絶滅危惧植物クロホシクサの発芽特性

資
料・
絶滅危惧植物 ク囗ホシクサの発芽 特性
南 山 典 子1)
・竹 岳 秀 陽2)
・服 部
保1)*
Germination Characteristicsof Endangered Species,Eriocaulon parvum
Noriko Minamiyama
]),
ShigeakiTakeokaand
クロホシクサの発芽試験を2000年
要 旨
2003年の3 ヶ年にわたっ
Tamotsu Hattori1}*
3 回 行 っ た. 温 度・
条 件 は10 °C.15 °C.20 °C.
25 °C,30 °Cの 5 段 階 にご 光 条件 は, 暗 と明 の2 つ に, 種 子保 存条 件 は常 温 と低 温(4
°C)の2 つ とし た. 暗条 件
で は2.5% と ほと んど 発芽 せ ず, 明 条 件で は 常 温, 低 温 と も発芽 率 に は差 が な かっ た. 20 °C 30°C
の 間で は90%
以上 と ほ とん ど発芽 し, 高温 になる ほ ど発芽 日 数は 減少 し か. 明 条 件, 20 °C 30
°の
C 温 度条件 下 では, 種 子保 存
条件 の違 い にか か わら ず種 子採 取後3 年 半 を経 過し て も発芽 率が ほ と んど低 下し な かっ た.
キ ーワ ード: クロ ホシ クサ, 絶 滅危 惧植 物, 発芽 試験
は
じ
め
ヶ月後 の状 態 の種 子の 一 部を取 りだし て 発芽試 験 に使
に
用 し た. 発芽 床 とし て径9( 皿 の シ ャ ーレ に 濾 紙 を1
クロ ホシ クサ( 召石ocaulon pa灯心m Koernicke) (写
真1, 2) は ホ シ クサ 科 ホシ クサ属 の湿 地 には え る 一
一
一
年生 植物 で, 秋 期 に黒色 に近い 花 をつけ る. 全 国 に分
枚 敷 い た上 に, 種 子 を40粒 広 げ て ま き( 写 真3),
濾
紙 全 体が 軽 く浸る ぐ らい に給水 し た もの を準 備し た.
第1 回 は,2000 年12月
2001年1 月 に かけて, 温 度
布し てい る が, 農 地整 備等 に より その 数は 近年急 激 に
条件, 光 条件 お よび種 子保 存 条件 の違 い に よる発芽 特
減少 し, 環 境省(2000)
性 を 調 べ た. 温 度 条 件 に つ い て は, 10 °c,15 °C,
の レ ッド デ ータブ ッ クで絶 滅
危 惧IB 類, 兵 庫 県(2003)
の レ ッ ド デ ー タブ ッ ク で
20°C,25 °C,30 °Cの 5 段 階 に, 光 条件 につ い ては, 暗
A ラ ン クに指定 さ れてい る. 今 後 クロ ホ シ クサ の保 全
と明 の2 つ に, 捨 子保 存条 件 につい て は上 述 の常 温 と
対 策を 進め る ため には, 第一段 階 とし て クロ ホシ クサ
低 温 の2 つ に設定 し た. 以 上 の条 件の 組合 せ の結 果,
の 発芽 特性 を明 ら かに する 必要 があ る と考 え,2000 年
全部 で20試験 区 を設け た.1
より2003年 に かけ て3 回の 発芽 試験 を 行っ た. そ の試
床( シ ャーレ) で 計40サ ンプ ル を準備 し た. 発芽 試験
験 結果 を報 告 する.
