7.国語人原稿 八頭郡

他教科・他領域の学びに生きる国語の力
~「和の文化を受けつぐ―和菓子をさぐる」の実践を通して~
智頭町立智頭小学校
聲高 光
1 はじめに
本校は,平成24年4月に町内の6小学校が統合し,本年度は開校4年目である。統合
初年度より「つながり合う言葉と心の育成」をテーマに,国語科と道徳の授業研究を進め
てきた。
昨年度までの研究を通して,書いて自分の考えをまとめ,ペアやグループで伝え合い,
さらに全体で話し合う中で,お互いの考えを深めるという学習の流れが定着し,児童が見
通しを持って意欲的に学習する姿が見られるようになってきた。また,友達の考えの良い
点を青ペンで書き加えて,キーワードを挙げて自分の考えとの違いをとらえたり,めあて
に迫る発問の精選や児童のふり返りの充実を図ったりし,一時間の学びを学習者がしっか
り意識できるよう,研究を深めてきた。しかし,ペアやグループでの話し合いが意見交換
にとどまり,深め合う活動まで高まらない実態もあった。
そこで、本年度は以下のように研究の重点を設定し、国語の時間の授業改善に取り組ん
でいる。
研究の重点
①授業における書く活動の効果的な位置づけ
○ノート指導の充実
○ねらいに迫る主発問の工夫
②伝え合い(ペア・グループ学習 全体)
③振り返りの充実
④国語科としての重点及び学校図書館との連携
2 テーマ設定の理由
本学級の児童は,明るく素直で真面目に学習に取り組むことができる。また,人や地域に
興味を持ち,積極的に交流しようとする意欲がある。しかし,手にした資料の説明的な文章
を読み取ったり,理路整然と説明したりすることは苦手である。また,自分の考えや気持
ちを書くことや書くことそのものに苦手意識を持つ児童もいる。これらは,児童が国語科
の中で得た学びを他教科・他領域,生活の中で十分活かすことができていないからではな
いかと考えた。そこで本実践では,次のような研究仮説を立て,国語の学習を通して身に
ついた力を「他教科・他領域にも活用できるもの」として児童が実感できるよう,学校図
書館と連携しながら学習展開を工夫した。
研究仮説
他教科等との関連をふまえた単元を構想し,相手や目的をはっきりさせて表現する
活動を通して、情報を取捨選択しながら活用し伝える方法を学ぶことで、児童の主体
的な学びが深まり、他教科・他領域の学びや生活の中に生かすことのできる国語の力
が育つだろう。
3 具体的な取り組み
(1)単元構成の工夫
<他教科等との関連をふまえた単元構想図>
① 地域素材や既習の学びを生かした単元構想
智頭町には,受けつがれてきた和の文化がたくさんある。第 5 学年の総合的な学習の時
間では,智頭の自然と伝統的な産業である林業を取り上げている。受けつがれてきた環境
や技術の素晴らしさを知ることや,それらを守っていこうとする人と出会
うことは,児童の地域への愛着と伝統を知りたい,伝えたいという意欲へ
とつながっている。総合的な学習の時間に扱った木造建築・栃餅・祭りを
国語科の学習素材に取り入れることで、意欲の喚起と学習の成果を生かす
場面の確保を同時にできると考えた。また,道徳の時間では,地域の偉人
(智頭町出身の蚊取り線香を広めた安住伊三郎)について共感的に話し合
った。この学びも国語科に素材として取り入れることで,地域の先人の努
(安住伊三郎)
力に敬意と愛着を持ち意欲的に学習に取り組むことができると考えた。
それぞれの素材について調べるときは,地域資料の活用や直接取材,地域の人へのイン
タビューを行う。地域との関わりが深まるとともに,地域素材や既習の学びを生かすこと
で意欲的に学習に取り組み,積極的な情報収集や情報発信につながると考える。
② 相手と目的をはっきりさせた言語活動の設定
本校では,児童の実態をふまえ,身につけたい力・教材・言語活動に必然性のある単元
を構想し,ねらいに沿った単元を貫く言語活動を学習者のゴールとして設定している。児
童の主体的な学びを促すため,単元を貫く言語活動は「相手」と「目的」をはっきりさせ,
単元はじめに提示している。本実践では,前ページに示したような「話すこと・聞くこと」
「読むこと」に関する3つの力をつけるため,
「校内作品展に来てくださった方(保護者や
地域の方)
」に「智頭にある和の文化のよさを紹介番組にして伝える」という言語活動を設
定し,事前に子どもたちに伝えた。同時に,何について調べたいかについて意見を出させ,
自主学習などで事前に調べておくことを促した。このように事前の学習を設定することに
より,事前の理解をしやすくして,学習をスムーズに行えるようにと考えた。
③ ゴールを意識した単元構成の工夫
