ASEANの新興国:最も新しい加盟国 のASEAN経済共同体への統合

2013年07月号
ASEANの新興国:最も新しい加盟国
のASEAN経済共同体への統合
リチャード・ポムフレット・豪アデレード大学教授
【AEPR第8巻1号掲載論文抄訳】
『ASEAN
ewest
s
New
Members
Frontiers:
into
the
Integrating
ASEAN
the
Economic
N
Com
munity』
(ASEANの新興国:最も新しい加盟国のASEAN経済共同体への統合)
カンボジア、ラオス、ミャンマーとベトナム(CLMV)は1990年代後半にASEA
Nに加盟した。それから約15年たった今、新旧加盟国間で発展段階が二極化しているAS
EANが、経済統合という野望をどの程度実現できるかについて懸念されている。本稿はC
LMVが古くからの加盟国(シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ブル
ネイ)に追いつこうとする中で直面する課題を分析する。主要な論点は、経済統合の試みは
CLMVのキャッチアップの動きを刺激する以上の要素を含んでいるということである。と
いうのもCLMVは1995年以前にASEANに加盟した国々とは相当に異なった経済的、
政治的な背景を抱えているからである。
CLMVと他のASEAN諸国との大きな経済格差
ASEANの原加盟国(ASEAN5:シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィ
リピン、タイ)とCLMVの経済発展の格差は明らかである。国連開発計画(UNDP)の
人間開発指数(HDI)あるいは、名目/購買力平価(PPP)基準の一人当たりGDPの
指標で比べると、CLMVはASEAN5を全ての指標で下回る。また、CLMVは、人口
面ではASEAN5に比べて農村に集中しており、経済規模の面でも劣っている。例えば、
ベトナムはASEANでは3番目に大きな人口を抱えながら、GDPはASEAN5で最も
GDPが小さな国の半分に過ぎず、カンボジアとラオスのGDPの低さはASEANにおい
2013年07月号
て群を抜いている。
ASEAN内における経済発展の格差をどのように説明すればよいのか。一言でいえば、
その答えは歴史である。ASEAN5は数十年をかけて、輸入代替工業化から輸出志向型へ
の政策転換及び市場が支える各種制度の確立を実践してきたが、CLMVは国内および国際
紛争に巻き込まれ、内向き志向の政治介入が相次いだ結果、市場志向型・対外志向型の発展
戦略に切り替えるのが遅れた。適切な政策があれば新参国は先行する国々をより速いスピー
ドで追いかけることができるが、それでも半世紀の差がある場合、数十年の歳月を要する。
ASEAN経済共同体は本当に実現可能なのかという疑問
キャッチアップは目標とする国そのものが変化してしまうと、難しくなる。ASEAN域
内での経済統合のペースは1990年代から加速した。ASEAN自由貿易地域は1990
年代から絶えず、効率的でないと批判されてきたが、その問題は2000年代に入ってより
深刻になり、今ではASEAN経済共同体(AEC)の重要な中心的問題となっている。A
SEAN経済共同体の発足に向けて、CLMVは長い移行期間を認められており、2015
年までの貿易上の非関税障壁の撤廃(部分的には2018年までの延長も可能)をする予定
だが、このような共同体が実際に設立され、機能していけるのかについて疑問視する声も出
ている。
価値連鎖(Value
Chain)へのCLMの参加可能性
ASEAN経済共同体の発足を考える上で、より基本的で重要な要素は、CLMVをAS
EAN地域の価値連鎖(Value
Chain)に参加させることができるぐらい、貿易
コストを削減できるかどうかである。価値連鎖は2000年代におけるASEANの統合の
推進力であり、ASEAN経済共同体が発足すれば、その恩恵を受けるであろう。ある国が
成長を加速させることは価値連鎖の中では容易である。というのは、その国が、ある製品の
全製造工程において競争力を持っている必要はなく、価値連鎖の一部分において競争力があ
るだけで済むからである。
しかし、ある国が価値連鎖の中で魅力的な存在であるためには、制度面や物流などの前提
条件を持っていなければならない。このような現象はベトナムでは既に生じているが、CL
2013年07月号
Mではまだ明確には生じていない。
ASEANは二極化を避けられるか
本稿では、ASEAN加盟国が東アジア経済統合に参加しようとする国と、そうでない国
に分かれていると結論付けている。以前からのASEAN加盟国はより効率の高い貿易国と
なっており、CLMVは、もしキャッチアップをしていこうとするなら、一段と早いスピー
ドで改革を進めていかなければならない。カンボジア、ラオス、ミャンマーはこの課題を克
服するのは難しいかもしれないが、ベトナムはこの3国を一歩リードしており、フィリピン
はASEAN5の中で出遅れている。早く成長している近代化された国と、内向きになりが
ちな貧しい国が共存する中で、どうやってASEANの二極化を避けるかというのが大きな
課題である。
−−−
◆英文政策提言誌「Asian
Economic
Policy
Review(AEP
R)」第8巻第1号(13年6月発行)
ASEAN
s
New
Frontier
(ASEANの新興国)
http://www.jcer.or.jp/academic_journal/aepr/index.html
※会員の方には6月に郵送しました。
プレゼンするポムフレット教授