10.プリンシパル・エージェントゲーム

戦略的最適行動論(2011.6.28)
10.プリンシパル・エージェントゲーム
・相手の利得のタイプがわからないばかりでなく、相手のとった行動がわからない場合も
ある。
➢こっそりサボったりしてないだろうか…?
ある芸能プロダクション A では新人アイドル B を売り出そうとしています。そこで、有名
プロデューサーYA に w 万円で作詞を依頼しようと考えています。B に人気が出ると A プロに
は 6000 万円の利益があるとします。B に人気が出るかは YA の努力にかかっています。YA が
依頼を引き受け、さらに努力して良い曲を作れば、確率 0.8 で B に人気が出ます。一方で、YA
が依頼を引き受けても手抜きして曲を作れば、確率 1 で B に人気が出ません。YA にとって努
力するコストは金額に換算すると 100 万円であり、手抜きするときのコストは 20 万円だとし
ます。
・ゲーム・ツリーで表現すると、
偶然手番
0.8
努力
YA
0.2
引き受ける
A
YA
w
6000-w,w-100
-w,w-100
手抜き
-w,w-20
引き受けない
0,0
・これは逆向き帰納法で解ける。YA にとっては、B に人気が出ようと出まいと利得は変わ
らず w-100 万円である。これに対して、手抜きすれば w-20 万円なので、手抜きしたほう
が合理的である。そして、YA が依頼を引き受けるとしたら w-20>0 である。A プロにと
っては w 万円で仕事を依頼しても YA が手抜きするので、利得は-w である。これなら仕
事を依頼しない方が良い(w=0)。というわけで、アイドルの売り出しは行われない。
➢しかし、適切な w で売り出せば、A プロも YA もより大きな利益が得られるのでは
ないか…。
・このように依頼者(本人、プリンシパル)と代理人(エージェント)との関係は社会の
様々なところでみられる。その際、代理人が仕事をきちんと行わない(エージェンシー・
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戦略的最適行動論(2011.6.28)
スラック)ために、社会的に非効率的な結果が生じるという問題がある。これをプリンシパ
ル・エージェント問題(エージェンシー問題)という。また、一般にプレイヤーの倫理観の欠如
により生じる問題をモラル・ハザードという。
・たとえば、B に人気が出たら、代理人にボーナス b があるとしたらどうだろうか。
偶然手番
0.8
努力
YA
0.2
引き受ける
A
YA
w
6000-w-b,w+b-100
-w,w-100
手抜き
-w,w-20
引き受けない
0,0
・YA が努力するときの期待利得は、
UYA(努力)=0.8×(w+b-100)+0.2×(w-100)=w-100+0.8b
努力が最適応答となるには、w-100+0.8b ≥ w-20 なので、b≥100 である。この条件をインセ
ンティブ両⽴条件(インセンティブ・コンパティビリティ)という。
・さらに、YA が依頼を引き受けることが最適応答になるには、w-100+0.8b ≥ 0 である。こ
れを参加条件という。
・YA が依頼を引き受けて努力するとき、A プロの期待利得は、0.8×(6000-w-b)+0.2×
(-w)=4800-w-0.8b である。A プロの利得を最大にするには、YA が引き受けて高い努力を
する限りで w と b を最小にすればよい。つまり、b ≥100、w-100+0.8b ≥ 0 を同時に満
たす最小の w と b である。これは、w=20, b=100 である。このとき、A プロの期待利得は
4700 万円である。
・以上より、成功報酬を取り入れると、プリンシパル・エージェント問題が解決される。
➢スポーツ選手の出来高払いなど。
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練習問題
番号・名前
プロ野球チーム G は、一郎選手と契約したいと考えています。一郎は G と契約しなけ
ればメジャーリーグの Y と契約して 7 億円の報酬が得られます。一郎が努力すると確率
0.7 で G の成績は上昇します。このとき、ファンが増えるなどで G には 50 億円の利益が
あるとします。一方、一郎が手抜きしていると G の成績が上昇する確率は 0.4 だとします。
なお、成績が上がらないと G には 10 億円の利益しかありません。
一郎にとって、通常の給料は w 億円であり、合格率が高いとボーナス b 億円がもらえ
ます。また、一郎が努力するコストは金額に換算すると 2 億円で、手抜きするときのコ
ストは 0.5 億円です。G は一郎にいくらの報酬(w 億円、b 億円)を支払うでしょうか。
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