院内感染対策マニュアル

院内感染対策マニュアル
白鷹町立病院
2002 年8 月1 日改訂
院内感染防止の考え方
院内感染防止は、病院という特殊環境、すなわち様々な疾病が集中し、集団生活を営
む中で各種の治療が実施される状況で発生する感染症に対する予防事業である。治療は、
感染源を少なくする意味で伝播阻止に役立つが、あくまでも予防に重点をおくことが重
要である。不適当な予防事業から生じる院内感染は、患者に不必要な苦しみと医療費の
支出を強いるとともに、病院にも過大な負担を及ぼすことに留意すべきである。
A.定義
院内感染症の定義は、「病院における入院患者が原疾病とは別に、新たに羅患した
感染症、又は医療従事者が院内において羅患した感染症」とする。
B.感染源
感染源は、微生物(細菌、ウイルス、真菌、原虫など)を保有し、これを人に伝播す
る感染発症者、保菌者、汚染された器具、機械などである。
C.感染の成立
病院の環境及び医療業務の状況によって、患者及び医療従事者は感染源に曝露され
るが、その微生物の病原性、量と患者などの感受性のバランスによって感染が成立す
る。近年、入院患者の高齢化、免疫抑制剤の頻回な使用、侵襲の大きい医療の導入な
どのために易感染性患者が増加し、これが感染の成立を容易にし、院内感染対策の重
要性を増加させている。
D.院内伝播の様式
(環境)
不完全な清掃、整頓、消毒及び滅菌により、播布された起因微生物が残存、繁殖
し空気を介して、又は接触によって感染が起こる。
(医療業務)
医療従事者の汚染された手指が媒介となって感染が起こる。不完全な診断方法に
より感染源を認識できなかったために感染が起こる。例えば、重症のMRSAの患
者の診断が遅れた場合など。感染しやすい診療方法、例えば長時間の外科手術やカ
テ-テル留置によって感染が成立する。以上のような伝播様式がどの程度に起こっ
ているかは、各病院の状況による。
E.院内感染の発生報告と調査(サ-ベイランス)
院内感染発見のためには、確実な報告システムの確立とその機能強化すなわちサ-
ベイランス網の確立が必要となる。このサ-ベイランスは、報告システムの確立、院
内感染が発生した場合の報告義務化、積極的な起因微生物及び感染ル-トの検索及び
報告された感染症についての必要な疫学調査及び起因微生物の分離、同定等が求めら
れる。
129
白鷹町立病院院内感染対策委員会要綱
白鷹町立病院
2004 年7 月1 日改訂
(目的)
第1条 白鷹町立病院における院内感染を予防することを目的として、院内感染対策委員
会(以下委員会と略す)を設置する。
(組織)
第2条 委員会の委員及び委員長は病院事業管理者が指名する。
(協議事項)
第3条 委員会は次の各号に掲げる事項を協議するものとする。
(1)各職種、各職場の予防対策実施にあたっての指導、助言あるいは勧告。
(2)職員の教育に関すること。
(3)抗生物質の適正使用に関すること。
(4)その他感染予防に関すること。
(召集)
第4条 委員会は、委員長が召集し、月1 回開催するものとする。ただし委員長が必要と
認める場合は、臨時に委員会を開くことができる。
第5条 委員長は、必要と認めるときは委員以外の者を委員会に出席させ、意見を聴取す
ることができる。
(協議事項の処理)
第6条 委員会における協議事項の内容については、原則として職場長会議に提出するも
のとする。
130
院内感染対策総論
【Ⅰ】標準予防策の確認
方法
背景にある考え方
標準予防策
感染経路別
予防策
すべての湿性生体物
質は感染の危険性が
ある。
感染対策の第一原理
は感染経路の遮断で
ある
対象
内容
すべての患者
手洗い、生体物質に対す
る手袋、マスク、ガウン
等の着用、針刺し防止
空気予防策、飛翔予防策、
接触予防策の3つがあ
る。標準予防策に追加し
て用いる。
感染力の強い、重
篤な病態を引き起
こす感染症の患者
【Ⅱ】標準予防策
1. 手洗いおよび手指消毒
1) 手指が目に見えて汚れている場合、血液、体液などで汚染されている場合には、
非抗菌性石けん(普通の固形石けんなど)または抗菌性石けん(消毒薬配合スク
ラブ)と流水で手を洗う。
炭疽菌が疑われる場合にも同様に手を洗う。
2) 手指が目に見えて汚れていない場合、以下(1)~(8)の場面において、速乾性手指
消毒薬を日常的に用い手指消毒する。代わりに抗菌性石けんと流水で手を洗って
も良い。
(1)患者に直接接触する前
(2)中心静脈カテーテル挿入時に滅菌手袋を着用する前
(3)導尿カテーテル、末梢静脈カテーテルなど手術的手技を要しない侵襲的器具を
挿入する前
(4)患者の健常皮膚に接触した後
(5)体液、排泄物、粘膜、非健常皮膚、創傷被覆に触れた後で目に見える汚染の無
い場合
(6)同一患者の汚染部位から清潔部位に移る場合
(7)患者の直接周辺に接触した後
(8)手袋をはずした後
(手洗いの方法)
A. 一般的な手洗い
通常石鹸、温水を使用して洗浄する。15~30 秒はかけること。
(1)流水で手を湿らす。
(2)湿らせた手の中央に石鹸をつける。
(3)十分に泡立てる。
(4)両手でこすり、厳密に摩擦する。爪床と指間部は特に注意してこする。
方法背景にある考え方対象内容
(5)両手で十分に濯いだあと、流水は流したままの状態にする。
131
(6)ぺ一パータオルで両手を軽く叩くように水分を乾燥させる。
(7)使用したぺ一パータオルを使って水道の蛇口を閉める。
B. 外科的手洗い
(1)爪を短く切り、手洗い前に爪の内側を清潔にする。手や腕に装身具をつけて
はならない。
(2)滅菌水を使用する必要はないが、できるだけ無菌に近い手洗い水を用いる。
(3)シャワーヘッドは細菌増殖を防ぐため漏斗型のものが好ましい。
(4)スクラブ剤入り手指消毒薬を用いて、手と前腕を肘の高さまで洗う。
(5)皮膚損傷をおこさないよう、過度のブラッシングは避ける。
(6)手洗い後、滅菌タオルで拭ったあとアルコール製剤による擦式消毒を行う
ことが望ましい。
C. 速乾式擦り込み式手指消毒剤(ウエルパス等)の正しい使用方法
上記の手洗いの後に使用すれば、手指への付着菌を減少させる。また、ベット
サイド等で手洗いが必要なときに簡易式手洗いとして利用する。
(1)薬液量を守る。ポンプはゆっくり一番下まで押し、3mL を掌にうける。
(2)爪先を十分に消毒する。掌に受けた液の中に交互に指先を浸す。
(3)指の間を消毒する。
(4)掌、手首まで十分に消毒する。
(5)十分に擦り込むこと。薬液を広げたら軽く熱を持つ程度に両手を擦り合わせ
て、薬液を十分に乾燥させる。(図1 参照)
132
(図1)
2. 手袋
患者の湿性生体物質で手が汚染されそうなときは、手袋を着用する。種々のカテ
ーテル挿入時、包交、おむつの交換、サクション、静脈切開などの血管侵襲手技な
どの時、さらに創部、粘膜に触れる時も膿・浸出液による汚染のおそれがあるので
使い捨てゴム手袋を着用する。使用後はすぐに手袋を外し、清潔な物品や他の患者
に触れる前に必ず石けんで手を洗う。
3. エプロン
