平成18年度高松市議会 海外行政視察報告書

平成18年度高松市議会
海外行政視察報告書
高松市議会議員
香 川 洋 二
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1)はじめに
今回の行政視察参加者は当選回数2回の議員6名(◎妻鹿常男 ○伏見正範、
△香川洋二、 山下 稔 吉峰幸夫 天雲昭治 (◎団長 ○副団長 △書記)
訪問国はフランス共和国、イタリア共和国。
訪問都市はフランス共和国、パリ市、トゥール市、
イタリア共和国、ローマ市、ジェンツアーノ ディ
ローマ市。
日程は7月2日朝高松出発。8日午後帰高の6泊7日(1泊機中泊)。
(注)画像資料は報告書末尾に添付する。
2)視察日程
視察日程、訪問先及び視察内容は以下の通り。
7 月 2 日(日)朝 JAL1400便出発・羽田経由、午後JAL407 便にて成田出発。
ローマ経由 3 日(月)未明午前2時パリ到着。
(全員の携帯したトランク未到着)。
①7月3日(月)午前
パリ全国ボランティアセンター(CNV)
フランスにおけるボランティア組織運営及びパリ全国ボランティアセンターの運営。
http://www.francebenevolat.org/
②同上午後、
全員のトランク、パリ空港に午前中まだ未到着のため時間調整。(午後も未到着)
夕刻ツールへバスで移動。トゥール市到着は午後8時。
ラング語学学院ヤニック校長主催のアイス・ブレイク パティーをキャンセル
③同上 夜
ル・ニベールホテル
姉妹都市、トゥール市トマ助役、国際交流室アミーロ女史他、トゥール市職員による歓迎
夕食会。今後の姉妹都市交流、今夏助役の本市訪問等意見交換。
http://www.tours.fr/index.php4
④7月4日(火)午前
マルムティエ学園高等部
学校運営及び施設見学。今秋マルムティエ学園高等部日本語学科学生の高松訪問時に
おける受け入れ態勢等に関する意見交換。
http://www.marmoutier.com/
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⑤同上午前―午後
トゥール市分庁舎。
トゥール市における市概況及び都市再開発事業の説明
J.ジェルマン、トゥール市長歓迎アイスブレーク・パーティー
午後パリへバスで移動
⑥7月 5 日(水)
パリからローマへの移動日
正午 ローマ国際空港において荷物調査と紛失手続き
⑦7月6日(木)午前―午後
朝 ローマよりジェンツアーノ ディ ローマ市へバスで移動
ジェンツアーノ ディ ローマ市役所
ジェンツアーノ ディ ローマ市フラビオ副市長から市政概要及びインフォラータ
(ご聖体の主日開催の歴史的花祭り)、地場産品を活用した都市近郊型観光の取り組み
等の説明
http://www.comune.genzanodiroma.roma.it/gnz/tr/eno/index.bfr
⑧同日午後
ジェンツアーノ ディ ローマ市からローマ市へバスで移動。
ローマ観光振興協会
ローマ市における外国人観光客動向等及びローマ市との協力体制など
http://www.romaturismo.it/v2/en/main.asp
⑨7月7日(金)
午前ホテル出発。午後JAL5064 便にてローマ出発。(機内泊)
⑩7 月 8 日午前成田到着
同日午後JAL1405 便で高松到着
3)視察報告
①全国ボランティアセンター(CNV)パリ支部
全国ボランティアセンターは通称CNV(Centre National du Volontariat)と呼ばれる。フラン
スにおける社会福祉活動は 500 年前から。19 世紀末までは教会が中心となっていたが、
今世紀はじめ 1901 年に「ある団体について文化的性格を有すると国が認定する時、かな
りの額の税の免減が認められる」という任意団体契約に関する法律(アソシエーション法)
及び、1905 年の教会と国の分離に関する法律の成立により、国が社会福祉部門を受け
持つこととなった。フランスにおける社会奉仕活動に近い言葉は兵役義務であったが、
1997 年に兵役制度が廃止されたため、現在では国民役務(Service national)が社会奉
仕活動に類似する言葉として使われている。
