リン酸態リンの簡易測定キットの評価 公益社団法人 山形県水質保全協会 西塚 千佳 1. はじめに 「水循環基本法」と雨水の利用を進める「雨水利用推進法」が成立するなど、健全な水循環の 為の具体的な方策が国でも進められている。水資源の保全のためには窒素(NH4・NO2・NO3)だけ ではなく、富栄養化に大きく関わる生活排水(特にみなし浄化槽)からの放流量も少なくない「リン 酸」について、河川での排出量削減やリン酸資源としての循環等の観点から今後「リン酸」の測 定が必要と考える。 また、山形県では、美しい山形・最上川フォーラム主催による「身近な川や水辺の健康診断」 と題して、最上川とその支流の水質調査を平成 14 年から継続して開催しており、平成 25 年度は 100 団体、258 地点(内最上川 20 地点)の調査が行われた。そのうち平成 25 年度の最上川にお けるリンと窒素の調査結果は図-1 のようになっている。併せて山形県が調査している最上川の BOD の調査結果は、毎年「環境白書」にて公表されている(図-2)。 リンの排出については、浄化槽と生活排水からの排出量が無視できない値になっていることか ら、浄化槽の処理機能の検証が今後必要と考え、現在市販されている「リン酸態リン」の簡易測 定キットについて、その有効性を検証する。 3 2.5 1.5 1 図-1 最上川の水質縦断 0.5 変化図(窒素・リン) 3.5 B O D ( m g / L ) 3.0 1 山 市 2 大 蔵 村 戸 沢 村 庄 内 町 庄 1 内 町 2 酒 田 市 山 市 村 高 窒素(NH4+NO2+NO3) 村 1 畠 町 2 川 西 町 長 井 市 長 1 井 市 長 2 井 市 3 白 鷹 町 6 高 畠 町 5 米 沢 市 4 沢 市 米 3 米 沢 市 2 米 沢 市 1 沢 市 米 沢 市 米 0 (資料:身近な川や水辺 の健康診断報告書) リン酸態リン 環境基準値 平成22年度のB O D 値 過去5年間( H 17~H 21)の最大値 過去5年間( H 17~H 21)の最小値 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 新 糠 田 野 橋 目 ( 幸 橋 米沢 来 (高 市 長 橋 畠 ) 井 ( 町 黒 橋 南陽 ) 滝 (長 市 橋 井 ) (白 市 鷹 ) 町 ) 長 崎 大 谷 橋 地 (中 碁 橋 山 点 (河 町 橋 北 ) (村 町 山 ) 市 ) 堀 内 橋 (舟 形 町 ) 高 屋 (戸 沢 村 ) 砂 両 越 羽 (庄 橋 内 (酒 町 田 ) 市 ) m g/L 2 図-2 最上川の水質縦断 変化図(BOD) (資料:山形県環境白書) 2.調査対象と調査方法 (1)調査対象 山形県内の浄化槽のうち、人員比 0.6 前後の合併処理浄化槽 36 基を調査対象とした。浄化 槽の処理方式の内訳は、①構造基準型(嫌気ろ床接触ばっ気方式)10 基、②窒素除去型 (BOD20mg/L 以下、T-N20mg/L 以下)12 基、③窒素除去型(BOD15 または 10mg/L 以下、 T-N20mg/L 以下)14 基であった。 (2)調査方法 公益財団法人日本環境整備教育センター開発のリン酸態リン測定キット(以下測定キット) と株式会社共立理化学研究所のパックテスト WAK-PO4(以下パックテスト)の測定方法の違 いから、浄化槽排水を現場で測定した場合の使いやすさと精度について評価を行う。 浄化槽処理水のリン酸態リンを測定し、公定法(JIS K 0102 46.1 モリブデンブルー吸光光 度法)と比較し、測定結果が測定範囲の最大値を示した場合、または測定範囲を超えた場合 は、試料を 5 倍希釈した上で、測定精度が保たれるか否かを検証する。 3. 結果・考察 (1)測定方法の比較 測定キットとパックテストの測定手順を表-1 に示す。どちらも JIS K0102 46.1 のモリブ デンブルー法の発色原理に基づいた比色法を用いている。測定時間はともに 1 分と短時間で あったが、その前段階で添加する試薬がパックテストは1種類であるのに対し、測定キット は2種類であった。さらに、パックテストは試料を直接チューブに吸い込むのに対し、測定 キットは 2mlの試料をシリンジから試験管に入れて振り混ぜるという点からも操作がやや 煩雑になり、現場での迅速かつ簡易的な測定にはパックテストのほうが使いやすいと思われ た。最終的に濃度の決定はどちらも標準色との比色で行うため(写真-1、2)、読み取りの誤 差は生じやすいと思われる。 表-1 測定キットとパックテストの測定手順 <測定キット> ① シリンジで試料2ml を試験管に採取 ↓ ② 試薬Aを4滴添加、攪拌 ↓ ③ 試薬Bを専用の採取器で分取し、添加、攪拌 ↓ ④ 1分後に色見本と比較し、濃度を読み取る <パックテスト> ① 試料を専用カップの線まで入れ、試薬を4滴添加 ↓ ② ふたをして混合 ↓ ③ チューブの空気を押し出し カップに入った試料を吸い込み、振り混ぜ ↓ ④ 1分後に標準色と比較、濃度を読み取る 写真-1 測定キット 写真-2 パックテスト 測定範囲は測定キットが 0~2.0mg/L、パックテストが 0.1~5mg/L で、測定キットの方が 測定範囲が狭く、全試料 36 件のうちパックテストは 3 件、測定キットは 29 件が測定範囲を 超えたため、試料を希釈しなければならなかった。 