湿性生体物質で衣服が汚染されそうなときは、ガウンあるいはプラスチックエプ
ロンを着用する。病院感染防止のためには、ガウンよりプラスチックエプロンが推
奨されている。防水性があるからである。しかしその着用に当たっては、白衣は半
袖のものであることが望ましい。半袖ならば前腕が汚染されても容易に洗い落とす
ことができる。
4. マスクとゴーグル
湿性生体物質で顔面が汚染されそうなときは、マスクやゴーグルを着用する。
5. リネン
133
リネンについては特別の規定はない。汚染されたリネンは周囲を汚染しないよう
にバッグに入れ、処理すればよい。その際、とくに汚染リネンについては水溶性の
バッグが推奨されている。これをそのまま洗濯機に投げ込み、熱湯消毒すればよい。
前処理の消毒は不要である。
6. 隔離
環境を汚染させるおそれのある患者は個室に入れる。
7. 器具
汚染した器具は、粘膜、衣服、環境などを汚染しないように注意深く操作する。
再使用のものは清潔であることを確かめる。
8.針刺し事故防止対策
(1)使用後の針はリキャップしない。
(2)どうしてもリキャップが必要なときでも、両手でしない。針先が体に向くような
方法でしない。片手すくい法か、リキャップ用器具を使う。
(3)手で使用後の針を注射器から外さない。
(4)穿刺耐性の硬い容器にディスポ注射器・針、メス、ガラス片、トロッカーなどを
捨てる。
(5)血液をこぼした時は、まず手袋をし、乾いたペーパータオルで拭き取り、専用の
容器に捨てる。その後、次亜塩素酸溶液で拭く。
【Ⅲ】感染経路別予防策
標準予防策はさらに感染経路別予防策によって補強されている。感染経路別予防策に
は、空気予防策(空調設備の整った隔離個室、N95 マスクの着用)、飛沫予防策(サー
ジカルマスクの着用など)、接触予防策(器具の専用化、入室時の手袋・エプロンの着
用など)の3つがある。これらはそれぞれ結核、麻疹、水痘のような空気感染するもの、
インフルエンザ、マイコプラズマのような飛沫感染するもの、MRSA やO157 のような接
触感染するものに対応しており、標準予防策に追加して用いられる。標準予防策と感染
経路別予防策によるダブルプロテクション(二重防御)のシステムですべての感染症へ
の対応が可能となっている。(図2 参照)
134
(図2) 「感染経路を遮断する」という考え方に基づくもの
感染経路別予防策
主な適
応
疾患
空気予防策
飛沫予防策
接触予防策
●麻疹
●水痘
●結核
●インフルエン
ザ
●マイコプラズ
マ肺炎
●風疹
●VRE
●MRSA
●腸管出血性大腸菌O157
●疥癬
手袋
マスク
●部屋に入るときは手袋を着
用する
●汚物に触った後は交換する
●部屋を出るときは外し、消
毒薬で手
洗いをする
●部屋に入るときはN9
5
マスクを着ける
●患者の1メー
トル以内で
作業するときは
サージカルマ
スクを着ける
ガウン
(プラスチッ
クエ
プロン)
器具
患者配
置
●個室隔離:部屋の条件
①陰圧
②1時間に6回の換気
③院外排気
●病室のドアは閉じてお
く
●個室隔離ある
いは集団隔
離あるいは1メ
ートル以上離
す
135
●患者または環境表面・物品
に接触し
そうなときは、部屋に入る前
に着用し、
部屋を離れるときに室内で脱
ぐ
●ガウン(プラスチックエプ
ロン)脱い
だ後は衣類が環境表面や物品
に触れ
ないようにする
●できれば専用にする
●できなければ、他の患者に
使用する
前に消毒する
●個室隔離あるいは集団隔離
あるい
は病原体の疫学と患者集団を
考えて
対処する
患者移
送
※個室管理ができない場
合、同一病原体による感
染患者を同室とする
●制限する
●必要なとき、サージカ
ル
マスクを着用
●制限する
●必要なとき、
サージカル
マスクを着用
その他
●必要な場合のみ制限する
*VRE対策
136
院内感染対策各論
【Ⅰ】MRSA感染予防対策
1. 基礎知識
MRSAとはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-Resistant
Staphylococcus Aureus)の略称である。本菌は新しい耐性機構セフェム系カルバペネム
系などのβーラクタム系抗菌薬に広く耐性を獲得した黄色ブドウ球菌である。MRSA
は、血液、喀痰、膿、糞便、胆汁、尿、耳漏など広範な臨床材料から検出される。感染
症としては、創感染、敗血症、静脈カテーテル感染、肺炎、胸腔内感染、腹腔内感染、
尿路感染など多彩であるが、患者からMRSAが検出されても感染症を発症していると
はかぎらず、治療の必要のない場合も多い。MRSAはヒトの常在菌である通常の黄色
ブドウ球菌と同様、健康人に対しては感染の危険性はきわめて少ないが、創、熱傷、血
液疾患、白血球減少症、ステロイド剤や免疫抑制剤投与者、高齢者、新生児など易感染
性要因をもった患者(Compromised host)に可能性が高い。MRSAはいったん発症する
と現時点では安全で有効な抗菌薬が少ないため、難治化重症化する場合が多い。従って
MRSAの感染に対しては、感染防禦に重点を置き、病院環境から可能なかぎりMRS
Aを除去し、感染の機会を減少、消滅させることが重要となる。
2. 感染経路
1)直接伝播:保菌者又は感染患者の咽頭、鼻腔、または感染病巣から接触感染、飛沫
感染などで直接に広がって行く。
2)間接伝播:主として医療従事者の介在によって伝播していく。この場合、医療従事
者の手を介してが最も多い。
3. 感染予防対策
MRSAの感染予防の目標は、・交差感染の予防・MRSA定着者の処置・病院環境
の清潔保持である。
1)隔離
隔離の基準は、医療の内容によって異なるので、様々な事情を考慮して決める。MR
SAは、いわゆる伝染病ではない。MRSA感染症は主に接触感染であるので、接触隔
離予防策をとる。
発症患者(排菌量が多く周囲をMRSAで汚染する患者)・発症していない場合でも、
発症者と同様に排菌量が多く、周囲をMRSAで汚染する患者(慢性呼吸器疾患患者、
広範囲な皮膚病変のある患者、気管切開のある患者、便失禁のある患者)
(隔離の解除)
原則として排菌の消失時とする。(2~3回連続で、陰性の場合)
2)退院
MRSA感染患者は、状態がよければすみやかに退院して家庭において通常の生活(療
養生活も含む)に戻す。この場合、特別な対策は必要なく、家庭における通常の清潔管
理で十分である。手洗い、うがいについて、本人および家族に対して指導しておく。
3)隔離病室の運用について
137
a.設備および器械・器具
①病室に、未滅菌手袋、速乾性擦り込み式手指消毒剤およびガウンを設置する。
②体温計、聴診器、血圧計等は専用とする。
③その他の機器も、可能な限り専用とする。共有で使用し、かつMRSA患者と直
接接した場合は、消毒アルコール、次亜塩素酸ナトリウムで搬出時に清拭する。
④スリッパ交換、粘着マット、足元および病室の噴霧消毒、ホルマリン薫蒸、ガウ
ンロッカーの紫外線消毒、オゾン消毒は必要ない。
