プロジェクト事例〈アフリカ〉

プロジェクト事 例
〈 ア フ リ カ 〉
事例 35
ウガンダ国における〔Ⅰ〕ナカワ職業訓練校復興プロジェクト
〔Ⅱ〕同・フォローアップ技術協力
独立行政法人雇用・能力開発機構千葉センター 宮城 健
(元 JICA 専門家・チーフアドバイザー)
[Ⅰ] ナカワ職業訓練校復興プロジェクト
(3)実施場所・実施体制・活動内容
1.プロジェクトの概要
(a)所管省庁
(1)プロジェクト実施の背景
教育・スポーツ省(Ministry of Education and
ナカワ職業訓練校(Nakawa Vocational Training
Sports)の BTVET(Business,Technical, Vocational
Institute;略称 NVTI)は、1968 年日本の技術協力に
Education and Training)局がウガンダの職業訓練を
よって建設された職業訓練校で、その後 5 年間の技
所管している。
術移転が実施され、ウガンダの職業訓練を切り開い
当プロジェクト開始当時の 1998 年までは、労働・
てきた。独立後間もないウガンダ国では、この 1960
社会・福祉省が所管していたが、
省庁の統廃合により
年代後半から 70 年代にかけ、オボテ、アミンなどに
現在に至った。
よる軍事クーデターが勃発し、社会的及び経済的に
(b)実施場所
激しい混乱の時代が続いた。このような時代をくぐ
りぬけ、
開設以来ほぼ 20 年以上にわたりウガンダ国
カンパラ市内ナカワ(市の中心より約 4.0 ㎞)
(c)実施体制
による運営が続けられてきたが、NVTI は施設・機材
1)日本側投入
等の老朽化が進み、さらにローカルコスト維持の難
①協力期間:5 カ年間
しさ等様々な問題を抱えていた。
(1997 年 5 月 20 日〜2002 年 5 月 19 日)
施設の復興計画は、1994 年、漸く政治・経済的に
②日本側投入:専門家の派遣(長期 17 名、短期 10
安定した時代を迎え、国の再建をかけた国家復興開
名)電気、自動車、溶接、板金、機械、電子、家具
発計画の中で議論された。内戦で荒廃した施設の改
製作および訓練管理、リーダー、調整員
修と併せて機器の更新、産業界の需要に即応できる
③本邦での研修の受入者総数(延べ 43 名)
人材を育成できる新たな科目増設を含めた「ナカワ
④機材供与(423 百万円)
職業訓練校復興プロジェクト」として日本側に要請
2)ウガンダ側投入
された。
①同校の敷地、施設(356 万 US$相当)
(2)プロジェクトの目的と目標
②スタッフの配置(延べ 50 名)
(a)目的
校長、副校長、カウンターパート各科 6 名(シニア
① 中卒養成訓練(2 年間)の実施
指導員 1 名、指導員 3 名、指導員補 2 名)
② 徒弟制訓練(訓練法に基づく企業からの委託によ
③運営予算(1,184 万 US$相当)
る初任技能者の訓練)の実施
(d)NVTI の活動内容
③ 向上訓練(企業の在職者に対する技術セミナー、
依頼によるオーダー・メイド研修等)の内容改善
1)養成訓練
機械、板金、溶接、自動車整備、木工、電気、電
④ 訓練指導員の能力向上
子の 7 コースで各科定員 20 名、訓練期間は 2 年間。
(b)目標
夜間コースも実施。
ウガンダ産業界の求める人材の育成が出来る。
2)向上訓練
官公庁(警察、教員)、民間企業(製糖工場、ビール
工場、飲料水工場等)から現職技能者を受け入れて、
151
事例 35
各科で実技重視の訓練を実施。1998 年から通算 946
の業務への導入も進められた。サーバーの管理やネ
名が訓練を受けた。
ットワークの維持管理まで業者に委託することな
また、UNIDO(国連工業開発機関)や Sasakawa グロ
ーバル 2000 などとの連携による訓練や他の職業訓
く自らが実施しており、同校のホームページ
http://www.nakawavti.ac.ug/も開設している。
練施設指導員を対象とした指導技法セミナー
(PROTS)も開催。
3.プロジェクトの評価
3)徒弟制訓練
(1)妥当性
訓練実施にかかる取扱機関の DIT(Directorate of
ウガンダ国の産業界のニーズ、日本側協力の重点
Industrial Training;職業訓練局)から依頼が無く、
分野の観点からの評価は高いといえるが、現行のウ
実施に至らなかった。
ガンダの教育政策(1998 年から所管した職業訓練を
含む)から見ると、
必ずしも高いプライオリテイが置
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
かれていない。今後、ナカワ職業訓練校はこのよう
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
な教育政策、近年焦点となっているポストプライマ
「ウガンダ産業界の求める人材の育成が出来ると
リー教育訓練、他ドナー国の動向等を十分配慮しな
いう目標にかなった訓練等の実施が出来るようにす
がら、これまでのプロジェクトで蓄積した施設、ノ
ること」がプロジェクトの主体である。
ウハウ及び人的資源を活かす方策を考えていく必要
(2)訓練の計画と準備
がある。
産業現場で役立つ技術者の育成という観点から、
実技 75%、
理論 25%のカリキュラム構成を基本とし
(2)有効性
養成訓練の各科の応募率は年々向上していて、ニ
たコースの目標設定及び年間計画を作成した。
ーズの高さを示している。卒業生の資格取得の面で
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
も同レベルの公立職業訓練校と比較して、DIT が実
専門家による 7 分野の技術移転は、カウンターパ
施するTrade Test及び国家技術試験(UNEB)の合格率
ートの本邦研修と連携して進められた。現地管理者
は高い。2000 年卒業生の卒業後追跡調査によると、
及び指導員に対して、各コースの訓練計画、カリキ
ナカワ校で高い技術を身につけた同校卒業生の約
ュラム開発の技法の指導や 7 分野の訓練技法及び専
90%が就職して活躍している。
門技術の技術移転を行った。また、指導者の作成す
また、向上訓練も訓練後の派遣元企業に対するア
る 4 点セット(ワークシート、
アセスメント・シート、
ンケート調査結果等によると、産業現場で実際のも
指導案、授業計画)の共有化など、プロジェクトでは
のづくりが出来る技能・技術者養成への評価が高い。
特徴ある取り組みがされた。
(3)効率性
そして、プロジェクト後半では、
「産業界の現職労
養成訓練の達成率は 140%で、向上訓練及び徒弟
働者を対象とした向上訓練」に力点を置き、指導員
制訓練が 31%であった。なお徒弟制訓練については
の企画力や技術移転能力の向上を図った結果、産業
DIT の要請が無く実施に至らずに、プロジェクト中
界でも高く評価された。一例をあげれば、南アフリ
途で到達目標から外している。
カ共和国からウガンダに進出したナイルブルワリー
また、
GTZ(ドイツ技術協力公社)がナカワ校と同様
では、従来、南アへ従業員を派遣して技術研修を実
の訓練校で実施したプロジェクトと対比しても投入
施していたが、ナカワ職業訓練校の施設と指導力を
対成果の効率性は概ね良好と判断された。
評価し、企業の認定訓練施設として年間にわたり訓
(4)インパクト
練を委託実施することに変更した。
ナカワ校が実施しているレベルの高い技術訓練を
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
求めて、同じ公立の職業訓練校であるルゴゴ職業訓
訓練管理については、6 つの委員会制度を設けて
同校の運営を共有化し、各科の意見を反映させた。
練校をはじめ、チャンボゴ大学、マケレレ大学から
も実習訓練(向上訓練)を受けに来る学生もいる。
また、訓練校内にイントラネットを構築し、ネッ
また、養成訓練では女性の入所枠を 5 名設けるな
トワーク技術を活用した情報共有化や情報公開等
ど、ジェンダーの観点の配慮もしている。近隣諸国
152
事例 35
(ケニア、タンザニア、ルワンダ、スーダン)からの
[Ⅱ] 同・フォローアップ技術協力
応募もあり、良いインパクトを与えている。
1.プロジェクトの背景
(5)自立発展性
「
〔Ⅰ〕ナカワ職業訓練校復興プロジェクト」の 5
財政面においては、職業訓練はきわめて乏しい予
算しか配布されず厳しい状況が続いている。
年の期間満了を受けて、これまでの訓練成果と実績
の上にさらに、進展が急速に進んでいる産業技術に
人的配置では、校が独自に雇用する臨時職員数が
関して、ウガンダ国側からも強いフォローアップの
国が配置する公務員数を上回っている。これは財政
要請があり、
特に技術進展の著しい電子科(デジタル
とあわせて自立発展性の阻害要因となっている。
技術および IT 技術)、電気科(自動制御技術)、自動
機材管理、訓練の実施においては、日本人専門家
車整備科(電子制御エンジンと自動変速装置 A/T)、
の技術移転が有効に行われ、カウンターパートが自
木工科について技術移転等の追加が要請され、これ
立できる状況であるが、電子科、自動車科、木工科、
に基づいてフォローアップの覚え書きが交わされた。
電動機制御等の特定技術及び各科向上訓練等の分野
に関して、追加の技術援助がさらに効果・効率性を
2.フォローアップ技術協力の実施
生むとの提言があり、更なるサポートが望まれる。
(1)実施期間
2002 年 5 月 20 日〜2004 年 5 月 19 日
4.教訓・提言
(2)技術移転の目標及び内容
(1)プロジェクトでの問題点・課題
① 電子・・・デジタル技術全般
復興プロジェクトの間、国家再建復興計画は着々
と進められたが、その一環として省庁の再編も行わ
れ、職業訓練が「労働・社会・福祉省」から「教育・
スポーツ省」へ管轄が替わった。これまで所属して
いた DIT と BTVET が統合され、教育省が実施してい
(コンピュータ、デジタルデバイス)
② 電気・・・PLC(シーケンス制御を含む自動化技術
の基礎、応用)
③ 自動車整備科・・・EFI エンジンの整備技術、
A/T の整備技術
た技術教育と、労働省が実施していた産業よりの職
④ 機械・・・刃物研削
業訓練を BTVET 局が一手に引き受けた。BTVET 局は
⑤ 木工・・・基礎技術の確立、
その整理と変革に最大の努力が続けられているが、
法整備の不十分さなどもあり、予定されていた徒弟
デザインの優れた家具の製作技術
⑥ 指導技法・・・指導員研修、研修計画
制訓練などが実施に至らないなどの問題があった。
今後の課題としては、ナカワ校は実技重視の養成
訓練及び向上訓練により、企業ニーズにあった即戦
3.フォローアップ最終評価
(1)目標達成度
力となる人材を育成しており評価は高いが、同校が
現在専門家派遣中の木工科における技術移転は、
引き続き産業界の求める人材を輩出していくため
2004 年 5 月のフォローアップ協力終了時までには完
にも、政策検討、ニーズ調査、卒業生調査などを通
了する見込みであり、他の全ての科においても、日
じて、社会や産業界のニーズに合致する事業運営が
本人専門家による技術移転や、本邦、第三国におけ
出来るように努力する必要がある。
る研修により、必要な技術移転は完了している。当
(2)他のプロジェクト等への教訓・提言
初計画の達成状況は、プロジェクト提出による報告
① 長期プロジェクトなどでは、
政府の組織改革など
書、カウンターパートへの聞き取り調査等により、
に伴い、当初の計画通りの事業が実施できない
全科において概ね良好であると判断される。
場合もあり、実施途中でプロジェクトの PDM の
(2)効率性・有効性
改訂が必要になる場合もある。
今回のフォローアップ協力期間において、供与機
② 自立性を尊重して進めることが大切で、
委員会制
による訓練校管理運営は有効な方法であった。
③ 施設内ネットワークによる情報共有は、
活動に活
性を与える。
材である技術訓練用自動車部品の納品までの過程
に時間がかかり、予定より 2〜3 ヶ月も遅れたもの
があった。しかし、技術移転の手順等を組み直し、
その期間に専門家による理論分野を中心とした訓
153
事例 35
練を前もって先に進め、機材が到着すると同時に実
念頭においた活動を行うことが必要である。
技分野に関する訓練に取り組んだことで時間のロ
(2)財務的側面
スを克服した。その結果、技術移転はフォローアッ
現在、職業訓練分野の予算は、教育・スポーツ省
プ期間の 2/3 の時点で所定の成果を上げることがで
予算全体の 4%程度(2003 年度)しか充てられていな
き、さらに、プロジェクト開始当初は予定されてい
い(初等教育分野に最低 65%を充てることが、ドナー
なかった第三国研修(実施希望あり)の実施へ向け
との協議にて決まっている)。1999/2000 年度以降、
