するならどうするかを協議 2 ワークショップ「ジグソー型の授業づくり」 回 ・実践報告:実践の様子について、CoREFスタッフと実践者がビデ 全 発表 体 ╱講義 オを用いて解説 研 ・質疑応答 究 ワークショップ「ジグソー型授業の授業運営」 会 体験 ・「ジグソー型のどういう特徴が、 協調学習を可能にする学習環境を ╱協議 用意しうるか」 について、 「時間配 」 「ワークノートの役割」 「グ ループ活動支援」の3つの視点からジグソー形式で議論 ワークショップ「模擬的教材検討」 第 ・教科グループで世界の国々についての統計データを資料にジグ 3 ソー法の授業をつくってみる 回 体験 ・協調学習についてのよくある質問について、自 なりに回答を出 全 し、意見 流 体 ・意見 流後、再度同じ条件で教材作成 研 究 教材開発 教科部会 会 ╱協議 ・教材検討 講義 報告「協調学習の概要について」 平 講義 対談「高 生が学びのことばを取り戻すために」 成 「ビデオによる授業実践の解説」 22 発表 年 ・実践の様子について、CoREFスタッフと実践者がビデオを用いて ╱講義 度 解説 報 質疑応答 告 協議 会 教科別ラウンドテーブル 協議 ・協調学習の授業づくりについて報告会参加者と議論 176 時間 30 60 90 30 90 60 100 120 90 10 70 100 45 55 第5章 表4: 県立高 日程 随時 5/28 7/12 7/30 1/21 会 学力向上基盤形成事業」研究推進委員 種類 実践者の えはどう変わったか 平成23年度(2年次)の活動スケジュール 内容 「知識構成型ジグソー法の教材開発・実践・検証」 教材開発 ・会員制掲示板での授業づくりの協議 ╱協議 ・対面での授業づくりの協議(教科オフ会) ・検証授業の実践・参観・協議 ジグソー授業体験 体験 「三大和歌集の特徴を比べてみよう」 理系対象 「極限」 文系対象 ワークショップ「協調学習の授業デザインについて」 第 講義 ・講義 1 ╱体験 回 ・午前中体験した授業について、授業デザインを整理し、ジグソー 全 ╱協議 授業のコツについて えを 流する 体 講義 ワークショップ「協調学習の評価と授業デザイン」 研 ・講義 究 ╱体験 ・当日体験したジグソー授業の授業前後の記述をグループで評価 会 ╱協議 教科部会 教材開発 ・昨年度の実践の紹介 ╱協議 ・意見 流 ワークショップ ・講義「学習を見る観点」 講義╱ それぞれ観点を意識 第 検証授業 ・検証授業参観:3種類の観点シートを用いて、 しながら授業を参観 2 ╱協議 ・協議:同じ観点で見た同士のグループで協議した後、異なる観点 回 全 で見た同士のグループで協議 体 協議 検証授業の協議会 研 教材開発 教科部会 究 会 ╱協議 ・授業案の検討 教科ミックスでの協議 協議 ・教科部会の検討の 流 教科部会 第 以下の活動を教科部会の実態に合わせて編成 3 教材開発 ・教材検討 回 ╱協議 ・実践検討 全 ╱体験 ・授業体験 体 ・教材シミュレーション 研 究 ・全体討論 協議 会 ・CoREFによるまとめ 講義 鼎談「ひとりひとりを輝かせる協調学習」 平 成 「ビデオによる授業実践の解説」 23 発表 ・実践の様子について、CoREFスタッフと実践者がビデオを用いて 年 ╱講義 度 解説 報 教科別ラウンドテーブル 告 協議 会 ・協調学習の授業づくりについて報告会参加者と議論 いずれの研究連携における活動も目指す「協調学習」の 時間 70 70 60 60 150 45 60 35 240 60 140 90 105 え方についての理解を深めるワークショッ プ形式の研究会と、その「協調学習」のゴールに向けた教科グループでの教材開発・実践・検証で構 成されている。 いずれの研究連携においても研究推進(委)員として集まった教員は、「協調学習」を引き起こすため の「知識構成型ジグソー法」の教材を開発することを当面の課題として課されている。ただし、教材 の開発・実践は、必ずしも義務とはされていない。 第3章、第4章で検討してきたとおり、この枠組みを用いた授業は協調的な学習を引き起こすために 177 平成23年度活動報告書 第2集 有効である。もちろんこの枠組みを用いなければ協調学習は起こらないという訳ではない。ただ、少 なくとも私たち研究者と先生方の学習コミュニティの形成という観点からは、 「みなが同じ枠組み、型 を用いた授業づくりという課題を共有している」状況を作り出すことは不可欠であったといってよい。 研究の発展を通じて引き起こしたい「協調学習」のイメージや新しい学びのゴールのイメージが深化 してくれば、型の自由度も自然に向上し、型の制約を離れても協調的な学習を引き起こすための授業 づくりについて、私たち自身が 設的な相互作用を引き起こすことができるはずである。 ふたつの研究連携の活動には、 種、地理的な制約によるデザインの違いがある。全国各地の市町 の連携である「新しい学びプロジェクト」では、頻繁に対面の機会を設けることは難しいため、対面 の機会はなるべく検証授業の参観、協議にあて、フォーマルなワークショップ形式の研究会は年初の 1回のみとした。小中学 の教員は、高 教員に比べグループ形式の学習の組織運営にも慣れている傾 向があるため、「ひとまず型を試してみていただく」ところと並行しながら、「協調学習」理解の深化 をねらっていくようなデザインとなった。対して、「県立高 学力向上基盤形成事業」では、1学期の うちに半日から1日の研修会を3度設けている。グループ学習の経験がほぼないという先生方もいる中 で、実際の授業づくりの前に、様々な体験活動等を通じてグループでの活動でどのような学習が起こ るかのイメージを持っていただくことを特に重視した。 初年度の研究会では、まず先生方一人ひとりに、目指す「協調学習」についてのイメージを持って いただき、そのために用いる「知識構成型ジグソー法」の枠組みをおさえていただくことで、協調学 習を引き起こす授業づくりを研究推進(委)員同士の共通の課題の解決として協調的に行う準備を行う ことを目指した。 研究会では、まず「協調学習」の原理と「知識構成型ジグソー法」のメソッドについて簡単なレク チャーを行っている。このレクチャーは、基本的な原理を、教材開発や評価といった異なる実践的問 題状況に即した形で翻案し、折に触れて繰り返し行った。あわせて研究推進(委)員には、様々な問題 状況に即して「協調学習」という新しい概念について自 なりの理解を形成することを目的としたワー クショップを体験してもらった。学習者として「知識構成型ジグソー法」の授業を体験し自 の学習 を振り返る活動、実際の授業場面での子どもの協調的な学習場面を観察する活動、「知識構成型ジグ ソー法」の原則について様々な観点から協議、検証する活動等を行った。会が進むにつれ、活動の課 題は徐々に「知識構成型ジグソー法」の教材開発に即したものになるようデザインされた。 