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また、「市民の有志」というボランタリア・シヴィル(Volontariat civil)という言葉も使われ
ており、義務的奉仕の要素は少なくなり、自己実現的要素が強くなっている。ボランタリ
ア・シヴィルの活動は国防を始め自然保護、社会活動、健康、教育、経済活動など多岐に
わたっている。
現在のフランスでは趣味や社会活動を行う非営利団体は「アソシアシオン」と呼ばれる。
同好会的色彩の強い非営利団体(ボランティア団体)でもある。団体数は全仏で80万団
体といわれ、また、毎年6万の協会が発足しているともいわれている。これらの組織は
個人の意志で簡単に結成することが可能である。同好の複数の仲間が集まればアソシ
アシオンが立ち上がるといってよい
立ち上げ時に地域の県に登録申請をする義務はないが公的に認められるためには、や
はり、設立届けを提出するほうが望ましい。特別のメリットはないと言われているが、公
的機関からの補助金や企業の寄付等においては登録団体の方が望ましい。
パリ全国ボランティアセンターは 1975 年に設立された。本年で 31 年目を迎える。パリ市
内には10支部があり、各々区役所内に部屋を借りて活動している。職員は 60 名。そのう
ち 1 名が有給職員で他はボランティアとして無給で勤務している。年間運営費は 7 万ユ
ーロ(1000 万円強)で、50㌫が会費収入、他は国、県、市、企業などからの補助金、寄付
金でまかなっている。2003年にはホームページ(URL)を開設したことに伴い、会員が
増加、2005年には1万3500人の会員を擁するようになったと担当者は語った。
ボランティア活動参加率をわが国の国民生活白書平成16年度版から引用すると、地域
の活動に現在参加している人の割合は約1割。61.8 ㌫の人が参加に前向きな回答を述べ
ている。参加年齢階層別では 70 歳代が最も高く 15.1%という結果がでている。
パリ支部においても参加者は退職した高齢者が主流を占めている。また、興味ある話と
して、現在のフランスにおけるボランティア活動が盛んになった時期は 1970 年代以降で、
アメリカにおけるボランティア活動が大きく影響をしたという。自国文化、習慣を誇りに
するフランス人がアメリカ文化を吸収したことに大変興味を覚えた。
ところで、ボランティア活動運営費については、フランスの所得税について理解しなけ
ればならない。フランスは国民所得に占める個人所得課税負担割合は 10.2 ㌫。アメリカ
(州税地方政府税含)は 11.1 ㌫。イギリスは 13.0 ㌫とわが国の平成18年度と当初予算ベ
ースでの 6.3 ㌫と比較して、大変高額となっている。ただ、課税最低限は日本で 325 万
円、地方税の最低課税限は 270 万円、フランスでは 410.7 万円となっている。
フランスでは所得税の税率が大変高い反面、国民への社会福祉活動をはじめとする教
育等に対し、厚く補助、援助を行っている。後に記述する私立学園高校の授業料の割安
感は、教職員への給与を政府が補助していることに起因している。
ところで、同センターの主たる活動は、①メンバー不足の他協会へのサポート
確保 ③人材養成活動 ④団体間との連絡調整活動等となっている。
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②人材
②、トゥール市主催歓迎会ならびにマルムティエ学園高等部視察
本市とトゥール市は 1988 年 6 月3日に姉妹都市縁組を行った。パリから235キロ離れた
アンドレ・エ・ロワール県の県都であり、ロワール川とシェール川に挟まれた中州に発展し
た街で、フランス新幹線(TGV)でパリまで1時間前後ということで、パリへの通勤者も多
い。早朝駅を訪れたが、ホーム内に自転車で乗り込み、人によっては自転車を列車に積
み込み、通勤する人も多く見かけた。(写真7 写真8 写真26)
さて、同市の人口は約13万人。主要産業はワインを中心とした農業及トウ―レーヌ地方に
多く点在する貴族のお城めぐりを主とした観光事業。また近年は近郊の町との合併によ
