A-2 当院の発達外来の取り組み A-1 地域拠点病院小児科と地元自治体

A-1
地域拠点病院小児科と地元自治体における発達支援事業の
連携について
竹中佳奈栄
北播磨総合医療センター 小児科
目的 : 北播磨地区は兵庫県中南部に位置し 5 市 1 町から構成される。当院はその中の 2 市の市民病
院が統合して設立された。統合後、自治体による発達フォロー体制の違いと地域連携の重要性を再
認識したため、統合元の一つである A 市での取り組みを中心に報告する。
方法・結果 : A 市では発達の問題を抱えた児へは乳児期、幼児期、就学前、就学後でそれぞれにフォ
ロー体制ができている。
乳児期から発達の遅れを指摘された児については、地域の医療機関に紹介され、その後は療育機
関や地元保育園で経過を診ていくことになる。
幼児期に言葉の遅れなどを指摘された児については保健センターでの療育事業などから発達相談
を経て療育機関や医療機関へ紹介される。市の療育事業、発達相談はともにスタッフとして医師が
参加している。
就学前には 5 歳児相談が実施されており、そこから発達相談や就学相談、就学指導へとつながっ
ていく。発達相談や就学指導には医師が参加しており、必要に応じて医療機関へも紹介となる。市
では無料の個別療育や期間限定の集団療育も実施している。
就学後の児は主に市の個別療育や病院へ紹介され、市の個別療育と病院の間で定期的に連絡を取
り対応にあたっている。
結論 : 規模が小さいことでどの年齢についても市の関与が比較的容易であり、市の事業に医師がス
タッフとして参加していることで個々の児の把握が容易となっている。
A-2
当院の発達外来の取り組み
五十川春秋、渡辺 秀美
安城更生病院 リハビリテーション技術科
目的 : 当院の位置する安城市は人口 18 万 4 千人、発達障害の診断可能な専門機関は非常に限られ
る。当院では 2012 年 6 月から、主に発達障害を対象とした診断、支援を行える発達外来の検討を
始め、2013 年 4 月に業務を開始した。その内容と現状をまとめ、業務の評価を実施し、少々の知
見を得たので報告する。
方法 : 支援のターゲットを保護者として “親に子供の特性を知ってもらい、少し生活を楽にする術
を学んでもらう” と言う考え方で、診断を含めた支援のシステムを作りあげた。その内容及び 2013
年 4 月∼2015 年 3 月まで 2 年間における利用者 127 名について、年齢、診断内容の内訳など現状
を調査しまとめた。また業務の評価として連絡先が把握できている全員を対象に、満足度等に関す
るアンケート調査を 2015 年 5 月、郵送にて実施した。
結果 : 利用者の現状については、年齢構成は 1∼3 歳が 20%、4∼6 歳が 33%、7∼12 歳が 42%、13
歳以上が 5%、診断の内訳は、自閉症スペクトラム障害が 79%、自閉症スペクトラム障害+注意欠如・
多動性障害が 14% であった。業務の評価については、現在アンケートを集計中であり、結果は当
日発表する。
結論 : 主に発達障害を対象として、保護者をターゲットとした診断を含めた支援を始めた。その内
容及び利用者の現状まとめ、アンケート郵送による業務の評価を行った。評価の結果は当日発表す
る。
─ 31 ─
A-3
発達に偏りのある児童の学校生活の支援
∼特性チャートと支援プランの作成∼
石塚 祐衣1)、川俣 智路2)、井澗 知美2)
1)まめの木クリニック・発達臨床研究所、2)大正大学人間学部臨床心理学科
目的 : 発達に凸凹のある子どもは、その特性が影響して適応に問題を抱えていることが多い。保護
者と学校が連携して現実的な対応をする上で ① 子どもの状態を把握し、共有すること、② 問題
行動に対する具体的な対応を考えることが重要と考えられる。本研究は教育現場で活用できるアセ
スメントを使って、子どもの理解を深め、一貫した対応を行えるよう、支援のニーズとあり方につ
いて検討するものである。
方法 : 対象は小学生 8 名。アセスメントは保護者、担任教師に MSPA 実施マニュアルを用いたイ
ンタビューと子どもの行動チェックリストの回答を求め、特性チャート・支援プランを作成。振り
返りを設けながら先生に支援プランを実施して頂いた。半年後、この取り組みの感想をアンケート
で伺った。
結果 : 半年後のアンケートの結果、多くの保護者が満足と答え、客観的・専門的に子どもの現状が
分かり、特徴が具体的に理解できた、学校にアドバイスをしてもらえたなどの理由が挙がった。先
生は全員が特性チャート・支援プランが役に立った、多くの先生が振り返りが役に立ったと回答し
た。
結論 : アセスメントの結果が一目でわかるように示すことは、子どもの特性理解に役立ち、その子
に関わる人が共通理解を持つことができるため有効と考えられる。その上で、具体的な支援プラン
を示すことの重要性が考えられる。また、定期的な話し合いの機会を持ち、連携を続けていくこと
が大切なことと考えられる。
A-4
薬物療法の効果と環境調整の関連を示唆する ADHD 男児 3 例
大曽根邦彦
特定非営利活動法人 心身障害児者療育会きつつき会
目的 : 服薬と反抗挑戦的行動改善の前後関係に違いの見られた ADHD 男児 3 例を通して、環境調
整が薬物療法の効果に与える影響について検討する。
方法 : 3 症例について、環境調整と薬物療法の関連について検討した。事例提示に際しては保護者
の同意を得て、プロフィールの一部を改変した。
結果 : 症例 ① 小 2 男児 = 他害を含む反抗挑戦的行動を主訴に服薬開始するが効果なく、学校訪
問支援による環境調整を実施後に薬剤追加・変更され、主訴不適応改善。症例 ② 小 2 男児 = 他
害を含む反抗挑戦的行動を主訴に服薬開始するが効果なく、薬剤変更後も不適応改善は一時的で、
学校訪問支援による環境調整実施後に薬剤追加・増量され、主訴不適応改善。症例 ③ 小 1 男児 =
就学前に集団活動場面での他害を含む反抗挑戦的行動が顕著となり、就学直前に保育所訪問支援で
環境調整実施し、主訴不適応改善。環境調整を継続した就学後も衝動的言動が見られたが、服薬開
始により改善。
結論 : 症例 ①② は服薬効果がない段階では学校側に「薬を飲めば落ち着く」という認識があった。
症例 ③ は入学時点で「集団行動逸脱をいきなり叱らず、その行動の文脈(目的と背景)を見守る」
というかかわり方が学内で共有され主訴の再発はなかったが、衝動的言動は環境調整のみでは改善