これらのワークショップでは原則、課題についての自 いし、先生方に課題についての自 の の えを体験の前後に記述することをお願 え及び体験を通じたその変化を自覚していただくことをね らった。すべての体験はグループワークの形式で行われ、課題についての自 の えを他者の えと 比較・吟味することを活動の基本とした。 この準備をベースに、初年度の夏休み以降は、メーリングリストや掲示板を活用したやり取りを通 じて教材の開発を行い、実際に検証授業を行った。こうしたネット上での教材開発のやり取りは、研 究推進(委)員同士、研究推進(委)員とCoREFスタッフの協調的な課題解決として行われることを目指 した。私たちが意図したのは、この過程を指導の関係ではなく協調的な教材開発とすることにより、 先生方が「協調学習」について自らの実践的な課題意識を形成し、理解を深化させていくことである。 その他に、「新しい学びプロジェクト」では、教科グループごとに1回以上は実際に検証授業の場に集 まり、成果と課題の検証と今後の教材開発についての議論を行った。 「県立高 学力向上基盤形成事業」 では、年2回程度、教科の研究推進委員が直接集まり議論する場も設けられた他、検証授業については、 178 第5章 実践者の えはどう変わったか 可能な限り多くの機会に授業を参観し、協議に参加することが奨励された。 インターネットを活用した授業づくりの方式は地理的、時間的な制約による部 も大きく、ネット 環境に不慣れな先生方には負担となってしまっている側面も否めない。一方、この方式には先生方が 「協調学習」理解を深化させる上で積極的な側面も指摘できる。第一に、例えば自 る環境にある教師との協同を行うことは、相手と自 れやすくする効果がある。多様な地域、 と明らかに異な の知識や経験に差異があるという前提を受け入 種、教科の先生方が協同で授業づくりを行うことで、同僚 との協同とは違う学びのきっかけを作ることができるだろう。第二に、やりとりが記述ベースになる ことで、言語化による自 の えの省察の機会が担保され、同時に他人の えについてもじっくりと 吟味することができるようになる。第三に、メーリングリストや掲示板という形式の 用により、た とえ二者間のやり取りだとしても、課題を共有している他の教員もその過程を任意のタイミングでモ ニタリングし、やり取りに参加することが可能となる。こうした条件は、研究推進(委)員が教材や授 業についていろいろな説明の仕方を協調的に吟味し、結果やプロセスを共有することを通じて一人ひ とりの理解を深化させると同時に、協調学習の授業づくりを目指す学習共同体の財産を形成していく ことにもつながる。 次ページ以降の表を参照、比較していただければわかるように、いずれの研究連携においても、2年 次は初年度の学習共同体が形成してきた財産を活用する形で活動のデザインを変 した。継続の研究 推進(委)員の教材や実践の記録といった成果物だけでなく、この先生方が1年間の研究実践を通じて自 たちなりに作りあげてきた「協調学習」についての言葉や見識、これが私たちの学習共同体の最大 の財産である。 2年次は、CoREFによるレクチャーを極力減らし、代わりに年度当初から継続の研究推進(委)員の先 生方により近い距離から語っていただく機会を多く設け、継続と新規の研究推進(委)員の先生方との 協調を通じた理解深化を図っている。 私たちの実感としてはこの試みは大いに成功したと感じている。かなり早い段階から継続、新規の 隔てなく、「協調学習」、「知識構成型ジグソー法」について自 なりの えを表明する機会が増え、互 いの授業や教材についてのコメントの質や量も向上している。2年間の研究連携を通じて、継続的な授 業改善ネットワークは確かに動き出した。次節では、研究推進(委)員の先生方の声から、この実態に ついて検討してみたい。 2. 授業づくりを通じた「協調学習」理解の深化―実践者の声から― 本節では、ふたつの研究連携に研究推進(委)員として参加して下さった先生方が、この研究連携の 核となる「協調学習」という概念についてどのように理解を深めていったのか、また研究連携の活動 を通じて、子どもの学習や先生方同士の学習について先生方がもともと持っていた えがどのくらい、 どのように変化したのか、アンケートと実践後に書いていただいている振り返りコメントシートを元 に検討したい。 (1)協調的な授業づくりへの志向 2年次の5月と2月に研究推進(委)員にお願いしたアンケートでは、「研究の広がりとして先生がやっ てみたい活動はどのようなことですか」という問いを設け、次ページの表5の11項目についてあてはま るものに○、特にあてはまるものに◎をつけてもらった(複数回答可)。この回答の傾向を 179 析するこ 平成23年度活動報告書 第2集 とで、研究連携の核となる教師同士、教師と研究者の協調的な教材開発、実践、検証のサイクルへの 参加に対する研究推進(委)員の先生方の志向に対して、初年度、2年次の取組がポジティブな影響を与 えたかを検証する。 結論として、5月時点では継続と新規の研究推進(委)員の間に初年度の取組の成果と えられる回答 傾向の差が見られた。継続の研究推進(委)員は、新規と比べて「協調学習」について一定の理論的理 解の獲得を自覚し、この自覚を基に実践に向けて自信と動機づけが強くなっていると見られる回答傾 向があった。 一方、2月時点での「新しい学びプロジェクト」研究推進員のアンケートの回答を見ると、新規、継 続ともに参加への志向が高まるとともに、新規の研究推進員の回答の傾向は、5月時点の継続の研究推 進(委)員と似た傾向を示すようになる。また、継続の研究推進員においては、個人間の回答傾向の差 が大きくなる、新たに理論の学習への志向が高まる、といった変化が起こった。こうした回答傾向の 変化からは、一定の実践と省察の経験を獲得した「協調学習」についての実践的見識をさらに深化さ せるための新しい学習の機会を、2年間継続して取り組んだ研究推進(委)員が求めているのではない か、ということが示唆される。 ① 2年次の年度当初における継続研究推進(委)員と新規研究推進(委)員の回答傾向の比較 次ページの表6は、2年次である平成23年度の最初の研究会である5月の時点での上記の問いへの継続 及び新規の研究推進(委)員の回答の 布である。回答者数は継続研究推進(委)員28名、新規研究推進 (委)員52名である。 継続と新規の回答の傾向を比較すると、一人あたりの○をつけた個数は、継続6.25個、新規5.13個 と継続の方が平 的に1項目多く「やってみたい」活動を答えている。 表5:問い「研究の広がりとして先生がやってみたい活動はどのようなことですか」の項目 1. 協調学習の理論についてレクチャーや関連資料・書籍を通じて学ぶ 2. 協調学習の理論について体験を通じて学ぶ 3. 他の研究推進委員の先生の授業を参観し、ディスカッションする 4. 他の研究推進委員の先生に授業を 開し、ディスカッションする 5. 