ボルドー大学留学体験記 6回生 島田充浩 6 回生の 5 月にイレクティブを利用してフランスのボルドー大学病院にて臨床実習を しました。昨年は栗山さん、今年は稲山君が先に同大学での実習を終えておりおおよそ の勝手が分かっているつもりでしたが、僕の場合トラブル続きでした。ここでは実習の 内容だけでなく、海外留学で起こりうるトラブルについても書きました。この先留学を 考えている方へ、少しでも参考になれば幸いです。 ボルドーの街並 準備について 基本的には先に行った二人と同じです。留学が決まったのが 10 月の初旬で実際に行 くのが 5 月だったので時間的にかなり余裕がありました。ボルドー大学のオンラインシ ステムで登録をし、プリントアウトした書類に先生のサインを頂き PDF で送るという 具合でした。同時に住居の申込も出来ます。 稲山君の後追いということもあり、書類の準備はそれほど難しいものではありません でした。ただ、担当の方がよく 2 週間ほどの休暇をとられるので(自動返信メッセージ が来ます)余裕を持って準備することをお勧めします。 飛行機のチケットも出来るだけ早く購入した方がいいです。僕の場合、出発が 5 月の ゴールデンウィークと重なってしまいましたが、1 月までに購入したこともあり、シー ズンオフ並みの値段で手に入れることが出来ました。 フランス語で書かれた書類が郵送されてきて面食らうこともありましたが、その内容 は保険に加入する必要があるということと証明写真を持ってくることという注意事項 でした。保険は病院実習用の医学生保険と一般の保険が必要で、それぞれフランス語で の証明がいります。前者はボルドーで購入できるので心配いりません。後者は一般の旅 行保険で大丈夫です。飛行機のチケットを購入した旅行代理店に相談したところ、フラ ンス語での証明を無料で作ってもらえました。 住居は稲山君と同じ、Villege2 にある宿舎でした。宿舎の場所などの説明もフラン ス語の word ファイルが添付されてきます。これも、どの宿舎に決まったという説明と 宿舎の連絡先なので大丈夫です。費用は月単位で入居は原則 1 日からということになっ ていますが、数日はずらしてもらえます。住居の申込だけで宿舎には入れるようですが、 宿舎には前もって連絡しておきましょう(英語が通じます)。後々役に立ちます。 フランスではクレジットカードが使えるところがほとんどですが、一部の自動販売機 やコインランドリーなど、時々現金が必要なことがあるのである程度用意しておきまし ょう。医学生保険も現金でしか購入できません。僕は 3 万円を日本でユーロに替えて持 って行きました。クレジットカードは IC チップが入っているものは暗証番号の確認を しておきましょう。ほとんどの場合、サインではなく暗証番号で買い物をするので忘れ ていると使い物になりません。 服装についてですが、たくさん持って行く必要はありませんが、防寒用に上着は必要 でした。気温は 5 月でもかなり寒くて最高気温は 10℃台の中くらい、朝は息が白いこ ともありました。周りの人もコートやダウンジャケットを着ていました。衣類は現地で もそれほど高くなく購入できます。上着は一着だけ持って行きましたがほぼ毎日着てい ました。病院実習用の服装は特に用意する必要はありません。白衣は貸してもらえます し、その下は何を着ても良いようで先生たちの半分くらいはジーンズを履いて仕事をし ていました。患者さんと直接会う科では聴診器を持って行くくらいです。 僕はフランス語にはほとんど触れたことがなく一人称さえも知りませんでした。ボル ドーでの臨床実習が決まって 12 月頃から週一回のペースで語学学校にフランス語を習 いに通いました。また、友人やフランス語を選択していたクラスメイトたちなどにフラ ンス語の教科書を借りてちょくちょく勉強していました。4 ヶ月程度の勉強では自由に しゃべるという訳にはいきませんでしたが、挨拶と自己紹介、ある程度の意思表示は出 来るくらいにはなりました。意外とリスニングはリズムを重視して音を端折る英語より も聞きやすく、滞在終盤では集中して聞けば何を話しているかある程度分かるようにな りました。短い期間でも勉強するとしないでは大きな違いです。