Vol. 18 - 富士製薬工業株式会社

18
2014.10 Vol.
編 集:FUJI Infertility & Menopause News編集委員会
発 行: 富士製薬工業株式会社
〒102-0075 東京都千代田区三番町5-7 精糖会館6階
Tel. 03-3556-3344 Fax 03-3556-4455 URL:http://www.fujipharma.jp/
Infertility
Menopause
子宮筋腫合併不妊の
外科的処置
平松 祐司
岡山大学大学院医歯学総合研究科産科・
婦人科学
不妊症の頻度は、12〜15%程度と考えられるが、近年の
晩婚化現象にともない不妊症の割合が増加してきている印
Ⅱ.不妊患者のどのような筋腫を治療すべきか?
産婦人科ガイドライン外来編2014に記載された、筋腫の
象がある。不妊症の原因は、多岐にわたるが、その原因の一
取り扱いは表1の如くである。もう少し考察すると、生殖医
筋腫は女性の約20〜30%にみられ、同時に子宮腺筋症も
②粘膜下筋腫、③筋層内筋腫の4cm以上のものが考えられ
つに子宮筋腫(以下、筋腫)がある。
合併していることがある。どちらも妊娠、結婚年齢女性に多
くみられるためにその取り扱いには症例毎に慎重な対応が
必要となる。
る。①については特に異論はないと考える。②の粘膜下筋腫
については、やはり妊娠率、着床率が低く、流産率が高いと
の報告が多い。問題は③のどれくらいの大きさの筋層内筋腫
なら不妊治療前に核出をすべきかである。これまでの報告で
Ⅰ.筋腫合併不妊患者に対する治療
筋腫合併不妊患者に対する治療を行う場合、図1のような
項目に配慮が必要である。そして、図1の中から治療を選択
するが、挙児希望がある場合は、子宮内膜に影響を及ぼす可
能性のある子宮動脈塞栓術、収束超音波は避けるべきであ
り、治療法は筋腫核出術となる。当科では核出術後3ヶ月し
たら妊娠許可している。
療の立場から治療すべき筋腫としては、①症状のある筋腫、
は、着床率、妊娠率、流産率には差がないが、報告されてい
る筋腫の平均径2.3cm、2.6cmの報告であり、5〜7cm以上の
筋腫は除外されている感がある1)。唯一、4cm以上の筋腫で
は妊娠率低下するとの報告がある 2)。年齢をマッチさせて
も、着床率、妊娠率が低下し、流産率が増す傾向はあるが、
有意差が見られていない。また、妊娠時に種々の問題を起こ
す筋層内筋腫は5cm以上あるいは200cm3以上という報告が
ある3)。
図1 不妊患者での子宮筋腫の取り扱い
治療法選択に影響を
与える因子
①年齢
②既往妊娠歴
③症状の有無・程度
④子宮筋腫の大きさ、
個数、部位
⑤不妊期間
⑥不妊原因
⑦ARTに及ぼす
筋腫の影響
薬物療法
妊娠前
筋腫の治療が先?
不妊治療が先?
治療法は?
手術療法
子宮動脈
塞栓術
収束超音波
妊娠したら
保存療法?
手術療法?
分娩時対策
分娩法は?
帝切時に核出?
⑧筋腫合併妊娠での
妊娠・分娩時合併症
01
表1 筋腫の取り扱い
CQ216 妊孕性温存の希望・必要がある場合の子宮筋腫の取り扱いは?
ー子宮鏡下や腟式の筋腫摘出術だけで対応できる症例を除くー
Answer
1.
2.
3.
4.
過多月経、月経困難症、圧迫症状、不妊などの症状を有する場合や
長径が 5〜6cm を超えた場合では、子宮筋腫の部位、大きさ、個数、
成長速度、妊娠・分娩時期も考慮して核出術の要否を決める。(B)
無症状で、長径が5〜6cm以内のものであれば、定期的に経過観察
する。ただし、数が多いものでは長径が5〜6cmを超えたものと同様
に対応することもある。(B)
無症状で、長径が5〜6cmのものであっても、他の婦人科手術時に核
出を行うことができる。(B)
前回妊娠分娩時に子宮筋腫による障害があった場合に核出術を行
う。(C)
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2014
従って、不妊治療前に核出すべき筋腫としては、①症状の
ある筋腫、②粘膜下筋腫、③5cm以上の筋層内筋腫というこ
とになり、ガイドラインで記載されている5〜6cm以上の筋
も術後癒着防止の上で重要である。
この中で最も重要なのが正しい剥離層の発見であり、正し
腫という記載は妥当なものと考える。また、妊娠率は低下さ
い核出層の発見には筋腫を牽引しながら同一線上をメスで
分娩時に問題を起こすことがあるため妊娠前に核出してお
層に達すれば数ミリ切開筋層がずれ、光沢ある筋腫核表層が
せないが、大きな漿膜下筋腫は子宮捻転等を誘発し、妊娠・
いた方がよいと考える。
もし、筋腫をもったまま妊娠した場合には多くの妊娠合併
症がおこる。多数例で検討したCoronadoらの報告 では、筋
4)
腫合併妊娠での各種合併症のオッズ比はfirst trimesterの出
血1.82、前置胎盤1.76、早剥3.87、羊水過少症1.80、羊水過
多症2.44、妊娠高血圧症候群1.50、前期破水1.79、陣痛異常
1.90、分娩時大量出血1.58、骨盤位3.98、帝王切開6.39と報
告されている。
Ⅲ.筋腫核出術の実際
筋腫核出の方法としては、①開腹手術、②腹腔鏡下手術、
③ロボット支援による手術、④TCR、⑤捻除術の中から、大
きさ、部位、個数により選択することになる。ここでは紙面
の都合上、開腹による筋腫核出術につき記載する。
切開していく。筋腫を牽引するのがコツであり、正しい剥離
見えるようになる。1箇所でこの部が発見できれば、そこか
ら全周に剥離層を広げていく。硬い筋腫であれば筋腫核に切
り込むつもりで一気に切開しても剥離層を発見できるが、妊
娠中の柔らかい筋腫や変性筋腫では、同一線上を一皮ずつ切
開する気持ちで切開することが重要である。切開線が階段状
になると正しい層は発見しにくくなる。
死腔を残さないように縫合するには、1本1本結紮するの
ではなく、まず死腔が残らないように必要なだけ糸針をか
け、その後順次結紮することが必要である。癒着防止のため
には、表層は組織反応の少ない3−0モノクリル糸(PDSIIな
ど)の連続縫合を行うこと、筋層をできるだけピンセットで
把持しないようにすること、十分洗浄し血塊を除去しておく
(この際、ガーゼで子宮表面をこすらない)ことなどが重要