⑤喀痰が認められる患者、広範囲な皮膚病変のある患者のケア時やリネン交換時に
はマスクを着用するとよい。
b.運用面について
①隔離室のドアは、常時閉めておく。(人の出入りの制限、室内外からの風の舞い
込みの防止、および廊下の雑音から患者を保護するためである)
②病室の換気のため、時々窓を開ける。
③ガウン再使用する場合のガウンテクニックは、病室内(222 号室では前室)で行
う。この時、ガウンの表(外側)と裏(内側)の表示をはっきりさせ、裏表にせ
ずに壁に掛ける。
④緊急時を除いて、走ったり、バタバタ歩いたりして床の埃を舞い上げないように
する。
4)病室の清掃
MRSA患者の使用した病室の消毒は、原則として必要ない。MRSA発症患者は、
咳や、皮膚落屑物によって床(水平部分)に多くのMRSAを飛散させる。黄色ブドウ
球菌や腸球菌は、乾燥に強く、水分や栄養の少ない環境でも長時間生存できる。床に落
ちた菌は、埃とともに空中に舞い上がる。また、ヒトの手指に付着したMRSAは手洗
いをしない場合は長時間生存し、ヒトの触れる場所へと菌を拡散させる。したがって、
埃を減少させるよう、湿式でていねいな清掃をすることが大切である。感染隔離のため
の清掃はベッドメーキングの後に行う。
①皮膚炎の患者や気管切開の患者など、環境中にMRSAが飛散しやすい患者のいる
病室の場合は、病室清掃の回数を増やす。
②ベッドの下、カーテンレール、エアコンの吹出口、フイルター、照明器具などに埃
が溜まっていないかよく点検し、これらの部分も清掃のメニューに加える。
5)リネン類の処理
①MRSA陽性者のリネンを取り扱うときは、ガウンと手袋を必ず着用する。
②リネン類は、埃をたてないように静かにたたみ、透明のプラスチック袋へ入れて洗
濯室に出す。
③リネン類の洗濯
・温湯・熱湯洗濯機を使用する場合
80℃、10 分以上、温湯・熱湯洗濯機を用いて洗濯する。
・熱がかけられない場合、すすぎの段階で、次亜塩素酸ナトリウム(0.01~0.1%)、
色物に塩化ベンザルコニウム(0.1%)を5分間程度使用する。
・マットレスは消毒機にかける。
・家庭に持ち帰って洗濯する場合(血液・体液・排泄物で汚染されたものを除く) 通
138
常の方法で十分である。日光で乾かすかアイロンをかけるとよりよい。
6)食器類、残飯の取扱い
食器類に関しては、通常の取扱いでよい。むしろ、患者に精神的負担をかけないこ
とが重要である。
①配膳や下膳も通常通りで差し支えない。
②下膳された食器は、他の食器と区別なく、通常の温水洗浄機で洗浄する。
③消毒剤を用いて食器類を洗浄してはならない。
④配膳者が隔離室に入る場合は、予防衣、マスク、手袋等は必要ない。
⑤ディスポ食器を用いる必要はない。
7)搬送
患者の搬送については、医療チームが責任をもって受け入れ先にMRSA感染の状況
について通知する。
①患者が退院して自宅に戻る場合
・在宅看護の支援が必要な場合には、訪問看護師・ケアマネージャーなどに通知を
行う。
②患者の搬送車に関する件
・患者が自家用車やタクシーで移動する場合は問題がない。
・患者の搬送に救急車が必要な場合は、その旨通知し、皮膚落屑物が多い場合は出
来るだけ周囲の汚染を少なくするため、患者の肩および身体のまわりにシーツな
どを巻いておく。
8)個室外への移動
①搬送時の注意
広範囲な皮膚落屑物のある患者では、MRSA拡散リスクを最小限にとどめるた
め、搬送中、患者の肩および身体の周りにシーツなどを巻く。
慢性呼吸器疾患などで咳や痰が激しい患者には、マスクをしてもらう。
歩ける患者や車いすの患者は、手洗いをしてもらい、最短距離をゆっくり移動し
てもらう。
②移動中にMRSA陽性患者が直接触れた物品の処置
使用時の車いす、いすは、水洗可能な場合は、洗剤で洗って乾燥させる。排菌量
の多い感染者が使用した物品については、次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%)で拭いて
消毒し、湿式清掃後乾燥させる。
③リハビリテーションなどへの移動
咳や痰の多い患者ではマスクを着用してもらう。小範囲の皮膚疾患などをもった
患者については、皮膚落屑物をなくすためにドレッシング材などによる防止策をと
ること。移動前の手洗いの励行や洗濯済の清潔な衣服の着用が求められる。
9)患者および家族への説明
患者および患者家族に医療スタッフが適切で統一した内容の情報を提供し、不安を取
り除くとともに、MRSA拡散の予防にも理解、協力が得られることを目標として説明、
指導する。MRSAについてのパンフレット(資料1)を使用する。
説明の際の留意点
①MRSAの性質・概要説明
139
②治療方針の説明
③二次感染予防の手段
④社会的義務の理解
⑤プライバシーの厳守
⑥精神的ケア
面会人への注意
①通常は面会人がMRSA感染を生じることはない。
②マスク、予防衣を着用する。
③病室の出入りの際には手を洗い、完全に乾かす。
④面会人は最短の通路で病院を出ること。
⑤複数の患者に面会するときは、病気の重い患者に先に面会し、MRSA陽性患者の
順番を後にする。
⑥できるだけ人数制限を行い、乳児、小児の面会は最小限にする。
※付き添い人や長時間看護をする家族については、MRSA陽性患者を看護する医
療従事者の衛生の項に準ずる。
10)MRSA定着者(保菌者)対策
MRSAを保有するものの、自身はMRSA感染症の症状を呈さない場合をMRSA
定着者(保有者)という。
MRSA定着者対策の意義は、定着したMRSAを感染源とする自己感染(内因性感
染)および交差感染(外因性感染)を防止することにある。
(1)易感染患者でない患者がMRSA定着者の場合
①患者を易感染者から離れた位置に配置する。
②医療従事者は患者と接触する前後に手洗い、手指消毒を厳守する。
③患者に「MRSAとは何か」「定着状態とはどういうものか」などについて説明し、
同意を得てから、易感染者との接触を避けることや手洗いなど自身が行えることを
協力してもらえるよう啓蒙する。
(2)易感染患者がMRSA定着者の場合
患者が易感染患者で、定着した菌によって内因性感染を引き起こす可能性がある場
合は、上記の①~③に加えて、除菌処理を行う。
MRSAの除菌方法
①鼻腔:ムピロシン鼻腔用軟膏の塗布
②咽頭:ポピドンヨードによるうがいを1日3~4回、3日間実施する。
③皮膚:ポピドンヨード、消毒エタノールなどによる洗浄や清拭を1日1回7日間
実施する。
④尿路:膀胱留置カテーテルを使用している場合は、カテーテルを抜去し、間欠的
導尿に切り替える。
(3)医療従事者がMRSA定着者の場合
鼻腔内にMRSAを有している医療従事者の鼻前庭などからMRSAが直接飛沫し
て感染を起こす危険性はない。しかし、手が鼻前庭に触れた場合は、手指は確実にM
RSAの汚染を受け、それ以後の交差感染の危険をはらんでいる。
①常日頃から鼻前庭を清潔にし、鼻毛を切り、毎朝きちんと鼻をかむ。
140
②手指が鼻前庭および顔などに触れた場合は、必ず手洗い(手指消毒)をする。
