2006EU総合セミナー『EU諸国におけるワークライフバランスの現状』 日 付 平成18年6月6日(火) 場 所 ひょうご国際プラザ 講 師 駐日欧州委員会代表部 一等参事官・広報部長 Silvia Kofler(シルビア・コフラー)氏 テーマ 交流ホール “Life Work Balance in the European Union” 『EU 諸国における ワークライフバランスの現状』 ※この講演録は、英語で行われた講演の逐次通訳を もとに作成しています。 【主催あいさつ】 ○川鍋専務理事 皆さん、こんにちは。兵庫EU協会の事務局を担当いたしております川鍋でございます。 まずもって、きょうはEUの総合セミナーを開催いたしましたところ、このようにたくさ んの方々にご出席をいただき、本当にありがとうございます。 このセミナーは、私ども兵庫EU協会と、EU協会の事務局を担当いたしております兵 庫県国際交流協会の共催という形で開催をさせていただいております。 きょうの講師は、先ほどもご紹介をいたしましたけれども、駐日の欧州代表部の広報部 長をされておりますシルビア・コフラーさんでいらっしゃいます。コフラー部長さんには、 本当に遠いところ、東京からお越しいただきましてありがとうございます。 今日のテーマは、EU諸国におけるワークライフバランスの現状ということで、働くこ とと日常の生活とのバランスをいかにとっておられるか、ヨーロッパではどのようにとっ ておられるか、そういうようなことについてのお話になろうかと思います。先ほど少しお 話を聞いておりますと、コフラーさんは、4歳と2歳の二人のお子さんがいらして、ご自 身もワークとライフ、ワークライフのところでいろいろとご苦労をなさっているというふ うなお話も伺いましたので、そういうことも含めて、きょうは有意義なお話が聞けるので はないかなと思っております。 私から申し上げるまでもないのですが、EUの諸国が現在25カ国、さらにルーマニア、 ブルガリアが加盟して拡大をされようとしております。 それに呼応するように、この地元、兵庫県の方でも、私どもの兵庫EU協会のほかに、 ―1― こちらにはEU資料センター、それからEUインスティテュート・イン関西という、我々 を含めて三つの団体が活動をいたしております。EUインスティテュート・イン関西と申 しますのは、神戸大学、それから関西学院大学、大阪大学の三つの大学がコンソーシアム を組みまして、EUのことについての学術研究をするという団体でございます。また、E U資料センターは、旧の神戸商科大学に設置されまして現在は兵庫県立大学ですけれども、 そちらの方の資料センターになっているということでございます。いずれにいたしまして も、この三つの団体が一緒になっていろんなEUに関する勉強会、理解を深めるという事 業とか、そしてまたEU諸国との交流活動を活発にしてまいりたいというふうに考えてお ります。 きょうは、講演会、恐らく1時間余りでございましょうけれども、ぜひ皆様、有意義な 勉強会にしていただきたいなと思います。 最後に、私どものこのEU協会ですけれども、皆様の会員の会費でもって成立いたして おりますので、どうぞもし、今回のイベントがすばらしいというふうにお考えになられま したら、お帰りの際にEU協会にご加入をいただければ幸いと思っております。 それでは、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。(拍手) ○司会 それでは、講演に入らせていただきますが、本日の講師をお願いしておりますコフラー 部長さんですが、2005年4月から、現在の駐日欧州委員会代表部一等参事官で広報部 長としてご活躍なさっておられます。 それでは、コフラー部長さん、よろしくお願いいたします。 【講 演】 こんにちは。まず初めに、兵庫県の皆様、そして特に専務理事の川鍋様に、このような 機会を与えていただきましてお礼を申し上げます。 日本には、合計で13のこのようなEU協会がございますが、その中でもこの兵庫EU 協会さんは非常に積極的に活動をされているということで、我々駐日欧州委員会代表部と しても、非常に心強く、頼もしく思っております。 