事業の未来を拓く リーマン・ショック時に 模索された 不動産ビジネスの 新たな活路 不 動 産は社 会の動きを反 映 すると同 時に、 社 会や経 済の動きをリードすることもある。 2000 年 代 半ば、日本 経 済は 1993 年のバブ 事業の未来を拓く 高度な交渉ノウハウ。 都心の医大病院の 周辺地獲得によって 事業拡大構想をサポート 高度な交渉ノウハウ。都心の医大病院の周辺地獲得によって事業拡大構想をサポート ショック以降、そういう業務が全くなくなったわ 権者さんに対しても最初の 1 件の交渉をまと けではありませんでしたが、ビジネスとしては めることが重要だと考えました。お客様にとっ 次の手を考える必要性を感じていました」。 ては止まっていた拡 張 計 画にゴーサインが 出せ、地権者さんにとっては土地を売却する 都心部の医大からの 周辺地取得の 依頼を受けて メリットを実感できます。一つの成功事例が きっかけとなって一気に土地取得は動き始め ました」。その交渉にあたって、大きな武器 になったのが“三菱地所グループ” というブラ ル経 済 崩 壊 後の景 気 低 迷からようやく脱し ちょうどその頃、石田のもとに都心部に附属 ンドだったという。「まず地権者さんと会えな つつあり、東京都心部ではいくつかの大規模 病院と大学キャンパスを有する学校法人か ければ何も始まりません。 “三菱地所グルー 再開発事業が次々と実施されていた。丸の ら、施設の更新と拡張に伴う周辺用地取得 プ” という名前によって、売却に消極的な地 内、品川をはじめとして、東京を代表するいく の話が持ち込まれていた。 権者さんでも会うだけは会ってくれました。そ つかの街が生まれ変わり、REIT(不動産投 この大学病院の本院には都心部の基幹病 こを契機にコミュニケーションを重ねていき、 資信託)などの不動産への投資を活性化す 院の一つとして、常に診療科目の充実が求め それぞれの地権者さんに合わせた提案を重 る商品も登場し、不動産市場は活気を取り戻 られると同時に研究機関としての施設の充 ねていくことができました」。地権者にとって しつつあった。そんな時期に発生したのが、 実も求められてきた。それに対して石田は、 よりメリットの高い移転先の用意など、石田ら 2008 年 9 月のリーマン・ブラザーズの経営破 施設の高層化と近隣に取得した用地を利用 は自分たちに可能なありとあらゆる提案を用 綻である。日本経済も「リーマン・ショック」と したサテライト化で対応。しかし、いよいよそ 意し、一件一件の地権者との交渉をまとめて 呼ばれる大きな影響を受け、REIT 市況や一 うした拡張も限界に達し、石田らに本院隣接 いった。 般的な不動産取引も一時期低迷した。 地の取得を依頼してきたのだった。 安定したビジネスを ベースに 次のビジネス・シードを 探して 「リーマン・ショック以前は、企業の経営改善 「隣接地はもともと都心の住宅地だった場所 を目指した遊休地の売買が活発で、億単位 で、広い面積の土地を有する地権者さんは の 不 動 産 取 引を多く手 掛けました。また、 少なく、小さい土地に分割されているエリア REIT が登場してからは投資会社のファンド です。また、住居や賃貸住宅、商業用の雑 向けの不 動 産の調 達や仲 介を数 多く経 験 居ビルなどが混在していました。私たちはそ し、多忙な日々を過ごしていました。リーマン・ の一軒一軒を訪問し、交渉を開始していきま このケースにおいて、石田らのビジネスは仲 した」。 多 様な地 権 者に交 渉していくにあ 介手数料収入によって成り立っている。2008 たっては、単純に価格交渉では済まないケー 年から現在まで石田のチームは 30 件を超え スも多い。「交渉は地権者さんとの関係を育 る交渉をまとめ、大学病院の拡張計画は順 てながら行う駆け引きのようなものです。コ 調に進展している。最も大きな土地の売買 奈良県で不 動 産 業を営む 家に生まれ、大 学 時 代に 宅建の資格を取得。 大手 の不 動 産 業を志 望して入 社。 入 社から6年 間は津 田 沼 店に所 属し、現 在は 他 社 に 移 管したリテール 仲介を中心に経験を積む。 ミュニケーションを重ねながら、さまざまな提 価格は 40 数億円だった。