看ケアは, 心身の病気持縄不調で困惑している人や

‐
特 別 講 演 ‐
看
護
心 理
学
の
課
岡
l 看
題
堂
哲
雄
護 ケ ア と心 理 学
看護 ケ アは ,心 身 の病気 や不調 で困惑 して い る人 や,不 安 あ るいは孤 独 に悩 んでいる人 に対 して安 ら
ぎを感 じるよ うに支援 す ることだ と言われてい る。個人 が経験 す る安 らぎは ,行 動科学的 に み る と,心
身 の緊張が強 す ぎること もな く,ま た弱す ぎることもな い安定 した状態 であ る。この ような行動 的 (心
理的 )安 定性は どの ように して達成 され るのであ ろ うか 。か りに行動的安定性 が得 られ た ばあいに ,個
人は フラス トレ ーシ ョンを経験 しないですむの であ ろ うか。A.マ ズ ローや C。 ロジ ャーズな ど自己 実
現 の心理 を主張す る ヒューマニス テ ィ ック ・サ イコ ロジ ー (humm istic Psychology)の 立場 からは,
)
行動的安定 性を超越 した存在 への援 助が示唆 され てい るよ
看 護 ケ アが ,個 人 の行動的安定性 だけでな く,自 己実現 の促進 を も目ざすに して も,病 気あ るいは健
康 にかかわ る人 間行動 ない し人 間性 に関するい っそ う進 んだ理解 が必要 とされる。
人間 と しての成長 や自己実現 への努力 を含む人間行動 が ,ど の よ うな仕組 みに よって目標 へ動機 づ け
られた り,変 容 した りす るかが理解 で きれば ,看 護 ケ アの過程 に現象 す る事柄 を説明で きるだけでな く,
行動予測 も可能 になる し,行 動的安定性を 目ざす行 為 の 自己制御 も具体化 で きるであ ろう。 さらに ,そ
の過程 にかか わ る人 び との自己実現 への企 てとその遂 行 す ら可能になるはず であ る。
現 代 心理学は わずか 100年
余 の歴史 の中 で ,人 間心理に対す るさま ざまな見方 と取 り組 み方 を明示
して きた。心理学 におけ る学 問的な潮流は ,大 きく 3っ に分 け られ るが ,そ れ らはつねに交 わ り流れ て
いるのであ る。第 1の 潮流 は ,心 理学 が精神 の生理学 であ るこ とを 目標 としたW.ヴ ン トの着想 と研究
に 始 まる実験心理学 の流れ である。今 日では行動科学 の 中核 をなす学習 の理論 ,と くに行動変容 の理論
は ,実 験科学 の伝統 の上に築かれている。中 で も,行 動 モデ ィ フ ィヶ ― シ ョンの理論 と技法 は ,健 康 の
回復,あるいはその維持増進のた めの実際的 な プログ ラムづ くりに貢献 しは じめて い る。言語 を もたな い
人 や 言葉 を失 った人 に対 す る行動 や望 ましい習慣 の形成 には ,ほ か の どの アプローチょ り も有力 なこ と
が知 られてい る。
第 2の 潮流 は ,S.フ
ロイ トに始 まる精 神分析的 な心 理学 であ る。臨床的 な事例研究法 に よって ,個
人 を全体的 に力 動的 に把握 する取 り組 みは ,力 動心理学 (dynamic Psychology)と 称 されてい る。
フロイ ド以 後 の発展 の中 で ,現 在 もっと も重視 され てい るE.Ⅱ .エ リクソンの人 間性 の発達 と障害 に
関す る理論は ,人 間心理に対 す る臨床的理解 に欠 くこ との できない枠組 と評価 されて いる。
今世紀 中葉 に登場 した第 3の 潮流 は ,現 象学 的心理学 ,ヒ ューマ ニス テ ィ ック ・サ イ コロジーあるい
は精神健康 の心理学 と呼 ばれる流 れであ る。自己実現 を重 くみるA.マ ズローの理論 ,人 間中心 の カ ウ
文京大学 人文学部教授
四大 学看護学研究会雑 誌 Vo1 3 %1 1980
看 護 心理 学 の 課 題
ンセ リング (person― centered counseling)を 主唱す るC.ロ ジ ャ ーズの人 間成長 の理論 ,自 己を
あ りの ままに示 すのが精神健康 の条件 とい うS・ M.ジ ュラー ドの 自己開示 の理論が ,こ の潮流 の代表
的 な理論 であ る。実験的 あ るいは分析的 な人間理解 を目 ざす第 1,第 2の 潮 流 に抗 して立 つ第 3の 流 れ
の人 び とは ,今 ここに存在す る人 間 を全体 的 に把握 する ことを強 調 し,と りわ け人間 の尊厳 や至高 の経
験 を重 くみ る。その論理 は時 には哲学的 であ り,と もすればあ ま りに も思弁的 である と言われる。 とは い
え ,た とえば臨死患 者の理解 と援助には ,実 存心理学的 な取 り組 み こそかえが えのない方法なの であ る。
この ような見 方 か ら言えば ,自 己実現 ,自 己成長の心理学 は ,看 護 ―医療 におけ る効果的 なケ アに とっ
て基本的な理論 とい うこ とが で きる。
この ように ヒューマ ニ ス テ ィックな心理学の視点が重要 だか らと言 って ,子 どもの躾 けや学 習態度の
