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フランス製の次世代原子炉 EPR の安全性と将来性に疑念

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フランス製の次世代原子炉 EPR の安全性と将来性に疑念
渡辺 一敏(翻訳家)
福島原発事故から4カ月を経た7月中にフ
あるアレバは本来なら補完的な立場にあり、
ランスの原子力産業界では主要電力会社
実際に EDF はアレバの最大の顧客で、アレ
EDF(フランス電力)と原子力大手アレバ
バは売上の4分の1を EDF との契約で得て
の関係のねじれが政府の肝いりで修復される
いる。しかし、2009年にアブダビ(アラブ
という注目すべき動きが見られた。これは
首長国連邦)が招請した第3世代原子炉入札
「福島以後」も原子力推進の世界的リーダー
で韓国電力公社(KEPCO)が選定され、フ
たろうとするフランスの公式的立場から見れ
ランス企業のコンソーシアムが落札に失敗し
ば、原子力部門の競争力を強化する上で、予
たことがきっかけとなり、両社の関係は目に
めきちんと解決しておくべき重要な課題だっ
見えて緊張しはじめた。この入札には当初フ
た。
ランスからはアレバ、トタルおよび GDF ス
他方で、フランスが今後の原発輸出の柱に
エズが構成するコンソーシアムが応札し、
据えている第3世代原子炉 EPR(欧州加圧
EDF は参加していなかった。これに意外感
水型炉)の建造計画に新たな遅延と追加費用
を表明したアブダビ側の要望もあり、EDF
が発生した上に、その安全性に疑念を呈する
も結局後から参加したが、アレバのロベル
調査報告書が発表されるという逆風も吹いた。
ジョン会長(当時)は2010年1月にフラン
来年春の大統領選挙を控えて、主要候補者が
ス下院で契約獲得失敗の理由について釈明し
原子力をめぐる選択の提示を求められている
た際に、EDF が最初に参加を拒否したこと
中で、EPR の将来性と安全性は今後の原子
に最大の原因があると批判した。この件では
力政策を決定する上での重要な判断基準にな
アレバが先ず批判の矢面に立たされたため、
ると考えられる。
会長の EDF 批判発言にはその矛先をかわす
今回はこの二つの相反する流れを順を追っ
という戦術的な狙いもあったのだろうが、そ
て辿りなおしてみたい。
の後も会長はメディアを通じて EDF 批判を
執拗に展開するというアグレッシブな態度を
EDFとアレバの関係、確執から和解へ
とり続けた。
最初にフランスの原子力産業の主役ともい
ロベルジョン会長は優秀ではあるが、顧客
うべき EDF(フランス電力)とアレバの微
も含めて他人の言葉に耳を傾けることを知ら
妙な関係について最近の流れを確認しておこ
ず、強引で独善的だとの定評があり、アレバ
う。
の事業戦略をめぐっても株主であるフランス
電力生産の7割以上を原子力に依存するフ
政府と長年にわたり対立してきた(アレバは
ランスだけに、電力市場を実質的にほぼ独占
国が資本の99%を保有する国有企業)
。内容
している EDF と原子力関連の総合事業者で
の当否はともかくとして、会長の無遠慮な批
−2−
判発言が EDF との関係を悪化させたことは
いたことも両社の対立の原因となっていたが、
想像に難くない。
ベッソン・エネルギー相は当面このような出
また同じ2010年1月には EDF が運営する
資は認めない方針を再確認し、アレバの独立
原発へのアレバからの燃料供給が停止し、両
性維持に配慮した。
社の間で新たな批判の応酬があった。両社は、
原発の使用済み燃料再処理の契約締結をめ
EPRはコスト高だが安全
ぐってももめ続けていた。
以上の流れを総括すると、アブダビの原子
これと並行して、2009年11月に EDF の会
炉入札で韓国に敗れた打撃から立ち直れない
長が交代し、プログリオ新会長が「EDF を
ままに、内紛を繰り返してきたフランス原子
仏原子力産業の中核企業とすべきである」と
力産業が、政府の介入に助けられて、捲土重
し、アレバを EDF に従属させるという構想
来を期して結束固めに転じたといえよう。こ
を提案したことも両社の対立関係をエスカ
うした推移の背景には、福島原発事故をきっ
