(05) - 1 - 胸部単純写真の読み方 はじめに 胸部単純X線撮影は,画像

胸部単純写真の読み方
はじめに
胸部単純X線撮影は,画像診断の最も基本となる検査法の一つで,呼吸器・循環器疾患や
全身疾患の診断を行う際,理学的所見の把握に引き続き,最も多く施行される検査法である。
肺は大量の空気を含んでおり,その空気が生体組織に比してきわめて低いX線吸収を示すの
で,そのままで生理的な,いわゆる「陰性造影剤」の働きをする。したがって,肺はX線写
真上に白黒のコントラストの差として表現するうえで非常に好都合な臓器である。しかも胸
部X線写真は肺内病変のみならずこれに接して存在する構造物や臓器の形態的変化を捉える
ことも可能である。それゆえ,臨床医にとっても最も遭遇する機会が多く,充分に把握して
おく必要がある。
撮影
1)
routine projection
(a)
背腹像
postero-anterior view (PA view, P→A)
(b)
左側面像
left lateral view (R→L)
病変が明らかな場合は,健側→患側
2)
斜位像
oblique view
(a)
右前斜位(第1斜位)right postero-anterior oblique view (P→A,RAO)
(b)
左前斜位(第2斜位)left postero-anterior oblique view (P→A,LAO)
・右前斜位では体軸を中心に右側を 45
(ときに 50∼60
)回転させ,右前胸部をカセッテに
つけ背腹方向に X 線束を通し撮影する。
(c)
右後斜位前後方向撮影 (A→P,RPO)
(d)
左後斜位前後方向撮影 (A→P,LPO)
3)
側臥位正面像
lateral decubitus view
・少量の胸水の発見,証明(患側を下に)
・被包化胸水や肺下胸水の証明
・小さな軽度の気胸(呼気時)やブラ bulla との鑑別(患側を上に)
・空洞 cavity の境界や内腔面を描出(air-fuild level など)
・free effusion に被われ,隠された肺野を描出
4)
肺尖撮影
apical lordotic view,叉腔撮影
Kreuzhohlstellung
・肺尖部,鎖骨に重なる陰影の把握
・中葉病変,舌区病変,中葉症候群の確認
5)
その他
(1)
拡大撮影,スポット撮影
(05)
- 1 -
(2)
肺底撮影
(3)
仰臥位腹背撮影
(4)
坐位腹背撮影(eg. ポータブルでの撮影時)
(5)
仰臥位側面像
(6)
CR
(7)
AMBER
(8)
QR
(1)
吸気相:深吸気相;routine work
(2)
呼気相:肺の air trapping や気胸 pneumothorax の診断
(3)
Valsalva maneuver:胸腔内圧+40∼50 cm water
(4)
Muller maneuver:胸腔内圧‐40∼50 cm water
cross table lateral view
computed radiography
advanced multiple beam equalization radiography
quantum radiography
呼吸相
肺動静脈瘻,肺静脈瘤などと他の腫瘤性病変との鑑別
(肺動静脈瘻による腫瘤状影は Valsalva 法で小さくなる)
小児と成人の違い(小児の特徴)
1.
新生児や乳幼児では胸郭の前後径は横径とほぼ同じ。
2.
心横径は胸郭の最大横径の 50∼70 %(心胸郭比が大)
3.
年齢が少ないほど胸郭の高さが小さく幅が広い(横隔膜高位)
4.
胸腺陰影 (sail sign, thymic wave sign)は 5 歳頃まで認める。
5.
肋骨(後縁)の走行は水平
読影の基礎知識
1.
Law of tangent
単純X線写真では,X線束と正接する輪郭は鮮鋭に描出されるが,正接しない部分の輪郭
は描出されない。従って,X線像で示される対象の輪郭は,X線束が正接する対象の辺縁を
連ねた場合の曲線である。また,X 線束に平行に配列した丸い辺縁は鮮明に描出される。
2.
単純 X 線写真上の Mach band
dark Mach band はより輝度 luminance の大きい凸状表面が,より輝度の小さい凹状表面に
接する場合に生じ,light Mach band はより輝度の少ない凸状表面が,より輝度の大きい凹状
表面に接する場合に生じる。例えば,心陰影はしばしば黒く縁どられてみえる。この dark Mach
band は,より輝度の大きい凸状の左心縁が,より輝度の少ない凹状の左肺に接するために生
じる。この概念の利用は,下行大動脈の辺縁と傍脊柱線の区別が問題となる時,鑑別に役立
つ。下行大動脈辺縁は dark Mach band であり,傍脊柱線は light Mach band である。後者は
傍脊柱軟部組織という,より大きい輝度の凹状領域が,肺という,より小さい輝度の凸状領
域に接しているからである。
(05)
- 2 -
3.
正常エックス線像
正面像
(下記の構造について指摘することができるようになる)
1: 気管、2: 右主気管支、3: 左主気管支、4: 右下肺動脈、5: 左肺動脈、
6: 右上肺動脈、7: 右上肺静脈、8: 左上肺静脈、9: 右下肺静脈、10: 大動脈弓、
11: 左心縁、12: 肋横隔膜角、13: 心横隔膜角、 14: 小葉間裂(毛髪線)、15: 鎖骨、
16: 左鎖骨下動脈、17: 胃泡
側面像
1: 気管、2: 右上葉枝口、3: 左上葉枝口、4: 右肺動脈、5: 左肺動脈、6: 心、
7: 腕頭動脈、8: 大動脈弓、9: 右横隔膜、10: 左横隔膜、11: 下大静脈、12: 大葉間裂、
13: 胸骨、14: 肩甲骨、15: 胸骨後面、16:心臓後空間
4.
読影前にまずチェック
a)
フイルムに記入された情報をチェック
・名前(撮影された X 線写真が本人のものか?)
・性別(乳房の陰影のみでは当てにならない)
・年齢または誕生日(年齢による X 線像の違い)
・日付(いつの写真か?)
・左右の確認(R や L のマーク,内蔵逆位かもしれない)
b)
撮影された胸部 X 線写真が読影,診断に適したものか?
(1)
肺野がフイルム内に収まっているか
(2)
撮影体位
i) 正面像か?斜位がかかっていないか?
・胸椎棘突起が正中線上にあり,左右の肋骨の胸骨端と棘突起までの長さが等しい
(左右差があるときは,棘突起に接近している方がよりフイルムに接しているような斜位に
なっている)
ii) 立位,臥位,坐位,側臥位などの把握
(3)
呼吸の位相
(4)
撮影条件は適切か?
・骨,縦隔,肺野が同時に評価し得る
・心臓,下行大動脈,横隔膜の辺縁が鮮明に描出されている
・心臓後腔,横隔膜に重なった部分の肺血管影が観察可能
・右傍気管線,右傍食道線が描出されている
5.
読影の進め方
(05)
- 3 -