り、工場、大学、研究所の誘致等に力を注いでいる。この地方で特筆することは、フラン
スでもっとも美しいフランス語を話す地域であるということ。それゆえ、外国人を対象と
した多数のフランス語学校が設立されている。
また、兵庫県の甲南中・高等学校フランス校も、トゥール市にあり、日本人にも馴染み深い
地域になりつつある。また、本市との交流は、トゥール市の美容学校と穴吹学園との相互
訪問、議員訪問などを通じ確実に実を結びつつある。トゥール市主催の歓迎会ではジャ
ン助役、国際交流室アミーロ女史、トゥールラング語学学院ヤニック校長、同校職員 伴
直子さん、トゥール市連絡員ノリコ・バレール女史他が参加。以前訪問したことのある高
松市議との旧交を温めるとともに、今夏高松市を訪れる同市助役の滞在スケジュール
や訪問希望先などを話し合った。また、2007年5月に開催される、トゥール祭りのテーマ
国に「日本」が選ばれたこともうれしいニュースであり、2008年の姉妹都市20周年記
念行事などについても率直な意見交換が行われた。(写真5)
7月4日(火)午前、カトリック・サクレクール(聖心会)が創立したマルムティエ学園高等部
を訪問。ピエール・カプレール校長、パスカル・アンリ教頭の出迎えを受けた。17世紀に設
立された伝統校は、今もなお古い修道会建物を学校施設として利用している。当時のま
ま残されている御堂のステンドグラスは素晴らしいものだった。歴史的建築物、また、普
通教室、理科実験室などを見学。訪問時は夏休みということで、生徒はまばらだったが、
広大な敷地では中世の歴史的建造物の発掘調査が炎天下行われていた。ところで、同
校は化学、文学、経済の3教科に力を注いでいる。(写真10 写真11)
ところで、同校の授業料は年間6万円強。日本の公立高校と比較してもかなりの割安感
がする。この低額の授業料が可能となった理由は、前記のボランティア組織運営と同様
に教員給与の多くを政府からの補助金でまかなっているからである。
また、同校は日本語学科を設置していることから同学科の学生9人(女子生徒7名 男
子生徒2名)ならびに教員5名が今秋10月21日から5、6日の予定で高松市を訪問、ホー
ムステーしたいとの希望があり、受け入れ態勢を約束した。特に次の時代を担う若人の
交流は将来の姉妹都市の種になると考える。帰国後、私たちは市国際交流室等と受け
入れ態勢の協力要請、調整をお願いした。
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③トゥール市における都市再開発
今回訪れた、トゥール市分庁舎はシレーヌ川南側に位置する。70haの広大な再開発地域
で6千人を擁する大学がすでに開校している。また、1 万平方メートルの広さのオフィス
を持つフランス・テレコム社は450人の従業員を雇用している。トゥール市分庁舎では企
業誘致を中心に再開発事業の説明を受けた。担当者は分庁舎のあるこの地域を将来、
職住に満足できる街にするため、ショッピングセンター、ミニゴルフ場、地下駐車場など
を整備したいと語った。
現在広域トゥール市は14の市町村をあわせ30万人の人口を擁している。トゥール市は5
つの高速道路、環状船道路、TGV(フランス新幹線)、空港を有しており、新幹線利用によ
るパリへの最短乗り入れ時間は55分となっている。また、シャルル・ドゴール国際空港へ
も直接乗り入れ可能であり、マルセイユなどフランス各地やスペインまで列車による移
動が可能となっている。また、前記のように修道院やサンジェというお城など観光資源
にも恵まれている。無論フランスは農業国ということで、ワインを中心とした第一次産
業もいまだ健在である。
日本では、少子化の問題が議論されるところだが、フランスの地方都市においても、日
本と同様に人口減少傾向が見られる。しかし、トゥール市は人口増加に転じている3都市
のひとつであり、17㌫の増加を記録している。
ところで、トゥール市ならびに周辺町村では経済発展の基盤を第一次産業から二次、三
次産業へとシフトしている。まず、経済発展に不可欠なものとして、トゥール市は企業、大
学、行政との産学官の連携を第一義に考え、研究所を設立、運用している。現在では、民
間と公営で5ヶ所の研究所誘致に成功している。