ての調査や研修カリキュラム、教材作成までを含め
省からナカワ校に配賦される予算の中で、政府職員
た技術移転へとその範囲を広げることが出来た。
の給与を除く項目は減少し続けているといった厳し
これは、それまでの 5 年間のプロジェクトで基礎
い状況ではあるものの、省としては職業訓練部門を
的な技術移転が速やかに行われたことやカウンタ
支援すべく最大限の努力をするとの発言があった。
ーパートの大部分が十分な研修の機会が与えられ
さらに、2004 年施行予定の ESIP2 においては、初
て、個々がその力を付けていたことに大きく起因し
等教育修了者への対策として、教育とあわせて訓練
ていると推察する。つまりカウンターパートの気力
にも重点をおいていく予定であり、予算の配分率に
と専門家の技術移転の歯車が上手にかみ合ったか
おいても職業訓練分野の割合の増加が期待される。
らだと言える。
また、学校レベルで見た場合、養成訓練及び向上
(3)インパクト
訓練の授業料収入は増加傾向にあり、2002/2003 年
日本側・ウガンダ側双方の努力により、本プロジ
においては、政府採用職員への給与を除いた総予算
ェクトは成功裏に期間を終了し、ナカワ職業訓練校
の 56.5%を占めるほどになっている。訓練校独自の
はウガンダの職業訓練分野における先導的な地位
収入捻出方法であるインカムジェネレーション活動
を確立している。その成果を集約して、
「第三国・
についても、総予算の 11.7%を占めている。同活動
現地国内研修(電気・電子・自動車分野の 3 コース)」
は本来、機材の減価償却を補うもしくは新規購入に
を JICA ケニア事務所と共同で開催した。2004 年 1
充てられるべきものであるが、現在は政府の予算配
月 19 日〜2 月 27 日に 39 名の職業訓練指導員等を集
分の不足もしくは遅延により、実際にはこれらの収
めて行われた第1回は問題なく終了し、2005、2006
入が訓練校の人件費や学校運営費に充てられている。
年の継続実施を含めた覚え書きが交わされた。
優秀な指導員が転出しないためにも、インカムジェ
このように、本プロジェクトの成果は国内のみな
らず、近隣諸国にもインパクトを与えたといえる。
ネレーション活動によって職場環境や給与支払状況
を改善していく必要がある。
(3)技術的側面
4.自立発展性
アンケートの結果や聞き取り調査の結果から判断
(1)制度的側面
して、指導員は移転された技術に関して現在のレベ
国の職業訓練政策レベルではいくつもの制度改革
ルを維持できるものと思われる。今後は、産業界か
が進捗の過程にあり、
その迅速化が求められている。
ら求められる最新の技術を適宜キャッチアップして
1998 年に職業教育・訓練分野の組織体制の整備を
いくことが大切である。
目 的 と し て ESIP1(First Education Strategic
また、電子科の指導員によるイーサネットを利用
Investment Plan)が施行され、さらに 2004 年に向け
したサーバーの運用は、ホームページやメイル機能
て ESIP2 の検討が行われている。
運用など実践的な技術の活用として、第三国研修の
また、ウガンダ国における技術・職業教育訓練に
情報提供及び連絡などに効果的を発揮しているが、
関する政策が、民間セクターの人材も委員として参
今後、ソフトやハード面のメンテナンスに配慮をし
加する委員会において研究・検討の後、BTVET 局に
てゆく必要がある。
より作成され、2004 年初めに定められる予定である。
このように、職業訓練の制度が整備されていき、
今後もナカワ校に対する政府支援は維持されるもの
と考えられるが、引き続き BTVET 局による政策等を
154
5.教訓・提言
① 定期的な訓練内容の見直しの必要性
産業界の技術の進展は早いので、常に産業界に
事例 35
目配りをし、定期的に訓練内容の見直しや改善が
必要である。
② 情報発信及び共有手段としてコンピュータ、ネ
ットワーク、ウェブサイト等の活用は職業訓練を
活性化させるためにも重要である。
③ 自立発展を養う新事業展開
習得した新技術はプロジェクト内にとどめず外
部に発信すべし。例えば、その成果を地域へ広く
伝えるための「第三国・国内研修(指導員対象)
」
の開発企画等で、プロジェクト事業の自立的発展
性を継続することが肝要であろう。
写真 1 ナカワ職業訓練校・ウガンダと日本の協力シンボル
写真 2 自動車整備・電子制御エンジンの整備技術セミナー
表 フォローアップ技術協力の流れ
年月
2002 年
5-6
2003 年
7-8
9-10 11-12
1-2
2004 年
3-4
5-6
7-8
9-10
11-12
R/D
最終
指導員
評価
ニーズ
1-2
3-4
宮城
佐藤
竹野
山川
竹間
(短)
斎藤
(短)
牧野
牧野
(短)
実施内容
技術
移転
周辺国
ニーズ
第三国
研修
↑会計検査(2002.5)
JICA の組織変更↑
(2003.10.1)
155
↑最終評価(2003.11.10〜23)
5-6
事例 36
ギニア共和国における「貧困解消」プロジェクト
特定非営利活動法人 サパ=西アフリカの人達を支援する会
事務局スタッフ
1.プロジェクトの概要
2)事業資金割合
(1)プロジェクト実施の背景
サパ会費・寄付金・事業収入
サパが活動地としてギニア共和国を選んだのは、
手塚 三恵子
約 80%
助成金(郵政公社国際ボランティア貯金・経団連公
この地域(西アフリカ諸国)
に世界の最貧国が集中し
益信託経団連自然保護基金)
ているからである。具体的な活動地選定に当たって
約 20%
(c)活動内容
は、ギニア国内の最貧地域の中で行政が関与せず、
1)熱帯林の再生活動について
かつ国内、海外の援助団体による支援を受けていな
サパでは、熱帯林の再生植林を最貧国の集中して
い農村を対象にすることとした。
いる西アフリカのギニア共和国で実施し、過去 4 年
この地域の貧困の原因は、次の遠因と近因の 2 つ
間で約 230ha を植林した。植栽は、生活に困窮して
に大別できる。
いる地元住民に早期に役立つ樹種としてカシュナッ
• 遠因:熱帯林消失 ‐ ギニア共和国では地域住民
ツ、ネレ、マンゴー、アカシア等とし、この中には
の衣食住を支えていた豊かな熱帯林が外貨稼ぎのた
植栽後 3 年目に早くも一部に結実が見られ、今後住
めに伐採・輸出され姿を消し、
住民達の生活基盤の崩
民達の食糧不足の緩和と現金収入が期待されている。
壊が始まった。
これらの早期に結実する有用樹の植栽本数は、ha 当
• 近因:焼畑の長年の酷使による土壌劣化 ‑ これ
り 250 本に止め、この後、旧伐採木の伐根よりの萌
はアフリカでは
「土地に有機物を戻す」
「土をつくる」
芽稚樹を合わせ保育し、元の熱帯林にできる限り近
という発想がないためである。かつては焼畑を行っ
い混交林の成林を目指している。60 年前まで存在し
た土地は 10 年休ませ、
地力を回復させる知恵を人々
ていた熱帯林よりの恩恵を記憶している村の長老達
は持っていたが、人口急増のためにローテーション
の「森造り」への願望を子供、孫と受け継いでいく
期間が短縮され土壌の劣化を促進し、農作物の減収
ための基盤が構築され始めたと言える。
のため食糧不足が加速された。
2)有機農業による「土作り」活動で食料不足を
(2)プロジェクトの目的と目標
補完
上記の「熱帯林消失」と食糧の供給地である焼畑
日本の農業が、化学肥料のない時代から継続して
土壌の劣化による「農作物の減収」を同時にリカバ
一定の収穫量を維持できたのは「堆肥、ボカシ肥」
ーし、貧困の解消を実現することである。
を始めとした伝統有機肥料の施用による成果に外な
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
らない。昔から日本では「農業とは土作りである」
(a)実施場所 :ギニア共和国
と言われ、土作りの出来、不出来が農作物の収穫量
• キンデイア県モロタ村、サムレヤ村
を左右してきた。現代でもこの言葉は不変である。
首都コナクリから北東約 120km に位置する
これらの有機肥料は土壌の化学性、物理性を改善
• ドウブリカ県タネネ郡サナワリア村
し且つ効力が持続する。化学肥料では一次的に増収
首都コナクリから西北西約 130km に位置する
とはなるが、塩基の集積他で土壌の機能を退化させ
(b)実施体制
栽培の持続性を阻害している。
1)現地人員
有機肥料施用区は無施用区に比較し「分けつ」数
サパ現地スタッフ:2004 年 11 月現在 5 名
が倍となり、収穫量も当然倍増と大きな差異がでて
保健衛生士(ギニア保健省より派遣):1 名
いる。同じくトマト、落花生、オクラの栽培比較で
日本人スタッフ(1 名:月に 20 日程度滞在、1 名ギ
30〜50%増収を記録している。
ニア代表代行:随時派遣)
156
事例 36
3)
「有機肥料生産技術研修センター」の建設
5)小学校の建設活動
化学肥料の購入資金に事欠くギニアの農民達は、
サパの活動地であるサナワリア村は、
役場、
学校、
生活上の廃棄物である油ヤシの搾り滓、米糠、食し
診療所等の機関は一切なく、ギニアでも最貧地区に
た動物の骨等の有機物を発酵させることで立派な肥
属していた。サパは、最初に子供達に教育の機会を
料に生まれ変わる実態と、これらの肥料の施用で栽
与えるべく、1998 年に草葺きの識字教室をマデイナ
培農作物の増収を目の当たりし、
「土作り」の重要性
集落に、そして 1 年後にカンバ集落にそれぞれ村民
を認識し始めている。彼等より有機肥料の生産技術
達のボランテイアで建設された。しかし、草葺き教
をより広くギニア国内に普及させるための研修セン
室は、耐久性に乏しく雨漏りが頻発すると共に、就
ター設立の要請がサパにあり、
これを受けてサパは、
学希望児童が増え教室が手狭になったため、最初の
2002 年4月にギニアの西部に位置するドウブリカ
草葺きマデイナ教室を 2000 年に本格的コンクリー
県サナワリア村に研修センターを建設した。施設は
トブロック造りの 2 教室構成で改築した。又 2002
「研修生用の宿舎」
(10 名収容)と講義室(20 名収容)、 年にはカンバ集落に 3 教室 150 名収容の小学校を建
堆肥とボカシ肥の生産小屋及び、肥効を確認する栽
設した。
培試験農場等で構成され、
年間 60 名の研修終了生を
6)国際連合食糧農業機関(FAO)と活動の協力提
送りだすことにしている。
携がスタート
下の表 1 は 2004 年 7 月から 9 月までの
「ボカシ肥
(テレフードマイクロプロジェクト)
生産量」である。
このプロジェクトは、FAO ギニア事務所と地元マ
デイナ小学校を含む地元集落及びサパの三者がプロ
表 1 ボカシ肥の生産
期 間
ジェクト推進委員会を設置し、小学校の菜園運営に
生産量(kg)
7/3 ‐ 7/21
755
よる地域の農業振興を通して食料増産に寄与するこ
8/3 ‐ 8/30
1,060
とを目的とするものである。サパは有機肥料生産技
9/5 ‑ 9/23
1,160
術の指導と有機肥料の供給を担当する。栽培地は
合 計
2,975
3500 ㎡とし、内 3000 ㎡を各種野菜に、残り 500 ㎡
は稲をそれぞれ栽培することとした。又、栽培に必
要な水入手のため 2 基の井戸掘りを行なった。
4)風土病予防活動(深井戸の設置による「ギニ
尚、稲栽培については、現在西アフリカで話題の
アウオーム病」の予防活動)
サパの活動地内の各村には、水道、電気が無く不
「ネリカ米」(New Rice for Africa)と地元在来種を
衛生な環境下で生活を強いられている。中でも飲用
それぞれ栽培することになり、6 月に苗床作りをス
水は川水に依存しているため、水中に生息する原虫
タートさせた。これらは既に過去 2 年間、村民達が
(ギニアウオーム)が体内に入り健康を阻害している。 栽培経験済みのものである。
予防には川水を煮沸するか又は原虫に汚染されてい
ない地下水の飲用しかない。サパは、サナワリア村
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
内で 2000 年より毎年 1 基の深井戸を 4 集落に設置し
(有機肥料生産技術研修センターでの研修について)
病気の予防に寄与している。深井戸は太古から地中
(1)プロジェクトにおける訓練などの位置づけ
50m以下の深さに封じ込められている地下水、別名
サパが行っている植林や有機農業の普及活動の目
「化石水」を揚水する井戸である。化石水には「ギ
的は、サパが村人に栽培技術を具体的に指導し、彼
ニアウオーム病」媒介の原虫は生息せず且つ清浄な
等が自立する事にある。実地で堆肥・ボカシ肥を作
ため深井戸設置後、住民達を苦しめていた「ギニア
り、作物を育てるなどの経験を積んでいくことが最
ウオーム病」
を始め、
慢性下痢症状が減少している。
