第3章 特別の教科 道徳、外国語活動、 総合的な学習の時間、特別活動 1 (1) 道徳教育と特別の教科 特別の教科 道徳の指導 道徳(道徳科) Q1 道徳教育の目標は何ですか? A1 道徳教育の目標は、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことです。 道徳教育の目標は、小学校(中学校)学習指導要領「第1章 成の一般方針」の2に以下のように示されている。 総則」の「第1 教育課程編 道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、自己(人間と して)の生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生 きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする。 道徳性とは、人間としてよりよく生きようとする人格的特性であり、道徳教育は道徳性を構 成する諸様相である道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲と態度を養うことを求めてい る。 道徳的判断力…それぞれの場面において善悪を判断する能力 道徳的心情…道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うこと を喜び、悪を憎む感情 道徳性は徐々に、しかも着実に 養われることが大切ですね。 道徳的実践意欲と態度…道徳的心情や道徳的判断力によって 価値があるとされた行動をとろうと する傾向性 Q2 道徳教育はいつ、どのように行えばよいのでしょうか? A2 道徳教育は、道徳科を要として学校の教育活動全体を通じて行います。 (「 第1章 総則」の「第1 教育課程編成の一般方針」の2 前段) 2 学校における道徳教育は、特別の教科である道徳(以下「道徳科」という 。)を要として学 校の教育活動全体を通じて行うものであり、道徳科はもとより、 各教科、外国語活動(小学 校 )、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて、児童(生徒)の発達の段 階を考慮して、適切な指導を行わなければならない。 特別な教科として位置付けられた道徳科は、道徳性を養うことを目指すものとして、道徳教 育の中核的な役割を果たす 。道徳科の指導において 、各教科等で行われる道徳教育を補ったり 、 それを深めたり、相互の関連を考えて発 展させ、統合させたりすることで、学校 例えば、理科で栽培や飼育などの活動を通して自然を愛 における道徳教育は一層充実する。こう する心情を育てることは、生命を した考え方に立って、道徳教育は道徳科 尊重し、自然環境を大切にする態 を要として学校の教育活動全体を通じて 度の育成につながりますね。 行うものと規定している。 (2) 特別の教科 Q3 A3 道徳(道徳科) 道徳科の目標は何ですか? 道徳科の目標は道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てることです。 (「 第3章 特別の教科 道徳」の「第1 目標 」) 第1章総則の第1の2に示す道徳教育の目標に基づき、よりよく生きるための基盤となる道徳 性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多 面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳 的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。 道徳科が学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要としての役割を果たすことができる よう、計画的、発展的な指導を行うことが重要である。 Q4 A4 道徳教育の要である道徳科においては、どのような内容を扱いますか? 指導すべき内容項目を四つの視点から学年段階に分けて示しています。 参照:小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p20~ 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 p19~ 【四つの視点】 A 主として自分自身に関すること 自己の在り方を自分自身との関わりで捉 え、望ましい自己の形成を図ることに関す るもの 主として人との関わりに関すること 自己を人との関わりにおいて捉え、望 ましい人間関係の構築を図ることに関す るもの C D 主として集団や社会との 関わりに関すること 自己を様々な社会集団や郷土、国家、国 際社会との関わりにおいて捉え、国際社会 と向き合うことが求められている我が国に 生きる日本人としての自覚に立ち、平和で 民主的な国家及び社会の形成者として必要 な道徳性を養うことに関するもの B 主として生命や自然、崇高な ものとの関わりに関すること 自己を生命や自然、美しいもの、気高 いもの、崇高なものとの関わ りにおいて捉え、人間として の自覚を深めることに関する もの 四つの視点は 、相互に深い関連をもっている 。