第6回現代経済政策研究会議 概 要 テーマ:ネットワーク産業の規制改革

第6回現代経済政策研究会議
概
要
テーマ:ネットワーク産業の規制改革と国際競争力強化
開催日:2008 年2月 23 日(土)∼24 日(日)
会
場:関西経済連合会会議室(大阪市北区中之島6-2-27)
主
催:現代経済政策研究会議
後
援:
(財)関西社会経済研究所*
オーガナイザー:橘木俊詔(同志社大学経済学部教授、京都大学名誉教授)、本多佑三(大
阪大学大学院経済学研究科長・教授)、三野和雄(大阪大学大学院経済学
研究科教授)
プログラム委員長:依田高典(京都大学大学院経済学研究科教授)
出席者合計 16 名
【会議のテーマの趣旨】
(申請書より抜粋)
1980年代以降、日米欧などの先進諸国では、電気通信、電力、ガスのようないわゆ
るネットワーク産業において、民営化・自由化など一連の規制改革が実施されてきました。
その結果、生産効率性の向上、サービスの質の向上など一連の成果が認められる一方で、
安定供給への不安、市場集中度の再上昇など一連の課題も指摘されているところです。さ
らに、日本固有の問題としては、バブル経済の崩壊後、失われた10年と呼ばれる平成不
況の中で、大切な社会インフラをになう電気通信、電力、ガスの効率性とサービスの向上
を、空洞化の進む日本の製造業の国際競争力の強化に結びつけるという論点も重要になっ
てきています。そこで、本年度の現代経済政策研究会議では、ネットワーク産業の規制改
革と日本経済の国際競争力に焦点を当て、産官学の間で活発な研究報告、討議を行うもの
とします。
関西地域では、電気通信、電力、ガスのいずれにおいても、日本の諸地域の中で最も活
発に新規参入者と既存事業者の間の競争が進展している先進圏であり、しばしば中央官庁
の諸委員会でも大いに注目されているところです。例えば、情報通信に目を向けると、NTT
西日本に対して、関西電力系の K オプティコムが光ファイバ通信(FTTH)サービスにお
いて積極的な設備ベースの競争を挑み、ほぼ互角のシェアを獲得しています。また、都市
ガス市場において、関西電力は三菱重工高砂のような超大口需要を獲得し、大阪ガスと熾
烈な競争を展開しています。大阪ガスも、コージェネレーションなどの成長分野で新規の
都市ガス顧客を掘り起こすのみならず、最新鋭の発電設備へ大型の設備投資を行い、総合
エネルギー会社として成長しています。このような関西圏で顕著に見られる産業融合的な
ネットワーク産業の競争が、ひいては日本の製造業の国際競争力を高め、あわせて日本国
民の経済厚生を高めることにつながるのか、一度立ち止まってレビューをするには丁度良
い時期と言えるでしょう。
この会議では、産官学の第一線で活躍する有識者をバランス良く配置し、学術研究と経
済政策の双方から有意義な意見交換が出来ることを目指します。
産官学の共同討議を通じて、ネットワーク産業の規制改革の来し方20年間をレビュー
し、これからの規制改革の在り方についても戦略的にプレビューしていきたいと思います。
(オーガナイザー・プログラム委員長による助成申請書より抜粋)
出席者 (50 音順、敬称略。 所属は平成 20 年(2008)年2月 23 日現在)
依田 高典
(京都大学大学院経済学研究科教授)
今川 拓郎
(総務省情報通信政策局総合政策課調査官)
大榎 保範
(西日本電信電話株式会社相互接続推進部制度・料金部門担当課長)
大橋
弘
(東京大学大学院経済学研究科准教授)
春日 教測
(神戸大学大学院経済学研究科准教授)
鈴木 彩子
(大阪大学社会経済研究所講師)
砂田
(公正取引委員会事務総局経済取引局総務課経済調査室係長)
充
橘木 俊詔
(同志社大学経済学部教授、京都大学名誉教授)
田中
(政策研究大学院大学准教授)
誠
津田 浩志
(大阪ガス株式会社企画部制度企画チームマネジャー)
中野 牧子
(名古屋学院大学経済学部講師)
中村 彰宏
(帝塚山大学経済学部准教授)
本多 佑三
(大阪大学大学院経済学研究科長・教授)
