6. 人と人とのつながりが規定するコミュニケーション

五十嵐祐 (2008, 印刷中)
人と人とのつながりが規定するコミュニケーション-ネットワークの対人心理学-
繊維製品消費科学, 49.
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6. 人と人とのつながりが規定するコミュニケーション
-ネットワークの対人心理学-
日本学術振興会・大阪大学
五 十 嵐
祐
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1.はじめに
家族関係、友人関係、職場関係など、世の中
に縦横無尽に張り巡らされた人と人とのつなが
ってもいなかったので、非常にびっくりした記
憶がある。
このような現象は、「スモールワールド現象」
りは、日常生活における私たちの思考や行動に
と呼ばれている。スモールワールド現象は、人々
大きな影響を与えている。本稿では、人々を結
の社会的ネットワークがどのような構造をもっ
ぶ社会的なつながりの網(ネット)
、すなわち、
ているのかについて、非常に興味深い示唆を提
社会的ネットワークが私たちの生活にもたらす
供する。
影響について、古典的な研究から最新の研究知
Milgram (1967) 17)の研究は、スモールワール
見までを幅広く織り交ぜて紹介していきたい。
ド現象を実証的に検討した最初の実験である。
アメリカで行われたこの実験では、
ボストン(マ
2.世間は狭い:スモールワールド現象
サチューセッツ州)、オハマ(ネブラスカ州)
、
以前、「友人の友人はアルカイダ」と公の場
ウィチタ(カンザス州)の各都市からランダム
で発言し、物議をかもした日本の政治家がいた。
に選ばれた 96 人に対して、ボストン在住の X
発言の是非はともかくとして、このような一見
氏(株式仲買人)に手紙をリレーして届けるよ
突拍子もないつながりは、私たちの日常生活の
うに求めた。全ての実験参加者には、X 氏の経
中にもときどき現れてくる。初対面の人と話し
歴や個人情報が伝えられた。手紙を送る際には、
ているとき、ふとしたきっかけで共通の知人が
自分とファーストネームで呼び合える関係で、
いることがわかり、
「世間は狭いなぁ」と感じた
かつ X 氏をなるべく知っていそうな人を一人だ
経験は、
誰にでも一度や二度はあることだろう。
け選んで、手紙を送るように依頼した。これら
また、自分の知り合いの輪をたどっていくと、
2 つのシンプルなルールに基づいて、何回の手
思いもよらない有名人とつながりがあった、と
紙のリレーで X 氏まで手紙が届くのかが検証さ
いう人も意外と多いのではないだろうか。
筆者も客員研究員としてオーストラリアに
れた。なお、ここでは、ある 1 人の人から他の
1 人までの距離を「ステップ」という単位で表
滞在していた時に、
このような経験をしている。
現する。A さんと B さんとの距離が 3 ステップ
化学を専攻していたマレーシア人の友人が、日
である場合は、その間に 2 人の仲介者がいるこ
本に短期留学することになった。よくよく話を
とになる。
聞いてみたところ、実は彼女の受入教官が、筆
事前の予想では、X 氏まで手紙が到達するの
者が日本で大学院生だった頃に授業で教えた学
に、平均するとおよそ数百ステップが必要であ
生の父親だったのである。オーストラリアと日
ると思われていた。X 氏は全ての参加者にとっ
本という遠く離れた場所で、一見何の関係もな
て未知の人物である。また、オハマやウィチタ
さそうな知り合い同士がつながっているとは思
はアメリカ中部の小都市であるのに対し、ボス
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トンはアメリカ東海岸の学術都市である。これ
Dodds, Muhamad, & Watts (2003) 4)は、電
らの都市は直線距離でおよそ 2,300 キロも離れ
子メールを用いて、世界規模でのスモールワー
ており、同じアメリカといえどもその生活環境
ルド現象の検討を行った。インターネット上の
は大きく異なる。こうした条件から、手紙が X
Web サイトを通じて行われたこの実験には、
氏に到達するまでの道のりは、相当遠回りにな
166 カ国の 98,847 人がボランティアで参加し
ることが予想されていた。
た。実験参加者は、13 カ国・18 人の中からラ
しかし、実験の結果は予想に大きく反するも
ンダムに設定された目標人物に対して、知人を
のであった。平均すると「たった」6.2 ステッ
通じて電子メールを伝達するように依頼された。
プで X 氏に手紙が到達していたのである。この
目標人物は、アメリカの有名大学教授、インド
「6 ステップで見知らぬ人とつながる」という
のコンサルタント、
エストニアの古文書研究者、
結果は、想像以上に「世間は狭い」ことを示す