他の研究推進委員の先生がつくった教材を実践する 6. 自 がつくった教材を他の研究推進委員の先生に実践してもらう 7. 教材づくりに際して、他の研究推進委員の先生方と議論しながら作業を進める 8. 教材づくりに際して、東京大学CoREFのスタッフと議論しながら作業を進める 9. 自 10. 自 の実践での生徒の学習を他の先生方と一緒に評価・検討する の実践での生徒の学習を東京大学CoREFのスタッフと一緒に評価・検討する 11. その他 ○をつけた「やってみたい」活動の項目に注目すると、新規の研究推進(委)員は「協調学習」理論 について学ぶ項目1・2に○を多くつける傾向があり、対して、他の研究推進(委)員やCoREFと共に実 践的な課題解決を行う項目である残りの項目3-10では、 「他の教員の授業を参観し、ディスカッション する」という項目3を除いて継続の方が「やってみたい」と回答する割合が高かった。 この結果からは、継続の研究推進(委)員は理論について学ぶ活動に対して志向が弱いのに対し、実 180 第5章 表6:H23年5月時点での継続 及び新規の研究推進(委)員 の回答 実践者の えはどう変わったか 表7:新規の研究推進員のH23 表8:継続の研究推進員のH23年 年5月時点(n=20)及びH24 5月時点(n=12)及びH24年2 年2月時点(n=24)の回答 月時点(n=11)の回答 項目 種別 ○以上 ◎のみ 項目 種別 ○以上 ◎のみ 項目 種別 ○以上 ◎のみ 項目1 継続 新規 28.6% 44.2% 3.6% 7.7% 項目1 5月 2月 60.0% 20.8% 10.0% 0.0% 項目1 5月 2月 16.7% 45.5% 0.0% 0.0% 継続 新規 継続 32.1% 65.4% 60.7% 10.7% 5.8% 10.7% 8.3% 0.0% 16.7% 21.2% 3.6% 5.8% 5.0% 10.0% 25.0% 30.0% 41.7% 54.5% 91.7% 53.8% 53.6% 28.8% 80.0% 33.3% 95.0% 91.7% 5月 2月 5月 新規 継続 項目4 新規 5月 2月 5月 2月 33.3% 8.3% 16.7% 0.0% 13.5% 0.0% 15.0% 20.0% 25.0% 90.9% 75.0% 90.9% 71.4% 40.4% 53.6% 65.0% 75.0% 75.0% 2月 5月 2月 継続 新規 継続 5月 2月 5月 0.0% 25.0% 0.0% 3.8% 14.3% 35.0% 0.0% 10.0% 100.0% 90.9% 75.0% 11.5% 64.3% 87.5% 25.0% 33.3% 5月 2月 5月 新規 継続 2月 5月 2月 15.4% 5.8% 14.3% 継続 新規 継続 項目10 新規 53.6% 38.5% 57.1% 31% 14.3% 3.8% 14.3% 3.8% 35.0% 50.0% 5.0% 30.0% 5.0% 30.0% 0.0% 15.0% 16.7% 33.3% 53.8% 57.1% 50.0% 80.0% 91.7% 60.0% 79.2% 50.0% 58.3% 40.0% 54.2% 72.7% 100.0% 新規 継続 項目8 新規 5月 2月 5月 項目8 2月 5月 項目9 2月 5月 項目10 2月 2月 5月 2月 5月 項目8 2月 5月 項目9 2月 5月 項目10 2月 81.8% 91.7% 81.8% 83.3% 81.8% 75.0% 72.7% 41.7% 25.0% 33.3% 16.7% 25.0% 8.3% 16.7% 項目2 項目3 項目5 項目6 項目7 項目9 項目2 項目3 項目4 項目5 項目6 項目7 項目2 項目3 項目4 項目5 項目6 項目7 践的課題解決活動への志向はほぼすべての項目で強くなっていると言える。継続の研究推進(委)員は、 初年度の取組を通じてある程度理論を身につけた自覚があるが、それを教室に持ち帰って単独で適用 するというよりは、協調的なプロセスによる課題解決を志向するという形で参加への意欲が強まって いると見てとることができるだろう。「自作の教材を他の教員に実践してもらう」に加え、「他の教員 の教材を実践する」の項目でも継続の研究推進(委)員の方が「やってみたい」割合が高いことも、1年 目の取組を経た研究推進(委)員の意識が、「新しい理論、方法を自 のものにして終わり」ではなく、 「新しい理論の示すゴールに向かって協調的に学び深め続ける」参加の志向の高まりへと向かったこ との証左だと言える。 ② 2年次年度当初と年度末における研究推進員の回答傾向の変化 続いて、2年次である平成23年度の1年間におけるこの問いへの回答傾向の変化を 析する。表7は、 本年度新規の「新しい学びプロジェクト」研究推進員における平成23年度の最初の研究会である5月の 時点での回答及び平成24年2月に行われた年度末の報告会時点での回答を比較した表である。同様に表 8は、平成22年度から継続の「新しい学びプロジェクト」研究推進員における平成23年度の最初の研究 会である5月の時点での回答及び平成24年2月に行われた年度末の報告会時点での回答を比較した表で ある。「県立高 学力向上基盤形成事業」研究推進委員については、報告書執筆時点で平成23年度末の 回答データが存在しないため、今回は検討の対象としない。 新規の研究推進員においては、表7から かるように、年度当初から年度末にかけて「協調学習」理 論について学ぶ項目1・2に○をつける割合が大きく減少した一方、他の研究推進員やCoREFと共に実 181 平成23年度活動報告書 第2集 践的な課題解決を行う項目のうち、元から「やってみたい」の割合が95%と大変高かった項目3以外の すべてで「やってみたい」と答えた先生方の割合が高くなっている。回答の傾向としては、年度当初 の継続の研究推進員の回答傾向により近くなったと指摘することができる。 続いて表8の継続の研究推進員における回答の傾向を 析すると興味深いことが かる。5月時点で 「やってみたい」の割合が高かった実践的な課題解決を行う項目では、依然として高い「やってみた い」の割合を示している一方、5月時点ではほとんど回答のなかった「協調学習理論についてレクチャー や関連資料・書籍を通じて学ぶ」という項目1に半数近い先生方が「やってみたい」と回答している。 この研究連携の活動デザインでは、協調学習についての理論的な理解深化と実践的な課題解決を通じ たイメージの深化、新たな課題の発見をサイクルとして組織することを目標としていた。一定数以上 の教材開発、実践、検証を行った継続の研究推進員が、自 たちが実践的に形成した協調学習につい えをもう一度理論とつないで深化させようという志向を持つようになったのだと解釈すると、 ての このデザインは有効に機能したということができる。 