児童が常に「ゴールの姿」を意識し,また学習で身についた力を実感しやすくするため
に,本単元では A(教材文の読み取り)と B(活用)の時間を交互に行う AB ワンセット方
式を採った。事前学習,1次で単元の動機づけと導入を図った後,2次では教科書の教材
文「和の文化を受けつぐ―和菓子をさぐる」を読み取り,次時で前時の学習内容をもとに
自分たちの紹介するものについて構成メモや資料の準備を行った。また,この中でどのよ
うな他教科・他領域の学びに生きる力がつくのかを前ページに示したような単元構想図に
整理し,教師自身が意識できるようにした。
(2)授業の実際
①
めあてと対応した意義のある書く活動
本校では,書く活動によっ
て思考を整理し,それを伝え
合うことで学びが深まること
をめざしている。そこで,本
単元は,
「複数の本や資料の文
章や図表、写真などを、伝え
たい事柄を意識して選んで読
むことができる」力を身につ
けることをねらいとした。特
に,
「伝えたい事柄を意識して」
の部分を大切にしたいと考え
た。そこで,本単元では,要
旨と照らし合わせ,言葉・順序・資料の3点について「伝えるための工夫」を探すように
した。しかし,
「どのような工夫があるか」という発問では,それらの表現の良さまで迫る
ことが難しかった。そこで,第2次7時では「筆者の伝えるための工夫とその効果」を書
くようにしたところ,一つの表現について深く考察してその良さを感じることができるよ
うになった。右上のノートの
部分は,筆者の伝えたいことだけでなく,「また」
「さら
に」の表現がどのような効果を読み手にもたらしているかも考え,書いている。
② ペア・グループ活動
ペア・グループ活動での意見交流の中で学びをより深めるた
め,児童に活動の目的を持たせるようにしている。友達の意見
の良いところを取り入れて青ペンで書く活動は,自分の考えと
比べて類似点や相違点を見つけるという思考方法の意識化に
つながっている。また,グループで意見をまとめる活動では,
それぞれのもつ意見の価値について考察できると考える。
さらに今年度はペア・グル
ープ学習のポイントについ
て国語研究部で話し合い,右
のようなポイントを教室に
掲示することにした。話し手
と聞き手に分けることで双方向の交流ができるように工
夫した。可視化することで,どの子も活動の流れが分か
り,自分の考えが深められると考えた。現段階では「友
達の意見をより多く取り入れることに意識が向きがちだ
が,左のノートの
部分は,友達の意見を材料に自分
の疑問の答えを探したり,自分の意見の根拠を補足した
りしている。
③
ついた力を自分で意識できる学びの振り返り
毎時間の学習の終末に「振り返り」の時間を設定するとともに
各教室に振り返りの視点(右図:3年生以上のもの)を準備し,
振り返りの内容の深まりをめざしている。振り返りを通して,自
分の成長に気づき,自尊感情を高めたり,学習や実践への意欲を
持ったりすることで,主体的な学びや他教科・他領域への活用に
つながると考えた。
(3)他教科・他領域と相互に関連した情報活用能力の育成
<他教科等との関連をふまえた単元構想図>
① 学校図書館との連携
本校は充実した学校図書館を有している。また,学校図書館
司書が常在し,様々なレファレンスサービスを行っている。本
単元では,児童が自分たちの伝えたい文化についてさまざまな
資料を活用して調べ,またそれらを活用して発表資料を作るよ
うにしたため,教材文の読み取りを含むほとんどの学習を学校
図書館で行うこととした。学校図書館で学習を行う利点は,以
下のようなものが挙げられる。
ア「図書館」という場が学習者のやる気を引き出す。
イ調べ学習を意識しながら読み取りを行うことができ,教材
文の読み取りと活用の流れがスムーズになる。
ウ常にほしい資料を手に取ることができる。
エ学校図書館司書が調べ学習の支援に当たることができる。
オ学校図書館司書が,児童が教材文でどんなことを学んでい
るかを直接知ることで,必要な資料をよりこまやかに用意することができる。
図書館で学習を行うことにより,児童は単元の学習にしっかりと浸り,意欲的に学習す
ることができた。また,単元のはじめの図書資料の紹介は,他教科でも資料活用について
指導をしてもらう司書教諭と連携して行った。児童にもそれぞれの教科で身につけた力を
想起させるような声かけを行って,常に他教科等の学習も国語科の学習に取り入れられる
ようにした。
<資料リスト参考例>
【蚊取り線香に関する資料リスト】
【祭りに関する資料リスト】
② 社会科との関連
社会科の学習では,本単元の少し前、もしくは同時