先月、このHIAの代表の方から、こういったセミナーで、タイトルをEUにおけるワ ークライフバランスでお話ししてほしいというご依頼があったんですけれども、そのとき には少しどうしようかなと迷ってしまいました。と言いますのは、こういったセミナーは ―2― 普通、EUと日本の関係というものに重きを置いたものだからです。 しかし、ご依頼をいただいてから、このワークライフバランスに関することをいろいろ 考えたりですとか、いろんな日本の統計や数字を見るにつけ、やはりワークライフバラン スというのは非常に今、時にかなったといいますか、非常にタイミングのいいトピックだ なというのを徐々に理解をしてきました。 それではまず初めに、日本で先週報道された三つのニュース、すべて先週のことですが、 三つのニュースをご紹介いたします。 最初のニュースですけれども、これは先週の水曜日に発表されたものです。これは、日 本の厚生労働省が発表した統計ですけれども、2005年に日本で、働き過ぎによる脳あ るいは心疾患を理由に330人もの人が労災認定されたというニュースであります。 この新聞の記事によると、私の記憶が確かだとこれは過去最多の数字であって、12. 2%も増えており、過去最多の数字になったとありました。そして、この労災認定された 330人のうち157人の人が過労死、結局過労が原因で死亡してしまった、と書かれて ありました。また、この厚労省の発表によりますと、職場におけるストレスによって、同 じように非常に多くの人が精神的な障害のために労災認定されたと書かれてあります。 そして二つ目のニュースはその翌日、先週の木曜日のニュースですけれども、これも同 じく厚労省の発表によりますが、日本人の女性一人が生涯に産む平均的な子供の数、合計 特殊出生率ですけれども、この出生率が過去最低を記録しまして、女性一人当たり1.2 5になったということです。2003年は1.29、2004年も1.29でした。日本 が人口をふやすためには、女性一人当たり最低でも2.1人産まなければなりません。 この全国の合計特殊出生率の平均が1.25と今申し上げましたけれども、ここ兵庫県 ではそれよりもさらに低く、1.20だそうです。 それから、その翌日の金曜日、どうしてこんなにこういった同じようなニュースが先週 にかたまっているのか不思議ですけれども、この先週の金曜日に政府が出しました白書に よりますと、65歳以上の高齢者のパーセンテージが、2005年に過去初めて20%を 上回ったということで、日本は急速に高齢化社会に突入しているということがわかります。 と言いますのも、1970年は65歳以上の高齢者の数、あるいはパーセントは7%、そ れから1994年もまだ14%だったのです。 私はここに、ヨーロッパでの過労死やあるいは仕事によるストレスなどのデータは持っ てきていないのですけれども、しかしながら日本もヨーロッパも、出生率の低下、そして ―3― 高齢化社会という意味では同じような問題に直面しているのではないでしょうか。 ヨーロッパに目を転じて、EU25カ国の女性一人当たりの平均出産率を見ますと、こ れが2004年には1.5人でした。2004年というのが一番直近の数字ですが、1. 5人です。そして、20年前には、この数字はまだ1.88人だったのです。そして、一 番出産率が高いのが、アイルランドで1.99です。そしてその次にフランスの1.9、 そしてチェコ共和国の1.22、そしてまたポーランドでは1.23、ラトビアは1.2 4となっています。 ヨーロッパの大国でありますドイツなどは1.36、そして英国は1.74、イタリア は1.33であります。日本では、ヨーロッパよりも平均寿命が長くなっておりますが、 やはりヨーロッパでもこの平均寿命は長くなる傾向にあります。ですので、こういった社 会的な構造という意味でも、ヨーロッパと日本は非常に同じような問題に直面していると いうことがわかります。 そこで本日の講演のテーマである「ワークライフバランス」ということですけれども、 その点に関しまして、現在、ヨーロッパでどのようなチャレンジがあるのか、課題がある のかということをご説明いたします。 まず初めに、EUの雇用政策がどのようになっているのか。