また、表7、8のいずれにおいても○以上すなわち「やってみたい」の個数には、5月と2月でさほど 変化がないが、◎「特にやってみたい」の個数は、新規の研究推進員で1.25個から1.92個、継続の研 究推進員で1.17個から2.27個と増加している。一人ひとりの研究推進員に今後の協調学習研究につい ての自 なりの活動イメージをより明確に持っていただけたというのも、ひとつの成果としてあげる ことができるだろう。 (2)実践の振り返りの変化 次に、先生方に実践後に書いていただいている授業者の振り返りコメントシート(以下コメントシー ト)の記述から、知識構成型ジグソー法の教材開発、実践、検証を重ねることで、実践の振り返りの 質や「協調学習」についての え方がどのように変化するかを 析する。このコメントシートは、授 業中の子どもの反応、教材のうまくいった点や改善点、協調学習を目指した授業のメリット、デメリッ ト等について聞く項目からなる。なお、コメントシートの記述方法や内容について、CoREFから説明 やお願いをしたことはない。 表9:授業者の振り返りコメントシートにおける記述内容の変化 ①子どもの実態を授業の改善に結びつける記述 ①-1:授業中の支援について ①-2:教材の改善点について ②その教材の具体的な良かった点、改善点についての記述 ③ジグソーの枠組み及び他の方法への提案・模索 ①−1 ①−2 1回目 31 74% ① 19% 74% 71% 0% 2回目 31 77% 29% 77% 94% 23% 3回目以降 13 100% 46% 77% 100% 38% n 表9は、「新しい学びプロジェクト」及び「県立高 ② ③ 学力向上基盤形成事業」において、2回以上コメ ントシートを提出いただいた31名の先生方のコメントシートの記述を主に4つの項目から 182 析した結 第5章 実践者の えはどう変わったか 果である。 項目1は、コメントシートに子どもの実態を学習の改善に結びつけるような記述の有無をカウントし ている。下位項目として、授業中の支援について(例「教師の助言のタイミングが悪く、エキスパー トでの深まりが足りない様であった」)、教材の改善点について(例「ほとんどの文章にアンダーライ ンを引く子どもがあったので、字数制限を設けた方がよかったかもしれない」)を設けた。この項目に ついては、いずれの下位項目でもコメントシートを書く回数が増えるほど、記述する割合が増え、3回 目以降のコメントシートではすべての先生方が該当する記述を行っている。 項目2は、教材の具体的な良かった点、改善点についての記述(例「○○の図を改善する必要がある」 ) の有無をカウントした。これも項目1と同様に、回数が増えるほど記述する割合が増え、3回目以降で はすべての先生方が該当する記述を行っている。 表10: 授業中の子どもたちの反応」についての記述内容の変化の例 H22年10月 実践2回目 H23年10月 実践6回目 <エキスパート活動> ・はじめは、久しぶりの協調学習ということもあり、よそよそし さや緊張感を感じたが、次第に打ち解け、普段のように意見を ・意欲的に取り組んでいた。 出し合いながら えられるようになった。 ・エキスパート活動では、資料の要点をま ・各自で読み取らせる活動をはじめに行ったが、知らない言葉ば とめることになれていないため、苦労し かりに気をとられ、資料の大切な部 が焦点化できず、まとめ ていた。 ることができていない生徒が多かったので、言葉にとらわれず、 ・ジグソー活動では、自 の資料を何とか 自 なりの言葉や解釈でいいよと声かけを行った。 説明しようと一生懸命に説明していた。 H教諭 ・グループのメンバー構成に理科的思 力の偏りが見られたが、 ・ジグソー活動では、説明を理解しようと 中学 適度にアドバイスを与えることにより、自 たちなりの言葉で 真剣に聞いていた。 理科 説明できるようにすることができた。 ・ジグソー活動では、それぞれの説明を聞 <ジグソー活動> き、 全体としてまとめようとしているが、 ・それぞれが資料を用いて、一生懸命に説明している姿が多く見 うまくまとめるのに苦労していた。 られ、グループ活動が活発に行われていた。 ・クロストーク活動では、自 がわかった <クロストーク活動> ことをうまく説明しようとがんばってい ・各班にまとめたことを発表させた。それぞれ、自 たちなりの たが、なかなか難しかったようだ。 理解をしている様子がうかがえた。 ・班ごとに表現の仕方や理解の深さの違いが見られたが、 「消化と 吸収」の導入部 なので、深く追求しなかった。 H22年11月 A教諭 高 英語 実践1回目 H23年11月 実践3回目 ・内容は難しいものであったが、全体的に熱心に取り組んでいた。 ・プリントの指示文などが理解できず、活動への取りかかりが遅 くなってしまったグループもあったので、その際には日本語に 活動自体を難しく感じる生徒は多かったよ よる援助が必要であったのか、または何か事前指導をするべき うですが、全体的に熱心に取り組んでいた であったのではないかと感じた。 ようでした。 ・普段とは違う形式の授業であったので、生徒の中に「何をやる のだろうか。」という期待感や好奇心の表情が見て取れた。また、 グループでの話し合いが楽しいと感じてくれた生徒が見られ た。 表10にこうしたコメントシートの記述の変化の具体例を示した。中学 理科のH教諭の場合、左 (実 践2回目)と右(実践6回目)は同じ教材を用いた授業についてのコメントであり、活動ごとに振り返 る記述形式も同一だが、実践2回目のコメントでは子どもの活動の様子の観察的な記述が中心であるの に対し、実践6回目のコメントでは子どもの活動の様子を授業のねらいと結び付けて評価したり、子ど もの活動の様子を授業中の支援につなげた形で記述したりする変化が起こっている。 183 平成23年度活動報告書 同様に高 第2集 英語のA教諭においても、記述がより具体的になり、子どもの活動の様子を授業デザイ ンの反省に引き付けて書くような記述の変化が起こっていることが かる。 知識構成型ジグソー法の実践を重ねるうちに、研究推進(委)員の先生方は子どもの学習をより緻密 に捉え、それを自 の授業デザインに引き付けながら説明するような振り返りの様式を獲得していっ たということができるだろう。 最後に項目3では、知識構成型ジグソー法の枠組みについての発展的な提案を行う記述(例「エキス パート活動を調べ学習でやってみたい」)及び協調学習を引き起こす他の枠組みを模索する記述(例 「協 調学習=ジグソー法だけにならないようにしたい」)をカウントした。こうした提案も回を重ねるごと に増加している。子どもが協調的に学ぶイメージを実践を通じて自 のものにすることで、枠組みを よりよくしたい、より柔軟な形で協調的な学習を起こしてみたい、起こしてみられそうだ、という志 向が生まれていることが推察される。 (3)「協調学習」理解の深化 最後に、研究推進(委)員へのアンケートから「協調学習のイメージ」を尋ねた項目についての回答 の変化を検討する。 