である。
1.筋腫核出術におけるコツ
2.手術難易度の高い筋腫
1)‌正しい核出層で操作すること。正しい層の発見のために
次のようなものがあり、その時の工夫について解説する。
筋腫核出術のコツ・留意点には次のものがある5), 6)。
は、①筋腫を牽引すること、②同じ切開線で切開すること
が重要。
特に核出手術の難易度が高く、出血しやすい筋腫としては
1)巨大筋腫2)
当科では10cm以上の筋腫は開腹で核出する。子宮底長が
2)‌多発性の時は、どれから核出すれば次の操作がしやすい
30cmを越えるような巨大筋腫(図2)では、子宮内膜、尿管
3)‌切開の方向は、卵管を避け術者が縫合しやすい方向にす
層が長くなりどうしてもOozingが多くなるため、正しい層
か検討する。
る。
4)‌血管が多く危険な部位のものは前後左右に揺らして引き
抜く。
5)‌死腔を残さないように縫合する。
6)‌1層目の両端縫合糸は牽引糸として最後まで残し、術中で
きるだけピンセット等で子宮表面にさわらないようにす
る。これは術後癒着防止の上で重要である。
7)‌腹腔内を温生食で十分洗浄し、血塊を除去しておく。これ
02
の位置確認、膀胱の伸展の有無などを術前に確認する。切開
での核出、迅速な縫合が重要となる。
2)大きな粘膜下筋腫
50%以上子宮腔内に突出した5cm程度までの筋腫は
TCR手術の適応になるが、それ以上の大きいもので、症状
のある筋腫は開腹手術の適応になる。術前の超音波検査、
sonohysterography, MRIなどによりどちらの壁から発生し
たものか診断し、筋腫がある側の壁を切開し核出する。子宮
内腔が開くため、両側の壁を正しくlayer to layerで2−0合
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成吸収糸で縫合する。左右の壁に段差ができそうな時は、子
宮腔内にヘガール拡張器をいれ、子宮内膜面が正しく合うよ
うに縫合する。
を行う方がよい。
4)子宮頸部の筋腫
子宮頸部の筋腫は非常に操作しにくく、子宮動静脈や尿管
3)茎の太い分娩筋腫
に接しているため注意しないと出血量が増す。この時は、まず
きるが、太いものは経腟的には突出した筋腫が視野を妨げる
正しい剥離層に達する。全周にこの層を拡げ、鉗子を前後左
るため、GnRHアナログ等で筋腫を小さくしてから、捻除術
筋腫底部には血管が豊富なため、バイポーラシザーズで凝
茎のあまり太くない分娩筋腫は捻除術(+TCR)で摘出で
ため、開腹で摘出することもある。しかし、侵襲が大きくな
鉗子で筋腫核を挟鉗して上方へ引き上げ、メスで切開を入れ
右に揺り動かすようにすると筋腫が持ち上がってくる(図3)。
図2 巨大筋腫の核出
26x21x13cm 4.47kg
348g
372g
336g
a
b
a. 子宮底長さは35cmあり、剣状突起まで達する巨大な多発性筋腫を認める。
b. 合計28個核出し、総重量は6.1kgであった。どれも筋腫表面は光沢があり、正しい層で核出されているのがわかる。
図3 広間膜内に発生した頸部・体部筋腫
子宮体部
A
B
C
D
A: 頸部にも大きな筋腫がみられる(矢印は頸管)
B: 開腹時所見
C: 筋腫の底部、側壁に接して血管が多いため、
正しい剥離層に達したら前後左右に揺り動か
しながら筋腫を引き抜くようにもちあげてくるの
がコツである。
D: 核出終了後、大きな死腔ができているが出血
していないのがわかる。
本例では直後に妊娠し経腟分娩した。
03
固・切断しながら筋腫を摘出する。
5)多発性筋腫
できるだけ筋腫核や子宮体そのものを手、あるいはガーゼ
で縛って子宮を把持する。また、大きいものから順番に核出
するのではなく、どれから核出すればその後の操作、手術の
文献
1)‌Klatsky PC, Tran ND, Caughey AB, Fujimoto VY. Fibroids
and reproductive outcomes: a systematic literature
review from conception to delivery. Am J Obstet
Gynecol. 198: 357-66, 2008
展開が楽になるか、どのような切開を入れるとまとめて核出
2)‌Oliveira FG, Abdelmassih VG, Diamond MP, Dozortsev D,
頃から迅速な操作を身につけておくことなどが重要である。
intramural uterine fibroids that do not distort the
できるかを考えて手術する。また、切開創が多くなるので日
多発性子宮筋腫の中でも、特に注意工夫を要するのは
diffuse leiomyomatosisである。この場合の工夫として、
①出血量を減すため頸部をネラトンチューブで縛る(Rubin
Melo NR, Abdelmassih R. Impact of subserosal and
e n d o me tr i a l c a vi ty o n th e o u tc o me o f i n v it ro
fertilization-intracytoplasmic sperm injection. Fertil
Steril. 81: 582-587, 2004
法)、②切開創をきれいにするためまず前壁正中全面に縦切
3)‌平松祐司. 妊娠中の筋腫核出術. OGS Now4 産科手術,
いで後壁で同様の操作を行う。なお、術前の検査で多数の粘
4)‌Coronado GD, Marshall LM, Schwartz SM. Complications
子宮を最初から折半して核出する。③多くの側室ができるた
leiomyomas: a population-based study. Obstet Gynecol,
開を入れ、その切開創から可能な限りの筋腫を核出する。つ
膜下筋腫がある場合は、子宮奇形のTompkins手術のように
め各々の死腔が残らぬように縫合した後に全体の縫合を行
う。④表層は異物反応の少ない3−0モノクリル糸での連続
縫合にし、表層に癒着防止材を貼付する。
pp106-113, メジカルビュー社, 2010.