期 間 は36日 間で ほ ぼ 毎 日 発 芽 数 と 発芽 日 数 を 記 録 し
試験 区 につ き2 つ の 発芽
た. 発芽 数 の確認 は実 体顕 微 鏡下 に て行い, 発芽種 子
試
験
方
法
(写 真4)
は数 を記録 し た後, ピ ン セット に て発 芽床
か ら取 り除 い た. 暗 条 件 の 試 験 区 にお け る 発 芽 確 認
発芽 試験 は,2000 年 よ り2003年 にかけ て 行っ た. 発
は, 近藤(1993)
と同 様 に数 分の 間室 内 の光 の もとで
芽 試験 に使 用し た種 子 は1999年 皿 月に愛 知 県で 採取 し
行っ た. 給 水は, 発芽 床 を準 備し た時 と 同じ 程度 の水
た も のであ る. そ れら の種 子 は室 内 にて約1 週 間風 乾
条件 に なる よう に適宜 行 っ た. なお, 恒温 器はMULTI
し た後, 常 温 保存 し か種子 と4(C 前後 の冷 蔵庫 に て低
THERMO INCUBATOR MTI-201 (EYELA)
温 保存 し た種 子に2 分 し か. 保 存 期 間中の13, 26, 43
た.
1)兵 庫 県 立 人 と 自 然 の博 物 館
兵 庫 県 三口]市 弥 生 が 丘6 丁 日 Division of Ecological Restoration,
自 然 ・ 環 境 再 生 研 究部
〒669-1546
を使 用し
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo 匚Yayoigaoka 6, Sanda, 669-1546 Japan
*兼 任: 姫 路工 業 大 学
自 然 ・ 環 境 科 学 研 究所
〒669-1546
兵庫 県 三 田 市 弥 生 が 丘6 丁 目 Institute of Natural and Environmental
Sciences, HIT; Yayoigaoka 6,Sanda ・,669-1546 Japan
2)財 団 法 人 日 本 気 象 協 会
〒537-0011
Higashinari-ku,Osaka, 537-0011 Japan
大 阪 府 大 阪 市 東 成IX 東 今 月ノ
に卜16-11 Japan Weather Association; Higashiimazato 3-16-11,
第2 回(2002 年1 月) と 第3 回(2003 年6 月) は,
結
混 度条 件 を20°C,25 °C,30 °Cの 3 段 階, 光条 件 を明条
果
件, 種 子保 存条 件 を第1 回と同 様 に常温 と低 温の2 条
件 に設 定し た. 種 子 は第1 回 の発芽 試験 と同 様 に1999
試験 区 別の 最終 発芽 率と平 均 発芽 日数( 調査 日ご と
年11月 に採 取し か ものを使 用し た. 全部 で6 試験 区,1
の 発芽 数 に発 芽試験 開始 後 の日 数を かけ た ものを 合計
試 験区 につ き2 つ の 発芽床( シャ ーレ) で計12サ ンプ
し, そ れを発芽 総 数で 除し て算 出し た) を表2 に示 し
ルを準 備し か. 発芽 試験期 間 は40日 間で ほぼ 毎日 発芽
か.3 回の 発芽 試 験 の明 条件 下 にお け る 温 度条 件 別 発
数 と発芽 日 数 を記 録し た. 発芽 確認 等の 方法 につ いて
芽 経 過 を図1 に示 し か.
は 第1 回 と同様 とし た. 試験の 概要 は表1 に示 し た.
表1
表2
第1 回 は, 光条 件 につ い ては 明条 件下 の平均 発芽 率
クロ ホシクサ発芽試験概要
試験区別発芽宰と平均 発芽日数
1) 調 査 日ごとの 発 芽 数に 発芽 試 験 開 始 後 の 日 数を かけ たものを 合計し, そ れを 発芽 総数 で除して
算 出した 。
a。 第1 回常 温保 存種子における温度条件別発芽 経過
b.
第1 回低温保存種子における温 度条 件別発芽経過
C。第2 回常 温保存種 子における温度条件別発芽経過
d.
第2 回低 温保存種子 におけ る温度条件別発芽経過
e。第3 回常温保存種子 におけ る温度条件別発芽経過
f.