重要であり、研修生がその技術をそれぞれの村に持
ち帰り広めていくことが求められている。
この他スタッフにより乳幼児への栄養食の基礎知
(2)訓練等の計画と準備
識を伝えると共に実地の食事作りを指導している。
「有機肥料生産技術研修センター」を 2002 年に建
設した。主に堆肥とボカシ肥の生産方法を学び、出
157
事例 36
来た肥料を使用した栽培試験などを行う。具体的な
肥、ボカシ肥ともに村民のみで生産し、センターの
指導は、
サパスタッフ長として 5 年間従事している、
運営も可能となった。今後は研修生を更に増やす努
オスマン・スマ氏が担っている。また、村人からの
力をし、自助運営を目指したい。
要請に応え、識字教室も開催している。主なカリキ
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
ュラムは以下の通りである。
立発展性
[ボカシ肥生産研修]
農業と言えば、焼畑しか知らなかった村人に「地
① 実地研修に入る前に、講義室にて有機肥料の生
力」の重要性を教示し、油椰子の搾油滓、米糠など
産工程の概要の講義を受ける。(2 日間)
それまで捨てていた廃棄物から有機肥料を作り、作
② 原料の確保:油ヤシの搾油滓、米糠、骨粉(動物)
物を育てるといった一連の作業を体験できる施設が
を集める。(3 日間)
出来たのはサナワリア村及び周辺の農民にとって大
油ヤシの搾油滓は、ギニアの農家では日常的に
きなプラスである。現在施設はギニア人スタッフと
自生している油ヤシの果実を採取し採油してい
村のボランティアによって管理運営されているので、
る。このとき発生する繊維滓を各農家から予め
将来は自助発展することも十分可能と考えている。
集め貯蔵してある。また、ギニア人の主食は米
のため、糠の入手は容易である。更に、鶏、羊、
4.教訓・提言
牛等を食した後の骨を砕いた骨粉を用意してお
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
く。
サパのスタッフ及び村民は堆肥、ボカシ肥の生産
③ 上記②の原料(3 種類約 60kg)を研修生全員で手
技術を習得し、これらの生産が安定してきている。
を使ってほぐし混合の後、山状に積み上げる。
有機肥料の備蓄もできるようになったため、栽培試
この後散水し蒸散防止のため上部にビニールシ
験場に施用するだけではなく、近隣の村民にも無償
ートを被せる。(1 日)
で配りその効果を知ってもらうことにしている。こ
④ 上記③の作業の後 5〜7 日間毎日 1 回 40〜60℃
うした地道な活動からギニア全土に有機肥料農業が
で醗酵中の混合した原料の切り返しを行う。(5
広がることが大きな目標である。
〜7 日間)
また、ギニア人スタッフが研修作業への出席者名
⑤ 醗酵が終わる前に山土を原料と同量混合する。
や実施内容記入リストを各々作成し、日時氏名など
この後、2〜3 日間の醗酵継続で終了となりボカ
を記入してもらい月ごとに管理している。文字の書
シ肥が完成する。(2〜3 日間)
けない人もいるので、
リストに絵文字で項目を作り、
(3)効果的な訓練を行うための取り組み
○をつけてもらうなど工夫している。
研修に来ている村人達は、それぞれに自分達の畑
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
を持っている。しかし、天候不順(作物の収量低下)
現在研修センターの運営はサパの資金協力で成り
や経済不安(インフレ)などが続くと、食べるために
立っている。しかし、いつまでもこの状況継続は不
町へ出稼ぎに出たり、自分達の畑の世話にかかりき
可能のため、早い時期に自立できるよう下記プロセ
りになり、研修どころではなくなってしまう。こう
スの履行を促している。
した事態の場合、中断した時点からまた次回研修を
• 堆肥、ボカシ肥の生産研修に伴う研修料の徴収
受けられるよう柔軟にシステム構成している。
また、
• 有機肥料を使用して育成した作物の市場での換金
試験栽培した野菜や果物は研修生達が食する。これ
• 行政を通しての有機肥料施用普及活動のギニア
全国展開
も研修意欲の向上につながっていると思われる。
以上のような研修センターの自助型運営まで発展
3.プロジェクトの評価
できるかどうかが問われている。幸い国連 FAO が有
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
機農法に強い関心を持ちサパとの活動提携が実現し
ているので、今後の展開を期待している。
貧困にあえぎ「食べることが最優先」の農民達が
住む村で、コストをかけずに作物増収する技術を実
地で学べる施設は彼らにとって大変有益である。堆
158
事例 36
表 2 プロジェクト実施内容
サナワリア村
モロタ村
1998 年
草葺教室建設
サパ発足
(マデイナ小学校)
1999 年
・草葺教室建設(カンバ小学校) 植林開始
(後に火事で消失)
サムレヤ村
植林開始
・植栽(除草、防火対設置、灌水
含む)42ha
・植林 カシュー、マンゴー、ネ
レ合計 10,500 本
2000 年
ボカシ肥生産指導開始
・マデイナ小学校をコンクリート
校舎に改築
・植栽(除草、防火帯設置、灌水
含む)66.2ha
・植林 カシュー、マンゴー、ネ
レ
2001 年
・カンバ小学校付属井戸設置
・深井戸1基
合計 16,550 本
・植栽(除草、防火帯設置、灌水
含む)30.4ha
・植林 カシュー、マンゴー、ネ
レ
2002 年
・有機肥料生産技術研修センター
建設
・深井戸1基
合計 8,472 本
・除草作業 138ha
・防火帯設置 9800m(8m 幅)
・灌水 70ha
・カンバ小学校建設
2003 年
(予定)
含む)28ha
・植林 カシュー、マンゴー、ネレ
合計 7,000 本
・植栽(除草、防火帯設置、灌水
含む)41ha
・植林 カシュー、マンゴー、ネレ
合計 10,250 本
・植栽(除草、防火対設置、灌水
含む)7ha
・植林 アボガド、グアバ、柑橘、
アブラヤシ合計 748 本
・深井戸1基
・選伐作業開始
・防火帯設置 10,000m(8m 幅)
・FAO と提携(テレフードマイク
・防火帯設置 12,000m(8m 幅)
・灌水 20ha
ロプロジェクト開始)
2004 年
・植栽(除草、防火帯設置、灌水
・灌水 30.4ha
・深井戸2基
・選伐作業継続
・FAO 継続
・防火帯設置 10,000m(8m 幅)
・生活の森プロジェクト発足予定
写真 ボカシ肥を生産中の研修生たち
159
・防火帯設置 10,000m(8m 幅)
事例 37
ケニア国ガリッサ県における女性の自立のための職業訓練:ミコノ縫製技術訓練所
国際協力 NGO「ミコノの会」
代表 国島 司
1.プロジェクトの概要
間奮闘しながらこのトラックを無事に修理し、道路
(1)プロジェクト実施の背景
に戻しました。
今から 22 年前、
地球人口が 46 億人(現在 60 億人)
修理期間中、いったい私たち NGO に何ができるだ
の時、
ケニアのトルカナ(Turkana)地方やマーサビッ
ろうか、
との疑問に答えるため、
現地の学校や病院、
ト(Marsabit)地方の旱ばつの様子が連日、日本のメ
職業訓練所等を訪問し、フィジビリティースタディ
ディアで報道されていました。その中で、
「ケニアで
ー(実施の可能性を調べる調査)を実施しました。そ
は 50 万人が飢餓に瀕している。東京では毎日 50 万
のなかで、隣国のソマリアに続く地平線をさえぎる
食が残飯として捨てられている。
」や「援助物資がそ
ように生えた 1 本のアカシアの木、その木の下で勉
れを必要としている現地に届いていない。
」
といった
強する子供たちに出会いました。木の幹に立てかけ
記事が、私たちの目に留まりました。
られた 1 枚の黒く塗られたベニア板。文字通りこれ
実際にケニアに行って現地を見て、関連する国連
が黒板なのです。そこに先生が書いた文字を一生懸
機関[WFP(国連世界食糧計画)や UNHCR(国連高等難
命に地面の砂の上に書き写している子供たち。教え
民弁務官事務所)]を訪ねると、以下のような実情が
る者の熱意と学ぶ者の真剣なまなざしがピーンと張
判りました。
り詰めた空気を作っていて、そこに教育の原点を見
① 食料は首都のナイロビまでは届いて倉庫に保管
つけたような気がしました。私たちはこれを「木の
されている。そこから先に運ぶための車両(トラ
下教室」と名づけました。先生に促されてその木の
ック)が不足しているので運べない。
下教室に加わり、子供たちに何が欲しいかを直接尋
② 車両不足の原因は、車の絶対数が足りない、ある
ねてみました。そこで子供たちから返ってきた答え
いは車はあるが故障しているので使えない。
は「学ぶための校舎」でした。子供たちの夢を日本
そこで私たちは、日本で募金活動をして集めたお
に持ち帰り「遊牧民の子供に教室を」の募金キャン
金でトラックを購入してトルカナとマーサビットに
ペーンを展開し、1 年後、実際にそこに校舎を 1 棟
送ると共に、故障した車両を修理するための技術者
(4 教室)建設することができました。その後もこの
(自動車整備士)を派遣し、必要な修理工具や部品を
キャンペーンは継続され、現在までに建設した学校
現地に送り届け、ケニアの各地をまわり巡回修理プ
は 15 校を数え、校舎数は 20 棟を超えました。
ログラムを展開しました。そして、それは 3 年間続
学校を建設し、そこで子供が学び始めると、さま
きました。巡回先で修理するものは主に車両なので
ざまな問題が発生してきました。活動で集められた
すが、土曜日等には現地の人々の要望に応えて、な
募金や寄付金という大切な資金を有効に役立てるた
べやクワ、やかん、荷車、ベッド等も修理し、現地
めに、私たちは活動を面として展開するよりも「点
の人々の歓迎を受けました。
として集中」することを選びました。資金や活動を
隣 国 ソ マ リ ア に 近 い 北 東 州 (North‑Eastern
広範囲に薄くばら撒くよりも、
「1 滴の水滴でも、同
Province)の半砂漠の地ガリッサでは、走行 1 千 km
じ所に 10 年 20 年と落とし続けると、やがてそこに
にも満たない真新しいトラックが、320km 先の目的
草が生え木も育つようになる。この 1 つめの点がう
地ワジアー(Wajir)に到着する前の陸送中に横転事
まく行けば、2 つめの点を作ろう」というのがその
故を起こし、1 年間も放置されたままになっていま
ポリシーです。学校建設という活動についても、ケ
した。放置の原因は、修理部品の入手困難と修理技
ニア各地に建設するよりもガリッサ県に集中して実
術者の不在でした。私たちの巡回修理チームはこの
施しました。この学校建設プロジェクトを進めてい
ガリッサの地に入り、気温 44 度という猛暑と 2 週
くうちにさまざまな出来事に出会い、それらに対応
160
事例 37
するプロジェクト(事業名:ガリッサプロジェクト
職ができたり、やがてはオーダーメイドの縫製店の
Grissa Project)を実施してきました。その内容を列
自営も可能になり、立場も生活も安定します。力の
記すると以下のようになります。
ある人はこのあと、グレード 2(2 級)やグレード 1(1
① 朝食を食べていない子供が多いので給食プログ
級)の資格試験にチャレンジすることもできます。
ラムの実施。
少なくとも、私たちと関わったこれらの子供たち
② 給食の煮炊きのために薪を消費するので植林プ
の中から、夜の都会に出て我が身を売る少女や、政
ロジェクトの実施。
府から白い目で見られているミラーMiraa(覚醒性の
③ 乾季に木を枯らさないための井戸掘りと給水プ
ある樹木の新芽でミルンギ Mirungi ともいう)の売
ロジェクトの実施。
人にはなってもらいたくない、というのがもうひと
④ 孤児が多く出るので孤児を支援する奨学金制度
つの理由です。
の実施。
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
⑤ 病気の子供たちを救うための診療所の建設と医
(a)実施場所 ケニア国北東州ガリッサ県
療事業の実施。
(b)実施体系
⑥ 乾季に草を求めて移動する家畜と親と共に子供
正確かつ迅速な対応が必要なため、現地事務所を
も移動するので巡回医療プログラムの実施。
1986 年に開所しました。ここに日本人スタッフ(駐
⑦ 学校を卒業しても職に就けない子供を支えるた
在員 3 名)が常駐し、
主に資金管理と人事管理を担当
めの「職業訓練プログラム」の実施。
しています。活動開始から 20 年近く経った現在、多
これらを現在実施していますが、ここでは特に⑦
くの決定権をケニア人スタッフに委譲し、必要以上
の「職業訓練プログラム」の中の女子への「縫製技
に日本人が表に出ないように心がけています。
術訓練プログラム」について記述いたします。職業
