グローバル化するアジアの女性のキャリア形成と大学の役割―石井クンツ

グローバル化するアジアの女性のキャリア形成と
大学の役割
石井クンツ昌子
IMF の緊急レポート「女性は日本を(そしてアジアも)救えるか ?」(Steinberg, 2012)
をもとにした特別番組が IMF 専務理事で2児の母親でもあるリスティーヌ・ラガルド氏を
招いて昨秋 NHK クローズアップ現代で放送され大きな反響を得た。このレポートの背景
には、ヨーロッパ経済の混迷とその世界的な影響が上げられ、日本経済が同じような危機
に陥らないようにするためには女性の活用が重要であるという主旨がある。つまり、女性
が仕事と家庭の両立をすることができる政策があり、「女性力」が職場で活用されること
が、日本の今後の経済発展につながり、
「日本が国際経済の重要なプレーヤーであり続ける
ために役立つだろう」(Steinberg, 2012)と期待されているのである。
今後の日本及びアジアの経済発展のためには、女性が様々な場面で活躍することが望ま
れている背景をもとに、本報告では、女性のキャリア形成に注目して、その実現のために
高等教育が果たす役割に注目する。具体的には報告を3つの柱に分けて、女性力とは何か、
日本とアジアの男女共同参画の現状、女性力を育む高等教育とは何かという視点から女性
のキャリア形成とそのための大学教育の役割を探っていきたい。
1.女性力とは
「女子力」という表現は書籍や雑誌などでよく目にするが、これは一般的には女性のメイ
ク、ファッション、センスに対するモチベーションやレベルなどを指す言葉である。しか
し、この中には下着力説(女性の品格は目に見えるところだけでなく、下着などの見えな
いところにも美を追求しようという視点)、仕事力説(可愛いだけではなく、仕事をそつな
くこなす賢い女性になろうという視点)、心の力説(外面だけではなく、内面も磨こうとい
う視点)などの概念も含まれる。
「女子力」と比べると、
「女性力」という言葉はあまり浸透していないように思う。「女子
力」が女性特有の力に焦点を置いているのに対して、「女性力」はもっと広義に解釈して
石井クンツ昌子、お茶の水女子大学教授
本稿は2013年1月26日に青山学院大学で開催された国際シンポジウム「アジアのグローバ
ル化促進のための『女性力』の活用」に提出したものである。
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「女性が持つ能力」と定義できるのではないだろうか。女性が持つ能力とは、女性に特化し
た生物的な能力も含むが、キャリア形成においては男性が持つ能力と同じ場合もありえる
だろう。そこで本報告では女性が能力を発揮することにより、自身のキャリア形成につな
がり、企業などでは経営業績がアップするという2重の効果があると考える。女性が自分の
力を発揮できて、それがキャリア形成につながる職場環境とは募集、採用、配置から昇進、
教育訓練、福利厚生に至るまでジェンダーセンシティブなアプローチを取っている場であ
り、また、経営者・労働者双方が「男性は主要な業務・女性は補助的業務」といった固定
的性別役割分担意識からフリーであることも重要である。しかし、現実に目を向けると日
本では、女性の能力が未だ十分に活用されていない場合が多い。そこで、以下では日本と
アジアの男女共同参画の現状を概観する。
2.日本の男女共同参画の現状
ここでは男女共同参画白書平成23年版より、日本と世界の女性の参画について探り、今
後の課題について触れておこう。
(1)国の政策・方針決定過程への女性の参画
平成23年4月現在の国会議員に占める女性の割合は、衆議院10.9%、参議院18.2%であ
り、女性は圧倒的に少数派である。同じアジアの国々でも、韓国の女性議員の割合は32.8%、
シンガポールでは23.4% であり、日本と比較すると女性の政界進出の割合は高い。
国家公務員の管理職に占める女性の割合は増加傾向にあるものの、平成20年度で2.2%と
なお低水準を保っている。なお、採用者に占める女性の割合は着実に増加し、Ⅰ種試験等
事務系区分は平成22年度には25.7%と上昇している。さらに国の審議会等における女性委
員の割合も着実に増加しており、平成22年では33.8%。女性の専門委員等の割合は17.3%で
あった。これらの数値からわかることは、国の審議会等における女性の活躍はある程度上
昇傾向にあるものの、国のトップレベルでの政策・方針決定過程においての女性の参画は
未だ非常に低い水準であるということだ。
(2)地方公共団体の政策・方針決定過程への女性の参画
地方議会における女性議員の割合はおおむね横ばいであり、最も高い特別区議会では
24.6%となっている。地方公務員管理職に占める女性の割合はおおむね増加傾向にあるが
なお低く、平成22年では都道府県6.0%、政令指定都市9.1%、市区9.8%、町村9.6%であっ
た。しかし、地方公共団体の審議会等における女性委員の割合は着実に増加しており、平
成22年では都道府県33.9%、政令指定都市32.4%、市区27.1%、町村23.2%である。よって、
管理職に就く女性地方公務員は未だ少ないが、地方公共団体の審議会においては、女性の