③マスクを常用する必要はない。ただし、手指が鼻前庭に触れることを防止すること
で少しは意味をもつ。一度外したマスクは再度、使用しない。
④MRSA感染高リスク(抗菌薬の投与ならびに創、カテーテルを有する)患者との
不必要な接触は避ける。
11)医療従事者の衛生
単にMRSAが定着しているMRSA陽性患者は、排菌量も少なく、問題は少ない。
皮膚落屑物の多い患者や、気管切開患者、咳の激しい患者,MRSA腸炎の患者などは
排菌量が多くなることから、診療・看護などを通じて医療従事者が汚染を受け、一過性
のMRSA定着を招きやすい。そのため、MRSA陽性患者を看護する医療従事者(ケ
アスタッフ)の衛生管理は重要である。
①袖口の汚染を防止するため、および手洗いを手首まで行う必要から、医療従事者は
半袖の制服を着用する。
②毎日清潔な制服を着る。
③手の爪は短く清潔にしておく。指輪、腕時計はしない。
④患者のケアにあたる前後、およびその他の一連の任務の前後に手を洗う。
⑤感染患者をケアするときは、プラスチックエプロンと手袋を着用する。
※MRSAは、主に接触感染であり医療従事者の手指を介して伝播される。しかし、
同時にMRSAは埃と一緒に空中を飛び回るので、髪の毛や鼻前庭に付着したり、
直接の接触により衣服や手指にも付着しやすい。そのため、プラスチックエプロ
ンと手袋が不可欠となる。
⑥毎日入浴、洗髪する。
⑦うがいを心がける。
12)MRSA感染症に対する連絡体系(資料2)参照
13)MRSA感染症に対する報告書(資料3)参照
(資料1)
MRSAについて
<患者様へ>
あなたの病気の治療を行うため、予防的・保護的な隔離治療を行っています。これは
感染症の原因である細菌が衣類や手指に付着して病院内へ広がるのを防ぐためです。下
記の事項について厳守してい
ただくようお願い致します。
① MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、普通の人が鼻や皮膚にもっている菌です
が、抗生物質が効きにくいという性質があります。
② 健康な人にはまず病気を起こしません。付き添いの方に病気を起こすことはありませ
んので、ご安心下さい。但し、体の抵抗力が落ちている方(例えば風邪をひいている
など)や子供、高齢者には病気を引き起こすこともありますので、面会は控えていた
だくのが良いでしょう。また、病状によっては面会をお断りする場合もあります。
141
③ MRSAは体、特に手に付きやすいので、十分な手洗い消毒とうがいが必要です。
④ 病院の中には、体の抵抗力が落ちている患者様もおられますので、MRSAが見つかって
いる間は他の病室に行ったり、廊下を歩き回ることは出来るだけ避けて下さい。やむ
を得ず病室を出る場合にはマスクを着用し、病室の出入りの際に十分な手洗いをお願
い致します。
⑤ MRSAを無くすために病室の出入りを制限する場合もありますが、その際には医師や看
護師の指示に従って下さい。
⑥ MRSAに効く抗生物質もありますので、あまり心配なさらずに、ご不明な点はお気軽に
医師や看護師にお尋ね下さい。
⑦ 医師、看護師、その他の病院職員が入室する際には予防衣・マスクを着用します。治
療の際には手袋を着用します。御了承下さい。
<ご家族、お見舞いの方へ>
患者さんは感染症の予防的・保護的な隔離治療を行っています。お見舞いの方を感染
から守るため、また病院内への感染の広がりを防ぐために、下記の事項について厳守し
ていただくようお願い致します。
① 病室への出入りの際には、消毒剤で十分に手を洗って下さい。
② 病室へ入る際には、予防衣・マスク・帽子を着用して下さい。
③ 病室を出る際には、予防衣・マスク・帽子をはずし、病室内に設置してある容器に入
れて下さい。
④ ご不明な点がございましたら、医師・看護師にお尋ね下さい。
白鷹町立病院院長高橋一二三
142
(資料2)
MRSA感染症に対する連絡体系
143
(資料3)
144
【Ⅱ】結核感染予防対策
1. 結核の特徴と基礎知識
①結核菌の特徴
結核菌は直径5 ミクロン以下の大きさで、菌を包んでいる水分が蒸発すると空気
中に浮遊し飛沫核感染(空気感染)で感染する。気密が高い部屋、循環式換気では
感染確率が高くなる。(インフルエンザ等は飛沫感染)
②結核菌に感染しても必ずしも発病しない。発病率はBCG 未接種者で10 数%(6 人感
染して1人) 菌陰性の発病を含めても30%である。
③初感染と既感染の考え方
初感染=他人から結核菌をもらった初めての感染
既感染=発病はしていないが過去に結核菌に感染している
④結核が増える理由
・長寿社会の実現が結核増加の最大の要因である(80 歳の既感染率は76.7%)。
→高齢者施設では多くの人が既感染なのでその人たちは感染しないが再発する
・人の寿命が長くなる→既感染の人の免疫力が低下する高齢者や疾病(糖尿病、エ
イズ、等)に罹患する確率が増える。その結果→(発症、再発により)排菌し他
への感染拡大を招く。
2. 院内感染対策
院内感染対策の骨子は、1)医療従事者の健康管理、2)環境上の感染防止3)個人の感
染防止、4)職員の衛生教育、5)患者発生時の対応である。
白鷹町立病院には排菌患者は入院しないことになっているが、職員の健康管理に関
してはできうる限りこの見解に沿った改善が図られるべきと考える。
1)医療従事者の健康管理
①結核病学会は雇い入れ時には法令に定められた胸部X 線撮影の他に、40 歳未満の
者にはツベルクリン反応(ツ反)を行うことが望ましいとしている。
②化学予防いったん院内で感染性結核患者が発生した時の対応を徹底する必要があ
る。結核病学会は感染性結核患者が発生した場合はまず接触者全員に胸部X 線写
真を撮り、(40 歳未満)全員にツ反を行うべきとしている。その際実施したツ反
の反応径が30mm 以上あり、かつ前回の反応よりもおおむね10mm 以上大きくなっ
た場合には最近の感染可能性が大きいので化学予防の対象となる。しかし30 歳以
上の者は化学予防の公費負担の対象とはならないので、実際は30歳未満の者のみ
がツ反を施行されると考えたほうが現実的であり、結核病学会の勧告は実際の運
用を考えると、個々の病院で多少変更せざるを得ない。また胸部X 線写真で線維
硬化型の所見を認め、かつ化学予防歴のない場合は化学予防の対象とするとなっ
ている。以上のことから白鷹町立病院に採用予定の30 歳未満の全員にツ反を行い、
前値を予め記録しておくことが今後望まれる。
2)環境上の感染防止、個人の感染防止
①患者の隔離
・結核感染が疑われる患者は個室(222 号)で管理する。
145
②排菌患者との接触時の注意
・職員:N95 マスクの着用(ガウンテクニックは通常不要)
・患者:ガーゼマスクの着用
・空調設備、換気システムの点検→1 時間の換気回数で菌の除去率が変わる。
除去率
1時間の
換気回数
90%
99%
99.9%
1
138分
276分
414分
6
23分
46分
69分
9
15分
31分
46分
・咳をしている患者はなるべく風下にベッドを確保する。