が困難であった。学校・保育所等の支援者自身が環境調整・心理的支援の必要性を認識し、実践に
移した段階で、薬物療法の効果が確認されていた。
─ 32 ─
A-5
自閉性障害の易刺激性を有する小児及び青年を対象とした
リスペリドンの有効性及び安全性の評価 : プラセボ対照二
重盲検比較及び非盲検長期投与試験
勝 強志、高橋 昌義、白石亜矢子、山田 万穂、斎藤 隆行
ヤンセンファーマ株式会社
目的 : 自閉性障害の易刺激性を有する日本人の小児及び青年に対するリスペリドン(RIS)の有効
性を検証し、安全性を評価するための国内第 3 相試験を実施した。
方法 : 5∼18 歳未満の易刺激性を有する自閉性障害患者を RIS 群又はプラセボ群に 1 対 1 の割合で
ランダムに割り付け、RIS 又はプラセボを 8 週間投与した。その後、すべての被験者に RIS を 48
週間投与した。RIS は、1 日 0.25∼3.0 mg を 1 日 1∼2 回投与した。
結果 : 適格例 39 例をランダムに割り付けた。二重盲検期最終評価時における ABC-J の易刺激性(興
奮性)サブスケールスコアのベースラインからの変化量の最小二乗平均値(標準誤差)は、プラセ
ボ群­2.7(1.63)
、RIS 群­9.8(1.51)であった。RIS 群とプラセボ群の差[95% 信頼区間]は­7.1
[­11.6 ; ­2.6]であり、プラセボ群に比べて RIS 群で統計学的に有意な改善がみられた(ANCOVA、
p=0.0030)
。その効果は、長期投与期の最終評価時まで維持された。全般的に忍容性は良好であり、
安全性に関する新たな問題は確認されなかった。
結論 : リスペリドンは日本人の小児及び青年の自閉性障害患者の易刺激性の治療に有効であり、忍
容性はおおむね良好と考えられた。本試験の結果は、主要な海外第 3 相試験の結果と類似しており、
リスペリドンは自閉性障害に対する有効な治療選択肢の一つとなり得ると考えられた。
A-6
ASD 当事者と専門家が分析する強迫症状の様相
─ ASD と OCD の共存状態について ─
古荘 純一1)、磯崎 祐介2)
1)青山学院大学教育人間科学部教育学科、
2)青山学院大学大学院教育人間科学研究科教育学専攻博士後期課程
目的 : 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder 以下 ASD)の中核症状の 1 つに強迫症状が
あり、強迫性障害との相違が検討されているが、未だに曖昧である。今回我々は、ASD 当事者(以
下当事者)が診察に参画し、別の当事者の強迫症状の分析を試みた。
方法 : 当事者が診察に陪席することは、書類で診療機関の承諾を得、また発表においては倫理委員
会の承諾を得た。外来診察時に、まず陪席した当事者と主治医が、ASD 患者本人(以降患者本人)
および家族の承諾を得た後、患者本人の言動を詳細に記録し、当事者の体験を基に強迫症状に関連
した部分を抽出し検証する。抽出した現象に関して、当事者は患者本人に質問する形で、当事者自
身の強迫症状との類似点を分析した。
(2)規則を決めるのは自分を基準
結果 :(1)患者本人はそれぞれ異なる独自の規則を持っており、
とした患者本人である、
(3)何度も同じことを体験しても患者本人にとっては 1 回 1 回が真新しい
体験であり経験の獲得とならず規則として無数に構築される、
(4)経験に連続性がなく、学習を活
かせない為対処能力が向上しない、
(5)無数に構築された規則に患者本人自身が拘束される、など
の特徴が明らかとなった。事例は個人情報を秘匿し、特徴的所見に限定し当日提示する。
結論 : ASD の強迫は、
「自己脅迫(self-abuse)」の状況とも思われ、両者が共存することもあるも
のの、強迫性障害とまったく異質のものであると推測した。
─ 33 ─
B-1
幼児期早期の極低出生体重児における行動観察の検討とそ
の評価
山岡 紀子1)2)、高田 哲1)
1)神戸大学大学院保健学研究科、2)神戸常盤大学短期大学部
目的 : 低出生体重は、自閉症スペクトラム障害のリスク要因の一つであるとされている。支援が必
要な児の的確な発見には、問診票利用と共に行動観察の実施が有効との報告がある。適切な行動観
察法の検討と極低出生体重児の行動発達の特徴を明らかにすることを目的に、CHAT を用いた行動
観察を実施した。
方法 : 1 歳半から 2 歳までの正出生体重児 50 名、及び同修正月齢の極低出生体重児 39 名を対象に
実施した行動観察のビデオ映像より両群を評価した。CHAT の信頼性は、両群から各々 10% のデー
タを無作為抽出し 6 名の検者間信頼性を検討した。保護者には M-CHAT を 4 段階評価にした質問
紙調査を実施し、評価結果を比較検討した。
結果 : 1)CHAT 全 5 項目で 0.7 を上回る κ 係数値が得られ、十分な信頼性が示された。2)「原叙述
の指さし」
、
「まね」
、
「積み木積み」及び「目が合う」の 4 項目で、極低出生体重児は正出生体重児
より課題達成度が有意に低かった。3)正出生体重児群は全員 M-CHAT 陰性で、78% の児が CHAT
を 4 項目以上達成した。極低出生体重児群は 28 名が陰性、11 名が陽性であった。CHAT を 4 項目
以上達成したのは陰性児の 39%、陽性児では 9% であった。
結論 : 極低出生体重児は、正出生体重児と比較して視線の合致及び人が話すことに対する関心や理
解が少ないと共に、ふり遊びや巧緻性の発達に遅れがある可能性が示唆された。幼児期早期の発達
の評価には、構成的な行動観察方法は有用であると考えた。
B-2
9 歳になった極低出生体重児の WISC-III と CBCL の結果
─ 6 歳時データとの比較 ─
髙橋 美和1)、森岡由起子1)3)、饗場 智2)、榎本 雄志3)、生地 新4)
1)大正大学大学院人間学研究科、2)山形県立中央病院 小児科、3)NPO 発達支援研究センター、
4)北里大学大学院医療系研究科
目的 : 極・超低出生体重児(VLBW・ELBW 児)は不注意、多動、状況の読み取りにくさが認めら
れ、
就学期においては学習障害のリスクが高いと指摘されている。彼らへの発達支援にあたっては、
その特性を把握し、それに応じた具体的支援が求められる。今回は、9 歳となった VLBW・ELBW
児における WISC-III のデータから児の知的能力を報告し、また、親に対する質問紙から行動上の
特性についても検討する。
