明日に広がるシリーズ 実践の窓 2 校内LANを活用した授業の工夫 東広島市立高屋中学校 玉里 周二 【本実践の特色】 本実践は,校内LANの特徴を活かして「いつでも,どこでも,だれでも」情報を利用できる環 境を整備し,中学校社会科地理的分野の中で,生徒の学習意欲を高めるための工夫を行ったもので ある。実践校では,校内LANの整備を機に,これまで蓄積してきた地域の情報や学習成果物,調 べ学習の仕方に関する資料を,授業中はもちろんのこと休憩時間や放課後でも利用できるネットワー クシステムを構築している。このような環境を利用して行われた学習活動は,単に効率よく学ぶ環 境を提供しただけでなく,生徒の自主的な調査活動や,集めた情報を加工して情報発信する活動に つながっている 。生徒の自己学習力の育成を支援する新しい学習形態になる可能性を示唆している 。 また,これらのことを通して地域に対する興味・関心を高め,郷土の素晴らしさを感じさせること により「豊かな心」をはぐくむことができる実践事例であると考える。 これから,すべての学校に校内LANが整備されることになる。この実践を参考にし,校内LA Nを有効に活用した授業改善が増えることを期待したい。 (教育情報部 指導主事 坂 英明) 1 ねらい や情報通信ネットワークなどを積極的に活用する 平成12年に出されたミレニアム・プロジェクト こと」(注1)と述べられている。 「教育の情報化」の方針に基づく環境整備により , そこで,これまで蓄積してきた地域の情報や学 本校にも校内LANが整備された。校内LANは, 習成果,新たに収集する情報等を生徒が簡単に登 教室や図書館,パソコン室などから,いつでも自 録できるとともに,データを共有化し,協同作業 由に情報収集できる環境を実現することが可能に ができるよう,ネットワークサーバを再構築して なる。このような環境を利用し,授業を工夫して 授業に利用することを考えた。 実践すれば,これまで課題となっていた情報収集 の手段の制約から開放され,生徒の学習意欲を高 2 めることにつなげることが期待できると考えた。 (1) 校内LANを活用した学習環境の整備 これまで中学校社会科地理的分野において,生 ① 取組みの実際 校内LANの概略 徒の学習意欲を引き出し,地域に関する興味や関 本校の校内LANは,次ページ図1の概念図に 心を高めるため,生徒の生活圏について調査活動 示すように,パソコン教室にサーバを設置し,す を行ってきた。しかし調べるための図書資料など べての教室や図書館,職員室などに情報コンセン も少なく,調査活動が深化しにくい状況であった。 トが整備されている。そして,パソコンとネット 本年度より実施されている学習指導要領の中学 ワークケーブルがあれば,校内のどこからでもイ 校社会科地理的分野の配慮事項には ,「地域に関 ンターネットやサーバに蓄積されている情報を利 する情報収集や処理に当たっては,コンピュータ 用することができるようになっている。 −56− 調査活動への動機付けを図った。 校内LANネットワーク概念図 PC常設 ② PC移動させて利用 図書室 サーバ室 北館(3階建) パソコン室 理科室 技術・家庭科室 主体的な学習の支援 これまでの調査学習では,地域に関する情報不 特別教室12室 (図書館・パソコン 室を含む) 足から,教員が生徒に一方的に説明したり,学習 課題に対して先に答を提示したりするケースが多 保健室 本館(3階建) 職員室 事務室 普通教室 く見られた。その結果,生徒の学習は受け身的に 普通教室 21室 職員室等 5室 なり,調査活動に意欲的に取り組ませることがで 普通教室 新館(3階建) 普通教室 普通教室 6室 図1 きていなかった。 インターネット への接続方法 : ダイヤルアップ 校内LAN回線 : 100BASE−T 校内の全教室に情報コンセントを 設置済み そこで, 生徒の主体的な学習を促すために,図 3に示す「高屋の調査資料」トップページから, 校内LANネットワーク概念図 検索したい項目をクリックすると,関連する資料 やリンク集が提示される教材データフォルダを作 ② 校内サーバのフォルダ構成 成した。ここでは特に,調べ学習の仕方を学ばせ これまで蓄積してきた地域の情報や学習成果, るために「調べ学習『虎の巻 』」を掲示し,情報 新たに収集する情報を登録する場所を確保した。 の収集・分析・発信の方法について解説が提示で また,データの共有化と共同作業ができる作業領 きるように工夫した。 