それからまた、EUでのフ ルタイムの労働がどのようなものか。そして続いてパートタイムの労働がどのようなもの なのか。そして最後に、男女間の平等という問題とワークライフバランスがどのようにな っているのか、そういったことをお話いたします。 過去におきましては、労働環境の改善という点では、主に労働時間を短縮するというこ とによってその改善がなされてきました。しかし、最近になりまして、ポリシーとして一 番注目の的になっているものは、労働者のニーズにいかにフレキシブルに対応していくか ということでありまして、いわゆる家族政策、あるいは一般的に言われております、本日 のテーマでもあるこのワークライフバランスの問題です。 それでは、そういった労働環境の改善ということで、どのような施策、アレンジメント が打ち出されているかということでありますが、以下のようなものが挙げられます。まず、 パートタイムワーク、そしてまた家族のための休暇をとるということ、あるいはフレック スタイムその他のタイムアレンジメント、それからまた1年とか半年というように期間を 区切ったような労働、それからまたジョブシェアリング、ワークシェアリング、そしてテ レワーキングといって自宅にいながらにして仕事をするというもの、それからまたフレキ ―4― シブルな退職の制度、そして育児に関する支援です。 このヨーロッパの雇用政策の目的は多々ありまして、例えば雇用を創出するとか、それ からまた労働時間を自由にアレンジして改革していく、それからまた労働者のフレキシビ リティーを高めると、そういったもろもろの施策があります。 それでは、これから具体的にヨーロッパの雇用政策がどうなっているのか、そしてまた 法律的な枠組みにどのようなものがあるかというのをお話いたします。 EUにおきましても、人々の生活や労働環境を改善する、あるいは規制するのは、国の 立法府、つまり国会とか議会といったところが主に行っております。しかし、国のそうい った立法府とともに重要なものが、いわゆるソーシャルパートナーというふうに呼ばれる もので、例えば連合であるとか、あるいは労働組合のような組織です。そういった組織が、 例えば国全体の、あるいは産業分野ごとの、あるいは企業ごとのいろいろな労働条件や労 働環境の取り決めをしていきます。こういった組織の役割は、日本の労働組合のような組 織のそれとはかなり違うのではないでしょうか。そしてまた、EU全体のレベルで見ても、 こういった組織は非常に大きな役割を担っているのです。 つまり、まず一つにはそれぞれの国家のレベルでいろいろな政策があるということです。 各国の立法府、それから労働組合などの組織のレベルで、さまざまな取り決めがされるわ けです。そしてその一方でまた、EU全体としてブリュッセルで取り決められる、いろい ろな法律や取り決めがあるわけです。それでは、なぜこういった2段階の施策、あるいは 法律などがあるのでしょうか。それは、EU全体の法律やルールが、各国、加盟国それぞ れの活動を支援、サポートしたり、あるいはないところを補完していったりといった役割 を果たしているのです。 もう少し具体的に申し上げますと、各国が満たさなければならない最低基準などを、こ ういったEUのレベルで取り決めているのです。例えば労働環境ですとか、あるいは労働 者の情報へのアクセスとか、あるいは労働者のコンサル、相談とかいったものをこれだけ は最低限満たさなければならない、というのをEUレベルで決めております。このように してEUで決められる社会法制によって、各国の労働基準が改善され、あるいは労働者の 権利が強化されていくのです。 それでは、ヨーロッパにおける労働時間の現状はどのようになっているのでしょうか。 家庭とほかのコミットメント、仕事などを両立するのにもっとも適正なバランスとはどう いったものなのでしょうか。 ―5― ヨーロッパの雇用政策を考えていく際に、あるいは創っていく際に、こういった問いか けが非常に大きな鍵になっています。それには以下の三つの理由があります。 まず第1に、労働時間を改革あるいは改善していくことが、現在8%を超えているとい う、ヨーロッパの非常に高い失業率を下げる役割を果たすことにつながります。