in pregnancy, labor, and delivery w ith uterine
95: 764-769, 2000.
5)‌平松祐司. 子宮筋腫核出術. 子宮筋腫の臨床, 167-173, メ
ジカルビュー社, 2008
6)‌平松祐司. 多発性・巨大子宮筋腫に対する核出術. OGS
Now13, pp28-39, Medical View, 2013
04
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Infertility
Menopause
生殖医療における多胎発生、
特にクロミフェンに注目して
桑原 章
徳島大学病院
産科婦人科
生殖医療による多胎の増加と予防に関して関心が持たれ
的エビデンスが乏しく、ARTにおける多胎発生率が3%にま
医療( ART )の急激な普及によりART多胎が急激に増加し、
められるようになっており、クロミフェンに対する認識を
るようになって、もう30年以上が経過している 。生殖補助
で減少した現在、クロミフェンによる多胎発生にも注意が求
1)
NICUなど周産期医療現場に及ぼす影響から社会問題にすら
なったことに加えて、ARTを用いない生殖医療による多胎で
「やや」改める時代にさしかかっている。
は、ゴナドトロピン(リコンビナントFSH、尿由来の精製FSH
生殖医療による多胎発生の動向
やHMG)使用による3胎以上の超多胎の発生に注意が向けら
これまでのART統計をみると(図1)、ART多胎発生率が最
れてきた。一方、内服排卵誘発剤であるクロミフェンは安
も高かったのは1995年(多胎発生率19.8%、多胎数1,248
排卵誘発剤の第一選択薬として重要な位置を占めており、生
14.4%、多胎数3,784例)であった。2008年の日本産科婦人
価・簡便で、副作用も少なく、これまでも、そして現在も、
殖医療を専門としていない医療機関、医師による処方を含め
例 )、発 生 数 が 最 も 多 か っ た の は 2 0 0 5 年( 多 胎 発 生 率
科学会見解(原則として単一)など、近年はほとんどの胚移
た裾野の広い生殖医療全般における最も重要な薬剤と言え
植が単一胚移植であり、2012年にはART多胎発生率3.8%、
る。
多胎数2,045例と減少している。3胎以上の超多胎は一卵性
クロミフェンは、多嚢胞性卵巣症候群( PCOS )の排卵障
成分を含む場合に限られ、流産や自然減、中絶、人工減数手
害に対して開発された内服薬であり、原因不明不妊症に対す
術などの結果、分娩に至るART多胎は双胎1521例、3胎20
る調節卵巣刺激療法として、正常月経周期婦人に処方される
例、4胎以上0例であり、諸外国と比較しても我が国はARTに
ことも多い。多胎発生率は8-10%程度と推測され 、その大
おける多胎予防が進んでいる。
(表1)
2)
多数は双胎までで3胎以上の発生は極めて希と考えられ、こ
さて、ARTによらない多胎(非ART多胎)発生の動向を把
れまで「安全性は高い」と認識されてきた。しかし古典的治
握することは、登録制度があるARTに比べて容易でない。
療薬であるクロミフェンは大規模臨床試験などによる客観
ART実施施設を対象として多胎取り扱い状況を1997年以
図1 ART統計からみた多胎数・多胎率
多胎数
(多胎数,n)
多胎率
(多胎率,%)
4,000
20
3,500
3,000
15
2,500
2,000
10
1,500
1,000
5
500
0
1992
1997
2002
2007
2012
0
西暦(年)
表1 我が国および主要な諸外国におけるARTの実情
日本
スエーデン
オーストラリア
フランス
英国
イタリア
米国
ART出生児数
26,680
3,851
13,114
16,074
15,913
8,201
60,190
平均移植胚数(新鮮胚) 多胎分娩率(新鮮胚)
1.35
6.0
1.29
6.2
1.31
8.2
1.85
18.3
1.83
22.8
2.31
23.5
2.31
31.0
(文献3 及び日産婦、米国、豪州政府公表データから著者改変)
05
降、3年ごとに調査した厚生労働省研究班アンケート結果 3)
ある4)
(図4)
。
に大きな変化は無く(図2)、移植胚数の制限による有効な予
は、ゴナドトロピン使用量を可能な限り少なくすること、4
限界があると言える。3胎以上の非ART多胎の発生原因別分
することが推奨されてきた。これは、クロミフェン療法にも
を見ると、過去15年間に発生した非ART双胎、3胎の発生数
防策があるARTに比べて、非ART多胎の予防対策には一定の
類(図3)では、クロミフェン単独19.8%、クロミフェン+
FSH35.1%とクロミフェンに関連する多胎が半数を占める。
この多胎アンケート調査は、発生原因を含む個別調査対象に
双胎を含まないこと、ART登録施設のみを対象とした任意調
査であること(回答率約50%)など、網羅的な調査では無い。
実際には国内で一年間に双胎1000例程度、3胎以上は100例
程度(このアンケート調査実数の2〜3倍)の多胎が一般不妊
治療によって発生し、その半数にクロミフェンが関与してい
ると推測される。ART多胎が減少し、さらに単一胚移植を普
及さることによりさらなる減少が可能である現在、非ART多
胎、とりわけその半数を占めるクロミフェンが関与する多胎
に関しても、予防対策を再検討する必要性が高まっている。
非ART治療周期における多胎予防対策
非ART多胎の発生にはPCOSが多数含まれている。従って
PCOSに対するクロミフェンを中心とした治療戦略が重要で