(c)活動内容
訓練プログラムの中には、この他に男子を対象にし
学校建設、診療所の建設と運営、職業訓練所開設
た「自動車整備技術訓練プログラム」と「木工技術
と運営、植林事業、井戸掘り、巡回医療活動、奨学
訓練プログラム」を実施していますが、ここでは省
金支援、公衆衛生教育等。
略いたします。
(d)事業予算 2003 年度は事業全体で 2100 万円
(2)プロジェクトの目的と目標
(うち職業訓練事業 150 万円)
勉強をしたくてもできない子供たちのために小学
校を建設し、子供たちに教育の機会を与えてきまし
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
た。比較的に経済力のある親を持つ子供は、上級の
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
学校に親の資金で進んでいきます。しかし、いくら
学校を建設し、里親制度による奨学金教育支援で
本人に能力があっても、親に資金力がなかったり、
困窮家庭の子供を支える中で、技能教育の必要性が
あるいは病気などで親そのものを亡くしている子供
発覚した。手に技術がないために、就職の手段とし
にとって、中学校への進学は不可能です。そこで私
て結婚を選択しなければならない卒業生が多数いる
たちは奨学金制度でこれらの子供を支援するわけで
ことが、その後の追跡調査(1989 年に実施)で分かっ
すが、すべての孤児を支援することはできません。
た。上級学校へ進学できない女子に縫製技術を身に
小学校課程の修了をもって社会に出て行かなければ
つけさせ、男子には自動車整備技術や大工や家具職
ならない子供たちが多くいます。これらの子供たち
人を育成する木工技術を身に付ける場所と機会を与
に、裕福な生活はできなくとも自立できる力を持つ
えることに本プログラムを位置付け、
実施している。
機会を提供するために、この職業訓練プログラムを
(2)訓練等の計画と準備
実施するにいたりました。
小学校課程(ケニアの場合 8 年間)で充分な基礎技
ケニアには職業技能レベルに従って分類された資
術を身に付けることを徹底する。
設置したミシン(足
格試験があります。小学校 8 年生を終えてまず挑戦
踏み式ミシン)は日本でいただいた寄付金や助成金
できるのはグレード 3(3 級)です。
それでも合格率は
で現地購入。他に日本でいただき船便で輸送した中
低く、20%程度です。これに受かると縫製工場に就
古ミシンも設置している。学校では 1 教室を縫製技
161
事例 37
術室として専用に使用している。指導講師にはケニ
今のところ、訓練費を低く抑えていかないと、訓練
ア国の国家資格保持者を採用している。講師の中に
生に多大な負担を強いる結果になってしまう。毎年
は、この職業訓練プログラムで育てた人材も含まれ
多数誕生する国家試験合格者は、ガリッサ県のみで
ている。
なく北東州全体の女性の話題になっている。
卒業後、さらに専門のトレーニングができるよう
に「ミコノ縫製技術訓練所」を開設し、縫製で自立
[参考]これまでの実績(12 年間)
できるように支援している。自立できない場合、当
ガリッサで縫製業を営んでいる女性
地ではかなりの確率で身売り結婚の犠牲者になるの
ガリッサ以外で縫製業に従事している女性 264 名
で、訓練生の取り組みは真剣そのものである。
他人を雇用して縫製事業を営んでいる女性
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
21 名
8 名(うち数)
学校での訓練時(日本の学校の家庭科に該当)には
ガルメント(衣服店)経営者
訓練が効果的にできるように、専用の縫製訓練教室
国家資格取得者
18 名(うち数)
386 名
を所有している。刺繍付き衣類等の人気のある製品
を製作するためにジグザグミシンも導入して、飽き
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
のこない訓練を実施している。多くの学校は町外れ
立発展性
にあり遠くて不便なので、
「ミコノ縫製技術訓練所」
女性、
とりわけムスリム(イスラム教徒)の女性は、
はガリッサの町中に開設している。講師は技術レベ
他の女性に比べて自立の機会に恵まれにくい境遇に
ルの高い人を、採用試験で選別して雇用している。
ある。批判を覚悟の上で明言するならば、これは、
採用試験の倍率は高く、常に 20 倍を超えている。基
女性には教育は不要で子供を産んで家庭を守ること
本的には国家2級以上の試験の合格者、かつプロと
が本業、といったムスリム男性の意識によるところ
しての実務経験のある人の採用となる。宗教はイス
が大きい。そのために、夫に先立たれたり離婚させ
ラム教徒、
キリスト教徒を問わないで採用している。
られたりすると食べていく手段をもたないため、す
ちなみに、生徒の宗教は、9 割以上がイスラム教で
ぐに路頭に迷うことになる。イスラム教徒の一夫多
ある。宗教の違いで混乱が起きたことは今のところ
妻(ポリガミー)制度は、これらの女性の救済制度と
ない。
いうことであるが、世の男性の解釈はまちまちで、
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
多くの場合、男性自らのエゴイズムを擁護するため
女性が身売り結婚の犠牲にならないように、贅沢
に、都合のいいようにアレンジされたりする。男性
な生活は望めなくとも、自立するための技術を身に
は、お金をたくさん得ると、まるで上着を取り替え
付けるために取り組むことを基準に、活動を実施し
るように、古くなったからと、奥さんも新しい女性
ている。技術を身につけるという今のニーズと、将
に取り替えることも多々ある。したがって統計に出
来は自立できるという未来のニーズに応えるため、
にくいが、かなりの離婚率(推定 7 割以上)である。
と事業の方針を定めている。
このような夫婦間の絆の不安定な夫婦が多いと、不
安定な夫婦→不安定な家庭→不安定な地区→不安定
3.プロジェクトの評価
な町(あるいは村)→不安定な県→不安定な地方→不
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
安定な国というように、女性の手に職が付くことに
現在のところ、
地元の要求に確実に対応している。
よって得られる社会的・経済的安定性は個人や家族
申込み者の 2 割程度にしか訓練の機会を提供できな
の領域を超え、国家のレベルまで影響を与えてしま
いので、規模の充実を模索している。事業資金とし
う。手に職をつけることが家族の安定をもたらすと
ては、日本からの資金とケニアからの資金が主であ
いうことに気づいた女性は、食べていく力として手
る。ケニアからの資金とは、ケニアのハランベー資
に職をつけることに、他人に強制されるのではなく
金(ケニアで集められた寄付金)と訓練生が支払う訓
内発的に関心を持ち、私たちの縫製技術訓練所に集
練費(授業料)である。ケニアからの資金の割合を増
まってくることになる。
やしていくことが事業の自立に繋がるわけであるが、
162
事例 37
4.教訓・提言
安定をもたらし自立を促す「職業訓練プログラム」
(1)プロジェクト・訓練等の問題点・課題
を、私たちの「顔丸見えの国際協力活動」の一環と
平均寿命の低下の原因が、エイズや住環境の悪
して、今後もさらに充実していく予定である。
化にあるのかは定かでないが、緑が少なくなって
いることは実際に体感できる。これまで耕作が可
能だった土地は、比較的乾燥に強いキャッサバ(芋
の一種)さえ育たなくなった。農地が砂漠の一歩手
前の半砂漠になってしまったのである。煮炊きの
ための薪はだんだん「細く・遠く・少なく」なっ
ている、と主婦は嘆く。ここでの植林活動は必至
であるが、植林だけでは樹木が育たない。植えて
(植林)、毎日水を与えて育てて(育林)、ヤギの食
害から守って(守林)、やっと樹木が活きる(活林)
のである。つまり、活林=植林+育林+守林とな
る。これが「木を植えても育たない」と言われる
所以である。木が育たない土地では人も育たなく
なっている。
「遠く・少なく・汚く」なっていく飲
み水の影響が、人口と寿命の減少の一因になって
いることも指摘できる。技術訓練に加えて、緑化
写真 1 ヒューガ女子小学校における縫製技術教室
も平行して実施していかないと、人間の住めない
(37 台のミシンが活躍している)
環境をさらに広げる結果にしてしまう。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
ケニアを中心にアフリカでNGO活動を20年あまり
展開してきた。ケニアのみでなくアフリカ全体にい
えることだが、技能者や職人の社会的地位が低く収
入が少ないため、優秀な人材が集まりにくい社会構
造になっている。学歴があり技術、あるいは技能が
あり、これは優秀だと思われる人材は概ね管理業務
についてしまい、身についた技術が活かされていな
いことがある。大学を卒業して、これから国家建設
に重要と思われる人が多数、アメリカやイギリスと
いった外国に出て行ったまま帰ってこない。帰って
くるのは政治留学した、今後の支配的立場が約束さ
れた文科系人ばかりである。
国家の自立のためには、
技術者・技能者を活かすことのできる社会的・政治
写真 2 ミコノ縫製技術訓練所
(日本からスタディーツアーの人々が訪問した)
的な転換が求められる。
また、平均寿命が短すぎることが、家庭や家族の
不安定や技術力の移転・蓄積の障害になっている。
大きすぎて目立ちにくいサブジェクトではあるが、
技術が活かされ有効に継承されるには、健康的な生
活ができるためのある程度の寿命(65〜70 歳)が確
保できる住環境が必要である。そのためにも、ガリ
ッサ県で育てている「半砂漠の中の森」と、生活に
163
事例 38
ザンビア共和国ルサカ首都圏救急救助隊整備計画
特定非営利活動法人 TICO
救急プロジェクト担当 五十嵐 仁
1.プロジェクト概要
⑤ 技術指導を実施するために、
日本の消防機関等と
(1)プロジェクト実施の背景
連携し技術巡回指導を実施する。
ザンビア国(以下「ザ国」)ルサカ市は人口約 200
⑥ 基盤整備を 2006 年 10 月までに完了し、
同基本体
万人(ザ国保健省資料)のザ国の首都である。1964 年
制を警察庁へ委譲する。
にイギリスより独立したザ国は、銅の輸出のみに頼
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
るモノ(mono)経済により社会経済発展がなされてき
(a)実施場所
たが、銅の国際価格の暴落から国家経済は破綻しザ
(b)実施体制
ルサカ市(首都圏)
国民の生活が逼迫した。同国人口の 5 割強が国連の
1)カウンターパート機関
定義する貧困ライン以下で生活を強いられるなど非
警察庁、ルサカ県警本部、ルサカ市消防本部、交
常に厳しい経済社会環境に陥り、公共機関が提供す
通安全協会、Sustainable Community Development
べき基本サービスもままならぬ状況に至った。
Programme(SCDP:コミュニティー持続可能開発計画)
このような状況の中、近年日本政府を含む各国政
2)専門家などの人材投入
府の支援等を通じ、改善がもたらされている公立の
日本人長期専門家(救急行政一般)
医療機関もある。ところが、日本では市町村の消防
日本人短期主席指導員(救急救命・救急統括)
機関レベルにて提供さている救急救助業務が、ザ国
1名
神戸市消防局 1 名
ではまったく実施されておらず、緊急に医療機関へ
日本人短期巡回指導員(救急救命・救助技術)
搬送され緊急診療を受けないと延命ができない傷病
神戸市消防局 5 名
者が発生してもその命が切り捨てられているなど人
3)主なカウンターパート
間の尊厳が十分に守られていない劣悪な状況がある。 ザ国地域警察協議会委員長
この状況を改善するために、TICO はザ国政府との
ルサカ県警本部・副本部長
1名
1名
協議を実施し、首都ルサカ市において標記救急救助
4)プロジェクト実施・運営管理機関
隊の整備を行うため、2002 年 10 月からプロジェク
警察庁救急救助管理委員会(警察幹部、
消防本部幹
トが開始された。
部、
ザ国地域警察委員計 7 名が参加)がザ国法務省の
(2)プロジェクトの目的と目標
承認により設置され、救急救助隊の日々の運営管理
当プロジェクトは、
以上の目的を達成するために、
業務を執行。日本人専門家は同庁の救急救助隊管理
以下のプロジェクト活動目標を設定した。
委員会の委員として警察庁長官に任命され特定司法
① ルサカ首都圏を 4 分割し、4 つの救急救助隊の管
警察権を付与後、公務執行する。
轄区を設ける。
5)救急救助技術訓練
② 4 分割された管轄区に分駐所もしくは待機所を
救急隊本部事務所兼ルサカ北東部分駐所にて実施。