全くしゃべれないより も勉強して行くほうが楽しめます。 その他には電気のコンセントの変換プラグ(電気屋で数百円で売っています)など細 かいものは普通の旅行と同じでいいと思います。 出発から フランスに到着後、パリ・シャルルドゴール空港からモンパルナス駅までバスで行き、 TGV でボルドー・Saint-Jean 駅へ向かいました。ボルドーの空港へ乗り継ぐという経 路もあります。TGV のチケットはインターネットで購入できます。Rail Europe とい うサイトでは日本語でも予約できますが若干割高です。現地の Voyages-sncf.com のサ イトで購入した方安く買えます。パリ・ボルドー間は三時間以上かかるので住居の受付 時間を考慮して間に合いそうになければパリかボルドーで一泊した方がいいと思いま す。 Saint-Jean 駅からは tramway(路面電車)に乗り換え住居のある village2 に行きま した。事務に行くと、入居は月初めからで(到着は月末でした)そこにはまだ学生がい るから、僕の入る部屋はないと言われました。出発直前に到着日時についてメールをし ていたので、それを見せて一時間ほど交渉して何とか入居を許可してもらいました。月 初めまで入居する予定の部屋が開いてなかったのは本当のようで、別の空いている部屋 を探してもらいそこに入りました。 住居は先に行った稲山君と同じ建物で作りもほぼ同じです。台所とシャワー・トイレ が共同でベッドと机を備えた個室があります。日本でもあるルームシェアに似ています。 同居の学生は 3 人ともボルドー大の文化人類学専攻の学生でした。滞在期間中は大学で の発表などが忙しくあまり一緒に行動は出来ませんでしたが、みんな気さくで親切でし た。一度、町の中心にある公園で行われた文化人類学の教室の展示会に呼ばれました。 類人猿の頭蓋骨を展示したり、石器の作り方や火の起こし方を教えてもらったり普段体 験できないものに触れられ楽しかったです。 個室にはベッドと机と棚があるだけで布団さえもありません。入居した時間が遅かっ たのと翌日が休日でスーパーが空いていなかったので布団を購入することも出来ませ んでした。夜は冷えるのでかなり困りましたが、ルームメイトが使っていない寝袋を貸 してくれたので何とかしのぐことが出来ました。 町の中心部にあるキャンパスの建物 ボルドー大学は町中にキャンパスが散在してあります。医学部のキャンパスの一部は 大学病院の横にあり、手続きもそこでしました。フランスは 5 月の上旬に休日が重なり、 バカンスの期間になっています。ルームメイトもその間実家の方に数日帰省していて、 大学の先生や職員も不在の方多かったです。メールをやり取りしていた留学生課の Pedro さんも 5 月の 2 週目まで休みを取っておられ、代わりの方に対応してもらいまし た。驚くことに留学生課なのに一人も英語を話せる人がおらず、メールを見せて片言の フランス語で説明して何とか手続きを進めました。次の手続きの方も休みを取っておら れたため臨時の方が対応してくれました。英語が通じず身振り手振りだったのでかなり 苦労しました。大学の職員さんたちは親切な方が多く(中にはそうでない方もいますが) フランス語が出来なくても紙に書いたりして丁寧に教えてくれます。手続きの際に医学 生用の保険は大学の近くの保険会社で購入しました。 僕は先の二人と違い medical oncology での実習を希望し、書類を提出していました。 実習先の病院も大学病院ではなく、付属のがんセンターでした。欧米では大学病院にが んセンターと小児病院が別に付いていてがん患者と小児は別で診察するというのが一 般的なようです。 翌日、がんセンターの方に向かいました。がんセンターは Institut Bergonié という 名前で、tramway B line 沿いにあり大学病院よりも寮からのアクセスはいいです。受 付に説明しましたが、先生に会わせてもらうことが出来ませんでした。3 日間通ってよ うやく担当の教授と話すことが出来ましたが、その先生によると僕が来ることを病院は 知らされていないとのこと。また、この時期はバカンスで多くの先生が休みを取ってい てフランス語の話せない学生の対応できないと言われました。