域を確保するため,図2に示すようなフォルダを 校内サーバに作成し,アクセス権を設定した。 個々の調査学習の段階に応じて,これらを繰り 返し自由に検 索 ・ 閲 覧 す る こ と で ,自己学習力 の育成へとつなげていくことをねらいとした。 校内サーバ 教師用フォルダ (教員のみアクセス可) 生徒用フォルダ 個人フォルダ(生徒個 人のみアクセス可) 教材データフォルダ (参照専用) 調べ学習「虎の巻」 My Town TAKAYA 学習に役立つリンク集 先輩たちのあしあと 高屋の調査資料 図2 校内サーバのフォルダ構成 図3 教材データフォルダの調査資料 (2) 調査活動における校内LANの活用 整備した校内LANを活用し ,「身近な地域の また ,「先輩たちのあしあと」として,これま 調査」の単元の中で,生徒に地域の再発見をさ での学習成果や生徒作品をサーバに蓄積し,共 せる学習活動を行うこととした。次の2点に留 有化を図った 。(図4)生徒は,必要に応じてこ 意して,次ページ表1に示すような9時間の指 れらの資料を検索し,調査活動に活かしていった。 導計画を立て,実施した。 ① 調査活動の動機付け プレゼンテーションソフトやWebページ作成 ソフトを利用し,視覚的に分かりやすい教材を作 成した。また生徒にとって身近で,興味や関心を 湧き立たせる教材とするために,教員や生徒が登 場する動画教材などを作成した。これらを教師用 フォルダに蓄積し,教室で提示することによ り , −57− 図4 「先輩たちのあしあと」内の資料 表1 単 元 本目 章 の標 時 第2編 名 第1章 身近な地域 My Town TAKAYA ― ○ 学区域を中心とした,生徒の日常の生活圏や行動圏の規模の地域を対象に,観察や調査活動を行い,生徒が生活してい る土地に対する理解と関心を深めさせる。 ○ 市町村規模の地域的特色をとらえる視点や方法,地理的なまとめ方や情報活用能力の基礎を身に付けさせる。 数 項 目・内 容 点 高屋町の地理的事象や歴史的事象に興味や関心を持つ ことができる。 ② プレゼンテーションソフトによる高屋町の地理的事象 や歴史的事象のクイズを通して,その考察をしている。 ③ ワークシートに答えを記入し,整理している。 ④ 高屋町の地理的事象や歴史的事象の知識を身に付けて いる。 ・視覚的に理解しやす いように,プレゼン テーションソフトを 活用する。 ・調査活動への動機付 けとするために,身 近な題材とする。 ○ 調査活動を理解し,見通しを 立てよう ・これまでの調査資料を利用し 調査活動の手法について理解 させる。 ・自作教材により,調べ方やま とめ方の方法について理解さ せる。 ① 意欲的に学習素材に目を向け,調査活動に取り組もう としている。 ② 今後の学習の方向性を理解し,自分の表現方法につい て思考,判断している。 ③ 説明された学習課題やサブテーマの設定方法,表現方 法について,ワークシートにまとめている。 ④ 調査活動について理解し,調査の見通しを持つことが できる。 ・校内LANを活用し, これまでの調査資料 や調べ学習の方法に ついて紹介した資料 を,いつでも閲覧で きるようにしておく。 ① 高屋町の調査に関心を持ち,グループ内で協力して調 査課題を決め,調査計画表を作成している。 ② 調査課題を決め,その調査に必要なものや計画の内容 など,グループで考察や検討を加え,無理のない計画を 立案している。 ③ グループ全員で調査課題を決め,調査計画表を完成さ せている。 ④ グループの全員が調査課題とサブテーマ,調査計画を 理解している。 ・課題の設定に向け, 自作の動画教材を利 用して様々な視点を 伝える。 ・調査計画の立案に向 け,校内サーバに蓄 積している資料の活 用を促す。 ① ・分担して収集した情 報を効率よく蓄積す るために校内LAN を活用する。 ・まとめた成果を効果 的に蓄積し,発信す るためにWebペー ジ作成ソフトを活用 する。 ( 1時間 ) ○ 調査課題とサブテーマを決め, 調査計画表を完成させよう ・調査課題の設定に向け,様々 第3次 な視点から考えさせる。 ・グループで協議し,調査課題 ( 2時間 ) を決めさせる。 ・調査計画表の作成を通して, 学習活動の見通しを立てさせ る。 ※ 現地調査は,放課後や長期休 暇を利用して実施させる。 ○ 調査したことをまとめよう ・収集した情報を蓄積し,考察 した結果をまとめさせる。 高屋町の調査に関心を持ち,様々な手段を用いて意欲 的に課題を追究し,まとめている。 ② 地形図や写真,文献やWebページ等を用いて,地域 的特色について分析や考察を行っている。 ③ 調査活動に対する自分の意見や班の考え方をまとめ, 目的にあった多様なグラフや統計・地図などを作成する ことができる。 ④ 地域調査の大まかな手順や調査記録の取り方について 理解し,その知識を身に付けている。また,調査結果を 分かりやすく,適切にまとめている。 ○ 調査結果を発表しよう ・各グループで調査結果を発表 し,相互に評価させる。 ① 第4次 ( 4時間 ) : 意 ① 第2次 ( 1時間 ) 留 「身近な地域」を見直そう ・クイズを通して自分たちの住 む町について考えさせる。 ( 1時間 ) 第5次 各 時 間 の 評 価 規 準 ○ 第1次 注 ― 指導計画 調査した内容を,相手にきちんと伝わるように意欲的 ・校内LANを活用し, に発表したり,聞いたりしている。 調査結果をいつでも ② 調査の結果を振り返り,この調査によって何が分かっ 閲覧できるようにし たのか,何が分からなかったのかについて考察している。 ておく。 ③ 調査結果を分かりやすくまとめ,発表している。 ④ 調査活動,資料の整理,発表を通して,高屋町の地域 的特色を理解し,その知識を身に付けている。 評価規準の①〜④は,次の観点に対応している。 ①関心・意欲・態度 −58− ②思考・判断 ③技能・表現 ④知識・理解 (3) 学習成果の発信 校内の発表会だけにとどまらず,成果を外部へ 作成ソフトを利用して調査結果をまとめさせ,学 私は、高屋中学校について調べました。今のよ うなすごく良い学校になったのは,先生方の苦労 や先輩たちが頑張ってきたからだと分かりました。 今の高屋中学校は、前と比べよくなっていると 思うので,これからは,もっともっとよい中学校 になっていくと思います。そのためにも,みんな で協力して頑張っていこうと思います。 校のWebページに「高屋町紹介 」として掲載し , 生徒作品のページより 公開することにより,多くの人から評価を受ける ことができ,地域に対する興味・関心が更に深ま っていくと考えた。そこで,生徒にWebページ 発信することにした。(図5) 3 成果と今後の課題 (1) 成果 ○ 情報を蓄積・共有し, 「いつでも,どこでも 」 検索・閲覧できる学習環境を構築することがで きた。 ○ 身近な教材や最新データの提示により,地域 に対する生徒の興味や関心が高まり,学習に対 する動機付けができた。 ○ 調べ学習の仕方に関する資料を作成し,校内 LANに掲載した。生徒は,必要に応じて繰り 返し確認することができ ,「学び方を学ぶ」学 習につなげることができた。 ○ 授業中だけでなく休憩時間や放課後も,校内 LANを利用する生徒が増え ,「もっと調べて 図5 Webページに掲載した生徒作品 みたい 」「まだ何かないか」などの声もよく聞 かれるようになった。探求心を高め,学ぶこと 今回の調査活動を通して,生徒は次のような感 の楽しさを感じさせることができ,さらに地域 想を残している。 に対して愛着を感じさせることもできた。 (2) 今後の課題 ぼくは,とても分かりやすく,楽しく授業を受 けることができました。クイズでは選択問題 で,高屋中のことや自分たちの地域の問題が出て きて,自分たちの地域の素晴らしさを改めて感じ ることができました。 ○ 校内LANを活用した調査活動は,あくまで も間接体験であり,動機付けである。実際に自 らが現地調査を実施し,実物や人と積極的にふ れあうことで,より「豊かな心」の育成につな 生徒の感想1 がる。このことに留意して,現地調査の時間を 十分確保した学習計画を組み立てる必要がある。 身近な写真や映像を見ながらやる授業は,分か りやすかったです。調べ学習の方法もこれまで自 分では気づかなかった方法もありました。コンピ ュータの中に作成してある「調べ方」を有効に使 えば,きっといいレポートができると思いました。 これまで調べたことを自分のフォルダにどんどん 入れていき,全世界の人々が高屋町に興味や関心 を持ってもらえるようなホームページを作ってい きたいと思います。 ○ 他の単元においても,校内LANやコンピュ ータを効果的に活用した学習活動を取り入れて いきたいと考えている。 【引用文献】 (注1) 文部省『中学校学習指導要領』平成10年 p.19 生徒の感想2 −59−
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