松本 有二
(関西電力株式会社企画室企画グループマネジャー)
三野 和雄
(大阪大学大学院経済学研究科教授)
山口
(資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力市場整備課課長補佐)
仁
*本事業は、
財団法人関西社会経済研究所の、平成 19 年度研究支援事業として実施された。
プ
ロ
グ
ラ
ム
・
講
演
概
要
(参加者敬称略)
平成20年2月23日(土曜日)
第1セッション 基調講演
基調講演
13:00−13:50
「競争政策と国際競争力」大橋 弘 (東京大学)
競争政策のあり方とその課題についてネットワーク産業を例
にとって議論がなされた。少子高齢化と低成長への移行の中で、
経済全体の新陳代謝を高め、対内直接投資や自由化のメリットを
最大限生かすことが日本経済にとって緊喫の課題である。そのた
めの経済インフラとしての競争政策に対する注目が東アジアを
中心に高まっている。
講演では、独禁法に基づく多元的な執行および摘発を充実させ
ることにより、法運用の予見可能性・説明責任・適正手続きを確
保することの重要性が指摘された。また通信や電気などの規制産
業については、専門人材の民間交流を促進する必要性も提起され
た。
基調講演
14:00−14:50
「情報通信の規制改革の現状」今川 拓郎 (総務省)
日本の情報通信基盤は、世界一安くて速いブロードバンドを誇
る世界最高水準の環境となっているが、IP化やユビキタス化、
通信・放送の融合等の急激な変化を踏まえ、さらなる高度化が求
められている。このような状況を踏まえ、総務省では、NHK改
革、通信の競争促進、コンテンツ流通の促進を柱とする通信・放
送分野の改革に取り組んでおり、2010 年までに通信・放送の総
合的な法体系を抜本的に見直す方向で検討を進めつつあるとい
う報告があった。
基調講演
15:00−15:50
「電気事業制度改革について」山口 仁(資源エネルギー庁)
総合資源エネルギー調査会電気事業分科会において審議中の
電気事業制度改革の検討状況について、これまでの制度改革の成
果や電気事業を巡る最近の環境変化にも触れつつ、報告を行っ
た。
具体的には、制度改革全般を通じた基本的考え方について概説
した上で、小売自由化範囲の拡大の是非、発電・卸電力市場の競
争環境整備策、同時同量・インバランス制度改革、託送供給料金
制度改革、安定供給の確保や電力分野の環境適合に係る具体的改
革等について、その検討状況を報告した。
コメント
16:20-18:00
西日本電信電話株式会社、関西電力株式会社、大阪ガス株式会社
平成20年2月24日(日曜日)
第2セッション 電気通信
報告
9:30- 10:20
「移動体通信の需要分析」中村 彰宏(帝塚山大学)
本研究では、わが国で国民全てにほぼ行き渡っている携帯電
話サービスについて、契約会社変更時のスイッチングコストに
関連した実証分析を行った。表明選好法によるデータを用いた
分析の結果、2006 年に導入された番号ポータビリティーのほ
か、メールアドレスポータビリティーに関しても一定の支払意
思があることや、契約会社変更時に端末変更が必要な点が大き
なスイッチングコストになっていること等が明らかとなった。
報告
10:30- 11:20
「固定ブロードバンドの需要分析」砂田 充(公正取引委
員会)
本研究では、インターネットアンケート調査の個票データと
各アクセス回線のサービスエリアの情報を利用し、日本のブロ
ードバンドアクセス需要関数の推定を行った。
続いて、推定された需要モデルを使い、FTTH(Fiber To The
Home)のサービスエリア拡大の影響をシミュレーションによっ
て検証した。需要関数の推定結果から、世帯属性は、ブロード
バンドアクセス回線に対する選好を特徴付ける重要な要因であ
ることが分かった。また、FTTH サービスエリア拡大のシミュ
レーション結果によれば、価格と速度が一定の基で、現在の加