図1は、「協調学習のイメージ」について、継続の研究推進(委)員に平成22年度の最初の研究会及び 平成23年度の最初の研究会におけるアンケートで尋ねた際の回答内容の変化を示したものである。初 年度(平成22年度)の回答数は高 の回答数は高 の先生方が19、小中学 の先生方が13、小中学 の先生方が11の計30、2年次(平成23年度) の先生方が8の計21である。 析は、回答内容に「話し合い、コミュニケーション力」、「グループ学習」、「学習者中心、主体的 学習」、「個々の理解深化への効果」、「実践的課題」のそれぞれの要素を含む回答の割合を調べること で行った。 図1: 協調学習のイメージ」についての回答内容の変化 初年度(平成22年度)と2年次(平成23年度)を比較すると、2年次では「学習者中心・主体的学習」 、 「個々の理解深化への効果」、「実践的課題」という3つの要素との関連で「協調学習」のイメージを描 いた教員の割合がそれぞれ倍以上に増えていることがわかる。反対に2年次に「話し合い・コミュニケー ション力」、 「グループ学習」に関する回答は減少し、1名のみになった。すなわち、継続の研究推進(委) 員においては、「協調学習」のイメージの中心が形式や活動形態から、一人ひとりの理解深化に焦点を 184 第5章 実践者の えはどう変わったか あてる学習者中心の授業イメージへと変化したことがうかがわれる。 初年度と2年次の年度当初の回答に加えて、「新しい学びプロジェクト」研究推進員には、さらに2年 次の年度末にもう一度同じ質問に回答してもらっている。表11は、典型的だと思われる記述を行った 3名の継続の研究推進員の回答例を時系列順に並べたものである。3名とも1回目(平成22年6月)時点 では実践なし、2回目(平成23年6月)時点では2∼3回の実践、3回目(平成24年2月)時点では5∼6回 の実践を行っている。 表11: 協調学習のイメージ」についての記述内容の変化の例 H22年6月 A 教 諭 ︵ 中 学 (記述なし) ︶ B 教 諭 小 学 ︶ C 教 諭 ︵ 中 学 ︶ H23年6月 H24年3月 数学科では、 まだまだ工夫が必要。 生徒の多様な えをいかせるエキ スパートの実践をしたいと思う。 また、複数の授業を見越した授業 計画を立てることも実践してみた い。 エキスパート資料が えの道筋を決めてしまい、生徒 の自由な発想を妨げてしまうのではないかという葛藤 があった。 話し合いを行い生徒の意欲は上がっているが、数学科 における発見・気づきのワクワク感が減ってしまうの ではないかと感じていた。 ↓ 生徒の自由な発想をエキスパートにすることに取り組 む。 え方が多数あればお互いに発見があり、1つにま とまれば 式につなげるなど、まだまだやれそうだ。 ・子どもの可能性を ・子どもの学びの可能性を引き出 引き出す す学習 まだまだ可能性を秘めている。 ・自 の学びを確立 ・子ども主体の学習 自 の授業が変わる。子どもの見方が変わる。 できる ・教師にとって授業改善のきっか 最終的に子どもが変わる。 ・教師の 「学ばせ方」 けになるもの の価値観が変わる ・授業法の1つ ・知識の活用(活用できる知識の獲得)を目的に、個々 人がグループで えを出し合って、課題に取り組む 生徒がグループ活動 学習方法 を通して学び、さら ・生徒(学習者)に預ける(料理してもらう)授業 生徒どうしで学び合う(深め合う、 に別のグループでの ・授業がうまくいくポイントは通常の授業とさほど変 作り上げる)学習法 活動によって学びを わらない ふかめていく学習 ・自 が えているより、実はもっと大きなもの(全 体像は見えてない気がしています) ・だけど、とりあえずやってみようと思っているもの ・ジグソー法だけでは終わりたくないもの A教諭の場合、2回目の回答に表れた初年度の実践を経て認識された実践ベースの課題が、3回目で は2年次のさらなる実践を経て、知識構成型ジグソー法の枠組みによる学習活動への自身の より明示的に記述された。また同時に、その 藤として 藤を超えて協調的な学習を引き起こす方途を模索する という次なる実践的な課題解決に向けた意欲の高まりも示されている。 B教諭の場合、当初から一貫して学習者中心の学習のイメージ、教師の授業改善に資するイメージ が記述されているが、3回目の記述では「自 の授業が変わる。子どもの見方が変わる。最終的に子ど もが変わる。」という形で、これまで箇条書きで書かれていた協調学習についての3つのイメージが経 験ベースで関連づけられ、統合されている。また3回目の記述では、新たに「まだまだ可能性を秘めて いる」と、自 なりの理解の深化が次の探究への意欲を生んだと見なせる回答もしている。 C教諭の場合、1回目は方法についての記述が中心であったのに対し、2回目の記述は学習者中心の 185 平成23年度活動報告書 第2集 学習についてのより抽象化されたイメージになり、3回目では実践経験と結び付ける形で様々な側面か ら自 なりに深化させた協調学習理解を記述している。その中には、 「自 が えているより、実はもっ と大きなもの」、「ジグソー法だけでは終わりたくないもの」という形で、協調学習を引き起こす授業 づくりが知識構成型ジグソー法の枠組みに限定されないものとして、イメージされつつあることを窺 わせる記述もある。 回答の推移を 析してみると、 協調学習」について語る言葉は一人ひとり多様であるが、それぞれ の先生方が実践を通じて獲得してきた授業で子どもたちが協調的に学ぶイメージや実践的な課題を統 合しながら、 協調学習」についての自 なりの理解を深化させていることが かる。こうした理解の 深化は、3名の記述に共通して見られたさらなる探究への意欲、そして本節でここまで検討してきた継 続の研究推進員における理論学習への志向の上昇、知識構成型ジグソー法の枠組み自体を問い直すよ うな振り返りコメントの増加ともつながっていると 自 えられるだろう。 なりの理解が次なる探究への意欲を生む。こうした先生方の学びは、協調学習の教室で子ども たちに起こっている学びとも重なって見える。実践者の、そしておそらく私たち研究者の「協調学習」 についての理解は、こうしたサイクルをまわしながらこれからも一層深まっていくはずである。 186 第6章 おわりに 私たちがやってきたことをどう評価し、 次につなげて行くか 写真 新しい学びプロジェクト 平成23年度報告会 教科ラウンドテーブルの様子 第1節 評価を構成する三つの要素 第2節 新しいゴールに向けて授業をどう評価したらいいか 第3節 今後の発展のための Network of networks 平成23年度活動報告書 第6章 第2集 おわりに ―私たちがやってきたことをどう評価し、次につなげて行くか― 三宅 なほみ 2年間の連携事業を報告する最後に、私たち自身が、これまでやって来たことをどう評価し、先につ なげて行きたいと えているかを記しておきたい。本来、評価の仕方はねらいによって変わる。