フランス語 フランス語 第1 高等学校教科担当教員の意見・評価 1 前 文 26 回目となった平成 27 年度大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)の「フラン ス語」は、受験者数 142 名(前年度 134 名)、平均得点は 100 点満点換算で 74. 14(同 77. 85)、最高、 最低点は、それぞれ 100 点、21 点(同 100 点、19 点)という結果であった。 受験者数は 142 名で、過去5年間で最低数(151 名→ 142 名→ 151 名→ 134 名→ 142 名)だった昨 年の数からは微増、3年前と同じ人数になった。英語以外の外国語「ドイツ語」「フランス語」「中 国語」「韓国語」の中で唯一受験者数が増加したが、増加傾向にあると言える状況ではない。一昨 年度に述べられているように「今回は少し増加したといっても、個別の大学が出題する二次試験に 際して、英語以外の外国語での受験はかなり厳しく制限されており、その点が変わらない限り、高 等学校におけるフランス語選択者の増加は見込めず、その結果として、センター試験のフランス語 受験者数が増加することは難しいであろう」。センター試験の「フランス語」受験者の動向に密接 に結びついている「フランス語」履修校の現状については、近年の報告で述べられている。 次に「フランス語」の平均点に関しては、過去5年間の推移は71. 19 → 65. 84 → 75. 29 → 77. 85 → 74. 14 であり、過去5年間の中で今年度は平均的な点であった。フランス語の平均点は常に英語より上回って いるが、母集団の数・質の違いを考えると、平均点のみで問題の難易度を述べることは適切ではない。 その内容が、基本的知識はもちろん身に付けてきたフランス語力を識別できる問題になっていて、その 得点が実力を表すものになっていることが必要である。 「英語」以外の外国語の学習に、様々な制約が ある中、地道に取り組んでいる高校生たちにとって、センター試験における「フランス語」は一つの大 きな目標であることはまちがいない。 報告の方針 今回の報告は、上記の点を踏まえ、次の3点を分析の中心とする。 1受験者の実力差を判定できる試験となっていたかどうか。知識があり、深く考えた結果、不正解 になってしまうことがないか、ということを特に検討したい。少人数の集団が対象であるだけ に、その点に関しては大人数の科目以上に要求が強いと考える。 2特定な要素に偏らない、総合的な学力を問う問題であったかどうか。 3高等学校の学習範囲から逸脱しない問題であったか。 2 試験問題の内容・範囲など 今年度のフランス語の問題に関して、全体の形式、配点にほとんど変化はなかった。事前に過去 問を解いて準備をしている受験者にとっては、戸惑いが少なく、安心して、受験できたと思われる。 全体を通して語彙の選択は基本ルールを抑えたものであった。問われている派生語や語形変化に ついても基本を問う問題でありながら実力差を識別できる良問であった。受験者は準備に力をそそ ぎ受験に臨んでいるわけだが、深く取り組んだ結果かえって正解に到達できない、というような問 題にならないことを切に望む。 コミュニケーションフランス語として要求される力を問う問題が増えていることも記録してお く。会話体の中でどのようなレベル(公的度)のフランス語を身に付けるべきかが問われることに ―437― なろう。極端な文章体、口語体に偏らないバランスのとれた出題をお願いしたい。 つづ 第1問 フランス語における綴り字と発音の間の規則性の理解を問う問題である。扱われている 語彙は全て非常に日常的なものばかりで、高等学校3年間の学習で十分に対応できる。問1は 音節内で同一子音の連続に先立つ e の発音、問2は母音間の s の発音についての規則に基づけ ば対応できる。問3では、語尾の c の発音の有無が問われているが、この点は規則的に処理す ることができない。個々の単語に出会うたびに確認が必要であるが、扱われている単語は日常 的なものばかりで、問題なく対応できる。問4は、m で始まる単語に接頭辞 im- が付いた例が 2 のみで、他の三つと区別できる。問5については、扱われている単語があまりに平易である。 問6については、動詞 faire の活用の音読練習が確実になされていれば、それほど難しくはな い。問7は、基本的なリエゾンの規則を習得していれば、容易に正解にたどり着ける。音声に よらずに発音の知識を問うのは難しい課題であるが、比較的早い時期に発音の規則性を習得す ることで、初見の文章を読むことができ、学習者の意欲向上に意義があるといえる。 第2問 成句、慣用句表現の理解を問う問題である。それぞれの慣用句を構成する語句は比較的 平易なものであるだけに、思い込みではなく確実に意味を確認する必要がある。問1は「この アパルトマンを自由にお使いください。」の意味で、バカンスの留守中だけアパルトマンを貸 し出そうとしているのであろうが、発想的に高校生には難しい。ただし、選択肢を見ていく と、正解にたどり着くのはそれほど困難ではない。