案件は今も継続さ その後、本 社の法 人 営 業 案を行い、最初は売却に消極的だった地権 れ、 チームに大きな利益をもたらしている。 の 対 応など、時 代 の 変 化 者さんの気 持ちを変えていくことを目指しま 「不動産のビジネスは時代とともに変化して す。ダイレクトに接して、地権者さんのことを いきます。 私たちは常に時 代に合った新し 理解してくると “気持ちが変わった瞬間”がわ いビジネスのかたちを模索していかなければ かります。そうした時には、 この仕事の面白さ なりません。チームに安定した収入があるこ を実感します」。 とにより、私たちのチームでは現 在、次の有 石田らがまず目指したのは一つの交渉を成 望なビジネス・シードを探すことに注力してい 立させることだった。「お客様に対しても、地 ます」。 部で、投資物件やREITへ の中でさまざまなBtoBビジ ネスを手掛ける。 2014年 4月より現職。 流通事業グループ 営業一部 次長 石田 健 Ken Ishida 1992年入社 法学部卒 ※役職は2014年当時 国家プロジェクトへの貢献 パーキング事業の 立ち上げに手をあげた 入社 16 年目社員 世界経済の方向性を決定する国際会議、 その成功をサポートした新事業とベテラン社員の交渉・提案力 想いが次 第に高まっていました。そんな時 が、意外な困難が待ち受けていた。「財務 に新規事業の社内公募があったのです」。 省から借りている駐車場とはいえ、会期中の 2008年3月、新事業は責任者の上司と中矢、 “ 賃 料 免 除 ”をしてもらう必 要がありました。 中矢と同様に社 内 公 募で選ばれた先 輩 社 しかしこのイベントと土地貸付の担当部署と 員の 3 名でスタートした。パーキング事業は、 もにその対応はできないということでした」。 駐車場の運営・管理、事業地受託営業、駐 中矢は何度も財務省に足を運んだ。しかし、 車場運営などのコンサルティングと幅広い。 交渉は平行線を辿るばかりだった。 「そこで、 当社にとって初めてのこの事業を、上司と中 私たちが考えたのは、駐車場の契約期間延 矢たちは学びながら育てていき、次第にメン 長を認めてもらい、その間に出る利益を会期 バーを増やしていった。 中の賃料分に充当するというアイディアでし た。こちらの交渉も簡単ではありませんでし 都心部で 250 台分の 駐車場確保という 国家プロジェクトからの依頼 たが、各部署の立場を理解し、妥協点を探り 当てられたことで何とか承諾していただくこと ができました。心の中でガッツポーズしてまし たよ」。 2012 年 10 月9日〜 14日の 6日間の日程で、 国家プロジェクトへの貢献 世界経済の方向性を 決定する国際会議、 その成功をサポートした 新事業とベテラン社員の 交渉・提案力 新たなビジネスの 柱を育てるという 夢に向かって 当社では 2008 年から「パーキング事業」に 日本での開 催は 48 年ぶり2 回目となる第 67 本格参入した。駐車場は土地活用の経過 回国際通貨基金(IMF)、世界銀行年次総 措置として利用される場合が多々ある。最 会が東京国際フォーラムを主会場に開催さ 終 的には周 辺の土 地と合わせて建 築 物を れることになった。188 の国から1 万人以上 建てたり、売却したりされるのだ。当社が不 が参加する世界最大規模の国際会議で、東 このプロジェクトの成功の意味を中矢は振り 動産の仲介を手掛ける物件も同様で、その 日本大震災からの復興をアピールしたい日本 返る。「パーキング事 業は再 開 発などと違 部 分をビジネスとして戦 略 的に進めると同 政府にとっては、何としても成功させたいイベ い対外的に大きなアピールをする機会が少 時に、新たなビジネスの柱とすることを目指 ントだった。そして、開 催のおよそ 1 年 前の ないビジネスです。 公 共 性 が 高く、その分 して「パーキング事業」が立ち上げられた。 2011 年秋、中矢のもとにイベント駐車場の協 ビジネスとしての収 益は少ない今 回のプロ その立ち上げメンバーに社内公募で手をあ 力依頼の連絡が入った。 ジェクトでした。