標準色の測定目盛りはパックテストが 0.1、0.2、0.5、1、2、5 mg/L となっており、濃度 が高くなるにつれて間隔が大きくなっているので、その分誤差も大きくなってくると思われ る。一方、測定キットは 0.1~0.5 までは 0.1 刻み、0.7~2.0 までは 0.3 刻みとパックテスト より細かくなっているので、公定法の値により近づくと思われた。 (2)公定法との比較 公定法の結果と比較した結果を図-3、4 に示す。平均値は測定キットで 2.86mg/L、パック テストは 2.78mg/L でほぼ同じ値となったが、公定法の平均値 3.90mg/L より低い値を示した。 しかしながら、相関係数は測定キットと公定法で 0.8702、パックテストと公定法で 0.8932 と どちらも高い相関があることが分かった。 7.0 7.0 y = 0.6931x + 0.1504 2 R = 0.7572 y = 0.5888x + 0.48 2 R = 0.7979 6.0 パックテスト (m g/L) 測定キット (m g/L) 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 0.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 0.0 1.0 公定法 (m g/L) 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 公定法 (m g/L) 図-3 測定キットと公定法 図-4 パックテストと公定法 さらに、公定法の測定結果を値の低いものから高いものへ並び替えたグラフを図-5 に示す。 リン酸態リンの濃度が高くなるにつれて、公定法より低くなる傾向が強いことから、平均値 の低下へ繋がったと思われる。公定法の値により近づくと思われた測定キットだったが、パ ックテストと同等の精度となったことは、今回調査した浄化槽はリン酸態リンが高いものが 多く、多くの試料で希釈が必要となったことが影響していると思われる。また図-5 のグラフ から、濃度が高くなるほど比色の測定目盛の間隔が大きくなる影響で、同じ数値が検出され るようになり、特にパックテストで顕著に現れている。 9.0 リ ン 酸 態 リ ン ( m g / L ) 公定法 測定キット パックテスト 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 並び替え№ 図-5 公定法測定結果並び替え 4. まとめ 測定キットとパックテストの双方において、公定法と比較し高い相関を持つことが裏付けら れた。単価的にはパックテスト 100 円/本に対し、測定キットについては 50 円/回で、測定キ ットのほうが経済性は高い。それぞれの長所と短所を踏まえた上で、現在の浄化槽の維持管理 業務に取り入れる事も可能と考えられる。 浄化槽の保守点検業務・法定検査等において、公共用水域を意識した環境教育や今後の浄化 槽の役割を確実なものにするためにも、BOD の測定と併せてリンの考え方を含めた方策も必要 と考える。 5. 終わりに リン酸態リンの公定法による測定結果を処理方式別に精査してみると、構造基準型(嫌気ろ 床接触ばっ気方式)と窒素除去型(BOD20 mg/L 以下)が 3.1~4.0 mg/L でピークを示し、窒 素除去型(BOD15 mg/L 以下)については、4.1~5.0 mg/L でピークを示した(図-6)。この ことから、処理方式の違いでリンのピークに違いがあることは読み取れた。 硝化脱窒の関係でリンの濃度が処理方式別に違いが出たのか、要因が何かまでは調査に至っ ていない。しかし、循環方式をとっている窒素除去型(BOD15mg/L 以下、T-N20mg/L 以下) の処理方式については、循環水量や T-N と酸化還元の状況、汚泥の状況など浄化槽の維持管理 内容と合わせて解析し、これらの関係と要因の追及について今後の課題としたい。 12 10 件 数 8 嫌気ろ床 B O D 20窒素除去型 B O D 15窒素除去型 6 4 2 0 0.0~1.0 1.1~2.0 2.1~3.0 3.1~4.0 4.1~5.0 5.1~6.0 6.1~7.0 7.1~8.0 リン酸態リン (m g/L) 図-6 処理方式別リン酸態リンのヒストグラム 参考:美しい山形・最上川フォーラム 身近な川や水辺の健康診断 H25 年度報告書 山形県 平成 23 年度版環境白書
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