私た ちも、新しい学びのゴールを目指して、新しいタイプの協調学習を実践してきているので、従来の評 価方法に加えて、私たちの目指しているゴールに合わせた評価を心がけていきたい。この章では、学 びを評価するとはそもそも何をすることなのか、その大元を振返り、具体的な評価方法を検討して、 2年間でどんな成果が出たと言えそうか、またこの連携事業を今後持続的に発展させるために、今後ど のような発展が えられるかをお話ししたい。 1. 評価を構成する三つの要素 評価とは、学んでいる人の知っていること、 えられること、できることなどを何らかの方法で 「観 察」して、得られたデータの背後にどんな認知過程が働いているのかを「推測」し、その背後の「認 知」過程そのものの姿をよりはっきりさせる、という三つの要素を組み合わせて次の授業のやり方を 決める判断材料にする一連の作業である。これでは少し説明が抽象的なので、具体例を って えて みたい。 今年度の連携先高等学 で、鎌倉仏教についての知識構成型ジグソー授業が実践された(本報告書 第4章3. (6)に詳細がある)。この先生のねらいについては後述するが、鎌倉仏教という単元が扱うの は、日本の統治システムが貴族中心から武家中心へと移行する中で国政と宗教との関係が大きく変 わった過渡期であり、「少数の中心人物による大きなイベント」を中心とした歴 レイヤーによる様々な階層での異なった思惑による試みが輻輳して作られる」歴 ある。いわば高 生が歴 観が「たくさんのプ 観に変わる時期で を捉える根本的な枠組みをダイナミックに変化させる「認知」過程が「観 察」できる絶好のチャンスでもある。ところが、高 生にとっては、「覚えることが一気に多くなる」 印象の強い科目でもあるのだそうだ。従って、彼らの知っていることや 出す試験問題を作ると、答えの底に、彼らが歴 えていることをうまく引き をどう認知しているかが「観察」できる可能性も高 い。今、下のような質問に対して、初めて鎌倉仏教について学んだ高 生AとBがそれぞれ以下のよ うに答えたとしよう。あなたなら、それぞれの生徒が渡してくれたデータをどう「解釈」するだろう か これが10点満点の問題で、点を付けるとしたら 問題:鎌倉仏教について大事なことを50文字以内で書いて下さい。 <生徒A> 法然浄土宗、親鸞浄土真宗、一遍時宗、日蓮法華宗、栄西臨済宗、道元曹洞宗、いずれも12から13 世紀。 <生徒B> 国家や学問より武士や農民を大事にする仏教変革。戒律や寄進より信仰を重視。在野で念仏だけで 救われる。 188 第6章 先に述べた評価の三要素から おわりに えると、どちらも同じ質問をしているので、同じ「観察」をしてい ると言える。ところが、生徒Aと生徒Bの解答は(一応内容的にはどちらも間違ったことは書いてい ないが)相当違う。ふたりが えていそうなことも随 違って見える。Aが引出してきたのは、いわ ば事実の詰まったファイリング・キャビネット。その内容も相当整理されているらしい。Bが引出し てきたのは、鎌倉仏教の意味や意義についての自 なりのまとめ。これらの回答への評価は、教えた ことに対して生徒がどんな「頭の働かせ方(つまり「認知」過程)」をしてほしいか、と、これらの回 答のどちらがその想定した望ましい認知過程に近いか、に依存する。ちなみに、この授業を実践して 下さった先生の「問い」は、タイから来た留学生から、 「なぜ日本のお坊さんは結婚しているんですか 」 と聞かれたら何と答えるかというものだった。この「観察」の仕方には、この先生が生徒に期待する 「認知過程」と、この先生の「推測」の仕方が反映されている。授業のはじめに聞かせた念仏のCDに は笑い合っていた生徒たちが、終了時に同じCDを流した時には聴き入っていた、という。CDを聴く様 子を「観察」する(しかもそれを授業前後で、先生にとってだけでなく生徒自身が違いを体感できる ようにする)ことも、その裏に起きている生徒の「認知」過程を「推測」する十 な評価のチャンス になる。このクラスの生徒たちが授業の最後に書いてくれた問いへの答えは、全員、Bタイプだった。 こんなふうに、評価はある一人の教員の授業づくりから授業中の行動、その後の授業づくりまで、実 践の全てに関わっている。 2. 新しいゴールに向けて授業をどう評価したらいいか 第1章でも触れたように、CoREFでは、学びのゴールを、「今ここ」で教えたことが教えた通りにで きれば良いだけはなく、将来、学んだことを教室から「持ち出して」、必要になった時にきちんとその 場の要請に合わせて「うまく えて」、さらにはその学びを土台に、次の学びを「積み上げて発展させ る」ことができるところに置きたい。これらのゴールにちょっと固い名前を付けるなら、 ・教室の外、学 の外に持ち出せる「可搬性」 ・必要な時にうまく える「活用性」 ・後から積み上げて発展させる「修正可能性」 とでも呼べるだろうか。これらを、できれば遠い将来ではなく、1回の知識構成型授業の中で、なんと か評価する方法があるといい。これらを、具体的に えてみて、今私たちがどこまで来ているかを概 観しよう。 知識構成型ジグソー法の基本的な枠組みを用いた授業では、まず の問いを提示し、その時点で各自自 の 設的相互作用を引き起こすため えを書いてもらって明示化する。これが初期値の「観察」 になる。その後、エキスパート活動、ジグソー活動の間中、子どもたちは、自 たちの えているこ とをことばにして、私たちに提供してくれる。これらはすべて「観察」のチャンスで、この記録がう まく取れるかどうかは、今後、私たちが今やっているような連携事業を本格的に評価できるかどうか の決め手になる。今の所、私たちに出来ることは、子どもたちが書いてくれているメモなどを集めて コピーしておいたり、発話をレコーダで記録したり、グループやクラス全体の 囲気を録画しておい たりすることである。先生方に余力があれば、先生方が授業中に取られるメモも貴重な観察データに なる。そして授業の最後には、子どもたちに、問いについての各自の答えを書いてもらって授業直後 の到達点を「観察」する。1回の授業からこんなふうに、一人ひとりの児童生徒についてこれだけ大量 の観察データが得られる所も、協調学習の利点である。授業後にお願いしているアンケート、先生方 189 平成23年度活動報告書 第2集 へのインタビュー、定期 査、関連した授業の際の振り返り、あるいは時期を置いてからの意図的な 再質問など、授業の後からも様々なチャンスで「この授業」の効果を「観察」できる。授業中に得ら れる観察データと、その後に時折やってくるチャンスに得られる観察データを組み合わせると、評価 できる観点も広がっていく。 (1)授業成果の評価―学んで欲しかったことは学ばれているか― 1回の知識構成型ジグソー法授業が私たちのねらい通りの認知過程を引き起こしたかどうかは、 端的 には授業直後に子どもたちが書いてくれる「問いへの答え」に表出されるはずである。