従来より多胎予防策としてゴナドトロピン療法において
個以上の卵胞が認められる場合にはHCG投与をキャンセル
当てはめることが可能である(表2)。クロミフェン周期では
HCG投与を中止しても多くの場合、内因性LHサージが発生
して、排卵、多胎になるリスクがあることを十分認識してお
く必要がある。避妊を指示しても実際の夫婦の行動は規制で
きないので、予後良好と考えられる症例(若年、治療初回〜3
周期程度以内)はクロミフェンを過剰に投与しないことが非
常に重要となる。最初から毎日クロミフェン2錠(100mg)
を投与することは控えるべきで、症例によっては一日50mg
といえども、5日間内服は多すぎることもあると認識してお
く。その上で、可能な限り、内服開始から7−10日目に卵胞
モニターを行い、その投与量が有効か、無効かを判断し、卵
胞が複数発育し始めている場合には早めのHCG投与を心が
ける。従来、発育卵胞(16mm以上)数が4個以上の場合に
HCG中止をすることが推奨されてきたが、近年のART多胎率
の低下を考慮に入れ、発育卵胞数と多胎率の相関(表3)を考
慮にいれると、発育卵胞が2個ある場合でも、
「多胎が10%
図2 双胎、3胎および4胎以上の総数の推移
双胎
8000
7000
3胎
4胎以上
800
120
総数
総数
総数
ART
ART
ART
排卵誘発
700
排卵誘発
100
自然
6000
600
5000
500
4000
400
3000
300
80
60
40
2000
200
1000
100
0
0
20
0
図3 非ART多胎の発生原因
その他
0.90%
CC
19.82%
FSH
44.14%
CC+FSH
35.14%
06
排卵誘発
自然
18
2014.10 Vol.
図4 PCOSに対する不妊症治療方針
非肥満
肥満
減量、運動
排卵なし
クロミフェン
排卵なし
(肥満例、または
耐糖能異常やインスリン抵抗性のある症例)
クロミフェン・メトホルミン併用療法
排卵なし または 妊娠なし
FSH低用量
漸増療法
排卵なし
妊娠なし
OHSS
キャンセル
妊娠なし
Laparoscopic ovarian surgery
妊娠なし
クロミフェン または FSH低用量漸増療法
妊娠なし
IVF−ET
日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会、文献3、一部改変
表2 クロミフェン療法における多胎予防策
1
2
初回周期はクロミフェン1錠(50mg)を3日〜5日間処方する。
(クロミフェン使用量を可能な限り少なくする)
クロミフェン2錠、5日間処方で排卵しない場合
周期6周期で妊娠しない場合は、他の方法を検討する。
3 治療初回は、必ず卵胞モニターを行い、卵胞>2個の場合は「避妊」を指示する。
表3 発育卵胞数と妊娠率、多胎率
発育卵胞数
1
2
3
>3
妊娠率
17.1
26
34.4
26.3
程度発生することを説明して、同意が得られればHCGを投
多胎率
5.1
11.7
20
50
文献
与」、患者の同意が得られない場合はHCG投与を中止、避妊
1)‌青野 敏博, 桑原 章, 苛原 稔. 多胎妊娠の発生と予防、産婦
場合にはHCG投与中止を選択することが望ましいと考えら
2)‌R P D i c k e y a n d D E H o l t k a m p . D e v e l o p m e n t ,
を指導することが求められる。まして発育卵胞が3個以上の
れる。クロミフェンで3個以上の卵胞が常に発育するような
症例では、場合によってはゴナドトロピン療法を選択せず、
LODと腹腔内観察・洗浄による外科的治療か、低刺激法によ
るARTを選択したほうが、安全性が高い。
クロミフェンによる多胎率が10%程度であることは今も
昔も変わりないが、その確率が「高い」と認識してICを取り、
治療に当たるべき時代に突入している。
治療、71巻3号 Page275-279(1995)
pharmacology and clinical experience with clomiphene
citrate Hum. Reprod. Update(1996)2(6): 483-506
3)‌苛原稔, 桑原章、松崎利也、他. 不妊治療による多胎妊娠
の発生と胎児減数手術の現実 産婦実際56巻12号
Page1987-1992(2007)
4)‌久保田俊郎、苛原稔、子辻文和、他.「本邦における多嚢胞
性卵巣症候群に関する治療指針作成のための小委員」報
告。日産婦誌 2009; 61: 902-91
07
Infertility
Menopause
早発卵巣不全に対する
ホルモン療法
はじめに
近年の日本女性の晩婚化、初産年齢の高齢化に伴い、不妊
五十嵐 豪
聖マリアンナ医科大学
産婦人科学
③エストロゲン低値と一般的に定義されている3, 4)。
発生頻度として、自然発生例に限っては全女性の1%に発
を主訴とする30歳代の早発卵巣機能不全( primary ovarian
症すると考えられ、Coulamらによると、40歳までに閉経す
ならず、女性としてのQOL向上を志向した女性医療としての
人、20歳までに閉経するのは10,000人に1人と報告されて
insufficiency : POI )がクローズアップされ、生殖医療のみ
治療方法の構築が急務となっている。
しかしながら、これまで本邦では卵巣腫瘍手術、化学療
るのは100人に1人、30歳までに閉経するのは1,000人に1
いる5)。
日本女性医学会による調査結果では、自然発症は1,804人