設置するとともに同所へ救急隊を各 1 隊配備し、
規模の大きい実地訓練は、警察庁付属警察学校、ル
救急救助業務が実施できる基本的な体制を作る。
サカ市消防本部・中央消防署にて実施している。
③ 4 管轄区による救急業務体制を実施するために
6)救急救助隊員
必要な資機材を供与する。
2004 年 10 月現在(非専務隊員も含む)、
④ 上述の目標を達成するに必要な人材を警察庁、
消
警察 14 名、消防官 4 名、ボランティア隊員 14 名。
防本部、地域ボランティアグループから選抜し、
各分駐所もしくは待機所が開設されるにつれ、救急
指導員として活躍する隊員へ救急救助活動に必
救助隊員の数は増えていく。
要な技術を伝授する。
164
事例 38
7)救急救助指令
ニング法(現場で業務に携わりながら訓練を行う方
救急隊本部事務所に小部屋を併設、
隊員 5 名(日勤
法)を計画し実施している。現在のところこの方法
2 名、夜勤 2 名、非番1名)体制で県警本部司令室か
が一番効果的のようである。
ら入電する救急要請の受理、救急隊の指令を実施。
訓練の準備として、人口呼吸用のダミー(人形)を
8)財務
使用しているが、医療機関などにおける院内訓練は
TICO と警察庁間の合意(RD)書に基づき、2006 年
現在のところ実施されていない。これは、救急隊が
10 月までは TICO 側がプロジェクトに必要な資金を
使用する機材を使い指導できる医療機関がないため
主に投入するが、救急救助隊車両の燃料一部、警察
である。救急救助という分野では初めての試みであ
職員の配置、分駐所配置の土地などについてはザ国
ることから、固定計画より柔軟に計画を立て、臨機
政府が負担する。
また、
ルサカ市議会の承認のもと、
応変に訓練を実施している。
ルサカ市消防本部関連施設を救急救助隊が使用し、
表 訓練の種類
現場レベルでの連携を助長する。
種 類
9)装備
標準型救急車
4台
高規格救急車
1台
簡易救助車
1台
指揮車
1台
予備救急車
1台
概 要
担当指導員
基礎
標準型救急車に乗務する
TICO 救急
救急法
隊員が必要な基礎的な救
行政専門家
(隊員用)
急措置法を学ぶ。患者観
察、人口呼吸、患部固定、
止血、救急車機材の取り扱
計 8台
い方法を含む。
以上の体制で、
2004 年 10 月現在ルサカ首都圏で 4
区分化されたうち北東部と南東部に設けられた救急
隊分駐所(計 2 箇所)に変則的に救急 2 隊、救助 1 隊
を 24 時間(12 時間勤務の 2 交代)体制で配置し、
同2
上級
基礎救急法の他、日本の救
神戸市
救急救命
急救命士が実施可能な医
消防局職員
(隊員用)
療行為について学ぶ。しか
し、薬剤の投与はザ国政府
区域で発生した事件・事故へ出動し傷病者の救護を
認可の医療技術者のみが
行っている。
現在の担当管轄人口は約 75 万人である。
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
救急救助業務については、機材が確保されていて
実施できるものとする。
車両
交通事故等において車体
神戸市
救助法
の破損で車内に閉じ込め
消防局職員
(隊員用)
られた怪我人を救出する
ために必要な小型重機器
もそれらを使用する状況は毎回違い、各事故事件現
の使用方法及び車両から
場において工夫をこらし人命救助を行う必要がある。
怪我人をバックボード等
このため、本プロジェクト成功への要が「訓練」で
に固定する方法を含む。
あると言える。
(2)訓練等の計画と準備
日本人長期専門家による基礎救急措置法の指導以
外は、神戸市消防局の有志職員による短期巡回指導
ロープ
井戸や低所に落ちた怪我
神戸市
救助法
人を救出するために必要
消防局職員
(隊員用)
なロープワークを学ぶ。高
所からの救助に活用でき
であることから、特殊技術訓練はおおむね同市消防
る方法も含む。
局職員の都合に合わせ、1 年に 1 回の短期集中講座
として計画実施を行っている。基礎救急措置法につ
救急車両
救急車などの緊急車両を
いては、毎週土曜日に全隊員を招集し、救急隊本部
運転技法
専属して運転する隊員の
TICO 専門家
事故回避などの技能訓練。
事務所において理論と実技を組み合わせた形で約 2
救急行政
時間 30 分程訓練を継続実施している。
救急システム全般の運営
(幹部用) 管理体制にかかる研修。管
さらには、日本人長期専門家が救急車に同乗もし
理を行う幹部隊員用。
くは現場へ指揮車にて同行し、オンザジョブトレー
165
TICO 専門家
神戸市
消防局職員
事例 38
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
制における技術移転も非常に重要な部門と言える。
訓練日に隊員を招集するものの、訓練中に緊急事
さらに、プロジェクト終了後においても日本とザ
案に出動する隊員がいることから、結局全隊員を一
ンビアの救急救助隊員の継続交流を行う計画がある。
同に集めた集団研修を実施することが困難である。
救急医療の手技は年々新たな研究からその方法が変
また、日本人専門家も同時に出動する必要がある事
更されるなど、常に新しい情報を入手し、現場へ導
案も多く、訓練が途中中断することが絶えない。そ
入する必要がある。そのため、巡回指導を単発で実
のため、理論による座学から主に実際の現場で指導
施するほか、将来的に救急隊本部事務所にパソコン
する方法へウエイトを移行し、実践型の指導を行っ
を配備し、インターネットを仲介にした遠隔映像指
ている。現在稼動している隊長レベルの隊員は、可
導などで技術的な相談を行い、日本からフォローア
能な限り長期日本人専門家と行動をともにして現場
ップできる体制を考察中である。
での指導要領を学ぶなど、マンツーマン方式による
訓練の配慮も行っている。
3.プロジェクトの評価
地域からボランティアとして参加している隊員は、 (1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
報酬がないため長続きしない傾向があり、継続的に
本プロジェクトは、日本政府を含む各国政府が支
訓練にも参加できない状況がある。管理委員会とし
援し改善されてきた公立の医療機関が提供するサー
て訓練受講者(一定の区切りを持つ)へ資格の付与
ビスを人々が受けられるように支援する、人間の基
(ワッペンやバッチ)や高規格救急車の隊員へ格上げ
本的人権を守る一つの手段と考える。交通事故等で
されるようなインセンティブ制度を導入し、継続的
怪我人が発生した場合、自家用車などの移動手段を
に訓練を受ける環境を模索している。また、訓練な
持っている人が少ないため、一般市民が事故現場を
どで良い成績を収めた隊員に対し、地域警察協議会
通過するトラックなどを止めてはアマチュア的に怪
から階級の昇級制度を導入し、訓練参加への楽しみ
我人を搬送している。特に夜間は、防犯上一般市民
を加えている。
からの支援を得ることは困難なため、例えばひき逃
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
げされた被害者は、救護されることなく翌日道路わ
同プロジェクトにてもっとも重要視されているの
きで死体となって発見される事案も少なくない。こ
は、専門家が去った後、ザ国の社会経済文化的に適
のような状況を抑制し人間の尊厳を可能な限り守る
合したレベルの救急救助サービスが継続されるかど
プロジェクトであることから、ザ国政府からも高く
うかである。これを保障するのが、訓練を継続的に
評価されている案件と認知している。
実施できる現地人指導員の養成であると考えている。
また、救急車における救急救助技術は、厳密に言
現在実施している訓練は、2 方面隊の運用に必要と
うと、病院内などにおける救急医療技術とは違い、
なる隊員の養成訓練であり、4 方面隊運用のためで
限られた機材や手技を用いて第一線にて人命を救助
はない。一度に隊員の数を増やしていくより、十分
するという特殊技術でもある。日本の団体で緊急援
なる指導が継続して可能な指導員の養成が優先的に
助的に災害医療派遣などを実施する活動は良く耳に
進められている。2005 年度には、幹部隊員を神戸市
するが、国づくりという視点で言えば、その国のプ
消防局に派遣し視察訓練等を独自に実施して、プロ
ロが自ら自国民を救うシステムが存在することが重
ジェクト終了後も現地人指導員が中心となって後輩
要といえる。よって、救急救助技術を長期にわたり
隊員を養成していくグランドを作る。これが、本プ
指導し現地に救急システムをつくる国際協力活動は
ロジェクトにおける訓練の定着・継続の是非を問う
世界的にみても珍しい。日本にとってみても、消防
ものと思慮される。
職員など特殊技術は持っていてもその技術を海外へ
また、救急救助隊の車両や救助機材を保守管理す
行き伝授する機会が少ないので、国際協力に参加す
るメカニックの養成についても視野に入れており、
る機会を提供するという意義がある。
プロジェクト期間中に日本人専門家による巡回指導
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
を計画している。機材が故障し、修理されないまま
立発展性
機材が放置されることが多いザ国では、保守管理体
救助隊の整備は2004年8月に始まったばかりであ
166
事例 38
るが、すでに 4 件の要救助事案のうち 3 事案におい
設を各所に持つ BP(イギリス石油会社)など資本の
て車内に閉じ込められた、もしくは、車両の下敷き
大きい会社などと現在交渉を進めており、政府以外
になった怪我人をタイムリーな対応と小型救助重機
のスポンサー制度も取り入れ始めている。日本にお
材の導入によって生存したまま救出している。ザ国
いても、損害保険会社が消防署へ救急車や消防車を
における閉じ込め、下敷き事故では助からないとい
寄贈するような社会奉仕活動があると同様に、民か
う固定観念が、救助隊の発隊からその価値観を変え
らの救急救助隊の運用支援も期待している。
ようとしている。
根本は、日本の支援で基盤を整備し、ザ国の人々
また、ルサカ首都圏北東部と南東部では、交通事
が自分たちを守る機構をさらに発展させ守っていき、
故や、病人が路上に倒れている事案に遭遇した際、
人命を救う。これが理想と考えている。
携帯電話を所持している市民が警察へ通報し、救急
車を要請するという行動の変革をもたらしてきてい
4.教訓・提言
る。救急隊業務を実施した 2002 年 11 月の救急出動
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
件数は 54 件であったのが、2003 年 2 月には 189 件
ザ国では、医療業界でも「救急医療」というコン
とうなぎのぼりとなった。これは、市民が救急隊に
セプトを十分に理解し行動できる医療従事者が少な
任せたほうが延命できると社会的に理解された結果
い。現在救急隊が保有するスクープストレッチャー
と思われる。119 番型の救急業務というサービスが
(2 つに分れ、すくうように怪我人を収容できる万能
皆無だったザ国で予想以上に優良なインパクトを与
担架)の存在すら知らない医師が多くいる。
このよう
え続けており、ザ国政府の内閣府防災担当副大臣や
な背景の中で、救急隊により救護され応急措置が施
警察庁長官本人が救急救助隊の日々の活動に対し頻
された患者が大学病院にて速やかに診療されない事
繁に言葉をかけることからも、官民両レベルより同
案が発生している。事情聴取の結果、救急隊員がす
プロジェクトが受け入れられていることが理解でき
でに応急措置を実施していることから、それ以上直
る。
ちに医療機関として実施手技はないというのが多く
本救急救助隊の自立発展性を高めるために、ボラ
の意見であった。救急隊で対応が困難な事案に対し
ンティア救急隊員を中心とする運用から、警察庁も
ても、救急隊が搬送したというだけで病院救急室の
しくは消防本部の一機関としての運用へ転進するよ
医療関係者が同患者を優先的に診療しないことにつ
うな計画も盛り込まれており、2006 年 10 月には本
ながってしまう、憂慮すべき事態となっている。救
プロジェクトにて作られる基盤をそのまま官により
急隊員のレベルは、基礎訓練を受けているとはいえ
継続運用されるように配慮されている。TICO では、
日本と比べ依然低いため、救急隊員が実施した応急
1998 年にザ国において保健省が管轄する転院搬送
措置を医療関係者が過大評価してしまっている。よ
用の救急搬送システムを構築した実績があり、同プ
って、医療機関の救急室に従事する関係者との意思
ロジェクトへの支援は 1 年間のみであったものの、
疎通が今後重要となる。
プロジェクト終了後も保健省が継続的に予算などを
日本でも課題となっているが、救急車をタクシー
充当し現在でも運用されている。これは成功例とみ