また、トゥール市は誘致できた企業、研究所に対しては、雇用の拡大努力を要請している。
未誘致の大学、国営、民間企業へは土地の提供を柱とする誘致、勧誘事業を行っている。
もし、誘致に成功すれば行政側はインフラ整備への努力を約束し、企業側へは企業の競
争力強化と企業の定住性を要請している。
しかし、この地域の開発にも弱点がある。それは利用可能な用地が少ない上に、ロワー
ル川流域がユネスコ世界遺産に登録されたこと。それゆえに古い建物等に対する改築
の制限など色々な制約がある。また、逆に世界遺産の指定を受けたことにより観光客が
増加していることも事実である。観光産業と平行した企業誘致が求められている。
分庁舎のある開発地域以外にも再開発地域がある。トゥール市の環状線道路を取り巻く
地域、中心市街地などである。トゥール市北部にある空港横の地域は環状線道路との利
便性が良く、市が土地を買収、企業オフィスとして再開発している。
また、北東地区は5haの土地しかないゆえ、市が4haの土地を買収、9haの広さに拡張し
て、STM社、マイクロエレクトロニク社を誘致した。同時に同社が出資した半官半民の研
究所などの誘致にも成功した。しかし、そこにあった既存の企業は他の地域に移転した。
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ところで、フランス政府の経済政策のひとつに競争力の強化が掲げられ、分野としては
電力、科学、IT情報システムがある。このトゥール市広域地域はこうした政府の狙いにあ
わせ、STM社以外にも電力関係企業40社、13の研究機関が集約されている。
他の再開発地域としては、市の北から西にあるサンシュール・シュブルマート地区。そこ
は環状線道路に近く、ハイパーマーケット、ITソフト関連企業、医療企業が集まっている。
また北部地区では12haの再開発を行い、ロレアル・ネスレの研究所等の誘致に成功して
いる。
トゥール市中心部においても再開発は進んでいる。まず、駅前周辺部にあるサッカー場
付近及び公園。市内にはスエーデン企業の「イケア」という大規模店舗があったが、郊
外の高速道路沿い7haの土地で営業を行うと計画した。しかし、中心市街地の空洞化を
危惧した市は、7haの土地確保は困難であるが、中心部にある公園を半分割愛するとい
う条件で、大規模店舗の郊外への出店を断念させた。工事は来年度から着工する。
今回の広域トゥール市での再開発の手法は一ヶ所だけの大規模開発でなく、市を取り囲
む環状線道路に沿う形の分散型と呼べる特徴があった。
④ジェンツアーノ
ディ
ローマ市の歴史的行事と地場産振興
ジェンツアーノ ディ ローマ市はローマ市より南約30キロメートルに位置し、ネピ湖の
横に位置する海抜435メートルの高原地帯で、ローマ法王の夏の避暑地としての夏の離
宮がある。また、この建物を見学する観光客も多い。行政区域としては独自の市議会と
は別にローマ市議会圏域に所属し、自然に恵まれた農村地帯。また、最近は観光事業に
力を注いでおり、人口は2万3千人。しかし、現在この地域も高齢化が進み、農業従事者
は7㌫まで下がっており、農業の主産物はオリーブ。また、同市はローマ市の衛星都市と
いう条件からローマで勤務している人も多い。公共交通機関としては電車もあるが、現
在は乗用車、バス通勤が主流となっている。当日はエンゾ・エルコラニ市長がローマ市
議会に所用があり、代わって、フラビオ・ガバリニ副市長が対応。同市の職員数は140名。
議員は20名。その内、アセッソーレと呼ばれる担当部署を持つ議員が7名。同市がもっと
も力を注いでいる事業は前記のとおり、観光産業。市民に対する市政の中心は福祉政
策。保育事業、介護事業は他市より進んでいると自負。特筆すべきことは高齢者介護に
関し、高齢者は自宅での介護を望んでいる関係上、介護人としてロシア・ウクライナ地方
の女性が多く働きに来ている。
この現象は、わが国の看護師不足解消のための外国人看護師養成と類似しており、日
本の将来を暗示する内容だった。そのほか、市内中心部における駐車場確保整備も同
市の緊急課題となっている。
さて、同市の観光の目玉は毎年開催されるインフォラータ(花祭り)と呼ばれる路上絵画。