第2問全体に言えることであるが、以前の 問題に見られたようなあいまいな選択肢が姿を消し、問題としては取り組みやすくなったと言 える。その意味では問2は少し難易度が高いかと思われたが、結果は必ずしもそうではないよ うである。6つの問いの中で、問3はいささか異質な印象を受ける。結局のところ、単なる形 容詞の反意語にすぎないが、むしろ不安を感じるかもしれない。問4については、問題文と正 解の 4 が逆であれば、工夫ある問題になったかもしれない。問5については、提示された文だ けを見ると意味の把握に戸惑いを感じる可能性があるが、選択肢を見ると救われる。問6で は、douter de の意味を知っていれば、迷うことなく正解にたどり着くので、あえて慣用句表 現とも言えないのではないか。 第3問 発音に加えて、形容詞の変化、派生語の知識、動詞の活用などを扱ういわば総合的な問 題である。問1の 1 cuisse は目にする機会が比較的少なく、他の3つの選択肢に比べると難し いが、bruit はすぐに思いつくはずなので、問題は生じない。問2は public の女性形は語尾が -que になることは基本的な知識である。問3では、仮に下線部に入れる語をうっかり vive と したとしても、選択肢には当てはまるものがないのでその段階でミスに気付くであろう。問4 は、問3とは逆に形容詞から副詞を作ることが求められているが、問3からの流れで容易に正 解は見つけられる。問5の mordre は使われる状況がいささか特殊なので、高等学校現場では あまり扱われておらず、活用に自信が持てない可能性がある。問6では、半過去の活用を問う ものであったが、出題の mourir は適当であったか。問7の convaincre の過去分詞は難易度が 高いが、convaincre の活用形 Il me convainc. を導き出すほうがより難しいと思われる。むし ろ、être convaincu の形は目にしているであろう。 第4問 文法的な知識を問う問題である。問1については、選択肢の中に de があれば迷う可能 性があるが、この4つの中では正解は明白である。問2の解答にたどり着くためには、二つの 文法事項が問題となる。一つ目は、動詞 pouvoir は ne のみで否定文となり得るという点と、も う一つは疑問詞+不定法の構文を理解しているかどうかである。問3は、会話文の中で Ça sent bon! の表現を学んでいるが、文法項目としては教えられていない可能性があり、難しく 感じたかも知れない。問4は、「人をつかまえておく tenir 人 par」の表現を思い出せば、問題 ―438― フランス語 なく解答できる。純粋に文法問題と言えるかどうか疑問であり、例えば、「妹の手をつなぐ」 を仏作文の形で出題されると難しい。問5 voici, voilà が代名詞とともに用いられる表現で、 その際の代名詞は直接目的補語の形をとる。Me voilà au sommet! 等の例文はなじみがあるが、 関係節につながる形はあまり目にしていない。問6では、dire +不定法「~すると言う」の表 現は難しかったと思う。mangé があるので複合時制だと気付くが、比較的目にすることが多 い現在分詞複合形を思い浮かべてしまうだろう。問7は定番問題で、迷うことなく答えられ る。問8では、選択肢が問2と類似している上に、後続の動詞も共通である。問8の場合は、 関係詞節が問われていることに気付くと、 1 と 3 に絞られ、問題となっているのは関係代名詞 であること、tout 単独では先行詞になりえないので、正解は 1 となる。 第5問 会話文の完成問題である。問1から問5まで、特に難解な表現も含まれていない。問1 二つ目のAの発話を見ると、代名詞 en を用いた文で、文末の un が数詞であることに気が付け ば、名詞を含む文 4 であることは明らかである。問2 avoir faim と restaurant を関連付ける と、容易に答えられる。問3では、それぞれの選択肢が、会話の内容と相いれないことが一目 瞭 然 で あ る。 4 の monde が gens と 同 義 で あ る こ と は 必 須 の 知 識 で あ る。 問 4 で は、 rembourser の意味を知っているかがポイントである。「払い戻す」の意味に加えて、「人に返 金する」の意味を理解していれば、正解を見つけるのは容易である。問5 Bの最初の発話で 用いられている「Si +直説法半過去」は、相手を誘う構文である。初級段階の半過去の用法で は取り上げられていないことが多いが、知っておくべきものである。ただし、この段階ではど の選択肢も正解となり得るが、次のBの発話における Justement の意味が「まさに」であると 理解すると、会話の流れが見えてくる。 第6問A 「ふろしきの使い方」という単なる絵を用いた問題と言うより、日本固有のものをフ ランス語で説明させるという新機軸の問題である。一見すると分かりにくそうに見えるが、四 つの説明文に共通に用いられている coin, nouer, nœud が理解できると容易である。高校生に とって必ずしも身近とは言えない「ふろしき」を取り上げている点も新鮮であった。 