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活躍が徐々に増加している。しかし、注目すべきは、地方公共団体においても、女性委員
や女性の管理職の割合は未だ半数以下であるということだろう。
(3)様々な分野における女性の参画
他の分野における女性の参画を見てみると、司法分野における女性割合は着実に増加し
てきてはいるが、女性裁判官は16.5%、検察官は13.6%、弁護士は16.3%と低く、女性力が
活用されているとは言い難い。新聞、放送業界においては、女性の参画は徐々に進展して
いるという報告もある。また、雇用形態別の役員を除いた雇用者の構成割合を見ると、男
性の81.1% は正規職員・従業員であるが、女性は46.2% と男女差が如実に表れている。管理
職に占める女性の割合は、民間企業の部長相当で見ると平成元年の1.3% から平成22年の
4.2% と上昇はしてきているものの、未だ1割に満たない現状がある。
(4)人間開発指数、ジェンダー不平等指数、ジェンダー・ギャップ指数
以下の表は人間開発指数(Human Development Index: HDI)、ジェンダー不平等指数
(Gender Inequality Index: GII)、ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index: GGI)の
国際比較である。
HDI とは、その国の、人々の生活の質や発展度合いを示す指標であり、
「健康」(見込み
寿命)
、
「教育」
(見込み学校教育年数及び平均学校教育年数)、
「所得」(国民総収入 GNI に
基づく)の3次元に基づいて、人間開発の最大レベル(潜在的レベル)を表す指標である。
よって、この数字が大きいほどその国の潜在力が高いことになり、例えば、2011年度の日
本の値は、0.884で、すなわち、最大88.4% の人間開発の達成度が可能な状況にあるという
ことになる。
GII とは、人間開発の達成度において、男女の不平等による人間開発達成度の損失を表
す指標である。すなわち、
「健康」(妊娠死亡率及び成人妊娠率)、
「エンパワーメント」(議
会での男女議員の配分及び第二次あるいはそれ以上の教育達成レベル)、
「労働」
(女性の労
働力への参加)の3次元で、人間開発の成果が失われた割合を示す指標である。この指数の
値は、0(完全に平等)から1(完全に不平等)までの数字で表わされ、例えば、日本の
GII 値の0.273は男女不平等の結果、人間開発に27.3% の損失が出たことを示している。
GGI は対象国の開発レベルを考慮することなく男女格差を測定しているが、経済分野、
教育分野、政治分野及び保健分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等
を意味している。日本における GGI を見ると、2007年は128カ国中91位、2008年は130カ国
中98位、2010年には134カ国中94位とほぼ横ばいであり、男女格差が比較的高いことがわか
る。主な理由としては、政治分野及び経済分野における男女差が大きいため、このような
低い順位になっているという。よって、日本では、全般的に未だ男女格差が根強く存在し
ていることがわかるだろう。
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(備考)1.国連開発計画(UNDP)「人間開発報告書2010」及び世界経済フォーラム「The Global Gender Gap Report 2010」より作成。
2.測定可能な国数は,HDIは169か国,GIIは138か国,GGIは134か国。
(5)労働力人口の推移
総務省「労働力調査(基本集計)」
(平成22年)によると、労働力人口は平均6,590万人で、
前年に比べ27万人減少し、3年連続の減少となった。男女別に見ると、男性が3,822万人
(前年比25万人減)で3年連続の減少となり、女性は2,768万人(前年比3万人減)で2年ぶ
りの減少となった。昭和50年以降で見ると、労働力人口に女性が占める割合は昭和63年に
4割を超え、平成22年は42.0%となっている。労働力人口比率(15歳以上人口に占める労働
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力人口の割合。以下「労働力率」)を見ると、平成22年平均は59.6%で前年比0.3ポイント低
下し、3年連続の低下となった。男女別の労働力率では、女性は48.5%と前年と同率になっ
た。男性は71.6%で前年比0.4ポイント低下し、13年連続の低下となった。これらの数値を
見ると、男女ともに労働率は低下傾向にあるものの、女性の方がまだ低いとは言え、安定
した労働力を保っていることがわかる。
(6)女性の年齢階級別労働力率(M 字カーブ)の変化
女性の年齢階級別労働力率については下図の昭和50年からほぼ10年ごとの変化を見る
と、現在も依然として「M 字カーブ」を描いているものの、そのカーブは以前に比べかな
り浅くなっており、M 字部分の底となっている年齢階級も変化している。
(備考)1.総務省「労働力調査」より作成。
2.「労働力率」…15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合。