期に,統計資料の使い方や情報カードでの資料整理の
仕方などを指導した。この学習は,ともに司書教諭が
T1 となって図書館で行った。司書教諭にもこれらの学
習を国語科の学習と関連させていくことを伝え、身に
つけさせたい力と他教科にも生かすように促すと言う
認識を共有して学習を進めた。統計資料については難
しかったが,情報カードの活用については,国語科の中でもスムーズに行うことができた。
また,社会科では資料を根拠にしながら社会的な事象について説明する活動を行ってい
る。国語科の学習前は,自分の伝えたい内容を写真資料やグラフを根拠に説明できる児童
はごく少数だったが,この学習の後では,グループで選びながら的確な資料を用いて説明
をすることができる児童が増えた。また,調べたことの発表順も、
「分かった順」からまと
まりを持った順序になりつつあ
る。
(右:社会科で病院同士のネ
ットワークについて教科書で紹
介された物と自作した智頭町の
ネットワークの図を順に見せて
違いを説明する児童)
③ 総合的な学習の時間
総合的な学習の時間では,横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して必要な力を身
につけるようにしており,他教科と関連を持たせやすい領域である。先に述べた学習意欲
を高める「人・もの・こと」との出会いの他,情報の収集・追求をする力は,総合的な学
習の時間の中でも大きく培われる。本単元では,図書や新聞・町報・パンフレットなどの
図書館所蔵資料を調べる他,電話や直接訪問しての取材,場合によってインターネットの
活用など,総合的な学習の時間に経験した探究方法を積極的に活用した。また,国語科で
身につけた相手を意識して分かりやすく説明する力は,総合的な学習の時間の表現でも生
かすことができる。国語科・
社会科・総合的な学習の時間
の3つを関連させることに
より,それぞれの教科・領域
で身につけた力を繰り返し
活用することができ,定着と
成長を期待できると考えて
いる。
(右:地域の方を招いての栃
餅作り)
④情報教育(ICT)
本校では本年度2学期からタブレット端末が導入されている。タブレット端末を使うこ
とにより,資料の整理が容易になること,動画撮影の機能を使い自分の発表する姿を聞く
立場から見て反省できることの2つの利点があると考えた。 そこで以下の活動でタブレッ
ト端末を使用して指導を行った。
ア
資料データを取り込む。写真を撮る。
イ 電子黒板に接続して発表のツールとして用い,自分達で操作する。
ウ 発表の様子を撮影し合い、自分たちの発表の様子を見ながらアドバイスをもらう。
特に効果を期待したのはウである。互いに動画を取り合って具体的に自分たちが発表す
る姿を見ながらアドバイスをもらうことで,児童は聞く側からの分かりやすさをより意識
し,改善点を理解することができると考えた。実際,児童のふり返りには「いけないとこ
ろが分かりやすかった。
」という感想がいくつもあった。その反面、見える部分に意識が集
中し,内容の分かりやすさにまで踏み込めなかったグループも多く,アドバイスの視点な
ど,発問と指示の練り直しが必要であると感じた。資料の整理と提示については、発表時
にはスムーズに提示できたものの,タブレット端末の使用について児童が十分に習熟して
いなかったこともあり,準備段階では想定以上に時間がかかることがしばしばあった。し
かし,これからの社会のあり方や中学でも同様にタブレット端末を活用した学習を行って
いることを考えると,避けて通るのではなく,他教科・他領域でも活用する機会を増やし
て習熟を図ることが必要であると考える。
4 成果と課題
この単元を通して,児童は単元を通して校内作品展での発表を目指し,自分たちが伝え
たいことを見に来る家族や地域の方に分かりやすく伝えるという目的を意識して意欲的に
学習を行うことができた。そのために友達と話し合って得た教材文からの学びを生かそう
とする姿は,児童の振り返りにも多く見られた。AB ワンセット方式の採用により,学習し
た内容をすぐに活用して確かめられることで,単元のめあてである資料を用いた考えの説
明には,特に意欲的に取り組むことができ,単元を貫く言語活動が効果的に設定できたと
言える。
また,日々の自主学習や社会科,総合的な学習の時間の学びを意識的に国語の時間に取
り入れることで「他の学びを国語に生かそう」とする意欲が向上し、同時に「国語の学び
は他の学びに生かすことができる」という意識も生まれた。ごく身近な地域の,愛着ある
文化を取り上げたこともその一助となった。子どもたちは学習全体を次のように振り返っ