方法 : 対象は 2004∼2006 年に 1,500 g 未満で生まれた児 22 名(男 11 名、女 11 名)である。山形
県立中央病院にてフォローアップを受けている児の 9 歳時点の WISC-III のデータおよび、その保
護者に対して実施した CBCL(Child Behavior Checklist)について検討した。
結果 : WISC-III の平均値は VIQ=105、PIQ=94、FIQ=100 であった。男子において VIQ が PIQ よ
り有意に高かったが、下位検査ごとの比較や、出生体重別、在胎週数別の比較においては差が見ら
れなかった。WISC-III と CBCL の関連を検討した結果、VIQ と不安抑うつに負の相関、FIQ と攻
撃的行動に正の相関がみられた。また、算数と非行的行動に負の相関、数唱と社会性の問題・注意
の問題・非行的行動・攻撃的行動に正の相関がみられた。
結論 : 本検討においてはサンプル数が著しく少なく、結果を得ることができなかった。大会当日は
サンプル数をさらに増やし報告する予定であり、また、6 歳時点の WISC-III、CBCL のデータと 9
歳時のデータを比較検討し報告する。
─ 34 ─
B-3
デジタル健診課題を用いた早産児の乳幼児期における知覚
認知機能についての検討
小西 行彦1)、原田こと葉1)、小谷野 薫1)、西田 智子2)
1)香川大学医学部小児科、2)香川大学教育学部特別支援教育
目的 : 早産児の乳児期早期から幼児期にかけての視覚認知機能の発達的変化を、正期産児と比較す
ることで明らかにすることである。
方法 : 対象は発達に遅れがなく、頭部 MRI 上明らかな異常所見を認めなかった早産児(修正 8∼
12 か月 12 名、修正 3 歳 10 名)
。対照群として同年齢の正期産児が本研究に参加した。視線追跡装
置前に対象者を座らせ、デジタル健診課題を提示した。課題は ① 再注視 ② 音声と顔の統合 ③ 色と運動の統合 ④ 運動透明視 ⑤ バイオロジカルモーションの 5 つの課題から構成された。
結果 :「再注視」
、「色と運動の統合」
、「運動の統合」は我々が以前報告した正期産児と同様、早産
児においても両群とも高い通過率を示した。また正期産児では 3 歳児の選好性は 8∼12 か月児と比
べ有意に低かったのに対し、早産児では両群で差を認めなかった。正期産児で選好性を認めなかっ
た「音声と顔の統合」
、
「バイオロジカルモーション」は早産児でも選好性を認めなかった。
結論 : 正期産児と早産児では 3 つの課題における発達的変化に違いを認めた。
B-4
二分脊椎症児の算数技能障害の検討
若宮 英司1)、奥村 智人2)、中西 誠3)、栗本奈緒子2)、水田めくみ2)、
竹下 盛2)、三浦 朋子4)、福井 美保5)、畑中 マリ5)、玉井 浩5)
1)藍野大学、2)大阪医科大学 LD センター、3)関西大学大学院心理学専攻科、
4)清恵会病院堺 LD センター、5)大阪医科大学小児科
目的 : 二分脊椎症では、水頭症の有無にかかわらず高次脳機能障害の合併が報告されている。二分
脊椎症患児の算数技能の障害の実態を検討する。
方法 : ① 日本二分脊椎症協会の協力のもと、児の担任教師による Screening kit for academic intervention program(以下 SKAIP、日本 LD 学会)の質問票回答の第 3 因子 13 項目(算数関連項目)
、
59 名分を健常対照 410 名と比較検討した。② FSIQ/FIQ 80 以上の小学校 1∼6 年生の二分脊椎児
10 例(平均 FSIQ/FIQ 92.4±12.7、平均年齢 9.7±1.9 歳、女児 5 例、男児 5 例)を対象として、特
異的発達障害診断治療のための実践ガイドライン(以下ガイドライン)の計算検査を用いて、計算
障害の有無について検討した。
結果 : SKAIP の算数関連 13 項目合計スコアの平均は、健常対照群 15.9±5.6 に対し二分脊椎症児群
26.8±12.4(p<0.1%)と、二分脊椎症児群で算数困難が高い傾向を認めた。各項目ごとの検討でも、
二分脊椎症児では有意にスコアが高かった。また、ガイドラインの計算検査による評価で、10 名
中 5 名が計算障害と判定された。
結論 : 二分脊椎症児では、算数困難や計算障害の頻度が高いことが推定される。身体面だけでなく
学習を含む高次脳機能に対する援助が必要である。
─ 35 ─
B-5
ASD 児と AD/HD 児の認知機能の特徴
万代ツルエ1)、北山 真次2)、飯島 一誠1)2)
1)神戸大学医学部附属病院 小児科、2)神戸大学医学部附属病院 親と子の心療部
目的 : 知能検査場面において、自閉スペクトラム症(ASD)児や注意欠如・多動症(AD/HD)児
では課題に回答する際のプロセスが特徴的であるという印象があり、両者の認知機能に特徴がある
可能性が考えられる。本研究は、ASD 児と AD/HD 児について、WISC-IV の指標得点を比較・検討
し、両者の特徴的な認知機能を明らかにすることを目的とする。
方法 : 対象は、神戸大学医学部附属病院親と子の心療部にて、2011 年 8 月から 2015 年 2 月に
WISC-IV を実施した ASD 児 61 名(男児 52 名・女児 9 名)と AD/HD 児 31 名(男児 27 名・女児 4
名)とした。WISC-IV の合成得点・評価点は統計学的な標準得点に換算され、それぞれ、平均 100
(SD=15)
、平均 10(SD=3)であるので、1 標本の t 検定を用いて、期待値との差を統計学的に検
討した。
全検査 IQ(t=2.59)
、言語理解(t=2.38)、知覚推理(t=2.35)、処理速度(t=2.42)、
結果 : ASD 児では、
「単語」
(t=2.06)、
「知識」
(t=2.77)、
「行列推理」
(t=2.10)、
「絵の完成」
(t=2.65)、
「語音整列」
(t=2.11)、
「 符 号 」(t=2.05)( 各 p<.05) が 有 意 に 低 く、AD/HD 児 で は、 ワ ー キ ン グ メ モ リ ー(t=2.67,
p<.05)、 処 理 速 度(t=3.58)、「 数 唱 」(t=3.22)、「 符 号 」(t=3.22)、「 記 号 探 し 」(t=2.69)
(各
p<.01)が有意に低かった。
結論 : ASD 児は言葉の理解力や表現力、状況推測力、作業処理能力、短期記憶に保持された情報
をもとに知的操作を行う能力が弱く、AD/HD 児は単純な聴覚的記憶力と作業処理能力が弱いこと