形成 ,さ らには大人の不健康 な習慣 や行動 の変容 に効果的 な行動科学的 な アプ ローチを否定 す るのは ,
援助 や ケアを専門 とする人 び とが取 るべ き姿勢 ではない 。行動 主義心理学 と現象学的心理学 の対立 や論
争 は,理 論心理学者の主題 ではあ って も,心 理臨床家に とっては現実 に生 きる人間 に対 す る援助 こそ主
題 となる。ここで ,心 理臨床家 とは ,心 理 面に問題 や困難 を もっている人 (client:ク ライエ ン トと称
され る人 )の援助 ニ ー ドを理解 し,現 実的 に解決 可能 な方策 を共に採 し,ク ラィエ ン ト自身が その問題
を克服 して ,い っそ う健康 な 状態 に達 する ように ,援 助す る専門家 の こ とである。この ように見 て くる
と ,看 護者は ,看 護場面 お よび ケアの過程 では心理臨床家 に近 い役割 が期待 されている ように思 われ る 。
2 心
理 臨 床 の 歩み と 看 護 心 理 学
現 代心理学 の諸分野 の中で も,臨 床心理学は看護 ケ アの過程 に もっと もかかわ りが深い分野 であ る。
臨床心理学 (clinical psychology)は ,19世 紀末 に アメ リカでL.ウ イ トマーが問題 児の治療教
育に心理学 を応用 しよ うとした努力 に始 ま る。 フランスのA.ビ ネ ー もまた ,智 恵 お くれの 子 ど もに対
して特殊教育 を施 すために知能検査 を創案 したの であ った。S。 フロイ トも,当 時難病 といわれていた
ヒステ リー患者の 治療経験 か ら心理的 な援助の基本 とな る治療 者 と思 者の人間関係 を重 くみるよ うにな
2)
ったの である 。
その後 ,臨 床心理学 は しだいに医療 モデル (診断 と冶療 )に 従 って ,パ ー ソナリテ ィの異 常現象 や社
会的不適応現象 に対 す る心理 診断 と心理療 法に主 たる関心 を示 す ことにな った。 スイス′ .ロ ール シ
ャッハ は ,イ ンクの しみか ら出来 た刺激 を用 いて知覚判断 の あ りよ うと把握す ること力苅心理診断学 の課
題 であ ると した。 アメ リカでは ,I。 マレ ーが人 物 を含 む生 活場 面の漠然 とした絵 を刺激 と して ,被 験
者 の人 間関係的 な ニー ドや葛藤 あるいは抑圧 な どの ダイナ ミックな仕組 みを明かに しよ うとして ,TA
T(主 題 統覚 検査 )を考案 したの であ る。 ビネーの知能検査 は ,ス タンフ ォー ド大学の グル ープに よっ
て い っそ う洗練 された形 とな り ,ド イツの心理学 者W.シ
ュテル ンの提 言に よる知能指数 (IQ)と
い
った表示法 も用 い られるようになった 。い ずれ も心理診断学 上の発展 を表 す ものであ る。 しか し,パ ー
ソナ リテ ィを総 合的に把握 す るには ,病 理現象の分析的 な解 明 だけ では十分 とはいえな い ことに気 づか
れて ,も っと積極的 で健康 な面 に光 を照射 す る必要が主張 され るようにな った。 それには異 常心理 の診
断学的 アプロ ーチ以上の取 り組 みが求 め られるわけで ,い わゆ る心理 アセ スメン ト(psychological
assessmen t)の考 えが出現 する ことにな った。つま り病気 とか異 常 を手 がか りとす る医療 モ デルか ら ,
現実 の人間のあ りのま まの姿 に着眼点 を置 き,そ こか らの逸脱 の程 度 を半1断しようとい うのが ,心 理 ア
3)
セス メン トの基本的 な視点 であ る。
心理診断的 な見方か ら離 れて ,心 理 アセスメ ン トを重視 す る新 しい見方 は ,心 理臨床家の視野 を拡大
四大学看護学研究会雑誌 Vo1 3 π
1 1980
看 護心理 学 の課題
させ ,当 然狭義 の心理治療 か ら健康の増進 へ といった展 開 を促 す ことになった。心理臨床 の分野 では ,
再 び教育的 な面が強調 されるよ うにな ったのである。閉 じられた個室 での心理治療 面接の限界 がは っき
りするとと もに ,よ り多 くの人が心理面の援助 を求 めて い る ことか ら集団心理療法 や グル ープ 。ワーク
も伸展 して きた 。それに ,心 理面の問題 を もつ人に対 す る援助 には ,ク ライエ ン ト個人 だけでな く,そ
の家族 や地 域 の人 び とを含 めた企 てが い っそう有効 であ ること もは っき り して きたの であ る。加えて ,
異常心理学的 な問題 を もた ない健 常者が ,一 段 と自己実現 を求 めた り,い っ そうす ぐれた リー ダ ーシ ッ
プ能力 を得 よ うとす る場合 に も,臨 床心理的 な知見 と援 助 の方法 が役立 つ ことが 知 られる ようにな った。
この ような臨床 心理学 の動 向 は ,ち ょうど看護 ケアが病者への援助 だけでな く,健 常者 の健康教育 に