法、放射線療法、膠原病治療後などの医原性を加えたPOIの
で、発症年齢は年代が上昇するごとに増加している。また、
さらに治療薬の用法・用量、継続年数についても十分検討さ
症が多く、年代上昇とともに減少している1)
(表1)
。
患者数や治療の実態についての調査は全く行われておらず、
れていない。
2013年に日本女性医学学会POI委員会(委員長:石塚文
平、委員:五十嵐豪、和泉俊一郎、甲村弘子、杉下陽堂、高松
潔、楢原久司、野崎雅裕、樋口毅)では将来的に有用となる
染色体異常症例は595名で、原発性または18歳未満での発
また、我々の施設の解析では、POI患者の15%に染色体異
常があり、正常核型のうち半数に何らかの自己抗体を認め、
そのうち20%に自己免疫疾患が合併していた。
ガイドラインを作成することを志向して、本邦におけるPOI
患者の実態と治療方法の現状に関するアンケート調査を
本邦におけるPOIの診断と管理方法、治療薬の現状
日本女性医学会による調査結果 1)では、POIの診断、治療
行ったのでその結果を踏まえ早発卵巣不全に対するホルモ
の際に用いている検査項目として血中Follicle stimulating
この調査は、2013年2月に日本産科婦人科学会卒後研修
Luteinizing hormone( LH )値が挙げられ、それぞれ
ン療法について解説する1)。
指導施設732施設を対象に行い、回答があった256施設
(35.0%)の結果から分析・解析を行っている。
hormone( FSH )値 、血 中 エ ス ト ラ ジ オ ー ル 値 、血 中
100%、95.5%、68.8%の施設で測定が行われていた。また、
血中抗ミューラー管ホルモン( Anti-Müllerian hormone:
AMH )値は23.9%の施設で測定が行われていた。これは患
早発卵巣機能不全(POI)とは
POIには、統一された世界共通の基準は存在しないが 、
2)
40歳未満の高ゴナドトロピン性無月経を意味し、①40歳未
満の続発性無月経が6ヶ月以上、②ゴナドトロピン高値、
者が最初に受診する目的として挙児希望を主訴としている
場合が多いためではないかと推測される。
また、診断基準の値としては、FSHは40 mIU/ml 以上とし
た施設が70施設と最も多く、30 mIU/ml 以上、50 mIU/ml
表1 卵巣性無月経症例の発症時年齢と染色体異常
染色体異常
自然発症
n
比率
n
比率
原発性(18 歳未満)
466
25.8%
392
65.9%
18 歳~30 歳未満
557
30.9%
140
23.5%
30 歳~40 歳未満
781
43.3%
63
10.6%
1,804
100.0%
595
100.0%
合計
自然発症は 1,804人で、発症年齢は年代が上昇するごとに増加した。また、染色体異常症例
は原発性または 18 歳未満での発症が多く、年代上昇とともに減少した(文献 1 より)
。
08
18
2014.10 Vol.
以上、20 mIU/ml 以上と続いた。また、エストラジオールの
POI患者に対してホルモン補充療法( Hormone replacement
値は10 pg/ml 以下が最も多い66施設で、20 pg/ml 以下が
therapy : HRT )を施行する目的は、卵巣欠落症状の改善や骨
FSHの値として、古典的には≧40 mIU/ml であるが、多くの
年期様症状以外に骨代謝に関しても注意が払われているこ
次いで43施設であった(図1、2)。POIの診断基準となる血中
施設でこの基準を採用しているものの、まだ十分に周知され
てはいないと考えられた。
代謝の管理を選択した施設がともに80%を越えており、更
とが伺える。
卵巣性無月経と診断された症例に対してHRTを行う際に
図1 早発卵巣機能不全の診断基準(FSH値)
(文献1より)
施設数(n)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
10
15
20
25
30
35
40
45
50
60
80
(単位:mIU/ml 以上)
FSHは40 mIU/ml 以上とした施設が70施設と最も多く、次いで30 mIU/ml、
50 mIU/ml、20 mIU/ml、の順であった。
図2 早発卵巣機能不全の診断基準(エストラジオール値)
(文献1より)
施設数(n)
70
60
50
40
30
20
10
0
5
10
15
20
25
30
35
40
50
(単位:pg/ml 以下)
エストラジオールの値は10 pg/ml 以下が最も多い66施設で、20 pg/ml 以下
が次いで43施設であった。
09
使用しているエストロゲン製剤は(複数回答可)結合型エス
WHIのサブ解析では、閉経後10年以内HRTを開始したほう
トロゲン(76.4%)
、17βエストラジオール貼付剤(23.6%)
、
が20年以上経過してから開始するよりもCHDのリスクが減
黄体ホルモン製剤(複数回答可)は酢酸メドロキシプロゲス
ない閉経後早期ではエストロゲンは血管内皮機能を改善させ
中等量Oral Contraceptives( OC )
(10.8%)である一方で、
少する傾向がある7)。これは、動脈硬化がさほど進展してい
テロン(43%)
、ジドロゲステロン(14%)であった。
る一方で、閉経後一定の期間が経過し、加齢の影響も加わり
類を使い分けている施設は少なかった。また、施設ごとに使
定化を引き起こしている可能性があると考えられている18)。
められた。POI患者に対して、何歳までHRTを継続するかと
血管内皮細胞が機能不全に陥り、CHDのリスクとその死亡率