が示唆された。
B-6
ADHD ならびに ASD 児の問題解決過程の評価に関する検討
濱田 香澄1)、岡崎 慎治2)
1)筑波大学大学院 人間総合科学研究科、2)筑波大学 人間系 障害科学域
目的 : ADHD ならびに ASD 児 4 名を対象に、問題解決過程の支援に向けた評価に対戦型問題解決
ゲームを用いる可能性について検討した。
方法 : ADHD・ASD 児 4 名を対象とした。課題は出題者があらかじめ決めた答えを回答者が出題
者のヒントピンによるフィードバックをもとに、正答ラインを推論することが要求されるゲームを
用いた。実施前に対象児及びその保護者に実験の説明を書面と口頭で行い、同意を得た。複数の難
易度を設定し、それぞれにおいて、回答者として回答を始めるまでの潜時、回答を終えるまでの時
間とともに、出題者として相手の回答にフィードバックを返すまでの時間を主な分析対象とした。
結果 : 回答者としては難易度の上昇とともに、達成時間の延長、達成ライン数の増加が認められた。
一方、出題者として回答者にフィードバックする時間は短い傾向にあった。
結論 : ADHD 児や ASD 児で日常生活や検査結果から推測される問題解決の相対的な弱さは、ゲー
ム課題のような興味を持ちやすい内容、枠組みが理解しやすい状況においては顕在化せず、むしろ
プランの精緻化やセルフモニタリングが行える場合があることが推測された。一方で、出題者とし
ては回答者の行為のモニタリングの不十分さから衝動的なフィードバックになりがちであることも
示唆された。これらはいずれも対戦型問題解決ゲームによる問題解決の評価と支援の可能性を示す
ものと考えられた。
─ 36 ─
C-1
当科で経験した摂食障害の 2 男児例
川合 裕規、福岡明日香、藤井秀比古
大垣市民病院 小児科
摂食障害の男性例は患者全体の 5∼10% と女性例に比べて頻度が低い。男児の摂食障害には併存
症として発達障害が認められることも指摘されている。今回、ガイドラインに沿った身体的治療に
加えて、発達特性を評価した摂食障害の 2 男児例を経験した。
症例 1 : 8 歳男児。腹痛、体重減少(減少率 33%)を主訴に来院。棟内行動制限と見守りの下での
食事量漸増を目的に入院となった。入院後の観察からコミュニケーションの苦手さが認められ、対
人関係のストレスと嚥下恐怖が影響しているのではないかと考えられた。発達評価では、WISCIII : 全検査 IQ 107/言語性 IQ 91/動作性 IQ 124 と個人内差を認めた。発達特性への対応についての
家族面接も併行し、体重増加を認め退院となった。
症例 2 : 13 歳男児。摂食量低下と体重減少(標準の 71.7%)を主訴に来院した。血液検査にて軽度
肝障害、T-Cho 高値、甲状腺機能低下を認めた。発達評価では WISC-IV ; 全検査 IQ75/言語理解
90/処理速度 91/知覚推理 63/ワーキングメモリー 79 と認知発達の偏りを認めた。入院観察の中で、
食後腹痛が発生するといった不安が固定化している様子が認められた。半夏厚朴湯の内服とともに、
食事量を少量から開始し食後腹痛が生じないことを確認する行動療法を施行し改善した。考察 : 今
回経験した 2 症例とも、ガイドラインに沿った身体的治療に加えて、発達特性を考慮した対応が有
効であった。摂食障害の男児例について文献的考察を含め報告する。
C-2
心身症状により不登校を呈した思春期例における臨床的検討
高崎 優和1)、寺川なな実1)、岩崎美奈子1)、緒方 文子1)、山崎 知克1)2)
1)神奈川県立汐見台病院小児科心のはぐくみ診療部、2)浜松市子どものこころの診療部
目的 : 不登校例の報告は多いが、性格検査を用いた検討では、串崎ら(2010)の P-F スタディに
よる報告など限定的であり、
心身症状を呈した症例の報告は非常に少ないようである。今回我々は、
心身症状により不登校を呈した思春期例の検討を実施したので報告する。
方法 : 2014 年 12 月∼2015 年 3 月に神奈川県立汐見台病院心のはぐくみ診療部を受診した 241 名
の中で、心身症状による不登校を呈した 4 例(年齢 12∼14 歳、男児 2 名、女児 2 名)を対象とした。
方法は P-F スタディと SCT(3 例にて実施)、WISC-IV(2 名のみ実施)、およびカルテ記載による
後方的視研究とした。各症例の主訴は、A(13 歳男児)「腹痛、人目が怖くてクラスに入れない」、
B(14 歳女児)
「気持ち悪くなることが不安」、C(13 歳男児)「頭痛、嘔吐」、D(12 歳女児)「腹痛、
嘔気による登校しぶり」である。
結果 : 4 例中完全不登校となったのは 2 例であり、両例ともに治療開始後に短時間の登校を再開で
きた。2 例では「吐き気がする(症例 B)
」「恥ずかしい、どうしよう(症例 A)」を理由として
WISC-IV を実施できなかった。P-F スタディでは 3 例で M ≧I および E-A 低値を認めており、不
安を感じてもそれを認識しにくく、不満を他者に向けることが少ないという結果を示し、心身症状
の発症に関係する性格傾向の存在が想定された。当日はさらに検討と考察を加えて報告する予定で
ある。
─ 37 ─
C-3
歩行障害を契機に診断された身体的虐待による PTSD の一例
石原 剛広
兵庫県立尼崎総合医療センター 小児科 (旧兵庫県立塚口病院)
目的 : 身体的虐待による PTSD を呈した女児が数年後に歩行障害を契機に救急受診した。小児科
医が日常診療で遭遇する身体症状の中に、通常の検査では原因のわからないものが少なくない。虐
待による PTSD の診断と治療、その転帰を報告することを通じて、日常診療で小児科医ができる
こと、専門施設との連携のあり方やその現状を再考する機会になればと考える。
結果 : 生育歴を聴取した結果、虐待時のフラッシュバックと人格交替現象を認め、PTSD と解離性
障害と診断した。支持的精神療法と神田橋処方を主とする薬物療法を続けながら、児の状態にあわ
せて心理教育とストレスマネージメントを行った。小児科外来で診療を継続したところ、治療開始
7 カ月目に PTSD とその周辺症状が回復した。
結論 : 本症例では薬物治療と支持的関わりによって、PTSD は回復の転帰を迎えた。今回は歩行障
害の出現を契機に診断に至ったが、自然軽快を含めて、潜在的に PTSD を呈している例が少なく
ないと思われる。複雑性トラウマに対しては、トラウマ処理を専門に扱う施設に紹介するなどの対
