「すごろく」で行う金融教育~中高生に向けた講座の検討からの提案~

第31回2015年ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」
最優秀作「内閣府特命担当大臣賞」
「すごろく」で行う金融教育~中高生に向けた講座の検討からの提案~
目白大学社会学部(東京都在住)
千葉大祐 篠田康太
I.
はじめに
私たち 2 名は、「主体的に学びたい」という思いから、大学入学当初より消費者問題に関する自主的な勉強会
を行ってきた。その中で、消費者が安全で安心な暮らしができるための行政機関である消費者庁の設置や消費
者教育推進法が施行されたのは最近であること、また消費者市民社会の構築が重要であることなどを知った。ま
た私たちには消費者教育を受ける権利があることを知り、大学生である自分たちは教育を受けるだけでなく、消
費者市民として伝える役割(消費者教育を実施する役割)も担えるようになりたいと考えるようになった。昨年は、
その構想を千葉が「学生と連携した消費者教育 ~大学生が小中高生に実施する金融教育の提案~」としてま
とめたところ、第 30 回の「わたしの提言」に入選するという思いもかけない幸運に恵まれた。
千葉の入選をきっかけに私たちは、自分たちが実施する消費者教育の実現に向けて活動しながら学んでい
こうと決意した。それは想像以上に難しいことであったが、多くの機会に恵まれ、また多くの方々から様々なことを
教わり、より深く考え学ぶことができたと感じている。そこで今回は、お世話になった方々への謝辞として、私たち
のその後の 1 年間の活動を報告するとともに、その成果として企画中の「中高生に向けての消費者教育の講座」
について述べることとする。
II.
企画の準備(実行してきたこと)
1.
消費者教育学生セミナーへの参加
今回、消費者教育を実施するに当たって、まず自分たちが教育の概念や必要性について正しく知ること、実
際に教育手法を学ぶことが大切だと考え、また他大学の学生との交流も目的に、2015 年 9 月、日本消費者教育
学会が主催する「消費者教育学生セミナー」に参加した。セミナーでは、消費者市民社会の一員になるために
私たちが社会問題に目を向け、少しでも解決に向けて行動を起すことが重要であり、教育の重要性や教育によ
り意識を変えることができる可能性を実感できた。また、テーマがみんなでつくる消費者教育であったが、参加者
が皆で考えられるものにしなくてはならないと感じた。以上の学びをふまえ、講習会を行うにあたっても、どのよう
に伝えたいことを相手に印象付けられるかを考えるようになった。参加者みなが理解し、考えるものにするために
は、演出や演技など単純なものではなく、主体性のある学びにしなくてはならないと改めて感じることができた。
2.
消費者教育支援センターへの訪問
上記研修で学んだことをふまえ、中高生に向けた講座を実施する予定であったが、集客や講座の内容など企
画の段階で構成が順調に進まず、消費者教育支援センターに相談に伺った。私たちの当初の企画は、金融教育
を行うものであり、おもにクレジットカードの仕組みについてロールプレイングとシミュレーションを行うというもので
あった。しかし訪問して相談したところ、一番の問題は「中高生がクレジットカードに興味を持つのか」というところ
ではないかと指摘を受けた。いきなり中高生が使えもしないクレジットカードを題材としても、そこに興味がなけれ
ば意味がないということを告げられた。私たちは中高生のニーズをしっかりと探ることが重要だと改めて気づいた。
カードといっても、多くの種類があること、プリペイドカードやポイントカード、高校生からでも使用できるデビッ
1
トカードがあることにも気付いた。また最近では iTunes カードや LINE カードなどネット上で使えるカードもあり、
そちらも中高生にとってはなじみ深いものではないかと教えていただいた。そこで講習会を第一回、二回、三回
と分ける方法を提案していただき、初めにカードや LINE に関する内容、ネットサービスなどと絡め興味を引き、
徐々にクレジットカードに内容を持っていけばよいのではないかという提案をいただいた。
また、カード会社や LINE などの企業にインタビューなど行い、皆が知らないような情報を聞き出すことが出来
れば、興味を引くことができ、教科書にはない知識を教えられたられる可能性があるとも教えていただいた。