まで広 が って きてい る現状 に類似 してい る ように思 われ る。た とい病 む人に対す る看護 ケ アであ って も
その個人だけでな く,家 族 ぐるみの援助 の 方が 一段 と効果的 であ る こ とは ,大 方 の看護者 がす でに気付
いている事柄 であろ う。
看護 ケ アのための心理学 を看 護心理学 と呼 ぶ とすれば,看 護心 理学 の理論 は ,臨 床心理学 の 諸理論 を
看護 ケ アの視点か ら見直 し,も っと も実際的な形 で統 合 した ものでなければな らない。個人 の内界 に生
じるサ イ コ ・ダイナ ミックスの理解 に役立 つ精神分析的心理学 だけ では ,個 人の集合体 と しての病院 ・
病棟 の人びとの交 りは十 分に把 握 で きな い で あ る。グ ルー プ ・ダイナ ミッタ ス (集 団力学 )の 知識 や
4)ま
た ,具 体的な微細 な行動 の変化 を主対象 とす る学習理論 では ,生 涯 を
技法 が必要 になるであろ う。
通 じての発 達 や成 長 を看過 しやすい ことに な つて しまう。 とは いえ ,言 語 の修得 や基本的生活習慣 の形
成 に寄 与 している学習 と習慣 に関す る行動科学的心理学 を無視 する と,自 己実現 や人 間 と しての成長 の
理論 は うつ ろな ものに な らざるをえまい。人 間 は存在 の意味 を探究 する生物 ではあ るが ,同 時 に生 存 の
欲望 と社会的 な優越 への願望 を充足 させ よ うとする もの だか らである。
このよ うに見 て くる と,相 互 に排他的 な理論や概念 も,現 実 に生 きる人 間の心理の把 握 と援助のため
には ,統 合 されなければ意 味 が な い ように思 われる。既存の ,あ る面か らは妥 当性を もつ理論 や原 則 を
関連 づけ調整 し,し か も統合 で きるような ,理 論的 な定 式 化が必要 であ ろう。一般的な理論の枠組が確
固 としていれば,新 しい研究成果 や実務上の洞察 が組 み こまれやすい し, そ れ に よってい っそ う実際
的 に有効 な理 論 とな ってい くはずである。
3 -般
シ ステ ム理 論 の 意 義
複雑 な人 間性 を把 握す るには , 生 物諸科学 , 心 理諸科学 , 社 会諸科学 を包括す るような理 論が考 案 さ
れなければなるまい。幸運 に も, 2 0 世 紀 の中葉になって人間に関 する学際的な アプローチと して, 一
般 システム理論 ( g e n e r a l s y s t e m s t h e o r y ) が提示 された。この理論は , 単 一の理論 とい うよ りも,
むしろ現象 の見方お よび方法論 を示唆す る もの であ る。臨床心理 や看護心理 を学 ぶ ものに とって 一般 シ
ステム理論 が重要 なのは , 既 存 の諸理論 を包括的に再構成 できる枠組 を提供 しているか らであ る。 また,
日常の仕事上 で主 として アセスメン トあ るいは援助行為 , 相 談や計画な どの行動 について も, あ る種の
システムの変容 ない し理解 とい った見方か ら分析 が可能 に なるか らで もある。生活 する シス テム として
人間 をみると , 行 動科学的 な見 方 も精神分析的 な取 り組 み も同 一の地 平 で出会 うことがで きるし, 臨 床
家 も公衆 衛生 の専門家 も共 に論議 を進 めて い くことができる。
G . W 。 オルポ ー ト( 1 9 6 0 ) に
よる と, シ ス テム とは , 相 互作
用 す る諸要素 の複合体 である? あ
システム
る
の諸部分 のあいだの 関係は , こ れ らの諸部分 とその外側 にあ る もの との関係 とは異 なる。 そ
の システム とその外側 を区別 する境界 が必 ず存在す る。
四大学看護学研 究会雑誌 Vo1 3 Zl 1980
看護 心理学 の課題
ル タ ランフ ィ (1968)は
,生 物科学 ,社 会科学 の専門家 に
6)物
ム
ス
ム
質 の システムは ,
とって重要 な着眼点 と して ,開 放 システ と閉鎖 シ テ の違 い を挙 げて い る。
J股 システ ム理論の主唱者 L.vonベ
閉鎖 システムでぁ って ,そ れ 自体 の境界内 で作用 しあい ,外 か らの影響 には機械的 に反作用 するだけで
あるが ,生 活体 システム (living Sy Stem)は 開放 システムで ,環 境か ら活発 に入力 を受け入 れ ,環
境 に出力 を放 出 して いる とみ る。た とえば ,す べての生活体 は ,食 物 を摂 取 し,老 廃物 を排 泄 しなが ら ,
生理的 システム内部 の関係 を維持 している 。あ らゆる種類 の課題集団は ,そ の環境 に よって導 かれ ,そ
の結果 を環境 に返 してい る。すべての公 共的 な組織体 は ,そ の環境 か らの入力 (人員 ,4/8質,情 報 な ど)
を取 り入れ ,そ の産物 やサ ー ビスを外 部に提供 していると考 えて い くのであ る。
ベルタランフィは,生活体とパーソナリティについて次のように述べている?