代わりに使用する市民も出始めている。人口 200 万
なされよう。よって、今般整備中の 119 番型救急救
に対し、4 台の救急車で運用基盤を作ることになっ
助隊も同様なる方法にて政府の一部公共サービスと
ているが、市民が救急車の乱用に走った場合、本来
して位置づけたい。また、ザ国では救急救命士など
の救急隊の意味をなさなくなる懸念はある。この対
の国家資格制度が未整備のため、ザ国の経済社会・
策として警察庁の管理委員会の提議により、救急車
文化環境を理解しつつ、2006 年 10 月以降、ザ国担
の利用者へガソリン代の一部を負担してもらう制度
当政府が本プロジェクトにおいて実施する研修を公
が発足し実際に費用の一部負担をお願いしている。
式に認知し、また国として資格を付与するような制
これは、救急隊存続に大きな糧になっており、貧困
度へと発展することを提議する。
に苦しむ家庭で負担ができない市民に対しては無償
機材の保守管理においても、ザ国内において現地
で搬送を行うなど臨機応変に対応が始まった。
人技術専門家の存在を掌握したり、自動車整備の施
訓練においては、現地人専門家を養成し指導を継
167
事例 38
続していく必要があるが、実際には医療関係者でも
様なる合意内容の履行の遅れが見られる。しかし、
救急分野の特定な訓練を受けてきた人材が非常に少
国情にある程度合わせつつ根気よく協議を続け、さ
ないため、知識の未熟な指導員候補生への指導とな
らには、官のみならず民活の利用などを弾力的に行
っている。海外の医大を卒業した医師など救急に関
い、政府カウンターパート機関が履行できない部分
する知識をある程度保持する人材を指導員として確
を臨機応変に動き補完していくような裁量が必要と
保し養成することは予算の関係上、現在不可能であ
認識している。
ることから、ザ国で特有な制度である准医師をさら
最後に、レベル的に高い指導員を養成するには、
に確保し、救急隊指導員として養成する必要が出て
それなりのレベルの人材を確保する必要があるが、
きている。救急というコンセプトがまったくなかっ
プロジェクト予算の充当が不可能な場合、マンツー
た国で救急医療にかかわる活動を実施する場合、十
マンでじっくり時間をかけ指導をするような配慮も
分な現地人専門家を確保できない可能性もあり、注
必要になる。また、優秀な訓練修了生はブレインド
意が必要である。これを克服するには、指導員候補
レイン(自国を出て他の国で仕事を得ること)の可能
者を定期的に日本など救急システムが確立されてい
性も憂慮されるので、契約が社会的に認められてい
る国において中期的に訓練することが必要となる。
る国(ヨーロッパの伝統を間接的に継承している
救助機材は、高価かつ精密である。お国柄や民族
国々)では訓練を受ける受講者から誓約書を取り付
内の価値観にも左右されるが、日本人の目から見る
けることも必要と感じている。
現地人隊員の機材の取り扱いは非常に雑である。こ
れにより訓練においても救助機材が故障や不調とな
り、訓練の継続ができない場合もある。特に油圧関
係機材は、ほこりなどにも弱く精密機械の取り扱い
方法など基礎的な姿勢についての訓練も大きな研修
分野となりつつあり、道徳教育まで発展する恐れも
出ている。文化的な背景で価値観の違いから、日本
人専門家と現地人隊員との意思疎通が困難なときも
しばしばあり、ザ国の経済社会文化に適した救急救
助行政のしくみの構築と新たなチャレンジも強いら
れる。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
訓練を受ける受講生に対し、インセンティブを主
催者側が提供しないといけない状況を当初は理解す
写真 1 神戸市消防局の救急救命士による現場での指導
ることができなかったが、特にボランティアで無償
ベースにより参加する隊員や活動員に対しては、プ
ロジェクトとして何らかのインセンティブを提供し、
学習の意欲を向上させる必要もあると強く感じる。
特に、制服などにこだわる文化がある場合、受講済
の活動員に制服(救急隊は制服、
他の活動などではプ
ロジェクト名入りの T‑シャツなど)を提供するとモ
チベーションが向上することが本プロジェクトを通
じ認識できた。
他のアフリカ諸国については断言できないが、ザ
国においては、相手国カウンターパート機関とプロ
ジェクト実施に関しさまざまな合意をしてもそれが
守られない場合がある。特に政府機関においては同
写真 2 ザンビアで初めて組織された警察・消防救急救助隊
168
事例 39
セネガル共和国における職業訓練センター拡充計画プロジェクトの実施
元雇用・能力開発機構本部
職業能力開発指導部指導役 船場 専
(元 JICA 専門家・チーフアドバイザー)
1.プロジェクトの概要
れる
(1)プロジェクト実施の背景
④ 管理部門職員が実施するプロジェクト運営管
日本−セネガル職業訓練センター(CFPT)はわが国
理が向上する
の無償資金協力により 1982 年に建設が開始され、
建
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制・活動内容
設が完了した1984年から7年間のプロジェクト方式
(a)プロジェクトの実施対象機関
技術協力およびそれに続くフォローアップ・アフタ
カウンターパートとしてのセネガル側の実施機関
ーケア協力(3 年間)を通じて、中学校卒業者(BFEM
は教育省の職業訓練局である。1998 年実施調査の際
資格保持者)を対象に電子・電気・機械・自動車整備・
は国民教育省であったが、2001 年に技術・職業訓
家電修理の 5 分野において 3 年制の技術者資格
練・識字・国民言語省、2003 年に教育省に改組され
(Brevet de Technicien=BT)取得コースを実施し、セ
た。
ネガルの産業界からその卒業生の質の高さを評価さ
(b)プロジェクトの組織
れている。近年、セネガルにおいて産業技術の高度
プロジェクトの母体となった CFPT は校長、副校
化、情報化の進展に伴い、より高い技術資格を有す
長、
総務課長、
教務課長の 4 人の管理職が配置され、
る技能者に対するニーズが高まり、また、1980 年代
既存の BT コースの指導員が 16 人、一般教科担当職
に端を発する経済危機の中で大学卒業者の就職難が
員 6 人、生徒相談担当職員 3 人、その他総務、保健、
続いたことから直接雇用に結びつくような高等教育
資材管理、秘書等 10 人が配置されている。プロジェ
の多様化が求められることとなった。このような状
クトの BTS 担当指導員は 11 人で CFPT としては総勢
況の下で、セネガル政府は 1995 年ディプロマ(短大
50 人となっている。
卒)レベルの上級技術者資格(Brevet de Techicien
(c)CFPT の活動内容
Superieur=BTS)に関する大統領令を改定し、政府の
CFPT には BT レベルの訓練コースがあり、訓練期
承認によってあらゆる部門の BTS 資格取得コースの
間は 3 年、訓練対象者は 16 歳から 21 歳の BFEM(中
開設を認めることとした。CFPT においても直ちに
等教育第一段階終了)の資格を持った者、
または同等
BTS コースの開設が計画され、1996 年にセネガル政
以上の者となっている。現在、電気、電子技術、機
府は日本に対し協力要請を行った。
械、自動車整備の 4 科で訓練が実施されている。ま
(2)プロジェクトの目的と目標
た、夜間コースも全科に併設されており、訓練期間
セネガル政府の要請を受け、1997 年の事前調査、
は 3 年、年齢制限はなく、BFEM の資格を持った者、
または同等以上の者となっている。
1998 年の短期調査、実施協議調査を経て、1999 年 4
その他に大企業の要請に応じて、企業の従業員を
月からすでに実施されている BT コースをベースと
対象にした向上訓練セミナーも実施している。
した、工業情報技術および制御技術の2分野におけ
また、このセンターの特徴として、養成訓練の BT、
る BTS 資格取得コース(2 年制)実施を目的とするプ
BTS コース(昼間)には周辺諸国の学生を受け入れる
ロジェクトとして開始された。
枠が設けられている。さらに、周辺諸国の指導員の
そして、プロジェクトの目標として、以下の 4 項
ための再教育の場としても位置付けられ、JICA の援
目を達成することが求められた。
① CFPT の BTS 担当指導員の能力が向上する
助による第 3 国研修のほか、
ACCT(フランス語圏エー
② 機材が適切に活用され、維持管理される
ジェンシー)、F.Ebert 財団、職業訓練協会等各種
③ 訓練プログラムが定期的に見直され、実施さ
団体からも定期的に研修員の受け入れを行っている。
169
事例 39
プロジェクトはこれらの訓練に追加される形で、
集・分析を行った。
実施された。プロジェクトが実施した BTS の訓練期
第 2 段階:訓練コースの設定では第 1 段階で検討
間は 2 年、
訓練対象者は 23 歳を限度とするバカロレ
された結果を踏まえ、実施協議調査団により、協議
ア(国家統一大学入学資格試験)
の科学もしくは技術
を深めコースの設定が行われた。
の資格を持った者、または同等以上の者となってい
第 3 段階:カリキュラムの作成段階では派遣され
る。プロジェクト開始当初は工業情報技術科、制御
た長期専門家をはじめ、学識経験者、企業の代表、
技術科の 2 訓練科で昼間コースが開始され、2002 年
政府関係者、セネガル側プロジェクト関係者で構成
度から夜間コースが開始された。そして、同じ年に
されたカリキュラム検討委員会で作成された。
また、
在職者を対象とした向上訓練セミナーも実施される
教材はセネガルには参考とすべきものはまったく見
ようになった。
あたらず、すべてプロジェクト内部で作成された。
2003 年 12 月から JICA の無償資金協力により、新
第 4 段階:訓練の実施、第 5 段階:訓練の評価は
たに実習棟の建設が開始され、2004 年 10 月からは
教材の作成と平行して、行われた。2 年時以降は作
制御技術科を電子制御技術科(仮称)、機械制御技術
成された教材の改訂、評価法の検討を行いながら実
科(仮称)に分科された。
施した。
(3)効果的な訓練等を行うための取り組み
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
TMC システムを導入することで、すでに効果的な
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
訓練ができる体制が出来上がっているが、より効果
「プロジェクト実施の背景」の項で述たように、
的に訓練を行うため、機械の整備、機材の管理、安
産業の高度化、情報の進展に伴い、より高度な技術
全・衛生に特に配慮し、その徹底のための対策を講
者の必要性が高まる中で、セネガルとして、また、
じた。なかでも、機材の管理は機材台帳の作成から
プロジェクトの母体である CFPT として高度な技術
倉庫管理、貸し出しにいたる一連の流れを作るのに
者の養成が急務の課題となり、その方策の一つとし
はかなりの時間がかかり、また、管理職の理解を得
て、日本に対しプロジェクト協力の要請を行った経
るのにも精力と時間が必要であった。
緯があり、プロジェクトが実施した BTS の訓練はそ
(4)訓練等の定着・継続に向けた取り組み
の中核となるものである。
プロジェクトの目標のうち、①CFPT の BTS 担当指
(2)訓練等の計画と準備
導員の能力が向上する ②管理部門職員が実施する
プロジェクトの目標、活動内容、それらに対する
プロジェクト運営管理が向上する の 2 点を重視し
評価の指標等がプロジェクト開始前の段階で、PCM
て、表 1 に示す技術移転状況表を作成した。
手法を使って、PDM のフォーマットに落とし込んで
この表の目的は効果的に技術移転を行うとともに、
作成された。さらに、プロジェクトの中間段階にお
専門家とカウンターパートそれぞれが共通の理解を
いて、当初の計画と実施結果、環境変化等を考慮し
していることを求めたものである。
この表を見れば、
ながら、この PDM の見直しを行った。
専門家の誰がどの項目をカウンターパートの誰に技
また、プロジェクトの活動 5 カ年計画はこの PDM
術移転を実施したかがはっきりと分かり、カウンタ
に従い作成され、PDM 同様、中間段階で改定を行い
ーパートが習得した度合いも確認できる。評価判定
ながら実行に移された。
は表 1 の下欄に示す評価基準に基づき、専門家とカ
このプロジェクトではフィリピンのプロジェクト
ウンターパートの両者が判断し、両者の合意で記入
で開発した TMC の訓練のシステムを採用し、実施さ
される。したがって、専門家が技術移転したつもり
れた。そのシステムは Training Management Cycle