入回線への慣性は比較的大きい可能性があるが示唆された。
報告
11:30- 12:20
「放送産業の供給分析」春日 教測(神戸大学)
本報告では、地域的に分断された寡占的な放送市場間で、集
中度の差によって利潤格差が存在するか否かを検証した。ネッ
トワーク系列への加盟や営業区域で所与の地理的要因を制御し
て分析した結果、市場相互間の分断の程度は緩やかであり相互
に連関しているとの結果を得た。
これは、ある市場での広告価格上昇は相対的に広告価格が低
下する他地域の広告需要を増加させ、隣接市場間のリンクが強
い広告放送市場では独占力の発揮にはつながらない事を意味し
ている。マスメディア集中排除原則の緩和等で産業再編が進ん
でも、他競合サービスの進展とも相俟って、利潤に関する独占
の弊害は大きく緩和される可能性があると考えられる。
第3セッション 電力・ガス
報告
13:30- 14:20
「電力の市場構造分析」田中 誠(政策研究大学院大学)
本報告では、第一に、東西に跨るわが国の卸電力市場を対象
として、各地域を結ぶ連系線の送電容量制約を考慮しながら、
MCP モデル(Mixed Complementarity Problem, 混合相補性問
題)に基づくクールノー競争のシミュレーション分析を行った。
特に、夏季ピーク期と軽負荷期の両方を想定したシミュレーシ
ョンを行った。
第二に、50Hz と 60Hz の周波数変換設備を含む東西間の連系
線に関して、送電容量を増設するケースの分析を行った。近年
わが国では、東西を結ぶ連系線が市場取引のボトルネックとな
っているとの指摘がある。そこで、寡占的な市場環境のもとで、
東西間の連系線を増設することによる効果や費用について考察
を行った。
主な分析結果として、本報告の想定のもとでは、東西を結ぶ
連系線の送電容量を 2 倍に増設する場合に、周波数変換設備と
送電線等を合わせた総建設費用が約 2000 億円以下であれば、
たとえ軽負荷期であっても社会的余剰の増分が資本費の増分以
上となるものと推定された。この場合には、東西を結ぶ連系線
の増設が社会的に望ましい可能性が高いといえよう。投資イン
センティブに関しては、東西を結ぶ連系線の両端の電力会社間
で利害対立が発生する可能性が高い。そのため、電力会社の自
発性に任せる場合には投資が進まない恐れがあり、社会的な観
点から中立的に利害調整を行うことが重要であると指摘され
た。
報告
14:30- 15:20
「電力の生産性分析」中野 牧子(名古屋学院大学)
本研究の目的は、9 電力会社の汽力発電部門を対象として、
規制緩和が総要素生産性変化及びその構成要素である技術変化
と効率性変化に与えた影響を明らかにすることである(分析期
間 1978 年∼2003 年)。このため、ルエンバーガー生産性指数
をデータ包絡分析法によって測定し、この指数に対して規制緩
和が与えた影響をシステム GMM(Generalized Method of
Moments, 一般化積率推定法)によって推定した。この結果、
規制緩和が総要素生産性変化に対してプラスの影響を与えてお
り、これは生産可能性フロンティアのシフトとして定義される
技術変化によるものであることが明らかとなった。
報告
15:30- 16:20
「ガスの政策効果分析」鈴木 彩子(大阪大学)
本研究は日本のガス供給産業におけるヤードスティック競争
が逆選択問題を軽減する効果を実証研究するものである。ヤー
ドスティック競争が逆選択問題を完全になくすことが出来れ
ば、現在の社会厚生は仮想の完全情報で到達できる社会厚生に
一致することに注目し、現在と完全情報の厚生の乖離を計算す
ることでヤードスティックの効果を推量する。
本研究の結果から、ヤードスティックは企業がコストを高め
に報告しようとするインセンティブを軽減する効果があること
がわかった。しかし、この効果は初回の査定にのみ見られた。
初回以降の査定からは効果が見られないことは、ラチェット効
果に似た動学的な問題があることを示唆している。