各学年段階においては 、関連を考慮しながら 、 四つの視点に含まれる全ての内容項目について適切に指導しなければならない。 Q5 A5 ア 道徳科の学習では、どのようなことが大切ですか? 道徳科では、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うために、次の4つの事柄を 押さえておく必要があります。 道徳的諸価値について理解する 道徳的価値とは、よりよく生きるために必要とされるものであり、人間としての在り方や生 き方の礎となるものである。道徳的価値が人間らしさを表すものであることに気付き、価値理 解と同時に人間理解や他者理解を深めていくようにする。 (ア) 価値理解…内容項目を、人間としてよりよく生きる上で大切なことであると理解すること (イ) 人間理解…道徳的価値は大切であってもなかなか実現することができない人間の弱さなど も理解すること (ウ) 他者理解…道徳的価値を実現したり、実現できなかったりする場合の感じ方、考え方は一 つではない、多様であるということと前提として理解すること 自己を見つめる 自分との関わり、これまでの自分の経験やそのときの考え方、感じ方と照らし合わせなが ら、更に考えを深めることで、道徳的価値の理解と同時に自己理解を深めることになる。 物事を(広い視野から)多面的・多角的に考える 児童が多様な考え方や感じ方に接することが大切であり、児童が多様な価値観の存在を前 提にして、他者と対話したり協働したりしながら、物事を多面的・多角的に考えることが求 められる。 自己(人間として)の生き方について考えを深める 児童は 、道徳的価値の理解を基に自己を見つめるなどの道徳的価値の自覚を深める過程で 、 同時に自己の生き方についての考えを深めているが、特にそのことを強く意識させることが 重要である。なお、このことは中学校段階において、人間としての生き方についての考えを 深めることに発展していく。 イ ウ エ (3) 道徳科の指導 Q6 A6 道徳科の指導では、どのようなことに気を付けたらよいでしょうか? 道徳科における指導の基本方針を確認しておきましょう。 道徳科においては、各教科、外国語活動(小学校 )、総合的な学習の時間及び特別活動にお ける道徳教育と密接な関連を図りながら、年間指導計画に基づき、児童(生徒)や学校の実態 に即して適切な指導を展開しなければならない。 参照:小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p75~ 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p74~ 【指導の基本方針】 ア イ ウ エ オ カ 道徳科の特質を理解する 教師と児童、児童相互の信頼関係(信頼関係や温かい人間関係)を基盤に置く 児童の自覚(生徒の内面的な自覚)を促す指導方法を工夫する 児童(生徒)の発達や個に応じた指導を工夫する 問題解決的な学習、体験的な活動など多様な指導方法の工夫をする 道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実する Q7 道徳科の学習指導案について教えてください。 A7 学習指導案作成の主な手順を示します。 道徳科の学習指導案は、教師が年間指導計画に位置付けられた主題を指導するに当たって、 児童( 生徒 )や学級の実態に即して 、教師自身の創意工夫を生かして作成する指導計画である 。 参照:小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p77~ 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p76~ 【学習指導案作成の主な手順】 1 ねらいを検討する 指導の内容や教師の指導の意図を明らかにする。 2 指導の重点を明確にする ねらいに関する児童(生徒)の実態と、それを踏まえた教師の願いを明らかにし、各教科 等での指導との関連を検討して、指導の要点を明確にする。 3 教材を吟味する 教科用図書や副読本等の教材について、授業者が児童(生徒)に考えさせたい道徳的価値 に関わる事項がどのように含まれているかを検討する。 4 学習指導過程を構想する ねらい、児童(生徒)の実態、教材の内容などを基に、授業の展開について考える。 道徳科の学習指導過程には、特に決められた形式はないが、一般的には以下のように、導 入、展開、終末の各段階を設定することが広く行われている。このような指導を基本とする が、教師の指導の意図や教材の効果的な活用などに合わせて弾力的に扱うなどの工夫をする ことが大切である。 