そして解決策を考えるか らまた次の日にくるように言われました。翌日また先生と話をして、言葉の問題で入院 患者さんの管理をすることは難しいから、英語のできる先生の外来の見学をいくつか出 来るように手配をしてもらいました。ただ、人がおらず、英語の出来る先生も少ないた め合計 4 回で開始も一週間以上先の予定になってしまいました。(この時点でボルドー に到着して一週間ほど経っていました) そこから数日間はどうすることも出来ませんでした。途方に暮れていると5日ほどし て学生課の Pedro さんから、大学に戻ってきたとメールがあり会いに行きました。い きさつを話し、どうなっているのか聞いてみました。学生課は受け入れた学生のことを 病院に知らせるが、その後の処遇はその施設に一任されているので、先方の指示に従う よう言われました。そして Institut Bergoniè に連絡は行っているはずだと説明されま した。 その数日のち、放射線診断科の Dousset 教授から大学病院に来るようにメールがあ りました。放射線診断科は先に栗山さんと稲山君がイレクティブ実習をしていた所です。 僕の状況を知った小西教授が Dousset 教授にメールをしてくれていました。Dousset 教授に実習が始められないなどの旨を説明すると、Institut Bergoniè の教授に電話を してくれました。10 分ほどやり取りをして、Institut Bergoniè は海外からの学生を受 け入れる体制になっていないので別のところで実習をするように手はずを整えるから 決まり次第連絡をするとおっしゃいました。 次の日に早速、Dousset 教授から実習先が小児腫瘍科に決まったとメールがあり実習 を始めることが出来ました。 実習先の小児病院 僕の実習の superviser は Jubert 先生で、病棟医長のような立場の方でした。パワフ ルな女医さんという感じで、カナダのモントリオールでフェローシップをされたことも あり、英語が堪能でした。外来を見学させていただいた時には一人一人について説明し ていただきました。また『何でも質問して』と言って医局で教科書を貸しても頂きまし た。 実習は基本的に他の学生たちと付いて回るというスタイルでした。学生は医学部の学 生 6 人と薬学部の学生 2 人の 8 人いて非常に多く感じました。薬学部の学生の1人は 英語が得意で病棟について説明してくれました。毎朝、9 時頃に病棟に行き、昼頃には 学生たちは帰ってしまいます。学生たちには受け持ちの患者についてある程度の役割が 与えられているらしく、温度表を付けたり、処方についてレジデントと話し合ったりし ていました。週に 2 度、学生の教育用回診があります。学生がチーフの先生の前でプレ ゼンをして診察をするという流れで患者一人当たり 30 分ほどかけてディスカッション していきます。週に一度カンファもありましたが、それは学生たちが”a boring meeting” と揶揄するようにあんまり面白いものではありませんでした。 業務はもちろんフランス語で行われます。初めはさっぱりでしたが、医学用語にはフ ランス語と英語で共通なものも多く、一生懸命聞いていればある程度の内容は分かるよ うになりました。 実習の後半は主に無菌エリアで実習をしました。白衣を専用のものに替え、フットカ バーとキャップを着けて入りますが、下はジーンズのままで入って行きます。無菌ルー ム内に自分の iPhone を持ち込んで患者の赤ちゃんと記念撮影をしている看護師さんも いたりして、かなりいい加減で驚きました。学生も先生も英語は苦手で、簡単な会話も 出来ない人も多くて正直それにも驚きました。ただ、英語と片言のフランス語で話すと 何とか伝えようとしてくれます。他にも昼休みに病院の前で白衣を着た先生たちがタバ コを吸っていたりなど驚くことは多かったです。 実習が始まって 3 日ほどたった時に Fayon 教授が僕を訪ねてきました。Fayon 教授 は小児呼吸器科の教授で、医学部の留学担当をしておられ、僕の留学書類にサインをし てくれていた方でした。Fayon 教授は、実習がすぐに始められなかったことを謝られ、 その後で外来見学もさせていただきました。結局行くことは出来ませんでしたが、学生 の集まるイベントについても教えていただきました。 