つまり、 女性や定年間近の高年労働者といった人々を労働力に取り込むことによって、雇用を創出 することにつながるのです。 2番目の理由として、こういった労働時間を改革、改善していきますと、働いている人 が仕事以外に、例えば家で子供とか高齢者のケアをしなければならないといったことをう まく両立することができます。そしてこのような両立ができるということが、今大きな問 題となっている男女間の格差、あるいは不平等の是正にもつながるのです。 それから3番目の理由としましては、労働時間を改革、改善することによって、ヨーロ ッパの人々全体の一般的な生活、また労働環境の改善につながるということです。 このヨーロッパ各国、あるいはEU加盟国で共通の動きが見られます。それからまた同 じような課題にも直面しています。例えば、どの国も国際経済市場で熾烈な競争を戦って いかなければなりませんし、あるいは既存の、固定化された男女の役割というのがまだあ りますので、それを打ち破っていかなければなりませんし、あるいは女性がどんどん社会 に進出することによって、色々と新たな課題も発生してくるわけです。そういった共通の 課題もありますが、しかし、労働時間やまたそれに関する施策に関しては、国ごとに非常 に大きな、顕著な違いも見られます。 そして、労働時間の改革と申し上げてきましたけれども、この労働時間を改革する、あ るいは交渉していくに当たって、国ごとに大きく分けて三つのタイプがありまして、まず フランスなどに見られるように、伝統的に国がそういった労働時間などの規制を決めてし まっているところが一つです。それから二つ目としまして、国に対していろんな組織とか 労働者が交渉していくという社会民主主義的なモデル、これがスウェーデンとかドイツに 見られるモデルです。それから三番目としては、英国やアイルランドで見られるのですけ れども、これは、そういった国レベルの規制などがほとんどなくて、国民やあるいは市民 が自主的にこのイニシアチブをとって、そして労働時間を交渉していくというもの。こう いった三つのパターンがあります。 それからまた国ごとの枠組みも違いまして、そういったことによって各国間で、労働時 間の慣行とかあるいは傾向が違ってくるわけです。それに加えまして、各企業の就業時間 ―6― によっても労働時間というのは必然的に異なってきますし、またその国の所得分配の構造、 システムによっても違いがありますし、それからまた教育、トレーニング制度、あるいは 典型的な家族の形態や経済状況などによっても違ってきますので、こういったさまざまな 条件があって、各国の労働時間の現状とか傾向が異なってきています。 ここまでが、EUの雇用政策にかかわるものでありました。次に、EUにおけますフル タイムワークの現状についてお話をいたします。 1980年代までは、集団交渉とか、あるいは法律の制定がありまして、全体的な労働 時間はかなり減っておりました。しかし、1990年代に入りまして、このような労働時 間の大幅な削減、あるいは包括的な削減というのは、ヨーロッパの国々ではほとんど見ら れなくなりました。しかし、唯一の例外としてフランスがあります。 そして、皆さんご存じかと思いますけれども、ほとんどのヨーロッパ、EUの国々で、 一週間の最大の労働時間、最長の労働時間が48時間と規定されています。 そして、先ほど申し上げましたように、国の立法府のレベルでつくる様々な規制とかル ールに加えて、それぞれの労働組合や連合などの組織が大きな役割を果たしているのです が、こういった組織的なものの間で合意された労働条件はもう少し違っておりまして、約 38時間余りとなっています。 つまり、48時間というのがヨーロッパ全土にわたって最大の週単位の労働時間であり ますが、労働組合などの個別の組織における交渉によって、それが大体38時間とかなり 引き下げられているのです。しかし現状は、実際にフルタイムの労働者が週に何時間働い ているかといいますと、38時間よりも実際はもう少し多くなっています。それでも、大 体39時間ぐらいで、1時間ぐらいの差しかありません。特にこの38時間を大幅に越え ている国、これはアイルランド、そして英国であります。 