主題に対する児童の興味や関心を高め、ねらいの根底にある道徳的価値の理解を 導入 基に自己を見つめる動機付けを図る段階 展開 ねらいを達成するための中心となる段階であり、中心的な教材によって、児童一 人一人が、ねらいの根底にある道徳的価値の理解を基に自己を見つめる段階 ねらいの根底にある道徳的価値に対する思いや考えをまとめたり、道徳的価値を を実現することのよさや難しさなどを確認したりして、今後の発展につなぐ段階 (小学校) 【道徳科の発問構成】 終末 基本発問 ねらいとする道徳的価値の自覚を深める ための問い 中心発問 ねらいとする道徳的価値の自覚を深める ために、最も重要な基本発問 指導観、ねらいに基づき、児童(生徒)に最も考え させたい場面に中心発問を設定しましょう。 Q8 A8 道徳科の授業では、どのような指導の工夫をすればよいでしょうか? 道徳科に生かす指導方法には多様なものがあります。 道徳科のねらいを達成するには、児童(生徒)の感性や知的な興味などに訴え、児童が問 題意識をもち、主体的に考え、話し合うことができるように、ねらい、児童の実態、教材や 学習指導過程などに応じて、最も適切な指導方法を選択し、工夫して生かしていくことが必 要である。 参照:小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p81 ア イ 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p80~ 教材提示の工夫 教材を提示する方法としては、読み物教材の場合、教師による読み聞かせが 一般に行われている。その際、例えば、紙芝居の形で提示したり、影絵、人形 やペープサートなどを生かして劇のように提示したり、音声や音楽の効果を生 かしたりする工夫などが考えられる。また、ビデオの映像も、提示する内容を 事前に吟味した上で生かすことによって効果が高められる。 発問の工夫 教師による発問は、児童(生徒)が自分との関わりで道徳的価値を理解したり、自己を見 つめたり、物事を多面的・多角的に考えたりするための思考や話合いを深める上で重要であ る。発問によって児童(生徒)の問題意識や疑問などが生み出され、多様な感じ方や考え方 が引き出される。 発問を構成する場合には、授業のねらいに深く関わる中心的な発問をまず考え、次にそれ を生かすためにその前後の発問を考え、全体を一体的に捉えるようにするという手順が有効 ウ エ オ カ キ Q9 A9 な場合が多い。 話合いの工夫 座席の配置を工夫したり、討議形式で進めたり、ペアでの対話やグループ による話合いを取り入れたりするなどの工夫も望まれる。 書く活動の工夫 書く活動は児童(生徒)が自ら考えを深めたり、整理したりする機会として、重 要な役割をもつ。この活動は必要な時間を確保することで、児童(生徒)が自分自 身とじっくりと向き合うことができる。 動作化、役割演技などの表現活動の工夫 児童(生徒)が表現する活動の方法としては、発表したり書いたりすることのほかに、児 童(生徒)に特定の役割を与えて即興的に演技する役割演技の工夫、動きや言葉を模倣して 理解を深める動作化の工夫、音楽、所作、その場に応じた身のこなし、表情などで自分の考 えを表現する工夫などがよく試みられる。 板書を生かす工夫 板書の機能を生かすために重要なことは、思考の流れや順序を示すような順接的な板書だ けでなく、教師が明確な意図をもって対比的、構造的に示したり、中心部分を浮き立たせた りするなどの工夫をすることが大切である。 説話の工夫 教師が自らを語ることによって児童(生徒)との信頼関係が増すとともに、教師 の人間性が表れる説話は、児童(生徒)の心情に訴え、深い感銘を与えることがで きる。 道徳科における評価はどのように行えばよいでしょうか? 道徳科の評価は、児童(生徒)の道徳性に係る成長の様子を把握し指導に 生かすよう努める必要があります。数値などによる評価は行いません。 (「 第3章 特別の教科 道徳 」)の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の4) 児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努め る必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。 道徳科において養うべき道徳性は、人格の全体に関わるものであり、数値などによって不 用意に評価してはならない。指導のねらいとの関わりにおいて児童の学習状況や成長の様子 を様々な方法で捉えて、それを児童(生徒)に確かめさせたり、それによって自らの指導を 評価したりするとともに、指導方法などの改善に努めることが大切である。 参照:小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p104~ Q10 A10 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編p107~ 実際に、どのように道徳科の授業をすればよいか教えてください。 