オーストラリアの警官、ノルウェーの退役軍人、
ものであった。その後、世間の狭さを象徴する
オマハの店員などであった。
表現として、
「6 次の隔たり」(six degrees)と
実験参加者と目標人物が同じ国にいた場合、
いう言い回しが使われるようになる(Watts,
目標人物に到達するまでのステップ数は 5 であ
2003 25))。
った。これに対して、違う国の人物が目標であ
一方、日本においても、Milgram の実験の追
った場合も、到達ステップは「わずか」7 であ
試という形で、スモールワールド現象の検討が
った。すなわち、
「6 次の隔たり」は、インター
行われている。三隅・木下 (1992)
18)は、目標
ネットを通じて広範囲に多様な社会的ネットワ
人物の知名度が高いほど、到達するまでのステ
ークが形成されている現代社会においても、お
ップ数が少なくなるという仮説を立て、大阪在
およそ成り立つことが明らかとなったのである。
住の X 氏(知名度高:百貨店勤務)と Y 氏(知
特に興味深いのは、これら 3 つの実験の参加
名度低:繊維会社勤務)を目標人物として設定
者が、手紙やメールの伝達相手をどのように選
し、福岡市から 200 人を無作為抽出して、X 氏
択したのか、ということである。実は、人々は
と Y 氏に手紙をリレーして届けるように依頼し
手紙やメールの伝達相手をまったくランダムに
た。福岡―大阪間の距離はおよそ 600 キロであ
選択したのではなく、そこには明確な意図や規
る。
則が存在していたのである。
実験の結果、目標人物に手紙が到達するまで
の平均ステップ数は 7.2 であった。つまり、日
①
Killworth & Bernard (1978) 12)は、実験参
本においてもスモールワールド現象は成り立っ
加者に Milgram の実験手続きを説明した
ていたのである。目標人物別に見ると、X 氏に
あとで、どのような基準を用いて手紙の伝
は平均 5.5 ステップ、Y 氏には平均 9.2 ステッ
達相手を選ぶかを尋ねた。すると、多くの
プで手紙が到達していた。この差は統計的に有
実験参加者は、地理的要因と職業の 2 つの
意であり、知名度が高い目標人物には、仮説通
基準によって、手紙を伝達する相手を選択
り、少ないステップ数で手紙が到達していたこ
とがわかった。
すると回答した。
②
三隅・木下(1992) 18)の実験では、実験参加
一方、インターネットや携帯電話の普及した
者は自分と似た属性を持つ相手(同性、同
現代社会では、コミュニケーションの距離的な
年代、同職業)に手紙を送る傾向があった。
制約が解放され、オンライン上で多様な人々と
また、目標人物に到達しなかった実験参加
出会うことが可能になった。こうした社会的環
者は、X 氏または Y 氏と同じ地域に住んで
境の変化は、未知の人々の間の「6 次の隔たり」
いる人や、顔が広そうな人に手紙を伝達す
にどのような影響を与えるのだろうか。
るという戦略をとっていた。これに対して、
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③
目標人物に到達した実験参加者のとった戦
界という異質のコミュニティ同士がつながるの
略は、X 氏または Y 氏と同じ出身大学の人
である(ただし、これで A さんと X さんが仲良
や、仕事上の関係がありそうな人に手紙を
くなれるかどうかは別問題であるが)。ここでは、
伝達していた。
B さんと X さんとのつながりが、A さんにとっ
Dodds et al. (2003)
4)の実験では、目標に
てのランダム・ショートカットとなる。
到達した実験参加者の場合、メールを送っ
先ほど紹介したスモールワールド現象に関
た相手の性別は、同性:異性が 6:4 の割合
する 3 つの実験では、目標人物に到達した実験
であった。また、家族や職場の同僚にメー
参加者は、自分または目標人物と共通点を持つ
ルを送る傾向もみられた。メール相手との
と思われる相手に手紙やメールを送信していた。
関係性は、7 割が「近い」関係であり、残
また、それほど近い関係ではない相手にも、一
りの 3 割は「ふつう」あるいは「近くない」
定の割合でメールを送っていた。前者はコミュ
関係であった。
ニティによるつながり、後者はランダム・ショ
ートカットによるつながりに対応する。
これらの結果は、スモールワールド現象の背
つまり、人々のつながりの多くはコミュニテ
後に潜む、人々の社会的ネットワークがもつ構
ィを基盤として成り立っているが、中には少数
造的な特徴についての重要なヒントを与える。
のランダム・ショートカットが含まれており、
Watts (2003) 25)は、スモールワールド現象を説
そのことがスモールワールド現象を引き起こし
明する社会的ネットワークの構造として、①ク
ていたのである。したがって、スモールワール
