エジプトの新エネルギー(2)

エジプトの新エネルギー(2)
太陽熱発電とザファラーナ大規模風力
井田 均(市民エネルギー研究所)
ザファラーナへ
翌日は世界最大規模の風力発電の建設地、
ザファラーナを訪問した。この日、森島氏
は JICA の仕事が多忙だとかで参加できず、
私1人の見学となった。
NREA 差し回しの車は、カイロから高速
道路に乗り東へ、スエズ運河で有名なスエ
ズへ行く。そこからは紅海沿いに南下する。
海岸沿いの道には、新しい住宅やホテルな
どが建設中で、エジプトの経済発展を伺わ
せた。
昼近く。前方に風車群が見えた。最北の
建設地はスペインが資金提供したガメッサ
社製8
50kW 風車100基の事業に違いない。
これは2006年の年央に完成している。
Zafarana風力発電地帯の各国の土地利用形態
その南に立つのが日本の資金融資による
やはりスペイン・ガメッサ社製8
50kW 機
日本で風が強いといってもせいぜい毎秒
142基のプロジェクトだ。スペインのも日
7 m。8.3m や7.6m がいかに強い風か想像
本のものも、直径5
2m の3枚羽の風車を
に難くない。
使っているが、タワーの高さがスペインが
44m なのに対して日本は5
5m と高い。
日本の風車は建設の佳境
もともとここザファラーナは風が強い。
少し行くと右手に建物群が見えた。曲
南の地で太陽に熱せられ上昇気流が起きそ
がって近づいて行く。下車して建物に入る。
こへ北から空気が流入、強い風が起きる。
数人が出迎えてくれる。
NREA の測定によると、2005/2006年の
勧められるままに椅子に座るとテーブル
平均風速は毎秒8.3m、2006/2007年は同
に飲み物とお菓子が置いてあった。飲み物
7.6m だった。だがこれは地表から25m の
はマンゴ−ジュースだった。ちょうど昼時
高さで測定したもの。スペインの44m や日
だ。有り難く頂く。
本の55m ならこれより相当強い風が期待で
別の建物に入ると、NRAE の人がいた。
きる。
これまでのザファラーナでの風車建設の歴
−16−
日本が融資した風力発電の建設現場
史を聞く。
に違いない。
この約80平方 km の土地に、初めて風車
ドイツ政府系銀行の KfW が建設した
を建設したのは、DANIDA(デンマーク
80MW がこれに続く。
国際協力事業団)とドイツ政府系銀行の
次に建設されたのが我が日本の資金協力
KfW で2001年5月のことだった。ドイツ・
による120MW の事業だ。日本の JICA が
ノルディックス社製の600kW 風車を105基
134億9700万円を年利0.75%、10年据え置
建設した。3枚羽根の直径は4
3m、タワー
き40年償還という好条件で建設資金を融資
の高さは40m だった。これが第一期で
した。この契約は2003年12月に交わされた。
63MW。続いて第二期として、デンマー
ク・ベスタス社製の660kW 風車を117基、
2003年11月
(30MW)
と2004年6月
(47MW)
に相次いで完成させた。この風車は、3枚
羽根の直径は4
7m、タワーの高さは45m
だった。これでザファラーナの風車は
140MW になった。
続いてスペインの協力による事業が始ま
る。スペイン・ガメッサ社製の850kW 風
車100基の建設が2006年の年央に完成した。
3枚羽根の直径は52m、タワーの高さは
44m だった。これが私が車から初めてザ
ファラーナの風車として見えたものだった
今まさに建設が終了した風車
−17−
エ ジ プ ト 政 府 は 同 時 に1500万 ユ ー ロ
まず建設済みの風車群だ。建設地は平で
(2003年当時の1ユーロ=1241
. 円で換算す
はなく凹凸があるので写真は撮りにくい。
ると約20億円)と3億8400万エジプト£
次に建設中の一帯だ。タワーを建てるばか
(1エジプト£=20円で換算すると76億
りになった土台があった。次に今まさにク
8000万円)を拠出している。
レーン車が3枚羽根をナセルに取り付けた