ている。
<児童の振り返りより>
○
私は(友達の見つけた)
「このように」を使いたいです。わけは,まとめが分かり
やすくなるからです。
○
勉強で,資料を見て(必要な情報を)紙に書くことができるようになりました。
日本酒の歴史とか作り方も調べることができたからです。それに,まんがからも色々
なことが分かりました。(中略)班で協力して構成ができました。
○
この学習で人に向けて話す力がついたと思いました。自分たちのグループでよく
話し合って資料を選んだり話す言葉を詳しく話し合ったりしたからです。そして,
この文にはどの資料が合うかなとかを考えたり出し方を工夫したりしました。
○
何を言えばいいか分からなかったけど,練習のとき,メモに書いてある言葉をた
よりに次に何を言うのかを考えながら練習して話す力がつきました。
(中略)資料を
選ぶ力もついたと思います。それは,資料を選ぶとき,たくさんあって大変だった
けど,写真(資料)のいいところを言うことで,大切で「絶対いる」という資料を
選んだので,何かを推薦するときいいところを言って,これからの話し合いで役立
てたいです。
一方,課題としては,伝える内容の深化の必要性が挙げられる。今回,教科書改訂によ
る新しい単元でさらに地域教材を扱ったこともあり,小学校5年生の児童にとって使いや
すい資料をそろえることができなかった。適切な資料を見分ける力をつけるためには,さ
らなる指導の工夫と資料の収集・作成が必要であると感じた。また,時間の設定において
も調べる時間の確保が難しかった。総合的な学習の時間と活動を共有するなどして,児童
がしっかり学びに浸り,学習で身につけた力を活用できたことを実感できるような工夫が
必要であった。
AB ワンセット方式については,今回のような調べ学習の場合,より柔軟な運用が必要で
あることも分かった 。児童が単元はじめに持っている情報だけでは,
「そのことについて
何を伝えたいか」が絞りきれないからである。伝える目的がはっきりしなければ,資料の
選定の条件が整わない。前述の総合的な学習の時間との活動共有の他,学習の状況によっ
て A や B の時間をそれぞれ増やしたり、再度事前の学習に戻って伝えたいことをもう一度
確かめる時間を設定したりしておくことも大切だと感じた。
また,本実践では各班の発表資料はタブレット端末を使って整理・提示するようにした。
ICT の活用により、見せたい資料の見せたい部分を学習者が自分たちで切り出すことができ
るとともに、発表の資料の管理も容易であった。大型テレビの活用によって,より見る側
を意識して資料を準備することもできた。しかし,そのことにより発表の内容でなく見た
目ばかりに目がいってしまう児童があったり,操作が未習熟のため余計に時間がかかって
しまう場面もあったりした。ICT については今後も積極的に活用を図りたいと考えているが,
用いる際には、それ自体が目的とならないように留意していきたい。
<児童の振り返りより>
○ (前略)最後に,ぼくはいい番組になったと思いました。訳は,みんなが自分で決
めた題材を調べて何回も書いたり発表練習をしたりしてやったからです。最初は何も
分からなかったけれども,調べたら調べた分だけ分かってきて,一回撮影してどうな
ったか見てからいけないところを直すと,一回目のときよりすごく良くなっていまし
た。ぼくも最初はめんどくさそうだなと思っていたけども,最後の発表のときには「発
表しよう!!」と思っていました。またこんな発表をいろんなところや勉強でやって
みたいです。
○ 和菓子でも日本酒でも構成を作ったので,構成の仕方が少し身についたと思いまし
た。大人になってたくさんの人の前で発表したり話したりするときは,前を見て大き
な声で言いたいと思いました。辞典の使い方や調べ学習がちょっと上手になったかと
思います。
5 おわりに
学習前後を比較すると,児童が「社会で学習した○○を使っていいだろうか。
」
「○○に
ついて調べて発表で使いたい。
」と,自分の目的に合わせて他教科でつけた力や知識を国語
科に生かそうとしたり,逆に国語科で学んだことを他教科や生活に生かそうとしたりする
場面が増えた。学習内容や生活にも深まりと広がりが生まれてきている。教師と児童の双
方が「国語科の力は他教科・他領域に生かすことができる」と意識して学習することの重
要性を,改めて感じた。
しかし,
「生かすことのできる力」がついたかどうかは,短い期間で評価できるものでは
なく,また定着にも時間がかかると考えられる。今後の子どもたちとの活動でも,何をめ
ざして何を身につけたかを常に意識しながら工夫し,実践を重ねていきたい。