になっていても、カウンターパートから満足が得ら
と呼ばれており、①訓練ニーズの把握 ②訓練コー
れない場合は評価が低くなり、再度技術移転を行う
スの設定 ③カリキュラムと教材作成 ④訓練の実
ことになる。
施 ⑤訓練の評価 の 5 段階で構成されている。
プロジェクトではこれら全モジュールの 90%以
第 1 段階:訓練ニーズの把握は事前調査団、短期
上を 2 人以上のカウンターパートがレベル A に到達
調査団とセネガル政府、CFPT が中心となり情報の収
し、残る 10%もレベル B 以上に到達することを最終
170
事例 39
目標とした。ここで 2 人以上としたのは、プロジェ
には CFPT 内の教務委員会において見直しが行われ
クト終了後、なんらかの事情でカウンターパートが
た。
やめた場合にも訓練が継続していけるように考えて
④ 管理部門職員が実施するプロジェクト運営管理
のことである。
が向上する
また、この表により、長期専門家のできること、
管理部門職員とは定期的に幹部会議を持ち、互い
短期専門家に頼むことを専門家会議で協議し、計画
の考え方を示しながら問題解決に取り組んだ。
また、
的に短期専門家の派遣申請を行うことができた。
日常業務の中で必要なことはその都度アドバイスす
ることにより、
管理職の管理に関する意識を高めた。
3.プロジェクトの評価
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
立発展性
このプロジェクトで実施された産業部門情報化
セネガルにおける情報化への勢いは目をみはるも
に対応する訓練は 2001 年〜2010 年の国家教育訓練
のがあり、市中にコンピュータが溢れ、インターネ
10 ヵ年計画に掲げられている技術進歩と国際市場
ットの需要もすごい勢いで増加している。卒業生の
における競争に対応するための職業訓練政策に合致
中にはすでに企業から依頼を受け、コンピュータシ
しており、セネガルの労働市場が必要とされている
ステムを構築した者もいる。また、セネガル国内の
高い技術を有する人材を輩出している。
他のセンターへのインパクト、第 3 国研修を通じた
プロジェクトに期待された目標に対する成果は
西アフリカ仏語圏諸国へのインパクトも考察されて
以下のとおりであり、当初の目標は十分に達成され
いる。
た。
CFPT はすでに 20 年の歴史を有しており、自主的
① CFPT の BTS 担当指導員の能力が向上する
に夜間訓練や向上訓練(セミナー)が実施され、それ
専門家の主な業務となったカウンターパートに対
に伴って自主財源が確保されている。日本の協力に
する技術移転は工業情報技術科は学科 100%、実技
より新たに実習棟が完成し、国内においてますます
98%、制御技術科は学科 96%、実技 98%で、全モジ
その活躍が期待されている。
ュールの 98.02%を達成した。
② 機材が適切に活用され、維持管理される
4.教訓・提言
供与された機器のうち毎日の訓練に使用されてい
(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
る機器は全体の 32%、
週単位で使用される機器 40%、
このプロジェクトの目標が「工業情報技術・制御
半年単位で使用される機器 20%、年単位で使用され
技術分野の BTS コースが機能する」となっているこ
る機器 8%となっており、
5 年間の協力期間中で最も
とから、プロジェクトの運営管理という観点からの
損耗の激しかった機器はコンピュータで、ハードデ
協力が強く望まれた。したがって、日常の訓練はも
ィスクの損傷、一部部品の損傷などである。特にハ
とより、カウンターパートである管理者および指導
ードディスクは防塵対策をしてもなお、セネガル独
員の意識改革が強く求められたプロジェクトでもあ
特のきめの細かい砂塵が進入しハードディスクを傷
る。
めるケースが目立った。供与された機器のすべてに
開発途上国ではあらゆる権限が管理職に集中して
ついて、それぞれ管理担当者を決めて、それに必要
おり、そのほとんどをトップが握っている。予算か
なメインテナンスシートを作成し、それぞれに維持
らはじまり訓練用機器、資材の管理に関することま
管理の責任を負わせることとした。また、供与され
でが、施設長である校長に握られており、副校長、
た多くの部品等の管理も整理整頓することからはじ
総務課長、教務課長といった中間管理職はお飾りに
め部品台帳で在庫の確認が行えるようにした。
過ぎない。その影響もあると思われるが、指導員レ
③ 訓練プログラムが定期的に見直され、実施され
ベルにおいても訓練用機材、消耗品等の扱いがずさ
る
んで、目を覆うようなことが日常茶飯事である。そ
当初のカリキュラムはプロジェクト開始時にカリ
のような視点からまず挙げられた課題は、
キュラム検討委員会において作成され、訓練終了時
① 管理職から指導員への権限の委譲
171
事例 39
② 消耗品、訓練用機材の管理
の 2 点であった。簡単なようで、かなり骨の折れる
事項であった。これらのことを強く推し進めていく
過程において、セネガルにおけるヒエラルキーにま
で言及されたこともあった。
(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
厚生労働省が関係する職業訓練プロジェクトは今
では、技能者養成のプロジェクト、技術者養成のプ
ロジェクト、教材開発のためのプロジェクト、指導
員養成のプロジェクトと多種多様なものになってき
ている。特に最近の傾向では、フィリピンのプロジ
ェクトでの指導員養成に必要な指導技法の技術協力、
写真 1 CAD実習風景
イランのプロジェクトでの視聴覚教材の作成手法に
関する技術協力といったソフトの技術協力が求めら
れてきている。そして、そのレベルも技術者養成プ
ロジェクトに見られるように、より高度なものにな
ってきている。求められる技術レベルが高度で専門
的である場合、一人の専門家ではとてもカバーしき
れないケースが多く発生することが考えられる。そ
のため、現在のプロジェクトでは以前の制度にはな
かった短期専門家派遣が認められているが、ここで
考えなければならないことは短期専門家派遣に対す
るプロジェクトとしての姿勢である。
プロジェクト期間中に派遣される短期専門家の
数は R/D(Record of Discussion:合意議事録)の段階
写真 2 油・空圧制御実習風景
でほぼ決められており、ある程度計画が立てられる
はずである。ただ単に今年度どの分野に何名となっ
ているからお願いしますというのではなく、少なく
とも必要としている専門分野、期待する技術移転項
目、仕上り像、作成される教材ぐらいは具体的に要
請すべきである。
また、プロジェクトにあっては、技術移転終了時
にはその結果について評価を行い、少なくとも派遣
元には報告するようなシステムを作るべきである。
短期専門家の中には何をしにきたのか分かっていな
い、自分の任務を認識していない者がいることは残
念ながら事実である。その原因の一端は上述した要
請の仕方にも問題があると思われる。
写真 3 LAN実習風景
172
事例 39
表1
技術移転状況(実技)
工業情報技術科(Informatique Industrielle)
家
短期専門
SECK
専門家
DIALLO
専門家
MBOW
専門家
MBODJI
WORD の基礎
I10101
A
A
A
A
○
EXCEL の基礎
I10102
A
A
A
A
○
既修得済み
POWERPOINT の基礎
I10103
A
A
A
A
○
既修得済み
C言語
I10201
A
=
=
A
○
Visual Basic 言語
I10202
A
=
=
A
○
Java 言語
I10203
B
=
A
A
MS-DOS 操作
I10301
A
A
A
A
○
Windows 操作
I10302
A
A
A
A
○
UNIX 操作
I10303
=
A
A
A
(Access)テーブル操作・クエリー
I10401
A
=
=
A
○
○
(Access)フォーム
I10402
A
=
=
A
○
○
(Access)レポート
I10403
A
=
=
A
○
○
(Access)マクロ
I10404
B
=
=
A
○
(SQL)テーブル操作
I10405
A
=
=
A
○
(SQL)テーブル検索
I10406
A
=
=
A
○
(SQL)アクセス制御
I10407
A
=
=
A
○
RLC 基本回路
I10501
A
=
A
A
○
レベルアップ
電子電気回路
I10502
A
=
A
A
○
レベルアップ
オペアンプ
I10503
A
=
A
A
○
レベルアップ
論理ポート
I10504
A
=
A
A
○
レベルアップ
コーダ・デコーダ
I10505
A
=
A
A
○
レベルアップ
カウンター
I10506
A
=
A
A
○
レベルアップ
コンバーター
I10507
A
=
A
A
○
レベルアップ
マルチプレクサ
I10508
A
=
A
A
○
レベルアップ
アセンブリ言語
I10601
B
B
A
=
○
DOS/V 機のハードウェア構成
I10602
A
A
A
=
○
組立技法
I10603
A
A
=
A
○
手書き
I10701
A
=
A
=
○
フォトエッチング
I10702
A
=
A
=
○
両面基盤の作成
I10703
B
=
A
=
○
PC によるマスク作成
I10704
B
=
A
=
○
光ファイバと光通信
I10801
A
B
=
A
○
○○専門家
光ファイバー融着接続法
I10802
A
A
=
A
○
○○専門家
光伝送路測定技術
I10803
B
B
=
A
○
○○専門家
光敷設配線技術
I10804
A
B
=
A
○
○○専門家
光通信技術
I10805
A
B
=
A
○
○○専門家
プロトコル解析
I10806
C
A
C
A
○
××専門家
ブラウザ、E メイルの使用
I10901
A
A
A
A
○
HTML 言語
I10902
=
A
=
B
○
CGI 言語の文法
I10903
=
A
=
B
○
スクリプトの作成
I10904
=
B
=
B
○
WindowsNT の始動
I11001
A
B
A
B
△△専門家
NT のネットワークサービス
I11002
A
B
A
B
△△専門家
ネットワーク
NT の運用管理
I11003
A
B
A
B
構築実習
LINUX の始動
I11004
B
A
B
A
○
○
□□専門家
LINUX のネットワークサービス
I11005
B
A
B
A
○
○
□□専門家
LINUX の運用管理
I11006
B
A
B
A
○
○
□□専門家
速度・位置制御
I11101
A
=
A
=
○
PID 制御
I11102
A
=
A
=
○
温度制御
I11103
A
=
A
=
○
レベル制御
I11104
A
=
A
=
○
RST 制御
I11105
A
=
A
=
○
直流モーター
I11201
A
=
A
=
○
ステッピングモーター
I11202
A
=
A
=
○
センサー
I11203
A
=
A
=
○
A/D コンバータ
I11204
A
=
A
=
○
卒業研究
I11300
B
=
A
A
○
○
××専門家
情報処理工学
オペレーティング
システム実習
データベース実習
電子・電気工学実習
計算機工学
計算機工学実習
プリント基板
設計実習
データ伝送実習
情報通信工学
ネットワーク
活用実習
自動システム
制御工学
制御実習
インターフェース
カード設計実習
研究卒業
A
習
B:専門家の協力を得て訓練ニーズの把握、コース設定ができる。そして、自ら各モジュールの教材が作成でき、訓練を行い、評価できる。
173
○
□□専門家
○
××専門家
△△専門家
A:自ら訓練ニーズの把握、コース設定ができる。そして、自ら各モジュールが作成でき、訓練を行い、評価できる。
=:技術移転を受けていない。
考
既修得済み
○
(評価基準)
C:専門家の協力を得て各モジュールの教材が作成でき、訓練を行い、評価できる。
B
プログラミング実
備
C
情報基礎実習
研究卒業
n°de
module
技術移転モジュール
事例 40
ムトワラ職業訓練センター(タンザニア国)機材整備に関わる職業訓練機能の向上
カリブ・ヒューマン代表
西川 義雄
(元 JICA 専門家・職業訓練)
1.プロジェクトの概要
月迄に設置された。それに伴うセンターの運営管理
(1)プロジェクト実施の背景
アドバイザーとして 2001 年 4 月から 2 年間、長期
タンザニア国(以下「タ」国)では労働問題がとり
専門家が派遣された。
わけ深刻で、産業界における熟練労働者の比率は 11
(2)プロジェクトの目的と目標
〜13%となっている。また、1998 年時点では初等学
「タ」国南部地域の青少年の技能労働者育成とム
校卒業後、中等学校を卒業しない生徒が 85%を占め