先ほど、フランスはこの労働時間の短縮、削減ということで例外だというふうに申し上 げましたので、フランスについて少しお話を申し上げます。 フランスでは、雇用大臣のルイ・オーブリーという人がおりまして、この大臣が次のよ うな法律を制定、導入いたしました。これは2000年から、従業員20人以上を抱える 企業に対して、労働時間を週39時間から35時間に削減するというものです。そして2 002年からは、それが従業員20人以下のもう少し小規模な企業にも当てはまるように なりました。 このような法律が導入された結果、どのような動きになったかと言いますと、まず労働 ―7― 時間にいろいろな多様性が出てきたということが一つ。それからまた実質的な労働時間の 短縮、実質的な雇用の創出にもつながったこと。そして社員、従業員に対して調査した結 果、ほとんどの人々がQOL、つまり生活の質が上がったと感じているということでした。 しかし一方で、ネガティブな側面としましては、労働環境が前よりも厳しくなったとか、 あるいは時間が不規則になったと、そういった声も聞かれております。 このように週単位の労働時間に制限が設けられたというだけでなく、法定の有給休暇、 最低限の有給休暇もすべての国で定められております。そして、EU加盟国全体における、 この法定の最低有給休暇日数としましては20から25日ということになっております。 しかし平均的な年間の休暇ですけれども、これは実際にはもう少し最低ラインよりも多く て、4日あるいはそれ以上多くなっております。 最後にもう一つフルタイム労働について言えることは、フルタイムの労働者の働く時間 が、最近ふえる傾向にあるということです。週45時間以上働くフルタイムの従業員の数 あるいはパーセンテージは1980年代の中ごろから増えてきておりまして、この労働時 間の増加に伴って、残業をしても残業代が出ないとか、あるいは社員が働く時間を自由に 自己で決めるといったような傾向も大きくなっております。特にITの業界ではそういっ た傾向が顕著に見られます。 では、次にパートタイムの現状をお話します。 ヨーロッパのパートタイムの現状ですけれども、EUの国々全体にわたって、パートタ イムの労働者の人口は増えています。そしてほとんどのパートタイムの労働者は女性で、 特に母親が占めています。 しかし一方で、男性のパートタイム労働者も、例えば英国とかあるいはオランダといっ た国で増えています。そして、パートタイム労働自体が、特にオランダ、ノルウェー、そ して英国、スウェーデンなどで非常に多くなっておりまして、もっともパートタイム労働 者の少ないところがポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシアとなっています。 パートタイム労働というのは、例えば子供の養育とか教育、あるいは自分の教育、それ からまた半分リタイアして半分働くというように、仕事とそれ以外の活動をうまく両立す るためのひとつの方法です。そして、こういったパートタイム労働者の女性の3分の2、 そして男性の3分の1が、実際フルタイムの仕事はしたくないと言っております。 しかし、そういった家族のいろいろなニーズとか制約があって、パートタイムを選ぶ人 であっても、それが実際本当にやりたい、したい選択肢でない場合もあるのです。例えば ―8― 本当はもっとチャイルドケアが充実していたら、子供をどこかに預けられたら、もっとパ ートタイムではなくて長い時間働きたいのだという人もいますし、また、こういったパー トタイム労働者の5人に1人が、実際はフルタイムの仕事が見つけられないからパートタ イムで労働するのだということです。 ですから、こういったパートタイム労働が魅力的になるための条件としては、やはり労 働時間の問題もありますし、それからスケジュールをいかにアレンジできるかという問題 もありますし、それからまた子供の養育に関して選択肢があり、かつ十分な賃金が保証さ れるような社会的なインフラストラクチャーがきちんと整っているか、あるいはほかの 諸々の労働条件にも関わってきます。 あるいは、パートタイムを選ぶ理由としては、例えばどこか教育機関に入って何か学び たい、あるいはトレーニングを受けたいということでパートタイムを選ぶ人もいます。 