保険数理学特論ⅢA リスク理論1(第3回) 保険料計算原理

保険数理学特論ⅢA
リスク理論1(第3回)
(その1)
保険制度の基礎
リスク理論
大阪大学大学院
金融保険教育研究センター
2015年5月11日
大塚忠義
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講義資料
http://tyotsuka.cocolog-nifty.com/blog/
から各自事前にダウンロードしてください
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保険の定義
-リスクを利害関係のない第三者に移転
する。リスクを第三者から引き受ける。
⇒これだけでは不十分・・他のリスク移
転機能 e.g. デリバティブ
-多数の加入者が支払った保険料を
プールし、その資金をもとに損失を被っ
た加入者に保険金を支払う。
⇒これでも不十分 e.g. 航空機保険
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保険の機能
リスク・プーリングを仲介することにより、
個人(企業)のリスクを効率よく移転する
•引受けるリスクを特定し、分類する
•より多くの加入者を募集する
•適正な保険料を定める
•リスクを選択する。モラルハザードを排
除する
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リスク・プーリング(1)
プーリング:共同出資、共同計算
リスク・プーリング:複数の人(企業)が
将来発生する損失に係るコストを共同
負担する=各人が平均損失額を支払う
取り決めに合意する
リスクが独立している場合(相関関係が
ない場合)有効に働く
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リスク・プーリング(2)
事故確率0.2、損失額100万円
1人の場合
結果
事故
無事故
確率
0.2
0.8
損失額
100万円
0
平均=0.2×100+0.8×0
=20万円
2
標準偏差= (0.2× 100-20 2 +0.8×(0−20) )
=40
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リスク・プーリング(3)
事故確率0.2、損失額100万円
2人の場合
結果
2人とも事故
Aが事故
Bが事故
2人とも無事故
確率
0.2×0.2=0.04
0.8×0.2=0.16
0.2×0.8=0.16
0.8×0.8=0.64
損失額
200万円
100万円
100万円
0
この場合の平均と標準偏差(または分散)
を計算してみてください
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リスク・プーリング(4)
•リスク・プーリングは非常に多くの人間
で行う。100万人とかで行うことにより毎
年のコストが同一になるようにする
•人数が増えると毎年のコストが事故発
生確率に限りなく近づく
•リスクが独立であることが条件
•プーリングの仲介を行うのが保険会社
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プーリング機能の限界(1)
・ テールリスク:発生する確率は非常に
低いが、発生した場合の結果が甚大
e.g. 地震(台風ならまだ分散できる)
日本人1千万人集めてもリスクプールに
不十分
地震保険は、政府が行っている
地震リスクを海外に移転する試み
⇒地震リスクの、再保険・証券化
CAT Bond
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プーリング機能の限界(2)
・ 動態的リスク
社会経済の変動に基づいて生じるリスク
人口構成の変化・自動車の増加による交
通事故の増加
⇔将来発生する損失に係るコストが変化
する:想定外 / 予測不可能
⇒保険料の値上げ、保険会社の破たん
⇒保険会社は儲けすぎとの批判
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プーリング機能の限界(3)
・ リスクが独立でない
⇒リスク間に相関関係がある
価格リスク:経済情勢で同じ方向へ動く
価格変動リスク:株、石油、人件費
外国為替リスク:円ドルレート
金利リスク:金利上昇
信用リスク:倒産確率は景気で変動
取引の相手方の倒産等
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保険の機能
リスク・プーリングを仲介することにより、
個人(企業)のリスクを効率よく移転する
•引受けるリスクを特定し、分類する
•より多くの加入者を募集する
•適正な保険料を定める
•リスクを選択する。モラルハザードを排
除する
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保険可能なリスク(1)
すべてのリスクを保険でカバーできるわ
けではない。
カバーしない例
•戦争
•株価の暴落
•地震(限定的な給付)
保険可能な条件とは、、
保険可能なリスク(2)
保険可能な条件とは
•保険技術的条件
•経済取引(需給)条件
•代替手段(リスクの再移転手段)の存
在
対象リスクの測定値に
関する信頼性
対象となるリスク(事故)が、
•偶然に起こること
•その発生確率、損害額が推計できる
•実務的には、統計データが存在するこ
