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No.2521 「伝える思い三題」

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じいさんのひとりごと
NO.2521
伝える思
える思い三題
(その1) 給食の準備時間になると、時々、職
員室分の運搬のお手伝いをしている。私はご飯か
パンの入ったケースを運ぶことが多い。
コンテナ室からそれらのケースを持ち出すとき、
最後に全ての運搬の確認した校務担当の K さん
の明るい声が背後に響く。
「頂いて行きまーす!」
調理員さんたちに向けての一言だが、この声が
聞こえてくると何だかとてもいい気持ちになり、
重たいご飯のケースも心地よく運ぶことが出来る。
(その2) 2年生の美術の授業が始まるときだ
った。女子生徒の高い声が響いた。
「扉が動きません」
制作途中の作品がしまわれている備え付けのロ
ッカーの扉が動かなくなってしまったようだ。
すぐにその場に行ってみた。
外れてしまった扉なら、はめて直せばいいと簡
単に考えていた。ところがどうしたことか、スチ
ール製のロッカーの扉は簡単には直らなかった。
外れたまま、半分ほどは動いたので、その状態
で生徒の作品を次々と出した。開かない扉の陰の
作品は腕をぐっと伸ばして取り出した。
作品は何とか全て出すことが出来、生徒らは自
分の作品を手に席に着いた。
授業は始まった。授業者はきょうの活動の説明
をしている。その説明を小耳に挟みながらも、改
めて一人で扉をはめることに再挑戦してみた。
いくら頑張っても扉は直らなかった。
天板を上に引き上げてみた。全く動いた感じが
しなかった。それに天板に両手を掛けたら、扉に
手が掛けられなくなってしまう。
困った。
授業者の説明が終わるのを待った。
待ちながら、近くにいる男子を一回り見回しな
がら、誰に頼むか考えていた。
授業者の説明が終わり、それぞれ個別な作業に
移った。
元気のいいバスケット部の H 君に声を掛けた。
「力を貸してくれるかい。ここに手を掛けて上
に持ち上げてほしいんだが・・・」
その間に扉をはめようと考えていた。
H 君は天板に力を加えた。そして私は扉をは
めようと・・・。
「だめだよ。動かねえよ」
H 君は瞬時にあきらめの言葉を口にした。
でも、私は何とか H 君と力を合わせていい結
果が得たかった。
「役割を替わろう」と言ってみた。
そして、天板を持ち上げる役に回った。
H 君がつまらない怪我をしないように、気を
つけながら力を入れた。それでも、やっぱり扉は
直らなかった。
2度3度息を合わせてみた。
どうにもならないかなと思いかけたときだった。
別の男子の左手が、天板にかけている私の両手
に並んで伸びてきた。
(エッ!?)と思った。
O 君だった。
(確か左利き)と、とっさに思った。
O 君がマウンドで投げている姿を、今まで幾
度も見ていた。そのサウスポー姿が脳裏に浮かん
だ。
(ウワッ、将来有望な黄金の左腕だ!)と、思
ったが口に出すだけの心の余裕がなかった。
O 君と息を合わせる形で天板を持ち上げた。
ほとんど動いた感じはなかった。が、その時 H
君の声がした。
「動いた。あっ、はまるかも!?」
うまくいった。
二人に感謝の思いを伝えた。そして、授業の活
動に戻した。
そのあと、授業者に二人の協力があったので、
扉が直ったことを伝えた。
授業者は教室の前のほうから大きな声で、後方
の座席に向かって、H 君 O 君と二人の名前を口
にしてからはっきり言った。
「ありがとうネ!」
クラス全員の耳に伝わる声だった。
(その3) 何気なくイラスト集を見ている時、
頭上にりんごを乗せているゾウの絵が目に留まっ
た。そのイラストをきっかけにして、何となく新
しいポスターのアイディアが浮かんできた。
頭上にりんごのゾウの足の下に大きなボールを
描いて、ゾウの玉乗りの絵にしてみた。
そして、その絵に合わせて、思いついた言葉を
文字にしてみた。
「おちない(ゾウ)・おとさない(ゾウ)」
初めはぼんやりとしたイメージが、描いている
うちにだんだん具体的になってきた。
下絵を仕上げ、3年生のクラス分を印刷し、コ
ラージュ(貼り絵)の技法も使って着色した。
仕上がったものを3年の主任に手渡した。
「3年生の進路希望の実現を応援しています。
どのタイミングで教室掲示するかはお任せしま
す」
主任は仕上がった絵を少しの間見ていた。程な
く、絵の意味を理解してくれたのか、次のような
返事をしてくれた。
「私としては、今すぐにでも掲示したい気分で
す」
次の日の清掃時間になった。
私が掃き掃除をしている部屋へ、当番ではない
3年生の男子が入ってきた。何かあったかなと思
って顔を上げると、その男子が声をかけてきた。
「ありがとうございます」
一瞬「えっ、何!?」と思ったが、ああ、あの
ゾウの絵のことだなと思った。
そして「頑張れ! 受験生!」と声を返した。
主任から各担任へ、そして担任から生徒らへど
のような紹介が伝わったのだろうか、男子生徒と
2,3の言葉を交わしたあと、今度は別の3年生
女子の二人組が声をかけてきた。
「ゾウの絵、ありがとうございました。」
「ネ、私、絶対、おちないゾウ!」
穏やかな笑顔だった。
少し身をすくめるようにして、再び清掃活動に
移った。
初冬の午後の日差しが、掃き清めるフロアーに
柔らかく射していた。
H 25、11、18(健)
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