市役所前、ビアール通りの坂道に宗教画が描かれる。この画材は色とりどりの花びらを
中心に、葉、小枝などすべて植物で賄い、素材としているのが特徴。カーネーションだけ
で45万本とも言われている。この祭りは1778年に始まった。(写真17 写真18)
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開催日は毎年多少の変動はあるが、カトリック教会年間主日のうち、「キリストご聖体の
主日」に開催される。ちなみに本年は6月18日で、17日から19日まで開催。今年もインフ
ォラータ見物のため、国内外から多数の観光客がこのジェンツアーノ ディ ローマ市
を訪れた。
訪問した7月6日は、まだ会場となった石畳の坂道に下絵の輪郭が残り、半月前の名残
を留めていた。日本では富山県のチューリップ産地として有名な砺波市や震災をきっか
けにはじまった神戸市元町のインフォラータ関係者などとも交流を続けている。
また、同市はローマ市民を対象に地場の野菜、ワイン、ハム、パン等農業、畜産にかかわ
るグリーンツーリズム、エコツーリズム事業を推進している。同市のホームページによれ
ば市内には26ヶ所のレストランと地場野菜を中心とした農業体験型レストラン3ヶ所が記
載されている。ワイン、生ハムは有名であり、地場の白ワイン「カステッリ・ローマーニ」は
人気商品となっている。また、ノストリ・パラッティ・ティピシ・ソノというグラタン風料理は
市の名物料理。
それ以上に有名なのが天然酵母と穀類をあわせ、マキ窯で焼き上げたパン。このパン
はEUで唯一製造場所を明示できることでも有名。同市には約200名のパン職人が働い
ており、現在の販路がローマ市を中心にラッツィオ州だけにとどまっていることから、も
っと販路を広げてはと同市では組合に働きかけている。私も個人的に天然酵母のパン
を購入。帰国後家内と食したが、食感といい美味だった。
⑤ローマ観光振興協会
ローマは市内全体が歴史的建造物といってよい。今回ローマ観光振興協会で観光行政
について説明を受けた。ローマ市は現在でも遺跡の発掘調査が行われており、市内ど
の地域を掘っても遺跡が出るといわれている。それゆえ、大都市でもっとも設備される
べき公共交通機関の地下鉄は、通常の深さでは遺跡を破壊するということで、未だ2路
線しか整備されていない。パリの地下鉄網とは比較にならない。ただ、地上でのトラム
路線は健在で市民の足として利用されている。
さてイタリアへの非居住者到着者数は 2004 年度 3,707 万人で、前年比 6.4 ㌫減となっ
ている。フランス、スペイン、アメリカ、中国に次、日本は第5位となっており、前年第 4 位
であったが、中国の急成長が目立っている。
滞在外国人数は欧州圏内が約70㌫を占め、ドイツ人が956万人でトップ、ヨーロッパ地
域外ではアメリカが406万人でトップ、日本は167万人で国別では第6位に位置している。
こうした動向も2千年のミレニアムなどで観光客は多少増加したが、アメリカでの同時
多発テロの影響が未だ響いており、全体的には観光客数は減少傾向である。
協会ではより多くの観光客誘致のため、日本人観光客に対しては日本語パンフレット作
成、旅行エージェントへのPR活動など多岐にわたる広報活動を行っている。また英語に
よるホームページでは、メールアドレスを登録することにより、観光情報を提供してくれ
る。蛇足だが、イタリアでは自国の観光従事者の職場確保のために、団体観光ガイドは
必ずイタリア人ガイドを1人添乗することとしている。また、ローマ市に多くの観光客が
訪れる理由のひとつは門前町に由来する。すなわち、市内にはローマンカトリックの総本
山バチカン市国があり、世界中から多くの信者や歴史的絵画などを見学するため訪れ
ている。
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さて、協会との意見交換の中では、いたるところで見られたペンキによる落書きについ
て問いただすと、最近除去をし易い塗料を塗布する方法を導入中とのこと。
いたるところで見られる落書きには驚きと失望を感じた。イタリア社会の不安定さが見
えたような気がする。ブロークン・ウインドーズ現象という悪の連鎖反応を思い出す。