(7)OECD 諸国の中でも低い日本の女性就業率
わが国の女性の25~54歳の就業率を他のOECD諸国と比較すると、30か国中22位である。
また、以下の図にあるように、女性労働力率の M 字カーブは欧米諸国では見られないが、
日本と韓国では未だ存在する。
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(備考)1.「労働力率」…15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合。
2.米国の「15∼19歳」は,16∼19歳。
3.日本は総務省「労働力調査(詳細集計)」(平成22年),その他の国はILO「LABORSTA」より作成。
4.日本は平成22年(2010年),韓国は平成19年(2007年),その他の国は平成20年(2008年)時点の数値。
(8)男女間の給与格差
男性の給与額を100として女性の給与額を見ると、一般労働者では69.3% であり、その内、
正社員・正職員では72.1% であった。この格差の要因としては、職階と勤続年数があげら
れる。つまり、給与のジェンダーギャップは管理職に就いている女性が少ないこと、出産・
育児により退職し、子どもがある程度の年齢に達してから再就職をする女性が多いため
に、その結果、勤続年数が短いことなどが男女間の給与格差を引き起こしていると考えら
れる。
(9)性別役割分担意識の推移
以下の図にあるように「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方につ
いて、昭和54年調査では、賛成の割合(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)が7割を超え
ていたが、平成16年調査で初めて反対(「反対」+「どちらかといえば反対」)が賛成を上
回り、19年調査では反対が5割を超えて、21年調査でも半数以上が反対であった。しかし、
それでも固定的な男女役割分業観を持っている人は全体で41.3% もいる。また、このよう
な考え方を持っているのは女性(37.3%)と比較して男性(45.9%)の方が多いこともわか
る。
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(備考)内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」等により作成。
(10)女子の大学進学率は上昇傾向
文部科学省の「学校基本調査」によると、以下の図にあるように、平成22年度の高等学
校等への進学率は、女子96.5%、男子96.1%と、若干女子の方が高くなっている。大学(学
部)への進学率を見ると、男子56.4%、女子45.2%と男子の方が10ポイント以上高い。しか
し女子は、全体の10.8%が短期大学(本科)へ進学しており、この短期大学への進学率を
合わせると、女子の大学等進学率は56.0%となる。近年、大学(学部)への女子の進学率
が上昇している一方で、短期大学への進学率は6年度の24.9%をピークに、減少し続けてい
る。なお、大学(学部)卒業後、直ちに大学院へ進学する者の割合は、平成22年度では男
性17.4%、女性7.1%となっている。また、専攻分野別に見ると、女子学生は人文科学系が
多く、男子学生は理学・工学系が多い。
(備考)1.文部科学省「学校基本調査」より作成。
2.高等学校等:中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者のうち,高等学校等の本科・別科,高等専門学校に
進学した者の占める比率。ただし,進学者には,高等学校の通信制課程(本科)への進学者を含まない。
3.大学(学部),短期大学(本科):過年度高卒者等を含む。大学学部又は短期大学本科入学者数(過年度高卒者
等を含む。)を3年間の中学卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数で除した比率。ただし,入学者には,大
学又は短期大学の通信制への入学者を含まない。
4.大学院:大学学部卒業者のうち,ただちに大学院に進学した者の比率(医学部,歯学部は博士課程への進学者)
。
ただし.進学者には,大学院の通信制への進学者を含まない。
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(11)高等教育在学率の国際比較
わが国の女性の高等教育在学率は、他の先進国と比較して低い水準になっている(下図
参照)
。また、韓国を除き、他の国では、男性より女性の在学率が高いが、日本では逆に女
性の在学率が男性と比較して低いという状況にある。
(備考)1.UNESCO Institute for Statistics ウェブサイトより作成。
2.在学率は「高等教育機関(Tertiary Education, ISCED5及び6)の在学者数(全年令)/中等教育に続く5歳
上までの人口」で計算しているため,100%を超える場合がある。
3.原典は,Table14 Teritary Education の Gross enrolment ratio, ISCED 5 and 6.
