レンタル市場 9 月度レポート

K INEMA JUNPO R ESEARCH
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パ
ッ
ケ
ー
ジ
ソ
フ
ト
】
レンタル市場
9 月度レポート
< 2 0 1 2 年 1 0 月 1 6 日>
今秋、「アメイジング・スパイダーマン」は
店頭に並ぶのか?
I NSTITUTE
K INEMA JUNPO R ESEARCH
【 パ ッ ケ ー ジ ソ フ ト 】
I NSTITUTE
レンタル市場
9 月度レポート
【ランキング】
9 月度のレンタルランキング。首位はダントツの回転数で「バトルシップ」が獲得。ユニバーサル
スタジオ 100 周年記念作として製作された SF アクションで、世界的には大ヒットとなったもの
の日本では大苦戦し、興行収入は 20 億円に届かない成績で終わった。しかしレンタル市場では爆
発的な人気を獲得し、月間総回転数では 2 位の作品に 2 倍以上の差をつけての首位。世界の映画
興行では大ヒット、国内のレンタルでも大ヒット、国内の映画興行では苦戦…、と並べてみると、
国内の映画興行が特異であるように思えてくる。この問題、簡単に結論が出せるものではないが、
例えば「利用料金」の違いに関する考察は許されるのではないだろうか。「映画・映像産業ビジネ
ス白書 2011-2012」から引用すると、2011 年、北米における映画館の平均入場料金は 7.93 ド
ルで、円換算(1 ドル= 87.4 円)すると約 693 円。欧州ではドイツが 7.4 ユーロで、約 750 円(1
ユーロ= 101.4 円)。イタリアは 6.7 ユーロで、約 679 円だ。これらに対して日本は 1252 円で、
物価の違いを無視したとしても、明らかに高額であると言えるだろう。一方、レンタルは言うま
でもなくリーズナブルだ。因みに、2011 年の JVA 調査によると、新作の 1 泊 2 日料金は平均で
365 円となっている。値下げをすればただちに「世界でヒットする作品が日本でもヒットする」と
いうことにはならないし、それが日本の映画産業を資することになるかはわからないが、ひとつ
の視点として考えてみてもよいのではないだろうか。
ランキングに戻って、第 2 位は前月と変わらず「タイタンの逆襲」。続く 3 位は、初登場の「Black
& White /ブラック&ホワイト」。9 月 14 日リリースで 3 位に食い込んだのは立派と思えるが、
レンタル店のイメージはあまりよくない。スパイアクション + ラブコメというレンタル的には “ 鉄
板 ” の内容を「ターミネーター 4」のマック G が監督。さらに、リース・ウィザースプーン、クリ
ス・パイン、トム・ハーディとキャストもそこそこで、ショップの期待感は非常に高かった。それ
だけに導入枚数も多めになり、結果、稼働率がもうひとつ上がらず、総回転数のわりに印象が良
くないという現象が起きているようだ。4位は前月から3ランクダウンとなった「TIME /タイム」。
5 位、6 位は「ジョン・カーター」
、
「ヒューゴの不思議な発明」。いずれも、月末リリースによる集
計期間の短さが原因で下位に甘んじていたが、予想通りに順位を上げてきた。
7 位には初登場の「キリング・ショット」がランクイン。公開館数 33、興行収入 2000 万円と小規
模公開作ながら、主演にブルース・ウィリスを据え、フォレスト・ウィテカーテカ、マリン・アッカー
マンなどが脇を固めたクライムアクションで、予想を上回る高回転を見せている。8 位は同じく初
登場の「僕等がいた 前篇」だが、こちらは 295 スクリーンで公開され、興行収入は 25 億円という
ヒット作だ。このように、興収 2000 万円の洋画と 25 億円の邦画が肩を並べているのがレンタル
ランキングのおもしろいところで、レンタル店のバイヤーにとっての醍醐味でもある。
最後に、
ベストテンのラストに食い込んだのは、劇場版シリーズの第2弾「LIAR GAME −再生−」。
興行収入は約 25 億円と、前作の 23.6 億円とほぼ同レベルだが、レンタルランキングではやや開
きが出そう。前作の最高順位は 3 位だが、本作がそこまで順位を上げることはなさそうだ。
【9 月度市況】
まず、上場各社の既存店売上前年比から(但し、ゲオとウェアハウスはレンタル + テレビゲーム
の合算)
。ゲオ 90.3%(前月 95.7%)
、ウェアハウス 99.6%(同 100.0%)、トップカルチャー
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91.6%(同 86.1%)、三洋堂 89%(同 87%)。9 月のゲオのコメントは「新作ゲームソフトがビッ
グタイトルの発売端境期にあたり、ゲーム関連新品販売が伸び悩んだ」というもの。また、ウェ
アハウスは「ビジュアルレンタルは軟調な推移となったが、ゲーム物販販売が増加」とコメントし
ている。一見、テレビゲームについて逆の傾向をコメントしているようだが、ウェアハウスはゲ
オ化に伴いテレビゲーム売場を大幅に強化しており、「ゲーム物販販売が増加」しているのはこの
ため。トップカルチャーがテレビゲーム部門の前年比を 76.0%と発表しているなど、ゲーム自体
の売上が伸びなかったのは事実だ。ゲオの数字は、前月から 5.4%ダウンしているが、前月は「テ
レビゲームが全体を引き上げての結果」であった。ゲームが低調に終わるとこうした結果になる