さらに、消費者トラブルを面白おかしく落語家が話す寸劇による魅せ方があり、普通に話すより印象深いもの
になるということである。落語家が消費者問題や悪徳商法などをテーマにして落語を演じてもらう形式である。立
教大学などに落語研究会があると聞き、頼んでみるのも良いと感じた消費者問題を伝える啓発活動のひとつに
もなると考える。
そして、10 月に行われる消費者団体や協力団体などが集まるフェスタに参加してみたりすることも、意見交換
をしたり、私たちの活動に協力していただく機会となったり、私たちが協力できることなどもあるかもしれないので、
相互関係が築けるよい場となると感じた。さらに自分たちの行う教育を実際に実施してみて評判を聞くこともでき、
改善点を早期に見つけることができるという利点もある。
以上のように、消費者教育支援センターへの訪問によって、①カードの着眼点、ニーズを知る、②講習会の
分割、③教科書に載っていない新知識の教授、④落語を使った魅せ方、⑤交流フェスタへの参加、の5つのア
イデアを頂いた。
3.
聞き取り調査
前項目で述べたように、中高生のカードに関する、意識や興味、認知がどれほどあるのかを知るために聞き取
り調査を行った。今回は時間があまりなかったために、私たちの妹と弟、その友人合わせて 6 名(中学生 3 名、高
校生 3 名)に協力してもらい、わずかではあるが調査を実施した。調査形式については聞き取り調査に雑談を交
えながら行った。
質問項目については、以下のとおりである(アンケート用紙『資料 1,2,3』)。
・年齢、性別などの属性項目・導入としてカードについての興味
・種類別に分けたカードについて自身が知っているカードについて
・自分自身が持っている、もらったことのあるカード
・カードを利用する場所
・お金に対して、管理や意識があるか知るため銀行口座の
有無と、目的
・中高生が使うネットサービスについて
・ネットやカードについてのトラブルについて周りで起きていること、
自身が想定できるトラブルについて
なお、知っているカードがあるか、と急に聞かれてもなかなか
出てこないと予想し、あらかじめある程度のカードの写真を掲載
した用紙を用意し、行き詰った時に見せることとした。これにより、
自身が知っているカードを思い出すキッカケとなり、実際調査を
した時も大いに役に立った。
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調査結果は、カードのついての名前や認知は多少あるものの、前払い、後払いなどの支払いの違いがわから
ず、場所によってどのカードが使えるのかもわからなかった。カードの利点などの知識がなく、最も問題なのは、
クレジットカードはもとより、あまりカードに関して意識や興味がないということであった。本調査を行って、基礎か
ら分からない事ばかりなので、段階を積んでやっていくことが重要であると気付くことができた。
III.
企画案 (~大学周辺の子供とその親、地域の方を招く学生が実施する講習会~)
これまでの活動成果を踏まえ、私たちは大学の学園祭という様々な方が集まる行事の際に大学の施設を借り、
実行する講座を企画している。これは、私たちが中学校等で講座を実施するのは非常に難しいとわかったこと、
その一方で大学のイベントの時に同時開催すれば、注目も集めやすく、気軽に参加してくれる方も多くなると考
えたためである。
そして具体的な内容であるが、まず何より学生ならではの魅力を取り入れる必要がある。現在、私たちは以下
の内容を企画し少しずつ準備を進めているが、もちろんこれを全部一度に実施するわけではない。その時々の
時間や場所などの状況や対象者に合わせて、組み合わせていきたいと考えている。
1.
落語研究会の余興
大学で活動している落語研究会を招く。目的としては
金融やカードがもつ重たいイメージを払拭するため。同
時に本講習会が堅苦しいものではないというイメージを
与え、参加してくれる子供たちにリラックスしてもらうという
ものである。カードを使った際の失敗談や被害を、教訓
として面白く落ちとして披露してもらう。
ただし、私たちの通う大学に落語研究会はないので他
大学から招くことになる。しかしそうすることで大学間の距
離が近くなるだけではなく落語研究会に所属する大学生も消費者教育に触れ、一緒に考えることが出来る。
2.