(12)女性の仕事と家庭の両立
仕事と家庭生活両方を優先したいと考えている女性にとって、その希望と現実には大き
なギャップがあるようだ。例えば、20〜29歳の女性の33.3% が仕事と家庭生活の両方を優
先することを希望しているが、現実には17.6% のみがそのようなライフスタイルを確立し
ている。30~39歳の女性では、34.5%が希望しているものの、現実に達成できているのは
26.9% であった。
(13)まとめと課題
以上のデータからわかる日本の現状を以下のようにまとめることができる。
① 政策・方針決定過程への女性の参画について政府は「2020年30%」の目標を掲げてき
たが、現状はいまだ低調である。よって、今後は積極的に女性議員の増加や地方公共団
体などにおける女性の参画を活発化することが課題である。
② 固定的性別役割分担意識がいまだ根強く残っている。特に男性の場合にこの傾向が見
られる。この男女差を是正するためには、女性の活躍をアピールすることや、初等・中
等教育などで男女共同参画の重要性を訴える内容のカリキュラムが必要となってくるだ
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ろう。
③ 管理職に就く女性は少なく、女性の雇用形態はパート・アルバイト・派遣・契約・嘱
託などの非正規雇用が多い。また、年齢別の労働率では未だ M 字カーブが存在するし、
男女の給与格差もまだ是正されていない。女性にとって家庭生活と仕事の両立は喫緊の
課題であり、今後は女性のニーズに特化したワーク・ライフ・バランス政策をより充実
させる必要があるだろう。
④ 大学(学部)進学率は男子の方が多いが、短期大学を入れると男女で同程度である。
大学院進学率に関しては圧倒的に男子の方が多い。また、専攻分野では、男子は理・工
系、女子は人文科学系が多い。この現状を踏まえて、高等教育では女子学生を対象とし
たアウトリーチ計画の作成などが課題となってくるだろう。
2.グローバルな女性力を育む高等教育の内容と課題
以上のデータからわかるように、日本においては、様々な分野で男女平等参画が浸透し
ていない現状がある。そこで、この現状を打破して、女性力の活用を推進していくために
高等教育が担う役割は重要であると考える。しかし、具体的に女性力を育む大学教育とは
どのようなものなのだろうか。ここでは、女性力を育成・推進する教育には何が必要であ
るのかを論じることとする。
(1)女性のキャリア・リーダーシップ教育
女性が自分の力を発揮して活躍するためには、大学におけるキャリア教育が必須であろ
う。それでは、女性のキャリア教育はどうあるべきなのだろうか。以下、お茶の水女子大
学の例をあげて説明したい。
現在、お茶の水女子大学ではキャリアデザインプログラムを展開しているが、教養教育
や専門教育を通して、
「自分が何を目ざし、そのために何を学ぶのかを、みきわめ実行する
力」
「社会的課題をきちんと認識し、目標を設定して成果をあげる力」を養うことを目的と
している。こうした力を、自分にあった仕事を見つけ就職する「就業力」として開花させ
ていくのが、
「キャリアデザインプログラム」である。このプログラムでは、
「双方向のツー
ル活用」
「自律的活動」「多様な社会集団での協働」という3分野のコンピテンシー(問題
を発見し知識や技能を状況に応じて組み合わせ成果をあげる包括的能力)を開発し、状況
に応じて適切に組み合わせ成果をあげる力を養うことを目標としている。「双方向のツー
ル活用」とは最新の技術やスキルを身につけて、他者や環境と双方向(インタラクティブ)
な対話をし、新たな知識やスキルをつくりだすことであり、
「自律的活動」とは複雑化する
社会でアイデンティティを確立し、目標を設定することだ。また、
「多様な社会集団での協
働」とは社会の多様性に対応する、他人の気持ちを理解する、人間関係をはじめとする社
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会的資本をうまく構築することをいう。
女性リーダーシップ教育に関してお茶の水女子大学ではリーダーシップ養成教育研究セ
ンターを中心として、様々な事業が行われている。その一環としてカリキュラムを開発し、
リーダーシップ育成を目的とする科目群を設置するとともに、学生海外派遣プログラムの
実施、リーダーシップに関するシンポジウム、講演会の開催をはじめとするさまざまな事
業を展開している。また、
「Make a Difference」(常に問題意識を持ち、自ら積極的に周囲
に働きかけ、社会に変革をもたらす)実践のために「心遣い」
(自分と異なる意見も尊重し
他者に配慮できること)、「知性」(問題を適確に捉え解決すること)、「しなやかさ」(難し
い局面にも自信を持って柔軟に対応できること)という3つの特性が重要視して、創造性
豊かな発想と多面的な思考力のスキル、存在感を示し議論や提案の場で適確に表現するス
キル、そして仲間や周囲と協力しその力を引き出す組織化のスキルの習得に力を入れてい
る。
このように大学におけるキャリア・リーダーシップ教育は必須であるが、女性のキャリ
