エテ公に乾杯 山峡の温泉の湯に浸かる猿の一群、僻地の開発が進む中

エテ公に乾杯
山峡の温泉の湯に浸かる猿の一群、僻地の開発が進む中 その数はめっきり減った。 ...
本州の縄文遺跡からは しばしば猿の骨が発掘される、猿はつい 100 年前の明治・大正の頃
までは人間の貴重な獲物 (肉、毛皮、薬を取る)だった。 ...だが猟は、現代人が町の肉
屋で肉を求める感覚とは異なり、アニミズム (Animism) よろしく 動物にあやかり精霊
としての獲物を頂戴しますと云う意味が込められた狩猟だった。
エテ公と云う愛称?..がある。 「エテ」とは猿を擬人化した呼称で、猿 ⇒ 去る に通
じる忌み言葉の反語 「得て」で、縁起担ぎの為に考え出された猿の別称である。 「公」
は親しみと卑しめを込めた俗語で、ポリ公やアメ公を連想すれば分かり易い。 ...人里近
くに出没する猿は昔から人との係わりも強く、時には桃太郎に従い共に鬼と戦う猿だった
り 西遊記の孫悟空の様に天空を自在に駆け抜け主人の三蔵法師を護衛する勇敢な猿でも
あった、また逆に生来の狡さゆえに懲罰の対象に擬せられるコトも多々あった。 ...猿蟹
合戦や猿の夜盗などの物語は、猿のような悪さをすると後で必ず報いを受けますよ と云う
因果応報を教える寓話である。
「猿の惑星」(1960 年代) と云うアメリカ映画があった、原作は未だ白人による有色人
種への差別思想が強く残っていた時代の作品...。 作者は Pierre Boule というフランス
人だが、彼は第二次大戦勃発時に仏領インドシナで日本軍の捕虜となり 18ヵ月間収容所
に繋がれ、この間黄色人種から幾多の屈辱を受けた。 ...当時、この作品を読んだ評論家
たちは このシナリオは彼の日本人への報復をこめた作品だと論評した...。 彼の前作は
「戦場にかける橋」だった、興行的に成功したコトを知った彼は、結果的にこの作品は日
本人を善人に仕立ててしまい失敗だったと後悔した。 そこで次作の 猿の惑星では、今度
こそはと日本人を野蛮な黄色の猿に擬して SF で風刺しながら軽蔑して描いた。 ...結局、
映画自体は上作だったが、原作の方は日本人にとっては問題作だった。
それに比べると小説 「西遊記」 はめっぽう面白い、原作は明の時代の呉承恩との説も
あるが真相は未だに不明。 ...後世、この物語はアジア一円で広く読まれ類書も数多く出
回った、日本でも江戸時代から昭和にかけて同類の小説や戯曲が幾つも書かれている。 原
作の西遊記は明時代の四大小説 ( 他に三国志演義・水滸伝・金瓶梅) の一つであり、今
でも中国を代表する古典小説である。 ...この小説の原本は、言わずと知れた玄奘三蔵の
大唐西域記 (646 年) である。 この本は、僧玄奘三蔵が唐の皇帝 太宗の詔を奉じて西域
の 110 ヵ国を巡り、そこで見聞した国情や城郭情報などを 12 巻の書にまとめ上げた所謂
報告書 (見聞録、地誌)だった。 ...この種の文献には、遣唐使だった延暦寺の僧 円仁
が遺した 9 世紀の 「入唐求法巡礼行記」
、マルコポーロの 13 世紀 「東方見聞録」 がある。
福建省泉州は、台湾海峡に面した宋・元時代の貿易港である。 マルコポーロが居た 1290
年頃の泉州は、アラビヤ、インド。ベネティア等の商人が集まる国際都市で、仏教、道教、
イスラム教の寺院が建ち東西の文明が交錯する異国風の町だった。 ...その泉州の 旧バラ
モン教寺院の石柱には、今尚インドの空想上の猿 ハヌマット像が遺されており、また開元
寺の塔には中国の鎧を着けた猿 ハヌマット像が残ると云う。...孫悟空が天空を自在に駆
け回るという発想は、西域のアラビアンナイトの奇想天外な空想世界にも繋がる。 ...「西
遊記」は、そんな西域の豊かな想像力を基に構想された小説である。 ...孫悟空のモデル
は昔の中国の鎧をつけたインドの猿 「知将ハヌマット」 であろう。 ...やはり孫悟空に
は中国陝西省の山奥に住む黄金色の猿 「キンシコウ」よりも、更に遠いインドや西域育ち
の空想上の猿の方が良く似合う。
猿をペットとして飼う場合には、
「動物の愛護及び管理に関する法律」 が適用される。 ...
法律上は猿の殆どは危険な「特定動物」に指定されていて、① ひと科のチンパンジー、ゴ
リラ、オランウータン属をはじめ、② おながざる科、③ おまきざる科...の猿を飼う場合
には同法 26 条に従い飼養、保管について知事または政令市長の許可が必要になる。 ...
ペットの猿も子供の間は可愛いが成長すると、ある日を境に鋭い牙をもつ野生の動物に変
身する。 飼い主が手に負えなくなれば周囲にも迷惑が及ぶ、猿の持つ病原菌にも注意が必
要。 ...病気の場合にも、通常の家禽や犬猫類と違い獣医師の誰もが危険な動物を簡単に
見てくれるとは限らない。 飼養・管理の費用共々、熟考の上飼うべきであろう。
参考書 :
中野美代子
西遊記の秘密
岩波書店