また、外務省の渡航情報で伝えられているように、イタリアでの治安は良好でなく、窃
盗事件に遭遇する日本人も多数おり、ホテルのランクなどに関係なく発生しているとの
ことだった。(写真 20)
⑥その他
今回の視察でいくつかの興味ある調査項目があった。ひとつはイタリアにおける町づく
り。ローマ市を例に挙げる。ローマでは1960年代から中心市街地での空洞化が始まって
おり、地域住民の居住空間確保、空洞化阻止等が問題となった。そのためイタリア政府
は思い切った各種規制を当てはめ、歴史的景観を守るゾーニング、建築規制、看板に対
する条例など多くの制限を課した。建築に対する建築賦課金などは代表的施策。こうし
た背景には戦後の都市における住宅難、都市基盤整備などの問題があった。そこで、戦
前ファシズム期の都市計画法から橋渡し法、ブカロッシ法、そしてガラッソ法(1985年)な
どへとつなぎ、現在の都市形成に成功した。法律は個人の権利を無視したような全体
主義的また社会主義的と思われる強固な内容だったが、それは、都市の崩壊に対する
市民の危機感により、守られた。こうした歴史的経緯が現在の景観保全に繋がった。当
然こうした法律にも根強い反対意見もある。戦後イタリア政府は地方分権を早期に進め、
地域住民参加のコムーネ(地域自治体)の役割を中心に、都市再生を進めた。ただ、強引
な手法だけでなく、イタリア独特の粘り強い住民との対話があったことも事実だった。
わが国でも2004年6月景観三法が成立したが、本市でも都市計画の中で、土地利用計
画の見直しを早急に進め、全国初の線引き廃止の利点を再度検証し、はっきりとした本
市の将来像を市民に提示する必要がある。
次に都市における緑化事業。パリ市、ツール市における街路樹を中心とした緑化行政に
は改めて敬服した。マロニエ(ベニバナトチノキ)をはじめとする木々は大きく育ち、
人々に木陰と都市に安らぎを与えていた。本市では中央通りにあるクスノキが信号機の
妨げになるということで、枝を切り落すべきか否かで論議された。この問題解決に香川
大学工学部増田卓朗教授はクスノキを今以上に成長させることで、問題解決を図った。
そのために、土壌改良という根が張りやすい環境づくりに着手し、クスノキは成長を遂
げ、交通の妨げを解消した。(写真3 写真9)
事前に増田教授からレクチャーを受けていたので、トゥール市における街路樹の土壌改良
現場を見学できたたことは大きな成果だった。ツール市駅前の工事では、グラウンドと
歩行部分に空間を設け、人間が直接根元を踏み固めない工法を採用していた。
4)考
察
今回の視察で第一に挙げることは、訪れた各市、団体は自分たちが育んだものを自信
もって、自分たちのものとして私たちに語りかけた。それはその地域の生活様式、歴史、
文化、芸術などであったが、少しも卑下するところはなかった。そして、その地域が育ん
だアイデンティティーの中で、現代にあわせた生活環境の整備を行っていた。頑固なラ
イフスタイルだが、私たちの生活の中で再度考えるべき内容と感じた。
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パリ市、ローマ市では歴史的建造物を保存するためにゾーニングを設定し、確実な保存、
言葉を変えれば強制的ともいえる保存は長い目でみると必要ではないかと考える。
しかし、その前提に市民との確固たる結びつきが必要だ。また、地域のゾーニングによ
っては緩やかな規制緩和を行っていた。たとえば、パリでの宿泊ホテルとなったモンパ
ルナス地区は芸術家が多く住んでいたパリの下町で、パリの14区・15区にあたる場所。
その地域にモンパルナス再開発計画としてモンパルナスタワー(59F)という、今世紀の
エッフェル塔というべきビルが建築された。エッフェル塔が建築された時代も多数の反
対意見があったと聞くが、現在ではエッフェル塔はパリ第一の観光名所となっている。
このモンパルナスタワーが21世紀のエッフェル塔になるかどうかはわからないが、暖炉
の煙突のある集合住宅の中では不自然なものに写った。
モンパルナス地区のもうひとつの再開発には、ブルターニュ地方やトゥール方面に行く
TGVの始発駅として利用されているモンパルナス駅再開発。駅舎がホテルの隣という