応が必要であるが、地理的・社会経済的な問題など現実的な制約がある。初期対応をする小児科医
は、そういった現状を念頭において診療し、地域の専門施設と連携をとりながら、現実的な対応を
していかなければならない。
C-4
小児科で臨床心理士がかかわった中学生症例の検討
福岡明日香、川合 裕規、藤井秀比古
大垣市民病院 小児科
目的 : 近年、精神病罹患危機状態(At Risk Mental State ; ARMS)
(Yung et al., 1996)という概念が
用いられるようになっており、中学生では精神病発症リスクを念頭においてかかわる必要がある。
しかし、小児科を受診してきた中学生に心理的援助を行う際、精神科に紹介すべきか否かの判断は
難しい。そこで、小児科で臨床心理士がかかわった中学生症例について報告し、小児科にて対応可
能な症例と精神科等への紹介が必要な症例の特徴を検討した。
方法 : 2011 年 4 月から 2015 年 3 月までの 4 年間に小児科外来および病棟にて臨床心理士がかかわっ
た 513 名のうち、
中学生 71 名(男児 32 名、女児 39 名)を対象とした。電子カルテの情報をもとに、
主訴、病名、臨床心理士のかかわり、精神科等への紹介の有無などを調査した。
結果 : 臨床心理士がかかわった中学生のうち、心理アセスメントのみを実施した患児が 26 名、小
児科にてカウンセリングを行った患児が 24 名、アセスメント後あるいは経過の中で精神科等に紹
介した患児が 21 名であった。主訴に腹痛・頭痛などの身体症状が含まれていた患児は全体では 35
名おり、そのうち精神科等に紹介した患児は 10 名(28.6%)であった。
結論 : 臨床心理士が小児科においてかかわった中学生の中には、身体症状を訴えて小児科を受診し
ているものの精神科的対応が必要な患児が一定数含まれていた。小児科にて対応可能な患児と精神
科等への紹介が必要な患児の違いについて、考察を加え報告する。
─ 38 ─
C-5
大阪府中央子ども家庭センター(児童相談所)一時保護所
(保護一課)の入所児童の健康管理について
小林 穂高
大阪府中央子ども家庭センター
目的 : 大阪府中央子ども家庭センターの一時保護所は、被虐待児・非行少年などを一時的に保護す
る施設で、2014 年度に保護一課には 515 名の利用があった。
演者は、第 106 回本学会で一時保護所に勤務する看護師の保健業務について検討した。その結果
(1)入所時の児童の身体面の健康状態のアセスメントが不足していることにより、入所後の子ども
の健康管理に困難が生じていること (2)被虐待児の外傷は、複数の診療科と医療機関を受診する
必要があり、児童・職員ともに負担が大きいことが明らかになった。
現在の一時保護所の現状と課題を検討することを目的とする。
方法 : 2014 年度の一時保護所における看護業務の内容、入所児童の病院受診状況、一時保護所内
で発生した健康管理の課題について後方視的に検討する。
結果 :
(1)
看護師(現在 1.5 名)の業務 : ケガや体調不良を訴える児童の観察・処置 2,420 件、病傷児
の医療機関受診の付き添い 348 件、与薬管理 2,596 件など多忙な業務であった。
(2)
病院受診は 348 件(初診 251 件、再診 97 件)。受診した診療科は、小児科 91 件、精神科 57 件、
皮膚科 43 件、婦人科 31 件、眼科 28 件、整形外科 27 件、耳鼻科 24 件、歯科 23 件など多岐にわたっ
た。精神科を除く身体科の初診は 209 件であり、身体疾患で受診を要する入所児童が多かった。
(3)
一時保護所内では感染症の流行、アナフィラキシーショックなどの問題が生じていた。
結論 : 支援者は一時保護された児童について、精神面だけでなく身体面のケアの重要性について再
認識する必要がある。
─ 39 ─
D-1
神戸市における発達支援・療育を主体とした開業診療所の
試み ─ みなとのこども診療所開設 1 年のまとめ ─
今西 宏之
みなとのこども診療所
目的 : 近年の障害児療育のニーズは大きいが、公的療育機関では受診制限や長期待機を強いられる
ことが多い。神戸市の公的療育機関でも対象は就学前中心であり約 1 年半の待機がある。そうした
中、発達支援・療育を主体とした開業診療所を立ち上げた。受診制限をできる限り排した療育の提
供を目指した当診療所開設 1 年のまとめの報告と共に受診者のニーズについて分析を行った。
方法 : 対象は 2014 年 8 月 1 日より 1 年間に発達相談で来院した 815 例。医師 1 名とスタッフ 9 名(OT
3、ST 3、PT 1、心理 2)で対応した。問診票の情報と実施した療育について検討を行った。療育
目標は医師、スタッフの評価と家族のニーズで設定を行い 1 クール 12 回(毎週、隔週、毎月)で
実施、終了後の希望があれば再待機可とした。
結果 : 初診時、就学前 315 例(39%)小学生 366 例(45%)中学生以降 134 例(16%)、学童期以
降の受診が多かった。身体障害の相談は 52 例(7%)に認めた。クールによる療育の実施は OT
254 例、ST 210 例、PT 9 例、心理 69 例であった。OT は知的障害の重症な例でニーズが高く、ST
は重症度に寄らずニーズがあった。単回相談で終わるケースも多かったが、OT、ST という職種に
出会ったことがない例が多かった。
考察 : 療育のニーズは小学校以降も高い。障害児の将来を決定する小学校高学年から中学生の時期
の療育は非常に重要と考える。
D-2
発達障害専門クリニックにおける注意欠如・多動性障害の
薬物療法治療転機について
田村 立、遠藤 太郎
新潟こころの発達クリニック
目的 : 我が国で注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療薬であるメチルフェニデート塩酸塩徐放剤
(MPH)およびアトモキセチン塩酸塩(ATX)が発売されてから 6 年あまりが経過した。さらに昨年、
ATX の内服液も発売されるなど、ADHD 治療薬の選択に広がりをみせている。今回我々は ADHD
治療薬の特性を把握することを目的に、それぞれの薬剤の治療継続率や中断の頻度などを調査した
ので報告する。
方法 : 2014 年 5 月から 2015 年 3 月まで新潟こころの発達クリニックを受診し、ADHD と診断され