レートさせた。
かけとする国際原子力市場の変化に政府も関
アレバのロベルジョン会長が EDF のプロ
連企業も危機感と期待感の双方を強めている
グリオ会長やサルコジ大統領と不仲であるこ
という事情があり、期待感のほうは EPR
とはメディアでもしばしば取りざたされ、
(欧州加圧水型炉)の短所および長所と結び
2010年以後、フランスの原子力産業界は不
ついている。
毛な確執に終始してきた感があった。
すでにアブダビの原子炉入札でもフランス
2011年6月でロベルジョン会長の任期が
勢は EPR を提案したが、コスト面などで有
切れた機会に、フランス政府は、続投を強く
利な韓国に敗北した。EPR の輸出競争力に
希望していた同会長の再任を拒否し、後任に
ついては、必ずしも相手国のニーズに対応し
リュック・ウルセル副 CEO(51歳)を任命
ていない規模の大きさ(出力1650MW)と
した。ウルセル新会長は7月25日、自社プラ
コスト高がハンディキャップとなる可能性が
ントにベッソン・エネルギー相と EDF のプ
従来から指摘されてきた。出力規模について
ログリオ会長を迎えて会談した。政府による
は、今後はむしろ中型原子炉が国際的な主流
調停も効果を発揮し、アレバと EDF は1年
になるとの見方もあり、アレバもこれを考慮
半にわたった確執に終止符を打ち、関係の修
して次世代中型原子炉「アトメア」の開発に
復に努める方針を確認し合った。この機会に
も取り組んでいる。一方、コスト問題につい
両社は核燃料サイクル、原子炉の保守管理、
ては、ロベルジョン前会長は、EPR を「エ
EPR(欧州加圧水型炉)に関する3件の合意
アバックと安全ベルトを備えた車」に、韓国
を結んだ。また夏期休暇明けをめどに、次世
原子炉を「備えない車」に喩え、EPR は安
代中型原子炉「アトメア」の建設についても
全性が高い分だけコストも高いのだと強調し
合意を締結する見通し。なお、プログリオ会
ていた。
長が EDF によるアレバへの出資を提案して
福島原発事故により、原発の「安全性」が
−3−
世界中であらためて注視され始めたことにつ
全性に疑問を投げかける調査報告が公表され
いて、フランスは安全性の高さが売り物の
た。
EPR を主軸とする自国の原子力産業に有利
EPR(欧州加圧水型炉)は現在フランス北
な展開だととらえている。事故の影響で脱原
西部のフラマンビル(マンシュ県)のほかに、
子力を選択する国も出てくる一方で、原子力
フィンランドや中国で建設中である。フラマ
を継続する国では原発購入に際しての安全性
ンビル原発を運営する EDF(フランス電力)
の重視が予想されるだけに、フランスの原子
は7月20日、3号機に当たる EPR の稼働開
力産業界では新たなビジネスチャンスに繋が
始時期が新たに2年遅れて2016年にずれ込
るとの期待感があり、さらに可能ならば、国
み、建設費も60億ユーロ(1ユーロ=110円
際的な原発安全基準の制定を主導して、高い
とすると660
0億円)に達する見通しである
共通基準を設けさせることで、フランス製原
ことを明らかにした。当初の計画では稼動開
子炉の販売を促進しようという目論見がある
始は2012年に見込まれ、建設費は33億ユー
とみられている。福島原発事故の直後にサル
ロのはずだった。したがって、遅れは合計で
コジ大統領やロベルジョン・アレバ会長(当
4年間に、費用は2倍に拡大したことになる。
時)が続々と来日し、フランスの原発の安全
EDF は新たな遅れの理由として、特に必
性を強調した裏には、こうした思惑が働いて
要な土木工事の規模を見直す必要があると説
いる。また EDF も、フランスにおける脱原
明しつつ、フラマンビル3号機はフランスで
子力論に反駁する上で、
「フランスの原発は
15年ぶりに新設される原子炉であり、しかも
世界で一番安全」と主張している。
次世代技術を用いた EPR であることから、
韓国電力公社(KEPCO)に代表される低
このような技術的困難は不可避であると示唆
コストの原子炉の市場参入で劣勢に立たされ
した。なお、フラマンビルの建設現場では、
たフランス製の次世代原子炉 EPR(欧州加
今年に入ってから1月24日と6月11日に、土
圧水型炉)は、出力規模の適性問題を別にす