しかし、パーキング事業者と げたのが、当時、法人仲介部門で営業をし 「総会会期中に東京国際フォーラム周辺で して後発の当社にとっては、国家プロジェク 週 末の住 宅・不 動 産の新 聞折り込みチラシを見ること 1,000 台を超える規 模の駐 車 場を確 保する トへの参 画というかたちでその存 在 感を示 が好きだったことから不 動 必要があり、大手町、丸の内地区で駐車場の すよい機会になったと思います」。パーキン 入社後マンションの販売、 の 7 年間は九州でマンション販売を担当し、 確保ができないかとの打診がありました。東 グ事 業 の 魅 力を中 矢に聞 いてみた。「 不 法人仲介の営業を経験し、 希 望して本 社の法 人 営 業 部に異 動しまし 京国際フォーラム周辺という都心の一等地に 動 産の仲 介と同様、ビジネスが多 様なのが げメンバーとして現在の部 た。社歴は 11 年目でしたが法人営業の分 100 台規模の駐車スペースを確保するのは この仕事の面白さです。賃貸、売買の両方 門のビジネス拡大に注力。 野では新人です。法人営業は営業担当そ 簡単ではありません。しかも、警備の都合上、 の要素もありますし、BtoBとBtoC の両面も ズのサポーターで、海外に れぞれが自分のネットワークで仕事をする世 なるべく駐車場は分散しない方が望ましいと あります。また、不動産の売買と比較すると も応援に行くほど熱を入れ 界。 後から入ってきた私にはネットワークも いうことでした。当時、幸いにも当社にはこの 金額規模が小さい分、提案や交渉できる相 ほとんど無く、主に他の担当者のサポートを イベントを主催する財務省から入札によって 手先が多いことも魅力です。当社と地権者 しながらゼロから法人営業の仕事を覚えて 一定期間運営・管理を委託されていた駐車 さんの関係拡大という価値ももつビジネスと いきました。仕事は奥深く、やりがいのある 場が大手町にあり、その駐車場を充当するこ いう点には、おおいにやりがいを感じていま ものでした。しかし、私の中で“ 最 初から自 とで、要望に応えることが可能でした」。 す」。仲間とともに、中矢の挑戦はこれから 分の手でビジネスを創っていきたい”という 一 見 順 調に思われた駐 車 場の確 保だった も続く。 ていた中矢だ。 「 私は入 社から 3 年 間は首 都 圏で、その後 産業界に興味をもち入社。 2008年からは事業立ち上 Jリーグ開幕時から浦和レッ ている。 パーキング事業グループ パーキング事業部 次長兼一課長 中矢一国 Kazukuni Nakaya 1992年入社 法学部卒 ※役職は2014年当時 バリューチェーンの始まりを創造する 潜在的にある不動産の課題を 掘り起こし、 グループの バリューチェーンへつなぐ オフィスなどに賃貸されている不動産のオー バリューチェーンの始まりを創造する 未来につながる “まちづくり” の 視点をもち、 コンサルティングと 提案の力で、不動産の価値を 最大化すると同時にオーナー様の 満足を創っていく 情 報を元に、コンサルティングの対 象になり だと語る近 藤。「 新 築やリノベーションを予 そうな物件を発見する。すでに賃貸されて 定 する地 域のまちづくりの計 画の中で考え いる物 件では、空 室 率などが、重 大な指 標 てこそ、個別の新築物件の価値も高いもの になってくる。 例えば、空 室 率の高い物 件 になります。 私たちの提 案は、オーナー様 の場 合、マーケット状 況などから賃 料 が 適 の物件の価値を最大化するべきものだと考 ナーには、大 別すると三つのタイプがある。 正かどうかなどを検討し、また現地に足を運 えます。そのためには、 オーナー様の “想い” 一つ目は三菱地所のようなディベロッパーと び、建 物の状 態やメンテナンスの状 況など を具 現 化すると同時に、グループとしてのリ 呼ばれる事業者。二つ目は、投資や収益を も確認し、オーナーとアポイントをとって、コン ソースを最大限に活用して提案に盛り込ん 目的としてビルなどの不動産を取得・売却す サルティングに入っていく。そして、商 談が でいくことが必要になってきます」。 るいわゆる“プロ・オーナー”。そして、本 業 まとまると、リーシング、プロパティマネジメン を別にもちながら、所 有 する不 動 産を賃 貸 ト、リノベーションなどグループ内のバリュー 物件として活用している事業者(オーナー) チェーンへとつないでいくのだ。 である。