た患者のうち、ADHD 治療薬を服用した患者を対象とし、MPH および ATX(カプセル・内服液)
における治療継続率および中断の頻度とその理由および 2 種類の ADHD 治療薬を服用した患者の
その後の転機を後方視的に調べた。
結果 : ADHD と診断された患者は 730 名で、MPH、ATX カプセル、ATX 内用液はそれぞれ 411、
184、70 名(平均 14.3、15.7、9.4 歳)
、治療継続率は 72、72、47% 、有害事象での中断割合は 11、4、
2% であった。ATX 内用液服用例のうち味が原因での中断が 24 名(34%)おり、その後は 29% が
MPH、71% が ATX カプセルを服用していた。MPH および ATX 両方を服用したことがある群は 83
名で、最終的に使用していた薬剤は MPH が 20%、ATX が 31%、MPH と ATX 併用が 31% であった。
結論 : MPH および ATX カプセルの治療継続率は 7 割だったのに対し、ATX 内用液は 5 割と低く、
中断原因の理由の多くが味であった。また有害事象での中断割合は MPH で高く、ATX は少なかっ
た。MPH、ATX 両方の服用を経験した群は、最終的に ATX に落ち着く割合がやや高く、有害事象
の差が影響を与えている可能性が考えられた。
─ 40 ─
D-3
国際大会出場に際して治療使用特例(TUE)申請を考慮し
た ADHD の 1 例
塩川 宏郷1)2)、小黒 範子2)、清水 純2)
1)筑波大学人間系、2)とちぎリハビリテーションセンター小児科
目的 : 注意欠如多動性障害(ADHD)を有する小児スポーツ選手のドーピング問題に関する議論を
提起することを目的とする。
症例 : 12 歳男児。クラブチーム内でのチームメイトに対する暴力行為、他チームへの試合中の暴言、
学校での問題行動を主訴に受診した。発達歴には特に問題はなく、幼児期から多動や衝動性が目立
つ児であった。小学校 3 年の時から近所のスポーツクラブチームに所属した。練習は熱心であった
が、競技に必要なものを忘れたり無くしたりする事が多く、試合中はよそ見をしたり見当違いなプ
レーが見られたりしていた。高学年になり他チームとの試合に出場することになったが、自分のミ
スをチームメイトに責められ逆上し、試合中にチームメイトを殴ったり蹴ったりした。また、控え
に回った試合では、相手チームの選手が怖がってしまうほどの暴言を試合中に浴びせたことに対し
苦情を申し立てられた。当院を受診し ADHD の診断で薬物療法を開始したところ行動面の問題が
劇的に改善した。クラブチーム内での評価も高くなり、中学校入学後国際遠征チームのメンバーに
抜擢され、国際試合に参加することになり、その際にメチルフェニデート使用が問題視された。
結論 : メチルフェニデートは試合を行う上での使用禁止薬物であるため、参加する大会によっては
治療使用特例 therapeutic use exemption(TUE)の申請を考慮する必要がある。
D-4
当センターにおけるてんかんと ADHD 併存例の薬物治療の
検討
荻田 佳織、金沢真希子、山口 直人、古山 晶子、高橋 長久、
大日向純子、長瀬 美香、中谷 勝利、米山 明、北住 映二
心身障害児総合医療療育センター 小児科
目的 : ADHD 患者にメチルフェニデートやアトモキセチンを使用する場合てんかん発作に注意す
る必要があると指摘されている。当センターにおける状況について検討した。
方法 : 当センターにおいて、てんかんと診断され、抗てんかん薬を内服し、更に ADHD 治療薬を
併用している 27 名を対象とし、脳波、内服薬等に関して診療録にて後方視的に検討した。
結果 : バルプロ酸とメチルフェニデートを併用している例が 10 名、アトモキセチンを併用してい
る例が 9 名だった。カルバマゼピンとメチルフェニデートを併用している例が 17 名、アトモキセ
チンを併用している例が 6 名だった。レベチラセタムとメチルフェニデートを併用している例は 1
名だった。ADHD の診断がなされ、
後にてんかんを発症した例が 10 名。脳波異常は焦点性や全般性、
様々であった。
結論 : てんかんを合併する可能性の有無を知るため、また衝動性や興奮等の情緒・行動の問題がて
んかんに関連した症状か否かを知るため、ADHD 治療薬を開始する場合、事前の脳波検査が望ま
しい。抗てんかん薬服用例でも ADHD 治療薬の効果は期待できる。てんかん治療中の ADHD 患者
において ADHD 治療薬の併用は考慮したい。
─ 41 ─
D-5
発達障害における睡眠障害の検討
澁谷 郁彦、中川 栄二
国立精神・神経医療研究センター 小児神経科
背景 : 発達障害では睡眠障害やてんかんの併存を認める事が多く、脳波異常を伴った睡眠障害に抗
てんかん薬の治療効果を認めることをしばしば経験する。
目的 : 発達障害児(者)の睡眠障害、てんかんと脳波異常、薬物投与の効果について検討した。
方法 : 2011 年 9 月∼2015 年 5 月まで当院てんかん・発達障害外来通院中の発達障害児(者)(ASD,
ADHD)を対象とした。睡眠障害、てんかんの有無、入眠時脳波、薬剤内服状況、薬物治療効果に
ついて診療録から後方視的に検討した。薬物治療効果は、薬物投与前後の家族による臨床全般改善
度(Clinical Grobal Impresseion-Improvement)を評価の指標とした。
結果 : 対象患者 202 例のうち男性 146 例(72.3%)
、女性 56 例(27.7%)で平均年齢 12.1±5.6 歳(228)
。脳波異常は 162 例(80.2%)
、睡眠障害は 69 例(34.1%)で認められた。睡眠障害の内訳は、
ASD 42 例(60.9%)、ADHD 23 例(33.3%)、てんかん合併 37 例(53.6%)、脳波異常 50 例(72.4%)、
脳波異常なし 10 例(14.5%)であった。入眠時脳波異常の分布は前頭部棘徐波 6 例(8.7%)、前頭
部高振幅律動波 8 例(11.6%)、前頭部高振幅鋭波・徐波 29 例(42.0%)、全般性棘徐波 3 例(4.3%)
であった。抗てんかん薬は 45 例(65.2%)に使用され、VPA、CBZ、CZP、LEV、LTG 等の併用が
有効であった。抗てんかん薬の併用により睡眠障害や日常生活の改善が認められた。
結論 : 発達障害の入眠時脳波異常を伴う睡眠障害では、抗精神病薬に抗てんかん薬併用投与で睡眠
障害が改善し、昼間の精神症状や行動異常の改善が期待できる。