u重
力 や電力 な どの よ うな物理的な力 に比較 して ,生 命現象は生活体 と呼 ばれ る個体 にの み見出 さ
れ る。いかなる生活体 も,力 動的 な秩 序 を もって相 互 作用 しあ う諸部分 と諸過程 を有す る システム
であ る。心理学的 な諸現象 もまた ,パ ー ソナ リテ ィと呼ばれる個別化 され た統 一体 にお いて見 出 さ
れる。どの ように定義 され るに して も,パ ーソナ リテ ィは システムの 諸特性 を もってい る。
精神面の機能不全は ,単 一の機能の喪失 とい うより も,む しろ システムの障害 なのであ る。た と
え外傷 が局部的 であ って も,そ の影響 が システム全体 に及 ぶ こ ともあ りうる。逆 にいえば ,こ の シ
ス テムは ,規 制力 を もつ といえよ う。″
さらに ,ベ ルタ ランフィは ,シ ステム理論が ,心 理学 の諸学説 を統合す る役割 を担 い うると も述 べて
いる∫)
`
心理学 の分野 にあ る多 くの理 論 は ,基 本的には同 ―の 事 実を相異 なる言葉 で記述 してい るか ,そ
れ と も同 一事 実の異 なる面 を取 り上げ ているにす ぎない ようだ。児童発達心理学に例 を とると,ピ
ア ジェ理論 ,ウ ェル ナ ー理 論 ,ブ ル ナー理論 ある いは その他 の理論を分析すれば ,諸 理論は対立 し
ているとい うよりも,む しろ相互補充的 ではなか ろ うか。つ ま り,類 似 の モデルや パ ラダイム を異
な る言葉 で表 現 してい るだけであ る (同 一の 数学的構造が等式 や図 で表現 され るのに似 ている )。
`
"の
ため
→没 システム理論は ,そ の抽象的性質 のゆえに ,心 理学 上の諸説 をまとめ る 共通 の 言葉
の最良 の取 り組 み とな りうるであろ う。
この ように心理学 における諸学説 を単純 化 して考察 する ことは無理 があ るよ うに思 われ るけれ ど も,
重要 な提 言 として受け とめ る必要 があ ろう。大 方の心理学理 論 は ,自 らの独 自性 を強調す るあ まり,現
実か ら離れ やすい傾 きがあるか らである 。
システム理論 とい って も,機 械論的 システム理論 と生活体 シス テム理論は ,峻 別 されなけれ ばな らな
い。前者は ,サ イバ ネ テ ィックスや産業 の システ ム分析 ,社 会的統制理論 な どの テク ノロジーの発 達 に
結 び つ くものである 。 システ ム的 (多 変数的 )ア プローチは ,現 代社会の複雑 な問題 に取 り組 むの にふ
さわ しい方 法であ るけれ ども,個 人を社会 と呼 ばれ る大 きな機械 の歯車 に して しま う危険 が あ る。
この機械論的 システム理論 とは違 って ,生 活体 システム理論は ,基 本的 に ヒューマニステ ィックで ,
人間中心の取 り組 みであ る。 この 有機体的 ― ヒューマニス ティック ・システム理論 (organismic―
いわゆ るベルタ ランフ ィの 5原 則に
human istic system theOry.)は ,W.グ レイ (1972)の
9)①
よ って特徴 が示 されてい る。
生活 体 シス テム理論は ,生 活体 の 全体性 を強調 し,要 素論的還元 主義
ー
ロ
プ
チを排 する。②生活体 を ロボ ット的 にみるの ではな く,自 発的か つ能動的 に動 くもの とし
的な ア
て把 握 す る。③動物 の心 理 や行動 に比較 して ,人 間の特殊性 が ,記 号的象徴的 な活動 にあるとみる。④
漸変進化 の原 則 ,す なわ らい っそ う高次の段階あ るいは組 織 へ向 う傾向があ る (発 達 と成長 の視点 )。
四大学看護学研究会雑誌 Vo1 3 る
1 1980
看護心 理 学 の課題
生活体 システムが もつ開放性が , 人 間の創造性 や探索活 動 を可能 に し, 文 化を構築 させ る。⑤ その結果
として , 生 物 性 を超越 した人間性 を , 科 学的世界観の なかに導入す ることがで きるようにな る。
臨床心理学 の新 しい分野 としての看護心理学 にお いて も, ヒ ューマニスティ ッタな生活体理論 の枠組
は , 既 存 の諸説 を見直す ためばか りでな く, 従 来 か らの アプロ ーチが発 見 した以上の人間理解 といっ そ
う高次 の人間の条件 を把握す るのに役立 つ もの と考 え られ る。
4 生
活 体 シ ステ ム理 論 の概 念
本稿 の 目標 は生活体 シス テム理 論 の 検討 にあ るの ではな く,看 護心理学 の課題 を探 るところに ある。
それ故 ,シ ステム理論 それ 自体 については ,こ れ以上論 じな い ことにする。心理臨床 や看護 ケ アに とっ
て特 に重要 な生活 体 シス テム理 論 の諸概念 を述 べ ることに しよう。
(1)生 活体 の境界 と入力 ・出力
生 活体 シス テム には境界 があ り,そ れ を通 して入力 ある いは出力の現象が み られ る。入力 と出力 は ,
実験心理学 におけ る刺激 と反応 に似 ているが ,同 じではない。入力 (input)は ,シ ス テムの境界 を通
して中に入 る ものすべ てをい う。 この境界 は フ ィルタ ーの役 目を果 しているの で,生 活体 に加 え られ る
刺激 の断片 の みが透過 され る。精神分析的 カウンセ リングの場 合 ,カ ウンセ ラーが タライエ ン トに示 す
言語的解釈 に して も,す べ てが入力 とはな らな いこ とは周知の とお りであ る。 また ,注 意深 く統制 され
