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光色が認知作業に及ぼす影響と最適環境の検討
E09033
木暮佳正
指導教員
入倉隆
1. はじめに
2.2
1.1
(1) 実験室に入り、白色光で順応をかねて課題の練習を
行う。(10 min)
(2) 記憶課題の提示(2 min)
(3) 計算課題
(4) SD法による雰囲気評価課題
(5) 創造課題(2 min)
(6) 記憶課題テスト(2 min)
(7) 以上(2)~(6)を白、赤、青、緑、黄で行う。(順不
同)
研究背景
近年、照明はLEDを用いた照明器具の普及が進んでい
る。また、青色発光ダイオードの発明により、光の3原
色である赤・緑・青のLEDが揃ったので、LEDでほとん
どの有彩色を再現できるようになった。有彩色光は、人
間の身体的、心理的影響に有効であるとされている。例
えば、青色の街灯が設置され、その地域での犯罪が1年
間で一万件減少するという防犯効果や、鉄道のホームに
設置が進められている青色灯による自殺防止効果などが
ある [1][2]。また、赤系の光色の場合は、元気が出る、眠
気感がなくなるなどの覚醒効果がある[3]。
そこで、有彩色光による照明環境が認知作業に対して
有効であることが確認されれば、新たな有彩色照明によ
る認知作業環境を提案できるのではないだろうかという
考えに至った。
1.2
2.3
実験手順
実験装置
実験装置の概要図を図1に示す。
研究目的
これまでの有彩色光の影響に関する先行研究では、室
内照明を赤色照明条件と青色照明条件とした室内環境で
認知作業を行い、その結果に有意差が生じるかを検討す
るものがある。しかし、この研究は有彩色光が認知作業
に影響を与えるかを調査することに重きをおいた研究で
あり、用いられた作業空間は認知作業を行う空間として
は照度条件が望ましいものではなく、各光色の色度も色
味が非常に強いもので、不快感が強く、実用的な照明環
境ではなかったと考える[4]。また、有彩色光の不快感に
ついては光の3原色(赤色・緑色・青色)とその補色3色
(シアン・マゼンタ・黄色)による不快感の検討がなさ
れており、「色味」を感じても「作業における不快感」
を感じない色度範囲が存在することが確認され、新たな
照明環境として用いることができるのではないかと期待
されている[5]。
これより、本研究は有彩色LEDによる新たな学習環境
を提案することを念頭に、不快レベルの低い有彩色光に
よる照明環境を作成し、その照明環境が認知作業へ与え
る効果を求めるものとする。
図1 実験装置.
3. 実験
3.1
雰囲気評価課題
認知作業環境としての明瞭性・可読性・快適性をSD
法にて評価する。全被験者の評価平均値を結図2に示す。
2. 実験方法
2.1
実験条件
設定した実験条件を表1に示す。
表1 実験条件.
光源
LED電球
机上照度
500 lx
光源の高さ
500 mm
机上寸法
D:700 mm×W:1030 mm
H:728 mm×W:1030 mm×
D:1030 mm
白色:(0.3355 , 0.3627)
赤色:(0.4103 , 0.3166)
色度
緑色:(0.3684 , 0.4669)
青色:(0.2595 , 0.2578)
黄色:(0.3933 , 0.3627)
被験者は20代の男性10名である。
パーティション
図2 雰囲気評価課題結果.