奈良県教育委員会では、道徳教育に関する様々な資料を各学校に配布しています。 読み物資料を基にした小学校の具体的な指導例を次ページに掲載しますので参考にして ください。 (4) 高等学校における道徳教育の展開 Q11 高等学校では、道徳教育をどのように進めればよいでしょうか? A11 高等学校では、人間としての在り方生き方に関する教育を、学校の教育活動全体を通じ て行います。 高等学校においては、小・中学校と異なり道徳科は設けられていないが、公民科やホーム ルーム活動を中心に各教科・科目等の特質に応じ、学校の教育活動全体を通じて、生徒が人 間としての在り方生き方を主体的に探求し豊かな自己形成ができるよう、 適切な指導を行う。 小・中学校における道徳教育も踏まえつつ、生徒の発達の段階に ふさわしい高等学校における道徳教育を行うことが大切である。 参照:高等学校学習指導要領 第1章 総則 p1~ 小学校低学年用「カメタのなみだ 」(『 道徳教育 読み物資料集-いじめを許さない心を育てる- 』) 指導例 ◆ 主題名 勇気を出して 指導内容 A〔善悪の判断、自律、自由と責任〕 ◆ 資料名 カメタのなみだ(奈良県教育委員会) ◆ ねらい コンキチに聞き入れてもらえないときや自分のこうらに閉じこもったとき、もう一度コンキチを 正そうとしたときのカメタの思いについて話し合うことを通して、勇気をもって行動することの大 切さに気付き、よいと思ったことを積極的に行おうとする意欲を高める。 ◆ 展開 導 入 展 開 終 末 学 習 活 動 主な発問と予想される児童の意識 指導上の留意点 備考 1 、 普 段 の 生 活 を 振 り 〇 よくないことをしている人を見 ・体験を自由に話し合い、本時の 返って話し合う。 かけたことはありますか。 主題につなげる。そのときにど ・トイレのスリッパをそろえてぬが うしたかについても、振り返っ ない人がいた。代わりにぼくがそ ておくようにする。 ろえておいた。 ・廊下を走っている人がいた。高学 年なので注意できなかった。 2 、 資 料 「 カ メ タ の な 〇 カメタは、コンキチが注意を聞 ・コンキチの後ろ姿を見つめてい みだ」を読んで話し いてくれなかったとき、どんなこ るときや、涙がこぼれたときな 合う。 とを思っていたでしょう。 ど、具体的な場面を設定してカ ・どうしてそんなことをするの。 メタの気持ちを考えるように ・聞いてくれなくて悲しい。 し、話合いを焦点化する。 ・ぼくまで仕返しされて嫌だ。コン キチ君がこわい。 〇 こうらの中で涙をこぼしていた ・どうしてカメタはこうらに閉じ カメタは、どんなことを思ってい こもったのかについても話し合 たでしょう。 うようにし、何もできず外の声 ・またピョン子ちゃんが困っている を聞いているときのカメタの無 よ。悔しいな。悲しいな。 力感に共感できるようにする。 ・注意したけど、仕返しがこわくて できないな。つらいな。 ・何もできない自分が悲しい。 ◎ カメタは、こうらの中でじっと ・じっと考えた後にカメタはコン ワ ー ク シ ー どんなことを考えていたでしょう。 キチの方に向かって歩き出した ト ・ピョン子ちゃんを助けてあげたい 。 ことを押さえておくようにする。 ・こんなふうに逃げていたらだめだ 。 ・ワークシートに書き込むことで ちゃんと言わなくちゃ。 じっくりと考えさせ、それを基 ・やっぱりコンキチ君にそんなこと にして積極的に話し合えるよう をしたらだめだって言おう。 にする。 〇 コンキチに「やめなよ、いっし ・動作化してみるなど、大きな声 ょになかよくあそぼうよ 。」と言っ で言っていることを感じられる たとき、カメタはどんな気持ちだ ようにし、勇気を出して言えた ったでしょう。 カメタの喜びや充実感に気付く ・仕返しされても負けないという強 ことができるようにする。 い気持ち。 ・絶対やめさせて、一緒になかよく できるようにするんだというコン キチのことも思う気持ち。 ・言えてよかったといううれしい気 持ち。 3、自分を振り返る。 〇 勇気を出してよかったと感じた ・よいと思ったことを積極的に行 ことはありますか。 おうとする意欲を高めるよう、 ・他の学年の人に注意したら、聞い 勇気を出して行動できたことを てくれた。 振り返り、話し合うことを通し ・電車で思い切って席をゆずったこ て、そのときの充実感や自己有 とがあるよ。 用感を共有できるようにする。 ・ちょっと恥ずかしかったけど、近 所の人に自分からあいさつをした 。 4 、「 わ た し た ち の 道 〇 「わたしたちの道徳」p32~35 ・「 わたしたちの道徳 」を活用し 、 「 わ た し た 徳 小学校一・二 を開きましょう。 これから進んでしてみたいこと ちの道徳」 年 」を開き 、考える 。 を考えるなど、よいと思ったこ とを積極的に行おうとする意欲 を高めるようにする。
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