それからまた定年間近の高齢者の人々がパートタイム労働者になるというのも、非常に 顕著に見られております。それはオランダやスウェーデン、デンマーク、それから英国と いったような国々です。また、ほかの国に目を転じてみますと、いろんな施策が講じられ ておりまして、デンマーク、ドイツ、オーストリアなど、高齢の労働者に対して、完全に 退職してしまうのではなくパートタイムの労働を選ぶように国が奨励しているようなとこ ろもあります。しかし実際には、こういったデンマークとかドイツとかオーストリア以外 の国では、退職するかわりにパートタイムをすることによって、何の見返りも、あるいは インセンティブもないというところが多く、あるいはそういったことをすると逆に不利に なってしまう、不利益をこうむるような、そういった例もあります。それは例えばギリシ アなどです。 こうしたほとんどのパートタイム労働者の仕事は、非常に賃金の安い職あるいは分野に かたまっているという傾向があります。また、こういった職、仕事では、十分なトレーニ ングを受けるとか、キャリアを積んでいくような機会もあまりなく、それからまた社会的 な保護もあまり受けられないという現状があります。そういった意味でも、先ほど来申し 上げておりますEUの雇用政策の中で謳われている就業における平等とか、あるいは社会 的保護の原則によって、各国のパートタイム労働の質が上がると考えています。 それでは次に、このEUにおける産休や育児休暇をはじめとする、仕事とほかのものを 両立するといった施策についてお話を申し上げます。 ほとんどのEUの国々では、昨今、法定の産休とか育児休暇、またこういった子供のケ ―9― アサービスの公的支援などが実施されております。例えば、特にオランダなどの国では、 そういった支援を拡大しまして、そして小さい子供だけではなくて病気の子供とかあるい は成人の要介護者などにもそういった支援を拡大しています。 このように全体的な共通の傾向はあるのですが、しかしやはりここでも、国ごとに顕著 な差が見られます。例えば北欧などの国々におきましては、非常に包括的、総合的な公的 育児支援のサービスが整っており、また育児休暇などの規程も法律できちんと定められて おります。一方、ポルトガルやギリシアといった国々では、母親が自分の両親に預けると いったものも含めて、公的ではなく民間業者のサービスに頼るという傾向が非常に強くな っています。祖父母、あるいは民間のサービスであれば主に移民の労働者が、その役割を 担っているのです。 また、たとえ育児休暇が認められていても、きちんと賃金が保障されていなければとり にくいという現状があります。しかし、実際のところはこういった育児休暇のほとんどは 無賃金、あるいはそういった金銭的なサポートがないというのがEU各国の現状でありま す。そして、特に父親の間では、こういった育児休暇をとるという比率は非常に低いので す。したがって、このように母親ばかりが育児休暇をとって父親がとらなければ、ますま す男女間の格差あるいは不平等が広まっていきますし、そして女性だけが、そういった制 度を利用して家族の面倒を見なければならないという状況に陥ってしまいます。 それからワークライフバランスといいますのは、育児だけではなくて、病気の子供とか、 あるいは成人でも要介護者という、そういった人々のケアが入ります。こういったサービ スがどれぐらい利用可能かと言いますと、EU各国でそういったニーズは非常に多いので すが、サービスはまだまだ充実していないというのが現状です。 それでは最後に、ワークライフバランスと男女間の平等というテーマで締めくくります。 まず、EUの女性がどれぐらい、男性に対して賃金を稼いでいるかということですが、 男性と比べて女性は、金額が15%低くなっております。そして、なかなかこういう状況 は改善されず、まだ非常に男女間の格差があるということです。これは、今年の2月に欧 州委員会が出した報告書によるものです。 そして、この同じ報告書によりますと、こういったワークライフバランス、つまり仕事 と生活のバランスをとるというのが難しいというその背景には、やはり多くの女性が労働 市場を途中で去ってしまう、やめてしまうということもあります。