そうしたプロではないオーナーの 不 動 産を競 争 力の高い価 値ある物 件とし て市 場に送り出していくのが、近 藤たち受 託営業部の仕事だ。 ディベロッパーやプロ・オーナーは、自ら、もし 建築計画から事業計画まで。 企画・提案内容は 多岐にわたる 未来につながる “まちづくり” の視点をもち、 コンサルティングと提案の力で、 不動産の価値を最大化すると同時にオーナー様の満足を創っていく 10年後、 20年後の街のイメージ、 グループのビジネスイメージを 抱きながら 近 藤はこの案 件に“ワンランク上の仕 様 ”を 盛り込んでいくことを決定。「ワンランク上の 仕様にすることによるデメリットは建築コスト くはグループ会 社として、開 発や運 営 管 理 東京都心部に本社をもち、いくつかの賃貸物 が上がること。しかし、エリア特性などを考え (プロパティマネジメント)を行う機 能を有し 件を所有するある企業。当社とは過去に法 ると、潜在的にハイグレードなオフィスに対す ている場 合 が 少なくない。しかし、本 業 が 人仲介による不動産売買で取り引きがあった る需要は十分に考えられ、賃料を少し高く設 別にあるオーナーは、専門知識やノウハウを が、この企業が保有する不動産のプロパティ 定することも可能だと判断しました。グレー ド感を出すために、ファサード(外装)も少し 持たないまま自社で運 営 管 理まで行ってい マネジメントは競合他社が既に行っていた。 る場合がほとんどで、資産としての不動産と 2012 年、法人仲介の担当者から近藤のもと 凝ったものにし、プロパティマネジメントの質 いう面で課 題を抱えているケースが 少なく に、このオーナーのオフィス向け新規賃貸物 にもこだわりました」。 近 藤たちの提 案はこ ない。 件の計画に対する提案依頼が来た。提案 のオーナーに高く評 価され、見 事に受 注と 近藤たちの業務は、コンサルティングの対象 は前述の競合他社を含めたコンペティション なった。ビルの新築だけでなく、プロパティマ となるオーナーの発見とアプローチから始ま になった。 ネジメントもグループ内で受注した。 「 収 益だけを目的としたプロ・オーナーの場 「私たちの担当するコンサルティングや提案 合と違い、本 業が別にあるオーナー様の場 は、オーナー様それぞれに抱えている事 情 入社当初は分譲マンション ばよいのかということさえわからない”ことも 合、それぞれに “想い” や “事情” があります。 も異なることから、簡 単ではありません。し ション販売所長も経験。 多い。まず、グループ各所から集まってくる 採 算 性 だけでないそうした 部 分をい かに かし、一度お付き合いが始まると、10 年、20 賃貸事業部門へ配属後は住 提 案に盛り込んでいくかが 決め手になりま 年という長いお付き合いになることが少なく の受託営業部業務を担当。 す」 と語る近藤。しかも提案の範囲は広い。 ありません。 他には持ち込めない相 談も私 2012年4月より現職。 る。ほとんどの場合、 ビルのオーナーたちは、 “ 問 題 点は感じていても、どこに相 談 すれ 販売を担当し、大規模マン 宅賃貸業務も経験し、現在 「 今 回 の 場 合 は、法 人 仲 介 部 門との 協 力 だから、当社だからと持ち込んでもらえるよ で用 地の取 得 から入りましたが、建て替え うになります。そして、グループのバリュー などの場 合でも提 案 内 容は多 岐にわたりま チェーンを活用して、他では実現できないソ す。建築設計、施工、管理運営計画、そし リューションも提供できる。それがこの仕事 て事業収支……そうしたことすべてを提案 の最も面白いところだと思います」。 する必要があるのです」。 近藤たちのビジネスはまだまだ始まったばか 賃貸事業グループ オフィスビルの新築やリノベーションは“まち り。 近 藤の視 点の先には、このビジネスが 近藤一成 づくり”の一端を担う場合も多い。規模こそ 大きな強みとなって、グループを牽引してい 異なるが、ディペロッパーが行う開発と同様 く確かなイメージがある。 受託営業部 二課長 Kazunari Kondo 2005年入社 法学部卒 ※役職は2014年当時
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