どのホルモン製剤も、患者の現在の年齢に応じて薬剤の種
用する薬剤、投与量、投与周期(日数)などにばらつきがみと
いう質問に対しては、50歳くらいまでが55.1%と最も高く、
次いで45歳くらいまでの22.7%であった。
さらに、通院中に発生した有害事象として、通院中の脆弱
性骨折や心血管障害は19施設(10.8%)で報告され、そのう
動脈硬化巣が存在する場合は、むしろ動脈内プラークの不安
POI患者でも同様に、若年からエストロゲンの欠如により
は上昇するが、HRTを行うことで6か月以内にその機能は改
善するとされている19)。
また、卵巣摘出後にPOIとなった症例の検討では、40歳未
満では手術を行った場合、45歳以上と比較して虚血性心疾
ち骨折が7例、静脈血栓症が4例、乳がん発症が3例、心筋梗
患のリスクは増加し、さらに、卵巣を摘出した後にHRTを施
ン療法との因果関係は明らかではない。
患のリスクは3倍高くなると報告されている 20, 21)。POIは
塞、脳卒中がそれぞれ2例であった。しかしながら、ホルモ
行した人と比較してHRTを施行しなかった人の虚血性心疾
CHDのリスクでありHRTによってCHDのリスクは上昇しな
早発卵巣機能不全に対するホルモン補充療法
POI患者に対するHRTは、ホットフラッシュなどの血管運
いが、CHD予防には有用ではないという報告もある21)。
脳卒中とHRTについては、HRTは開始時期に関係なく脳卒
動神経障害やうつ病などの精神疾患、認知症、泌尿器系疾患
中のリスクを増加させるとの報告がある一方7, 22)、50歳以下
粗鬆症、アルツハイマー病のリスク軽減の可能性も示唆され
位に脳卒中の発生が増加するとの報告もある23)。以上より、
の症状改善に有用とされ、さらには長期的な冠動脈疾患や骨
ている3, 7)。また、一般に自然発症のPOIの発症様式は、急激
に卵巣機能の低下をきたす症例や、長期間にわたり徐々に卵
で両側卵巣を摘出し、ホルモン補充を行っていない場合は優
POIにおけるHRTは若年者であっても閉経後早期から必要最
少量、年齢にして50歳前後までの使用が望ましいと考えら
巣機能の低下をきたす症例など様々であるが、多くの症例が
れる7, 14, 22, 24)。
若いほどホットフラッシュが重度であったと報告している 。
は乳がんの発症を増加させると報告されているが 25)、一方
ベルが100 pg/ml となり正常周期の平均値に近い濃度が得
症率に関する報告は存在しない3)。POIの場合は正常な女性
ホットフラッシュを経験する。Yasuiらは卵巣摘出の年齢が
8)
経皮エストラジオール剤100 μg/day の投与は、血中E2レ
られるとされている 。また、肝臓へのfirst pass effectがな
9)
く、体重や体組成によっても効果が変わらず経口投与で稀に
あり う る 悪 心 等 の 消 化 器 症 状 が な い こ と や 、冠 動 脈 疾
患( coronary heart disease : CHD )
、血栓症、胆嚢疾患のリ
スクを低下させる可能性が報告されており 10, 11, 12)、HRTを
行う期間が他の患者よりも圧倒的に長くなるPOI患者には経
皮エストロゲン剤、
(17βエストラジオールの貼付剤・塗布
剤)が好ましいと考えられる(50~100μg/日)2)。
一方、黄体ホルモン製剤は酢酸メドロキシプロゲステロン
10㎎/日、12日間内服を勧める報告があるが2, 13)、現在欧米
では天然型プロゲステロンも利用可能であり今後の検討が
長期間のHRTのデメリットとして、5年以上のHRTの使用
POI患者の様に40歳代以下で開始するHRTによる乳がん発
が閉経までに暴露する予定の女性ホルモンを補う形になる
ため、乳がんのリスクを増加させにくいのではないかと予想
されるが、この点についても今後十分な検討を要する。
おわりに
日本女性の平均寿命は世界最高水準である。我が国におけ
るPOI患者の現状が明らかになった今、更なるQOL向上のた
めに症例の集積と治療効果の検討を早急に行う必要がある
ものと考えられる。
引用文献
必要であろう。ここで大事なことは、HRTには避妊効果がな
1)‌五十嵐 豪、高松 潔、楢原 久司 他. 日本女性医学学
があり、妊娠を希望しない患者に対しては、避妊指導または
( primary ovarian insufficiency: POI )の実態と治療の現
思春期前後の患者に対するホルモン補充療法、使用するエ
2)‌Cox L, Liu HJ Primary ovarian insufficiency. an update
いということである。POI患者は時に排卵し妊娠する可能性
Oral Contraceptives( OC )の服用が勧められる14)。
ストロゲン、プロゲステロンの使用量については、いくつか
の提案はなされているものの議論があるところである
。
15, 16, 17)
POI患者に対するHRTの効果
閉経後はエストロゲンの作用が低下することによって脂
質代謝異常や血管内皮細胞障害が惹起され、動脈硬化が促進
されると考えられている
。閉経早期に対するHRTはCHDの
18)
リスクを減らす効果が認められている 3)。近年発表された
10
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11
Infertility
Menopause
HRTの慎重投与例への対応
― 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往 ―
はじめに