た実験場 面 であ って も,計 画 され た刺激以上の ものが ,入 力 され ること もあ りうる。同様 に システム の
出力 は ,単 一の反応以上の ものか もしれな い。 プ レイ ・セ ラピー を受持 つ心理臨床家は ,内 気な 子 ど も
が友 だちに近 づい た り,話 しかけた りする ように援助 し,子 ど もが何回 そ うで きたかを数 えること もで
の出力 を うみだすか もしれな い 。生活 体 シス
きるが ,子 ど もの複雑 な パーソナ リテ ィ ・システムは ,男」
テム理論 を用 いる看護者は ,自 分 が企 てた こと以外 に入力 ・出力が ないか どうか,ク ライエ ン トと環境
全般 を精 査す ることになる。
生 存 を維 持 するには ,す べ ての人 間は ,物 質 ,エ ネルギ ー ,そ れに情報 を入力 し,出 力 してい る。人
間は ,飲 食物 や呼吸に よって エネ ルギー を得て いるが ,心 理臨床家に とっては情報の入力 と出力 (知 覚
と行 動 )が 関心 の的 にな るはず である。 また ,社 会的行動 はすべて ,過 去 と現在 の情報入力 に よって習
得 され る と もいえる。 システム理論 か らみ ると,ク ライエ ン トの 行動 の理 解 には ,そ の環境 を精査 す る
とと もに ,い っそう望 ましい安定 した状態になるように助 け るには,どんな環境変化が必 要 かを考 える こ
とになる。
(21 内部規制 と安 定性
生活体 システムには ,内 部規制力 がある。生理 学 の研究 に よれ ば ,生 体 には環境 の急変 に際 して内部
の安定性 を維 持す るホメオスタシスの現象 があ る。 システム内部 に 自己規制の 過程 があ ることは ,類 似
の規制 を使 ったサ ー モスタ ットな どの機器 の発明に よって いっそ う確 実視 され る ようにな った と も言わ
れ てい る。心理学 では ,動 機 づけの理 論の 中 でホ メオスタ シスの概念が用 い られて いる。た とえば,栄
養分の不足 が飢 えの動因 を つ くりだ し,そ れが摂食行動 をひ きおこす 。満腹 すれ ば,こ の種 の行動 は終
る。 しか し,再 び空腹 になれば ,摂 食行動 が くりかえ され るとい った循環性 が ,こ の種 の動機 づけ と行
動 にはみ られ る。A.マ ズ ローは ,動 機 づ けを ,欠 損欲求 と自己実現欲求 に二大別 しているが ,前 者の
欲求は パ ーソナ リテ ィに とってなんらかの欠損 (不 均衝 )が あ って ,そ の均衝回復が動機 づ け とな ると
言 う。人間 には ,こ の安定性回復 の動 機 づ けだけ でな く,変 化 を求 めた り,新 しい経験 を探 す ところが
あ ること も知 られて い る。 とはいえ,動 機 づけの理解 には ,今 もホメオスタシスの概念は重要性 を失 っ
四大 学看 護学 研究会 雑誌 Vo1 3 41 1980
看護 心 理学 の課題
て いな い 。
知覚 にお け る大 きさ, 形 体 , 色 彩 な どの 恒 常現 象 は , 人 間 に とっての環境 を安定 化 す るのに役 立 つホ
メ オ ス タテ ィ ックな過程 であ る。 また , 小 集 団 の相互作用 に も , ホ メオ ス タテ ィックな過程 があ る こ と
も知 られ て い る。他 の メ ン バ ーの期 待 以上 の ことを する人は足 を引 っば られ る し, 期 待 以下 の働 き しか
しな い人 は 集 団 シス テム か ら追放 され る 。持続的 な集 団 に新 しい メ ンパ ーが加 わ る と集 団 ホ メオ ス タ シ
スの働 きで , 均 衝 回復 の ため の努力 がな され る 」0 )
13)目 標 志向的行動 と フ ィー ドバ ック
サ イバ ネテ ィッタスの分野 における研究 か ら,シ ステム を安定 した状態 で維 持 する とともに ,一 定方
ー
向 に向 って活動 を維持 させるよ うな過程 の存在 が明かに されて きた。 フ ィ ドバ ック (feedback)の
仕組 みである。個人の 目的 や目標 が その人の行動 に影響 を及 ぼす ことは ,む しろ周知の事 実 である。
ス トレスに対 す る生体 の反応 として特徴 づけた 一般 適応症候群 もま
か つてH.セ リエ (1956)が
11)集
団心理 療法 の場 面
た ,生 活体 システムに内在 す る フ ィー ドバ ックの仕組 みに よると言われ てい る。
ー
バ
エ
では ,も っと可視的 に社会的 な フ ィ ド ックを観察 で きる。ある クライ ン トの 言葉 や仕 草 や態 度が
他 の クライエ ン トに どんな影響 を及 ぼ しているかは ,直 接的 に個人 に フ ィー ドバ ックされ ,人 間関係 上
`
の改善 を目ざす方向に 矯 正 され るよ
システムには ,情 報入力 の許容範囲 があ って ,過 剰 または過 小 な刺激の場合には フ ィー ドバ ックの仕
組 みが効果的 に′
宵明 しない。都 市生活者 が経験 する疎外感 は ,過 栞」な刺激 に よる といわれてい る。 自分
の処理 能力 をこえた業務 は ,新 人の ナ ース を退職 に追 いやるか もしれな い。心理学 における感覚遮断 の
実験 では ,過 少な刺激 が生 活体 を異常 な状態 に して しまうことが示 されている。 また ,ICUや
CCU
に比 較的長期入院 している患者に も,拘 禁反応 に似た心理 面 の障害 がみ られ る。
外 か らの刺激が増加 すれ ば ,内 部 の緊張 も強 まるが ,そ れに順応 で きれば,や がて安定 した状態 が回
復 する。個人 で も集団 で も,ス トレスに対 しては予測可能 な経過 をた どることが知 られている。は じめ
