年次活動報告書 2012 タブレット型コンピュータを用いた防災対策シミュレーションゲームの開発 奈良先端科学技術大学院大学 伊原 彰紀,Papon Yongpisanpop 正木 1.研究目的 情報科学研究科 仁,岩村 祐佳 [1] によると年々夫婦共働きによって,家に児 本研究では,児童が危険回避能力を身につけ 童が一人しかいない状況が増加している [2]. ることを目的として,災害時の避難行動を学習 従って,地域や身近にいる人同士が助け合って する防災対策シミュレーションゲーム(以下, 取り組む「共同」はもちろん,一人一人が自ら 防災対策ゲーム)を開発した.現在,児童教育 取り組む「自助」が児童にも求められている. 機関では防災対策として,小学校等の施設内に 本ゲームでは,以下の 3 点について学習するた おける避難経路の確認やビデオ等を用いた防 めの防災対策シミュレーションゲームを開発す 災対応が行われている.しかし,限られた環境 る. 下での訓練では,突然発生する災害に対応する [1] 屋内の転倒物から自身を守る方法(一時避難場所の検討) ことが難しい.児童(6 歳〜12 歳)が災害時の [2] 避難時に家の中から持ち出すべき物(避難必需品の検討) 危険行動を学習し,様々な環境下での危険察知 [3] チャレンジ回数の制限とスコア(モチベーションの維持) 能力を養っておくことが重要である. 本研究で開発する防災対策ゲームは,地震発 3.防災対策ゲームの設計 生時における危険な場所や避難時の必需品を 本ゲームは,児童が屋内(鉄筋コンクリート 学習するためのものである.本ゲームは,タブ 造住宅)に一人でいるときに地震が発生した場 レット型コンピュータを用いて,ゲームに登場 合の適切な対処方法を身につけることを目的 する自分の代わりとなるキャラクターを実際 とする.2 章で挙げた 3 つの要求に応える防災対 に行動させることで,児童の危険察知能力の向 策シミュレーションゲームを開発した. 上を狙う. 図1 は, 要求を実装するために必要な機能をユースケー ス図で示す.屋内では(リビング,キッチン,ベッドルー 2.防災対策ゲームの要求定義 児童の特徴や行動を調査し,市町村で公開さ ム,物置,風呂)によって避難場所が変わる.従って,本 れている避難マニュアルから学習者が直面する ゲームでは,地震発生時にキャラクターが活動する場所 危険環境を分析した. (Scene)をランダムに変更する.Scene によって要求[1] 近年日本では地震の頻度が増加しており, に応える.また,Scene によって置かれている物も変わる 2011 年の震度 5 以上の有感地震は気象庁の統計 ため,iTemRegsiter がScene によって異なる避難必需品 市場最多であった.大きな地震に備えた準備を を管理する.iTemRegister によって要求[2]に応える.本 しているとはいえ,実際大地震が発生した場合, ゲームでは, 児童が継続的に学習するために限られたチャ とっさの対応は困難である.特に児童にとって レンジ回数で正確に避難必需品を取得し, 制限時間以内に は大きな課題であり,近年男女共同参画白書 避難することによって高い点数を与え,プレイヤー(ゲー -1- 年次活動報告書 2012 図 2 ゲームプレイ画面 ル右に移動することで経過時間,及び,残り時 図1 間を把握することができる. ユースケース図 ム操作者)の好奇心を促進させる機能を持つ.ゲーム挑戦 Challenge Times View: ゲーム挑戦回数表示 回数は,PlayerStatus で管理する.制限時間,及び,点 画面.赤色のハートの数で挑戦回数を把握する 数は Game Manager で管理する.PlayStatus, Game ことができる. Manager により要求[3]に応える. Item View: 取得した避難必需品を表示する. 4.3.操作方法 4 プレイヤーがタブレット型コンピュータのデ 防災対策シミュレーションゲーム 4.1.システム概要 ィスプレイに表示されるプレイヤーを移動させ プレイヤー(ゲーム操作者)は,ゲーム中で屋 たい方向にドラッグしながら危険な場所や安全 内にいるキャラクターが地震発生時に安全な な経路を判断する. 場所に一時避難し,時間制限以内に避難必需品 5.まとめ を探す.プレイヤーは,各避難必需品,避難場 本研究では,タブレット型コンピュータを用 所には得点が設定されており,高得点を目指す ことで防災対策学習を促進することができる. いた防災対策シミュレーションゲームの開発 図 2 に実装した防災対策シミュレーションゲー を行った.予算の関係上,評価実験を行うこと ムの表示画面を示す.プレイヤーの操作画面, ができなかったが,本ゲームをリリースし,利 ゲーム中の設定時間,挑戦回数,取得した避難 用者からの意見をもとに,今後の拡張を検討す 必需品をそれぞれ「Field View」,「Time Scale る. View」, 「Challenge Times View」, 「Item View」 参考文献 [1] 内閣府男女共同参画局, 「男女共同参画白書 平成24 年版」, 2012. [2] 特定非営利活動法人 子どもの危険回避研究所「 「子ど もを取り巻く危険」に関するアンケート」, http://www.kiken-kaihi.org/enq010801/enq010801_ind ex.html, 2001. [3] 内 閣 府 政 府 広 報 オ ン ラ イ ン ,, http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html, 2013. に 表 示す る. 本 ゲー ムは , 開発 環境 と して Unity3D を用い,JavaScript を使用した. 4.2.システム構成要素 Field View: ゲーム操作画面.プレイヤーは Field View 上のキャラクターを操作する. Time Scale View: 制限時間の表示画面.スケー -2-
© Copyright 2024 Paperzz