納豆から生分解性プラスチックの成分を取り出す 中学校 第1分野 高等学校 1 自然と人間 化学Ⅱ 生活と物質、生物と物質 ねらい 生徒にとって身近な納豆から生分解性高分子化合物を取りだし、その性質を理解するとともに、環 境問題についても理解を深める。 2 準備するもの ・ビーカー(50,100,200,1000mL) ・ブフナーろうと ・薬さじ ・ろ紙 ・ガラス棒 ・ガラス棒 ・ホットプレート ・炭酸水素ナトリウム ・シャーレ ・ピンセット ・クエン酸 ・吸引ビン ・pH万能試験紙 ・塩化ナトリウム ・エタノール 3 ① 実験方法 200mLビーカーに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液70mlを加えて、1000mLビーカーの湯煎で約70℃に 加熱する。 ② 納豆を薬さじ(大)で2杯を入れ、軽くかき混ぜる。 ③ 70℃程度で、泡が出なくなるまで加熱したら、吸引濾過し、ろ液を200mLビーカーに入れる。 ④ ろ液にクエン酸を加え、pH試験紙で確認しながらpH3~4になるまで調整する。 ⑤ 塩化ナトリウムを加え飽和させる。 ⑥ 100mLビーカーに、エタノール30mLを取り、ガラス棒でかき混ぜながら、⑤の溶液を少しずつ加え る。 ⑦ 粘性の高いポリマー(高分子化合物)が得られるので、半分程度加えたら、新たに別の100mLビー カーにとったエタノール30mL中に残りの溶液を加える。 ⑧ ⑦で得られたポリマーはなるべくガラス棒に巻き取り、50mLビーカーにとる。 ② 精製するため、少量の水に溶解させ、再度エタノール30mL中に加えて沈殿させ、その沈殿をシャ ーレに取り出す。 ②飽和炭酸ナトリウム水溶液に入れた納豆 ③気泡が出なくなるまで加熱撹拌 ③吸引ろ過したろ液 ⑧エタノール中に入れるとガラス棒にからみつく 4 実験結果 5 留意点 (1) 飽和炭酸ナトリウム水溶液で抽出した溶液は非常に粘性があるので、普通のろ過はできない。 吸引ろ過装置がなければガーゼでこすなどの方法で固形物を取り除くとよい。 (2) クエン酸を加えると、残っている炭酸水素ナトリウムと反応して二酸化炭素が発生し、かなり 発泡する。粘性の大きい溶液なので、一度に少量ずつ加える。 (3) 塩化ナトリウムは、沈殿が残るまで加えればよい。 (4) エタノール中に入れると、最初はガラス棒に巻き付くが、加える溶液の量が多くなると器壁に ついたり、ガラス棒からはがれてしまう。エタノール濃度が下がらないよう、2回に分けて操作し ている。エタノール濃度が小さくなると、透明感のある粘性物質がからみつくが、エタノールを 加えるとガム状の高分子物質が得られる。 6 解説 (1) 納豆の特徴であるネバネバはポリγ-グルタミン酸と呼ばれる高分子化合物である。アミノ酸の 一種であるグルタミン酸は下記の構造を示すが、一般に、タンパク質中ではα位のカルボキシ基 がペプチド結合(アミノ酸どうしの縮合反応により生成する結合)に使われている。一方、この ポリγ-グルタミン酸はγ位のカルボキシ基とアミノ基が脱水縮合した物質である。(下図参照) (2) ポリγ-グルタミン酸を炭酸水素ナトリウムで中和して可容化する。水酸化ナトリウムなどの強 塩基を使うと、加水分解してグルタミン酸になってしまう。ポリγ-グルタミン酸は親水コロイド なので、多量の塩化ナトリウムを加えることにより塩析される。納豆から取り出した直後のポリ γ-グルタミン酸は、ガム状の粘性のある状態だが、乾燥すると固くなる。浸水コロイドなので、 水には溶ける。 (3) このポリγ-グルタミン酸の特徴は、自然界では多くのアミノ酸がL型であるのに対して、D型 のアミノ酸を多く含むことである。納豆中の酵素がこれを加水分解すると、まずD-グルタミン 酸が生成し、それが水溶液中でL-グルタミン酸となり、うまみが増す。L-グルタミン酸ナトリ ウムは昆布から得られる「うまみ」成分で、化学調味料に含まれている。ヒトはL-グルタミン 酸ナトリウムにはうまみを感じるが、D-グルタミン酸ナトリウムには感じない。 (4) ポリγ-グルタミン酸は生体に入ってももちろん害はなく、自然環境においては微生物の作用で 分解される。 (5) 詳細な研究によると、納豆の粘着物質はポリγ-グルタミン酸だけではなく、レバンと呼ばれる フルクトース(果糖)の重合物からなる。ポリγ-グルタミン酸はその構造のために保水性が高く、 植物性コラーゲンとして化粧品や石けんに利用されている。 (6) 生物が作り出す物質なので、生分解性に優れており、現在いろいろな方面での利用が検討され ている。
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