シ ョックを受 け ,適 応力 が減退 す る。次に システムが もつ力 をい っそう動員 して解決 しようと し,つ い
には適 応回復 するか発病 するか のい ずれか となる。
生活体 システムは ,ス トレスに対応 し,日 標達成 の努力 をす るに際 して ,は じめは障壁 を取 り除 こ う
とした り,必 要 な援助 を求 めた りす る うちに ,と もか くな ん らかの解決 に達 す る 。もっ 発 病 や シス
テ ム異常 を示 さな いが ,不 適応的な対応 を示 す場 合 もあ る。攻撃対象 の置 きかえ,頑 固な強 迫行為あ る
いは問題 の否認な どの 自我 の防衛機制 に よる行動は ,そ の典型 例 であ る。
要す るに ,生 活体 シ ステムが 目標 志向的 な行 動 を推進 で きるのは ,フ ィー ドバ ツクの仕組 みに よるの
である。
(4)諸 システムの階層
ち ょうどフ ィー ドバ ックが システムの安定性 を理解 する場合 の中心的な概念 であ った ように ,諸 シス
テムの階層 は システムの変化 を理解 する場合 に もっと も大切な概念 といわれ る。図 1,は ,J.G.ミ
ラ
ー (1971)が
人間の かかわ る システムを 7つ の水準 (細 胞 ,器 官 ,生 活 体 :小 集 団 ,組 織体 ,社 会 ,
2)
超 国家的 )に 階層 化 して示 した ものであ る。
各 システムには ,上 位 システム と下位 システムがあ る。超国家的 システムの上位 には ,宇 宙 の シス テ
ムがあ る し,細 胞 システムの下位 には分 子 や原 子の システムがあ る と言 う。各 システムは ,生 命 を もた
ない物体を包含 した り,そ れ ら と相互作用 を して いる。所写 の物理的世界 にある物体 と生 活体 との相互
作用は ,エ コ ・システム (eCo― syStem)と 呼ばれ る。心理 臨床 の仕事 は ,生 活体 システム ,小 集団
四大 学看護学研究会雑誌 Vo1 3 る
1 1980
看護心理 学 の課題
国際 システム (国 連 ,WEOな
ど)
国家―社会 システム (ひ とっの国 )
組織体 システム (会 社,企 業体,公 共団体,学 会,協 会な ど)
小集団 システム (家族,職 場集団など )
生活 体 システム (個 人 ,パ ー ソナ リテ ィな ど )
器官 のシステム (神 経系,循 環器系など)
細胞 システ ム (身 体内の個 々の細胞 )
図 1 ミ ラーに よる生活体 と諸 システムの階層
(NoD.Sundberg, et al iCliniCal Psych01ogy,2nd ed.
App letOn―
C e n t u r yC―
r o f t s , 1 9 7 3 , p . 1 0 1 の 図 を若干 修 正 して引用 )
システ ムぁ るいは組織体 システムが主要 な場 になる。臨床看護 上のケアは , 器
官 システム , 生 活体 シス
テム , 小 集 団 システム におけ る介入 に よることにな ろ う。保健活動は , さ らに組織体 シス テム , 国
家シ
ス テムな どの上位 の システムにかかわるこ とになるはず であ る。心理療
エ
法家は , ク ライ ン トの生活体
シス テムの内部構造 の変容 を目 ざすし, 行 動 モ デ ィ フ ィヶ ―シ ョンの
専門家は生活体の出力 を変化 させ
るために入力 を操 作す るだけか もしれない。 また , 看 護者 の中には , ク ライエ ン トの
行動 面の安定 性 を
目標 に する人 もあれば , 健 康観 や死 生観 な どの内的 な変容 を最大 限 に達成 しようと企 て る人 もい るは
ず
であ る。
と もか く, 上 位 シス テム は下位 の シス テムの機能 を制御す る し, シ ステム内 の諸部分 ( 下 システ ム
位
)
もまた全体 ( 上 位 シス テム ) を制御 す ることは明か であ る。
四大学看護学研究 会雑誌 Vo1 3 %1 1980
看 護 心理 学 の課 題
(51 発達段階
生活体 システムは ,時 間の経過 に と もな って構造的 な変化 を示 し,い くつかの発達段階 を区分す るこ
とが で きる。青年は ,心 理 的 にみれば ,幼 児 が大 きくな っただけではな い 。成 人期になれば ,そ の下位
システムは もっと分化 し,入 力面 では いっそ う選択的 にな る し,出 力 の面 では 一段 と洗練 された形 を示
す。生活体 シ ステム としての人 間 の生涯をい くつかの段 階に分け る試みは た くさんあ るが ,心 理臨床 や
看護心理 の理論家 ,実 務家 に とっては ,パ ーソナ リテ ィの発達 と危機 ,そ の解決 に よって健康 を考 える
E.H。 エ リクソンの発達段階論が もっと も有効 な理論枠組 に思 われ る。各段 階には ,新 しい動因 やニ
ー ドの状 態が生 じ,新 しい社会的環境 があ らわれ る し,社 会的相互 作用 もまた新 しい形 をとるよ うにな
る。
―
輌
) ―
―
― ― ―
統合性 ::1〕
き質i:i絶 望
生殖性
親密性
愛の能力
アイアンア ィア ィ
の権 市
主導性 (積極 性 )
基本的信頼
くまジ
孤立
墨誡心: 役割 の拡散
一
岬
一
一
田
勤勉感
自律感
停滞
<人 間の強 さ>
劣等感
罪責感
恥 ・疑惑
基本的不信
ブ
な面ゝ
図 2 人 間性 の発達段 階 とライ フ ,タ ス クお よび人 間の強 さ
この図は,エ リクソンの著作を もとに して視覚的理解が可能なように工夫
してつ くった ものであ る。人間の強 さや倫理性を中心にすえ,左 右にポジ