ことで見学した。屋上はテニスコート5面を擁した屋上緑化公園として市民の利便を図
っていた。どちらにせよ、開発には市民共通のコアーとなるその町のアイデンティティー
と調和する必要があると考える。(写真4 写真23)
トゥール市の再開発から学ぶものは大きかった。再開発が行政や産業界、議会だけでな
く、産学官の連携を基盤とし、ゆるぎないものとしたこと。そして、まずソフト部門の研
究所を立ち上げたことは賞賛に値する。元大学教授だった市長のリーダーシップに敬
意を払いたい。街の将来は市民の力も不可欠だが、リーダの力量も今求められている。
高松市の将来は大学との連携、そして、産業界との三位一体が必要と議会でも述べた
が、トゥール市が積極的に企業、研究所等誘致に取り組んでいる姿勢は本市の将来への
示唆のようであった。また、誘致する地域を市内中心部から衛星状に配置し、それに環
状線道路が連結するという方法は、当たり前といえばそれまでだが、なかなかできるも
のではない。今回の、トゥールでの視察は縦割り組織ではなしえないこと、行政のみで
出来るものでもなく、産学官の三位一体で初めて実を結ぶものだということを痛切に
感じた。
パリでのボランティア活動について、政府からの援助の大きさに驚かされた。帰国後、ヨ
ーロッパ各国の所得税等を調査したが、どの国も日本より高く、間接税直接税比較でも
同様であった。すなわち、限られた財源で高品質の市民サービスを受けるためにはより
多くの受益者負担を余儀なくされる現実を感じた。どちらにせよ、日本のボランティア
活動とフランスのボランティア活動では、組織運営から始まり、活動内容に至るまで差異
があることがわかった。
ジェンツア―ノ ディ ローマ市のインフォラータは歴史ある行事だが、この祭りには地
域の人々が総出で協力する姿勢は地域アイデンティティー、地域コミュニティー確立に
はよいことだと感じた。また、グリーンツーリズムの風を受け、地場産の野菜をつかった
レストラン経営など、本市でも取り入れる要素が十分あると感じた。ただ、そこには個性
を求められている。また。同市のパンがEUからのお墨付きを受けているのには驚かされ
た。
第三次産業が主力であるローマ市でのローマ観光振興協会が果たす役割はきわめて
大きい。市との協力体制で動いているとのことだが、ホームページ上では48時間、96
時間滞在の場合の代表的観光地めぐりの地図とスケジュールを教えてくれるのは便利。
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こうした決め細やかなソフト部門のサービスが観光行政でも必要だろう。そして基本的
に、滞在させる仕組みづくりが大切だと考える。
また、情報発信を確実に行うためには、確実な情報収集と把握と分析、検証が必要とな
る。本市においても情報収集を容易にするためには、職員に対し、インターネットへの自
由なアクセス、コンテンツフィルターの緩和等をやはり考慮すべきだと考える。
次に緑化行政に対しては、高松市内の街路樹がパリ並みの大木に成長するよう、木々に
心配りすべきと考える。また、モンパルナス駅屋上の緑化工事はヒートアイランド現象解
消の意味合いからも、本市においてもビルの新築、改築時にはビルオーナーに対して必
ず屋上緑化に取り組むよう条例で義務づける必要がある。個々の声を聴く市政も大切
だが、環境に関しては待ったなしで取り組むべきと考える。
また、ローマはじめヨーロッパの町づくりはスクラップビルドではなく、町の歴史、ライフ
スタイルの中に地域哲学もち、地域でつかえるものは使うといった、日本の「もったいな
い」という精神があるように感じた。昔日本でも職業による町名があり、そこにはその
町の誇り、地域哲学があった。私たちは町の歴史をもう一度紐解き、温故知新の心をも
って、先人の知恵の中から将来どうあるべきかを考える必要があると感じた。
最近、本市の一部地域において高層集合住宅が乱立し始めた。この現象も、法律条例の
問題がなければ自由に建築するという企業の考えはいかがかと思う。やはり、町全体
の調和、地域住民との共生を模索すべきだろう。また、企業倫理を問われる。特に行政
は住居、生活環境の変化を的確に捉え、都市計画の見直しを早急ににしなければならな