と
⇒保険料を計算できること
保険で取り扱うリスク
純粋リスク かつ 静態的リスク
人的リスク・・・生命保険・健康保険・
年金
物的リスク・責任リスク・・・損害保険
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保険が苦手なリスク
プーリングによって分散できないリス
ク
• テールリスク
• 動態的リスク
• 経済的リスク
デリバティブ(金融派生商品)によ
るリスクの移転
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保険の対象とできる性格
•リスクの大量性
•リスクの同質性
•リスクの独立性
⇒
保険事業を破綻させる恐れの少な
いリスク
リスクの大量性と同質性
火災保険、自動車保険、生命保険に見
られるように
「同じ」リスクを有する人を大量に集め
る
比較的小口のリスクを大量に集め、
プーリングする
リスクの独立性
「独立」とは統計学上の独立
同時に事故が発生しない。または
それぞれの事故の発生に相関関係が
ない
大地震、戦争、大規模テロにより、一度
に多くの損害が発生しない
経済取引(需給)条件(1)
需要者サイド(保険契約者)
発生すると自分で負担することが難し
いリスク
保険料の支払いが負担になるほど大き
くない
両者のバランスが取れている必要性
経済取引(需給)条件(2)
供給者サイド(保険会社)
•保険金支払総額が予想の範囲を大き
く超えることがない
•または、それを回避する方法が存在
する
•モラルハザード・逆選択を合理的に排
除することができる
経済取引(需給)条件(3)
保険金支払総額が予想の範囲を大きく
超えるケース
•巨大リスク・・・航空機、船舶、工場
•集積リスク・・・地震、戦争、伝染病
保険会社が保険金支払不能に陥る恐
れのあるケース
代替手段
それを回避する方法
•補償範囲からの除外
•契約地域の分散
•再保険
•異常危険準備金の積み立て
•自己資本の充実
•政府によるリスクの引受け
その他の要件
モラルハザード
積極的なハザード:保険金殺人、詐欺
消極的なハザード:火災保険に加入する
と防火を怠る、自動車保険に入り安全運
転をしない
逆選択
体の悪い人ほど保険に入りたいと思う
Question?
To be continued
一旦お疲れ様でした
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リスク理論の概括
ありそうでない 『リスク理論』
経済学、経営学
「リスクマネジメント論」「リスク管理論」
「リスクリターン論」
応用数学
「リスク理論」≈「破産理論」
Risk Theory ≈ Ruin Theory
損害保険数理の一分野
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「損保数理」
日本アクチュア
リー会
第2、7、8章
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リスク理論の目的
損害保険事業において生じる不規則な
諸変動を数学的に分析し、不規則な諸変
動によってもたらされる厄介な影響に抗
するための様々な手段を検討することに
ある
クラメール
損害保険:実損填補
生命保険:定額給付
事故発生確率:二項分布、ポワソン分布
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不規則な諸変動(1)
事故発生確率:二項分布、ポワソン分布
保有件数が十分に大きい、大数の法則
⇒正規分布
偶然に左右される諸変動
事故の発生に対し一定の給付を行う保
険:正規分布の期待値と分散が基本
⇒古典的な保険数学
200年前に確立された理論
モデルによりコントロール可能であり、現
在も広く活用
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不規則な諸変動(2)
クレーム額:個々の事故の発生に際し支
払われる給付額(実損):確率変数
一定期間内のクレーム額合計は一定期間
内の件数による条件付き確率分布
クレーム分布、クレームモデル
:複合確率分布の必要性
クレーム額の標準偏差 vs母集団の大きさ
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ランダムウォーク
またはブラウン運動:微粒子の空間内の
移動モデル
微小時間に微小区間を移動(-1, +1)
ベルヌーイ試行に基づく確率過程により説
明
一定時間後の位置は正規分布または対
数正規分布に従い、モデル化が可能
物理から株価予測、経済モデルへと広く活
用:オプションプライシングを含む金融工
学理論に広く活用
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初期の破産確率(ruin theory)
ランダムウォークの理論に基づく破産理論
P(-1)=q, P(+1)=1-q=p
初期資産:𝑆0
時刻t における資産:𝑆𝑡 確率変数
時刻Tまでの期間の間で𝑆𝑡 が0となる確率
⇒破産確率
T→∞ then 破産確率→1
20世紀初頭の理論
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ランダムウォークの理論の活用
マルチンゲール:金融工学
マルコフ過程:確率論
微小期間における時系列に発生する事象
の独立、同一分布を前提
物理、経済、金融工学の多くのモデル
why?