木工事の事故により1名ずつの死者を出して
れば、コスト高が弱点、安全性が強みであり、
おり、検察当局が過失致死の疑いで捜査を開
しかもコスト高と安全性とは表裏一体の関係
始、工事の進捗にも大きく影響した。
にあることを上記でみた。少なくとも、これ
なお、過去に中道右派政権で環境相を務め
がメーカーであるアレバや、アレバとともに
たこともあるルパージュ欧州議会議員が、8
建造に取り組んでいる EDF の主張するとこ
月9日付けの経済紙ラ・トリビューンに寄稿
ろである。
し、EPR のコストについて論じている。同
議員はフラマンビル3号機を完成させたとし
EPRの建設に遅延とコスト増
ても、その建設費は最終的に70億ないし80億
ところが、7月に入って、EPR の欠点で
ユーロに達する恐れがあり、その場合に発電
あるコスト問題をいっそう深刻にする状況が
原価は従来言われてきたような65ユーロセン
明らかになると同時に、長所であるはずの安
ト/kWhではなく75ユーロセント/kWh以
−4−
上になると試算し、これでは原子力の利点の
間も続いたと指摘し、この仮定が安易なこと
一つと言われてきた安価な電力を最早提供で
を強調、第3世代原発は安全性の面で第2世
きないと指摘。原子力と比べて価格競争力が
代原発と変わりがないか、むしろ劣ると厳し
弱いといわれる地上風力発電でも現在の原価
く断定している。
は70ユーロセント/ kWh だという。EPR の
ベッソン・エネルギー相は25日朝の時点で
場合、将来的な解体の費用や、長期的な廃棄
即座に、
「グリーンピースはこのテーマにつ
物処理のコストまで考慮すると原価はさらに
いて昔から間違ったことを山ほど言ってき
跳ね上がることになり、コスト面だけからみ
た」と反論し、
「
(グリーンピースの主張に組
ても EPR の開発を闇雲に推し進める理由は
するような)都合の良い専門家は必ずどこか
ないと同議員は判断している。
に見つかるものだ」が、
「最良の国際的専門
家の言うところに従えば、現状では EPR は
EPRの安全性にも疑問符
世界で最も安全な原子炉だ」などとコメント
フラマンビル3号機の建設期間の延長とコ
した。EPR な完全な放棄を要求するグリー
ストの増大が EPR のイメージダウンに繋が
ンピースと、国内で最古の原発の運転期間延
ることはいうまでもないが、これに追い打ち
長を検討しているフランス政府の間で、対話
をかけるかのように、7月25日には環境保護
が成立する可能性はほとんどない。
NGOグリーンピースがEPRの安全性に疑念
なお、日本を見舞ったような地震や津波が
を呈する調査報告書を公表した。報告書は、
フランスで発生することは考えられないとい
経済協力開発機構原子力機関(OECD /
うのがフランスの政府や原子力産業界の論拠
NEA)とも協力関係にあるオーストリア人
の一つとなっているが、グリーンピースのル
専門家のヘルムート・ヒルシュ氏が作成した
スレ氏はサボタージュのような悪意に基づく
もので、EPR は福島原発事故と同様のシナ
行為のリスクのほかに、単なる嵐によって送
リオには耐えられないと判断した。特に、
電塔が損害を受けたり、送電線が切断された
EPR が電源喪失を24時間以内と想定した安
りして、外部電源喪失が発生する可能性もあ
全設計を採用している点に注目し、福島原発
ることなどを指摘している。
で発生したような長期の電源喪失が起きた場
グリーンピースは戦闘的な NGO とのイ
合の対策を全く考慮していないと批判した。
メージが強く、その見解は必ずしも常に客観
グリーンピースのフランス代表、ヤニック・
的で公平とはいえないきらいがあるが、今で
ルスレ氏も、メディアとのインタビューで、
もすでに建設の時間とコストが止めどなく膨
EPR の設計者は、非常用電源は事故発生か
張している感のある EPR の設計に、今後
ら2
4時間作動すれば十分に有効だと考えてお
「福島の教訓」を活かす工夫が施されるかど
り、1日以内に電力網ないしは発電機によっ
うかは確かに注視する価値があろう。
て電力供給を復旧させる解決策が見つかると
(パリ在住)
仮定しているが、福島では電源の喪失が11日
−5−
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