テ ィブな課題 とネガティブな課題を配置 し, しか も等 しい長さにしなかっ
たのは,重 みの違い を表 した ものである。
(岡堂ほか,患 者ケアの臨床心理,医 学書院,1978,P37か
ら引用 )
13)
図 2 , は 筆 者 が エ リタ ソンの発 達段 階 を図示 した もの であ る。人 間性 の 発達 と危 機 に つい ては , 他 書
で詳述 して い るの で, こ こでは これ以上 立 ち入 らな い 。
5 看
護 心理 学 に お け る シ ス テ ム理 論
看 護 に 関す る理 論 は , 次 の 3 つ の いずれ か 1 つ に焦 点 を合 わ せて組 み立 て られ てい る。
① 看 護行為
② 患
者
③ 患 者 と看 護行為
看 護行為 を中心 に理論構成 す る場 合 に は , 看 護 者が なに を行 うか , あ るいは なに を行 うべ きか , と い
った こ とを認識 すれ ば , 看 護 が理解 で きる, と考 えて い る。第 2 の 患 者 に焦 点 を合 わ せ る見 方 では , 患
者 を本 当 に認識 で きれ ば , 論 理 的 な帰 結 と して看 護行為 の知識 が え られ る , と す る。第 3 の ポ イ ン トを
四大学看護学研究会雑誌Vo1 3 る
1 1980
看 護心理学 の課題
強調 す る人は ,看 護 の基本 は患 者の 認識 や看護行為 にあるのではな く,患 者 と看護者 との交 りの独 自性
にある ,と みて い る。
И)患
llF応
者 としての人 間
理論は ,思 者 を中心 にお いた システム理論 であ る。
ム
シス
システム
4つ
テ (① 生理的欲求 ,② 自己観 ,③ 役割機能 ,
の下位
であ って ,そ れ には
ι
ま,一 つの
C。 ロイ (1974)の
④相互依 存 )が あ るとす る。人 と環境の相互作用 の分析が看護 アセスメ ン トの課題 にな るし,シ ステム
内 の部 分 や環境 の操 作 が看 護介入 の 方法になる と言 うのであ る。
よると,看 護学 が対象 とす る現象は ,行 動 上の シス テム障
害 (behavioral systtt disorder)で あ って ,その 下位 シス テム と して①親和 ,② 攻撃 ,③ 依存 ,
15)
④達成 ,⑤ 摂取 ,⑥ 排泄 ,① 性 を挙 げて い る。
また ,D.E。
ジ ョンソン (1968)に
ほかの理論家の中に も,シ ス テム理論 に立 脚す る とい う人 も少 くないが ,シ ス テム とぃ う用語 の意 味
を確 かめてかか らな いと,誤 解 を しかね な いのが厄介 な ところであ る。しか し大別すれ ば ,看 護 システ
ムの主対象 は ,人 間 (生 活体 )シ ス テム ,思 者 と看護者 との相互 作用 シ ステムお ょび保健 システム
(health care systeln)に なるであろ う。
システム理論 の特殊性は ,原 則 の定立 や説明 より も,む しろ方法 を論 じて いるところに あ る。論理 的
な思考 を推 し進め るに当 って適切 で妥 当な アプ ローチが ,シ ステム理論 に よる取 り組 み と換 言で きるか
もしれ な い。 システム理論か ら,看 護 の課題 を論 じようとすれば ,方 法論的 に次の諸項 目を重 くみるこ
とにな るであろ う。
① 当該 システム と環境 を区別す る。境界 を明確 にする。
② 環境 か ら当該 システムヘの入力 と システムか ら環境 への 出力 を記述す る。
③ 当該 システムの エネルギ ーあ るいは動機 づけ を明確 に把握 する。なにがこの システムに作用 した
り,維 持 させた り,機 能 を低 下 させてい るか を知 る。
④ 当該 システムの均衝 を吟味 し,な にが この システム を安定 させているかを検討す る。
⑤ 当該 シス テムが 目 ざす目標 を確かめ ,シ ステム内の現象 を叙述 す る。
③ 時間の経過 にみ られ る行為 の系列 に もとづい て中心 的 な情報 処理過程 を記述す る。
① フィー ドバ ックにかかわる要素 を ,日 標志向性 と適応 の面か ら明確 に把握 する。
③ 当該 システム を下位 システム または上位 システム に よって説明す る。
看護 ケ アの理論家 た ちの中 で も,① の境界 に関す る問題 ,す なわ ら外界 か らの ス トレスに対 する反応
な どを取 り上げて論 じる人 もあ れば ,① の シス テム内適応 か らケ アの理 論 を構成 しようとす る人 もあ り
うる。あるいは ,シ ス テムの発達変 化 (⑥ )に い っ そう大 きな関心を示 す場合 もあ りえ よ う。従 って ,
方法論 として シス テム ・アプロ ーチに よる人であって も,強 調点 のおき方が異 る場合 も少 くな いの で,
慎重 に識別 してみる必要 があろ う。
ー デ ィ (1973)は
M.E.ハ
,看 護 の理 論的基礎 として ,一
般 システム理 論 に加 えて ,ス トレス
・
理 論 ,危 機理論 ,順 応理論 を挙 げて い る。 )ま た ,」 。P.リ ール とC.ロ イ (1974)は
,シ ス テ
7)人
ム理論 とと もに ,相 互作用理論 と発達理論 を薫視す る」
間発達理論 か ら分化 して成立 した理論 とみ
な され る,ホ リスティック (holisti c)な実存的看護論 を主唱 する人 た ち もあ る。
これ らの諸理論 を並列的 に考察 す るところに混乱 の源があ る ように思 われ る。前に述 べた生活体 シス
テム理論 を前提 にす るな らば ,生 活体 に加 え られたス トレス とそれ に対 する順応 を含めることが出来 る。