第3 回低温保存種子 における温 度条件 別発芽 経過
図1
明条件下における常温保存・低温保存種子 の温度条件 別発芽経過
は65%,
暗条 件 下 の平 均 発芽 率 は2.5% で あ り, 暗 条
明 条 件, 20 °C
30(C の 温 度 条 件 下 で は,
種 子保 存 条
件で はほ と んど発芽 し なかっ た. 次 に温度 条件 につい
件 の 違 い に か か わ ら ず 種 子 採 取 後3
て は, 10 °C
で は光条 件, 種子 保存 条件 の違い に かか わ
発 芽 率 が ほ と ん ど 低 下 し な い こ と が 明 ら か と な っ た.
らず 発芽 率はO%
年 半 を経過 して も
と まっ た く発芽 しな かっ た. 20 °C
謝
30 °Cの間で は平均 発 芽 日数 に差が 認め ら れるが, 明 条
辞
件 下の平 均 発芽 率は99.8% と ほと んど発 芽し た. 発芽
率 の 高 かっ た明 条 件 下 の種 子 保 存 条 件 に よる 違 い で
発 芽試 験 のお手 伝い を してい た だ きまし た藤本 さ ゆ
は, 常 温保 存種子 の平 均 発芽率 は全 温 度で は67.5%,
り 氏,
20°C
川 り え 氏,
30°C
の間で は99.6%,
低 温保 存の平 均 発芽 率は
全 温 度 で は62.5%, 20 °C
30°の
C 間 で は100% で あ
兵 庫 県 立 人 と 自 然 の 博 物 館 の 越 智 友 里 氏,
長谷
有 馬富 士 自然学 習 セン ターの久 保智 美氏 に
お 礼 申 し 上 げ ま す.
り, 保存 条件 に よる差 は ほと んど認 めら れ なかっ た.
文
発 芽 日 数 に つ い て は, 常 温 保 存, 低 温 保 存 と も高 温
献
(30cC) に なる ほど日 数 は減少 し か( 図1 -a, b).
第2 回, 第3 回 は, 20 °C
30
°の
C 間で は第1 回 と同
様, 平 均 発芽 日数 に差 が認 めら れる が, 明 条件 下 の平
均 発 芽率 は 第2 回 で98.5%,
の結 果(99.8%)
第3 回で96.0% と第1 回
とほ とんど変 化し な かっ た( 表2).
次 に種 子 保 存 条 件 の違 い に よ る平 均 発芽 率 に つい て
は, 20 °C
97.9%,
30°で
C の常温 保存 の平均 発芽 率 は第2 回 で
第3 回で93.3%,
第2 回で99.2%,
タブ ッ ク2003 - .兵 庫 県 県 民 生 活 部環 境 局 自然 環 境 保 全 課,
神 戸, 382p.
環 境 庁(2000 編) 改 訂 ・ 日 本 の 絶 滅 の お そ れの あ る 野 生 生 物レ ッド デ ー タフ ッ ター8,
植 物I(
維 管 束 植 物). 自 然 環 境
研 究 セ ン タ ー, 東 京, 660p.
近 藤 哲 也(1993) 野 草 の 発 芽 特 性. 造 園 雑 誌, 57(2),
121-128.
低 温保 存で の平均 発芽 率 は
第3 回で98.8% であ り, 保 存 条件 に
よる 差 も第1 回と同 様 にほ とん ど認め ら れなかっ た.
発芽 日数 につい て も第2 回, 第3 回の 試験 結果 は第1
回 と同様 であっ た( 図1-c
兵 庫 県(2003 編) 改 訂 ・兵 庫 の貴 重 な 自 然 一 兵 庫県 版 レ ッド デ ー
f).
(2003 年7 月30 日 受 付)
(2003 年9 月17 日 受 理)
写真1
写真3
栽培中のクロホシクサ
クロホシクサの種子
写 真2
写真4
クロ ホ シ クサ の実生
発芽 した クロ ホシ クサ の種 子