・個室でも空気の流れが廊下側に流れていないことを確認する。
・気管支鏡等の検査時には換気に気をつける。
③患者転院・搬送
・患者の移動、移送により2 次感染が起こらないように指導、助言をする。
・救急車での搬送を想定し、救急隊員にも対応方法について事前に周知する。
→換気のいい搬送車で救急隊員が窓を開けて風上にいればOK
④患者転院・搬送後の消毒
・リネン、食器、部屋、運搬車両等は通常の洗浄、清拭でよい。
・患者の粘膜に接する器具は滅菌または十分洗浄後消毒する。
3)職員の衛生教育
院内感染を起こさないためには職員の結核教育と医師の結核症の診療と適切な治
療能力の向上が大切である。ことに最近の結核患者減少の鈍化と集団発生の傾向を
考えると、結核を極端におそれる必要はないが安易に考えたりすることのないよう
にするための正しい知識が必要である。
4)患者発生時の対応
結核患者が発生した場合は、診断医師は結核予防法の定めにより、必ず保健所に
届出なければならない。また当院で治療する場合は結核予防法34条則により、保健
所の許可を得て治療を開始することになる。職員から結核患者が発生した場合は、
(置賜)保健所長は必要により結核予防法第5条による定期外健康診断を行うので、
白鷹町立病院はその指導のもとに事後対策に応じなければならない。
146
【Ⅲ】インフルエンザ感染予防対策
1. 病院職員のワクチン接種
患者に接する病院職員は毎年ワクチンをすることが望ましい。インフルエンザワク
チンは毎年11月から12月にワクチン接種を希望する職員に対して自費で行う。
2. 患者のワクチン接種→高リスクの患者は、ワクチン接種をする。
3. 病院におけるインフルエンザのヒトヒト感染の防止
1)インフルエンザの症例は臨床症状と、インフルエンザウイルスの存在を示す、気道
分泌物の培養あるいは蛍光抗体陽性により定義付けられる。
2)できるだけインフルエンザ患者(疑いを含む)は個室に収容あるいは他のインフル
エンザの患者と集団的に収容する。
3)インフルエンザ患者(疑いを含む)の部屋に入る職員・面会者はサージカルマスク
を着用し、標準予防策を遵守する。免疫のあるなしにかかわらず、すべての職員は
部屋に入るときマスクをすべきである。
4)インフルエンザの患者は部屋の外に出るときはマスクをする。
5)個室収容あるいは他のインフルエンザ患者との集団的収容は病気の期間中続ける。
4. 院内インフルエンザ流行時の対策
1)市中あるいは院内流行時には、インフルエンザを疑わせる症状のある職員は患者と
直接接触する業務から離す。
2)院内流行時には、インフルエンザ患者は院内の一区域に集団で収容してもよい。ワ
クチン接種あるいはアマンタジンやタミフル等の内服を受けている職員は勤務して
よい。
3)ワクチンをしてないすべての患者・職員で、インフルエンザ患者に暴露した者はワ
クチンを受け、できればアマンタジンやタミフル等を内服する。
4)暴露とは「明らかなインフルエンザ患者とのマスクなしでの密な長期の接触」と定
義される。診察したり、入浴させたり、点滴したりすることなど。より弱い接触と
は、ご みを片づけたり、食事を運んだり、マスクした患者を運んだりすることな
ど。
5)市中あるいは院内の流行の感染率が高く重症な場合、
・発熱性呼吸器疾患を持つ面会者を制限する。
・待機的入院患者を削減する。
147
【Ⅳ】腸管出血性大腸菌(O-157等)感染予防対策
1. はじめに
大腸菌はヒトや動物の腸管内の常在菌であり、特に病気を起こすことはない。しか
し、一部の大腸菌は病原性大腸菌であり、下痢等の病気を起こす。その病原性大腸菌
の中に、大腸炎を起こすものがある。これらの病原性大腸菌は腸管出血性大腸菌と呼
ばれ、O-26、O-111、O-128、O-157 などがその仲間に属する。O-157 は熱に弱く、
75℃で1分間加熱すれば死滅するが、低温条件に強く、家庭の冷凍庫でも生き残る菌
があると言われている。酸性条件にも強く、pH 3.5程度でも生き残る。水の中では相
当期間生存するといわれる。
2. 症状
汚染食品(菌)をどの位食べたかにもよるが、潜伏期間は1~10 日と一般食中毒に
比してかなり長い。感染すると、一定の潜伏期の後、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛など
悪寒、発熱さらに上気道感染症状を伴うなど風邪と間違えるような症状で始まること
もある。やがて典型的な例では、血便が出だし、鮮血様の血便となる。少し遅れて、
溶血性尿毒症症候群(HUS)や血栓性血小板減少性紫斑病、さらに痙攣や意識障害
など脳症を呈する例もあり、死に至ることもある。いずれも本菌の産生するベロ毒素
の作用による。子供や老人の場合は、重篤になりやすい。鑑別診断としては、虫垂炎、
腸重積、赤痢、カンピロバクターやサルモネラなどによる食中毒が重要である。
3. 感染予防
感染予防策は、食中毒の予防の基本を守ることが大切である。保菌者に対しては、
手洗い・消毒の励行を十分に指導する。患者については、24 時間以上間隔を置いて実
施し少なくとも2回の検便結果が連続して陰性であれば、菌陰性化として扱い、就業
規則があれば解除する。無症状の保菌者については、その後の検便結果が1回陰性で
あれば菌陰性化とみなしてよい。
4. 二次感染防止対策(接触予防策を用いる)
病室
①できる限り個室が望ましい。(抗生剤中止48 時間後の便培養が2回陰性で解除)
②面会者は手洗いや入室時の指導を行う。
③患者に接触する時は、使い捨てプラスチックエプロンを着用する。
④患者に触れた後は石鹸による洗浄後、速乾性消毒剤(ウエルパス)で消毒する。
⑤環境整備
・最後に行う。ローラーを用いる。
・床は、業者による清掃(水拭き)を毎日行う。他室と区別する必要はない。
⑥シーツは感染症とし、透明ビニールに入れ洗濯室へ出す。
排泄
①排泄後に、石鹸と流水でよく手洗いを行うよう指導する。
②排泄後は、臀部をウオッシュレット又は微温湯で洗浄する。
③トイレ使用後は、患者が触れた所(便座等)を70%アルコールで清拭する。
④ベッド上排泄及びポータブルトイレ使用は、専用にする。
⑤特に下痢をしている子供や高齢者の世話をした時は、石鹸と流水でよく手を洗う。
⑥おむつ交換は、ゴム手袋を使用し行う。
148
⑦排泄物を取り扱う際は、ゴム手袋を使用し、ゴム手袋除去後は、石鹸と流水でよく
手を洗う。
⑧患者の便に触れた場合は、直ちに石鹸と流水で十分手洗いし、速乾性消毒剤(ウエ
ルパス)で消毒する。
食事
①患者が入院時は、栄養室へ連絡する。
②食事前は、石鹸と流水でよく手を洗うよう指導する。
③食べ物は外から持ち込まないように指導する。
④食器はディスポを使用する。トレイは本人専用にする。食器を持ち込む場合は洗剤
と流水で洗浄し本人専用にし、退院時に返却する。(患者の手洗いが確実に出来てい
れば、区別の必要なし。臨機応変に対応する。)
清拭・衣類
①清拭タオルは感染症扱いにする。