トワラ州職業訓練サービスセンター(RVTSC)の職業
ており、青少年の失業増加が深刻化している。かか
訓練機材の整備を通して職業訓練機能、施設運営管
る状況のもと、
「タ」国政府は労働力の質の向上を
理、指導員等の向上をはかる。
目的に、国家開発計画(20 年)において全州及び県に
(3)プロジェクトの実施場所・実施体制
職業訓練センターを創設することとし、さらに 1994
(a)VETA
年 2 月の新職業訓練法に基づき職業教育訓練公団
「タ」国の職業訓練は長い間、労働・青少年開発
(Vocational Education and Training Authority;
省の国家職業訓練局が実施母体となってきたが
略称 VETA)を設立し、職業訓練セクターの戦略行動
1994 年の新職業訓練法によって職業教育訓練公団
計画(SAP:1996−1999)を策定した。この計画の中
(VETA)を設立した。新法は「職業教育訓練協議会」
で地域の中心となる職業訓練センター10 校が州職
が設けられ、その役割は職業訓練体制が国家ニーズ
業訓練サービスセンター(RVTSC)に格上げ、充実
にあっているかどうかをチェックする責務があり、
されることになった。今回の支援対象となったムト
そのメンバーは雇用者団体、
労働団体、
各業界団体、
ワラ職業訓練センターはその一つで、隣接する既存
教育者、労働・青年省、通商貿易省、全宗教会議等
のリンディ職業訓練センターを吸収する形で、新設
の代表者 11 名から構成されている。
センターとして建設された。当センターでは基本的
(b)VETA の機能
には初等教育 7 年卒業者、一部のコースは中等教育
① 職業訓練のための機会と施設を供給すること
卒業者を対象とした 11 コース(大工・木工建築、左
② 政府と民間のニーズのニーズにあった基礎的・
官・ブロック、秘書・コンピュータ、洋裁・服飾、
特殊訓練の訓練体制を確立すること
水道・配管、自動車整備、溶接・板金、電気工事・
③ 経済の生産性にあった技能者育成により市場の
修理、自動車電装、商業、木彫)を新設し、うち 5
需要を満たすこと
コース(木工・木工建築、左官・ブロック、秘書・
④ 訓練プログラムの妥当性を高めるために各地域
コンピュータ、洋裁・服飾、水道・配管)について
に計画と実施の権限を委譲すること
は、一部機材を購入して他のコースに先がけて 1999
⑤
年の 7 月から開始されている。しかしながら、当セ
訓練プログラムには経済的価値と熟練技能を育
成、指導すること
ンターの機材整備計画において資金不足等の負荷
⑥ 最新技能の維持改善のため、企業内訓練を促進
がかかり、1996 年に日本政府に対して、タンザニア
すること
国南東部地域の青少年層の技能労働者育成を目的
⑦ 障害者のための訓練開発の促進
として、当センターを対象とした機能向上のための
無償資金協力を日本政府に要請した。日本政府・
(c)VETA ムトワラセンター組織図
JICA はそれに対し、1999 年 10 月を主に数回の調査
図 1 参照
団を派遣し、
概算額で 3 億余りの機材供与を決めた。
機材納期は当初の計画より遅れながらも 2001 年 12
174
事例 40
所 長
表 ムトワラ RVTSC の入学資格、期間及び定員
【アドバイザー】
コース名
秘書
指導員
指導員
定 員
初等教育卒業以上
1年
16名
左官・ブロック
初等教育卒業以上
1年
16名
秘書・コンピュータ
中等教育Ⅳ卒業以上
2年
各学年16名
洋裁・服飾
初等教育卒業以上
1年
16名
水道・配管
初等教育卒業以上
1年
16名
自動車整備
初等教育卒業以上
2年
各学年16名
溶接・板金
初等教育卒業以上
2年
各学年16名
電気工事・修理
初等教育卒業以上
1年
16名
自動車電装
初等教育卒業以上
1年
16名
調理
商業
中等教育Ⅳ卒業以上
1年
16名
運転手
木彫
初等教育卒業以上
1年
16名
協議会
指導員
期間
木工・木工建築
州職業訓練
事務長
入学資格
開発課長
保管担当
帳簿補助
会計課長
会計担当
図 1 VETA ムトワラセンター組織図
合
(d)訓練生と訓練コース
計
224名
(2)訓練等の計画と準備
2002 年 1 月からの新期からは従来の木工・ブロッ
技術移転対象はカウンターパートの所長はじめ管
ク・コンピュータ・洋裁・配管の 5 コースに加え、
理職であるが場合によっては指導員にも下記の内容
自動車整備・溶接板金・電気工事・自動車電装・商
で実施する。
(A)管理(計画)
A1 施設年度重点方針、行動計画の作成
A2 年間訓練計画の作成
A3 施設機器等整備計画の作成
A4 指導員研修計画の作成
A5 施設評価システムの作成
A6 年度事業概要の作成
(B)管理サイクル
B1 実践的管理マニュアルの作成
B2 P―D―C―A サイクルの習慣づけ
B3 業務分掌による業務範囲の明確化
B4 改善ミーテングの定例化とその応用
B5 月別、期別データの整理と共有化
B6 訓練進行チェックと統制
B7 施設内研修の実施
(C)管理者と指導員の連携
C1 指導員プロファイルの活用
C2 効果的なミーテング(計画的・タイムリーに)
C3 対人コミュニケーション技法の研修
(D)指導員の資質向上
D1 訓練目標の作成
D2 時間・週間・月間訓練計画の作成
D3 入所―訓練―就職迄のサイクル整備と開発
D4 計画―実行―検討(統制)の習慣化
D5 評価方法の改善
(E)指導力の向上
E1 レッスンプランの作成と習慣化
E2 実技示範力の向上(自己技能チェック表)
E3 指導技法の改善と研究会
E4 視聴覚機材の活用と自己研鑽
E5 内外の研修会の参加
(F)設備保全
F1 実践ガイドブックの作成
F2 年度重点目標と評価
業・木彫の 6 コースが増設され、計 11 コースとなっ
た。訓練生の年齢は 16 歳から 23 歳までにわたって
おり、初等学校あるいは中学校卒業直ちに入った訓
練生は少ない。訓練受講料は有料の寮費込みで年間
90,000 シリング(約 13,000 円)がいる。これをムト
ワラ地域の貧しい家庭が揃えて入学することは容易
ではない。1 ヶ月の間は各コース訓練生全員が揃う
事は難しい。
(e)カウンターパート
*氏名 :George S. Mhina (年齢:44 歳)
*職位 :センター所長
*略歴 :学士卒、十分な指導員経験等がある。
2.プロジェクトにおける訓練等の実施
(1)プロジェクトにおける訓練等の位置づけ
「タ」国における最後の RVTSC として設立された
ムトワラセンターは他の施設と違い稼動実績を持た
ない新設のセンターである。機材整備を充実させた
としても職業訓練の向上にはつながらず、以下次の
技術移転が必要となってくる。
① 機材の維持管理
② 指導員への教育訓練
③ 訓練管理の浸透
④ カウンターパート(所長)への技術移転
⑤ カリキュラム開発
175
事例 40
F3 実習場レイアウトとその合理性の確認
F4 安全通路の確保
(G)機器等保全
G1 使用前・使用後点検
G2 安全作業基準書
G3 機器使用基準書
G4 機器整備台帳
G5 工具整備台帳
G6 機器・工具等修理台帳
G7 定期点検(日・週・月・定期)
(e)他施設の調査
ムトワラセンターのベンチマークとして VETA 優
良センター、民間訓練センター等、8 施設の調査を
実施した。その中でも一際目立ったのが Ndannda 職
業訓練センター(ドイツ)であった。日本の短期間協
力と異なり、20 数年にわたり市民と共有している施
設として、また 3 年間の訓練期間で多能工的訓練生
を輩出しているのが印象的であった。
(3)効果的な訓練を行う取り組み
(a)機材整備に関わる対応
3.プロジェクトの評価
機材設置が当初計画よりも大幅に遅れ、
2001 年 12
(1)プロジェクトの妥当性と目標達成度
月末迄、かろうじて間に合った形となったが、その
当プロジェクトの上位目標は「タ」国南部地域の
後の調整と整備になお数ヶ月要することとなった。
基本設計と実際の据付にはかなりのギャップが生じ、
それに伴う補修工事、電源工事が平行して行うこと
青少年の技能労働者育成であり、またプロジェクト
目標は訓練機材の整備を通してムトワラセンターの
職業訓練機能の向上であった。しかし、センター機
になった。本来の技術移転は設置後からセンターの
能がレベルアップされたとしても訓練生の出口、即
管理運営業務が実施される予定であったが、機器維
ち就職先が少ないということは致命傷である。職業
持・トラブル対策に大半時間が食われるという予定
訓練の父は事業所・会社であり、その連携なしでは
外の作業が入ったのである。
単なる学校として位置づけられても仕方がない。ム
①機材 引渡し後の機器点検と整備
トワラ・リンデ周辺における南東部地域の人口は約
②設備維持管理基準の作成
100 万人以上で、
8 割強がカシュナッツ主力の零細農
③実習場における機器等のレイアウト改善
業である。またリンデ・ムトワラ地域の漁業では潜
④安全通路確保
在的資源が期待されながら旧態漁法で自給が精一杯
⑤機器等管理台帳作成と現員数の確認
のムトワラ地域の現状。このような環境下で目標達
(b)訓練管理開発
成にアプローチすることに心苦しさは否定できない。
カウンターパート及び管理職への技術移転を容易
機材整備の大幅な遅れ、資材不足等で支障が生じた
にするために、年間訓練計画作成法と関連諸計画の
が、計画に基づく訓練機能の向上に関しては成果を
作成法、施設運営管理基準の作成、各実習場工具室
8 割強あげることができた。計画的業務に慣れない
の改善マニュアルの作成、指導法マニュアル、安全
センターに対しては、共通認識ができるよう基準書
管理テキスト等の作成を行う。
(マニュアル化)の重要さを指導し、仕事の進め方
(c)カウンターパートへの技術移転
では管理サイクル(特に計画−実行)を回すクセを
センター所長及び管理職には上記訓練管理資料を
飽きるほど繰り返した。また、当初計画の実習場レ
基に技術移転を行った。
イアウトを改善に次ぐ改善で効率的な実習作業ライ
(d)訓練管理セミナーの実施
ンに変えることができたし、工具室では器工具の収
センター指導員の半数近くが基本的な知識・技能
納・取り出しが容易にするために棚・治具等の改良
研修を受けていないし前歴の職種経験も浅い。その
で「目に見える管理化」を強調した。これらは整理・
ような彼らに指導員としての心構え、仕事の管理サ
整頓・清掃の「3S」の定着に他ならない。
イクル、仕事の改善法などのセミナーは貴重な体験
(2)地域に与えたインパクトとプロジェクトの自
であった。
立発展性
* 「訓練管理シミュレーション」―20 人/2 日間
当プロジェクトの鍵は機材の維持管理と訓練機能
* 「問題解決法と職場改善」 ― 24 人/2 日間
* 「リーダーシップ」
― 24 人/2 日間
* 「訓練指導技法」
― 23 人/2 日間
のレベルアップである。タンザニアでは見られない
訓練機材の充実で、遠くはリンデ、ダンダからセミ
ナー(向上訓練)の利用が見られるようになった。
176
事例 40
さらに地域の評価は機材のみならず指導員の技能向
上で、センターへの活用が増えつつある。ムトワラ
センターが南部地域の中核センターとして基盤を確
立するためには、海岸に面した湿気の多い環境で機
材をどう維持管理していくか、また訓練管理が常に
計画的に継続できるかどうかにかかっている。
また、
この地域の生活を支えるインフラ、交通網の早急な
整備もセンター発展にかかっている。
4.教訓・提言
写真 2 実習棟
職業訓練施設のレベルの質が問われることが良く
ある。それは施設の大小、設備・機器等の量、訓練
生の多少で比較されるものではない。それは訓練施
設の運営管理の高さと管理サイクル(計画−実行−
評価)が良く回されているかどうか、実施されてい
る訓練の流れが誰から見ても分かりやすくなってい
るかどうか、訓練業務の標準化が徹底されているの
か、指導員全体の質が高いかどうか、地域周辺事業
所・市民との連携、コミュニケーションがしっかり
とれているかどうか、が客観的な評価として受け止
写真 3 コンピュータ科
められる。また職業訓練の発展は「タ」国において
非常に大切なことである。教材不足で座学一辺倒に
なりやすいアフリカで、実学一体化の教育訓練こそ
当国における青少年の人材育成で重要な役割を担う
のである。そういう観点から職業訓練を通して国際
協力のありかたを模索できたことに関係者に感謝を
申し述べたい。これからの協力は「金・物」でなく、
人を通して相互信頼のもとに人材開発を粘り強く発
展させることが大切であろう。アフリカにあった創
造的な職業訓練を支援するには 2 年の短期間では到
写真 4 自動車整備科
底およばない。それにはあの暖かい包容力のある寛
大な人間性をもっと知る必要があろう。
写真 1 センター全景を上空より見る(手前が海)
写真 5 縫製科
177