ラスター(コミュニティ)と②ランダム・ショ
ド現象は、
ートカットの重要性を指摘している(増田,
2007 15)も参照)。
クラスターとは、三者関係を基本とする、同
スモールワールド=多数のコミュニティ+
少数のランダム・ショートカット
じ文化やルール、価値観を共有している人々の
集合である。クラスターの集まりは、家族、職
というシンプルなモデルによって表すことがで
場、地域社会といったコミュニティ(集団)と
きる。このモデルの妥当性は、シミュレーショ
なる。「類は友を呼ぶ」ということわざの通り、
ン実験や、現実場面の社会的ネットワーク構造
人々は、性別や見た目、態度、価値観などが類
の分析によっても繰り返し確認されている
似した相手に魅力を感じる傾向がある (Byrne,
(Watts, 2003 25))。
1971 2))。人は、家族や親戚との人間関係、職場
ただし、ランダム・ショートカットにおける
の人間関係、大学時代の人間関係、地域の人間
「ランダム」とは、数学的な意味での偶然性と
関係、趣味の人間関係など、さまざまなコミュ
は異なり、
「完全な行き当たりばったり」を意味
ニティでの人間関係を基盤として、社会的生活
するのではない。一見、全くの偶然によって結
を営んでいる。また、コミュニティには、現在
ばれたように見える社会的なつながりであって
所属しているものだけでなく、かつて所属して
も、人間の行動の背後には、多くの場合、何ら
いたものも含まれる。
かの意図が存在すると考えるのが自然である。
ランダム・ショートカットとは、異なるコミ
この点について、西口 (2007)
20)は、中国・
ュニティ同士を結びつける社会的なつながりの
温州(ウェンゾウ)の経済発展モデルに関する
ことである。A さんの職場の同僚である B さん
興味深い事例を報告している。温州は中国浙江
が、実は有名芸能人の X さんと大学時代の同級
省の南東に位置する港町であり、中国最大のボ
生だった、という例を考えてみよう。A さんに
タン、靴、アパレルの産業地帯である。温州人
とっては、B さんを介することで、職場と芸能
は伝統的に手先が器用であると同時に、
「中国の
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ユダヤ人」とも呼ばれるほどの商売上手である。
明確な目的を持ち、
あえて自国の人間ではなく、
特筆すべきは、温州人が皮革業、服飾業を中心
外国人に声をかけたのではないだろうか。
とする世界規模の巨大な社会的ネットワークを
西口は、こうした戦略的な対人行動を「方向
構成しており、海外在住の温州人 40 万人中、
性を持った探索による、情報伝達経路のリワイ
およそ 20 万人がイタリアを中心とするヨーロ
ヤリング(つなぎ替え)」と呼んだ。これは、人々
ッパ各地に滞在していることである。
の社会的なつながりの選択(リワイヤリング)
このように華やかな現在の温州の姿からは
が、ある程度のランダムさを含みつつも、何ら
想像もつかないが、実は、1970 年代半ばまで、
かの意図(方向性)に基づいていることを意味
温州は中国の中でも最も貧しい地域だった。西
する。西口の指摘は、スモールワールド現象を
口は、今日の温州人の商業的な成功の原因が、
モデル化する際、人々の対人行動の背後に明確
彼らが「ただ生き延びるため」だけに外の世界
な意図があることを強調した点で、大きな意味
へと積極的に進出していたことにある、と指摘
を持つ。
し、
「温州人の逸話」として語り継がれる次のよ
うなエピソードを紹介している。
さて、スモールワールド現象に関するこれら
の洞察は、非常に多くの示唆に富んでいる。し
かし、その解釈にはいくつか注意すべき点もあ
20 世紀初頭、ある男が温州から出稼ぎに行
る。まず、手紙やメールの到達率はいずれの実
くため、港を行き当たりばったりに歩いてい
験でも非常に低く(Milgram (1967) 17):26.8%、
た。男は最初に出会った背の高い西洋人に声
三隅・木下(1992)
をかけ、どこでもいいから船に乗せていって
(2003) 4): 0.4%)、多くの参加者は途中で実験を
ほしい、と頼み込み、首尾よく密航した。数
止めてしまったと考えられる。また、現実世界
ヶ月後、男がたどり着いたのは、オランダの
での対人行動とは異なり、一人にしか手紙やメ
ロッテルダムだった。手先の器用な男は彫像
ールを送ることができないという手続き上の制
などの石細工を作って売りさばき、やがて財
約は、目標人物に到達するまでのステップ数を
をなした。その後、男は家族や親戚を故郷か
増やしてしまう可能性もある。一方で、コミュ
ら呼び寄せ、現地に根づいた生活を送ったと
ニティ間の対立や、文化の違い、言葉の違いと
いう。
いったものも、現実世界での社会的なつながり
18):27.5%、Dodds
et al.
