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K INEMA JUNPO R ESEARCH
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レンタル市場
11 月度レポート
< 2 0 1 2 年 1 2 月 1 9 日>
「アメイジング・スパイダーマン」の
独占により、TSUTAYA が若干優位に
I NSTITUTE
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レンタル市場
11 月度レポート
【ランキングから】
11 月のランキング首位は「メン・イン・ブラック 3(以下 MIB3)
(10 月 26 日リリース…以下「リ
リース」略)。集計日数の短さから、前月は 6 位に留まったが、今月は予想通りのジャンプアップ。
2 位の「テルマエ・ロマエ」を大きく引き離した。当研究所のランキングは「スパイダーマン」のよ
うな、TSUTAYA などに流通が限定されている作品は除外しているが、TSUTAYA の 11 月度ラ
ンキングでも「MIB3」が「アメイジング・スパイダーマン(以下スパイダーマン)」を上回ってお
り、
仮に「スパイダーマン」を除かなくても首位は動かないと見られる。2位は初登場の「テルマエ・
ロマエ」
(11 月 9 日)。導入枚数の少なさゆえ首位に届かなかったが、回転率はベスト 20 中トップ。
ショップにとっては高効率タイトルとなっている。因みに前述の TSUTAYA ランキングでは「テ
ルマエ・ロマエ」が11月度の首位となっている。TSUTAYAは独自の契約によってレベニューシェ
アリングによる大量導入が可能となっており、他法人とは総回転数に大きな差が出じる。ただし、
店頭売上の数十%をメーカーなどに支払う仕組みのため、ショップの利益率を圧迫していること
は、この項で何度か述べたとおりである。3 位は前月同様「スノーホワイト」
(10 月 17 日)。続く
4 位は前回 1 位の「ダーク・シャドウ」
(10 月 3 日)。5 位は前月からワンランクダウンとなった「劇
場版 SPEC ~天~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿」。
その他の初登場作品は、15位「幸せへのキセキ」と18位「ももへの手紙」。
「幸せへのキセキ」は、
「ザ・エージェント」のキャメロン・クロウ監督が、「ボーン」シリーズのマット・デイモン主演で
描いたヒューマンドラマ。全国 350 館で公開され、興収は約 6 億円。「ももへの手紙」は沖浦啓之
監督によるハートフルなファンタジーアニメ。公開規模約 300 館、興収約 5 億円。
11 月のランキングは、当月リリース作品が上位にほとんど入らなかったのが特徴だ。ベスト 10
以上の初登場作品は、2 位の「テルマエ・ロマエ」
(11 月 9 日リリース)のみ。20 位以内でも 3 タ
イトルしかない。上位作品のラインナップが特に強力な場合には、初登場作品がランクインしに
くいことがあるが、今回はそうではない。単にリリース作品が弱かったと見るべきで、長引くレ
ンタル店の苦境を助長してしまったといえるだろう。
【11 月度市況】
まず、上場各社の既存店売上前年比から(但し、ゲオとウェアハウスはレンタルとテレビ
ゲームなどの合算)
。ゲオ 98.2%(前月 95.9%、前々月 90.9%)、ウェアハウス 107.4%(同
106.0%、同 99.6%)、トップカルチャー 91.8%(同 90.1%、同 91.6%)、三洋堂 87%(同
88%、同 89%)
。11 月のゲオのコメントは「テレビゲームの新品は好調。レンタルとテレビゲー
ムの中古販売は伸びを欠いた」というもの。また、ウェアハウスは「ゲーム物販売上等が堅調な
推移」とコメントしている。因みに、テレビゲーム部門実績についてトップカルチャーは前年比
113.9%、三洋堂は 114%と発表している。ここから推測して、ゲオ、ウェアハウス共にレンタ
ルはいずれも数ポイントのマイナスと見てよい。レンタル実績に戻って、前年同月比の推移はトッ
プカルチャーは微増、三洋堂は微減。こうしてみると、前月比で確実にプラスになっているのは
TSUTAYA 店舗を運営するトップカルチャーのみ。唯一「スパイダーマン」をレンタルしている
法人という言い方もできるが、果たしてそれが要因だろうか。首都圏の TSUTAYA を中心にした
独自の調査によれば、「スパイダーマン」の 1 店あたり在庫数は 150 ~ 200 本で、11 月中の稼働
