TPP のここに注目!-拡大する FTA ネットワーク

2015 年 10 月 26 日作成
第 50 号
TPP のここに注目!-拡大する FTA ネットワーク
大和住銀投信投資顧問
部長
経済調査部
門司 総一郎
前回に続き「TPP のここに注目!」です。今回は今後の日本の自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)
ネットワーク(以下、FTA ネットワーク)の拡大について考えてみます。
FTA を締結した相手国の市場では関税や規制の面で第三国の企業に対して優位に立てるので、FTA ネ
ットワークは大きければ大きいほど有利です。またある国に対して FTA を締結している国の間では関
税撤廃率が高いなど、自由化の度合いが高い方が有利となります。
主要国・地域の FTA カバー率(貿易全体に占める FTA 発効相手国との貿易の比率)を比較すると日本
は 5 ヵ国・地域中最低です。量だけではありません。これまでの日本の FTA において関税撤廃率の最
高は対豪州、対フィリピンの 88.4%と低く、質の面でも日本は他国の後塵を拝していました。
主要国/地域のF TA カバー 率
63%
韓国
40%
米国
34%
中国
EU
31%
22%
日本
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
出所:通商白書(2015年)、署名済、仮署名を含む
TPP の発効により日本の FTA カバー率は 35%程度に高まる見込みです。また TPP における日本の関税
撤廃率はこれまでの最高を大きく上回る 95%です(他国は 99-100%ですが..)。このように TPP は、安倍
晋三政権下において日本の通商戦略の軸足が農業保護重視(守り)から企業の海外進出重視(攻め)にシ
フトしたことを示すものです。
TPP の大筋合意がきっかけとなり、日本の FTA ネットワーク構築は加速すると見ています。理由は 2
つありますが、1 つは TPP 参加国の増加です。TPP の大筋合意を受け、これまで参加するかどうか様子
を見ていた国々が動き出しました。こうした国々が TPP により不利益を被る可能性があるためです。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に
基づくもので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げ
ます。
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市場のここに注目!
2015 年 10 月 26 日作成
例えば韓国ですが、これまで FTA ネットワーク構築で大きく日本を引き離していました。しかし、
TPP は韓国が他国と結んできた FTA に比べて自由化度が高いため、TPP 域内で韓国企業は日本企業に比
べて不利な条件での活動を余儀なくされることになります。
タイも TPP による不利益が予想される国です。
「ベトナムには繊維・縫製産業で、マレーシアには電
器産業で競争力を失う」(タイ商工会議所大学のタナワット教授、日本経済新聞、10 月 7 日)など、同
じ東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に対しての競争力低下が指摘されています。同様の懸念はフィリ
ピンやインドネシアにも当てはまりそうです。
最もデメリットが大きいのは中国かもしれません。既に人件費の高騰などからベトナムなどに製造
拠点を移す動きは始まっていますが、TPP はこの動きを加速させると思われます。外資系企業だけでな
く、中国企業も製造拠点を積極的にベトナムなどに移しつつあるようです。
経済に対する政府の関与が強く TPP 参加の条件を満たすのには時間がかかる中国は別ですが、それ
以外の国々は早期の TPP 参加を目指すと思われます。
「2020 年頃には 16 ヵ国に増える」(浦田秀次郎早
大教授、日経、10 月 10 日)との見方もありますが、そうなれば日本の FTA カバー率は自動的に上昇し
ます。これが日本の FTA ネットワーク拡大加速を予想する理由の 1 つです。
もう 1 つは、日本が参加する他の FTA 交渉の加速です。例えば日本と欧州連合(EU)は 2015 年末まで
の EPA 合意を目指していますが、ここまで余り進捗はありません。しかし、TPP の大筋合意をきっかけ
に交渉が加速すると見ています。欧州の商品が日本市場で劣勢に立つ可能性があるからです。
例えばワインですが、TPP によりワインの輸入関税は撤廃される予定です。そうなればフランスやイ
タリアのワインは米国、豪州、チリなどのワインに対して税制上不利になります。そうなると EU は、
欧州企業が不利益を被らないように、EPA 交渉を加速させる必要が出てきます。
日中韓 FTA 交渉なども TPP の大筋合意をきっかけに加速する可能性があります。このように TPP の
ようなメガ FTA には 1 つが決着すれば他の交渉も進むというドミノ倒し的な効果があります。これが
今後日本の FTA ネットワーク構築が加速すると見ているもう 1 つの理由です。
以上述べたような理由で、今後日本の FTA ネットワーク構築は加速すると見ています。2013 年に公
表された日本再興戦略が掲げる「貿易の FTA 比率を現在の 19%から、2018 年までに 70%に高める」との
目標は、これまでほとんど進展していなかったのですが、TPP の大筋合意により達成できる可能性が出
てきたと考えています。
以上
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に
基づくもので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げ
ます。
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