を制限する大きな壁となる。こうした点をふま
この逸話は、男が自らランダム・ショートカ
え、今後は、人々がどのようにして社会的なつ
ットを作り出すことで、大きな可能性の広がる
ながりを取捨選択していくのかについて、より
異国の地、すなわち、異なるコミュニティへと
詳細な検討を行っていく必要があるだろう。
所属先を移し、人生の転機への足がかりをつか
んだサクセスストーリーである。ここで、ラン
2.遠くて近い縁:弱い紐帯の強さ
ダム・ショートカットの「ランダム」という言
戦後日本の経済成長を支えた企業の終身雇
葉の示す意味をもう一度考えてみたい。
男は「行
用制度は、経済活動のグローバル化や、バブル
き当たりばったり」に出稼ぎ先を探したと伝え
崩壊後の長期的な不況の波に押され、その実体
られている。男の行動が数学的な意味でランダ
を失いつつあるという指摘がある (谷川, 2003
ムであるとするならば、相手の国籍にかかわら
22))。終身雇用制度には、企業と被雇用者の結び
ず、
「港で最初に出会った人」に声をかけてもよ
つきを強め、被雇用者の自発的な転職を控えさ
いはずである。しかし、男はそうしなかった。
せる効果があった。しかし、近年の日本は、若
本当のところ、男は大きなチャンスをつかむた
い世代の被雇用者の自発的な転職が盛んとなり、
めに、
「可能な限り遠い外国」に行きたいという
本人の就きたい職と人材とのリマッチングによ
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る、労働市場の雇用調整が重要となる社会へと
度、の 4 つの成分を組み合わせて決定される
変化しつつある (山口, 2004
(Granovetter, 1973 7))。ただし、紐帯の強さを
26))。
人材の流動化がある程度進んだ現在の日本
数量的に厳密に定義することは難しく、どちら
社会では、転職によって希望する職を見つける
かといえば状況に応じて直感的に決定されるこ
ことが、個人のキャリア形成において非常に重
とが多い。
要となる。転職情報は、公的機関や民間機関を
弱い紐帯が転職などの重要で有益な情報を
通じてフォーマルな形で手に入れることが可能
もたらすのはなぜだろうか。自分が現在所属す
である一方、
「知り合いの紹介」や「個人的な人
るコミュニティでは、普段からよく会う人々と
脈」
、少々感じの悪い言い方をすれば「コネ」と
の間で情報のやり取りが行われる。しかし、こ
いった、インフォーマルな形で手に入れること
うした人々とはすでに多くの情報が共有されて
も可能である。世の中には、知り合いから有利
いるため、得られる情報に新鮮味は乏しく、大
な転職情報を得て、順調なキャリアアップを遂
きなチャンスを期待することは難しい。
しかし、
げた人も少なくないだろう。
弱い紐帯でつながっている相手は、現在の自分
こうした「耳寄り」な転職情報は、どのよう
とは異なるコミュニティに所属している。そこ
な社会的つながりを通じて入手できるのだろう
で共有されている情報は、自分が所属している
か。Granovetter (1973)
7)は、アメリカ・ボス
コミュニティとは多くの点で異なるであろう。
トン郊外に住む転職経験者の専門職、技術者、
したがって、弱い紐帯は、コミュニティ間の橋
管理職の男性に調査を行い、この問題を検証し
渡し(ブリッジ)として、自分が現在所属する
た。
インタビュー調査に協力した 100 人のうち、
コミュニティでは手に入らないような、異質性
知人を通じて転職した 54 人に対して、転職情
の高い情報をもたらすことになるのである。
報を得た時点での紹介相手との接触頻度と関係
ところが、日本で行われた同様の調査では、
を尋ねたところ、仕事を紹介してくれた相手と
弱い紐帯ではなく、主に強い紐帯を通じて転職
は、「ときどき会っていた(55.6%)」、「めった
に関する情報が得られることが報告されている
に会わなかった(27.8%)」という回答が多く、
(渡辺, 1991
「ひんぱんに会っていた(16.7%)」という回答
家族や親戚、上司などの「コネ」や「縁故採用」
が最も少なかった。
また、
紹介相手との関係は、
という形をとるものが多数を占めていたのであ
大学時代の古い友人、かつての同僚や上司が多
る。
く、仕事以外の状況で会ったことはほとんどな
いという回答であった。
24))
。つまり、日本での転職は、
こうした紐帯の機能に関する文化差は、人々
がコミュニティ(集団)をどのようにとらえて
これは、「弱い紐帯の強さ」として広く知ら
いるのか、という知覚様式の文化差とも関係す
れている現象である(紐帯(tie)とは人々のつ
るだろう。結城(2005)28)は、日本を含む東ア
ながりを意味する)。この印象的なネーミングは、
ジアの文化では、人々が所属コミュニティを社
Granovetter の論文のタイトルに由来しており、
会的ネットワークの総体として知覚する傾向が
かつて所属していたコミュニティの知り合いで、
あるのに対し、北米の文化では、人々が所属コ
どちらかといえば普段の交際が疎遠な相手との
ミュニティのメンバーを互いに類似した存在と
つながり(弱い紐帯)が、実は転職につながる