子宮筋腫、子宮内膜症および子宮腺筋症は婦人科良性疾患
の中でも頻度が高く、子宮筋腫は女性の約25%に、子宮内膜
症は約10%に認められる。子宮腺筋症は子宮内膜組織が異所
高橋 一広
山形大学医学部
産科婦人科
術を受けた患者にCEEによるエストロゲン補充療法を行った
ところ、骨盤腔内に子宮内膜症が再発した症例が報告されて
いる8)。
性に発生する点で子宮内膜症と似ているが、子宮内膜症に比
2.‌子宮筋腫とHRT
子宮筋腫は過多月経や貧血の原因となり、子宮内膜症や子宮
投与したエストロゲン経皮投与群と、結合型エストロゲン
過多月経や月経痛は閉経により軽快するが、閉経期は更年期
1年後の筋腫の変化を比較すると、経口群では筋腫の大きさ
治療法は、ホルモン補充療法( HRT: hormone replacement
さらに、経皮吸収エストラジオール(50μg)を21日間と
べて、発症年齢が高く、また、経産婦に多いといわれている。
経皮吸収エストラジオール(50μg)とMPA(5mg)を連続
腺筋症では、月経痛、慢性骨盤痛、性交痛の症状が見られる。 (CEE, 0.625mg)とMPA(2.5mg)を連続経口投与した群で
症状に悩まされることも多い。更年期症状にもっとも有効な
therapy )である。しかし、HRTにより子宮筋腫や子宮内膜
症の症状が再発、再燃する可能性も考えられる。
は変化なかったが、経皮群で有意に筋腫が大きくなった 9)。
MPA(10mg)を12日間併用した経皮群(7日間休薬)と、吉
草酸エストラジオール(2mg)と酢酸シプロテロン(1mg)を
21日間併用(7日間休薬)した経口群を比較すると、経皮投
1.‌子 宮筋腫、子宮内膜症および子宮腺筋症に対するホルモ
ンの影響
子宮筋腫の形成と発育にはエストロゲン受容体、プロゲス
テロン受容体の発現が関与している 1)。GnRHアナログを投
与すると子宮筋腫は小さくなるが、その作用メカニズムとし
て 、性 ス テ ロ イ ド の 低 下 が 関 与 す る と 考 え ら れ て い る 。
GnRHアゴニストは、GnRHの持続的刺激により下垂体の
GnRH受容体数を減少させることで、下垂体のGnRH感受性
が低下し、下垂体でのゴナドトロピン産生・分泌が低下す
る。その結果、卵巣からエストロゲンおよびプロゲステロン
与群で投与2年後に筋腫が25.3%増大した10)。しかし、経皮
吸収エストラジオール(50μg)を28日間と酢酸メゲスト
ロール(5mg)を12日間併用した周期的併用投与(持続法)
法では、筋腫サイズは治療1年間では増加しなかった11)。こ
のようにエストロゲンの経皮投与で子宮筋腫が増大する報
告が多いようであるが、併用された黄体ホルモン製剤に違い
があり、また、MPAの投与量もそれぞれ異なり9)、正確には
比較ができない。経皮吸収エストラジオール(50μg)とMPA
(2.5mg)の連続投与群と対照群を12周期(28日/周期)観察
すると、対照群と比較して筋腫サイズが増加しないことが
の分泌が抑制され、各受容体を介した筋腫の発育は抑制され
明らかになっている12)
(図1)
。CEE(0.625mg)とMPA(2.5mg)
ロンによるEGF、IGF-1などの増殖因子やBcl-2、TNFα、p53
するが、3年目のサイズは2年目と差がなくなる13)。日本でも
る。さらに筋腫細胞の増殖には、エストロゲンとプロゲステ
などアポトーシスに関与する分子の発現調節が重要である2)。
低エストロゲン状態では筋腫細胞の数そのものは減少しな
いが、細胞自体の大きさや細胞内基質が減少する 。また、
3)
エストロゲンは子宮動脈血量を増加させることから、低エス
を連続投与すると、HRT開始後2年までは筋腫は有意に増大
通常行われているこれらの投与法では、HRTにより多少筋腫
サイズが増大することはあっても、HRTを中止するほどの大
きな問題にはならないと思われる。
トロゲン状態では、筋腫を栄養する子宮動脈の血流が減少す
3.‌子宮内膜症とHRT
り、平滑筋の萎縮や変性をきたして筋腫が縮小すると考えら
た患者に、経皮吸収エストラジオール(50μg)の連続投与
ることになる 。GnRHアナログ投与ではこれらの作用によ
4)
れている。
GnRHアナログにHRTで使用される酢酸メドロキシプロゲ
ステロン( MPA )を併用すると、筋腫の縮小が抑制される 。
5)
一方、抗プロゲステロン製剤であるRU486を3ヶ月投与する
と子宮筋腫の大きさが49%まで小さくなることが知られて
いる6)。
アンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼは、
正常子宮内膜組織では発現していないが、子宮内膜症および
子宮内膜症で両側卵巣摘出術および子宮全摘術を施行し
(子宮温存した患者にはMPA 10mgを12日間/月併用)した
群と、チボロン(2.5mg)連続投与群を比較すると、骨盤痛の
再発は経皮吸収群が40%であるのに対し、チボロン群では
10%であった14)。両側卵巣摘出術および子宮全摘術を施行し
た子宮内膜症患者を、非HRT群、エストロゲン単独群、エス
トロゲン/プロゲスチン(周期的投与)群、エストロゲン/プ
ロゲスチン(連続投与)群に分け、平均41.2か月観察した研
究によると、エストロゲン単独群でのみ、子宮内膜症の再発
子宮腺筋症組織で発現している 。このことから子宮内膜
(2%)と症状の再燃(6%)が認められた 15)。子宮内膜症術後
とが考えられる。子宮内膜症で子宮全摘術と両側付属器摘出
でのみ再発が認められた16)
(図2)。この研究では子宮摘出の
7)