建設したのはスペイン・ガメッサ社製の
ばかりの風車が見えた。急いで写真を撮る。
850kW 風車だ。この日本の風車、全部で
最後は日本関与の建設地の北側、スペイ
142基建設する予定だ。私がザファラーナ
ンの2006年完成の風車地帯だ。100基の風
を訪れた11月末段階では、建設が終わった
車が並ぶ光景は壮観だ。写真を撮って事務
のが70基台、試験運転が終了し売電を開始
所に戻る。
したものが40基台とまさに建設の佳境を迎
事務所にはスペインの風車メーカーのガ
えていた。
メッサ社の人がいた。
あ と 残 さ れ て い る 事 業 と し て は、
スペインからの風車機材の輸送の状況を
DANIDA
(デンマーク国際協力事業団)
が建
聞いた。
「スペインの港からエジプトのア
設するスペイン・ガメッサ社製の120MW
レキサンドリアの港までの海上輸送に2週
がある。
これが終了する2011年には、
ここザ
間。アレキサンドリアからここザファラー
フ ァ ラ ー ナ に は 総 計545MW(54万
ナまでの陸上輸送に2週間から4週間かか
5000kW)の世界最大級の風力発電地域が
る」という。陸上輸送になぜそれほどかか
出現する。
るのか訊ねると、
「通関に時間がかかるか
らだ」という答えだった。
日本の建設地を見る
風車機材の売り渡し価格を聞いたが、彼
「建設中の日本の風車を見ますか」
。聞か
は口ごもって答えない。日本の事業へとス
れて一も二もなく頷く。砂漠の中の見学だ。
ペインの事業へとで違いがあるからではな
四輪駆動車が用意される。車はかなり走っ
いだろうか…と私は思った。
て日本が融資した風車の建設地へ向かう。
気がつかない間に最早夕方の4時だ。こ
スペインの資金供与で建設された8
50kW機100基の風力発電地帯
−18−
こザファラーナは北緯28度。日本で言うと
奄美大島と同じ緯度だ。11月末のこの時期
は5時には日没だ。そろそろカイロに戻ろ
う。
車がスエズからの高速道路を走るころ、
夕日が地平線に落ちる。日本で見る夕日は
赤いがここエジプトの砂漠の夕日は赤くな
い。せいぜい少し黄色味がかった程度だ。
空気が乾燥しているためだろうか。
カイロの安宿へ到着したのは午後8時近
かった。運転手にお礼を言って別れた。
「酒を飲むなんて」
あとは旅の中で感じたこと。考えたこと。
カイロでは1泊2000円程度の安宿のアラ
ベスク・ホテルに泊まった。
野鳥の飛行ルートにも配慮
(NREAのパンフレットから)
エジプトでは飲酒はおおぴっらに認めら
れているわけではない。だから夕方になる
と、狭い食堂の片隅で密やかに缶ビールを
変われば品変わる=国によって習慣が違う
飲んだ。この缶ビール、
「ルクソール」と
という意味)と言うではないか」
。男はさ
いう名で、何とアルコール度数が10%もあ
らに「日本は間違った国だ」などと言う。
る。10%といえば、私がいつも飲んでいる
「楽しく男女で酒を飲める日本と厳しく酒
エビスビールの4.
5%の2倍以上だ。だが、
を禁じるイランとどっちがいい国かは、そ
いつもの調子で500ml 缶を2つのむと少し
れぞれの価値観によるのだ」と私としては
飲み過ぎになる。自制しなければならない。
珍しく正論を吐いた。
いつものように、飲んでいた。そこへ男
そこへホテルの従業員が来た。従業員は
性が来た。そのイラン人の男は、私が飲ん
イラン人にアラビヤ語で何か言い、イラン
でいるのを見ると、
「酒を飲むなんて。お
人は去っていった。従業員はあるいは「こ
前は何てダメなやつなんだ」といきなり言
の日本人は単なるアル中だから相手にする
う。続いて「日本では女もお前みたいに酒
な」といったのかも知れない。もしそうな
を飲むのか」という。
ら、それでもいい。
フェミニストを自認する私は、
「ムッ」
翌日から私はビールを食堂ではなく自分
とした。
「ああ、そうだ。どこがいけない。
の部屋で飲んだ。
Different countries different customs(所
−19−
(つづく)