して知覚する傾向があることを明らかにしてい
有益な(強い)情報をもたらすという、ある種
る。すなわち、類似性が高い(と思いこんでい
の逆説的なニュアンスが含まれているのである。
る)人々がコミュニティを形成している北米で
なお、紐帯の強さは、①一緒に過ごす時間量、
は、異質性の高い情報に注目が集まりやすく、
②情緒的なつながりの強さ、③親密さの程度
(秘
弱い紐帯の役割が特に重要視されるのかもしれ
密を打ち明けられるかどうか)、④助け合いの程
ない。
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一方、Krackhardt (1992) 14)は、
「強い紐帯の
狭い範囲の同質な社会的ネットワークしか持っ
強さ」
についても指摘している。この研究では、
ていないために、就職につながるような有益な
あるベンチャー企業における労働組合の組織化
情報を得るための経路が閉ざされているのであ
の過程において、相互作用や情緒的なつながり、
る。堀は、こうした状況の解決策として、無業
長年のつきあいといった要素に基づく強い紐帯
の若者が学校や公的機関を通じて就労につなが
が、人々の間の信頼感を醸成し、不確実性の高
るような社会的ネットワークを形成するための、
い状況に対処する上で重要な機能を持つことが
行政レベルのサポートの重要性を主張している。
明らかにされている。つまり、弱い紐帯は、コ
興味深いことに、孤立型の社会的ネットワー
ミュニティ間の橋渡しとして異質な情報を提供
クは、大卒者など、学校に長期間所属した無業
するのに対し、強い紐帯は、コミュニティ内の
の若者に多くみられた。無業の大卒者は比較的
閉じた結びつきとして信頼感を強める役割を果
裕福な家庭で育っており、職に就いていなくて
たしているのである(本連載・第 3 回(古谷,
も日常生活にそれほど不便は感じていないと考
2008 6))を参照)。
えられる。したがって、金銭的な問題は、就労
ところで、最近の日本では、企業の新規採用
意欲を高めるための主要な動機とはならないだ
が大幅に減少した 1993 年~2004 年に高校や大
ろう。むしろ、堀のインタビュー調査では、こ
学を卒業した人々を、
「就職氷河期世代」と呼ん
うした高学歴の若者が、対人コミュニケーショ
でいる(余談だが、筆者もこの世代に属する)。
ンに過度の苦手意識を持っていたり、自分の理
氷河期世代は、新卒での就職に失敗すると、そ
想の生き方を追い求めることにこだわりを持ち
の後もフリーターや派遣社員といった不安定な
すぎたりするあまり、周囲の対人関係から孤立
職に就くことを余儀なくされており、大きな社
していることが見いだされている。
会問題となっている。
一方、限定型の社会的ネットワークは、中卒
新卒での就職に失敗した氷河期世代の人々
者や中退者など、学校を早い時期に離れた無業
が、他の世代に比べて能力が劣っていたり、や
の若者に多くみられた。彼らは強い紐帯を保持
る気がなかったりというわけでは決してないだ
しており、仲間からの社会的なサポートを得る
ろう。しかし、新卒での正規雇用を獲得するこ
ことはできるものの、これらのつながりは閉じ
とがキャリアアップの大原則となっている日本
たコミュニティを形成していた。すなわち、仲
社会では、不況による就職難が原因であるとは
間内での社会的なつながりを持つだけでは、外
いえ、フリーターや派遣社員といった非正規雇
部への雇用の機会を生み出すことにはつながら
用の職に就いている若者が、その後の人生でキ
ないのである。また、学校を早い時期に離れた
ャリアアップにつながるような転職を行うこと
若者は、金銭的な動機や生活上の必要性から職
は、残念ながら非常に難しいのが現状である。
を求める傾向が強いと考えられる。現実問題と
堀 (2004)
8)は、定職に就いていないアルバイ
して、彼らにとっては、コミュニケーションの
トや無業の若者の社会的ネットワークの実態に
不安や自己実現といった個人の内面の問題より
関して、インタビュー調査を行っている。代表
も、社会的生活を営んでいく上で有益となる情
的な 10 の事例を分析したところ、無業の若者
報や資源から切り離されていることが、キャリ
の社会的ネットワークは、その大多数が、①孤
ア形成の大きな障壁になっているのであろう。
立型(家族以外の社会的なつながりがほとんど
このように、私たちの社会的な行動は、個人
ない)、②限定型(地元の同年齢で構成された社
の能力や性格だけでなく、個人の持つ社会的な
会的なつながりのみに所属する)のいずれかで
つながりによっても大きな影響を受けている。
あることが明らかとなった。
人づてに大きなチャンスをつかむためには、目
簡単に言えば、無業の若者の多くは、非常に
の届く範囲にある「近場の縁」だけでなく、た
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まには「遠くて近い縁」に目を向けてみるのが
ていることである。これは、相対的剥奪
よいのかもしれない。
(Merton, 1938 16))と呼ばれる現象である。私た
ちには、他者との比較を通じて自己の評価を決
4.人気者は少数:スケールフリー・ネットワ