②沐浴は最後に行い、使用後は70%アルコールで清拭又は熱湯を流しておく。
③混浴は避ける。患者の使用後は乳幼児を入浴させない。
④寝衣は、原則として自宅にて洗濯してもらう。
⑤糞便で汚染された衣類は、熱湯消毒を行う。(洗濯室に依頼する)
⑥糞便が付着した物品は、煮沸又は薬剤消毒する。
消毒
①トイレ(ドアのノブ、便座、患者が触れた所)は、使用後、70%アルコール(又は、
マスキンW)で、拭き取る。
②床頭台、オーバーテーブル等ベッド及び周辺は、逆性石鹸(ハイアミン、オスバン)、
両性界面活性剤(ハイジール)を規定の濃度に薄めて拭き取る。
③糞便が付着した物品は、逆性石鹸(ハイアミン、オスバン)、両性界面活性剤(ハ
イジール)を規定の濃度に薄めたものに浸漬する。
届け出
・感染対策委員会へ連絡・報告書提出
・看護部、栄養室、庶務係へ速やかに報告する。
・庶務係より保健所へ届け出る
・状況について随時、関連部署へ報告する。
4. 家族指導
以下の項目について家族に説明する
①面会者は最小限にしてもらう
②家族に下痢がないか注意する。下痢を認めれば面会禁止。
③手洗いを確実に行ってもらう。速乾性消毒剤の使用について説明する。
④家族が病室で飲食をしないよう説明する。
⑤ベッド上に物を置いたり、患者及び周辺の物品に触れないよう説明する
⑥持ち帰った衣類は、家族別々に洗濯してもらう。患者の衣類は家庭用漂白剤浸漬又
は煮沸してから洗濯し、天日で十分乾かす
⑦自宅での食品の取扱い
・食品の保存、運搬、調理は衛生的に行う。十分に加熱を行う。
149
・食品を扱う場合は、流水で手や調理器具を洗う。
・飲料水の衛生面に気をつける。
⑧患者の便を取り扱う際の注意
・患者の便を処理する時は手袋を使用し、衛生的に処理する。
・患者の便に触れた時、患者が用便をした後は、石鹸と流水で十分手を洗い流した
後、触れた部分を逆性石鹸または70%アルコールで消毒する。
⑨患者がお風呂を使用した場合は、その後乳幼児の入浴や混浴は避ける。また風呂の
水は毎日交換する。
(付き添いの母親について)
①病室を出る際は、必ず手洗いを行う。
②患児と同様の感染予防対策を行う。
・排泄後、食事前後の手洗いを行う。
・病室での飲食は禁止する。
・入浴は最後に行い、シャワーにする。
・洗濯物は自宅で、患児のものと同様に洗濯する。
150
【Ⅴ】B型肝炎・C型肝炎感染予防対策
A. 肝炎ウイルスの概要
1. 肝炎ウイルスの種類と感染源
ウイルス肝炎関連抗体は,A 型,B 型,非A 非B の3 者に分轄されていたが抗体測
定の普及により、デルタ感染症をD 型肝炎、インドなどで流行する水系感染をE 型肝
炎とし、A 型肝炎、B
型肝炎,C 型肝炎,D 型肝炎,E 型肝炎と分鞍される様になってきた。A 型肝炎、E
型肝炎の経路は、なんらかの要因で排出されたウイルスが,経口的に感染することに
よる水系感染、あるいは食物による感染形態をとり、B 型肝炎、C 型肝炎の感染経路
は血液がなんらかの経路で侵入してきた場合に感染が成立する。輸血、医療事故によ
る針汚染、性的行為などによる感染形態がある。(ただしE 型肝炎,D 型肝炎は日本
ではあまり心配がない)
2. B 型肝炎ウイルス
B 型肝炎ウイルスは1964 年オーストラリア抗原として発見されたウイルスは直径
42nm の球形粒子で外部にH Bs 抗原、内部にHBc 抗原と二重の構造を持つDNA ウイル
スである。その後,B 型肝炎HB ウイルス各部の構造が明確になり関連マ-カーとして、
HBs 抗原・抗体、HBc 抗体、HBe 抗原・抗体、DNA ポリメラーゼなど、測定が確立し
それぞれが臨床的意義を持っている。B 型肝炎ウイルスは感染後、肝細胞で増殖し血
液中を循環する。B 型肝炎は一過性感染と,一度感染が成立すると生涯感染が持続す
る持続感染がある。慢性肝炎や肝硬変、肝癌などはこの持続感染の病態であり,感染
経路としては,HBs 抗原持続陽性者のうちH B e 抗原陽性の母より出産する時点での
感染成立のみとされている。従って一般感染は急性肝炎であり,母子感染が持続感染
の原因となる。
3. C 型肝炎ウイルス
C 型肝炎ウイルスはRNA ウイルスであるがC 型肝炎ウイルス粒子としてまだ固定さ
れていない。C 型肝炎は、C 型肝炎ウイルスが起因ウイルスで現時点ではHCV抗体
の検出により診断されている。C 型肝炎は輸血後非A 非B 肝炎とされていたものの大
多数を占める。C 型肝炎ウイルスはB 型肝炎ウイルスと同様常在し、感染後の形態は
急性肝炎の後容易に遷延化、慢性化することでA型、B 型肝炎ウイルス感染とは全く異
なった病像を呈する。C 型肝炎ウイルス感染においては,C 型肝炎ウイルス持続感染
者(HCVキャリヤ)が存在し、主要な感染源である。C 型肝炎急性感染者も感染源
となりうる。C 型肝炎ウイルス感染においては、C 型肝炎ウイルス持続感染者(HC
Vキャリヤ)が存在し、主要な感染源である。C 型肝炎急性感染者も感染源となりう
る。
B.患者への対策
HBウイルスの医療従事者への予防するうえで最重要なことは感染源の認知,すなわち
その患者がHBs抗原陽性であることを知ることとその感染経路の遮断である。
1. 患者のHBs抗原検査の実施
検査の対象患者は,すべての入院患者及び医師が必要と認める外来患者とする。
151
2. HBs抗原陽性者への対応
(1) HBs抗原陽性者の認識
B型肝炎を予防するうえで最も重要なことは,感染源を認知することである。
ア. すべての受診者及び職員のHBs抗原を測定すること。
イ. HBs抗原陽性者には,HBe抗原,抗体を検索しておく。
ウ. 患者がHBV保有者ならば,そのことをカルテに明記し,その患者を診察したり,
血液や体液に接触する職員に対して確実に,その情報が伝わるように配慮する。
(2) HBs抗原陽性者の診療に従事する場合の注意
ア. 手指に傷口がある場合はゴム手袋をし,血液の飛散の恐れのある場合,予防衣,
マスク,保護メガネ,手術場ではシューズカバーを着用するのが望ましい。
イ. 血液,体液の付着した注射針による針刺し事故には特に注意する。
ウ. 使用後の針に再びキャップをする行為は避け病院処分方法に従う。
エ. HBs抗原陽性患者の汚物など廃棄物は,当病院感染性廃棄物の処分物方法に従う。
(3) 汚染された場合の処置
ア. HBs抗原陽性の血液により汚染があった時や,針刺し事故の場合は,血液をよく
絞り出し,石鹸と大量の流水で洗い流し,ウイルスの希釈を計り次亜塩素酸ナト
リウム液に浸した脱脂綿や,ガーゼで清拭消毒する。
イ. 着衣,ベット,机や床などが汚染された場合には直ちに,紙,布等で血液を拭
き取った後,流水で,十分に水洗するか次亜塩素酸ナトリウム液で消毒する。
(4) その他の注意事項
ア. ペダル式又は肘式の水道栓を各診療室,検査室,病棟看護室に常置し栓に直接
接触することなく,水洗い出来る様にすることが望ましい。
イ. 清掃員や用務員に対し,清掃方法や廃棄物運搬等への気配りも必要
ウ. 内視鏡検査の際には十分な消毒と患者の診療順序に配慮する。