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率は 50%前後と見られる。つまり、常にレンタル中になっているのは 1 店あたり 75 ~ 100 枚前
後ということだ。1 泊 2 日と 2 泊 3 日の貸出しが基本になっていることから、1 日あたりの貸出数
は 30 ~ 60 枚前後と見てよいだろう。5 枚で 1000 円などのセットレンタルを考慮に入れて貸出
単価を 300 円とすると、
「スパイダーマン」が稼ぎ出す 1 日あたりの売上は約 9,000 ~ 18,000 円。
21 日のリリースから月末までは 10 日間であるから、11 月度の売上は約 9 ~ 18 万円となる。大
掴みには、TSUTAYA の各店は、ゲオや一般店に比べて 10 ~ 20 万円の上積みができたと考えて
よいだろう。この数字が前月比にどのような影響を与えるかということだが、月商 600 万円の店
舗であれば 1.6 ~ 3.2%、1000 万円の店舗であれば 1 ~ 2%のインパクトだ。トップカルチャー
の前年同月比推移が前月からプラス 1.7 ポイントとなっている背景としては適当な試算に見える。
同様に、三洋堂のマイナス 1 ポイントという結果も裏付けているように思える。
しかし、非上場の一般店の落ち込みを見ると、「スパイダーマン」の影響だけが要因とは思えな
い。多くのチェーンが前月比で 5 ~ 10 ポイントのマイナスを喫しており、これとは別の要因があ
ると考えざるを得ない。
ひとつ考えられるのはゲオの大幅ディスカウントだ。
「スパイダーマン」のリリースに合わせ「新
作を含めて 80 円という施策を打ってきた店舗が多く、競合している店舗は大きなダメージを受け
た。TSUTAYA は「スパイダーマン」という独占の大作を持ち、ゲオはかつてないほどの低料金
施策を仕掛けた。何も持たない一般店は、その狭間で翻弄されたかたちだ。それにもかかわらず、
一般店の店頭からはそれほど悲観的な声は聞かれない。「スパイダーマンが導入できなくても、何
も関係なかった」
「ゲオが料金を戻せば、売上も元に戻る」といった感想が多い。まず、「なくても
関係なかった」ということは「ユーザーは『スパイダーマン』をそれほど求めていなかった」とい
う事になるが、その証左として、セル用商品を廉価で中古販売してレンタルの代わりにしようと
した事例が挙げられる。ある一般店チェーンではセル用商品を販売、買取りを行うことで、「売買
の差額でレンタルできる」という仕組みを運用したが、ユーザーの理解を得ることはできなかっ
た。いわゆる「疑似レンタル」と呼ばれる貸与権侵害にあたらないよう慎重な運用をしていたのだ
が、ユーザーには仕組みがわかりにくかった。かといって、わかりやすく単純化したら貸与権侵
害になってしまうということで、運用に苦心したようだ。とはいえ、ユーザーの「スパイダーマ
ンを観たい」という気持ちが強かったならば、十分に意図は伝わったと思われ、結局は「なければ
別の作品で OK」という程度のニーズしかなかったということだろう。レンタル店が心配するほど
ユーザーは「スパイダーマン」を求めてはいなかった。それゆえに「なくても関係なかった」とい
うコメントが多く発せられることになったのだろう。また、ゲオに関しては「新作を含めて 80 円」
という施策で売上を伸ばすことはできないし、頻発できないことも想像に難くない。となれば、
「ゲ
オの低料金キャンペーンが終了するのをじっと待つのが最良の手」となろう。一般店にしてみれ
ば「TSUTAYA とゲオが不毛な争いをして迷惑を被っている」というところだろう。
もうひとつは「レンタル需要そのものが低下している」ということだ。多くのチェーンで 6 月以
降 11 月まで連続で売上前年比推移が右肩下がりになっている。その間、新作ラインナップが強い
月も弱い月もあったし、ゲオや TSUTAYA の様々なキャンペーンが行われた月も、行われなかっ
た月もあった。そうした変化があるにもかかわらず、継続的にマイナスが加速しているという現
実に対して最も説得力のある理由は「需要そのものが低下している」というものだろう。
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結 局、11 月 度 の レ ン タ ル 市 況 は 非 常 に 厳 し い 状 況 に あ っ た と 総 括 す べ き だ。 そ の 中 で
TSUTAYA だけが「スパイダーマン」によって、1 店あたり 10 ~ 20 万円の売上を積み上げること
が可能になり、他法人と比べて、若干優位にあったと考えてよいのではないだろうか。
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