い。また、全国で初めて線引き廃止を行った市として、メリット、デメリットの検証をすべき
だろう。「お日さま西々」ではだめ。海外視察の2週間後、金沢、富山、長野市のコンパク
トシティーを視察したが、雪国の厳しい現実、生活からいかに市民生活を守り、街の再生
を仕掛けるか真摯に官民共に取り組んでいた。
最後に今回訪問した国で感じたことは、前記のようにITを通じて情報を交換することも
現代社会では不可欠だが、やはり最後は訪問先の土地の香りをかぎ、人と人の対面を
通じ、互いに違いを感じ、互いに人間同士であることを確認しあい、情報を交換する重
要性を痛感した。
5)おわりに
今回の行政視察に際し、全国ボランティア協会パリ支部のダニエル・デナ氏、トゥール市
市長ジャン・ジェルマン氏、同市助役フレデリック・トマ氏、経済局長バレリー女史、国際交
流室アミーロ女史、トゥールラング語学学院院長ヤニック校長、同校職員 伴直子女史、
トゥール市連絡員ノリコ・バレール女史、マルムティエ学園校長ピエール・カプレール氏、
同校教頭パスカル・アンリ氏、ジェンツアーノ ディ ローマ市副市長フラビオ・ガバリニ
氏、ローマ観光振興協会ロベルタ・エバンジリスティ女史他多くの方々にお世話になり、
感謝の意を表したい。また、今回の視察にご理解と準備にお力添えをいただいた、綾野
和男議長はじめ多数の同僚議員皆さま、企画運営に奔走していただいた市議会事務局
の皆さまにもお礼を申し上げる。
最後に今回の視察で全員の荷物が紛失など多くのトラブルが発生したが、冷静沈着に
問題処理に当たってくれた添乗員には参加者一同、心から感謝する。
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視察記録写真(添付資料)
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CNVでのミーティング (パリ)
(3)パリ市内の街路樹
(2)CNV入り口記念写真 事務所は2F
マロニエの木
(4)モンパルナス駅横のモンパルナスタワー
(5)トゥール市歓迎夕食会 中央トマ助役
(6)国鉄トゥール駅舎正面
(7)トゥール駅構内通勤風景 自転車の人も
(8)フランス新幹線TGV
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トゥール駅にて
(9)トゥール駅前の植栽工事
(10)マルムティエ学園内の歴史的遺跡
(11)同学園御堂のステンドグラス
(12)トゥール市ジェルマン市長
(13)トゥール市分庁舎での記念写真
(5)左建物が市役所
(14)早朝トゥール市職員による道路清掃作業
ここでインフォラータ
(16)ジェンツアーノ副市長と記念写真(中央)
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(17)インフォラータ(花祭り)が行われる坂道
半月前の聖画の下絵が見える
(18)市ホームページより転載
(19)ローマ観光振興協会での記念写真
(20)ローマ市内各所で見受けられた落書き
(21)1ボルゲーゼ公園付近の住宅地は枕丁花ばかり
(22)ローマ宿泊ホテル横の朝市
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(23)モンパルナス駅舎屋上緑化とテニスコート5面(ブルーの面)
画像右角部分にモンパルナスタワーがある。
(24)パリ凱旋門 集約された道路と植栽緑化事業
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(25)ローマ中心市街地
左下がバチカン市国 古い狭い町並みが見える
(26)ツール市中心市街地。ロワール川とシェール川に挟まれた中州がよくわかる
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(27)ジェンティーノ ディ ローマ市 高原にオリーブ畑が続く農村地帯。ローマ市から30kmの距離
(28) 高松市の衛星写真
(6枚の衛星写真は Google Earth より転載)
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