3. 血液と接する職員への指導
特に患者の血液と接する職員は,血液が、B型肝炎やC型肝炎の感染源になりうる可
能性がある。気がつかない様な小さな皮膚の傷や,かすり傷,火傷等からの経皮感染,
口でのピペット操作による誤飲,眼に血液が跳ねたり汚染された手からの口腔粘膜へ
の感染の可能性が考えられる,たえず注意して感染を起こすことのない様にする。
・注射針の取扱に注意すること。
・荒れた手や炎症を起こしている手で直接感染源に触れないこと。
・ピペットは口で吸う以外の操作法で行うこと。
・処置後の医療機械や検体を取り扱う場所の消毒を十分に行うこと。
C. 病院職員への対策
HBVの正しい知識
・すべての血液・体液(髄液、精液など)は感染源となりうることを認識する。特に注
射針の取り扱いには注意する。
・観血的処置を行う際に手指に創傷、炎症がある場合は手袋を使用する。
・血液飛沫の可能性がある場合は、マスク、ゴーグルなどを使用する。
・HBs、HBe抗原陽性血の感染力は非常に高いが、汚染後の処置を正しく行えば、ほぼ100%
152
急性肝炎の発症は予防できる。
・HBVウイルスはアルコールでは不活化されないので、事故直後は流水でよく洗い流す。
・HBIG(抗HBs免疫グロブリン)の投与はできれば事故後48時間以内に行う。
・HBV汚染事故後の潜伏期間は1~6ヶ月であるので、観察期間は事故直後、1ヶ月後、
3ヶ月後、6ヶ月後とする。
1. 感染予防対策
(1)ワクチンの接種による感染予防
HBs抗原及び抗体陰性の職員に通常3回の接種を行う。
2. 事故が起こった場合の対策
(1)HBs抗原陽性の血液により汚染があった時や針刺し事故の場合血液を絞り出し石
鹸と、大童の流水で洗い流し、ウイルスの希釈をはかり、次亜塩素酸ナトリウム液
に浸した、脱脂綿やガーゼで清拭し消毒する。
(2)HBs抗原及び抗体が共に陰性の職員がHBs抗原陽性の血液に汚染を受けた時は、抗
HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)及びワクチンの投与を行う。
(3)HBIGは、事故後48時間以内になるべく早期に投与することが望ましい。
(4)汚染源がHBe抗原陽性の場合は、特にHBワクチンも併用する必要がある。
3. 公務上の事故取扱について
(1)事故が発生したら、感染対策委員長に連絡し、汚染血液等事故報告書(資料4)
を提出する。
(2)事故が発生したら、検査室に連絡する。
(3)汚染源の血液のHBs抗原陽性の場合、HBe抗原・抗体の確認を行う。
(4)本人のHBs抗原、抗体の確認と肝機能検査を行う。
(5)土曜日の午後や日曜日の検査は不備となるので、月曜日の午前中に検査を行い、
早期にHBIGを投与出来るようにする。
4. HBワクチン接種後のHBs抗体陽性から陰性になった職員の対策
(1)HBワクチンの追加接種を行った方がよい。
5. B型肝炎ウイルスキャリア職員の対応
(1)出血時の注意、供血の禁止など感染予防事項をまもる。
(2)3~6ケ月毎に受診医師の指示に従う。
D. C型肝炎対策
C型肝炎ウイルスは,HCV抗体の陽性で判定される。HCVに汚染された場合は,HBV
に比べて重篤な急性肝炎の発生は少ないものの長期間緩徐に経過した後,肝硬変や肝癌
に至る危険性が高い。
従って,C型肝炎の院内感染予防対策も確立されなければならない。
HCVの正しい知識
・HBVと比較すれば感染力は弱いが、すべての血液・体液は感染源となりうることを認識
する。
・観血的処置を行う際に手指に創傷、炎症がある場合は手袋を使用する。
153
・血液飛沫の可能性がある場合は、マスク、ゴーグルなどを使用する。
・現時点ではワクチン、免疫グロブリンなどの予防法はない。
・HCV汚染事故の潜伏期間は1~6ヶ月あるので、観察期間は事故直後、1ヶ月後、3
ヶ月後、6ヶ月後とする(可能であれば1年後まで)。
・汚染後の正しい対処と経過観察が必要であるが、HCV自体の感染力は弱く、急性肝
炎発症の確率は事故全体の約1~2%である。
・事故直後に公務災害申請(資料5-1、5-2)を行っていれば、万一急性肝炎を発症して
も公務災害と認定され、インターフェロン治療が可能。
・C型急性肝炎のインターフェロン治療の著効率は70~80%と高率であり、慢性化が防止
できる。
・負傷者のHCV抗体検査針刺し時点で、負傷者の抗体の有無を明確にする。事故発生
直後、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に肝機能検査を行う。
・HCV抗体検査を施行して、肝炎発症の有無について経過をみなければならない。急
性肝炎を発症すると慢性化の危険性が高い。
(1)患者についてHCVの抗体検査をしてHCVキャリアか否かを確認する。
(2)医療従事者のHCV抗体も検索する。
(3)当面,B型肝炎予防対策に準じて、C型肝炎感染予防対策を行う。
(4)患者に対しては,手洗いの励行、ハブラシ・カミソリなどの共用を避けること。
(5)家庭内及び職場内における出血事故に際しては、患者自身に処理をするように
指導する。
E. 滅菌・消毒法
機械・器具などの滅菌・消毒は、使用後すみやかに十分量の流水で洗浄した後に、加
熱滅菌を行うのが最も信頼性が高い方法である。
熱処理が不可能な機器等は薬物処理またはガス滅菌を行う。
1. 加熱滅菌・消毒
(1)121~132℃で20~40分のオートクレーブ
(2)乾熱滅菌180℃で60分
(3)煮沸消毒15分以上
・緊急の場合に、ガラス器具・鉗子・ハサミ類などを消毒するのに用いる。
2. 薬物滅菌・消毒
(1)次亜塩素酸ナトリウム
(2)グルタールアルデヒド
・金属など耐腐食作用のないものに用いる。
(3)塩化エチレンガス滅菌。
3. ガス滅菌・消毒
(1)過酸化水素ガスプラズマ法
154
(資料4)
155
(資料5-1)
156
(資料5-2)
157
重症急性呼吸器症候群(SARS)対策マニュアル
白鷹町立病院
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、感染源、感染経路ともいまだ確定していないこと
を踏まえ、従来の院内感染症対策に加え、特に以下の点に留意して院内感染症対策に万
全を期するとともに関係者に周知徹底をすること。
事前準備
1.SARS 患者等が予約なく受診することが想定されるので、院内感染症委員会を開催し、
院内感染症対策を強化すること
2.あらかじめSARS 患者等を誘導する診察室・病室等を指定すること
3.患者等を相談室へ速やかに誘導するための手順を定めること
4.次の例を参考にして、外来等の患者の見やすい場所に掲示するとともに、呼吸器症
状のある患者には、まず海外渡航歴を聴取すること
(掲示例)
----------------------------------------------------------------------------最近、香港、○○○、○○○などで、原因不明の急性呼吸器感染症が流行しています。