D-6
自閉症スペクトラム障害児における行動問題と日中活動量、
夜間睡眠の関係
加茂 渉1)、大城 昌平1)、永井 幸代2)、野村 香代2)
1)聖隷クリストファー大学 リハビリテーション科学研究科 理学療法開発学、
2)名古屋第二赤十字病院 小児科
目的 : 本研究は、小児科外来通院中の自閉症スペクトラム障害(以下 ASD)児における行動問題、
日中活動量、夜間睡眠の関係を調査し、運動指導、生活指導時の考慮すべき要因を明らかにするこ
とを目的とした。
方法 : 名古屋第二赤十字病院小児科外来に ASD の診断を受けて通院中の学童期男児(IQ 70 以上、
症例 1 小 4、症例 2 小 2)を対象とした。2 症例に対し、広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度
(以下 PARS)、日本感覚インベントリー(以下 JSI-R)の評価、および 5 日間の actigrah 装着による
運動・睡眠記録調査を行った。
結果 : actigrah による 1 日平均総睡眠時間は 2 症例共に同学年定型発達児と比較して短い傾向にあ
り(症例 1 : 9.1 時間、
症例 2 : 8 時間)
、
1 日平均夜間覚醒時間は長い結果であった(症例 1 : 27.6 分、
症例 2 : 27.2 分)
。1 日平均日中活動時間は(症例 1 : 14.7 時間、症例 2 : 15.2 時間)であり、特に
違いはなかった。
PARS は 2 症例ともに高値であり(症例 1 : 20 点、症例 2 : 29 点)、JSI-R では感覚に偏りがあり
(症例 1 : 198 点、症例 2 : 164 点)
、特に前庭感覚、触覚、聴覚、視覚に顕著であった。
結論 : PARS の結果が高値で感覚に偏りが強い児では総睡眠時間が短く、夜間覚醒時間が長い傾向
があり、睡眠が障害されている可能性が推測された。ASD 児の睡眠の問題は、神経過敏性と関係
しているとの報告もあり、ASD 児の睡眠の質向上のためのアプローチには、各個人の感覚統合の
特性を把握した生活指導が必要であると思われる。
─ 42 ─
E-1
震災報道をきっかけに子どもの心療内科および児童精神科
への受診に至った「落ち着きのない」5 歳男児の症例
榊田 理恵1)2)
1)市立横手病院、2)興生会 横手興生病院
目的 : 東日本大震災(以下震災)は私たちの生活面、精神面に多大な影響を与えた。子どもたちの
発達にとっても同様と思われる。
今回、
震災での影響が比較的少なかった秋田県において報道がきっ
かけで受診に至った 5 歳男児の症例を体験した。
(症例 A)5 歳男児。初診時主訴 ;(母)不眠、2 時間以上の入眠時の独語。全 IQ93 であったが、
診察中も落ち着きがなかった。保育園からの情報では、奇行が目立ち、便器をなめるなどがあった。
プレイセラピーを半年間試行したが、まとまりがなく、拡散している印象だった。就学後は学校で
は落ち着いているという母親の話だったが、学校からの情報では女性教師の胸に触るなどあった。
震災報道による PTSD の可能性もあり、本人に CBCL を施行した。トータル数値において内向、
外向、総得点でいずれも臨床域に達しており、EMDR を施行したが、効果は見られなかった。
結果 : 診断を再検討するために、脳 MRI、脳波を予約した。脳波において全般性棘徐波多発みられ、
専門医にコンサルトしたところ、全般性てんかんと診断された。
結論 : 震災報道への反応、継続していた落ち着きのなさなど見られていたために、多様な鑑別診断
があげられる症例であった。
E-2
気仙沼地域と連携・恊働した発達障害のある子どもの家族
支援の経験
古川 恵美
畿央大学
目的 : 東日本大震災から 4 年が経過した。被災各地では復興事業が懸命に続けられている。2011
年 12 月から 2015 年 3 月まで、
「気仙沼市における子どもの育ちを支えるプロジェクト(日本小児
神経学会東日本大震災支援委員会)
」の一員として気仙沼市を継続して訪問できる機会に恵まれた。
被災地以外に居住する支援者が地域に寄り添った回復の支援を行うために、地域と連携・恊働して
行ってきた支援について報告する。
方法 : 気仙沼地域の教育・保健医療にたずさわる教職員、保健師等の専門職が希望し実施した支援
の内容について整理・分類を行った。
結果 : 2011 年度は、高等学校と特別支援学校の教職員を対象とした発達障害のある生徒やその保
護者の理解に関する講演会で、生徒がとる行動を特別支援教育の視点からとらえた。その後 2014
年度まで、高別相談や幼稚園・保育所、小学校等の巡回相談が主となった。研修会の希望として自
尊感情やペアレントトレーニング、LD 等の専門的な内容があった。個別のペアレントトレーニン
グ 3 年間にわたり実施した。また地域で発達障害のある子どもの家族支援にかかわる方々が希望す
る支援を聞き取り、その支援をコンサルテーションした。
結論 : 被災前から気仙沼地域に居住し、発達障害のある子どもや保護者の支援を行ってきた教員や
保健師等の人材を、地域資源としてとらえることが重要である。その上で連携・恊働した支援のあ
り方をさらに探っていきたい。
─ 43 ─
E-3
パペットを介在させたこころのケア
─ イスラエルシュナイダー小児病院方式並びにヒブキプロ
ジェクト方式による被災地でのパペットセラピーの実践
原 美智子
全国療育相談センター 小児科
目的 : 被災地の学童・幼児にパペットを介在させたこころのケアを行い、レジリエンスの促進、 感
情表現の促進、不安の軽減を図る。
方法 : 以下の I と II のパペットセラピーの手法を習得し、宮城県の東日本大震災被災地にある小学
校 1 校、2 か所の保育所において、2011∼2014 年に実践した。
I. 小学校低学年の児童に、イスラエルシュナイダー小児病院チームが独自に開発した、未完のパ
ペットを完成させ不安を発言させるという手法を用いて、その全過程を通して子どもたちに寄り添
い、こころのケアを行った。II. 保育所 2 か所において、戦災地域でメンタルケアを行っているイ
スラエルヒブキプロジェクトの方式1)により、Russ 社製の犬のぬいぐるみ(ヒブキ)を幼児たち
に渡して、その世話を頼むかかわりを通して、こころのケアとレジリエンスの促進を図った。
結果 : I. 各自が制作したパペットの口を通して、地震や津波の恐怖体験を語り、心の解放が図れた。