生 活体 を構成 する下位 システム間の 相互作用 あるいは生活体相互 の交 り,生 活体 自身 と上位 の システム
と相互 f/FMを考 え る と,相 互作用 の理論 もシステム理論の中 に包摂 しうるであろ う。 エ リクソ ンの人 間
四 大学 看護学研 究会雑 誌 V o 1 3 Z 1 1 9 8 0
看護心理学 の課題
性 の発 達観 もまた,個 人あ るいは パ ーソナ リティの時系列的 な構 造 の変 化 とみなす ことがで きる。 さら
に ,心 理的 パニ ックとその結果生 じる悲哀 ,そ の克服 の過程 か ら導 かれた危 機 の理 論 も,同 様 に生活体
システムが直面す る問題 として理 解 で きよ う。ある人が病 いにたおれた とき,健 常な相互f/FHは難 しい
し,心 理的社会的危機 を感 じるだけでな く,身 体的 な ス トレスに対 して もまた対応 あるいはll■
応 の努力
をす るはず であ る。時 には ,多 忙 な 日常生活 にお いて見失 っていた人 間的 な成長 の必要性を痛 感 して ,
自己実現 の道 を探 ろ うとす るか もしれな い 。看護 ケ アが ,こ の 一連の過程 において どの ようにな され る
かは ,生 活体 シス テム論的 アプ ローチに よって決定 され るのではなか ろうか 。
もちろん実在心理学 の立場 か らは ,か りに ロボ ッ ト型の機械論的 システム理論 ではな く,生 活体 シス
テム理論 であ って も,現 象学的方法 に よ らな い限 り妥 当な理論 ではな い と評 され よ う。 しか し,か りに
看護 ケ アの究極の 日標 が自己実現 する誠実な存在 にあるに して も,日 常生活 の援助 や習慣変容 の促 進 と
いった具体的 な介 入 の必要 は決 して少 くない し,身 体的 なケ ア と安 全の保障 だけで も人 間は現実 の 自分
を受け いれ ,自 発的 に 自己実現 への道 を歩 むことが で きる もの であ る。 この ような考 えに加 えて ,生 活
体 シス テム論 は ,生 命 を もつ存在 としての人 間 を微視的 にだけでな く,巨 視的 に もみることを可能 に す
る もの ゆえに ,重 要 なの であ る。個人 の 自覚 や誠実 さだけでは克 服不能 にみえる集団 システム内 の ダイ
ナ ミックスがあると同時 に ,集 団 メンバ ーの大部分 を成長 させてい く力 もまた ,集 団には潜在 してい る
の であ る。たとえば ,家 族集団 の システムにみ られ る健 全な育児能力 と情緒障害児 を うみだす負 の力 を
思 いお こ して ほしい。
個人 お よび集団は生命の維 持 ・健康 の増進 とい った目標志向性 を もつ生活体 システム でぁ り,潜 在的
な成長力 を合 わせ有す る ダイナ ミッタな統 合体なの であ る。 この8 提
」に立 って ,看 護 ケ アの心理 ―社会
的過程 ,そ れにかかわる病者 と看護者 ,お よび両者の相 互 作用 について ,一 段 と洗練 された研究 を推 し
進 めたい もの であ る。
文
献
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3 岡 堂 哲雄 編 :心 理 検査学 ― 心理 アセ ス メ ン トの基 本 ,垣 内 出版 ,1975。
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5
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6
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7
Bertalanffy,Lo von:General System Theoy and Psychiatry,Arieti(Ed。
く
tAmerican Handbook of Psychiatry F Basic B00ks, 1966, p.1101.
8
op cit, p. 1111
9
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1l
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13 る
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質
間
徳島大学
池
川
清
子
講演 の主 旨であ る心理学 領域 での研究成果 が ,看 護 に とって も重要 な課題 であ ることは
理解 で きましたが ,看 護 が心理学 に 限 らず隣接諸科学 の理論 を看護学 としての方法論的検
討のな い ま ゝ,こ の理 論 もあの理論 も看護 にあては ま ります よと云 った発 想 は ,い たず ら
に困乱 を増 すのみではな いか と考えます。看護 に と って今必要 なこ とは ,ま ず看護の現実
(リ ア リティ )を 見 きわめて ,そ こに何が ちが っているかを明確 にする こ とではな いか と
考 えます 。
第 二点 とい た しまして ,心 理学 の究 極 の 目標 が人間の生 存 と福祉 に とって大切 な制御 を
企 て ることにあ ると申 された と思 い ますが ,こ の よ うな 目的 でな され る研究 や理論が看護
に適応 され た場合 に ,は た して患 者 さんの心理 と申 しますか ,気 持 の問題 まで治療 者 や看
護婦 に ょ って コ ン トロール され る危険 性はな い もの で しょうか。
四大学看 護学研究会雑誌 Vo1 3 Z1 1980