これまでCoREF で 析してみた範囲では、 開された授業のすべてで参加したほぼすべての子どもがその日ねらった ゴールに向けて理解を進めたと見なせる記述をしており、ほとんどの授業で授業者にとっても納得の いく学習達成が得られている。また、協力頂いているアンケートの結果からは、小中学 生徒の8割以上、高 で参加児童 生の6∼7割が授業を「楽しかった」「またやりたい」と評価している。これらの 数値が、クラスサイズやいわゆる学 の「学力」レベルによらないことは、私たちの連携事業が成し 遂げて来た一つの大きな成果だと感じている。 (2)学んだ成果の「可搬性」「活用性」「修正可能性」の評価 これらは、その定義本来の意味から言えば、子どもたちを放課後や卒業後も続けて観察して評価し なければならないが、こういうところには認知科学や学習科学の成果が える。例えば、これまでの 研究により、多肢選択型の観察で得られたデータより記述型の解答データの方が「可搬性」や「活用 性」を保証してくれることがわかっている。従って、授業後に「自 なりにわかったこと」を書いて もらう観察で上述したような積極的な成果が得られていることは、私たちの実践成果の可搬性、活用 性も高いことを予測させる。実際今年度の実践では、先生方が数名自発的に、授業が終わった数週間 「観 後、数ヶ月後、また1年後などに連携で実践した授業について児童生徒が覚えていることを聞き出す 察」を行って下さった。その報告によると、先生方の期待以上に詳細に覚えているという。 さらに「修正可能性」についても、積極的な成果が散見される。第4章3.(1)で紹介した「複合図 形の面積」についての授業で、ごく自然な形で次の学習事項である三角形の面積が求められるように なっているのは、小さいスパンでは有るものの「修正可能性」な知識の芽生えを推測させる。他にも 先生方の事後報告の中に、「次の学習への意識のつながりが生まれる」、「普段の授業でも「なぜ 」と いう疑問を持つようになってきた」などの記述が得られている。第4章で紹介しているとおり、この形 の授業から子どもたちが独自に、自 なりに「次に知りたいこと」を見つけ出してくる事例の報告も 多い。学習科学の研究は、こういう自発的な発問が修正可能生を支える可能性も指摘している。今後 の事例の蓄積を期待したい。 3. 今後の発展のための Network of networks これらの評価は、多様な授業に対して一律に行えるものではない。今回実施している連携事業の強 みは、多様な学びを多様な先生方により多様に引き起こしつつ、その中に、個別の事例として私たち の共通のゴールに合致した成果が上がってくることである。今のところ、求めたい成果が上がって来 る例を集めて良しとしているが、今後は成果の全体像の中で、求めていた成果だけでなく一貫してみ られる成果の傾向を捉えていける努力をしたい。その上で、本連携事業のほんとうの姿がはっきりし 190 第6章 おわりに てくる。 連携事業の持続的な発展のためには、こういった新しい評価について、実践的に検討していく大き な仕掛けが必要になる。現在の連携は、 種や教科の近い先生方の部会という小さなネットワークを 次々につなぐ「実践の Network of networks」から主には成り立っているが、この他に、この事業 の展開として今後、少なくとも以下の二つの新しいネットワーク群が必要になる。 (1) 教材作りを通しての社会人プロの、様々な専門性による小さなネットワークのネットワー ク 異なる大学、各種学会などにある教育支援ネットワーク。本報告書でも少し触れている ように、発展の可能性が見えている。 (2) 学習過程の記録を取り、 析する技術開発のためのネットワーク 協調学習の過程で起き る多様なデータを収集し、そこに見られる傾向の一貫性を見出していくために、現在手が届 き始めている広い意味での情報処理技術の開発と実践的な試験運用が必須になる。関連企業、 ロボティクスやセンサ技術など人との調和の良い情報システム関係の研究者をつなぐ新しい ネットワークを構築し、来年度以降の試験的な稼働に向けて準備中である。 これらのネットワークを少しずつつなぎ、それぞれの持ち味を活かすことによって、CoREFは来年度 以降も、新しい学びの実現に向けて歩み続けて行きたい。 191 第7章 第7章 リソース集 リソース集 本「リソース集」は、協調学習を引き起こす授業づくりのためのリソースを整理し、本報告書付属 のDVDに収録したものである。収録されているのは、知識構成型ジグソー法の「開発教材」、実践の様 子を短くまとめた「実践動画」及び協調学習に関する「レクチャー」である。DVD内の階層について は、次ページの図を参照されたい。 「開発教材」…2年間の研究連携を通して実践された137教材(+平成21年度の1教材)について、授業 案や教材(資料、ワークノート)、授業者のコメントシートを収録した。 に、子ども たちが書いたワークノートの記述の打ち込みも一部収録した。教材は、 「新しい学びプ ロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」のそれぞれについて教科ごとに区 され、「教科・No」を記載したフォルダに収められている。この「教科・No(例「国 語A101宮沢賢治」)」は、第3章2節及び3節に掲載されている「教材リスト」と対応し ている。 「実践動画」…「新しい学びプロジェクト」、「県立高 学力向上基盤形成事業」の平成23年度報告会 で用いられたものを中心に16本の実践の様子を収録した。 「レクチャー」…協調学習に関するレクチャーとして「人はいかに学ぶか」、「協調学習の基本的な え方」についての三宅なほみによる講義動画、スライド、配付資料を収録した。自 治体や学 等での研修の際に活用くだされば幸いである。 なお、「実践動画」、「レクチャー」の動画はwmv形式で収録してあり、Windows Media Playerなど でパソコン上で再生できる。Macパソコンや、DVDプレイヤーでは再生できないことにご注意いただ きたい。 教材は、明日の授業で「すぐに 者のコメントや授業の様子を参 える」形で収録されている。興味を持たれた教材があれば、実践 にして実践いただき、子どもたちの学習の様子をCoREFへお知らせ いただけると幸いである。もちろん、実践の際には、目の前の子どもたちの実態に即して教材にアレ ンジを加えていただくことも歓迎する。いくつかの教材については、2年間で既にアレンジ版も作られ ている。こちらが把握しているものについては、ひとつの教材のフォルダにアレンジ版の成果物も収 録している。 なお、DVDに収録されている教材と同じ形式のものは、CoREFポータルの「 い方キット」のペー ジ(http://coref.u-tokyo.ac.jp/coref resources)よりダウンロードが可能である 。「 には、今後も開発教材を続々と い方キット」 開する予定であり、また、それぞれの教材による実践の様子も、 「学 譜」のページでご紹介していく予定である。