流行が起きている地域から、帰国された方で、次の症状を有する方は、早急に○○○に
お知らせ下さい。
----------------------------------------------------------------------------平成15年2月1日以降に重症急性呼吸器症候群が発生している地域(カナダ、シン
ガポール、中国、香港、ベトナム、○○○)を旅行した方で以下の症状を呈した場合
○ 38度以上の急な発熱
○ 咳、息切れ、呼吸困難感などの呼吸器症状
-----------------------------------------------------------------------------
Ⅰ.電話相談への対応
患者が以下の①、②、③のすべての症状に該当する場合は、外来受診の手順を調整
し指導するので、患者から電話で相談を受けた場合、自宅等に留まるように指導し、
患者の氏名、性別、年齢、現在の所在地、電話番号等を尋ね、保健所(置賜保健所
0238-22-3002)に連絡すること。SARS疑いのある患者の外来診察は以下の各協力
病院でおこなう。なお患者からの電話の対応は高橋院長(不在時藤島副院長)が行う
①38度以上の急な発熱がある者
②咳、呼吸促迫、呼吸困難などの呼吸症状を1つ以上呈する者
③発症前10 日以内にSARS の発生が報告されている地域へ旅行したもの又は発症前10
日以内にSARS の症例を看護・介護するか、同居しているか、近距離で接触するか、
患者の気道分泌液、体液に触れた者
158
SARS疑い例外来診察協力病院
県立中央病院・県立河北病院・山形大学医学部附属病院・県立新庄病院
公立置賜病院・県立日本海病院
Ⅱ.受診した患者(入院中も含む)への対応
患者の対応(診察)は高橋院長(不在時藤島副院長)が行う
1. SARS を疑わせる症状を呈する患者に外科用マスクを着用させる
2. 速やかに患者を指定された診察室・病室等に誘導し、指示があるまで移動しないよう
指導する
3. 指定された部屋の空調を止め、廊下に面した扉を閉じ、屋外に面した窓を開けるな
ど換気を良くすること
4. 詳細な病歴、旅行歴、及び過去10日間の接触者に発病した者がいないかも含めた接
触歴を聴取する
5. 患者が以下の①、②、③のすべて症状に該当するならば「疑い例」として保健所に報
告する
①38度以上の急な発熱がある者
②咳、呼吸促迫、呼吸困難などの呼吸症状を1つ以上呈する者
③発症前10 日以内にSARS の発生が報告されている地域へ旅行したもの又は発症前10
日以内にSARS の症例を看護・介護するか、同居しているか、近距離で接触するか、
患者の気道分泌液、体液に触れた者
6. 胸部レントゲン撮影・血球検査(CBC)・生化学検査・インフルエンザ等の可能な
迅速検査を行う。
7. 胸部レントゲン撮影の結果、肺炎または呼吸窮迫症候群の所見を示す者であれば、
「可
能性例」として保健所(置賜保健所0238-22-3002)に報告する
8. 胸部レントゲン撮影の結果異常を認めない場合
① マスク(外科用又は一般用)着用、手洗いの励行等の個人衛生的な生活に努め、人
ごみや公共交通機関の使用をできるだけ避ける。回復するまで自宅にいるよう指導
する。
② 呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関(保健所)に連絡した上で受診するよう指
導して、帰宅させる。注) 帰宅させる際、患者に以下の通り説明する。
(1) 発熱後5日を経て症状の悪化がない場合、SARS の可能性は少ない。
(2) 発熱後10日を過ぎれば、通常心配ないと考えられる。
----------------------------------------------------------------------------(以下9は保健所の対応)
9. 可能性例の場合、保健所職員は、患者の同意を得て、消防機関の協力により別記の医
療機関に搬送し、感染症病床に入院させるよう依頼する
SARS患者が入院可能な病院
県立中央病院・県立河北病院・県立日本海病院・(国立療養所山形病院)
159
Ⅲ.可能性例に対する院内感染対策
SARS 症例に対しては、空気、飛沫、接触感染への予防措置を全て含めた、バリアナー
シング手技(注:病原体封じ込め看護)が推奨されている。
1. 医療機関にインフルエンザ様の症状を呈する患者が受診した場合、待合室で他の患
者への伝播を最小限に止めるため、担当看護師は速やかにその患者を、出来るだけ他
の患者と接触しないような隔離室・個室等の場所に誘導する。SARS が否定されるまで、
患者には外科用マスクを着用させる。
2. SARS 可能性例は次の優先順位に従って病室に入院させる。
① ドアが閉鎖された陰圧の病室
② 手洗い、風呂を備えた個室
③ 独立した給気と排気システムを持つ大部屋など可能であれば、SARS の疑いで検査
を受けている患者と、診断が確定した患者は同室にしない。
3.可能な限りSARS の患者には使い捨て医療器具を用いる。再使用する時は、製造業者
の仕様書に沿って消毒する。器具の表面は細菌、真菌、ウイルスに有効な広域の消毒
剤で消毒する。
4.患者の移動は可能な限り避ける。移動させる必要が生じた場合、飛沫の拡散を避け
るため、外科用マスクを着用させる。SARS 可能性例または疑い例患者の病室に入る全
ての面会者、スタッフにN95 マスクを着用させる。
5.手洗いが感染予防のためには重要であり、手袋を使えば手洗いは不要と考えてはな
らない。どのような患者であっても接触した後、病原体に暴露される可能性のある医
療行為を行った後、および手袋をはずした後も手洗いする。手洗いできない場合には、
アルコールを含む手指消毒剤を用いる。看護師は全ての患者の看護を行う際には手袋
を着用する事が推奨される。手袋は、患者毎に、または患者の気道分泌物に汚染され
る可能性がある酸素マスク、酸素チューブ、経鼻酸素チューブ、ティッシュペーパー
などの物品に触れた後は必ず交換する。
6.患者の気道分泌物、血液、その他の体液の飛沫や飛散が発生する可能性のある処置
や看護の際には、N95 マスク、耐水性ガウン、頭部カバー、ゴーグル、顔面カバー等
を使用する。SARSの患者に付き添う場合にあっても同様とする。
7.いかなる医療廃棄物の取り扱いにおいても、標準予防策を適応する。全ての医療廃
棄物の取り扱いの際には、紛れ込んだ注射針などによる外傷に注意する。医療廃棄物
の入ったゴミ袋、ゴミ箱を取り扱う場合も、手袋と防護服を着用し、素手では取り扱
わない。なお医療廃棄物はバイオハザードが印された漏出しない強靱な袋、ゴミ箱に
入れ、安全に廃棄する。
Ⅳ.その他
重症急性呼吸器症候群(SARS)に関しての保健指導指針・管理指針・患者等移送
指針の詳細に関しては「重症急性呼吸器症候群(SARS)の保健と医療に対する行動
計画(第1版)」:山形県(平成15 年4月25日)を参照のこと。
160