第6問B 「フランスの村」絵画コンクールの応募要項である。いかにも農業国のフランスらし いテーマである。応募条件、問1の選択肢の中で、いくらか難易度が高いと思われる語彙・表 現を挙げてみると、Sont exclues、résider、liens、remporter などである。これらが理解でき ると、問題なく答えられる。問2において、gare か rivière の選択には違和感を覚える。村を 象徴する景色をイメージすると rivière を考えてしまうが、vieille horloge とはどう考えても結 びつかないので、gare となるであろう。問3では、œuvre が dessin と同意であることが理解 できれば、容易な問題である。 第7問 テーマは名前prénomである。近年日本でも名付けが非常に独創的になってきているが、 フランスでもそうだというのは受験者にとっても新たな発見であったろう。Fourchette, Yoga などが名前の起源になっている例があるとは、驚きであった。問題文中の語彙に関しては特に 難易度の高いものは見当たらなかったが、構文として、文の構成が非常に論理的で、Or, Finalement 等の副詞の使い方も受験者にとって勉強になったと思う。13 行目 Certains とそれ に呼応する 15 行目 D'autres, 18 行目 à la façon dont, 22 行目 d'un côté とそれに呼応する de l'autre, 26 行目から 27 行目にかけての Sans doute が文頭に出ることでそれに続く文中で主語 と動詞の倒置がおこるなど、日常の授業において指摘されているものである。日々の継続的な 努力が重要であるという点を十分に示している。 第8問 和文仏訳の問題で、これまでの問題傾向として日本語とフランス語の間の発想の違いが 問題のポイントになることが多かったが、今年に関しては比較的素直な問題であった。5問 ―439― 中、4つまでが会話調の日本語なのが特徴的であったが、そのことが正解を導きだすのに影響 があるとは思えず、逆に少し違和感を覚えた。問2においては、 5 の法・時制が条件法現在で あることに気付くと、文頭の En が 3 の現在分詞 mangeant と結びついてジェロンディフを構成 し、条件節となることは明白であろう。問3の、4分の3が trois quarts なのは難易度が高い が、どう考えても他の選択肢では使えるものはない。quart は時刻の表現で学習する基本語彙 であるが、4分の1の意味はすぐに出てこない可能性があるが、お菓子の quatre-quarts を思 い浮かべるとイメージはわく。問4では感嘆文の語順が少し難しいが、文頭の語が示されてい るので取り組みやすい。 4 の eue は avoir の過去分詞が先行する chance と一致した結果である が、eu の性数の一致はそう頻繁には目にしないので、迷った受験者がいたかもしれない。問 5の jurer は少しハードルが高いが、動詞の活用形はこれだけなので特に問題はなかったと思 われる。 3 結 び 全体を通して、フランス語受験者層の幅広さに応じた識別力を示す問題が出題されていた。基礎 的な学力が的確に測られ、受験者の努力が報われるような出題が今後とも期待される。 さらに中長期的にお願いしたいのは、予定される入試改革の中で、英語以外の外国語に果敢に取 り組む高校生を取り巻く環境が改善されること、少なくとも維持されることである。入試改革検討 中の現在はまだ発表されていない英語以外の外国語についても、今後実態を十分に把握した上で、 対処を具体化されていくよう強く期待する。そのための多くの手続きへの協力は惜しまない。「共 通一次」に始まる全国統一能力測定について、英語とともに選べる外国語として多言語に取り組ん できた国の姿勢は、正しいものであった。中等教育の学習内容選択の際に、高等教育への道が開か れていることは何よりの条件である。大学入試の基であるセンター試験の今後にも、多言語の取り 組みは大きな特徴となろう。 多くのフランス語履修校で、第一外国語として学ぶのは高等学校からになろうとしている今、フ ランス語選択者は英語・フランス語の二つの言葉の知識を持って大学での専門教育に進もうとして いる。社会にとって非常に有益なこうした人材がより多く育っていくことを支えるためにも、大学 入試改革での取り組み教科に英語以外の多言語について具体化されることは欠くわけにはいかない。 今回もセンター試験問題に関して、高校生の現状を踏まえた意見を述べ、作題委員の方々と有意 義な話し合いをする貴重な機会を与えていただいたことを心から感謝する。日本中の全ての高校生 を対象としたセンター試験に「フランス語」が存在していることは、フランス語選択者にとって大 きな力となっている。今後も受験者数に左右されることなく、センター試験において「フランス 語」も含めた英語以外の外国語が確かな位置を占め続けていくことを願っている。 ―440―
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