定する傾向がある (Festinger, 1954 5))。自分は
ーク
他者よりも友だちが少なく、人気がないなあ、
読者の中には、「一年生になったら/一年生
と感じることは、人気度についての主観的な期
になったら/友だち 100 人できるかな」という
待水準と現実的な達成水準との間にギャップを
懐かしいフレーズを覚えておられる方も、案外
生み出し、
「格差意識」
を高めてしまうのである。
多いのではないだろうか(まど・みちお作詞「一
面白いことに、現実世界で個人が持つ社会的
年生になったら」)。小学校は、同年齢の他者と
なつながりの数の分布を調べてみると、そこに
の集団生活を通じて、初めて社会とのかかわり
は個人によってかなりのばらつきがある。つま
をもつ大事な場所である。学校という場で交友
り、私たちが他者との相対的な比較を行うこと
関係をどのように作り上げていくのか、という
で感じる人気度の格差意識は、現実世界の社会
ことは、子どもたちにとって、勉強と同じくら
的ネットワークの構造上、必然的に生まれてき
い気になることであるに違いない。
たものであるとも解釈できる。私たちの世界は、
ここで歌われているような、小学校という交
皆が同じ数の社会的なつながりを持つような
友範囲の限られたコミュニティの中で、友だち
「ネットワーク平等社会」ではなく、社会的な
が 100 人もいるような子どもはまさにヒーロー、
つながりをたくさん持つ者は常に少数であると
スーパースターである。では、
「子どもの人気度
いう「ネットワーク格差社会」なのである。
=友だちの数」と定義してみよう。すると人気
Barabási (2002) 1)は、現実の社会的ネットワ
者とは「たくさんの友だちがいる子ども」を指
ークの構造を分析した結果から、少数の人が非
すことになる。100 人という数は少々おおげさ
常にたくさんの社会的なつながりを持ち、その
ではあるが、たいていのクラスには、たくさん
ほかの人が少しの社会的なつながりしか持たな
の人と友だちになっている人気者の子どもがい
いというモデルを提案し、それを「スケールフ
ることだろう。
リー・ネットワーク」と呼んだ。こうした社会
ただし、この定義には、ひとつ暗黙の条件が
的なつながりの量に関する格差は、
「少数の人々
隠されていることにお気づきだろうか。実は、
が全体の資源の大多数を所有する」という「二
人気者とは、
「ほかの子どもたちと比べて、より
八の法則」(「パレートの法則」
)に従っている。
たくさんの友だちがいる子ども」を指している
スケールフリー・ネットワークの中で、非常
のである。もし、とても大規模で仲のよいクラ
に多くの社会的なつながりを持つ人は、
「ハブ」
スがあり、ほとんどの子どもが 100 人と友だち
であるのが普通だとすれば、クラス内でその子
どもたちが人気者として扱われることは、おそ
らくほとんどないだろう。逆に、30 人のクラス
で、ほとんどの子どもが 5 人ほどのグループで
しか活動していないのに、クラスの全員と友だ
ちである子どもがいれば、その子は人気者とし
て認知されるだろう。
ここで重要なのは、子どもの人気度が、人数
という絶対的な基準に基づくのではなく、他者
との比較による相対的な基準によって決定され
Fig. 1 スケールフリー・ネットワークの例
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と呼ばれる。ハブはネットワークにおける情報
将来にわたって続くが、人気者でない人があと
の流れを効率化するとともに、情報の流れをコ
から社会的なつながりを獲得するのは、なかな
ントロールする役割も持つ。Fig. 1 はスケール
か難しいのである。
フリー・ネットワークの例であり、少数の人々
社会的ネットワークに人気者は少数しか存
(ハブ)が多くのつながりを持っていることが
在しない、という現実は、他者と自分とを比べ
わかる。
た場合に、多くの人が相対的剥奪を感じること
私たちは日常生活の中で、ハブを通じた情報
につながる。しかし、他者の行動を観察したと
収集を知らず知らずのうちに行っている。ここ
き、観察者は行為者の意図を必ずしも正しく把
で、社会的ネットワークとは異なるが、インタ
握できるわけではない(本連載・第 4 回(木村,
ーネットの Web サイトのネットワークにおけ
2008 11))を参照)。同様に、私たちは周囲の人
る、ハブの影響力についての簡単な例を挙げて
間関係についても偏った見方や思い込みをする
みよう。インターネット上のブログに、あるユ
傾向があり、そのことがネットワーク格差意識
ニークな商品についての面白い紹介記事が載っ
を引き起こしているかもしれないのである。
たとする。そのブログ自体のアクセス数はそれ
Krackhardt (1990)
13)は、職場の社会的ネッ
ほど多くないとしても、いったんその記事が
トワークに関する人々の認知と、職場での評判
Yahoo! JAPAN のトップページで取り上げられ
との関連について検討を行った。
この研究では、
ると、ブログへのアクセスは急増し、商品の売
あるハイテク企業のマネージャー36 名(最上級
り上げが大幅に伸びるかもしれない。Yahoo!