パペット制作過程においても感情表現の促進が得られた。II. 幼児たちは自分用に渡された悲しい
顔をした犬のパペットの世話を引き受け、犬を慰め、励まそうとする色々な反応を即座に示した。
また他児と犬を交えて楽しく遊ぶ様子が見られた。
結論 : パペットには移行対象等、相手に安心感を与える多くの機能がある。Me and Not Me 機能は
不安や恐怖体験を表出させた。優越感情はレジリエンスを促した。パペットの介在によるかかわり
はこころのケアに有効であった。
文献 : 1)Sadeh, A. & Hen-Gal, S. : Young Children’s Reactions to War : A Survey and assessment of an innovative intervention. Pediatrics, 57 : 113-122, 2008
E-4
被災地で活動する対人援助職のセルフケアに関する情報提
供媒体としての web サイトの可能性に関する検討
実方 由佳1)、奥山眞紀子2)
1)東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科、2)国立成育医療研究センター
目的 : 本研究は被災地で活動する対人援助職のセルフケアをサポートするための web システムの
あり方の検討を目的としている。被災地では継続的な支援のため多くの人的資源が必要となる。そ
の一方、対人援助は二次受傷などに代表されるように、その職務に携わる人々に自らの心のエネル
ギーの消耗を強いる構造があることが知られている。そこで、当地で日常的に援助活動に携わる方
たちはもちろん、当地外から支援に駆けつける人々に対しても、広く情報や知識を提供する上で
web システムは有効に活用できると考えられる。
方法 : 上記の背景を踏まえ、
対人援助職のセルフケアに関するホームページ「支援する “思い” を “重
い” に変えないために」
(URL : http://www.shiensya.jp/、以下「本 HP」)を開発し、モニター調査(n=33)
を行った。
結果 : モニター調査の結果、本 HP のユーザビリティ評価は比較的高く、とりわけ対人援助職や社
会福祉を学ぶ学生の評価が統計学的に有意に高いことが明らかとなった。またコンテンツの利用数
とユーザビリティ評価「役立ち感」
(rs=.36、p<.05)および「信頼性」(rs=.36、p<.05)に正の相
関があることから、利用することが出来れば、対人援助に関わる人々に有用な情報を提供できる可
能性があると考えられた。
結論 : サンプル数が限定されているため結果の一般化は出来ないまでも、本 HP は対人援助職のセ
ルフケアに少なからず貢献し得ると考えられた。今後は広報活動も含めた利用環境の整備が課題と
いえる。
─ 44 ─
E-5
被虐待児童への愛着形成を目的とした動物介在療法(ドッ
グプログラム)
∼情緒障害児短期治療施設の実践における臨床的検討∼
海野千畝子1)、石垣 儀郎2)、山本 秋子2)、横井 尚子2)
1)兵庫教育大学、2)中日青葉学園若葉館
本研究では、情緒障害児短期治療施設の被虐待児童を対象とした動物介在療法(ドッグプログラ
ム)を愛着形成という側面から臨床的に検討した。対象は 6 歳から 12 歳の小学生女児 6 名である。
ドッグプログラム前後において児童の情緒と行動の様相を比較した。
ドッグプログラム(DOG-P)構成は、グループプログラムと個人プログラムに分かれており、
個人プログラムにおいては、筆者が犬一匹(筆者の所属犬)、施設職員 1 名いる中で、被虐待児童
への心理療法(インテーク面接、思春期解離体験尺度(A-DES : adolescence dissociation experience scale)の変法、生育史聴取、EMDR(eye movement desensitization and processing)を行った。
結果、本来の施設側の治療に加えてドッグプログラムを行った介入群の児童らと施設側の治療の
みの介入無群の児童らとの群間比較で、児童らの愛着形成を阻害する解離症状の数値は、介入群が
ドッグプログラム前後で有意な差を認めた。また、生活面において、施設指導員、施設心理士らの
行動観察等から、
介入群児童は介入無群児童に比べて早急に愛着形成が構築することが認められた。
犬との安全な皮膚接触を通した触れ合いを含むドッグプログラム(DOG-P)が、被虐待児童ら
の解離された感覚を統合し、必要な愛着形成を促進することが示唆された。
E-6
里子─ 里親の包括的なアセスメントに基づく医療機関での
里親支援に関する研究
引土 達雄1)、水木 理恵2)、羽田 紘子3)、前川 暁子1)、若松亜希子4)、
柳楽 明子1)、辻井 弘美1)、中野三津子1)、竹國沙妃子1)、山本 映絵1)、
水本 深喜1)、奥山眞紀子1)
1)国立成育医療研究センター、2)児童養護施設 暁星学園、
3)カピバラあかちゃんこどもクリニック、4)子どもの虐待防止センター
目的 : 全 9 回の医療機関での里親支援プログラムを実施し、探索的にプログラムの内容やその効果
を評価することを目的とした。
方法 : 里子については 9 つの視点(身体的健康、知的能力、発達障害、自己像、精神症状、対人関
係と情緒、逸脱行動、集団適応、生活技能)からアセスメントし、里親については、7 つの視点(ア
タッチメント、モチベーション、アイデンティティ、レジリエンス、里子への対応、実親との面会、
家族全体)から認識を問いアセスメントする。里親支援プログラムは 1∼3 回目に、心理士が里子
のアセスメントを行う。その情報に基づき 4 回目に医師が診察を行い、診断、助言を行う。5、6
回目は里親家族のアセスメントを心理士が行い適宜助言を行う。7 回目は、里子、里親家族のアセ
スメント情報全てをふまえ、里親、心理士、医師により、それまでの総括と対応の助言をし、8、9
回目に心理士が養育相談を行う。
結果 : 9 世帯の里親家庭が参加し、プログラム実施前後に里母の回答した CBCL の値から、プログ
ラム終了後、里子の問題行動が減少していると里母が認識していることが示唆された。プログラム
評価においては、70% 以上の里親が自分、家族、里子に関する新しい視点が得られ課題が整理さ
れたと回答した。
結論 : 医師や心理士が協働し詳細に里子─里親家族をアセスメントし、診断に基づいた助言をする
ことで、里親の里子への見方に客観性を与え、問題の整理がなされ、子どもの問題行動が減少する
可能性が示唆された。
─ 45 ─