ということだろう。一方のウェアハウスは新作ゲームのリリース状況に関わらず伸長しているた
め、ほぼ前月並みの推移になったと見られる。トップカルチャー、三洋堂は共に微増。8 月は前半
にオリンピックで下げていた影響があり、前月比では若干のプラスが出ているということだろう。
非上場の一般店は 80 〜 90%。店頭の印象は「オリンピック前の状況に戻った」というものが最も
多いが、
「オリンピック前よりも若干落ちたかもしれない」という印象を語る店舗も少なくない。
また、前月「オリンピックの影響は大型店に顕著」というチェーンが多いことを紹介したが、今月
も同様だった。前月はオリンピックという特大イベントがあったため、“ 浮動層 ” であるライトユー
ザーが多い大型店から客足が遠のいたと分析したが、9月になっても同様の傾向が続いているなら、
需要そのものの落ち込みがあると考えざるを得ない。オリンピックで遠のいたライトユーザーを
呼び戻すだけの力が、現在のレンタル店には不足しているということなのかもしれない。
そんな中、多くのレンタル店は「アメイジング・スパイダーマン」の TSUTAYA 専売問題で揺れた。
経緯は以下のようなものだ。
8 月末から 9 月にかけて、
「スパイダーマン」の権利を有するソニー・ピクチャーズ(以下 SPE)が、
「アメイジング・スパイダーマン」ほか 4 作品のレンタル流通に関するライセンスを、TSUTAYA
を 運 営 す る CCC へ 譲 渡 す る 旨、 主 要 レ ン タ ル 店 に 報 告 し た。CCC が 権 利 取 得 し た 作 品 が
“TSUTAYA 独占タイトル ” になることは当然と考えられ、TSUTAYA 以外のレンタル店は「秋の
目玉タイトルと期待されていた興行収入35億円の大ヒット作を仕入れることができない」
「長年に
わたるビジネスパートナーを裏切る行為である」と反発。レンタル店の有志が原告となり、SPE
に対して「継続的地位の確認」を求める訴訟を行うことになった。原告の求める「継続的地位の確
認」とは、担当弁護士の説明によると次のようなもの。
「コンビニエンスストアの FC 契約が仮に 5 年間あったとして、その 5 年間、特に問題なく経営で
きていたとする。この場合、6 年目以降に関してストア側は『当然、問題なく契約更新できる』と
考える。もちろん、5 年契約であれば 6 年目以降のことは契約書に書かれていないが、ストア側に
は契約の継続を求める権利がある。これを『継続的地位』といい、これまでの判例からも、認めら
れている権利とみなしてよい。今回の問題では、SPE は長年にわたり、希望するレンタル店のす
べてに商品を供給していた。この場合、『アメイジング・スパイダーマン』も供給されると期待す
ることはレンタル店に認められる権利であって、SPE と各レンタル店との間に個々の契約が存在
していなくても認められるのがこれまでの判例の流れである」
つまり、原告団は SPE に対して「我々は SPE から商品の供給をうける権利があるはずだ。それ
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を損なう結果をもたらす CCC との契約は見送ってほしい」という要求をしたわけだ。しかし、こ
の会見を報道したメディアはレンタル流通の知識不足からか、「SPE が TSUTAYA 以外ではレン
タルできないようにする契約を結ぼうとしている」と受け取れる内容で報道した。本来、CCC が
取得した権利を独占使用するかどうかは SPE が関知するところではないことを鑑みると、こうし
た報道は必ずしも正確であったとはいえない。しかし、Twitter をはじめとするネット上の反応
は「TSUTAYA が悪い」
「TSUTAYA が独占するのは酷い」というものが目立ち、SPE を批判する
意見は少数。「身近な大手を叩く」といった状況が見て取れた。また、報道では「継続的地位の確
認」についてほとんど触れられず、
「“ 独占 ” が問題」という論調であったため、一般には「SPE と
TSUTAYA が独禁法違反をしている」という論調で語られることが多かった。当然、こうした意
見に対しては「独禁法に触れるものではない」という反論も寄せられていたが、元々、原告も独禁
法違反で訴えるつもりはなく、原告団が記者会見を開いた意義の一部は損なわれたと言わざるを
得ない。しかし、地上波 TV 局や全国紙を含む全 17 メディアが会見を取材し、問題を一般に知ら
しめたということでは、原告の目的は十分に達せられた。法的には決して有利とはいえない原告
団が頼りにするのは “ 世論の高まり ” である。
「TSUTAYA でしかレンタルできないのは困る」とい
う世論が高まることを期待しているのだから。
その後、SPE と CCC との間で契約が完了したかどうかは明らかにされていないし、また、原告
の申請についても 10/15 日現在審理中で確定していないが、仮に、原告が申請した仮処分申請が
認められれば、権利がスムーズに譲渡されず、予定のリリーススケジュールが大幅に狂うことは
間違いない。
当初の予定では 11 月下旬と見られた「アメイジング・スパイダーマン」のレンタルリリース日、
レンタル店の店頭がどうなっているのか、注目である。
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