自らによる講義
ただカードの紹介や仕組みを教えるのではない。一番大切なのは飽きさせないことだと考える。人は飽き
てしまうとそれに対する情報をシャットアウトしてしまう。カードや家計に興味を持ってもらうには、ビデオやク
イズを交えながら難しいことではないと子供たちに伝える必要がある。ビデオは行政が提供しているものを
活用し、クイズは直感的な○×問題が良いと考える。内容としては以下のようなものを考えている。
①
カードの種類・特徴
クレジットカードに関しては還元率や使用限度額、引き落とし日などそれぞれに違いがあり学生カードも
同様である。そこで学生である私が実際に経験したカードを選ぶ際に注目したポイントを説明していく。大
人が説明するより「学生による」という特長が活かせる点であると考える。
②
カードと資金をつなぐ仕組み
プリペイドカードやチャージできる IC カードは子供にとっては身近な存在である。しかし、外見がお札で
はなくカードでかわいいイラストなどが書いてあるために「お金」という意識が薄い。そのためセキュリティが
甘くなる傾向がある。中学生でも仕組みを分かっている子は少なく、トラブルに巻き込まれやすい。クレジッ
トはもちろん、カードごとに仕組みを理解しお金の大切さを再確認することを目的とする。
③
家計簿を使った資金運用
家計簿をつけるということは自分自身との相談である。現金で支払う場合であっても、いくら使ったかが明
3
白になることで自制心が養われる。クレジットカードは引き落とし日が1~2ヶ月後である。自己破産しないた
めにも記録をし、計画的使用が必須である。中高生といえどもお年玉でやりくりする子、高校生になればア
ルバイトである程度の収入がある子と自分自身でお金を管理する子も少なくはない。また大学生になれば、
クレジットカードを必要と感じる機会も多くなる。そのような点から家計簿の存在と資金管理の重要性を理解
する必要がある。
④
トラブルの回避と対処
カードは便利が故の盲点がある。そういった部分について実例を交えながら解説し、法律と絡めながら解
決法を一緒に探っていく。解説はあくまで準備段階であり、「INPUT」である。この講習会で最も重要視した
いのは、「OUTPUT」の部分であるグループワークである。
3.
企業の裏話・新情報
これはいわばブレイクタイムとしての企画だが、私たちの目玉になるとも考えている。
現在スマートフォンが普及し中高生でもインターネットが身近になり、IT 企業も身近なものになっていると
いえるのではないかと考える。LINE、Amazon、Yahoo、Google、Apple 等の企業はネット上で商品を提供し、
中高生はプリペイドカードや親のクレジットカードを使い手に入れる時代になった。今の若者にとってはそ
れが当たり前だが、研究・制作秘話やカードを使って現在はインターネットでどこまで活動ができるのか等
を聞くために、広報の方を招待又はインタビューしたいと考えている。また特にインタビューしたいのが家計
簿のアプリケーションを制作している企業である。現在はスマートフォンで手軽に家計簿(おこづかい帳)を
つけることが出来るようになり、自分の性格などに合わせたアプリを選ぶことが出来る。中高生は特にアプリ
ケーションには敏感である年代なので興味を惹けるのではないかと考える。
4.