分散分析の結果、「学習しやすい」と「集中できる」
という快適性の評価項目において、白と青が赤・緑・黄
より有意に評価が高かった。これは、白と青の光色が
「眠気感」や「だるさ感」と相関があり、特に青にはそ
のような精神的疲労を低減する傾向があるためだと考え
られる[6]。「明るい」という明瞭性の評価項目において、
白が赤・緑・黄より有意に評価が高かった。これは、白
色が普段認知作業を行う環境と同じであるため、色味の
ある有彩色光よりも明るく快適に感じたためだと考えら
れる。「文字が読みやすい」という可読性の評価項目に
おいて、白が赤・緑・黄より有意に評価が高かった。こ
れは、今回行った課題が白色の課題用紙に黒字で印字さ
れたものであったため、白色の光が他の有彩色光に比べ、
用紙と字の明度対比が大きくなったためだと考えられる。
これらの結果より、「作業における不快感」を感じな
い赤・緑・黄の光色は明瞭性・快適性・可読性に負の影
響を与えると考えられる。また、青の光色は他の有彩色
ほど明瞭性、快適性、可読性に影響を与えないと考えら
れる。これは、色味を抑えた青の光色が昼白色に近い色
度のためだと考えられる。
3.2
分散分析の結果、緑が白より有意に成績が高かい傾向
があった。緑色は「自然・安全」を想起させて人をリラ
ックスするような心理を動機付け、自由な発想を必要と
するような創造的な作業においてパフォーマンスの向上
を導くと考えられる。そのため、緑色光の環境は創造課
題において正の影響を与えたと考えられる。
記憶課題
5×5の表に提示された語彙を記憶し、その後空欄の表
に書き込むテストを行う。全被験者の正位置正答数の平
均値を図3に示す。
分散分析の結果、白と緑の間に有意差がみられ、白と
赤の間に有意傾向がみられた。赤色は「危険」を想起さ
せて細部に注意を払うような行動を動機付け、緑色は
「自然・安全」を想起させて人をリラックスするような
心理を動機付けると考えられる。しかし、記憶課題では
そういった動機付けは記憶作業の阻害になり、作業成績
を低下させたと考えられる。
図5 創造課題結果. †p<0.1
4. まとめ
図3 記憶課題結果.†p<0.1,✻p<0.05
3.3
計算課題
100マス計算を行う。全被験者のかかった時間の平均
値を図4に示す。
分散分析の結果、光色間で有意差は見られなかった。
色彩環境による影響は課題の要求レベルによって異なり、
低要求課題の成績は青色環境下で高く、高要求課題の成
績は赤色環境下で高いとされている[4]。計算課題は低要
求課題と考えられるが、「作業における不快感」を感じ
ない有彩色光は計算課題成績に影響を与えなかったと考
えられる。
図4 計算課題結果.
3.4
創造課題
原因推定テストを行い、各光色での流暢性を評価する。
全被験者の回答数平均値を図5に示す。
光色と認知作業の関係を求める実験を行い、次のよう
な結果を得た。
(1) 「作業における不快感」を感じない赤・緑・黄の光
色は明瞭性、快適性、可読性に負の影響を与え、青
の光色は他の有彩色ほど明瞭性・快適性・可読性に
影響を与えない。
(2) 赤・緑の有彩色光は記憶作業の阻害になり、負の影
響を与える。
(3) 有彩色光は計算課題成績に影響を与えない。
(4) 緑色光の環境は創造課題において正の影響を与える。
「作業における不快感」を感じない有彩色光は認知作
業成績や心理的に影響することがわかった。しかし、有
彩色光環境を照明設計・計画に用いるには、より検討が
必要である。
参考文献
[1] 山吉健太郎:青色効果,ホント?心落ち着く・犯罪や
自 殺 防止 … 広が る防 犯 灯 、評 価 様々 , 朝 日 新聞 ,
2009 年 3 月 1 日朝刊, 33 面
[2] 須谷修治:青色防犯灯の導入背景と全国実態調査報
告書, 照明学会誌, vol.2-9, pp.631-636, 2008
[3] 高秉佑, 李東起, 江欣宸, 古賀誉章, 平手小太郎:
LED 照明における光色の休息効果に関する基礎的研
究, 日本建築学会環境系論文集, vol.76-662, pp.
363-368, 2011
[4] 小島治幸, 三浦宏矛:照明の光色が認知作業に及ぼ
す効果の検討, 照明学会誌, Vol. 96-02, pp.95-99,
2012
[5] 李東起, 江欣宸, 古賀誉章, 平手小太郎:LED 照明
の光色が作業空間における不快感に与える影響に関
する基礎的研究, 日本建築学会技術報告集, Vol.1735, pp.201-204, 2011
[6] 江欣宸, 李東起, 高秉佑, 古賀誉章, 平手小太郎,
宗方淳, 吉澤望:作業空間における LED 照明の光色
による心理的・生理的影響に関する研究, 日本建築
学会環境系論文集, Vol.75-654, pp. 683-690, 2010