職 3 名、監督職 5 名、役職なし 28 名)を対象
JAPAN はインターネット利用者のおよそ 9 割
に、自分を含めた職場における全ての人間関係
が閲覧し、月間利用者数が 4000 万人を超える、
のペア(36×35=1260 ペア)について、①誰が
インターネット上の重要なハブのひとつである
誰に対してアドバイスを求めているか、②誰と
(ネットレイティングス, 2007
誰が友人であるか、
をそれぞれ答えてもらった。
19))
。つまり、
ハブを介することで、私たちは効率的に情報を
この手続きで測定されるのは、自分を含めた周
収集することができるのである。逆に、Yahoo!
囲の人間関係が、どのような構造を持つのかに
JAPAN のトップページにネガティブな情報が
ついての認知である。ここでは、A さんが B さ
掲載されてしまうと、その社会的な影響力は非
んに対して「アドバイスを求めたことがある
(友
常に大きなものとなるだろう。同じようなこと
人関係である)」と回答し、かつ、B さんも A
は、人々の間のうわさや流行の伝達過程にもあ
さんに対して「アドバイスを求めたことがある
てはまる(本連載・第 5 回(竹中, 2008 21))を
(友人関係である)」と回答した場合に限り、そ
参照)。
のペアには「実際の人間関係がある」
(片方の思
さて、先に述べた通り、スケールフリー・ネ
い込みではない)と定義する。一方、ペア内で
ットワークでは、ハブは少数しか存在しない。
の回答に食い違いが見られた場合、そのペアに
Barabási (2002 1))は、①成長、②優先的選択と
は「実際の人間関係はない」
(片方の思い込みで
いう 2 つのルールによって、この特徴を説明し
ある)と定義する。
ている。成長とは、その名の通り、ネットワー
面白いことに、アドバイスに関する周囲の人
クに新しい人が参入することである。一方、優
間関係を正確に認知している(=思いこみの少
先的選択とは、人々が新しいつながりを選択す
ない)マネージャーは、周囲の人々から、物事
るとき、すでにたくさんのつながりを持ってい
を成し遂げる高い能力を持ち、カリスマ性が高
る人を選ぶ、というルールであり、言い換える
いと評価されていた。しかし、友人関係の認知
ならば「富める者がますます富む」ということ
の正確さは、
これらの評価とは関連しなかった。
である。いったん人気者になれば、その人気は
つまり、多くの人々と職務を通じて接する中で
五十嵐祐 (2008, 印刷中)
人と人とのつながりが規定するコミュニケーション-ネットワークの対人心理学-
繊維製品消費科学, 49.
培われた「人間関係把握能力」の高さは、他者
う、②より社交的で親密な社会的ネットワーク
からの高い評価につながっているのである。逆
を形成しやすい、③親密な会話に積極的に参加
に、周囲の人間関係についての偏った思いこみ
しやすい、④孤立を避けるために関係を形成・
は、職務上の評価を低めてしまい、そのことが
維持する傾向が強い、といった特徴を持つ。ま
ネットワーク格差意識をますます高めることに
た、女性の方が男性よりも広い社会的ネットワ
つながるのかもしれない。また、ポジティブな
ークを持つことも報告されている。簡単に言え
感情状態にある人ほど、こうした人間関係把握
ば、女性は「仲良しグループを作って大人数で
能力が高いことも報告されている(Castiaro,
群れる」のに対して、男性は「少人数で固まる、
Carley, & Krackhardt, 1999 3))。コミュニケー
もしくは一匹狼となる」傾向があるといえよう。
ション場面での感情表出は、周囲の関係性全体
一方で、コミュニケーションメディアの利用
の認知にも影響を及ぼすのであろう(本連載・
スタイルについても、男女間で違いがある。女
第 2 回(山本, 2008 27))を参照)。
性は男性よりも、①個人的な用件で電子メール
社会的ネットワークの中で、全員が人気者に
を利用しやすく、②電子メールを親密な関係を
なることはできない。人々が「自分は人気がな
築くために利用する、
などの傾向がある(以上、
いなぁ」と感じて落ち込まないようにするため
詳細は五十嵐, 2005 9)を参照)
。
には、こうした現実世界の社会的ネットワーク
では、携帯メールを通じた社会的ネットワー
の不平等さに関する知識を持ち、周囲の状況を
クは、どのようにして形成・発展し、そのプロ
客観的にとらえることが重要になってくるので
セスにはどのような男女差がみられるのだろう
はないだろうか。
か。Igarashi, Takai, & Yoshida (2005)
10)は、
ある大学の法学部 1 年生 132 名を対象として、
5.携帯メールでも「群れる」女性:社会的ネ
入学直後の 4 月から夏休み前の 7 月までに、学
ットワークの形成・発展
部内の友人関係が変化するプロセスを、対面の
インターネットや携帯電話の普及によって、
人々の社会的なつながりのあり方は、近年、大
