実践例 2年 勇気 よいと思うことを進んで行う 児童を育てる 宮崎県小林市立三松小学校教諭 内山田博文 児童は、自分たちの住む郷土を愛しながら、 よる影響があると考えられる。つまり、本校 れている﹁三松魂﹂と呼ばれる精神的風土に たりする活動を取り入れて、道徳的価値の自 友達の経験を聞き合い、感じたことをまとめ た経験やできなかった経験を振り返らせたり、 別をし、よいと思うことを進んで行う﹂とい しかしながら、本年度担任している二年生 児童については、﹁よいことと悪いことの区 まう。しかし、犬のわんじろうはその絵をす そしてにゃんたは何も言えずに下を向いてし 猫のにゃんたは、きつねのこんたと牛のも うきちにピンク色の花の絵をからかわれる。 ﹁ピンクいろの 花﹂ う面について、課題が多いことを実感してい ●出典 ﹃2年生のどうとく﹄︵文渓堂︶ 分の思いを伝えられる。 られ、にゃんたはピンク色の花が好きだと自 てきだとほめてくれる。その言葉に勇気づけ いと考えて本実践に取り組んだ。 するために、道徳の時間の指導を充実させた そこで、正しいことについて的確に判断し、 勇気をもって主体的に取り組める児童を育成 る。 ちの使命であると思っている。 に伸ばしていくことが、教師であるわたした を内在しており、このよさを自覚させ、さら 覚が一層図られるようにした。 資料を離れて自己を見つめる段階に十分な 時間をとり、よいと思ったことを進んでやれ ○自己を見つめる段階の工夫 化に共感させるようにした。 しながら発問することで、主人公の心情の変 にゃんたが﹁からかわれる場面﹂と﹁勇気 づけられる場面﹂の二つの絵を対比的に提示 ○場面絵の対比と発問の工夫 指 導 の 工 夫 資 料 の 概 要 勇気をもって事に当たるという面で﹁よさ﹂ り高かった。これは、校区に昔から受け継が ついては、判定出現率が他の項目よりもかな 昨年、抽出学年に実施した道徳性検査の結 果によると、﹁郷土愛﹂﹁勇気﹂などの項目に 育活動を推進している。 本校では学校の教育目標を﹁学ぶ三松 き たえる三松 思いやる三松﹂と設定し、徳育 についても到達目標を掲げながら積極的な教 は じ め に 2 0 0 7 . 0 4 道徳と特別活動 18 学習指導案 ●主 題 名 勇気をもって ●資 料 名 「ピンクいろの 花」 ●本時のねらい よいと思うことを進んで行おうとする態度を養う。 〈1 −⑶勇気〉 展開例 学習活動(主な発問と予想される児童の反応) 指導上の留意点 1.花が好きな男の子についてどう思うか考え,発表 ・資料に出てくる主人公に照らしてた 導入 する。 ○ 花が好きな男の子のことをどう思いますか。 ずねることで,資料への関心を高め る。 ・優しい。 ・女の子みたい。 2.「ピンクいろの 花」を読んで話し合う。 実践例 道徳 ○ 下を向いて黙ってしまったにゃんたは,どんなこ とを思っていたでしょう。 ・くやしいなあ。 ・言いたいことはあったのに,どうし ても言えなかったにゃんたの気持ち に十分共感させる。 ・そんなこと言わなくてもいいのに。 ・花を好きになってもいいじゃないか。 ○ 顔を上げたとき,にゃんたは,どんな気持ちだっ たでしょう。 ・友達の言葉に勇気づけられるにゃん たの気持ちに十分共感させる。 展 開 ・わんじろう,ありがとう。 ・自分と同じ気持ちの友達がいる。 ・元気が出てきたぞ。 ◎ 「ぼく,ピンクいろの花が大すきなんだ。」と言え ・先の2つの場面でのにゃんたの心情 たとき,にゃんたはどんな気持ちだったでしょう。 の変化と十分に関連させながら, ・自分の思いが言えてうれしいな。 にゃんたの気持ちについて考えさせ ・勇気を出して言えたので,とてもいい気持ちだな。 る。 3.これまで,よいと思って行動できたことや,でき ・よいと思うことを進んでできた体験 なかったことをワークシートに書き,発表する。 と,できなかった体験のいずれかを ○ これまでを振り返って,よいと思ったことをやっ 選んで書かせるようにする。(両方 たことや,よいと思ったけれどやれなかったことは 書ける子は,2つの観点で書かせ ありませんか。 る。) ・危ない道を帰ろうとしている友達に「だめだよ。」 と言えた。こわかったけど,言ったらすっきりし た。 終末 4.友達の発表を聞いて思ったことや感じたことを ワークシートに書く。 5.教師の説話を聞く。 19 道徳と特別活動 2007. 04 ・友達の発表を聞いて感じたことを書 くことで,これからのよりよい生き 方への思いをふくらませる。 C C C C C やっと自分の気持ちが伝えられたぞ。 勇気を出して気持ちを言えたなあ。 ちゃんと言えたぞ。よかったな。 はっきりと言えたぞ。 持ちだっただろう。 だ。﹂ と 言 え た と き、 に ゃ ん た は ど ん な 気 C C C C C だんだんすっきりしてきたぞ。 C わんじろうくんのおかげだよ。 ︿展開後段﹀ きみたちは好きじゃないの。 嫌だな。やめてよ。 じゃまだなあ。 ※ワークシートを配って書かせる。 クシートに書いてみましょう。 とかできなかったことか、どちらかをワー れなかったことはありませんか。