説明の要旨 ○ アルゼンチンアリの主な被害について 生態系への影響はもちろん、屋内侵入による不快害虫としての被害が問題となってい ます。世界的に生息が確認され、防除が行われていますが、根絶には至っていません。 現時点では、いかに屋内侵入を防ぎ不快感を減らすかが最大の課題です。 ○ 今後、地域で防除を行う際、マニュアルを参考にしてください。 ○ 防除の考え方について ① 侵入初期段階(早期発見・早期対応)…数が少ないうちに対処することが重要で す。しかし、この段階で見つかった事例はありません。 ② 侵入範囲拡大段階(侵入範囲拡大の防止)…すでに侵入している範囲と、まだ侵 入していない地区との境界では、在来アリとせめぎあっている状態です。侵入拡大 を防ぐため、その境界での防除が必要です。その際、在来アリが一時的にいなくな ることがあっても、また後で、周りから戻ってくるので問題はありません。 ③ 広域定着段階(被害の低減・抑制)…広範囲にわたって侵入している状態です。 廿日市市中心部はこの段階に該当します。現実的には、完全に駆除することは難し いので屋内侵入を防ぐことが課題となっています。 ○ まだ被害の出ていない地域に関しては、いかに早期発見・対応するかが重要です。 ○ 一斉防除の必要性について ⇒ アルゼンチンアリの特徴として巣が巨大になる点が挙げられます。ある一軒が頑 張って防除しても、隣の家から入ってくるということがあります。したがって、地 域全体で防除を行う方が効果的です。 ○ 一斉防除に使う薬剤について ⇒ 様々な薬剤があるなか、ベイト型(えさ型)殺虫剤を使用します。目の前でアリ が死なないので効果がすぐに確認できないが、巣の中のアリも殺すという点では効 果が認められます。 ○ 特異なコロニー体系について ⇒ 多女王制 ひとつの巣に多数の女王アリが存在します。 (多くの日本のアリはひとつの巣に対 して女王アリは一匹です。 ) ⇒ 多巣制 巣が一か所だけでなく、離れた場所に小さい巣が多数あり、つながっています。 また、それぞれ巣の家族の境目がありません。(日本のアリは同種のアリでも女王ア リが違う場合えさの取り合いをする。) ⇒ 町全体が巣や行列でつながっていて「スーパーコロニー」と呼ばれています。 1 ○ 一斉防除がなぜ効果があるのか ⇒ 地域で協力し同調して(同日に)一斉に防除を実施することにより再侵入を防ぎ ます。 ⇒ スーパーコロニー全体にダメージを与えることが可能です。 ⇒ 結果的には個別対応の防除よりも低コストで実施可能です。 ⇒ ベイト剤(えさ型殺虫剤)を中心に使用することで、余分な殺虫成分による土壌 や地下水への影響など、環境への負荷を最小限に抑制できます。 ⇒ 川や海、幅の広い道路等で区切られた範囲で防除を行うことで、より再侵入が起 こりにくくなります。 ○ ベイト剤のしくみ ① えさとして認識されます。 ② 巣に運搬されます。 ③ 巣の中で、自分たちだけでなく、幼虫や女王アリにも分け与えられます。 ④ 少し時間が経ってから殺虫成分の効果が表れ、アリが死亡します。 ⑤ 巣が崩壊します。(崩壊するところまで至るのは難しいかもしれない。 ) ○ アルゼンチンアリの一斉防除の手順(マニュアル P.2) ① 防除範囲を決める ② ベイト剤を準備する ③ 一斉防除を実施する この手順を説明します。 ○ 防除範囲を決める(マニュアル P.3) ⇒ 防除範囲を決めたら、原則、全戸が参加・協力して取り組むことになります。 ⇒ 範囲の設定方法 侵入範囲全域を防除範囲とします。全域が難しい場合は広い道路や水路で区切ら れた範囲で設定します。自治会単位や班単位で区切らざるを得ない場合もあるかと 思います。その際、自治会や班の境界線と、広い道路などで区切る範囲とを、うま く調整することが重要です。 ⇒ 防除を行うとその外へ(現在いないところへ)アリが逃げる可能性があるので、 侵入範囲よりも少し広めに範囲設定する方が良いです。 ○ 次に示すアルゼンチンアリの特徴により、アリを見分けて、侵入範囲を確認します。 ○ アルゼンチンアリの特徴(マニュアル P.3、詳細は資料編 P.1,2) ⇒ 体長2.5mm ⇒ 茶色っぽい ⇒ 動きが速い ⇒ 次のようなアリは違います・・・体長3ミリメートルを超えるような大きさのア リ。メリハリのある体型(鉄アレイのような形)をしたアリ。頭や腹、胸の色合い 2 が異なって見えるアリ。 ○ アルゼンチンアリの見分け方(マニュアル資料編 P.2) ① 体の色は茶色であるか? ⇒ Yes…②へ。No…黒~灰色、または橙色~黄色の場合在来アリ。 (白い色の ものの上では黒っぽく見えることがあるので、地面の上などで判断します。 ) ② 体の大きさは2.5~3.0mm 程度であるか? ⇒ Yes…③へ。No…在来アリ。 ③ 体はスマートであるか? ⇒ Yes…最後はじっくり観察。No…在来アリ。 ⇒ 最終的な判断の段階で、アルゼンチンアリと似ている在来のアリとして「オオ ズアリ」や「トビイロシワアリ」等が存在します。細かい特徴はマニュアルの方 で確認してください。動きが早く、家の中(畳の上や、壁)に入ってくるような アリはアルゼンチンアリである可能性が高いです。 ○ 以上を参考にアルゼンチンアリの侵入範囲を確認して、自治会や班によってどこまで やるかを決めてください。 ○ ベイト剤を準備する(マニュアル p.4) ⇒ ベイト剤は、アリにえさとして認識してもらい、巣に持って帰ってもらわないと 効果がありません。当時市販されていた何種類ものベイト剤で実験してみた結果、 比較的アリがよく集まったもの2種類を使用することにしました。 ⇒ 地域で一斉に行うので、少量ずつ小分けにして使える業務用のものを使用します。 ○ 下記の2種類の薬剤を小分けにして、それぞれ1戸あたり20個ずつ使用します。 ○ アンツバスター ⇒ 顆粒状。 ⇒ 有効成分はヒドラメチルノン。 (ゴキブリ退治にも使われる成分) ⇒ 1本で27戸分です。 ○ アリメツ ⇒ 液状。ほとんど、砂糖水。 ⇒ 有効成分はホウ酸。 (ゴキブリ退治にも使われる成分)その成分以外はほぼ砂糖水。 ⇒ 1本で5戸分です。 ○ 購入方法としては、インターネットを利用してください。 ○ その他必要なものは以下の通りです。 ⇒ マイクロチューブ…1,000個(25戸分) 。インターネットにて購入します。 1,000個で3,000~5,000円くらいです。 ⇒ 綿棒 ⇒ スポイト 3 ○ ベイト剤を小分けにする手順について(マニュアル P.5) ○ アンツバスターの小分け手順 ① ビンに入っているアンツバスターをタッパーなどの容器に移しチューブですくっ てください。 ② 0.5ml の目盛りに調整してください。 ③ ふたを閉めて完成です。 ○ アリメツの小分け手順 ① 綿棒の先を3㎝以下に切っておいてください。 ② スポイトで0.5ml の目盛りまでアリメツを入れます。 ③ アリメツの入ったチューブに綿棒の先を入れます。 ④ ふたを閉めて完成です。 ⇒ 綿棒を入れる理由は、次の2点です。液体のままだと設置したときにこぼれやすい からです。そして、アリが吸うときに液体の面しか吸えないと効率が悪いので、アリ がたくさん吸える状態にします。この綿棒は、小さい綿球などで代用可能です。 ○ フマキラー㈱社製のベイト剤『アルゼンチンアリ ウルトラ巣ごと退治』を使うのであ れば、買ったものをそのまま置くことが可能です。値段はアンツバスターとアリメツを 使用する場合よりは高めですが、手間がかかりません。 ○ ベイト剤を2種類使用する理由について ⇒ アリのえさとして、親はエネルギーとして糖分を必要としており、幼虫が育つに はタンパク質が必要であるためです。 ⇒ フマキラー㈱社製の商品の場合はおそらく、この2つを兼ねているので2種類使 う必要はありません。 ○ 一斉防除を実施する(マニュアル P.6,7) ① 実施時期 ⇒ アリの生活サイクルを考慮します。アリの数は秋が一番多いです。しかし、5月 下旬~6月下旬にかけてが、年に1回ハネアリ(オスアリ、女王アリ)が出てきて 交尾する時期です。この時期に、防除する方が良いと考えています。 ⇒ 晴天が続く週を選びます。ベイト剤が濡れてしまうこともありますが、何よりも アリの活動が鈍るためです。 ⇒ 夕方の日が傾いた時間帯以降に置きます。ベイト剤に直射日光が当たると劣化し てしまうためです。 ② 設置期間 ⇒ 1週間~10日間です。 ⇒ 設置期間中であってもチューブの中身が空になっている場合は回収しても構いま せん。 4 ③ 設置場所 ⇒ 1戸あたり20箇所です。 ⇒ 家の敷地については、角には必ず置いてください。 (行列の交差点であったり巣だ ったりするため)周囲に置いて余ったものがあれば、壁や柱などの基礎沿いに置い てください。 ⇒ 道路、駐車場、空地といった民家以外の場所については、できれば5mぐらいの 間隔で置いてください。 ⇒ マニュアルで推奨している方法で行う場合、2種類のベイト剤(アンツバスター とアリメツ)を同じところに置いてください。20箇所で合計40個です。 ⇒ アリの行列の横に置いても、アリが来ないということもあります。行列がすでに 見つけたえさを運搬している、といった別の目的を持って動いている場合、新しい えさに興味を示さないことがあります。この場合、行列から少し離れたところに置 いて、えさを探している偵察アリに見つけてもらうようにすれば良いです。 ○ ベイト剤を取り扱うときの注意事項 ⇒ 液体のものはなるべく逆さまにしないように注意すること。 ⇒ 置いたベイト剤は必ず回収すること。 ⇒ 捨てるときにはふたを閉め、自治体のゴミの分別に従って廃棄すること。 ⇒ 設置・回収中に交通事故に遭わないよう注意すること。 ⇒ 保管時に小さい子が触らないように注意すること。 ⇒ マイクロチューブはふたを開けると意外と転がりにくいので、少々風が吹いても 設置した元の場所にあります。 ○ 地域で行うとき、説明会を開く必要があります。 ⇒ 置き方の説明や、何日から行うか(スケジュール) 、など。また、そのときにベイ ト剤を配る方法も考えられます。 ○ 地域外の方への周知 ⇒ 町中にベイト剤を置いたあと、地域外の方、特に子どもへの、注意喚起が必要と なります。貼り紙で知らせる方法があります。また、できればその校区の小中学校 にお願いして、朝礼時などに学校側から周知してもらえれば良いと思います。 ○ 一斉防除にあわせて防除効果を高める方法(マニュアル P.8) ① 白い粒(卵や、幼虫、蛹)を運んでいるアリを見つけたら、液体の殺虫剤を使用 します。一斉防除のときのみならず、他のときでも見つけたら使うと良いと思いま す。 ② 植木鉢やプランターの下は巣になりやすい。巣を作りにくくするために、普段か ら台の上に置くなどの工夫をしてください。 ③ 空地は、一斉防除の際に手薄になりやすく、そこから再侵入してしまう可能性が あります。草の根もとが巣になりやすいので、草が生い茂っている空地があれば草 5 を刈るようにしてください。 ④ アブラムシやカイガラムシが出す蜜はアルゼンチンアリのえさとなります。薬を 使用したり、枝を切ったりなどして、駆除しておくと良いです。また、一斉防除に 合わせて行うのであれば一斉防除の前に駆除しておくと、他のえさを求めてベイト 剤を食べる可能性が高くなり、防除効果が上がると考えられます。 ○ 防除効果を評価する方法(マニュアル P9,10) ① 砂糖水を含ませた脱脂綿を用意します ② 調査時期 ⇒ 1回目…防除の実施前です。 ⇒ 2回目…防除を実施した年の9月です。 (防除後すぐに行っても良いですが、アル ゼンチンアリの数が多くなる時期に行うものとします。 ) ⇒ 雨が降らない日に行います。 ③ 調査方法 ⇒ ピンセットを使い、砂糖水を含ませた脱脂綿を地面に置きます。 ⇒ アルゼンチンアリか否かを判断し、脱脂綿に集まったアルゼンチンアリの数を数 えます。 ⇒ 数が多い場合、10以下、30、50、100、100匹以上、など概算で数え ます。 ⇒ 2回の調査で脱脂綿を置く場所は同じ場所とする。 (アリが集まりやすい場所) ④ 評価方法 ⇒ 一斉防除を行わない場合、秋に向かってアリが増えていくことと、年に1回、女 王アリとオスアリが出てきて交尾をする時期である、5~6月ごろに防除すること を想定します。 ⇒ 以上より、6月(防除前)と9月(防除後)に調査を行うと仮定します。 ⇒ 例えば、防除前、6月の調査で、1,000匹いた場合、9月の推定個体数は3. 3倍の3,300匹となります。 (換算倍率など、詳細はマニュアル P.10 を参照のこ と) ⇒ そして防除後、9月の調査で、実際1,200匹だったとします。 ⇒ この場合、3,300匹になるところを、防除により、1,200匹まで削減(約 65%削減)できた、と考えられます。 ⇒ ここまで削減できると、9月になってアルゼンチンアリはいるものの、家の中に 入ってくるといった被害が減ったと感じられるようになります。 ○ 事例の紹介(マニュアル P.11,12) ⇒ 廿日市市桜尾で行った一斉防除試験を紹介します。 6 ⇒ 防除範囲…150戸、約6ヘクタール 東と南は川や海に面しており、また西側は広い道路で区切られている、比較的理 想に近い形の範囲となっています。 ⇒ 使用したベイト剤…アンツバスター、アリメツです。 ⇒ 設置期間…1週間です。 ⇒ その他…補助的に液体の薬剤を使用しました。 ⇒ 殺虫剤にかかった費用…1戸1回あたり住宅分で約1,500円です。(防除効果 の評価分を含んでいるため、少し高めになっています。 ) ⇒ 平成21年10月、平成22年7月の2回に防除を実施しました。 ⇒ 防除しなかった場合に比べて、アリの数を約95%削減できました。 質疑の要旨 Q.桜尾での事例に関して。空き家などは無かったのか?持ち家、借家なども全員が賛同 して行ったのか? A.(当時の町内会役員)⇒ 集合住宅・借家でも行いました。留守宅は隣にお願いしまし た。空地は所有者不明でしたが、だまって行いました。海岸の堤防は広島県所有のものな ので、県に説明して行いました。廿日市中学校に関しては、地元説明会の段階から教頭先 生に出席していただき、職員、生徒さんの協力のもと行いました。 廿日市高校は県立のため、中には入れず、フェンスの外にベイト剤を置きました。しかし、 完全にはできず、その後フェンス沿いの民家からアリが入ってきた、という報告がありま した。また町内会の中にも、そういうことは一切やらない、ベイト剤を置くな、という方 がいて、そういう方に強制することはできませんでした。結果として完全な防除とはなり 得ませんでした。 Q.アルゼンチンアリの侵入原因は木材港に入った輸入木材から、ということだが、現状 では完全に駆除してから入っているのか?また、害を発生させた木材輸入業者に、防除に 関する費用面などにおいても、責任があるのではないか? A.(講師)⇒ 木材港から入ったという話は、推測に過ぎず、本当に木材港から入ったか どうかは分かりません。アルゼンチンアリは木材の中に巣を作るアリではなく、物の隙間 や下、地面に近い所に巣を作ります。いろんな所に飛び火して広がっている様子を見てみ ると、国内では土木工事の土の移動や、街路樹について移動しているようです。初めに廿 日市市で見つかったので、木材港では、というイメージがありますが、はっきりとは分か りません。 7 現在、木材港周辺、木材を揚げている近辺にアルゼンチンアリはほとんどおらず、代わり に、在来のアリが見られます。現在は、広島県が燻蒸により殺虫・消毒を行っております。 どこから入ってきたのか分からないので、責任追及は難しいと思います。 Q.薬剤について、 「アルゼンチンアリ」と表記されているが、在来のアリも含まれるのか? それともアルゼンチンアリのみなのか? A. (講師)⇒ 市販されているフマキラーの商品で、「アルゼンチンアリ」と表記されてい るものは、アルゼンチンアリを意識して作られているが、他のアリにも効きます。また、 「ア ルゼンチンアリ」と書かれていなくてもアルゼンチンアリに効きます。 アルゼンチンアリは薬剤に強いというわけではなく、数が多く家の中へ入ってくるので問 題となっています。アリの殺虫剤がかかれば死にます。 Q.おすすめのベイト剤として2種類の薬剤が紹介されているが、その2種類の成分を含 んでいるのが、フマキラーの「ウルトラ巣ごと退治」なのか? A.(講師)⇒ 紹介されているベイト剤のアンツバスター、アリメツに含まれている有効 成分と、フマキラーの商品に含まれている有効成分自体は異なります。アンツバスターに 入っているものはヒドラメチルノン、アリメツはホウ酸です。フマキラーの商品に入って いるものはフィプロニルです。親のアリはエネルギーとして糖分を食べ、幼虫を育てるに はタンパク質がいります。試験当時、その両方の入ったものがなかったので、事例では2 つ使いました。フマキラーの商品は、糖分とタンパク質という、餌としての部分を2つ兼 ね備えています。 Q.市ではどのような援助、指導を考えているのか? A.(市)⇒ これまで3年くらいかけて、広島県や山口県に協力していただき、マニュア ルを形にして、皆さんに説明できるようになりました。今年度は、町内会などで取り組む 際に助言などサポートをさせていただきたいと考えています。問題となる、空地の所有者 が見つからない場合や、草が生い茂っていて困る場合など、ご連絡いただければ市から連 絡を取ることも行います。また、学校や公園、保育園など、市や県、国の施設があったり、 広範囲に及んだりと、いろんな事例があると思いますので、個別に相談に応じ、市の施設 であれば薬剤の設置などといった対応を考えています。 8
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