グループワークでのすごろくゲーム
聞き取り調査を行った結果、子供たちに伝える際に何が重要かが見えてきた。それをカバーできるのが
「すごろくゲーム」なのではないかと私たちは考えた。その理由として以下の 6 つがあげられる。
①
様々な体験をする
子供たちがなぜカードに対する興味や知識がないのかというと、それは使う場所がないからである。ならば、
私たちが作ればいいということで、一つずつコマによって違う場面を設定し、インターネットでの買い物や店
頭など多くのパターンや場所でのカードの使い方を体験することができる。
②
カードがどのようなものか確認できる、知れる
様々なカードがありそれぞれに特徴がある。最近注目されはじめたデビットカードや子供たちの憧れである
クレジットカード、口座を持つと身近になるキャッシュカードそれぞれに子供たちは印象を持ち興味がある。
しかし、知識は無いのでカードを実際に手に持ち特徴やメリット・デメリットを理解することができる。
③
メリット・デメリットを理解した上で自分に合ったものを選ぶことができる
そして、自分にあったお金の使い方、お金の使い方にあったカードが見えてくる。ゲームをした後に自分に
合っているものや合っていないものを分析しなぜそう思うのかを考えさせることで意識が高まり将来に結び
つくと考える。
④
第三者の視点で観察・考察することができる
すごろくは何回も自分の番がくる。ということは理解して実行の繰り返しである。さらに同グループの人たち
を見ることでも客観的に観察することができる。
⑤
トラブルに対して正しい対処法を知れる
4
また、カードは便利だがそれに応じたリスクが伴う。それを実際にあったトラブルや想定されるトラブルを疑
似体験することで適切な対処法を考え今後に活かすことができる。
⑥
家計簿を作る
体験するのはカードのことだけではない。職業カードに記載してある収入とゲーム内の支出のバランスを考
え、家計簿に記入して資金運用していく。講義で家計簿のことをやっただけでは定着することはない。しか
し、ゲーム内で実践することにより「管理」ということの重要性を確認する。
実際のゲームとしては、次のようなものを現在作成中である。
まず、参加する子供たちには収入が記載された職業カードと作り物のクレジットカードやプリペイドカードを渡
す。それらにはカードの名称、特徴、メリット・デメリット等を記入してある。さらにすごろくのマスには場所や支払
額・使えるカード・注意点を記入しゲームを進める。マスはお店だけでなくインターネット上の取引や詐欺師も登
場させ子供たちに考えさせるものにしたい。
例)カード
例)すごろくのマス
ゲーム終了後は実際に使ってみた上で特徴を踏まえ、使いやすいもの又は自分に合っているものを考える。
なぜそう考えるのかをグループ内で意見交換することで新しい発見や考えが芽生えカードに興味を持つきっか
けになると考える。
IV. おわりに
これまでセミナーに参加し、さまざまな手法を知ることができたり、センターの職員の方のお話を聞くなどの機
会に恵まれ、一年間で成長することが出来たと感じているが、この取り組みはまだまだ始まったばかりであり課題
も多い。しかし、今回の活動により私たちの方向性として「すごろくゲーム」の作成を軸とした講座の実施という目
標が見え、これからさらに取り組みを進めたいと考えている。最後にこの機会を与えてくださった ACAP の方々や
支えてくださる先生方に感謝し、この企画を進めることにより消費者教育の推進に少しでも貢献できるよう努力し
ていきたい。
〈画像引用〉
イラスト著作者 Vector Open Stock
〈http://free-illustrations.gatag.net/2014/05/27/030000.html〉
ライフカード〈http://www.lifecard.co.jp/〉
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資料 1
カードアンケート
対象者プロフィール
年齢
カードについて興味のあること・知りたいこと
性別
家族構成
知っているカード
クレジット・デビット
プリペイド
クオ
キャッシュ
ポイントカード
その他
6
資料 2
持っているカード
カードをもらったことがあるか
カードを利用する場所
ネット
店舗
その他(電車、自動販売機など)
口座を持っているか?目的は?
よく使うネットサービスと支払方法(課金を含む)
自分または友達がトラブルに巻き込まれたことはあるか
どんなトラブルが考えられるか
カードについて困ること、わからないこと
7
資料 3
8
[審査委員長からのコメント]
外部の方にヒアリングを行うなどして、昨年度の提言をレベルアップした取り組みを行っており、独創的で
実践的な提言となりました。教育手法に工夫を凝らし、カードを使ったゲームをさらに進化させる努力が見ら
れました。試行を積み重ねてさらなる成果を期待します。
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