できたこ T これまでを振り返って、よいと思ったこ とをやったことやよいと思ったけれど、や 花が好きでもいいじゃないか。 ︿終末﹀ T みんなすごいね。よいと思ったら、ちゃ んと言えたんだね。 た。言えてよかったなあと思いました。 C 嫌 な こ と を 言 わ れ た 友 達 に、﹁ 人 の 嫌 が る こ と を し て は い け な い よ。﹂ と 言 い ま し C 友達とけんかしたとき、勇気を出してぼ くから謝ることができました。 勇気を出して言えました。 二人にもピンクの花を見せてあげたい。 C 本当にうれしいよ。 C 次は自分も助けるよ。 T ﹁ ぼ く、 ピ ン ク い ろ の 花 が 大 す き な ん C 本当にありがとう。 C わんじろうは優しいなあ。 C いいことをしてくれたので、友達になり たいな。 C 笑わないでよ。 C そんなふうに言われて、どう思うの。 T 顔を上げたとき、にゃんたは、どんな気 持ちだったでしょう。 T 発表してもらうね。 C 違う道を選んで帰っていた人がいたから、 何か言われそうだったけど、﹁違うよ。﹂と 資料を読んで場面絵をはった。 T 下を向いて黙ってしまったにゃんたは、 どんなことを思っていたでしょう。 C おもしろいと思います。 ︿展開前段﹀ C わたしはかわいいと思います。 T 花が好きな男の子のことを、どう思いま すか。 ︿導入﹀ 授 業 の 記 録 T 友達の発表を聞いてどんなことを感じま したか。ワークシートに書いてみよう。 T よいと思ったことを勇気を出して言った り、したりすると﹁やってよかった﹂とい うよい気持ちになった人も多かったね。先 生の体験を聞いてください。 2 0 0 7 . 0 4 道徳と特別活動 20 授業中の子どもたちの発言を聞きながら、 児童は﹁言いたいけど言えないときの気持ち﹂ や﹁勇気を出して言えることの心地よさ﹂を 感じていることに気がついた。二年 生なりに、 よりよい生き方を目指そうとしていることが 感じられ、授業をやってよかったと思った。 主人公のにゃんたの言った﹁ぼく、ピンク いろの花がすきなんだよ。 ﹂という言葉を提 示したときの、児童のうれしそうな表情も印 象的だった。さまざまな工夫を凝らした授業 ではなかった。しかし、自己を見つめる段階 でのワークシートに向かう児童の姿や、そこ に書かれた内容について分析してみると、二 年生なりにせいいっぱい考え、真剣に自己を 見つめた学習になっていたのではないかと 思っている。 ただ、いくつかの課題も残った。自己を見 つめるときに、 ﹁この子にはできなかった体験 を想起してほしいな﹂ ﹁この子には、できた体 験を想起して自信をもってほしいな﹂という 願いをもちながら机間指導を行った。しかし、 なかなかいい言葉かけができず、その子のよ さや課題を十分引き出してやれなかった。今 後とも、さらに児 童理解を深め、一人一人へ 対応していける授業力を高めていきたい。 ま と め 実践例 道徳 価値の一般化に力を入れて ■丁寧な価値の一般化 展開の後段、いわゆる価値の一般化の段階 を非常に丁寧に指導されている様子が読み取 れる。それは十分に時間をとっていることと、 できた経験とできなかった経験の両方を出さ せていることから伺える。 またワークシートに書かせて自分を振り返 らせている。ここで、一人一人を見ながらそ の子に合った内容にしたいという先生の思い が伝わってくるのであるが、そこまでは求め なくてよいであろう。多くの子どもに発表を させ、それを聞き合うことで自分を振り返ら せたい。その中で、子どもの反応を見ると、 勇気をもって言えたかどうかが多いようであ るが、勇気をもってしたかどうかをも出す工 夫をしたい。 また、3つの視点を示して、丸を付けさせ て振り返らせている。その内容と、先生が日 ごろ感じているその子の実態とを比べてずれ があるときに、事後指導をすることが大切で あると考える。 ■資料の言葉の読み取り 授業者は、導入で、 「花が好きな男の子を 21 道徳と特別活動 2007. 04 どう思いますか」と尋ね、展開の第一発問の 予想される反応でも「花が好きになってもい いじゃない」と予想している。この資料では、 男の子が花の絵を描いたからからかわれたの ではなく、ピンク色の花の絵を描いたからか らかわれたのである。資料をよく読み取らな いと発問や流れがずれてしまう。 にゃんたは、みんなに言われていやだった のはもちろんであるが、言いたくても言えな かったというところに焦点を当てるというこ とを、指導上の留意点には書いてあるのに、 予想される反応には出てきていない。実際の 授業記録でもあまり出ていないようである。 ここに時間をかけることで、「はっきり言 いたいな」 「言う勇気がないな」などの葛藤 が引き出せる。そこで、友達の言葉が自分に とって大きいものとなるのである。 展開後段を大切にしているのはよいことだ が、2 年生でこの流れでは、あっという間に 展開の前段が終わってしまったのではなかろ うか。前段を深めることによって一層後段が 生きてくる。 (本誌編集委員会)
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