研究員レポート 1 アンドン村のキャッサバ耕作

研究員レポート 1
アンドン村のキャッサバ耕作
プロジェクトサイトのひとつであるアンドン村では、現在、キャッサバが消費作物、換
金作物として耕作されています。この村では 90 年代初期まで、とくにパイナップル栽培が
盛んにおこなわれており、そのころ、キャッサバは消費作物として女性たちが個々の畑で
耕作するだけでした。土地の疲弊やパイナップル買付価格の低下から、パイナップル栽培
は徐々に困難になり、人びとはパイナップルに代わる作物として、プランテンバナナ、キ
ャッサバを耕作するようになりました。ある男性によると、需要が少ないとき(あるいは
栽培過多のとき)
、果物のパイナップルは腐らせるしかできないが、プランテンバナナやキ
ャッサバは主食として食べられることから、盛んに耕作されるようになったのだというこ
とです。
アンドン村では、男性がプランテンバナナ栽培、女性がキャッサバ耕作を担うのが一般
的ですが、近年では少なくない男性がキャッサバ耕作に携わっています。人びとは、男性
がキャッサバ耕作に携わるようになったのは、
「これまで消費するだけだったキャッサバが、
お金になると気づいたから」だと言います。この語りから近年のアンドン村では、キャッ
サバが、これまでのように消費作物のみとしてだけではなく、換金作物としても位置づけ
られていることがわかります。
従来、アンドン村で耕作されてきたキャッサ
バは、在来種の「ントロ」です。しかし、ここ 2,
3 年、ントロは成長過程で問題を抱え、十分に育
っていません。写真 1 は、ある女性の畑のント
ロと改良品種です。左奥がントロ、右前が改良
品種です。同日に植えた 2 品種の生育の違いが
よくわかると思います。ントロがなぜ問題を抱
えるようになったのかについての解明は、別の
研究員に譲りたいと思いますが、十分に実をつ
写真 1.在来種と改良品種の生育の違い
けないことから、人びとは在来種、改良品種を
混ぜて、少なくとも 4,5 種類、多い畑では 10
種類以上のキャッサバ品種を耕作しています。
また、キャッサバの葉は食用可能で、多くの女
性が副食に使用しています。上のほうの若い葉を
両手に抱えきれないほど摘み取り、茎を取り除い
た葉を軽く蒸して、しっかりと杵で搗きます。搗
いたキャッサバの葉とパームの実からとれる油
を加え、さらに塩、唐辛子、落花生のペーストを
加えて 1 時間近くコトコトと煮ると、村で最も一
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写真 2.「ポムッ」調理
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般的な副食、
「ポムッ」の完成です。葬式の際には、親戚の女性、近隣の女性たちが協同し
てポムッを調理し、葬式を挙げる家に届けられるなど、女性間の相互扶助が確認されまし
た。写真 2 は、親族の長の葬式で女性たちがポムッを調理している様子です。
村で耕作されている在来種は、青酸の強いキャッ
サバと青酸の弱い(
「甘い」
)キャッサバに区別され
ます。青酸の強いキャッサバは収穫までに 2 年間
かかりますが、青酸の弱いキャッサバは 1 年数か
月で収穫可能です。また、青酸の強いキャッサバは、
1 日半~2 日半、水に浸す灰汁抜きが必要ですが、
青酸の弱いキャッサバは灰汁抜きの必要がなく、茹
でて食べることができます。人びとは畑で空腹を感
じたとき、青酸の弱いキャッサバを生のまま食べる
写真 3.灰汁抜き 2 日目
こともあります。
キャッサバの葉は、青酸の強いものでも弱いもの
でも食用可能ですが、写真 1 のとおり、ントロの
葉は食べられるまでに成長していません。なお、村
で耕作されている改良品種は、すべて青酸の弱いキ
ャッサバで、茎を植え付けてから 1 年間で収穫可
能です1。青酸の弱いキャッサバは加工の必要がな
く、茹でて食べられることから、都市での需要が高
く、人びとは青酸の強い在来種より、青酸の弱いキ
ャッサバ、とくに改良品種を好む傾向にあります。
写真 4.キャッサバの植え付け
しかし、改良品種に問題がないわけではありま
せん。村では、ヤギやブタ、ニワトリを飼育しています。それらの家畜・家禽、なかでも
ヤギ、あるいは野生動物が、青酸の弱いキャッサバ(とくに改良品種)の若い茎や新芽、
塊根を食い荒らす問題が指摘されています。
「改良品種のみを耕作していたのでは、やられ
てしまう。青酸の強いキャッサバを植えるのは、食べる分を確保しておく必要があるから」
だと 30 代の男性は言います。
家畜や野生動物からどのように改良品種を守るかについては、
今後、人びととともに考えていきたいと思います。
【文責】研究員 浅野史代
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写真 4 のように、キャッサバは種子や球根ではなく、30 ㎝ほどに切った茎を植えます。
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