この報告書で、「協調学習を引き起こす授業づくり」に興 味を持ってくださった方は、来年度もCoREFポータルから最新の教材を含む、研究連携の動向にご注 目いただきたい。 ただし、一部教材については、ウェブでの た状態で 開している。 開という性格を鑑みて、著作権保護の観点から資料中の図表等にマスクをかけ 193 平成23年度活動報告書 第2集 194 第7章 195 リソース集 平成23年度活動報告書 第2集 新しい学びプロジェクト 市町等 愛知県高浜市 兵庫県加西市 和歌山県有田市 和歌山県湯浅町 和歌山県広川町 和歌山県有田川町 島根県浜田市 島根県津和野町 広島県安芸太田町 福岡県飯塚市 福岡県香春町 熊本県南小国町 大 大 県竹田市 県豊後高田市 大 県九重町 宮崎県宮崎市 宮崎県国富町 宮崎県五ヶ瀬町 宮崎県立都城泉ヶ丘 高等学 附属中学 平成22年度の勤務 平成22年度の勤務 平成22年度の勤務 所属 翼小学 南中学 九会小学 泉小学 初島中学 文成中学 湯浅小学 南広小学 石垣中学 鳥屋城小学 波佐小学 津和野中学 日原中学 加計中学 筒賀中学 修道小学 片島小学 飯塚第一中学 勾金小学 勾金小学 市原小学 南小国中学 久住中学 竹田小学 高田中学 高田小学 南山田小学 飯田中学 久峰中学 赤江小学 木脇中学 八代小学 鞍岡中学 三ヶ所小学 上組小学 坂本小学 鞍岡小学 鞍岡中学 県立都城泉ヶ丘高 等学 附属中学 県立都城泉ヶ丘高 等学 附属中学 は、保田中学 は、住吉中学 。平成23年度は町外へ異動 196 研究推進員一覧 氏 名 間瀬 智広 平岡 香澄 多田 俊朗 高井 邦彰 髙垣 和生 南畑 好伸 南 紳也 榎本 さち 面矢 和弥 川口 勝寛 佐々木 挙匡 日野 晶子 大野 常馬 粟津 政夫 亀岡 圭太 萩原 英子 水谷 隆之 橋爪 英雄 宮成 努 高瀬 美智也 廣津 望都 原島 秀樹 堀 彦 渡邊 久美 財前 由紀子 時枝 博文 恒任 珠美 吉住 甲 一陽 吉野 了太 福園 祐基 林田 恭二 杉田 和代 津奈木 嗣 大久保 朋広 加藤 裕邦 堀 真朋 村中田 学 三重野 黒木 修 亨 教科 社会 国語 国語 算数数学 社会 社会 国語 国語 社会 社会 算数数学 国語 社会 算数数学 理科 算数数学 算数数学 算数数学 国語 国語 国語 社会 理科 算数数学 国語 算数数学 国語 社会 算数数学 算数数学 理科 理科 算数数学 国語 社会 社会 算数数学 算数数学 年度 H23 H23 H23 H23 H22・23 H23 H23 H23 H22・23 H23 H23 H23 H23 H22・23 H22・23 H23 H23 H23 H22・23 H23 2 H 2・23 H22・23 H22・23 H23 H23 H23 H23 H23 H22・23 H23 2 H 2・23 H23 H22 H22・23 H22・23 H23 H23 H23 国語 H23 理科 H23 巻末資料 県立高 研究指定 浦和高等学 戸田翔陽高等学 学力向上基盤形成事業 (指定 以外) 研究推進委員 研究推進委員 教科 年度 小河 園子 英語 H22・23 池野 智 英語 H22・23 野崎 亮太 数学 H22・23 山野井 俊介 数学 H22・23 皆野高等学 野澤 優太 理科 H23 熊谷女子高等学 山盛 敦子 家 H23 鳩ヶ谷高等学 近藤 隆行 白石 佐利 理科 H22・23 川口北高等学 飯島 国語 H22・23 坂戸西高等学 五十嵐 秀行 越谷東高等学 工藤 久仁子 倉成 恭代 民 城所 佳葉子 美術 H22・23 隆 地歴 H22・23 板谷 大介 国語 H22・23 下山 尚久 理科 H22・23 荻野 あつみ 国語 H23 地歴 H23 下川 島村 睦 H23 H23 H23 H23 新井 真美 国語 H23 H23 田中 育代 国語 H23 H22・23 伊藤 由樹子 民 H23 阿部 由香梨 英語 H23 癸生川 数学 H22・23 菅野 祥憲 民 吉川高等学 藤井 嘉子 国語 大久保 貴章 数学 H22・23 伊奈学園 合高等学 仁 理科 H22・23 白岡高等学 朝見 浩和 数学 H23 文子 国語 H22・23 南稜高等学 千代 卓行 国語 H23 水村 晃輔 民 奥間 美穗 理科 H23 小林 畑 矢嶋 渉 H23 美術 H23 美術 H22・23 桶川西高等学 大場 之 地歴 H23 吹上秋桜高等学 中村 茂樹 英語 H23 大宮光陵高等学 高濱 岩崎 浩之 美術 H22・23 越ヶ谷高等学 竹部 伸一 国語 H22・23 平山 努 英語 H22・23 結城 真央 数学 H22・23 川口青陵高等学 佐藤 美穂 福島 巖 地歴 H22・23 狭山経済高等学 小林 昭文 理科 H22・23 高等学 数学 英語 美術 越谷北高等学 秩 年度 国語 H22・23 春日部女子高等学 教科 本 靖子 地歴 大 浦和第一女子高等学 H23 長南 美菜子 富士見高等学 協力 研究推進委員一覧 山高等学 谷野 浩人 英語 H23 皆川 裕紀 国語 H23 本郷 洋子 民 H23 木下 真介 民 H23 山女子高等学 中山 厚志 英語 H23 茂木 尚美 理科 H23 小柴 雄三 数学 H23 家 H23 川越女子高等学 小池 章 国語 H22・23 寺嶋 毅 国語 H22・23 狭山緑陽高等学 越谷 H23 合技術高等学 白井 里佳子 H23 市立高 調査研究協力員 教科 年度 H23 川口市立川口高等学 大野 圭一 地歴 H23 安田 やよい 英語 H22・23 草加西高等学 前田 雄太 理科 H23 上尾鷹の台高等学 赤沼 佳幸 国語 H23 浅見 晃弘 地歴 荒田 啓嗣 数学 漆原 元博 理科 H23 笹田 直孝 英語 H23 小澤 祐介 英語 H23 熊谷西高等学 吉田 理科 H23 澤本 純一 理科 H23 庄和高等学 横田 純一 英語 H23 二 家 平成22年度の勤務 は、浦和高等学 平成22年度の勤務 は、越ヶ谷高等学 大野教諭は市立高 の教員であるが、県立 合教育セン ターの調査研究協力員として、研究推進委員と同様の活 動に従事していただいた 197 自治体との連携による協調学習の授業づくりプロジェクト 平成23年度活動報告書 「協調が生む学びの多様性 第2集―新しいゴールへ向けて―」 執筆・編集 三宅なほみ、飯窪真也、齊藤萌木、坂本篤 、森田智幸 平成24年3月10日 この報告書に関するご意見・ご感想をお待ちしています 連絡先 東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構 〒113-0033 東京都文京区本郷7−3−1 TEL 03-5841-3682 東京大学 大学院教育学研究科 Email info@coref.u-tokyo.ac.jp 気付
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