第 112 回日本皮膚科学会教育講演、皮膚病理へのいざない・第1回 毛包・脂腺に分化する腫瘍(基底細胞癌を含む) 佐賀大皮膚科 1 毛包腫瘍:Over view 2 三砂範幸 脂腺腫瘍:Over view 1 3 実地臨床で重要な毛包腫瘍の病理 (実際の治療を考えるうえで必要な、皮膚病理学の知識) (1)基底細胞癌の病理の知識 ・基底細胞癌の病理組織学的分類と病変の侵襲度や治療方針 (2)ケラトアカントーマ(Keratoacanthoma, KA)の臨床病理 ・KA は、現在どのような腫瘍と考えられているのか? ・KA は、自然消退を待つべきか?切除すべきか? 4 基底細胞癌の病理と臨床 (1)基底細胞癌 (BCC) の病理組織学的分類 Non-aggressive group BCC *Nodular type (結節型) (variant: adenoid, keratotic, infundibulocystic, polypoid types) *Superficial type (表在型) *Pinkus type (ピンカス型) Aggressive group BCC *Morpheic type (斑状強皮症型) (variant: keloidal type) *Infiltrative type (浸潤型) *Micronodular type (微小結節型) *Mixed type (混合型) (2)Non-aggressive group の病理組織型と外科治療 ・Non-aggressive group は、aggressive group と比較して、明らかに再発率、 切除後の腫瘍残存率は低い。 ・通常の nodular type では、切除範囲は5mmで十分であり、径2㎝以下の小 型病変では、3mmマージンでも多くは腫瘍は取り切れる(85%)。 ・深さは、脂肪織を十分含めれれば根治が得られる。ただし、サイズが大きい nodular type(3㎝以上)では、脂肪織全層、または下部組織を含めた切除が 必要な場合がある。特に、口唇、鼻などの高リスク部位のでは、注意が必要。 (3)Aggressive group の病理組織型と外科治療 ・Aggressive group は、non-aggressive group と比較して、明らかに再発率、 切除後の腫瘍残存率は高い。 ・Morpheic type では、平均 7.2mm の臨床で認知されない腫瘍の広がりがあり、 2 切除範囲は 13~15mm が推奨される(95%完全切除率)。 ・Micronodular type は、5~8mm の切除範囲が必要。 ・深さは、少なくとも脂肪織全層の切除が必要であり、下床の筋層、軟骨の合 併切除を要する確率は、nodular type より明らかに高い。 ・症例によっては(鼻などの高リスク部位)では、術中迅速病理検査、二期的 手術(完全切除を病理学的に確認後)が必要。 (4)基底細胞癌の病理:その知識の臨床的意義 ・病理組織学的分類が、腫瘍の侵襲度と治療方針(特に外科治療)に反映され ることを認知することに、最大の臨床的意義がある。 5 ケラトアカントーマ(Keratoacanthoma, KA)の臨床病理 (1)Keratoacanthoma (well-developed stage)ケラトアカントーマ(成熟期) の病理診断のポイント ・Overhanging lips ・中央に角栓を入れた、外方性内方性病変 ・多房性病変 ・豊富な淡好酸性、スリガラス状の細胞質を有する大型細胞の増殖 ・比較的境界明瞭ながら、腫瘍巣下方では様々な程度の細胞異型がある(この 部位だけの観察では、厳密には通常の SCC との鑑別は不可能と言わざるを得 ない→ケラトアカントーマは SCC の一型にすぎないとする議論へ)。 (2)Keratoacanthoma 毛包腫瘍のエビデンス ・グリコーゲンを含有した large, pale pink cells with a glassy appearance (with compact keratinization)の病理所見。 ・動物実験での、タールなど発癌物質塗布による、毛包に一致した keratoacanthoma の発生。 Ghadially FN. Cancer 1961;14:801. ・サイトケラチンの発現パターンは、毛包峡部以下への分化を示す。 Ichikawa E, et al. J Dermatol Sci 2004;34:115-7. Ito Y, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol 2008;22:353-5. ・サイトケラチン、カルレチニンの発現パターンは、初期/増殖期では毛包漏斗 部への、成熟期では毛包峡部への分化を示す。退縮/消退期では、再び毛包漏 斗部の性格が強くなる。 Misago N, et al. J Cutan Pathol submitted. 3 (3)Keratoacanthoma の本態 1 自然消退傾向のある良性扁平上皮病変であるが、一部に(高齢者、免疫不全 者)、悪性化(有棘細胞癌 SCC への移行)を認める。 Cassarino DS, et al. J Cutan Pathol 2006;33:261-79. Schwartz RA. J Am Acad Dermatol 1994;30:1-19 Weedon D. Weedon’s skin pathology, Third edition, 2010: 668-708. Sánchez Yus E, et al. Am J Dermatopathol 2000;22:305-10. 2 自然消退傾向のある SCC の1亜型(low grade SCC)であるが、一部に(高 齢者、免疫不全者)、転移の可能性のある invasive SCC への移行を認める。 Choonhakarn C, Ackerman AB. Dermatol Pract Concep 2001;7:7-16. Beham A, Regauer S, Soyer HP, et al. Adv Anat Pathol 1998;5:269-80. Zalaudek I, et al. Dermatology 2009;219:3-6 (4)Keratoacanthoma の呼称、用語 1 良性扁平上皮病変だと考える視点から ・Keratoacanthoma (KA) ・悪性化(有棘細胞癌/SCC への移行) KA with malignant transformation 2 SCC の1亜型(low grade SCC)だと考える視点から ・SCC (KA type) ・Keratoacathomatous SCC ・転移の可能性のある invasive SCC への移行 SCC (KA type) with progression of the grade of malignancy 3 KA としては、構築が乱れ細胞異型が強く、クレーター型 SCC との鑑別が 困難な病変 → KA-like SCC (5)Keratoacanthoma (KA) の治療方針:現在の考え方 1 自然消退を待たずに、外科的に切除 Schwartz RA. Dermatol Surg 2004; 30: 326-333. Karaa A, et al. Int J Dermatol 2007; 46: 671-678. Ko CJ. Clin Dermatol 2010; 28: 254-261. 2 1か月間自然消退を待ち、消退傾向がなければ外科的に切除 4 (多くの自然消退症例は1か月の観察期間中に消退傾向を示す。) Magalhães RF, et al. Ko CJ. Cutan Med Surg 2008; 12: 163-173. et al. J Am Acad Dermatol. 2012;67:1008-12. (6)この治療方針の理由 1 一部に invasive SCC へ移行する可能性がある(特に高齢者)。 2 臨床病理学的に、KA とクレーター状 SCC の鑑別が困難な症例がある。 3 そもそも KA は、low grade ながら、SCC の1亜型という考え方がある。 4 患者にとっては、忍耐を強いられ(特に、眼、鼻周囲病変)、KA の病態も 分かりづらい。 5 仮に、自然消退しても少なからず瘢痕を残す。 6 再発(新生)期の存在の可能性。 (7)Keratoacanthoma(成熟期)以外の、クレーター状の構築を示すいくつ かのタイプの SCC KA-like SCC KA with malignant transformation Infundibular SCC (crater form) Crateriform SCC arisen from actinic keratosis Crateriform Bowen’s disease Misago N, et al. J Dermatol 2013;40:443-52. 5
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