症、子宮腺筋症の増殖にはエストロゲンが大きく関与するこ
12
患者172人をHRT群と非HRT群に分けて比較すると、HRT群
18
2014.10 Vol.
有無を問わず、HRTとして経皮吸収エストラジオールの連続
両側卵巣が摘出されていても子宮内膜症病変が残存する場
ている。さらに再発に関与するリスク因子として、3cm以上
後であっても子宮内膜症の再発予防の観点から、黄体ホルモ
投与に微粒子化プロゲステロン(14日間/月)を併用投与し
の腹膜病変の存在とincomplete surgery(子宮残存)を指摘
している(表1)。これらの報告から、子宮内膜症既往の患者
がHRTにより再発するリスクは決して高いとは言えないが、
合、HRTにより再発する可能性がある。そのため、子宮摘出
ン製剤の併用が考慮される17)。ただし、この場合乳がんのリ
スク上昇との兼ね合いとなるので、症例毎に患者と相談の
上、行うべきである。
図1 経皮投与HRTが筋腫サイズに及ぼす影響
経皮E2 +MPA
(%)
炭酸カルシウム
5
4
3
2
1
0
3周期
6周期
9周期
12周期
治療周期
対象:子宮筋腫を有する閉経後女性
経皮投与群:31人 (53.3±3.8歳),炭酸カルシウム群:31人 (52.4±3.7歳)
H R T:経皮吸収エストラジオールとMPAを連続投与
各周期における群間で有意差なし
12)より引用改変
図2 HRTによる子宮内膜症の再発
子宮内膜症既往患者
HRT群 115人
・TAH+BSO 106人
・BSO 9人
再発 4人
・TAH+BSO 2人
・BSO 2人
非HRT群 57人
・TAH+BSO 52人
・BSO 5人
再発
なし
対象:両側卵巣摘出術を施行され、組織学的に子宮内膜症と診断された患者。
HRT群:115人(47.1±4.7歳)、非HRT群:57人(49.1±5.5歳)
H R T:経皮吸収エストラジオールの連続投与に微粒子化プロゲステロンを14日間/月)併用
T A H:子宮全摘術、BSO;両側付属器摘出術
16)より作成
13
表1 HRTによる子宮内膜症術後再発のリスク因子
相対危険度
p (95%信頼区間)
因子
再発率
Stage Ⅰ-Ⅱ
Ⅲ-Ⅳ
0 (0/17)
4.1 (4/98)
NS
内膜症症状
なし
あり
2.6 (1/38)
3.9 (3/77)
NS
腹膜病変 (3 cm以上)
あり
なし
9.1 (3/33)
1.2 (1/89)
0.07
TAH+BSO
BSO without TAH
8.1; (0.7-119)
1.9 (2/106)
0.02 11.8; (1.4-156)
22.2 (2/9)
おわりに
自然閉経後や人工閉経後の更年期症状に対する治療とし
て、HRTは最も効果がある。しかし、子宮筋腫や子宮内膜症、
子宮腺筋症は、その発生や増大にホルモンが関与しており、
これらの既往患者にHRTの使用がためらわれる場合がある。
これらの疾患に対するHRTの影響を調べた大規模ランダム
化比較試験がほとんどないため、ホルモン補充療法のガイド
ラインでも、
「HRTにより子宮筋腫が増大したり、子宮内膜症
が再燃する可能性がある」という記載にとどまっている18)。
現時点ではこれらの既往患者に、HRTを行うことは可能と思
われるが、症状再燃の可能性について患者に説明することが
必要である。
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6)‌Murphy AA, et al: Regression of uterine leiomyomata to
18)‌日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 編 ホルモ
trial. J Clin Endocrinol Metab. 1993; 76: 1217-23.
the antiprogesterone RU486: dose-response effect. Fertil
14
women. N Engl J Med. 1994; 330: 1062-71.
ン補充療法ガイドライン 2012年度版
18
2014.10 Vol.
Congress Schedule(2014年9月~2015年2月)
2014年
月 日
9月
10月
学会名
開催地
会場
5―6日
第15回JSAWIシンポジウム
兵庫県
淡路島夢舞台国際会議場
11―13日
第54回日本産科婦人科内視鏡学会学術講演会
鹿児島県
城山観光ホテル
13―14日
第17回日本IVF学会
大阪府
大阪国際会議場
13―14日
第55回日本母性衛生学会総会学術集会
千葉県
幕張メッセ
14日
第12回日本生殖看護学会学術集会
大阪府
大阪国際会議場
18―20日
第35回日本妊娠高血圧学会
東京都
京王プラザホテル
10―11日
第37回日本産婦人科手術学会
北海道
京王プラザホテル札幌
18―22日
第70回米国生殖学会議(ASRM2014)
アメリカ
ホノルル
1―2日
第29回日本女性医学学会学術集会
東京都
都市センターホテル
第37回日本母体胎児医学会学術集会
長崎県
ハウステンボス
28―29日
第30回日本糖尿病・妊娠学会年次学術集会
長崎県
長崎ブリックホール
4―5日
第59回日本生殖医学会学術講演会・総会
東京都
京王プラザホテル
4―7日
第20回世界産科婦人科学と不妊性の論争に関する会議(COGI 2014) フランス
パリ
6―7日
第27回日本性感染症学会学術大会
兵庫県
神戸国際会議場
12―13日
第29回日本生殖免疫学会総会
東京都
東京大学 伊藤国際学術研究センター
学会名
開催地
会場
10日
第19回日本生殖内分泌学会学術集会
大阪府
千里ライフサイエンスセンター
10―11日
第20回日本臨床エンブリオロジスト学会学術大会
東京都
すみだリバーサイドホール
24―25日
第36回日本エンドメトリオーシス学会学術講演会
東京都
ハイアットリージェンシー東京
15日
日本生殖医療心理カウンセリング学会 第12回学術集会
長崎県
長崎ブリックホール
11月 7―8日
12月
2015年
月 日
1月
2月
15
16