上 場 体 験 談

上場体験談
ティーライフ株式会社
代表取締役社長
植田伸司
1.
【会社紹介・沿革】
ティーライフ株式会社(以下,当社)は静岡県島田市にありまして,事業内容は健康茶,健
康食品,化粧品等の通信販売を専業で行っています。資本金は3億 5,600 万円(平成 24 年
3月末現在)で,売上は H24/7 期で 45 億円。従業員数は 86 名で平均年齢が 30.4 歳と,割
と若い社員が大勢いる会社です。
創業の経緯ですが,私はもともと通信販売事業に関わっていたわけではなく,小松製作所
(現 コマツ)の営業マンとしてフォークリフトの担当をしていました。当時,
「1トンのフォ
ークリフトは1トンの荷物を持ち上げる」と,どの会社も同じ性能でしたので,営業に行く
とどこの会社からも,安くしろという見積もり競争でした。そんな状況ですから,喫茶店に
行くと同業の営業マンがさぼっている状況でして,勿論今は違うと思うのですが,実際,私
もさぼっている口でしたので,自分で商売をやるならこういう「人を使う」商売はダメだ,人
を使わない商売が良いなと考え,通信販売を選びました。ちなみに,商品にお茶を選んだの
は,モノの値段がよく分からないモノが良いと思い,お茶を選びました。
そういうわけで,約 30 年前に自分の自動車を売って資本金にして,通信販売事業を始め
たのですが,当時はまだ通信販売がまがいモノを扱っていると思われているような時代で
したので,全然売れませんでした。そこで,その当時,普及し始めたティーバッグに目をつけ
まして,加工して商品の形を変えれば売り先が限定されて販売できるのではないかと思い,
ティーバッグ加工の機械を買ってきました。そして,ティーバッグ加工した粉茶を,冬はス
キーが好きでしたのでスキーを滑りながら民宿に行き,夏はスキューバダイビングが好き
でしたので海に潜りにいって,そのついでに民宿で売ってみたら非常によく売れました。そ
のような感じで,冬は長野県,新潟県のスキー場を,夏は伊豆半島,伊豆七島,房総半島と回
っていき,ティーバッグ商品が売れるということが分かったものですから,お茶屋さんにテ
ィーバッグ加工をすると商品が売れるようになるよと教えてあげたら,
「じゃあ,うちの商
品も加工してくれ」とティーバッグの加工の仕事が入るようになりました。当時は,そうい
ったことをやっている会社がなかったものですから,宣伝もしてなかったのですが,あちら
こちらから仕事が増えて,会社設立して1~2年で 30 人ぐらいの社員を雇う会社になり
ました。やはり,人のやってないことをやるのが,一番メリットがあるのだと思います。
その頃は,勿論アウトソーシングという言葉もなく,ティーバッグの加工機械を持ってい
る会社は大手にはあったのですが,大手は「ライバル会社の仕事なんか受けるものか」とい
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う意識がありました。対して,当社はそんな意識もなく,どこからでも受託して加工するの
が強みでした。
その結果,気づけば,大手のリプトン,伊藤園,山本山といったところからも注文がくるよ
うになったのですが,その結果,安くしろ安くしろ,と自分が一番嫌っていた見積もり競争
になってしまいました。もともと,それだけはやりたくないからと独立したのに,また同じ
ようになってしまいましたので,
「じゃあ,自分で販路を作らなくては」とそこで通信販売事
業に本格的に取り組みはじめたのです。
まず,ティーバッグの委託加工で資本もある程度貯まっていましたので,色々なところで
パンフレットを作って売ったのですが,最初は緑茶中心であまり売れませんでした。そこで,
カタログの隅のほうにプーアール茶を掲載しましたところ,それが非常に売れたのでプー
アール茶を売ることにしました。
プーアール茶はダイエットのお茶ということで,どこで売ったら一番売れるかなと考え
まして,やはり「魚を釣るには魚のいるところで釣らないといけないな」と考えました。そし
て,どこが一番釣れるだろうかと考えました際,それは養殖場で魚を釣ることだろうと考え
まして,ムトウさん(現 株式会社スクロール)のところに行って,当社のパンフレットを荷
物の中に入れてもらいました。そうすると先方はアパレルですので,太っていては服が似合
わないからダイエットしたいという需要と合致しまして,おかげで売り上げがどんどん伸
びていきました。
同様に千趣会とかニッセン,セシール,ベルーナといった大手通販でも全部やりまして,
すごく売れて,たくさん注文が来たときには注文が受け切れないようになる,今思えば夢の
ようなこともありました。
2.