現在、女性の就業率は 55.7%です。この55.7という数字ですけれども、これは男性に比べて15%低い ―10― 数字となっております。そしてまた、女性の仕事というのも非常に限られた分野になって おりまして、働いている女性の40%が教育の分野とかあるいは保険関係の分野、それか らまた公的な機関での同様の分野でありまして、こういった分野で働いている男性の数は 20%に満たないということから考えて、特定の分野での女性の就業率が非常に高くなっ ているということがわかります。 そして働く女性の32%がパートタイムの労働者です。しかし、男性の労働者のうちパ ートタイムに占める割合は、わずか7%余りなのです。先ほど、女性が稼ぐ額が男性より も15%低いと申し上げましたけれども、その理由としては、やはり非常に賃金の安い、 給与の安いセクターで働いているという傾向があるということが一つありますし、また、 会社あるいは組織の中でもトップのポジションを占める女性が非常に少ないということも あげられます。例えばマネジャークラスの労働者に占める女性の割合というのは、わずか に32%、それからまた役員クラスでも、全役員に占める女性の割合というのはわずか1 0%です。それからまたEUを代表するような大きな企業のうち、CEOが女性というの も、全体のわずか3%にすぎません。 しかし、こういったネガティブな面だけではなく明るい面もありまして、この報告書に よりますと、この5年間にEUで創出された仕事のうち75%を女性が占めているという ことです。 このように、男性と女性の役割ということでは、どうしても固定観念、ステレオタイプ が打ち破れないということ、それからまだ男性であるとか女性であるとかいうことに基づ いた給与や評価体系があるということです。そしてそれが、女性がもっともっと労働市場 に入っていくのを妨げていて、なかなかワークライフバランスをとるのは難しいというの が現状なのです。そして、このようにワークライフバランスがうまくとれないということ によって、女性が労働市場に入りにくいというだけではなくて、出生率も非常に低くなっ てしまうわけです。出生率が低くなりますと、究極的にはEU全体の経済にも悪影響を及 ぼしてしまいます。そういった意味で、この欧州委員会の報告書は、EUの加盟国に対し て、男性と女性がもっと仕事と、そしてプライベートの生活のバランスをとれるような施 策を講じる後押しをしております。例えば、チャイルドケアをもっと拡充、充実させると か、あるいはもっと労働時間やその他のアレンジメントを改善するとか、それからもっと 男女の平等を目指した政策を打ち出すなどであります。それから男性と女性の今ある雇用 上のあるいは給与体系上の格差をなくし、またEUの構造資金というものを使って、男女 ―11― 間の格差をなくすように、そういったことをこの報告書は促しています。 では、締めくくりといたしまして、EU各国の労働者の、六つの傾向を見ていきます。 ここにある数字がございますけれども、EUの労働者の半分が、もっと今よりも労働時 間を削減したいと考えています。その労働時間の削減よって賃金が減っても構わないとい うふうに言っています。そして、もっと働きたい、あるいはもっと労働時間を長くしてほ しいというふうに考えていると答えた人は、わずか12%でした。 平均的に、労働者が週何時間ぐらい働きたいと考えているかと言いますと、男性の場合 は37時間、女性の場合は30時間です。 そして現在、フルタイムの仕事を持っている人のうち、男性の22%、そして女性の3 7%が、フルタイムではなくてパートタイムの仕事をしたいと考えています。 そして、このように、男性の働く時間とかそういった好みといいますか理想というのは、 やはり父親の役割というものにもかなり影響を受けています。 そして、男性も女性もこれは両方ですけれども、フルタイムの労働者の23%がもしと れれば、あれば有給休暇をとりたいと考えているのです。 ご清聴ありがとうございました。(拍手) ―12―
© Copyright 2024 Paperzz