コミュニケーションと携帯メールのコミュニケ
ーションとで比較検討した。
きな変化を遂げつつある。中でも、もはや「一
Fig. 2 は、各メディアを通じた 4 月と 7 月の
人一台」が当たり前となった携帯電話や携帯メ
社会的ネットワークの全体構造を 3 次元にプロ
ールの普及は、私たちの仕事や生活スタイルを
ットしたものである。黒い丸は女性、灰色の丸
一変させた。
は男性を表し、線は個人間のつながりを表して
携帯メールは、距離や時間を選ばない個人的
いる。対面の社会的ネットワーク(上段)は、
なコミュニケーションメディアであり、主に親
4 月、7 月とも全体が大きな一つの集団にまと
しい知り合いとの二者間でやり取りされること
まっている。これに対して、携帯メールの社会
が多い。また、相手に「見せたい自分」を呈示
的ネットワーク(下段)では、4 月の時点では
する(本連載・第 1 回(谷口, 2008 23))を参照)
全体が二者関係を基に構成され、構造が分断化
ことも、携帯メールを通じた非対面のコミュニ
している。しかし、7 月になると携帯メールの
ケーションでは、比較的容易である。このよう
社会的ネットワークにおいても集団が形成され、
に、携帯メールを通じたコミュニケーションに
対面の社会的ネットワークと同様、全体が一つ
は、対面のコミュニケーションと異なる多くの
の集団としてまとまることがわかる。
特徴がみられる。
さらに、孤立者を除いた場合、対面の社会的
ところで、対面のコミュニケーションのスタ
ネットワークでは、女性(赤丸)は 4 月の時点
イルには男女差があることが知られている。女
から一つのまとまったグループを形成している
性は、男性に比べて、①自己開示を積極的に行
のに対し、男性(黄丸)は 4 月には大きく 3 つ
五十嵐祐 (2008, 印刷中)
人と人とのつながりが規定するコミュニケーション-ネットワークの対人心理学-
繊維製品消費科学, 49.
のグループに分かれており、7 月になって初め
した研究を積み重ねることは、人々が現実場面
て 1 つのグループを形成していた。一方、携帯
でコミュニケーションメディアをどのように使
メールの社会的ネットワークでは、4 月は男女
い、どのような対人関係や集団を形成していく
とも孤立者または二者のみで形成された紐帯が
のかについて、新たな理解を深めることにつな
多く見られた。これに対して、7 月になると、
がっていくだろう。
女性は携帯メールの社会的ネットワークでも一
つの大きなグループを形成するようになるが、
6.おわりに
グローバル化しつつある現代社会において、
男性は未だ多くのサブグループを形成していた。
つまり、携帯メールのような二者関係を中心と
世界中に張り巡らされた人々のつながりは、
するコミュニケーションを通じても、女性は集
日々止まることなく変化し成長し続けている。
団を形成する傾向が強いのである。また、いず
しかし、人々のつながり、すなわち、社会的ネ
れの社会的ネットワークにおいても、同性間で
ットワークは、心と同じく「目に見えない」も
多くの紐帯が形成されていることが読み取れる。
のである。他者とのつながりが人の心を規定す
上に述べたような、時期やコミュニケーショ
るのと同じように、人の心も他者とのつながり
ンメディアによる社会的ネットワークの全体構
を規定する。人々の間に張り巡らされた「網目」
造の特徴の違い、男女による構造の違いは、統
の細かさや強さを決めるのは、人々の心である。
計モデルによる分析でも確認されている。つま
他者への無関心や世代間コミュニケーションの
り、対面のコミュニケーションで観察されるよ
断絶などが憂慮される昨今、人々がさまざまな
うな男女差は、携帯メールのコミュニケーショ
絆で結ばれた「網」を有効に活用し、豊かな社
ンでも同様に観察される。社会的ネットワーク
会生活を営んでいくためには、お互いを信頼し、
構造の差異とは、こうした個人レベルでの対人
協力し合えるような世の中を作り上げることが
行動の差異が積み重なった結果として、表れて
重要となるだろう。
きたものと考えられる。
ここで紹介した事例は、社会的ネットワーク
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筆者紹介
い が ら し
五十嵐
2005 年
たすく
祐
名古屋大学大学院教育発達科学研究
科博士後期課程修了、オーストラリア・メルボ
ルン大学心理学部客員博士研究員を経て、2006
年より日本学術振興会特別研究員(SPD・大阪
大学)。博士(心理学)
。専門は、社会的ネット
ワーク分析、メディアコミュニケーションの社
会心理学。
主 要 業 績 : ”Culture, trust, and social
networks” ( 共 著 , Asian Journal of Social
Psychology, 11, 88-101)、
「インターネット心理
学のフロンティア-デジタル化で変貌する個
人・人間関係・社会-」(分担執筆、誠信書房、
近刊)