【上場検討から上場まで】
その当時から色々考えまして,これから 30 億円くらいの売上は簡単になるけれど,50
億円,100 億円となると社長一人の力では出来ないから,組織を作らなくてはいけないと考
えました。では,組織を作るにはどうすれば良いかと考えまして,山の上に上場という旗を
たてて,そこを目指そうと社員を引っ張っていくのが良いのではないかと,考えました。
そういう形でワンマンの会社で組織も何も無かったのですが,トーマツさん(監査法人)
に行ってどうしたらいいですかと聞きましたら,ではショートレビューというのをやりま
しょうと言われまして,上場には何が足りないのかを書き出してくれました。そうすると約
200 項目足りないと言われまして,その 200 項目を1つずつ潰してきたのが現状です。
結局,4年でその項目は潰して上場準備も出来たのですが,そうしたら中国毒餃子事件が
ありまして中国の商品は全部ダメだという話になり,結果,売上が3割くらい下がってしま
いました。さらに,追い打ちをかけるようにリーマンショックになりました。
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そうすると,業績は右肩下がりになってしまいまして,
「これはちょっとダメですね,もう
少し頑張りましょう」となりまして,そんな状況が2年くらい続きました。そうやって,少し
ずつ伸びて結局上場まで7年かかりました。
上場準備については,証券会社にお願いすれば彼らは専門家ですので,どうすれば良いか
指導をしてくれます。勿論,その費用は支払わなければいけませんが。そういうことで,教え
てもらいながら上場準備をやっていくということだと思います。
当社の場合は,上場の直前に準備した申請関係書類が,30 センチとか 40 センチとかあ
ったのですが,それらに対してまず証券会社から質問が来ました。それに回答していくのが,
とても大変でした。そのあと,証券取引所からも同じような質問が来まして,内容は同じよ
うな内容で,ニュアンスがちょっと違ったりするのでそれをどう回答するのか,そういう対
応力を見ているのだと思います。大きなことから小さなことまで様々な質問に,黙々と答え
ていきました。
そうやって,晴れて上場したときは,緊張して大変だったのですが,いろんなところから
色々な花が届いて,オフィスも華やかになりとても嬉しかったです。
3.
【上場のデメリット】
上場するかしないかはその人の価値観,人生観,経営哲学だと思いますので,簡単にメリ
ット・デメリットと言うのは難しいのですが,まずデメリットについて述べます。
正直,デメリットのほうが多いです。短期的なメリットはそんなにありません。よく,資金
は集まるでしょうと言われますし,実際に資本は厚くなりますが,それは銀行でもどこでも
貸してくれる時代ですので,あまり大きなメリットにはならないと思います。
デメリットとしましては,上場前もお金がかかりますが上場後もお金がかかります。上場
を維持していくのに年間 3,000~4,000 万円は経費がかかると思います。各社のやり方次
第だとは思いますが,例えば IR 担当も置く必要も出来てきますし,監査法人の費用もかか
ります。
それから色々なことが慎重になりすぎてしまい,管理型の会社になってしまう,自由にで
きなくなってしまいます。何故かと言いますと,経営会議にしても取締役会にしても全て議
事録を作って,第三者の人が全部しっかり分かるようにしなくてはいけない,責任体制をは
っきりさせて,書類もたくさん残さないといけなくなるので大変です。併せて,資本家から
の監視が強くなりますので好き勝手にやることができなくなります。
また,今は純資産価格よりも時価総額のほうが低くなっています。例えば,トヨタ自動車
の PBR が 0.9 くらいで,それは土地代や機械代や預金代しか価値がない,ブランドや技術
力が何も評価されていなくて純資産分しか評価されていない。株式市場がそれくらい冷え
込んでいますので,自分が持っている株を市場に出すと,損をしてしまいます。そういう意
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味で,お金がたくさん欲しい人には上場は向いていないんじゃないかなと思います。
4.
【上場のメリット】
メリットとして,優秀な人材が集まるようになります。これは間違いなくなります。上場
後,一部上場会社の方が何人も履歴書を送ってきて,私を雇って下さいというのもありまし
た。来年の新卒採用は既に終わりましたが,今までは女性社員が多かったのですが今年は男
性の応募が多くなりました。上場企業になったことで,男性からの見られ方が変わったのだ
と思います。
また,M&A の提案が非常に多くなりました。上場前の 10 倍くらいです。M&A の話は,
上場会社にまず持ちこまれます。それは,M&A の仲介をする人が,この会社は M&A がで
きるだけの資本があるのか,というのを公表書類を見ることで分かるからです。また,お金
があるだけではダメで,買収した会社に派遣する社員がいないといけません。買収した会社
を経営できるだけの人材がいなければ買収しても仕方がなく,そういう余裕があるのは上
場会社のほうが多いのです。それに,M&A で売る側も上場会社のほうが良いです。それは,
給与水準が最初は低いかも知れませんが,その会社はだんだんと親会社と一緒の給与水準
になってくるからです。どうしてかと言いますと,親会社と子会社の人事異動が出来るよう
な形にしていないとシナジー効果が出ませんので,どうしても同じような給与水準に持っ
ていかざるを得なくなるからです。そういうことを買収される会社の社員も知っています。
ちなみに,上場会社の平均給与は四季報を見れば分かります。
今,金融円滑化法案の期限を控え,M&A 市場も売り物が多くなっています。おそらく,今
後もっと案件は出てくると思います。また,今後上場会社に求められるという国際会計基準
も,M&A に有利に働くのではないかなと思っています。
その他に,社員が上場して意外と喜んでいます。友達とか両親から良い会社に入ったねと
言われ,そうすると社員も嬉しいですし,実際良い会社に入ったと思ってしまうようです。
上場会社でなくても良い会社はたくさんありますが,上場会社になって,新聞に社名が出て
きたりすると良い会社に入ったなと錯覚したりするのかなと思います。
あと,当社は田舎の会社ですのでアドバルーンをあげた状態でないと情報が入ってこな
いのですが,上場後はアドバルーンを上げた状態でして,新製品を売り込みに来たり,提携
の話があったりと,いろんな情報が入りやすくなりました。
また,海外の会社と話をするときにも,日本の上場会社ですと言うと凄く信用されます。
先日,中国の会社と話をしました際に,当社のことを上場会社ということで非常に信用して
いるんだなと,先方の話し振りで感じました。
加えて,上場しているとガバナンスをしっかりしなくてはいけないので,そういうガバナ
ンスの体制が上場を通じて,しっかりしました。会社の弱いところを客観的に指摘されて,
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教育システムがどうなっているのか,どういうキャリアアップの教育を社員に示していく
のか等を説明できなくてはいけませんでしたので,組織というものについて説明できる体
制になりました。
中小企業は,仕事を人につける,そうすると,その人が辞めると仕事が分からなくなって
しまいます。それに対して,仕事を組織につけると人が辞めても組織で仕事が回っていきま
す。そういう点で,組織で仕事をしていく形にしていかないと不安定な会社になってしまい
ますので,上場するときには組織に仕事をつけるようにしておかないといけません。
5.