ア形成には女性特有のライフイベント、すなわち結婚・出産・育児が大きく影響し、継続
就業をするか、キャリアを中断して再就職するかの岐路に立たされることが少なくない。
そのために、大学における女性キャリア・リーダーシップ教育後に女性のキャリアを支援
する体制が政府や企業などでより充実していかなければならない。
(2)グローバル人材の育成推進
グローバル化するアジアにおいて活躍できる女性を育成するためには、大学教育の中
で、グローバル人材を育成・推進することが必要である。そのため、外国語教育の充実や
留学経験を増やすことなどは最低条件であり、他にも諸外国の大学と連携して学生のネッ
トワークをグローバルレベルで拡大することも重要であろう。お茶の水女子大学ではグ
ローバル人材育成推進事業を通して、上記の目的を達成する予定である。
(3)理系女子を増やす
前述したように、女性の専攻分野は人文科学系に集中しており、工学・理学系の女子学
生は少ない傾向にある。また、15歳時の女子生徒の理系志向の国際比較(PISA、2006)を
見ると、他の先進国と比較して日本の理系志向の女子学生は少ないことがわかっている。
この要因としては、家庭や初等・中等教育におけるジェンダー化された社会化も関係して
いると思うが、大学としては、理系の女子学生を増やすべく、積極的なアウトリーチプロ
グラムを展開することが必要である。女子高校生のためのサイエンスフェスティバル等は
既にお茶の水女子大学などでも開催されているが、スーパーサイエンスハイスクール校な
どにおいてのアウトリーチも有効であるだろう。今後、科学・工学分野の発展を推し進め
ていくためには、女性力の活用は必須であり、そのためには大学教育において理系女子を
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増やすことが求められる。
(4)ロールモデルの提供
女子大あるいは共学の大学を問わずに、多くの女子大生にとってキャリア形成は重要な
課題である。キャリア・リーダーシップ教育の中で職業選択や就職活動などの実践につい
て学ぶことは多いが、実際に自身のキャリア形成において「女性力」を100% 発揮するため
には具体的にどのようなことをすればよいのかについて考える機会はあまりないように思
う。よって、様々な業界で活躍している女性のロールモデルから女性力発揮の多様性を学
べる機会を提供することは重要である。また、学外だけに集中せずに、学内の教職員のロー
ルモデルから話を聞いたり、ディスカッションをする機会を持つことも有効であろう。
(5)女性大学教員・研究者の育成
女性大学教員や研究者をロールモデルとして学生に紹介することは前述したように重要
であるが、実際には平成22年度総務省「科学技術研究調査」によると女性教員・研究者の
数は非常に少ないという問題がある。日本では研究者に占める女性の割合は僅か13.6% で
あり、米国の34.4% と比較すると低く、韓国の14.9% よりも少ない。また、大学教授に占め
る女性の割合も12.5% と低い現状がある。
女性研究者が少ない理由としては、
「職場環境」
「男女の社会的分業」
「ロールモデルが少
ない」
「男性に比べて採用が少ない」
「評価者に男性を優先する意識がある」
「労働時間が長
い」
「業績評価において育児・介護等に対する配慮がない」などの労働環境や女性差別的な
意識による制限もあるが、最も頻度の高い理由は「家庭と仕事の両立が困難」であった。
よって、女性の大学教員や研究者を育成する目標を掲げた事業を行なったり、体制を作り
上げることが必要である。お茶の水女子大学では女性研究者に適合した雇用環境モデルを
構築することを目標と掲げ、女性研究者支援プログラム(Career Opportunity Support
Model from Ochanomizu Scientist: COSMOS)を通してシンポジウム、勉強会、イン
フォーマルなランチセッションなどを開催し若手女性研究者の支援を行ってきた。女性研
究者にとっての理想の職場を考える機会を設けることの一例ではあるが、今後はこのよう
な女性大学教員・研究者の職場環境の改善がより必要となってくるだろう。
おわりに
本報告では、女性力の定義を提示し、男女共同参画の現状、そして女性のキャリア形成
を促す大学の役割について述べてきた。全体を通して言えることは、日本では未だ女性力
を100% 発揮して活躍する舞台が少ないことである。しかし、この現状を打破するために大
学教育が担う役割は大きく、上述した様々な分野での教育・支援の更なる発展が望まれる。
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IMF の緊急レポートのタイトルは「女性は日本を(そしてアジアも)救えるか?」であっ
たが、今後の日本ではむしろ「女性力の活用なしでは経済発展もなし」という視点で、女
性のキャリア形成のための支援を積極的に行い、女性力を100%発揮できる環境を作り上げ
ていく必要があるだろう。
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