実績値をもとに母数を推計しやすい。。
モデルの適合度の良しあし
精緻?頑健?母数の選択?
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保険料算出原理(1)
純保険料率の算出原理
保険支払の期待値+α
αには多くの名前がある
:プロフィットローディング、プロフィットマー
ジン、リスクプレミアム、リスクマージン
ただし、事業費分を加算を意味する付加
保険料とは区別するべき
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保険料算出原理(2)
1.
2.
3.
期待値原理
(1+h)μ
もっとも使いやすい。収集したデータに基づく
発生率にh% (10~100)を乗じる
標準偏差原理(分散原理)
μ+hσ
実務で一般的な手法hは1.5、2.0、3.0
期待効用原理の活用
指数原理、エッシャー変換、ワン変換
教科書以外でみたことはない
少なくとも生命保険と公開されている損害保
険の保険料算出で使用されたことはない
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保険料算出原理(3)
大数の法則:正規分布の適用が仮定でき
ない空間(保険契約)に対しては理論的に
は前記の保険料算出原理は適用できない
プライシングは市場の状況に応じ。。。
アクチュアリーの経験に基づき。。。
経営判断により。。。。
つまり
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純保険料率に+α率を加える根拠
𝑆𝑡 = 𝑆𝑡−1 + 𝑃𝑡 − 𝐶𝑡
𝑃𝑡 :t 期における保険料収入
𝐶𝑡 ∶t 期における保険金支払
=クレーム額合計: 確率変数
十分に長い一定期間において破産確率が
一定率以下になるPを保険料とする
P=クレーム額合計の期待値+α
=純保険料+ α
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Creamel-Lundberg Model
一定期間のクレーム件数N:ポワソン分布
i 番目のクレームの額:𝑋𝑖
一定期間のクレーム合計額:
𝑆 = 𝑋 1 + 𝑋2 + ・・・ + 𝑋𝑁 : 確率分布
複合ポワソン分布
再保険(excess of loss, cat cover)の
プライシングで活用
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Lundberg 不等式
マルチンゲールを仮定
: 大数の法則を仮定し、正規分布で近似
一定期間内に破産する確率を導出
⇒一定期間の破産確率を一定水準以下
に定めるローディングを導出
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リーマンショック(2008)後の変化
金融工学:
プライシング理論⇒リスク測定手法
儲ける技術⇒損しないための技術
数理統計学:
平均(期待値)周り⇒裾野(tail)の解析
局面転換、極地理論、カタストロフ理論
例外は除外か、貴重なデータか
巨人は存在するか
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Ruin Theory の発展
クレイムの分布の選択
Levy 過程:標準ブラウン運動に独立した
ジャンプを持つ確率過程を加えた測度
Gerber-Shiu Analysis:
破産の定義𝑆𝑡 < 0に加え、破産時のペナ
ルティーを定義、悪化の過程での資本注
入を考慮
⇒実際の企業の破産に近いモデル
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Question?
お疲れ様でした
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