実習の期間は短くなってしまいましたが、たくさんの先生に教えてもらうことができ、 非常に濃い内容でした。 帰国 実習を終えて寮を引き払う際に、部屋のチェックをされます。備品を壊していり、汚 していたりしたら保証金が返ってきません。短期間なのでそんなに心配することはない と思います。ただ、部屋のチェックは平日しかやっておらず、チェックの後は鍵を返却 しなければならないので飛行機やホテルなどの予約には注意が必要です。僕も出発前に 泊まるためパリのホテルを急遽予約するはめになってしまいました。 ボルドーの観光 ボルドーは全体が世界遺産に登録されている美しい町です。ガロンヌ川を中心に発展 した町は『月の港』とも呼ばれます。町の中には大聖堂や大劇場、ペイ・ベルラン塔な ど見所がたくさんあり、散策するのはとても楽しいです。また、ほとんどの方が思い浮 かべる通りボルドーはワインの名産地です。スーパーでは千円以下のワインがたくさん 置いてあり、手軽に美味しいワインが楽しめます。シャトー巡りのツアーや観光客用の 試飲会もあるようなので、ワインが好きな方は是非参加してみてください。 隣町のサンテミリオンも世界遺産に登録されている町で、Saint-Jean 駅から RER に 乗って一時間以内で行くことが出来ます。ここもボルドーワインの名産地として有名な ところです。同じく一時間以内のところにアルカッションという大西洋に面した砂丘で 有名なリゾート地もあります。どちらも日帰りで訪れることができるのでボルドーに留 学される方は是非行ってみてください。 サンテミリオンの街並 その他 留学の期間を通してフランスでは日本人は非常に肯定的にとらえられていると感じ ました。寮で日本語が聞こえてきたので何かと思えばルームメイトがインターネットで 日本のアニメを見ていました。出会って話をした学生は十数人しかいないにもかかわら ず、3 人も日本語を勉強している学生がいました。AKB48 や安室奈美恵などを知って いる人もいました。日本の古い分化が好きだという学生にも出会いました。スーパーで もすしや牛丼(?)などの日本食も売っていました。また、Tramway やバス停で日本人 か?と訊ねられて、そうだと答えると握手を求められたことまでありました。 ボルドーで日本人に会ったのは最終日に町を散策している時にペイ・ベルラン塔の上 で出会ったイギリス在住の夫妻が最初で最後でした。ボルドー大学にいる日本人留学生 は全部で 3 人しかいないとも聞きました。にもかかわらず、これほど日本のことをよく 知って興味を持っていられていることは予想外でしたし、非常にうれしく思いました。 最後に 今回の留学はトラブル続きで途方にくれることも多かったです。ただ、これを読んだ 方に留学なんかには行きたくないとは思ってもらいたくありません。あまり書きません でしたが、旅行などではなく実際にその地にすんでそこの文化に触れることができたり、 日本を外側から見つめ直すことができたり、トラブルを乗り越える力もつきます。留学 は大変なことは多いですが、得られるものはそれ以上です。機会があれば皆さんも海外 留学をしてみてください。 最後の最後に 今回はたくさんの方の助けで何とか乗り切ることが出来ました。はじめの準備からお 世話になった医学教育センターの小西教授、教務の方々。ボルドーでの実習先を手配し てくださった Dousset 教授、突然にも関わらず受け入れてくださった小児腫瘍科の Perel 教授、Jubert 先生、レジデントの先生がた、学生達、学生課の Pedro さん、Vincent さん。Institut Bergoniè の親切な Madame。突然の同居人にも関わらず親切にしてく れた Anne-Sophie、Vincent、Peirrick。フランス語での手続きに困ったときに助けて いただいた松田教授、栗山さん、秘書の井上さん、出発直前にアドバイスをくれた稲山 君、フランス語教室の Lou 先生、Mike 先生。フランス語の教科書を貸してくれたクラ スメイトたち。皆さんにお礼を申し上げたいと思います。 ありがとうございました。Merci mille fois!
© Copyright 2024 Paperzz