【上場するとは】
上場会社になるということは,会社が社長のものではなくなるわけで,社会のものになる
ということです。私は,インターネットは革命だと思っていまして,ネットで調べれば相当
のことを調べられますし,米国の大学の授業なども生で見ることができます。こうやって,
情報を一人占めできなくなる,会社の姿も全部見えてしまうようになってきますと,ネット
の普及によって会社は社会的存在にならざるを得ないと考えています。そうであるならば,
会社を早く社会的存在にしてしまったほうがアピールできるんじゃないか,そう考えて上
場しました。
社員は社長のベンツのためには頑張りません。社員のために,機会平等と公平な評価,安
心して働ける会社,事業に参画している手ごたえが感じられる会社をつくらないといけな
いと思っています。
今は,内向き志向の時代ですので,山の上に旗をたてて社員をそこまで引っ張っていく,
つまり社員に目的意識を持たせて内向き志向から解放してあげることは社長の仕事です。
社員に対して,こういう風になろうと夢をはっきり提示して,あそこまでいこうと社員の気
持ちを引っ張っていくことが,社長の最大の仕事かなと思っています。
売上 30 億円くらいまではワンマンでもやっていけますが,その先は組織的にやらない
と会社を大きくすることはできないのではないかと思います。私は中小企業の社長ですが,
色々なことに対して能力があるほうだと思っています。しかし,社員にも私と同じように何
でもやれと言ってもやれないですし,今の若い人は,
「何でもいいからやれ」と言うよりも,
やる仕組みと道筋と道具を与えていく,こういう風にやりなさいと働く枠組みを作ってあ
げて,その枠組みの中で頑張りなさいと言ってあげると一生懸命働きますが,逆に枠組みが
出来ていないと今の若い人は不安だらけでやれません。
上場するために,予算制度や目標管理といった枠組みを社内で作っていって,例えば,予
算はこれだけ使って良いといった枠組みの中で働くほうが,今の若い人にとっては働きや
すいと実感しています。
私は,目先の利益ではなく会社を継続させていくにはどうすれば良いのかと考えたとき,
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上場というものが一つの舞台として利用できるのではと考えました。
現状のままで良いならば上場する必要もないですし,上場したからといって確実に伸び
る保証もありません。上場も一つの手段として利用する方法はありますよと言っているだ
けです。上場することは大変ですが,上場という手段を使って会社の方向を示していくこと,
そして世の中に貢献するために社会からお金や人を集めていく,そういう会社であるなら
ば上場を目指すのも良いと思います。
そして,お金を広く集めて,儲けがでたらお返しする。当社も,配当を予定していますので,
銀行から借り入れをして金利を支払うことに比べても,非常に大きな金額を社会に還元し
ているということになるわけです。
【上場に関するこぼれ話】
上場することになりました,と言うと「なんだ、金儲けするのか」と言われて社長の金儲け
と勘違いされることがありました。でも,お金が欲しかったら上場なんてしません。株式上
場とは何なのかを分かっていない人が未だに多いのが現状でして,その点は証券市場の人
はもっと啓蒙してほしいと思います。
--------------------------------------------------------------------------注意事項等
本上場体験談は,平成 24 年8月 10 日に静岡県浜松市において,株式会社大阪証券取引所と独立行政法人
中小企業基盤整備機構の共催で開催された株式上場セミナーにて講演したものをまとめたものです。当社の
現状や目的をご理解していただくために可能な限り講演そのままにしておりますが,安全性を保証するもの
ではありませんので、投資を行う際には,投資家様ご自身の判断において行っていただきますようお願い申し
上げます。
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